マーケティング(540KB) 『ジビエで地方創生』

エッセイ 素敵・発見!マーケティング 62
ジビエで地方創生
株式会社クリエイティブ・ワイズ 代表取締役 三宅曜子
新たな年がスタートした。昨年も多くの地方に出向き、事業者さん達と語り合い、サ
ポートしながら新商品の開発やマーケティングを行ってきた。今年も全国各地、また海
外にも多く行くことになると思う。今年は申年。申年に赤い色を身につけると幸せにな
ると言われているので、アクセサリーやウエアのポイ
ントに赤い色を取り入れようと思う。
赤といえば、ジビエの肉の色もきれいな赤が多い。
ヨーロッパでは高級な料理としてジビエがあり、特に
フランス料理にはとっておきの素晴らしいメニューが
多くあるが、日本でももっとジビエを食することが、
実はある意味で地方創生に結びつくことになると思う
のである。
鹿肉のローストビーフ
■害獣駆除の結果が「ジビエ」料理
10 年近く前に高知県でベンチャー企業のための事業計画づくりの研修会を 3~4 日か
けて数回行ったことがある。
その時には新規事業の立ち上げに意欲的な多くの方達が集まって、1 日 8 時間びっし
りとビジネスプラン作りからビジネス立ち上げのためのノウハウ、マーケティング戦略
の構築や店舗展開までを指導してきた。なぜか高知県では女性の参加者が多く、ほとん
どの方が事業計画通りのビジネスを現在行っている。
そのなかで今や大成功を収めているのが、当時地元の印刷会社社長の奥様で、まだ
20 代の女性。彼女は印刷の中でも活版印刷が好きで、これらの技術を活かし、紙に関
する様々な商品開発を行いたいと、妊娠中の大きなおなかを抱えながらしっかりとビジ
ネスプランづくりに挑んでいた。翌年からは地元で女性好みの紙にこだわるショップを
多店舗展開し、数年後には東京進出をはたし、現在は東急ハンズとのコラボレーション
展開を行うなど、頼もしく成長した企業となった。
旬レポ中国地域 2016 年 1 月号
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もう一人、ニュージーランドから戻った
ばかりの女性が地元で何が出来るかを模索
している状況で参加していた。彼女はニュ
ージーランドではレストランを任されるシ
ェフであり、その技術を活かしたことをや
りたいと思っていた。
一緒にビジネスプランを作っている中で、
高知県の山間部では鹿やいのししの被害が
多発しており、野菜の新芽や果物などが荒
らされ、大変な状況であることがわかった。
高知のジビエ専門レストラン
Nooks キッチンの西村シェフ
イノシシはよく鍋などにされて馴染みも
良く、販路も多くあるが、鹿は全くと言っていいほどどこにも売れない状況であった。
「この鹿を何とかしなければ、高知の野菜作りは大打撃を受ける!」と思い、彼女と私
二人共通に考えついたのが「ジビエ料理の展開と、鹿肉での商品開発」であった。
私は学生の頃からヨーロッパに毎年行き、特にスイスの山間部やフランスなどでジビエ、
中でも鹿肉が良く食べられていることを知っていた。彼女も海外生活が長かったことも
あり、シカ肉やイノシシ肉のさばき方も良く知っていた。
■高知でジビエ料理に挑戦!
「高知でジビエ料理をやったらいいのでは?」。
特に害獣であるシカ肉は山ほど獲れるし、イノシシやキジなども多い。しかし、ジビ
エ料理はハンターが一息に仕留めなければ美味しい肉として出せない。罠にかかった害
獣はもだえ苦しむことで血中の中にまずくなる物質が出てしまうのだ。ハンターがさば
くのだが、そのさばき方にも工夫がいる。
まず肉の手配を行い、どのような料理や加工品が出来るかを何度も試作しながらテス
トした。
ローストビーフや肝のパテ、ソーセージ
や甘露煮まで様々なものをつくり、この勉
強会で参加者にモニタリングを行い、食べ
た後の意見をもらいながら試作を繰り返
した。
まだ国内で「鹿肉の調理や加工品」
、
「ジ
ビエ」などの名前すら聞かれなかった頃で
ある。
ジビエメニューの一部
旬レポ中国地域 2016 年 1 月号
彼女は何度も鹿肉で調理や加工品を作
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り続けた結果、高知県や周辺のハンターが持ってくる多くの鹿肉が、どのような状態で
捕獲されたかは味を見るとすぐにわかるようになった。
まず、べふ峡温泉のレストランでシェフとして働くことからスタート。ジビエ料理の
通常メニューの他、何種類ものバリエーションメニューやバーベキューイベント等で鹿
肉のヘルシーさや癖のない美味しさを紹介することから始めた。その後、転職して高知
県内の高速道路サービスエリアでさらにレベルアップしたジビエ料理の提供を行うよ
うになった。
今では高知市内の中心部でジビエ専門
のレストランを週 3 日の夜のみ営業。そ
の他の日は全国からオファーがかかり、
ジビエ料理の専門家としてメニュー開発
や指導を行うほどになり、ジビエ料理の
第一人者として新聞や雑誌などにも多く
紹介されるようになった。近々ファッシ
ョン誌の「VOGUE」からも取材を受けると
いう。
高知のジビエ専門店
■地方創生とジビエの関係とは
実は全国で害獣として鹿の駆除に困って
いるエリアは多く、農作物被害が年々目立つ
ようになっている。農業人口が少なくなり、
高齢化も顕著になっている地方の救世主と
しての「ジビエ料理」。しかし、現在はまだ
フランス料理の一部としてしか使われてお
らず、カジュアルにジビエを楽しめる地方の
レストランはほんの数軒しかない。
地方再生のためにも、Iターンで首都圏か
ら地方に移住してジビエレストランを開い
てくれる人が欲しい。
私も実家は横浜で全員関東にいる為、広島
には親兄弟や親戚もおらず、完全なIターン
人間である。広島が住みやすくて好きだから
居るのだが、多くの人に地方の良さを知って
もらうと共に、地方の悩みや困りごとを解決
ユニークなジビエの食べ比べメニュー
旬レポ中国地域 2016 年 1 月号
できる人材がもっと多くなることを期待し
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ている。最初に私が「ジビエをやってみたら?」とのアドバイスをきっかけに、彼女が
ジビエに取り組み着実にステップアップしていく様は頼もしいものだ。今後全国にこの
取り組みを知っていただき、害獣が少なくなることを願い、小さな地方創生から行って
いきたいと思っている。
ジビエ専門店のレシピ集
マーケティングコンサルタントとして、中小企業支援及び指導、商業活
性化事業、まちづくり事業等、顧客のニーズを的確に捉えた市場開発とア
プローチ手法等、幅広い分野におけるマーケティング全般のアドバイスを
全国各地で手掛ける。また、平成 19 年度より地域資源活用事業の政策審議
委員、国会での参考人をはじめ、全国で地域資源を活用した事業推進、農
商工連携事業、JAPANブランドプロデューサーなど幅広く活躍中。
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経済産業省地域中小企業サポーター
同、伝統的産業工芸品産地プロデューサー
中小企業基盤整備機構経営支援アドバイザー
同、地域ブランドアドバイザー
内閣官房 地域活性化伝道師
広島県総合計画審議会委員 他
経済産業省 中国経済産業局 広報誌
旬レポ中国地域 2016 年 1 月号
Copyright 2016 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry.
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