72 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 技術資料 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 尾 和 克 美 * 髙 岡 真 司 ** 上 田 耕一郎 *** Corrosion Resistance at the Cut Edge Portion of Pre-Painted Hot-dip Zn-6%Al-3%Mg Alloy Coated Steel Sheet Katsumi Owa, Shinji Takaoka, Koichiro Ueda Synopsis: Corrosion behavior at the cut edge portion of pre-painted hot-dip Zn-6%Al-3%Mg alloy coated steel sheet (pre-painted ZAM) have been investigated, in comparison with pre-painted hot-dip Zn-0.2%Al alloy coated steel sheet (pre-painted GI). Under various accelerated corrosion tests and atmospheric exposure test, the largest width of the edge creep and incidence of red rust of pre-painted ZAM were smaller than those of pre-painted GI. The cut edge surface of pre-painted ZAM was covered with corrosion products, which had a dense structure and contained no ZnO. It is considered that corrosion product formed on the cut edge surface of pre-painted ZAM suppress cathodic reaction at the area of exposed bare steel, then corrosion reaction of coating alloy is suppressed. As a result, pre-painted ZAM possesses superior corrosion resistance at the cut edge portion. 当社が開発した溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板 1.緒 言 (以下,ZAM と記す)は,優れた耐食性を有するめっ き鋼板として,建築資材や自動車部品用途で採用量を増 プレコート鋼板とは,需要家での塗装工程省略を目的 している。当社では ZAM の塗装原板としての適性につ として,あらかじめ塗装を施した鋼板のことである。プ いても検討を行っており,ZAM を原板としたプレコー レコート鋼板は塗装後に加工されることから,せん断や ト鋼板(以下,ZAM プレコートと記す)は,従来の溶 打ち抜き加工で切断面に鋼素地が露出する。このため, 融 Zn-0.2%Al めっき鋼板(以下,GI と記す)を原板と 切断面での赤錆発生や,塗膜と原板界面での腐食の進行 したプレコート鋼板(以下,GI プレコートと記す)よ による塗膜膨れなどの端面腐食を生じやすい。プレコー りも端面耐食性が優れることを確認してきた。これにつ ト鋼板の端面耐食性は塗膜の加工性や耐傷付き性などと いては,前報 1,2)にそれぞれ高塩濃度環境,湿潤環境に 併せて,重視されている特性の一つである。 おける調査結果が報告されている。本報では,ZAM プ 原板に亜鉛系めっき鋼板を用いた一般的なプレコート レコートの端面耐食性を各種促進腐食試験および大気暴 鋼板では,塗膜に防錆顔料を配合するなどの防錆処方を 露試験で GI プレコートと比較調査した結果について, 施して端面耐食性を確保している。しかしながら,たと 既報のレビューを主として,一部新たな知見を加えて整 えば屋外で使用されるエアコン室外機や給湯器の外板な 理した。 どの高い耐食性が要求される用途については,めっき付 着量を多くしたり,塗膜を厚くしたりするなどの対応が なされているものの, さらなる耐食性向上の要求がある。 *塗装・複合材料研究部 塗装第二研究チーム 主任研究員 **塗装・複合材料研究部 塗装第二研究チーム ***塗装・複合材料研究部 塗装第二研究チーム チームリーダー 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 73 2.調査方法 上塗り塗膜:15μm 2.1 供試材 下塗り塗膜:5μm 塗装前処理皮膜 めっき層(Zn-6%Al-3%Mg) 図 1 に ZAM プレコートの断面模式図を示す。原板の ZAM は,連続式溶融めっきラインで製造した。