シンガポールにおける 日系地域統括会社の 動向調査2014 はじめに 日本企業は、他国に先がけて、 アジア太平洋地域やASEAN 地域を統括する地域統括会社 をシンガポールに設立しまし た。 年月を経て、多くの日系地域 統括会社は組織化されてきま したが、また各社が独自の企 業文化も維持してきました。 こうした企業文化の多様性に より、日系地域統括会社はベ ストプラクティスについてお 互いに学ぶ機会を多く有して います。 当事務所では、知識の共有を 促進することを目指し、シン ガポールにおける日系地域統 括会社を対象に調査を実施し ました。 日系企業はシンガポールに地 域統括機能を置き、すでに域 内における企業の成長を進め ています。 本調査は、既存または今後設 立される日系地域統括会社や 政府関係者のために、地域統 括会社の動向や影響について 把握することを目的としてい ます。 日系企業とその取り巻く環境 には、急速な変化と発展が見 られ、本調査の実施は時宜に かなったものといえます。 地理的にもインフラ面でも優 れたシンガポールは魅力ある 島国であり、このため多くの 例えば最近の動向として、日 系企業の多くは日本主導の 域内業務ではなく、独自の域 内業務の確立を目指していま す。また2015年にASEAN経済 共同体を実現することも、事 業成長の機会を示唆していま す。 Quek Shu Ping Takeo Tamiya KPMG シンガポール事務所 パートナー グローバルジャパニーズプラクティス 責任者 KPMG シンガポール事務所 グローバルジャパニーズプラクティス エグゼクティブ・ディレクター 調査結果のキーポイント 64% がシンガポールにおいて地域統括会社の 機能を強化・拡大したいと考えている。 71% がASEAN諸国の法規制への対応が難し いと感じている。 58% がシンガポールの一連の税制優遇措置を 有効活用していない。 47% がタックスプランニングに取り組みたい と考えているが、実際に取組んでいるの は9%にすぎない。 56% が域内の戦略・企画・実施に関する決定 を行っている。32%がM&A取引の初期的 な契約を締結する権限を有している。 目次 1 調査について 3 地域統括業務:現状と今後 4 タックスプランニングおよびインセンティブ 5 移転価格リスク管理 7 地域統括会社の権限拡大についての検証 8 目的の達成 9 検討事項 10 概要 概要 シンガポールの優れたインフラ、健全な金融システ ム・法体制、ASEAN地域や諸外国のマーケットへの アクセスが容易であることなどから、多くの日系多国 籍企業は、地域統括会社1 をシンガポールに設立して います。 当社の調査結果によると、この傾向は今後も続くと みられ、多数の日系企業がシンガポールにある現在 の地域統括業務を強化・拡大したいと考えていま す。地域統括業務には、戦略・事業計画、財務、人 事、M&A、マーケティングなどがあります。 また同時に、シンガポールに地域統括業務を確立する うえで、大きなハードルが二つあります。一つは人材 採用と人材維持に関する問題であり、もう一つは域内 グループ会社の各国内市場において複雑な法制度に対 応することです。 調査対象とした企業について、シンガポール政府から正式に地域統括会社(RHQ)として認定された企業もあれば、シンガポールで 様々な地域統括業務を行っている企業もある。本調査報告書において、双方とも日系地域統括会社と記載する。 1 シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 1 シンガポールにおける日系地域統括会社の主要な6つの動向 1 シンガポールにおける日系地 域統括会社の業務は明るい見 通し 回答企業の64%が、経営戦略、企画、人 事、財務、経理、税務、マーケティング などの分野で、シンガポールにおける地 域統括業務を強化・拡大したいと回答し ています。 調査対象の日系地域統括会社は、その多 くが「生産管理・品質管理」や「研究・ 開発」業務を現時点で実施しておらず、 また実施予定もありません。こうした業 務は、日本本社及び各事業本部に所属す ると考えているためです。 2 域内の人材確保や異なる法規 制への対応が課題 地域統括会社にとって、人材確保および 育成の難しさは一番の課題であり、回答 企業のほぼ80%に及びます。 また回答企業の71%が域内各国の法規制 への対応が困難であると感じています。 この二つの問題は、「日本本社から地域 統括会社への権限委譲」といった以前よ くみられた問題を凌ぐほど最近顕著に現 れており、一番の課題として権限委譲を 挙げた企業は半数にすぎません。 