論 文 西九州大学子ども学部紀要 第1号11−19(2010) 音の特徴を捉えるための音楽活動 一昔の傾聴と視覚のイメージー 櫻井琴音・二宮貴之 (西九州大学子ども学部子ども学科) (平成22年1月14日受理) DisdnguishingtlleIIa鵬CulaT Soun由比roughMusi⊂alAdv氾es −DistinguishingSounds andViSualiヱingSounds− Kotone SAKURAI,Takayukl NINOMIYA (βqp丘〟me〝 0′(乃血ケ即盲動deち凡Cめ′∂′αノ肋;ぶ〟d餌JWd伽血抽ル甜幼′) (AcceptedJanuary14,2010) AbstTaCt Students worked on actlVltleS that enhanCed thelr ablllty tO dlStlnguish partlCular sounds,The students were hstruCtedtollStendeeplytospec1月cmusICallnStrumentS(tambourlne,CaStanetS,trlnglre,andcymbalS)andthe l・anOuS SOunds surroundlmg eaCh ofthem and then asked to draw anlmage deplCt.ng the sounds they heard 二1凡eⅣards a questlOnnalre about the student’slmPreSSlOnS andlnSlghts was conducted・ ThlS thesIS haslnVeStlgated thelmpllCatlOnS for musIC educat10n OfthlS aCtlVlty by examlnlng the plCtureS end the questlOnnalreS The followlng Were Observed l)BylntenSelyllStenlng tO eaCh50und,the dlStlnCtlVe features ofthat sound could be dlStlngulShed・ 2)The ablllty WhlChlS neCeSSaryln muSIC educatlOn Ofseparatlng the dlStlnCtlVe features ofthe sound from the overlapplng SOunds was observed and can be tralned, 3)Throughthe process ofdlSCrlmlnatlng dl熊汀enCeSWlthlna SOund,the ablllty tO dlfrerentlate SmallvarlatlOnS ll SOund can be tralned. i)By notlClng the d騰rences between hearlng andllStenlng,thelmpOrtant CharacterlStlCS OfllStenlng Were accentuated. 5)Throughthe process ofnotJUSt hearmgthe sound,butllStenlngtOthe colorandtexture ofthe soundand demonstratlng that perceptlOnln a drawlng traWlned the student to experlenCe the multifhrlOuS aSpeCt Of sound. 6)The drawlng reVealed thelndlVldual’slmPreSSlOn Ofthe sound and the dlfrerencesln thatlmage and how thelndlVldualcaptured the sound can be more easILy compared wlth others by examlnlng the dlm】renCeSln the drawlngS Key words DIStlnggulShlng SOunde 音の傾聴 VISuallZlng SOunds 音のイメージ DrawlnglmPreSS10nS Ofsounds 図形描写 −11− らない。 