めっき 鋼板 母材は板厚 0.8mm の低炭素鋼であり,片面あたりの平 均めっき付着量は 74g/m2 である。また,同様のめっき 裏面塗膜:5μm 母材による GI(めっき付着量:78g/m2)を比較材用の 図 1 ZAM プレコートの断面模式図 原板として用意した。 Fig.1 Schematic cross-sectional structure of pre-painted 塗装は連続式塗装ラインで実施した。塗装前処理とし ZAM. て表面調整および塗布型処理を施した後,下塗り塗膜を 図1 乾燥膜厚で 5 μ m,上塗り塗膜を 15 μ m 設けた。塗膜 Fig.1 ZAM プレコートの断面模式図 Schematic cross-sectional structure of pre-painted ZAM. はいずれもポリエステル樹脂系とし,下塗り塗膜には防 錆顔料を配合した。また裏面にも防錆顔料を配合したポ リエステル系塗膜を 5 μ m 設けた。なお塗装前処理液 おもて面 と防錆顔料は,クロム化合物を含まないものとした。 の切断面は,シャーリング加工機によるせん断方向がお もて面側から裏面側となるように切断して作製し,注釈 が無い限りバリ(かえり)の方向を下向き(下バリ)に し た。 試 験 片 の 寸 法 は, 促 進 腐 食 試 験 用 は 65 × せん断方向 図 2 に試験片の切断端部の断面形状を示す。試験片 せん断面 150mm,暴露試験用は 100 × 200mm とした。 破断面 200μm 2.2 腐食試験 裏面 表 1 に促進腐食試験の条件を示す。促進腐食試験は 腐食環境の塩,乾湿の影響を調査するため,JIS Z 2371 番 号 図 2 試験片の切断端部の断面形状 表( ) 図( structure 1 ) of the (写真は図に含める) cut edge portion of Fig.2 Cross-sectional に規定されている塩水噴霧試験,JIS K 5600-7-2 に規定 刷り上り希望大きさ されている湿潤試験,JIS H 8502 に規定されている複 80mm 幅 specimen. 170mm 幅 執筆者名 尾和 克美 合サイクル腐食試験を実施した。それぞれの環境下にお ける特徴的な腐食の形態を評価するため,塩水噴霧試験 図 2 試験片の切断端部の断面形状 では切断端部からの塗膜膨れ幅に,湿潤試験では切断面 Fig.2 Cross-sectional structure of the cut edge portion of specimen. の赤錆発生率に着目して調査した。複合サイクル腐食試 験では長時間の試験を実施し,めっき母材の腐食の程度 について確認した。 また,大気暴露試験を沖縄県中城村にて実施した。試 験場は海岸から 30m に位置しており,海塩粒子の影響 を受けている。年間を通じて気温,湿度が高く,切断端 部の腐食が進行しやすい環境である。 表 1 促進腐食試験条件 Table1 Conditions for accelerated corrosion test 試験名 塩水噴霧試験 湿潤試験 条件 35℃,5%NaCl 噴霧 50℃,95%R.H. 塩水噴霧(35℃,5%NaCl 噴霧):2h →乾燥(60℃,25%R.H.):4h →湿潤(50℃,95%R.H.):2h 複合サイクル 腐食試験 2.3 腐食生成物の調査 腐食生成物の観察には走査型電子顕微鏡(SEM)を 用い,同定には X 線回折(XRD,管球:Cu)を用いた。 また切断面の元素分布分析には電子線マイクロアナライ ザー(EPMA)を用いた。 番 号 表( 刷り上り希望大きさ ) 図( 80mm 幅 2 ) (写真は図に含める) 技報 170mm 幅日 新 製 鋼 執筆者名 No.92(2011) 尾和 克美 74 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 現していると推察している。これについては,後に詳述 3.結果および考察 する。 10 3.1 促進腐食試験結果 ● ZAM プレコート 最大塗膜膨れ幅(mm) 3.1.1 塩水噴霧試験結果 図 3 に塩水噴霧試験における切断端部からの最大塗 膜膨れ幅の変化を示す。最大塗膜膨れ幅は,試験片の切 断端部から最も塗膜膨れが進行した部位の塗膜膨れ幅と 定義した。ZAM プレコートの最大塗膜膨れ幅は試験初 期から GI プレコートよりも小さく推移し,960 時間後 でも 3mm であった。図 4 に塩水噴霧試験 960 時間後の ZAM プレコートはめっき層の腐食が少ないことが確認 され,切断面にも鋼素地の腐食に起因する赤錆は認めら 6 4 2 0 切断端部の外観および断面を示す。断面からの観察でも ○ GI プレコート 8 0 200 400 600 試験時間(h) 800 1000 図 3 塩水噴霧試験における切断端部からの最大塗膜膨れ幅 れなかった。 