3 税制優遇措置の利用は不十 分-さらに検討の余地あり 調査対象企業の約半数は、シンガポール が地域統括会社に提供する法人税率軽減 のインセンティブを有効活用していませ ん。インセンティブとして以下のような ものがあります。 • Regional Headquarters (RHQ)(地域 統括会社優遇措置) • International Headquarters (IHQ)( 国際統括会社優遇措置) • Finance and Treasury Centre (FTC) and(金融財務センター優遇措置 • Global Trader Programme (GTP) awards.(国際貿易プログラム) 有効活用されてない理由として、周知さ れていないことやコスト面での問題が考 えられます。 さらに40%の企業が、シンガポールの Productivity and Innovation Credit (PIC)優遇税制のしくみやメリットにつ いて十分に把握していないと回答して います。 調査結果や当社のこれまでの事例から、 日系地域統括会社が現地の優遇税制や諸 規制を有効活用する余地はあり、利益の 多寡を左右する要因となりえます。 4 5 移転価格に関する規制変更へ の対応が必要 調査を行った地域統括会社の半数以上が シンガポールにおける移転価格対応に取 り組んでいますが、域内において移転価 格に関する法的規制に対応するために グループ会社との調整を行っているの は25%にすぎません。経済協力開発機構 (OECD)移転価格ガイドラインが継続 的に改訂されていることを考慮すると、 今後も動向に注意する必要があります。 6 戦略・企画・M&Aに関する権 限の拡大 域内の戦略・企画・計画の実施や決定を 主導的に行っていると回答した企業は半 数を若干上回っています。また約三分の 一が、M&A取引の初期的な契約を締結 する権限を有しています。かつては日本 本社及び事業本部が取引や契約の当事者 となるケースが多かったため、非常に興 味深い結果となっています。 調査後に回答企業数社に話を伺ってみる と、地域統括会社の果たす役割に大きな 変化があるものの、与えられた権限は、 実際の決定権よりもM&A後の各種統合 施策の実施に関する業務に関連している ことがわかりました。 移転価格を含むタックスプラ ンニングについて検討の余地 あり ほぼ半数の企業が、タックスプランニン グ、租税構造、移転価格に関する対応に ついて今後検討したいと回答しています が、実際に対応策を講じているのは1割 未満です。近年の日本における税制上 の有利な改正や、タックスプランニング を後押しするシンガポールの比較的低 い税率を考えると、意外な結果となっ ています。 シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 2 調査について 本調査は、シンガポールに地域統括 業務を置く日系多国籍企業の目的を 分析するために実施したものです。 同時に、シンガポールの法人税率軽 減インセンティブの観点および移転 価格に関する動向変化の観点から、 今後の地域統括業務の領域を理解す ることも目的としています。地域統 括会社が、現在提供されている機会 をどのように有効活用しているか、 また今後の課題に向けてどのように 対応しているかを調査しています。 調査方法 回答企業について 調査は、42の質問からなり、2014年5 月から7月にかけて実施しました。地 域統括機能を有するシンガポールで設 立された日系企業58社の最高経営責 任者(CEO)または最高財務責任者 (CFO)に依頼し、34社から回答を得 ました。質問は以下に関する内容とし ました。 • 地域統括業務、サービス、会社概要 • 法人税 • 移転価格 調査対象企業の全社が、アジアにおいて 地域統括業務を行っています。34社すべ てが、東南アジア・ASEAN地域を統括 しており、うち18社はインド・西南アジ アも統括しています。 また本調査では、回答の背後にある見解 を定性的に理解するため、調査実施後に 34社のうち5社から2回にわたる聞き取り 調査を行い、意見を伺いました。 オセアニア地域を統括しているのは三 分の一近くあり、また半数が営業活動 の範囲としてオセアニア地域も含めて います。 業種については、地域統括会社が統括す るグループ会社のほとんどは製造業とな っています。 • 化学製品(21%) • 電子部品・電子機器(15%) 製造業以外では、多数の企業がトレーデ ィングに従事していました。 シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 3 地域統括業務: 現状と今後 ここでは、日系地域統括会社が現在どの ような業務を行っていて、今後どのよう に変わっていくのか、そしてどのような 課題があるのかを見ていきます。 