1 緒 言 平成21年4月、本学に子ども学部が新設され62名 の新入生を迎えた。今年度の入学者が第一期生なの 櫻井は先行研究において、楽器の昔を傾聴し個々 の音の特徴を図形化して捉えさせることを通して、 このような活動の教育的成果と有用性について検討 で、4月当初、我々の手元には新入生の音楽習得に した。その結果、音楽経験や演奏技術面での不安を 関するデータだけでなく、本学子ども学部としての 抱いている学生たちにとっても、千変万化していく 過去の音楽関連科目の履修データも持ち合わせては いなかった。そこで筆者らは、今後の音楽の授業で 音の特徴を聴き取らせるための方法として有用であ 個々の学生への教育的配慮を行ううえでの基礎デー タとして活用する目的で、学生全員に対し本学入学 そこで今臥筆者らは楽器の昔だけでなく日頃聞 き流してしまいやすい身の周りの音も教材として活 前の音楽経毒針こ関するアンケート調査を実施した。 用し、昔のイメージを図形化させることによって個々 調査内容は大別すると3項目からなり、①ピアノ やエレクトーン等の鍵盤楽器のレッスン程験につい の昔の特徴を捉えさせる活動に取り組ませた。本稿 て、②レノスンの進度状況、③吹奏楽や合唱等の音 音楽活動に期待できる数青的効果について重点的に 楽関係のクラブ活動経験に関するものであった。集 計した結果、今年度入学者のうちレッスン経験者は 33名で入学者全体の53.2%を占めていたが、その内 検討したい。 ることが分かった61。 ではこの実践内容と結果を報告するとともに、この 2.方 法 の21名はバイエル程度、もしくはバイエル未終了程 度の初心者であった。また、音楽関係のクラブ活動 経験者は17名(27.4%)であった。保育士、幼稚園 1)対象 本学、子ども学部子ども学科の平成21年度1年次 教諭、小学校教諭を養成する大学にピアノ未経験者 や初心者の学生が多数入学してくるというのは、決 生62名中55名。(男子学生25名、女子学生30名) して本学に限ったことではない1)。 2)場所 このような現状を背景に、養成校の音楽担当教員 による先行研究には、初心者の学生対象のピアノレッ スンに関するものや声楽等の演奏技術習得を目指し て取り組まれた様々な教育実践とその成果に関する 本学の音楽室、及び校庭 3)時期 平成21年7月8El、櫻井が担当している「音楽」 ものが多数見られる2 ̄5)。一方、耳を傾けて楽器や の授業中に実施した。 身の周りの音を聴き取り、音と向き合い、音の特徴 を捉える体験ができるような音楽活動に関する教育 4)活動内容 実践報告は少ない6)。そのため、養成校の学生たち が、音楽経験や演奏技術に左右されずに昔を聴き取 ることができるような音楽的な耳を育てるための教 育実践方法に関しては、まだ充分に検討されている 下記の3つの活動を行った。 ①楽器の音を傾聴し、音の特徴を描く 全員にA3の自用紙1枚、黒の油性マジックペン マーセルは著書の中で、「音楽的成長とは、音楽 (ペン先が細いものと太いもの)を配布し、昔のイ メージを図形で描かせた。各楽器の音のイメージを という芸術の本質と表現の両面によりよく反応でき 表現した図形の大きさと配置については、各学生の るようになることであり、それがまた私たちが音楽 自由に任せることとした。 的になる過程である。・・・人は単なる技術の習得によっ て音楽的になるのではなく、音楽とリズムによるデ カスタネット(全音)、トライアングル(ヤマハ、 とは言い難い。 ザインとしての音楽を知覚し、創造し、思考し、か つ音楽の実体に感情的に反応し得る力の発達によっ て音楽的になるのである」と述べている7)。つまり、 音楽の全ての活動というのは、学習者が音楽的に成 長していくことができるよう導くものでなければな 一12− 使用した楽器はタン′りン(ヤマヘTMB−221)、 TRG−602)、シンバル(ZlldJlanHandCymba120’’) で、各楽器は2回ずつ鳴らし、余韻が長い楽器につ いては完全に余韻が消えるまで傾聴し続けたうえで 図形を措くよう指示した。