の変化 ZAM プレコートはめっき層から溶出する Mg が腐食 Fig.3 Changes in the largest width of the edge creep of 図 3 塩水噴霧試験における切断端部からの最大塗膜膨れ幅の変化 specimens under salt-spray-test. Fig.3 Changes in the largest width of the edge creep of specimens 生成物の安定化作用を示すため,優れた端面耐食性を発 under salt-spray-test. ZAM プレコート 切断端部 切断端部 GI プレコート 最大塗膜膨れ幅 切断端部 最大塗膜膨れ幅 5mm 切断面 1mm 断面 塗膜 塗膜 腐食生成物 100μm めっき層 鋼素地 鋼素地 腐食生成物 図 4 塩水噴霧試験 960 時間後の切断端部の外観および断面 Fig.4 Appearance and cross-sectional structure of the cut edge portion after salt-spray-test for 960h. 図 4 塩水噴霧試験 960 時間後の切断端部の外観および断面 Fig.4 Appearance and cross-sectional structure of the cut edge portion 潤試験 960 時間後の切断端部の外観および断面を示す。 3.1.2 湿潤試験結果 2) 号 after salt-spray-test for番960h. 表( ) 図( 3 プレコートのめっき層に腐 ) (写真は図に含める) 断面からの観察でも,ZAM 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 食はほとんど認められなかった。 図 5 に湿潤試験における切断端部からの最大塗膜膨 執筆者名 尾和 克美 れ幅の変化を示す。ZAM プレコートの最大塗膜膨れ幅 湿潤試験では,試験に使用する純水の電気伝導度が塩 は 960 時間後でも 0.5mm と小さく,塩水噴霧試験と同 水噴霧試験の塩水と比較して低いため,めっき層の犠牲 様に GI プレコートと比較して小さかった。図 6 に湿潤 防食作用が得られにくい。そのため,湿潤試験では塩水 試験における切断面の赤錆発生率の変化を示す。赤錆発 噴霧試験よりも塗膜膨れが進行しにくい反面,切断面の 生率は,切断面全体の投影面積に占める赤錆面積の比率 鋼素地露出部で赤錆が生じやすいが,このような環境下 と定義した。時間経過とともに赤錆発生率の増加が認め でも ZAM プレコートは GI プレコートよりも優れた端 られたが,960 時間後での赤錆発生率は約 20% であり, 面耐食性を示した。 GI プレコートと比較して非常に少なかった。図 7 に湿 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 75 10 100 ● ZAM プレコート 赤錆発生率(%) 錆 最大塗膜膨れ幅(mm) 6 4 2 0 80 60 40 20 0 0 200 400 600 試験時間(h) 800 1000 0 200 400 600 試験時間(h) 800 1000 図 5 湿潤試験における切断端部からの最大塗膜膨れ幅の変化 図 6 湿潤試験における切断面の赤錆発生率の変化 Fig.5 Changes in the largest width of the edge creep of Fig.6 Changes in the incidence of red rust of specimens under humidity-cabinet-test. 図 6 湿潤試験における切断面の赤錆発生率の変化 specimens under humidity-cabinet-test. 図 5 湿潤試験における切断端部からの最大塗膜膨れ幅の変化 Fig.5 ● ZAM プレコート ○ GI プレコート ○ GI プレコート 8 Fig.6 Changes in the incidence of red rust of specimens Changes in the largest width of the edge creep of specimens under humidity-cabinet-test. ZAM プレコート under humidity-cabinet-test. 切断端部 GI プレコート 切断端部 切断端部 5mm 切断面 1mm 断面 塗膜 塗膜 腐食生成物 100μm めっき層 めっき層 腐食生成物 鋼素地 鋼素地 図 7 湿潤試験 960 時間後の切断端部の外観および断面 2) Fig.7 Appearance and cross-sectional structure of the cut edge portion after humidity-cabinet-test for 960h. 