調査を行った企業のほとんどが、戦略・ 企画、人事、財務、経理・税務に関する 業務を行っており、今後も注目分野であ ることが予想されます(図1)。 回答企業の64%が、将来的に地域統括業 務を拡大・強化したいと考えています。 一方、総務、研究・開発、物流・ロジス ティクスは、それほど統括業務の対象と はなっておらず、今後もその傾向が続き そうです。 課題・問題点 又、日本本社で研修を受けさせても、そ のスタッフが地域統括会社に長期的に在 籍しないことを残念に思うという回答も ありました。人材維持のために単に給与 を上げるという方法は、事業費の大幅な 増加につながることを考えると得策では なく、各社とも人材維持に苦慮されてい ることが伺えます。 シンガポールにおける地域統括業務にお いて目的とされるのは、徹底したコーポ レート・ガバナンスの維持と優れた経営 支援体制の導入です。しかし、その目的 に向けた地域統括会社における人材確保 および育成が大きな課題となっており、 四分の三を超える回答企業が、この問題 を抱えています。 さらに71%もの地域統括会社が、域内各 国毎の各種法規制への対応について、現 在、そして将来的にも課題としていま す。また、グループ会社に提供されるシ ェアード(マネジメント)サービスから 生じる納税国における税務上の問題が生 じていると回答した企業もありました。 ある回答企業は、「日本本社からは日本 人駐在員を減らすよう指示を受けるが、 管理職に現地スタッフを置くことで、日 本本社とのコミュニケーション上の問題 が生じる」と述べています。 図1:日系地域統括会社がシンガポールで今後も維持したい地域統括業務 44% 戦略・計画・企画(地域、事業、M&A等) 41% 経理/税務 38% 人事・労務・人材育成 財務 35% マーケティング 35% 監査(含、内部監査)・内部統制・ リスク管理 32% 29% 営業・販売/カスタマーサービス 26% 生産管理/品質管理 24% 調達・購買 研究・開発 15% 物流・ロジスティクス 15% 総務 9% シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 4 タックスプランニング およびインセンティブ 優遇税制の活用 地域統括会社をシンガポールに設立す るにあたり、同国が提供する税制上の 優遇措置は大きな誘致要因とみられま す(資料1参照)。しかし調査結果に よると、日系地域統括会社の半数以上 が、International Headquarters (IHQ) (国際統括会社優遇措置)や Regional Headquarters (RHQ) (地域統括会社優遇措置)などのイン センティブの申請を実施していないの が実状です。 さらに、回答企業の62%がグループ内 金融取引業務を行っているにもかかわ らず、Finance and Treasury Centre (FTC)(金融財務センター優遇措置) を利用しているのは、わずか9%となっ ています。Global Trader Programme (GTP)(国際貿易プログラム)を申請し ている割合も同様に低く、回答企業の 53%は申請をしておらず、また申請につ いて検討を予定していません。 回答企業から実際に話を伺うと、法人 税率軽減のインセンティブについて利 用率が低いのは、コスト面の問題が大 きな要因ということです。日系地域統 括会社は、インセンティブから得られ る節税額に比べ、シンガポールに新た な地域統括業務を移転させることは膨 大な費用がかかると考えているためで す。インセンティブの取得は副次的な もので、事業上の目標の達成がより重 要であると述べた企業の数社ありまし た。 さらに有効活用が進まない原因とし て、利用できるインセンティブにつ いて把握していないことが挙げられ ます。例えば、三分の一以上の企業 が、シンガポールのProductivity and Innovation Credit (PIC) 優遇税制のメ リットについて十分に把握していない と回答しています。 日系多国籍企業は、シンガポールで地 域統括会社を設立する目的をもう一度 見直し、またその目的のために同国の 有利な法体制がどのように役立つのか 判断することにより、インセンティブ の恩恵を受けられる可能性がありま す。 