牛白血病ウイルスが検出された T 細胞由来胸腺型牛白血病の症例について 大分県食肉衛生検査所 ○山口 勝寛 はじめに 牛 白 血 病 は 牛 白 血 病 ウ イ ル ス( 以 下 BLV)に よ る 地 方 病 型 と そ れ 以 外 の 散 発 型 に 分 類 され、散発型はさらに子牛型、胸腺型、皮膚型に分類される が、いずれも発生原因は 不明である。 当 所 で は 過 去 に 、胸 腺 型 牛 白 血 病( 以 下 胸 腺 型 )発 症 牛 の 血 液 及 び 腫 瘍 組 織 か ら BLV 遺 伝 子 が 検 出 さ れ た 症 例 に つ い て 、 平 成 18 年 度 及 び 平 成 23 年 度 当 研 究 発 表 会 で 後 藤 ら [ 1 ] [ 2 ] が 報 告 し て い る 。 今 回 、 リ ア ル タ イ ム PCR に よ り 胸 腺 型 腫 瘍 組 織 中 の BLV プ ロ ウ イ ル ス 遺 伝 子 を 定 量 し 、 胸 腺 型 に お け る BLV の 関 与 の 可 能 性 に つ い て 検 討 し た の で 報告する。 材料及び方法 (1) 供試牛 2008 年 6 月 か ら 2012 年 4 月 の 間 に 当 所 に て 、胸 腺 型 と 診 断 し た 9 頭 に つ い て 、表 1 の と お り 胸 腺 部 腫 瘤 の 凍 結 組 織( 7 頭 )及 び ホ ル マ リ ン 固 定 パ ラ フ ィ ン 包 埋 組 織( 以 下 パ ラ フ ィ ン 組 織 )( 9 頭 ) を 検 体 と し た 。 ま た 、 9 頭 中 3 頭 に つ い て は 腫 瘤 形 成 部 位 以 外の臓器のパラフィン組織も検体(計 8 検体)とした。 陽 性 対 照 と し て 、 地 方 病 型 牛 白 血 病 (以 下 地 方 病 型 )発 症 牛 8 頭 に つ い て 、 表 2 の と おり病変部腫瘤の凍結組織(8 頭)及びパラフィン組織(4 頭)を検体とした。陰性対 照 と し て 、当 所 に 一 般 畜 と し て 搬 入 さ れ 、著 変 を 認 め な か っ た 非 牛 白 血 病 、黒 毛 和 種 7 頭について下顎、気管気管支、縦隔いずれかのリンパ節の凍結組織を検体とした。 (2) 病理組織検査 パ ラ フ ィ ン 組 織 で は 、 HE 染 色 及 び 免 疫 染 色 を 行 っ た 。 免 疫 染 色 は T 細 胞 マ ー カ ー で あ る CD3 F7.2.38 抗 体 (Dako)及 び B 細 胞 マ ー カ ー で あ る CD45R LCT27A 抗 体 (VMRD)を 第一抗体に用いてポリマー法でそれぞれ行った。 ( 3 ) BLV 遺 伝 子 の 検 出 DNeasy ○R Blood & Tissue Kit (QIAGEN) を 用 い て 凍 結 組 織 と パ ラ フ ィ ン 組 織 か ら DNA の 抽 出 を 行 っ た 。 抽 出 し た DNA は 、 CycleavePCR ○R BLV 検 出 キ ッ ト (TaKaRa) を 用 い て StepOnePlus T M Real Time PCR System (Applied Biosystems) で 定 量 リ ア ル タ イ ム PCR を 行 い 、 抽 出 DNA1ng 当 た り の BLVtax 遺 伝 子 コ ピ ー 数 を 算 出 し た 。 ま た 、 凍 結 組 織 か ら 抽 出 し た DNA は 、 BLVenv 遺 伝 子 を 標 的 と し た プ ラ イ マ ー を 用 い て 、 Nested PCR を 行った。 成績 (1) 病理組織検査 腫瘤形成部位では、胸腺型、地方病型ともリンパ球様腫瘍細胞が充実性に増殖して お り 、細 胞 成 分 の 大 部 分 を 占 め て い た 。腫 瘍 細 胞 は 胸 腺 型 で は CD3 陽 性 、CD45R 陰 性 の T 細 胞 由 来 で 、地 方 病 型 で は CD45R 陽 性 、CD3 陰 性 の B 細 胞 由 来 で あ る こ と を 確 認 し た 。 腫 瘤 非 形 成 部 位 で は 、 症 例 3 は 脾 臓 で CD3 陽 性 の 比 較 的 大 型 の リ ン パ 球 様 細 胞 が 充 満 し 、CD45R 陽 性 の リ ン パ 濾 胞 は 萎 縮 し て い た 。ま た 、肺 で は 肺 胞 中 隔 に CD3 陽 性 の リ ン パ球様細胞が多数浸潤し、肝臓では肝小葉中心性に 肝 細 胞 の 空 胞 変 性 を 認 め CD3 陽 性 リ ン パ 球 様 細 胞 の 小集簇巣が散見された。他の症例では、著変を認め なかった。 ( 2 ) 腫 瘍 病 変 部 か ら の 遺 伝 子 検 出 状 況 (表 3) 胸腺型の凍結組織からは 7 頭中 5 頭(すべて黒毛 和 種 )で リ ア ル タ イ ム PCR、Nested PCR と も に BLV 遺 伝 子 を 検 出 し た 。陽 性 5 頭 の BLV 遺 伝 子 量 は 50~ 614 コ ピ ー で あ っ た 。 陽 性 対 照 と し た 地 方 病 型 8 頭 の BLV 遺 伝 子 量 は 111~ 666 コ ピ ー で あ っ た( 図 1)。 胸腺型のパラフィン組織からは 9 頭中 7 頭(すべて 黒 毛 和 種 ) で BLV 遺 伝 子 を 検 出 し 、 陽 性 7 頭 の BLV 遺 伝 子 量 は 1.7~ 26.6 コ ピ ー で あ っ た 。 地 方 病 型 4 頭 の BLV 遺 伝 子 量 は 2.7~ 6.3 コ ピ ー で あ っ た 。非 牛 白 血 病 7 頭 の BLV 遺 伝 子 は 、Nested PCR で 陽 性 3 頭 、 リ ア ル タ イ ム PCR で は 2 頭 陽 性 で 遺 伝 子 量 は 凍結組織のBLV遺伝子コピー数 1000 0.1 と 2 コ ピ ー で あ っ た 。 コピー/ngDNA (3) 腫瘤非形成部位からの遺伝子検出状況 100 検 討 し た 3 頭 8 検 体 す べ て か ら BLV 遺 伝 子 が 検 出 さ れ た が 、1 コ ピ ー 以 上 検 出 さ れ た も の は 、 10 症 例 3 の 脾 臓 と 肺 の み で そ れ ぞ れ 5.6 と 2.7 コ 1 ピーであった。 胸腺型 地方病型 非牛白血病 図1 考察 今 回 、 凍 結 組 織 か ら BLV の 検 出 さ れ た 胸 腺 型 5 頭 で は 腫 瘍 組 織 中 の BLV 遺 伝 子 量 は 地 方 病 型 と 同 程 度 で あ り 、 非 牛 白 血 病 の リ ン パ 節 で は BLV 遺 伝 子 は ほ と ん ど 検 出 さ れ なかった。さらに、凍結組織の検体が不明であった胸腺型 2 頭のパラフィン組織から BLV 遺 伝 子 が 検 出 さ れ 、BLV 遺 伝 子 が 検 出 さ れ た 胸 腺 型 7 頭 と 地 方 病 型 4 頭 の BLV 遺 伝 子 量 は 同 程 度 で あ っ た 。BLV は T 細 胞 に も 感 染 は す る も の の 腫 瘍 化 す る の は B 細 胞 の み とされているが今回検討した胸腺型の症例において黒毛和種では 7 頭すべての病変部 位 か ら BLV 遺 伝 子 が 地 方 病 型 と 同 程 度 検 出 さ れ た こ と か ら 、T 細 胞 の 腫 瘍 化 に も BLV が 関与する可能性が示唆された。また、症例 3 のパラフィン組織では腫瘤非形成部位で あ る 脾 臓 と 肺 か ら 1 コ ピ ー 以 上 の BLV 遺 伝 子 が 検 出 さ れ 、 遺 伝 子 量 の 多 い 順 に 腫 瘤 、 脾 臓 、 肺 、 肝 臓 で あ っ た 。 こ れ は 免 疫 染 色 で の CD3 陽 性 細 胞 の 数 と 同 様 で あ り 、 こ の こ と か ら も T 細 胞 由 来 細 胞 と BLV の 関 連 が 疑 わ れ た 。 藤 本 ら [ 3 ] は BLV 抗 体 陽 性 の 2 月 齢 の 子 牛 型( T 細 胞 性 )白 血 病 の 胸 腺 、リ ン パ 節 か ら BLV 遺 伝 子 が 検 出 さ れ 垂 直 感 染 の 疑 い も あ る こ と を 報 告 し て お り 、子 牛 型 と の 関 連 や 垂 直 感 染 の 可 能 性 や 、 今 回 胸 腺 型 で BLV が 黒 毛 和 種 で は 全 頭 か ら 検 出 さ れ ホ ル ス タ イ ン では検出されなかったことから品種による発生状 況の違い等、胸腺型の疫学的な検討 は今後の課題である。今回は限られた例数であったため、胸腺型や地方病型、非牛白 血 病 の 例 数 を 増 や し 、 BLV 遺 伝 子 の 定 量 を 行 い 、 さ ら に in situ PCR に よ る 病 変 部 切 片 上 で の BLV 遺 伝 子 の 確 認 も 行 い た い 。 引用文献 [1]後 藤 高 義 ら : 平 成 18 年 度 食 肉 衛 生 技 術 研 修 会 ・ 衛 生 発 表 会 資 料 (2006) [2]後 藤 高 義 ら : 平 成 23 年 度 九 州 地 区 食 肉 衛 生 検 査 所 協 議 会 大 会 資 料 (2011) [3]藤 本 彩 子 ら : 第 58 回 北 海 道 家 畜 保 健 衛 生 業 績 発 表 会 集 録 (2010)
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