また、各楽器を鳴らす際 には音の間隔を充分に確保し、全貞が措き終えたこ とを確認したうえで次の書を掟示していった。 3身の周りの音を傾聴し、昔の特徴を措く 楽器での活動同様、A3の自用紙に巽のマジック で描かせた。聴き取る音の音源の条件を揃えるため :こ、キャンパス内の校庭での立ち位置を限定し、全 員同じ方角(北)を向いて昔を聴かせた。昔の聴取 瑠璃 カス妨タト Y 名 4 て 一ンー へ lJ 詩間は約30分間で、よく耳を澄まして聴こえてきた 全ての昔のイメージ図をその場で措くよう指示した。 全員が図形を措き終えたことを確認した後、音楽室 図3 楽器の音のイメージ図(学生の作品③) に戻った。 (Dタンバリン 3アンケート調査の実施 上記の①と(丑の活動終了後にアンケート調査を実 昔の振動を表現したような図形、小さな星やヒイ ラギの葉のような形、放射線状に描かれた細い線な 毒した。約20分間の記述時間を与え、授業終了時に どが措かれていた。 月収した。(回収率100%) ⑦カスタネット 三角や菱形等の小さくて角のある図形や丸の集合 体が多くみられ、パンと勢いよく弾けるような図形 3.実践結果 も描かれていた。 1)楽器の昔のイメージ図 ③トライアングル 細長く伸びた曲線、らせん状に勢いよく渦を巻い 学生が措いた作品の中から、紙面の都合により3 たような曲線、波紋のように広がっている細い曲線 名の学生の作品を紹介する。(図1∼3参照) などが措かれていた。 養鶏師か ④シンハルの音 角ぼった同じ形が幾重にも重なりあった図形、ヒ トデのような形、入り組んだ角のある図形などが措 かれていた。いずれも肉太の線が目立った。かすれ た線も多く見られたことから、勢いよく措かれた図 0 璧禦錐 m小舟 形であることが窺えた。 2)身の周りの音のイメージ図 学生が描いた作品の中から、紙面の都合により3 名の学生の作品を紹介する。(図4∼6参照) 園1 楽器の音のイメージ園(学生の作品(D) ㍉∴く三n 昂を 曙 <桝 60や 確聞雫・・・ 醍若君♂ 図4 身の周りの昔のイメージ図(学生の作品①) 圃2 楽器の音のイメージ圃(学生の作品(診) 13− 離醜さ′ 夢衰準′ 3333221 ブレーキの育 電卓の音 自転車の音原動機付二輪車の音 車同士がすれ違う青 信号が変わり牢が動き出す音 順調に車が走っている昔 遠くの車の音 宙が砂利を通る音 濡れた地面を走る庫の音 乗用車の音 軽自動車の音 普通顔の排気音 大型車の排気音 飛行機の音 バイクのギアチェンジの香 左から右に走る卓の音 車が水溜りに入る音 車のエンジンの背 車が走りカタガタする音 中の排気ガスの音 トラックの膏 バイクの音 車が通る曹 図5 身の周りの音のイメージ図(学生の作品②) 図7 乗り物の音 りながら図形を描いていた。「乗り物の音」の図形 は、全採取音の図形の346%を占めた。 野 せJl ②人の声 図6 身の周りの音のイメージ図(学生の作品③) 3)身の周りの昔の採取結果 調査を行った校庭にはどのような音が存在してい たのか、身の周りの音を傾聴することによって学生 たちがどのような種類の昔を身の周りの昔として認 女子の声 女子達の話し声 男子達の話し声 男子の笑い声 ﹁はぁ悍﹂ の声 男子の声 人の叫び声 友達の笑い声 友達との諸声 女子達の叫び声 人の声 人の笑い声 71種類の音を228種類の図形で表現していた。これ 女子の叫び声 プルとして残す目的で全採取昔の分類を行った。学 生が採取し図形化した音を全て抜き出したところ、 話し声 識し採取することができるのか、ということをサン らを整理した結果、図7、12に示すような6つのカ 図8 人の声 テゴリーに分類することができた。 以下、カテゴリー別に集計した結果を報告する。 なお、各々のグラフ内の数値は、採取した昔の種類 「人の声」としては14種類を聴き分けており、こ こでは36種類の図形が得られた。「人の声」の図形 別の学生数を示している。 は、全採取昔の図形の158%を占めた。 (∋乗り物の昔 学生は24種類の「乗り物の音」を採取しており、 79種類の図形が得られた。「乗り物の昔」としては 車の走行音を採取した学生が最も多く、図形には大 型車と小型車の走行音の違いを捉えたもの、車のエ ンジンの音、左から右へ進路を変更して走行する車 の昔、濡れた地面を走行する車の書などが描かれて おり、時間の経過とともに変化していく音を聴き取 −14− ③足から出る音 歩く時に発生する昔を「足から出る音」として集 計した。