シンガポールにおける日系地域統括会社の法人税率軽減インセンティブ利用率 RHQ インセンティブ取得済 インセンティブ申請済または申 請検討中 インセンティブの申請をしてい ない インセンティブの詳細について 把握していない 回答できない シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 IHQ FTC GTP 6% 0% 9% 12% 9% 6% 0% 3% 53% 62% 56% 53% 9% 6% 3% 6% 26% 26% 32% 26% | 5 移転価格を含むタックスプランニ ング 資料1:シンガポールに統括機能を置く企業を対象 としたインセンティブ一覧 シンガポール経済開発庁(EDB)は、 同国が企業にとってグローバル事業 や域内事業を統括する拠点となるため に、統括プログラムを提供していま す。同プログラムの対象企業は、適格 所得に対して優遇税率の適用を受けら れます。 統括プログラムでは、申請企業のシン ガポールにおける統括業務の規模・ 価値に応じた様々なインセンティブ があります。インセンティブは主に 国際統括会社優遇措置(IHQ)と地域 統括会社優遇措置(RHQ)に分けら れます。 RHQインセンティブ 通常、申請企業は以下を条件としま す。 • 各業界において安定した企業または そのグループ会社であり、資本、資 産、従業員数、シェアにおいて相当 な規模を有していること。 • 上級管理職レベルにおいて主たる事 業活動に関する報告体制が確立さ れ、事業活動の明確な管理が行われ ており、その中核をなす位置づけに あること。 • シンガポールにおいて、戦略的事業 計画・事業開発、マーケティング管 理、ブランドマネジメント・知的財 産マネジメント、研究開発、シェア ードサービス、技術支援サービスな どの業務など相当なレベルの統括業 務を有していること。 さらに、管理職、専門家、その他技術 スタッフなど統括業務を監督するため に雇用されている職員は、シンガポー ルを拠点としているものとします。 RHQの条件を満たす企業は、適格所 得の増加分に対して15%の軽減税率が 適用されます。 回答企業の25%強が、移転価格を含むタ ックスプランニングを実施、または対応 準備を進めています。残りの75%の企業 は実施していませんが、回答企業の約半 数が将来における対応を検討していま す。近年の日本における税制上の有利な 改正や、シンガポールの比較的低い税率 を考えると、非常に興味深い結果となっ ています。 タックスプランニングにおけるこの格差 を解消することで、日系地域統括会社が 目標とする全般的な節税効果が確実に得 られると見込まれます。 IHQインセンティブ RHQの最低条件を満たす企業は、EDB と協議のうえ、適格所得の増加分に対 してさらに税率を軽減する個別イン センティブの適用について検討でき ます。EDBから受けられる追加イン センティブ支援には以下のものがあ ります。 認定ロイヤルティーインセンティブ (ARI)— 技術移転のために非居住者 に支払われるロイヤルティや技術支援 費用について、シンガポールの源泉徴 収税を軽減または全額免除する。 認定外債インセンティブ—生産設備購 入のために取得した外債にかかる利子 について、シンガポールの源泉徴収税 を全額免除する。 出典:シンガポール経済開発庁 シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 6 移転価格リスク管理 グローバル化の拡大は、多国籍企業に とって各国間で業務や利益の移転が容 易になることを意味し、大きな節税に つながることもあります。しかし各国 当局も、企業の収益がどの国において も課税されずにすむ可能性や、タック スヘイブンにおける名目的課税に限ら れる可能性に対し、さらに慎重な姿勢 をみせています。 資料2:BEPS行動計画による移転価格への主な影響 BEPS行動計画の策定により、OECD 移転価格ガイドラインおよびその他 OECD移転価格関連規定にも多くの改 訂・追加が見込まれます。 改訂案で検討されている事項は、シン ガポール集約型事業を行っている以下 のようなシンガポール企業に関する国 外関連取引への影響が予想されます。 このため経済開発協力機構(OECD) は、15項目から構成される税源浸食と 利益移転に関する行動計画(BEPS行動 計画)を2013年7月に発表しました。こ れらの計画が策定された場合、移転価 格マネジメントに大きな影響を及ぼし ます(資料2参照)。 • シンガポール地域本部 :国外関連 製造会社や国外関連販売会社に一定 の限定的な利益を付与した後の残余 利益を全て享受している企業 • インセンティブを受けているシンガ ポール商社:近隣諸国の国外関連製 造会社より低価格で製品等を購入 し、付加価値を付けずに再販売するこ とで機能以上の利益を得ている企業 このような背景から、回答企業の移転価 格問題に対する対応策について調査する ことが望ましいと判断しました。 