図 7 湿潤試験 960 時間後の切断端部の外観および断面 2) 10 刷り上り希望大きさ Appearance and cross-sectional structure of the cut edge portion 100 after humidity-cabinet-test for 960h. ) (写真は図に含める) 8 80mm 幅 170mm 幅 執筆者名 尾和 克美 6 番 号 80 60 表( ) 図( 刷り上り希望大きさ 4 2 0 ● ZAM プレコート ○ GI プレコート 5 ○)GI 図( プレコート 赤錆発生率(%) 赤さび発生率(%) 表( 最大塗膜膨れ幅(mm) 最大塗膜膨れ幅(mm) 番 号 Fig.7 ● ZAM プレコート 80mm 幅 40 6 ) (写真は図に含める) 170mm 幅 執筆者名 尾和 克美 20 0 0 100 200 サイクル数 300 400 図 8 複合サイクル腐食試験における切断端部からの最大塗 膜膨れ幅の変化 0 100 200 サイクル数 300 400 図 9 複合サイクル腐食試験における切断面の赤錆発生率の 変化 Fig.8 Changes in the largest width of the edge creep of Fig.9 Changes in the incidence of red rust of specimens 図 9 塩乾湿複合サイクル試験試験における切断面の赤さび発生率の変化 図 8 塩乾湿複合サイクル試験における切断端部からの最大塗膜膨れ幅の変化 specimens under combined-cyclic-corrosion-test. under combined-cyclic-corrosion-test. Changes in the incidence of red rust of specimens Fig.8 Changes in the largest width of the edge creep of specimens Fig.9 under combined-cyclic-corrosion-test. under combined-cyclic-corrosion-test. 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 76 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 3.2 腐食挙動に関する考察 3.1.3 複合サイクル腐食試験結果 図 8 に複合サイクル腐食試験における切断端部から 以上の通り,腐食の態様が異なるいずれの試験環境に の最大塗膜膨れ幅の変化を示す。また,図 9 に切断面 おいても,ZAM プレコートの切断端部における塗膜膨 の赤錆発生率の変化を示す。ZAM プレコートの最大塗 れ,および原板腐食は GI プレコートよりも少なく,優 膜膨れ幅, および赤錆発生率は試験初期から GI プレコー れた端面耐食性を示した。本節では,切断端部における トよりも小さく推移し,乾湿の影響が加わる複合サイク 腐食挙動について考察する。 ル腐食試験でも,塩水噴霧試験,および湿潤試験の結果 亜鉛系めっき鋼板を原板とするプレコート鋼板の切断 と同様に GI プレコートよりも優れた端面耐食性を示し 面における腐食は,めっき層をアノード,露出した鋼素 た。 地をカソードとした電気化学反応である。 図 10 に複合サイクル腐食試験 360 サイクルまで継続 した後の試験片外観と,試験片から塗膜,めっき層,錆 アノード反応:Zn → Zn2++2e- ------(1) カソード反応:1/2O2+H2O+2e- → 2OH- ------(2) を除去した後の外観を示す。ZAM プレコートでは切断 塗膜膨れは切断面での腐食が塗膜と原板界面に進行し, 端部の一部で赤錆が認められるものの,下バリ端部より めっき層の腐食生成物が塗膜下に堆積することにより発 もめっき層の防食効果が得られにくい上バリ端部でも鋼 生する 3)。したがって,マクロな考え方としては,塗膜 素地の穴あきは認められなかった。一方,GI プレコー 膨れの進行抑制は,めっき層の腐食反応の抑制,さらに トでは上バリ,下バリいずれの切断端部とも著しい赤錆 は対極のカソード反応の抑制を行えば良いと言える。他 が認められ,特に上バリ端部では腐食起因による鋼素地 方で,めっき層の腐食により生じる腐食生成物は,塗膜 の消失も認められた。ZAM プレコートは,腐食による 下に堆積するだけでなく,切断面にも溶出して鋼素地を 外観への影響のみならず,長期耐久性の観点でも GI プ 被覆する。プレコート鋼板の切断面では,露出した鋼素 レコートよりも優れていた。 地に対する犠牲防食作用によるめっき層の腐食生成物 錆 塗膜・めっき層・錆除去後 試験後 ZAM プレコート 切断端部 (下バリ) GI プレコート ZAM プレコート GI プレコート 切断端部 (上バリ) 20mm 図 10 複合サイクル腐食試験 360 サイクル後の外観 Fig.10 Appearance of the specimens after for 360 cycles. 図 10 複合サイクル腐食試験 360combined-cyclic-corrosion-test サイクル後の外観 Fig.10 Appearance of the specimens after combined-cyclic-corrosion-test 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) for 360 cycles. 