これに関しては9種類の音を捉えており、 29種類の図形が得られた。「足から出る音」の図形 は、全採取音の図形の127%を占めた。 3⊥ 11 1■⋮ 1 一 11 31膚 13 / 紙に書く音 ビデオカメラの昔 水の中に物が落ちた音 傘を開く音 マジックで書く音 荷台車の書 人が走る音 足音︵砂場︶ 渡り廊下を歩く音︵ぺタンペタン︶ スリッパの昔 砂利の苦 砂の上を歩いた音 ヒールの音 靴音 人の足音 図11人が動く際に発する音 ⑥その他 看板が票える音 ポールがきしむ音 ざわざわした普 湿った土の音 21 心臓の膏 王自然界の音 急に静かになった時の菅 図9 足から出る音 室外機の青 石がぶつかる普 /止血山 図12 その他の音 スズメの声 カチガラスの声 風に揺れる木の書 留の苦 葉っぱの青 虫の囁き声 蝉の鳴き声 鳥の囁き声 風の音 虫が飛ぶ音 l」▲___⊥ 上記①∼⑤までの5つのカテゴリーのいずれにも 属さない昔を「その他」として集計した。8種類の昔 に対して11種類の図形が得られた。「その他の昔」 の図形は、全採取音の図形の4.8%を占めた。 4)アンケート調査結果 図10 自然界の音 昔の傾聴、昔のイメージ図を措くという活動の撮 人体や物を通して発せられる昔ではなく、風や木 つ葉などの自然界のものが生み出した音を「自然界 つ昔」として集計した。その結果、10種類の書に対 して63種類の図形が得られた。「自然界の音」の図 形は、全採取音の図形の27.6%を占めた。風の音を 挙げるものが最も多かったが、虫が飛ぶ昔や葉っぱ の昔のように小さな音を採取した者もいた。 り返りをさせる目的で、9項目に関するアンケート 調査を実施した。9項目中、Ql.、Q4.は自由 記述とした。ここでは、これら4項目の集計結果と して、複数の学生から同一内容の記述が得られた記 述を引用する。なお、各文末の()内の数字は、 同一内容の記述をしていた学生の人数を示すもので ある。 3人が動く際に発する昔 6種類の昔を「人が動く際に発する音」として集 Ql 楽器の昔を傾聴する体験を通して、あなたが 計した。これに属する昔からは10種類の図形が得ら れ、全採取音の図形の4.4%を占めていた。 この設問への回答を内容別に分類したところ、最 思ったこと、気づいたことは? も多かったのは音を傾聴することについての気づき ゃ感想で、32名(58.2%)の学生の記述の中に見ら −15− ・表現しやすい音もあったが、表現しにくい昔もあっ れた。次いで多かったのは、音の余韻に関する記述 で、これは25名(45.5%)の記述に見られた。 た。(6) ・イメージがたくさん浮かびすぎて、どう措けばい 以下、学生の記述を引用する。 ・いつもはこんなに耳を澄まして音を聴いてはいな いのか戸惑った。(3) ・違う音なのに似たような図形になってしまった。 かった。(H) ・楽器によって音の長さや音色が違うということを (3) ・思い浮かんだ図形をそのまま描ききることはでき 再認識することができた。それぞれの楽器にはそ の楽器でしか出せない昔がある。(7) ・今まで聞いたことがある楽器の音も、改めて耳を ・イメージを自由に描くことができるので、とても 傾けて聴くと全然違った昔のように聞こえた。(5) ・余韻は思っていた以上に長く鳴り続けているのだ 楽しかった。(2) ・カスタネットのように短い音の図形を描くのが難 ということに気付いた。(5) ・じっくり聴くことによって音の特徴を感じ取るこ ・楽器によって様々な図形が描けるということに驚 なかった。(3) しかった。(2) とができた。(3) いた。(2) ・昔が消えるまで楽器の音を聴き続けたことはなかっ ・友だちの図形を見ると、図形に共通した点が見ら た。(3) れるということに驚いた。(2) ・じっくり聴くと、同じ楽器でも一瞬の間に微妙に 03 耳を澄まして身の周りの音を聴きながらあな 音が変化していくのが分かった。(2) ・余韻が長い楽器と余韻がなくすぐに消えてしまう たが思ったこと、気づいたことはり 楽器の音があることに気づいた。