回答企業の約53%が、シンガポールにお いて地域統括会社に関する移転価格対応 を行っています。それ以外の多くの企業 は、日本本社または現地側で、移転価格 税制への対応を行っています。 しかし移転価格文書化作業を各国に委ね ることは、移転価格の整理について国外 関連者間で整合性が取れなくなる可能性 があります。 シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 7 • シンガポール知的財産権持株会社: 国外関連者から無形資産を取得し、 他の国外関連者へのライセンスを目 的として派生的な知的財産の開発を 行っている企業 • シンガポール地域統括会社:域内の 子会社や支店に、役務の提供、関連 者間ローン及び保証等を提供してい る企業 IRASは2014年9月に移転価格ガイドラ インの改訂に関する公開草案を公表し ています。IRASはこの新たな移転価格 ガイドラインを、OECD移転価格ガイド ライン等の改訂コンセプトも考慮しな がら2014年内に策定することを目標と しています。 出典:IRAS (Inland Revenue Authority of Singapore) 地域統括会社の大多数が移転価格税制へ の対応を行っていますが、2014年~2015 年のBEPS行動計画の策定に基づくOECD移 転価格ガイドラインの改訂に備え、今後 も留意が必要です。 また国外関連者に提供した役務の対価を 請求していない、または請求をサポート するための文書が十分でないと回答した 企業も少数(6%)ありました。地域統括 会社は、シンガポールや日本における移 転価格リスクを避けるためにも、移転価 格文書化の作成をはじめとした改善が求 められます。 地域統括会社の権限拡大 についての検証 地域統括会社が、戦略計画やM&Aの業 務において、多くの役割を果たしている ことが調査結果から分かります。多くの 地域統括会社では、本社業務の一部をサ ポートしておりますが、回答企業のおよ そ56%が、域内の戦略・企画の決定・実 行を主導的に行っております。M&A業 務のうち、統括会社単独で対応可能な業 務について、ほぼ三分の一の回答企業 が、地域統括会社単独で、守秘義務契約 書や意向表明書など法的拘束力のない文 書を締結することができると回答してお ります。通常このような権限は本社主導 で行われると考えられているため、非常 に興味深い結果となっています。 地域統括会社へM&Aに関する権限が拡 大している要因として、クロスボーダー M&Aの増加、および現地におけるディ ールプロセスへのスピーディーな対応が 求められていることから、日本の日本本 社及び事業本部から、より職位の高い管 理職を地域統括会社に配属する動向にあ ることが挙げられます。ASEANにおけ る事業拡大、ひいてはグローバル競争に 生き抜くためのM&Aの重要性が高まる につれて、地域統括会社に対して、積極 的に権限委譲を進めていく傾向は今後も 継続するものと考えられます。 図2:M&Aに関して地域統括会社単独で対応可能な業務 76% 対象企業のスクリーニング 47% 対象企業へのアプローチ 専門家との業務委託契約書の締結 32% 法的拘束力のない守秘義務契約書・ 意向表明書および基本合意書等の 締結等 32% 法的拘束力のある最終意向表明書 および最終契約書の締結等 9% シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 8 目的の達成 シンガポールに地域統括会社を設立した 当初の目的を達成したと回答したのは全 体の4割にすぎません。 回答企業によると、サービス料の回収や 配当金の受領といったストラクチャー及 び仕組み上での目的は達成しています が、ガバナンス面では大きな課題が残っ ています。このガバナンスの強化は、シ ンガポールに地域統括会社を設立した日 系多国籍企業にとって、当初の主な目的 であったことを考えると、着目すべき課 題といえます。 地域統括会社は域内のグループ会社に対 して、方針やルールの展開を検討する 際、地域統括会社主導で実施していくに は各事業本部との調整が必要となる為、 難航すると考えており、グループ会社は 未だ日本本社及び事業本部の意向・指示 を重視する傾向にあります。 シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 9 商社の地域統括会社のGMは地域統括会社 にはさらに権限が必要だと示唆しつつ、 ガバナンス問題は日本本社及び事業本部 から指示・管理・統制するよりも、域内 の子会社により近い地域統括会社が取り 組む方法が良いと述べています。 