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 GI プレコート 微細 粗大 微細 粗大 湿潤試験 240 時間 塩水噴霧試験 240 時間 ZAM プレコート 77 20μm 図 11 塩水噴霧試験および湿潤試験 240 時間後の切断面における腐食生成物の表面形態 2) Fig.11 Morphologies of corrosion products formed on the cut edge of specimens after salt-spray-test and 図 11 Fig.11 塩水噴霧試験および湿潤試験 240 時間後の切断面における腐食生成物の表面形態 2) humidity-cabinet-test for 240h. Morphologies of corrosion products formed on the cut edge of specimens ZAM プ レ コ ー ト の 切 断 面 に は, 塩 水 噴 霧 試 験 で は が,さらに切断面を被覆してカソード反応を抑制するこ after salt-spray-test and humidity-cabinet-test forO240h. Zn5(OH)8Cl2・H の み が 生 じ て お り, 湿 潤 試 験 で は とによって防食効果を発現していると考えられる。一般 2 に亜鉛系めっき鋼板の腐食生成物については,その形態 Zn(OH)2 と Zn5(CO3)2(OH)6 の生成が認められ,いずれの が微細であるほど溶存酸素や腐食因子の遮へい効果が高 試験においても腐食抑制効果の低い ZnO の生成は認め いと言われている 4-6)。また中性環境における溶出亜鉛 られなかった。一方,GI プレコートの切断面には,塩 と水による単純な腐食生成物の生成反応は,次式のよう 水噴霧試験では Zn5(OH)8Cl2・H2O に加えて ZnO の生成 に示される。 が認められ,湿潤試験の腐食生成物も ZnO が主体であっ 2+ + Zn +2H2O → am.Zn(OH)2+2H (am.: 非晶質) ------(3) た。そのため GI プレコートの端面耐食性は,ZAM プ am.Zn(OH)2 → ZnO + H2O レコートと比較して劣っていたと考えられる。 ------(4) ここで,非晶質な Zn(OH)2 から変化して生じる ZnO は ZAM プレコートの切断面に ZnO が生成しない理由 n型半導体で導電性の高い物質であり,腐食反応の抑制 として,合金元素である Al と Mg の影響が考えられる。 効果は乏しいと考えられている 7-11)。これらの観点に沿っ 岡ら 7)は,Al と Mg には Zn(OH)2 の ZnO への変化を抑 て,ZAM プレコートの端面に生じた腐食生成物を調査 制する効果があると報告している。Zn5(OH)8Cl2・H2O し,GI プレコートのそれと比較した。 や Zn5(CO3)2(OH)6 が Zn(OH)2 の複塩であることを考える 図 11 に塩水噴霧試験および湿潤試験 240 時間後の切 断面に生じた腐食生成物の表面形態を示す 2)。いずれの 番 号 表( ) 図( 試験においても ZAM プレコートの腐食生成物は GI プ と,ZAM プレコートの切断面ではめっき層から溶出 11 した Al や Mg の 効 果 で ZnO の 生 成 が 抑 制 さ れ て い ) (写真は図に含める)12) る と 考 え ら れ る。 さ ら に 清 水 ら は,ZAM と 溶 融 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 Zn-4.5%Al-0.1%Mg 執筆者名 合金めっき鋼板の大気暴露試験で生 尾和 克美 レコートのそれと比較して微細な粒状を呈しており,腐 食因子の遮へい効果が大きいと推察される。 じた腐食生成物を比較調査した結果から,特に Mg が 図 12 にこれら腐食生成物の X 線回折結果を示す 。 2) ZnO の生成を抑制していると推察している。そこで, 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 78 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 塩水噴霧試験 240 時間後 ZAM プレコート GI プレコート 5 4 3 2 ▽:Zn5(OH)8Cl2・H2O 1 強度(×1k counts) 強度(×1k counts) 5 4 3 2 ▽:Zn5(OH)8Cl2・H2O ▼:ZnO 1 0 0 30 50 40 30 60 50 60 5 4 3 2 ◇:Zn(OH)2 ○:Zn5(CO3)2(OH)6 1 0 30 40 50 60 強度(×1k counts) 強度(×1k counts) 5 湿潤試験 240 時間後 40 2θ(deg.) 2θ(deg.) 4 3 2 ▼:ZnO 1 0 30 2θ(deg.) 40 50 60 2θ(deg.) 