(2) ・楽器の音を最後まで聴き続けていると、音が振動 身の周りの音が途切れることなく聞こえてくるこ とへの驚き、昔の種類の豊富さ、日常生活の中で気 づかずにいた音の存在に関する記述がみられた。 しているということを感じた。(2) ■楽器の音はよく響くと思った。(2) 以下、学生の記述を引用する。 ・自分の身近には、たくさんの音が溢れているとい Q2 楽器の音のイメージを図形で描いてみて、あ うことに気付いた。(15) ・トラック、乗用車、加速する音、減速する書など、 なたが思ったこと、気づいたことは? 29名(52.7%)が図形を措くことを「楽しかった」 車の昔にも色々あって面白かった。(7) ・普段は気づかないような小さな昔を聴き取ること 「面白かった」と答えていたのに対し、31名 (564%)の学生は「難しかった」と答えていた。 ができた。(6) 「難しかった」理由としては、①音を図形で表すと いうのは初めての体験だったので戸惑った、②一瞬 ・身の周りの音は、普段、あまり気にしていなかっ で消える昔のイメージは頭の中に留めておくのが難 ・改めて、色々な音があると思った。(4) しかった、③余韻が長いと楽器のイメージも変化し ・普段から聞こえていた音ばかりなのに、とても新 ていったのに、その様子をうまく描ききれなかった、 鮮に感じた。(4) ・天気や時間帯によっては、違った音が聞こえてく た。(6) ④一つの楽器から複数の図形が浮かんだので、上手 くまとめきれなかった、等の記述が付記されていた。 るだろうと思った。(4) ・大きな音と小さな音が混在していることに気付い 以下、学生の記述を引用する。 ・友だちが描いた図形を見比べてみると、音の特徴 た。(3) ・1秒たりとも昔がなくなる瞬間はないということ をどのように捉えたのかが伝わってきて面白かっ に気づいた。(2) ・今度は別の場所でもやってみたい。(2) た。(11) ・やったことがなかったので、図形でうまく表現す るのは鞋しかった。(9) ・やったことがない活動だったので最初は無理だと Q4 身の周りの音を図形で表現することを通して、 思ったが、すぐに図形が浮かび上がり何の苦もな あなたが思ったこと、気づいたことは? く措けた。(7) 15名(27.3%)の学生が「描くことができた」と 16− Q6 楽器には、特徴的な音が存在することを認識 答えていたが、48名(87.3%)が「難しかった」と することができましたか? 回答した。「難しかった」理由は、ただ単に措くこ とができなかったということを意味しているのでは なく、「走行中の自転車の音は聞こえないのに、つ いつい目で見た物の音を措きそうになった」「難し とてもできた 24% かったが、図形を描いたことで一つひとつの音の特 ・とてもできた ・ややできた 教を捉えることができた」「色々な昔が混ざり合っ て聴こえてくるので、表現するのが難しかった」 芯あまりできなかった ・全くできなかった 二普段聴けない昔もあり、表現に戸惑った」といっ た記述がみられた。 以下、学生の記述を引用する。 ・楽器よりも外の音の方が混ざり合って聞こえるの 図14 楽器の特徴的な音の存在への気付き で措きにくいと思った。(13) ・外の昔を図形で表現するのは、以外に簡単だった。 昔を傾聴する行為によって楽器の昔に隠されてい る特徴的な音の余韻や倍音等に気づくことができる (4) ・子どもたちにやらせると、もっと色々な図形が生 のかどうかを意識してこの設問をもうけた。「とて まれてくるかもしれないと思った。(3) ・身の周りの昔を図形で表現していると、ついつい もできた」と答えた学生が13名(23.6%)、「ややで 目で見た物を措きそうになった。(3) ・聞こえてきた音をすぐに固形化するのは難しい。 生が楽器の特徴的な音の存在に気付いたと答えてい きた」が41名(745%)という結果で、981%の学 た。 (3) ・友達の図形を見ると、どれもすごく独創的で個性 あふれる表現だったと思った。(2) ・もっと表現力や想像力が必要だと思った。(2) ・聴くと同時 可隠きながら 05 楽器の音を傾聴する際に色彩を感じましたかつ り隠いて1分以内 り隠いて1分以上 楽器の昔に対して色彩を感じるかどうかというの :王、主に幼児期にあるとされる色聴に関する設問で ある。