巻 頭 イ ン タ ビ ュ ー 50 年の経験が生んだ最高性能の 赤外線サーモグラフィカメラ「FLIR T1040」 フリアーシステムズジャパン株式会社 テスト・イクイップメント セールスマネージャー 中司 茂 今年創立 50 周年を迎えたフリアーシステムズ社は、高い開発力とエントリーモデルからハイエンドモデル まで幅広い製品ラインナップで世界シェア約 65%を占めるサーモグラフィ業界最大手。今年11月に発売の HD 画質の赤外線サーモグラフィカメラ「FLIR T1040」について話を伺った。 赤外線カメラの常識 メラなどに携わっている方々からすると、赤外線 カメラの画素数の違いに驚かれることがあります。 今回新たに発表する「FLIR T1040」 (図1)は、 たとえば今年 5 月に出た新製品「FLIR C2」 (図 フリアーの T1000 シリーズのラインナップになり 2)ですが、ポケットサイズの簡単サーモグラフィ ます。今までと違うところは画素の数が大幅に アップしているところです。赤外線の世界ですと、 ほとんど製品で 320 × 240 であったりとか、よう やく 640 × 480 であったり、画素にすると 30 万画 素程度でした。最近ではスマートフォンのカメラ などでも 500 万画素以上が標準的になり、赤外線 カメラは通常のカメラと比べると、画素数につい ては決して高くはありませんでした。 赤外線カメラは 15 年くらい前に 30 万画素が出 てきて、すごいと言われていた時代がありまし た。今でも赤外線カメラでは 1,024 × 768 の 80 万 画素で高画素の部類に入りますので、デジタルカ 図 1 FLIR T1040 28 ︱December 2015 eizojoho industrial フリアーシステムズジャパン株式会社 図 2 ポケットサイズの簡単サーモグラフィ「FLIR C2」 で 99,800 円というリーズナブルな価格もあり、80 くことができるのではないかと思います。 × 60 の 4,800 素子しかないのですが、非常に売れ この 5 年間フリアーは低価格化を進めてきまし ているのも事実です。 て、今まで年間 500 台しか売れなかったところが、 フリアーとしては 80 × 60 から「FLIR T1040」 現在では 10 倍、20 倍売れるような流れになって の 1,024 × 768 まで 10 種類以上のライナップを揃 きています。これは 10 万円を切る低価格な赤外線 えています。価格重視のお客様も、機能重視のお カメラを世界市場で販売することができる当社の 客様にも対応できるフルラインナップでご提供で 強みであり、そのため数も多く販売でき、低価格 きるというのが 1 つの戦略でもあります。 でもビジネスラインにのっているわけです。 低価格戦略でフリアーという知名度も上がりま FLIR T1040 開発の経緯 した。次にさらに精度の高い計測をしたいという ニーズが出てきて、上位機種を選ばれる傾向が強 赤外線カメラというのはどちらかというと、研 くなるのですが、そのようなニーズに対して今回 究・開発用途で使われる機器の 1 つでした。20 年 の FLIR T1040 は満を持して発表した最上位機種 前だと安くても 500 万円以上するなど、今でも高 になります。 額なものだと 3,000 万円するものなどがあります FLIR T1040 は HD 画質の高画素を実現してい が、価格はどんどん下がる傾向にはありまして、 ますが、高画素化は開発する上で最も苦労する点 FLIR C2 のように低価格な製品も売れ始めてい でした。画素を増やすということは、それに伴う るのが現状です。 放熱対策とノイズ対策が非常に重要になるからで これだけのライナップを揃えているのは世界を見 す。そこで、開発にもコストをかけて実現できま てもフリアーだけです。センサを内製しているとい した。また、レンズの開発もゼロベースから FLIR うこともありまして、低価格な製品も販売できる体 T1040 に最適なものを作りました。 制をとっています。これにより、今まで赤外線カメ 赤外線カメラのレンズは、ゲルマニウムという ラはコスト的に高くて導入を躊躇していた方々に 素材を研磨して作ります。普通の硝子ではないの も使っていただける環境をご提供できるのではな で原価も高いです。望遠、広角、そして顕微レン いかと思います。このようにして、まずは使ってい ズも一緒に発売しますので、レンズの設計には非 ただくことで赤外線カメラの利便性を実感いただ 常に注力しています(図3)。 