図 12 塩水噴霧試験および湿潤試験 240 時間後の切断面における腐食生成物の X 線回折結果 2) Fig.12 X-ray diffraction patterns of corrosion products formed on the cut edge of specimens after saltspray-test and humidity-cabinet-test for 240h. 図 12 塩水噴霧試験および湿潤試験 240 時間後の切断面における腐食生成物の X 線回折結果 2) Fig.12 X-ray diffraction patterns of corrosion products formed on the cut edge 塩水噴霧試験 24 salt-spray-test 時間後 湿潤試験 24for 時間後 of specimens after and humidity-cabinet-test 240h. Zn Al"/MgZn2 初晶 Al" Zn 腐食部(Al"/MgZn2) Al"/MgZn2 初晶 Al" 腐食部(Al"/MgZn2) 図 13 塩水噴霧試験および湿潤試験 24 時間後における切断端部の断面 2) 10μm 10μm Fig.13 Cross-sectional structure of the cut edge portion of specimens after salt-spray-test and humidityfor 24h. 図cabinet-test 13 塩水噴霧試験および湿潤試験 24 時間後における切断端部の断面 2) 番 号 表( ) 図( 12 ) (写真は図に含める) Fig.13 Cross-sectional structure of the cut edge portion of specimens 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 Al”と Zn/Al”/MgZn 執筆者名 尾和 克美 三元共晶主体のめっき組織で構 ZAM プレコートの切断面における Mg の挙動に着目し after salt-spray-test and humidity-cabinet-test for 224h. て調査を行った。 成されており,三元共晶部は Zn 相と Al”/MgZn2 相の 図 13 に塩水噴霧試験および湿潤試験 24 時間後にお ラメラ組織をなしている 13)。いずれの試験環境におい ける切断端部の断面を示す。ZAM のめっき層は初晶 ても腐食は Al”/MgZn2 相で優先的に生じていること 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 Zn Mg Fe O Cl せん断面 破断面 10 サイクル 1 サイクル SEI 79 500μm 図 14 複合サイクル腐食試験1および 10 サイクル後における切断面の元素分布 of elements on the cut edge surface of specimens after combined-cyclic-corrosion-test Fig.14 Distribution 図 14 塩乾湿複合サイクル試験1および 10 サイクル後における切断面の元素分布 for 1 cycle and 10 cycles. Fig.14 Distribution of elements on the cut edge surface of specimens after combined-cyclic-corrosion-test for 1 cycle and 10 cycles. が観察された。図 14 に複合サイクル腐食試験 1 サイク 5 最大塗膜膨れ幅(mm) ル後と 10 サイクル後における切断面の元素分布を示す。 Mg は 1 サイクル後ではせん断面のみに検出されている が,比較的早期である 10 サイクル後には鋼素地が露出 している破断面にも明らかに存在が認められた。このこ とより,ZAM プレコートの切断面では腐食初期から Mg が溶出して,Mg を含む塩基性亜鉛腐食生成物が生 れる。その結果,切断面の被覆による腐食因子の遮へい 3 2 0 効果はもとより,カソード反応の抑制にともなう対極の と推察する。 ○ GI プレコート 4 1 成することで,ZnO の生成が抑制されていると考えら めっき層腐食も抑制され,塗膜膨れが進行しにくいもの ● ZAM プレコート 0 1 2 3 4 試験時間(年) 5 6 図 15 沖縄沿岸での大気暴露試験における切断端部からの 最大塗膜膨れ幅の変化 図 15 沖縄沿岸での大気暴露試験における切断端部からの最大塗膜膨れ幅の変化 Fig.15 Changes in the largest width of the edge creep of Fig.15 Changes in the largest width of the edge creep of specimens specimens under the atmospheric exposure test in 図 15 に沖縄沿岸での大気暴露試験における切断端部 under the atmospheric exposure test in Okinawa. Okinawa. からの最大塗膜膨れ幅の変化を示す。