今回のアンケートでは、「とても感じる」が 9名(16.4%)、「やや感じる」が25名(455%)と 図15 音のイメージが湧くまでの時間 なっており、全体的に見ると619%の学生が音を傾 姜する行為を通して「色彩を感じる」と答えていた。 Q7 音を傾聴しその昔のイメージが湧くまでに、 どのくらいの時間がかかったと思いますか? 「聴きながら」と答えた学生が32名(58.2%) 全く感じない と圧倒的に多く、次いで「聴いて1分以内」と答え 6% とても感じる た学生が14名(25.5%)という結果であった。 ・とても感じる らやや感じる ぐあまり感じない 08 音を傾聴する行為を日常的に行い耳を鍛える ことで、幼児等の声色の変化に気づきやすくな 卜全く感じない ると思いますかつ 昔を細部にわたって聴き取る傾聴という行為は、 音楽活動中に音色の微細な違いや音質の変化を捉え ることのできるような耳を育成するうえで欠かすが 園13 楽器の音を傾聴する際、色彩を感じるか できないという理由から、今回のアンケートにこの 17− 音の高さや広がり方が違っているということが分かっ あまり思わ ない た」という記述があり、傾聴するという取り組みは 0% とても思う 6% 音の特徴に対する新たな気づきを得るための活動と ・とても思う して有用であるということが示唆された。 應少し思う 少し思う つあまり思わない 38% ・全く思わない 今臥 身の周りの音として学生たちは、図7∼図 12に示したように71種類の音を採取していた。これ らの音に対して彼らは、「普段は雑音だとしか思っ ていなかった。意識して聴いてみたら幾つもの音が 図16 音色への気付き 混ざり合っていた」「身の周りにはたくさんの昔が 溢れていて、音の中で生活していると言える」「身 項目を設けた。「とても思う」と答えた学生が31名 の周りの昔は、一秒たりとも途絶えることはなかっ (56.4%)という結果であった。 た」等という気づきを述べていた。学生たちの指摘 にもある通り、我々の生活空間には様々な音が混在 Qg 音を傾聴し固形化する行為は、表現力や想像 しており、聞こえてくる昔も刻一刻と変化し続けて いる。このような状況下に身を置き、あらゆる方角 力を養う効果があると思いますか? から同時に聞こえてくる種々の昔に耳を傾け、これ らの昔の中から個々の昔を識別し、その特徴を捉え ・とても感じる ていくという今回の取り組みは、昔に対してかなり 打少し感じる 意識を集中させなければ聴き取れるものではない。 ⊥あまり感じない 「耳を澄ますということは、日頃、ほとんどしてい ・全く感じない ない」「耳を澄ますことによって、昔のイメージや 特徴を感じ取ることができたと思う」「いつもは聴 くことのできない音がたくさん聞こえてきた。こん 図17 表現力や想像力を養う効果 な音もあったのかと気づくことができた」「葉っぱ が揺れる音のように、普段は聞こえない昔を聴くこ 音のイメージを措き、それを生かしながら表現へ と繋いでいくには、音を注意深く聴き取ることが不 とができた」「音が消えるまで聞いてみると、昔が 変化していく過程がとてもよく分かった」という学 可欠である。音を傾聴するという行為は、音楽の根 源とも言うべき活動であることから、この調査項目 を設けた。「とても感じる」と答えた学生は32名 生の記述からは、彼らにとって聞こえているという (582%)を占めていた。「少し感じる」と答えた学 現力や想像力を養ううえで音を傾聴することの効果 昔の強さ、高さ、長さ、音色等を識別できるよう な音楽的な聴取力を育成するためには、耳を澄まし て音の微細な変化を捉えてみるという体験は欠かせ を感じると答えていた。 ない。たとえばSllver Burdett MusIC KのTeacher’s 生22名(400%)を含めると、98.2%の学生が表 ことと音を聴き取っているということとは、必ずし も直結してはいないということが読み取れる。 EdltlOnでは、音楽の諸要素を高低、長短、ハーモニー、 音色等の11に分類し、幼稚園で行われる音楽活動を 4 考 察 通してチビもたちに「音楽の何を教えるのか」とい 今回使用した楽器は、いずれも保育現場の音楽活 う点に日を向けた指導について記されている9)。