き、より機能重視の機種にも関心を寄せていただ eizojoho industrial December 2015︱29 巻 頭 イ ン タ ビ ュ ー 50年の経験が生んだ最高性能の赤外線サーモグラフィカメラ「FLIR T1040」 FLIR T1040 はレンズの着脱ができますので、 用途に応じて望遠とのセットや研究開発であれば、 PC とつなげてデータをストレージするようなラ インナップなども考えています。 赤外線カメラは、普通のカメラとは異なり温度 を測定しています。温度の相対分布を知ることが できればいいという場合もあれば、正確な測定温 度値を遠く離れたところから測定したいという ニーズもあります。たとえば、送電線のケースで は、50℃以上はアウトで 50℃以下であればセーフ という基準値がある。実際に 100℃だったとして 図 3 望遠、広角、顕微レンズを取り揃えている も、遠くから測定すると解像度によっては、30℃ と表示されてしまうことがあります。視覚と同じ 高画素化のニーズ ように、遠くにある対象物の色や形状などが明確 に判別できないというようなことがあります。赤 エントリーモデルから上位機種まで、様々な分 外線カメラも遠く離れれば、小さな対象物は測定 野のお客様にご利用いただいておりますが、よく が難しくなっていきます。そこで、正確な温度を 使われているのは建築関係のお客様です。本来の 測定するためには、最小検知する寸法が重要に サーモグラフィ用途で最も使われているのは電気 なってきます。つまり、低画素の赤外線カメラで 設備の点検です。 あれば近寄って測定する必要がありますが、 FLIR まず、遠い場所から正確に測定したいという望 T1040 のように高画素の場合は、ある一定の距離 遠的な用途が多いです。そこで高画素であること が離れていても正確な温度が測れるようになるわ が第 1 条件となります。たとえば、電力会社では けです。逆に正確に測定するために必要な距離は 送電線の点検などが該当します。山の中に設置さ 算出できますので、何メートル以内であれば正確 れた送電線の鉄塔に登らずに、地上からメンテナ に測れるだとか、望遠レンズを付ければ測れると ンスをするためには、今までの望遠レンズでは少 いった判断ができます。 し画素数が足りませんでした。より確実に何百 メートル離れた場所から電線の碍子の異常発熱が ないかを見るとなると、FLIR T1040 が活躍する 搭載機能について のだろうと思います。 特徴的な機能の 1 つに、全モデルに搭載されて もう 1 つは、建築関係で外壁の診断用途になり いる「MSX(スーパーファインコントラスト」が ます。外壁のタイルが経年劣化とともに剥がれ落 あります。通常の熱画像では対象物の詳細は判別 ちて通行人に当たってしまうといった事故を防ぐ しにくいのですが、MSXを使うとデジタル画像か ために、赤外線で診断します。ビルの高層化や都 ら抽出した輪郭のみを熱画像に表示して、対象物 市圏では街路樹や隣接する建物との距離が近すぎ を認識しやすくします。そこで、文字情報や顔な るなど、外壁測定の際に角度を十分に保てなかっ ど形状を把握することができます。MSXはデジタ たりすることもあり、遠く離れたところから測定 ルカメラでエンボス処理を行っています。それを したいというニーズがあります。そこで、高画素 リアルタイムで熱画像の上に載せています(図4)。 の赤外線カメラでないと測定できないということ MSX 機能は当初高画素の機種にしか搭載され になります。 ていませんでしたが、現在では全モデルに搭載さ 30 ︱December 2015 eizojoho industrial フリアーシステムズジャパン株式会社 図 4 MSX 機能による画像 図 5 ウルトラ MAX 機能による画像 れ、フリアーの赤外線カメラ技術の代名詞となる 機能の 1 つとなっています。そもそもフリアー製 品の認知度が上がった要因の1つに、 このMSX機能 が全モデルに搭載された影響は大きいと思います。 もう 1 つの特徴は、 「ウルトラ MAX」という機 能です。複数枚の熱画像を統合し、1,024 の素の 画素数を測定技術によって 2 倍の 2,048 にソフト 上で解像度をアップさせるというものです (図5) 。 以上のように、T1040 にはMSXとウルトラMAX という 2 つの機能により赤外線カメラの性能を アップさせる技術が搭載されています。 デザインへのこだわり 図 6 手にすっぽり収まり、長時間の検査でも 快適なデザイン 屋外での計測に使われるケースが多いので、朝 要視されており、フリアー製品は昔から人に優し から夕方まで 1 日中使うと身体にも負担がかかり い設計にもこだわっています。 ます。