論文審査の要旨および学識確認結果 - 慶應義塾大学学術情報リポジトリ

論文審査の要旨および学識確認結果
報告番号
甲/乙第
論文審査担当者: 主査
副査
号
氏
名
阿部
真志
慶應義塾大学教授
理学博士
佐々田 博之
慶應義塾大学准教授
博士(理学)
岡 朋治
慶應義塾大学准教授
慶應義塾大学教授
博士(理学)
工学博士
山内 淳
神成 文彦
東京理科大学教授
理学博士
盛永 篤郎
(論文審査の要旨)
学士(理学)
、修士(理学)阿部真志君提出の学位論文は「波長3m 帯広帯域分光計の高感度高
分解能化とメタン基本振動バンドの精密周波数測定」と題して全7章から構成されている.
中赤外領域における分子の振動遷移の分光学的研究は、物理学、化学、天文学の基礎科学から、
物質の検出・同定の応用分野まで大きな貢献をしてきた.レーザー等のコヒーレント光源を用いる
分光計はスペクトル分解能と検出感度を著しく向上し、質の高い基礎データを供給している.
これまでに,差周波発生法による波長 3 m 帯のコヒーレント光源に光共振器吸収セルを組み合
わせて、広帯域、高感度、高分解能分光計が開発され、さらに、光周波数コムを基準にした周波数
掃引法が導入された. この分光計を用いて分子のサブドップラー分解能高感度分光が行なわれ、遷
移周波数の絶対測定が報告された.
本論文では、この分光計に、新たに2つの非線形光学結晶を導入して同調波長域を約 1.6 倍に拡
張した.高い回転状態の遷移を含むメタンの振動バンド全体にわたるサブドップラー分解能分光を
行い、遷移周波数を相対不確かさ 10–11 で決定した.また、禁制遷移の測定を行い、振動基底状態
の分子定数を高い精度で決定した.通過時間幅を狭めるために太い光ビーム径を持つ光共振器吸収
セルを導入して、スペクトル線幅を狭窄化した.さらに光周波数コムのキャリアエンベロープオフ
セット周波数を制御してこれまでに観測できなかった CH3D の低い回転状態の A1-A2 分裂の分離に
成功した.これを解析してエネルギー準位の分裂を決定し、分子定数の改善を行った.
本論文の第 1 章では、中赤外領域の分子分光、サブドップラー分解能分光、遷移周波数測定、お
よび、分子分光における本論文の位置づけを述べている.
第 2 章では、飽和吸収分光法、スペクトル線幅、光共振器、周波数制御法、メタン分子の振動回
転準位構造、光周波数コムについて基本的な理論を述べている.
第 3 章では、分光計の構成と用いられた差周波中赤外光源、光共振器吸収セルについて述べ光周
波数コムの役割について述べている.
第 4 章では、メタン分子3 バンドのサブドップラー分解能分光について述べている. 新たに R ブ
ランチと高い回転状態の P, Q ブランチに属する計 131 本の遷移について絶対周波数測定を行った.
また、19 本の禁制遷移の絶対周波数測定を行った. これらから振動基底状態のエネルギー準位間隔
を決定した. また、振動基底状態の回転定数を従来の 1/40 の不確かさで決定した.
第 5 章では、太い光ビーム径をもつ光共振器吸収セルを使ったスペクトル線幅の狭窄化について
述べている.これによりメタン分子の通過時間によるスペクトル広がりは半値半幅で 38 kHz まで
減った. 観測された Lamb ディップのスペクトル線幅は 80 kHz で、従来の 1/3 まで狭窄化された.
第 6 章では、光共振器吸収セル(5章)とキャリアエンベロープオフセット周波数を制御した光
周波数コムを組み合わせた分光計を用いた CH3D 1, 4 バンドの A1-A2 分裂の観測について述べて
いる.22 組の A1-A2 分裂を初めて測定し、振動基底状態の A1-A2 分裂係数を 1.5624(22) Hz と決定
した.
第 7 章を結論とし、本研究の総括および今後の展望を述べている.
以上のように,本研究は高性能の中赤外分光計を改良発展させ、その性能を実証し、多くの精密
な分光データを提供している.これらの成果は,広く高分解能分光学,分子科学,度量衡学に画期
的な貢献をし、学術上寄与するところが少なくない.
よって,本論文の著者は博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める.
学識確認結果
学位請求論文を中心にして関連学術について上記審査会委員で試問を行い、当
該学術に関し広く深い学識を有することを確認した。
また、語学(英語)についても十分な学力を有することを確認した。
※
〇〇
〇〇には審査担当者氏名、△△△△には、
「上記審査会委員」等と記載する。