ZAM プレコート 3.3 大気暴露試験結果 の 6 年経過時の塗膜膨れ幅は 1.5mm と小さく,3mm に 達した GI プレコートと比較して腐食は少なかった。図 16 には切断面の赤錆発生率の変化を示す。6 年経過時 100 の ZAM プレコートの切断面の赤錆発生率は 5% であり, ● ZAM プレコート ○ GI プレコート 錆 赤錆発生率(%) 90% とほぼ全面が赤錆で覆われた GI プレコートと比較 して明らかな優位性が認められた。以上,前述の各種促 進腐食試験で明らかとなった ZAM プレコートの高い端 面耐食性は,大気暴露試験でも同様に確認された。 大気環境下での Mg の溶出挙動については,山本ら 1) が短期大気暴露試験による調査を行っている。海岸から 80 60 40 20 5m の高塩濃度環境に 8 日間暴露した ZAM プレコート 0 の切断面には,図 17 に示すような微細な腐食生成物が 生成していた。また図 18 に示すとおり,ZAM プレコー トの切断面は全体が Mg で覆われていたと報告してお 0 1 2 3 4 試験時間(年) 5 6 図 16 沖縄沿岸での大気暴露試験における切断面の赤錆発 り,前述の促進腐食試験結果からの推察と同様に,大気 番 号 表( ) 図( 14 ) 生率の変化 (写真は図に含める) 環境下でも腐食初期の段階から Mg が溶出していると考 Fig.16 Changes in the incidence of red rust of specimens 図 16 沖縄沿岸での大気暴露試験における切断面の赤錆発生率の変化 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 執筆者名 尾和 克美 えられる。なお,図 18 の GI プレコートの切断面に認 atmospheric test in Okinawa. Fig.16 Changesunder in thethe incidence of redexposure rust of specimens 番 号 under the atmospheric exposure test in Okinawa. 表( ) 図( 15 ) (写真は図に含める) 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 技 報 No.92(2011) 170mm 幅日 新 製 鋼 執筆者名 尾和 克美 80 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 ZAMプレコート ZAM プレコート 微細 SEI C O Zn Al Mg Fe Cl S SEI C O Zn Al Mg Fe Cl S GI プレコート 粗大 GIプレコート 20μm 図 17 大気暴露 8 日後の切断面における腐食生成物の表面 形態 1) Fig.17 Morphologies of corrosion products formed 1) on the 暴露 8 日後の切断面における腐食生成物の表面形態 cut edge of specimens after atmospheric exposure for 8 days. phologies of corrosion products formed on the cut edge specimens after atmospheric exposure for 8 days. 強度(×1k counts) 5 4 3 ○:Zn5(CO3)2(OH)6 △:Zn4CO3(OH)6 ▽:Zn5(OH)8Cl2・H2O □:Zn12(SO4)3Cl3(OH)15・5H2O 2 1 0 30 40 50 60 500μm 図 18 大気暴露 8 日後における切断面の元素分布 1) 2θ(deg.) 図 19 沖縄沿岸での大気暴露 2 年後の切断面における腐食 1) 図 18 大気暴露Fig.18 Distribution 8 日後における切断面の元素分布 of elements on the cut edge surface of 生成物の X 線回折結果 atmospheric forspecimens 8 days. Distribution ofspecimens elementsafter on the cut edgeexposure surface of Fig.19 X-ray diffraction pattern of corrosion products Fig.18 縄沿岸での大気暴露 2 年後の切断面における腐食生成物の X 線回折結果 formed on the cut edge of pre-painted ZAM afterafter atmospheric exposure for 8 days. X-ray diffraction atmospheric pattern of exposure corrosion formed . on the cut edge for products 2 years in Okinawa f pre-painted ZAM after atmospheric exposure for 2 years in Okinawa . 