そこで、工業デザインのバランスによって は疲れ方がまったく違ってきます。FLIR T1040 は、同じ重量でも身体に負担がかかりにくい重量 「2-5-10 保証」について バランスを考慮して設計されています (図6) 。 フリアーでは「2-5-10 保証」という特徴的なメ 赤外線カメラはとかく機能重視の傾向が強く、 ンテナンス制度を設けています。FLIR T1040 で デ ザ イ ン は 二 の 次 に な り が ち で し た。FLIR は、通常 1 年保証のカメラで 2 年、バッテリが 5 T1040 はスウェーデンで開発されているのですが、 年、そして赤外線センサは 10 年という長期保証に ヨーロッパの技術者がデザインをしていることも なります。品質に自信がありますので、10 年後に あり、ハード部分だけでなく見た目もそうですし、 赤外線センサが壊れてしまっても無償修理に対応 工業製品ですので疲れにくく安全であることも重 しています。 eizojoho industrial December 2015︱31 巻 頭 イ ン タ ビ ュ ー 50年の経験が生んだ最高性能の赤外線サーモグラフィカメラ「FLIR T1040」 ガラスの向こう側を測定できないというのがあり ます。赤外線カメラでガラス越しに外を撮影して も、ガラスの表面しか見えません。水中も同様に 水の温度を測定してしまうので、水中にいる対象 物の測定はできません。こういった特性は初めて 使われる方には意外と認知されていないもので す。なぜ高画素の赤外線カメラが有効なのか、も しくはそれほど高額な機種でなくても大丈夫です よといったニーズに応じたご提案をさせていただ くためにも、セミナーの意義は大きいと考えてい ます。 センサは赤外線カメラのいわゆる“肝”になり セミナーなどの活動を通じて、当社の幅広い製 ます。車で例えればエンジンのような存在です。 品ラインナップの違いとユーザニーズにズレが生 そこで、センサが壊れてしまうと、通常修理コス じないように努めています。おかげ様で月に 1 回 トも非常に高くなります。100 万円の赤外線カメ 開催している無料のセミナーは毎回満員御礼とい ラだと、50〜60 万円をセンサに費やしているよう う状況です。 なイメージです。そこで、センサまでカバーする 10 年前は会社に 1 台という感じの赤外線カメラ というはフリアーならではの保証といえます。セ でしたが、低価格化により今では 1 人 1 台持てる ンサを自社で開発していますので、そこまで対応 時代となり、赤外線カメラに対する認識も深まり できるというのが強みです。 つつあり、ニーズにあった機種選びへの意識も高 また日本にもサービスセンターを置いているの まったからこそ、FLIR T1040 のような最高峰の で、国内ユーザ様のニーズにもしっかりと応えら 赤外線カメラ開発につながったと思います。 れる体制を整えています。 今後の展開 赤外線カメラへの認識を高める取り組み さらなる小型化ですね。現状では 1,000 画素を 赤外線カメラの技術的な認識はまだまだ高いと 超えると、重量も 1 キロを超えてしまいますので、 は言えません。赤外線カメラがプロ向きの装置と 1,000 画素レベルで 1 キロ以内の重量でさらなる いう認識がまだ強いからだと思います。しかしな 小型化を実現したいと思います。 がら、低価格化により一般的に使われる機会が増 赤外線カメラはまだまだ検査用途での導入が多 えてきました。それに伴って、赤外線カメラへの いですが、ここ 3 、4 年でセキュリティ用途も増加 認識を高めていただくことで、適正な機種選定も 傾向にあります。テロ対策や津波の監視で電力会 できるかと思います。そこで、当社では定期的な 社に納入したケースもあります。低価格化によっ セミナーも開催しています。上位機種ではなぜ て、産業用途にとどまらずありとあらゆる用途で 100m 離れた対象物の温度を正確に測定できて、 赤外線カメラが使われる場面は増えてくると思い エントリーモデルでは 10m 以上離れると正確な測 ます。温度を気にしない生活はありえないと思い 定が難しくなるのかなど、カタログだけでは伝え ますので、温度をコントロールすることが生活を きれない赤外線カメラに関するメカニズムをお伝 豊かにするでしょうし、温度を測定する機器は今 えする機会を設けています。 後も必要とされると思います。 一例を挙げると、赤外線カメラの特性の 1 つに 32 ︱December 2015 eizojoho industrial
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