四分の一を超える企業が、目的を達成し たのかわからないと回答しています。あ る回答企業は、分からない理由として、 目的が都度追加・変更され、一定してい ないことを強調していました。 多くの日系企業がシンガポールにおける 地域統括業務の強化・拡大を目指してい ますが、「その時々で日本本社及び事業 本部からの指示が新たに追加され、その ことが地域統括会社にとって目的を達成 したのかどうか判断することを難しくし ています。」 検討事項 シンガポールにおける現在 の日系地域統括会社にとって 重要なポイント • 現在の体制や地域統括業務を見直し、最大限の税制優遇措置を受けられるように する。また今後進展する移転価格を含む域内のタックスプランニングに取組む • 人事関連業務を強化し、現地スタッフを確保・維持できる人事制度を策定・実施 する。また域内において人事制度を統一する • 法規制の変更に注視し、不正行為を犯すリスクを最小限に抑えるなど、グループ 会社が事業活動を行う国々において、コンプライアンス体制を強化する • 現在のオペレーションや事業及び成長戦略を見直し、域内のM&A検討の際の関 与を一層深めることを目指す シンガポールで地域統括会 社の設立を目指す日系多国 籍企業にとって、シンガポ ールは政治的に安定した国 であり地域統括業務を行う 拠点として魅力的と言えま すが、右記のような検討事 項が挙げられます。 • グループ会社を統括する地域統括会社のマクロ戦略、会社間取引、移転価格、タ ックスプランニング シンガポールの当局は、右 記を検討することにより、 日系地域統括会社にとって より魅力的な投資環境を作 ることが可能となります。 • RHQ/IHQ/FTCなどのタックスインセンティブについて、現在の認定基準を下げる • 国際取引に関する法規制の精査、コンプライアンスについて検証する良識ある担 当チームの編成 • 日本本社及び事業本部による管理・統括と地域統括会社の権限委譲の範囲拡大と の両立。一つの方法として、日本本社及び事業本部から上級管理職やグローバル リーダーを配属することで、迅速な意思決定を行うことができ、競争力の維持に つながる • 成長の可能性がある中小規模の地域統括会社にもタックスインセンティブを提供 する • 地域統括会社がよりよい人材に接触できるよう支援し、現在直面している人材確 保の問題を軽減する シンガポールにおける日系地域統括会社の動向調査2014 | 10 Contact us Quek Shu Ping Partner and Head of Global Japanese Practice T: +65 6213 2637 E: [email protected] Diana Koh Partner, Transaction Services T: +65 6213 2519 E: [email protected] Takeo Tamiya Executive Director, Global Japanese Practice T: +65 6213 2668 E: [email protected] Koji Hamasaki Director, Corporate Finance T: +65 6213 3977 E: [email protected] Chiu Wu Hong Partner, Corporate Tax T: +65 6213 2569 E: [email protected] Teruo Iwamoto Director, Transaction Services T: +65 6213 2553 E: [email protected] Geoffrey Soh Partner, Transfer Pricing T: +65 6213 3035 E: [email protected] Kaoru Kanazawa Director, Management Consulting T: +65 6411 8405 E: [email protected] Vishal Sharma Executive Director, Corporate Finance T: +65 6213 2845 E: [email protected] Ryota Morishita Manager, Transfer Pricing T: +65 6213 5506 E: [email protected] Brett Hall Partner, Business Transformation T: +65 6411 8335 E: 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