番 号 表( 大きさ ) 図( 80mm 幅 17 170mm 幅 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) ) 表( 刷り上り希望大きさ (写真は図に含める) 執筆者名 尾和 克美 ) 図( 80mm 幅 18 170mm 幅 ) (写真は図に含める) 執筆者名 尾和 克美 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプレコート鋼板の端面耐食性 められる微量の Mg は,海塩粒子に由来するものとされ ている。 図 19 に沖縄沿岸での大気暴露 2 年後の ZAM プレコー 81 91(2010),34. 3) 山本茂樹,山口英宏,水野賢輔:塗装工学,44(2009),20. 4) W.Feitknect:Chemistry and Industry,36(1959),1102. トの切断面における腐食生成物の X 線回折結果を示す。 5) T.Ishikawa,K.Matsumoto,A.Yasukawa,K.Kandori, 切断面には,Zn5(OH)8Cl2・H2O などの塩基性塩化亜鉛 T.Nakayama and T.Tsubota:Corros.Sci.,46(2004),329. と Zn5(CO3)2(OH)6 などの塩基性炭酸亜鉛を主体とした腐 6) X.G.Zhang:Corrosion and Electrochemistry of Zinc,Plenum 食生成物が生成しており,促進腐食試験後の腐食生成物 の調査結果と同様に ZnO は認められなかった。ZAM プレコートは,大気環境下においても切断面に Mg を含 Press,New York and London,(1996),157-181 7) 岡 襄 二, 朝 野 秀 次 郎, 高 杉 政 志, 山 本 一 雄: 鉄 と 鋼, 68(1982),A57. む塩基性亜鉛腐食生成物からなる保護的な皮膜を形成し 8) 沼倉行雄,北山実,三吉康彦:鉄と鋼,70(1984),S1114. て, 優れた端面耐食性を発現しているものと推察される。 9) 鷺山勝,平谷晃:材料と環境,42(1993),721. 10)迫田章人,薄木智亮,若野茂,西原寛:表面技術,40(1989), 4.結 言 164. 11) 浜田秀樹,出口武典:防錆管理,12(1994) ,15. 溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板を原板としたプ レコート鋼板を各種促進腐食試験と大気暴露試験に供 し,端面耐食性についてこれまでに得られた知見を整理 清水剛,吉崎布貴男,三吉泰史,安藤敦司:日新製鋼技報, 12) 85(2004),11. 清水剛:防錆管理,9(2009) ,8. 13) した。 (1) 促進腐食試験における ZAM プレコートは,さまざ まな腐食環境下でも GI プレコートより腐食の進行 が遅く,優れた端面耐食性を示す。 (2) ZAM プレコートの切断面に生じる腐食生成物は, GI プレコートと比較して微細な粒状を呈する。塩 水噴霧試験 240 時間後の腐食生成物は Zn5(OH)8Cl2・ H2O,湿潤試験 240 時間後の腐食生成物は Zn(OH)2 と Zn5(CO3)2(OH)6 であり,いずれの試験においても ZnO は生成されない。 (3) ZAM プレコートの切断面では,Al”/MgZn2 相が 優先的に腐食し,試験初期から Mg が切断面に溶出 する。この Mg により ZnO への変化を抑制された 微細な粒状の亜鉛系腐食生成物が切断面を被覆する ことにより,腐食因子が遮へいされると同時にカ ソード反応が抑制される。これにより対極のめっき 層腐食が抑制され,塗膜膨れが進行しにくくなると 推察する。 (4) ZAM プレコートは,大気暴露試験においても GI プレコートよりも優れた端面耐食性を示す。沖縄沿 岸 2 年暴露材の腐食生成物にも ZnO の生成は認め られず,大気環境下においても切断面に Mg を含む 塩基性亜鉛腐食生成物からなる保護的な皮膜を形成 して,優れた端面耐食性を発現しているものと推察 される。 参考文献 1) 山本郷史,公文史城,垰本敏江,矢野宏和:日新製鋼技報, 89(2008),1. 2) 髙岡真司,松原和美,尾和克美,上田耕一郎:日新製鋼技報, 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
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