た 動で使用されている楽器群の中から選択したので、 とえば、鑑賞に関する活動を取り上げた箇所では、 学生にとってこれらの楽器の音は決して新寄性のあ 昔の長短、男声か女声か子どもの声か、昔が上行し る音というわけではない。アンケートには「聞いた ているのか下行しているのか等を幼児たちに聴き分 ことがあった昔も、改めて聞くと全然違う音のよう けさせ、クレヨンでシートに印をつけるような活動 に聞こえてくる」「よく耳を傾けて聞いてみると、 頭の中で思い描いていた昔と全然違うということに も組み込まれている。昔を聴き取り、聴き分け、音 の変化を感じ取れるようにするには、幼少期から様々 気付いた」「改めて集中して聴くと、楽器によって な音楽的体験を通して学習していくことが肝要であ −18− る。 音はあらゆる場所に存在している。音楽活動場面 「他者との音のイメージの違い、音の捉え方の違 い」を知る機会を得ることができる。 だけに限定して聴くのではなく、今回のように日常 生活空間に存在する身の周りの身近な昔を活用して 6.参考文献 書の聴取を行うこともできる。日頃から学生が音を 身近な存在として認識し、昔に対して折に触れて注 意を向ける時間を持つことは、昔を感受できる力を 身につける上で重要な活動であると考える。 丸山も日本の音楽教育の問題点の一つとして、 1琵成曲を合唱する、合奏するといった追体験にほ とんどの時間が使われ、創造性の育成には程遠い現 藻にある」と指摘している10)。より音楽的に豊かな 1)小池美知子:保育者養成における想像的音楽活 動の一考察一授業実践を通して−、全国大学者 楽教育学会研究紀要、第11号、2000. 2)中島龍一:ピアノ初学者における弾き歌い曲メ ロディー指使いへの一考察一学生への調査報告 とともに−、全国大学音楽教育学会研究紀要、 第20号、2009 演奏を目指すには、演奏技術の向上を図ることも不 3)奥田昌代:ピアノ伴奏技能向上を目指す指導の 可欠だが、音楽的な演奏は聴き取る力が不充分であっ ては成り立たない。音楽活動が、「聴く活動」だと 試み一伴奏付け指導の効果についての量的分析−、 言われる所以である。 今後も学生の演奏技術の習得度に左右されずに教 育成果が得られるような教育方法の工夫を行うこと こよって、昔を聴き取る、聴き分けるといった学生 全国大学音楽教育学会研究紀要、第20号、2009. 4)日吉武:歌唱教育における発声指導の一試案− ひびきのある声づくり−、全国大学音楽教育学 会研究紀要、第17号、2006. 5)梁島章子:「第1節研究の動向1980年代の幼 たちの音楽的聴取力、感受力の育成を図っていきた 児の音楽教育と課題」『音楽教育の展望Ⅲ・下』 ニーと考えている。 (第10章幼児の音楽教育についての研究)日本 音楽教育学会、1991. 梁島は日本保育学会等において1986年から1990 5 まとめ 年までに発表された研究論文中、音楽に視点を 本稿では、学生が描いた図形とアンケートへの記 道内客を分析した。その結果、音を傾聴し、音の特 置いた約120の研究を対象に、研究の動向につ いて詳細な分析を行っている。 敦を図形で描くことによって視覚的に捉えさせると いう取り組みは、学生にとって下記のような教育的 6)高橋一行:音と視覚イメージの関連について、 体験が得られる場をもたらすということが分かった。 7)ジェームス・L・マーセル:音楽的成長のため 〇個々の音を傾聴することによって、「音の特徴に 気付く」ことができる。 3重なり合う音の中から個々の昔を抽出しつつ聴き 取ることによって、音楽活動に必要な「昔を聴き 分ける力」の育成を図ることができる。 全国大学音楽教育学会研究紀要、第12号、2001. の教育、美田節子訳、音楽之友社、1971. 8)模井琴普:昔の視覚イメージを用いた音楽表現 活動の実践、永原学園佐賀短期大学紀要、第38 巻、2008. 9)sllver Burdett MusIC K Teacher’s Edlt)On 診千変万化していく昔の変化を捉え続けることによっ て、「微細な昔の変化を感受する力」の育成を図 ることができる。 丑聞こえているということと、聴き取っているとい SILVER BURDETT COMPANY1985 10)丸山妙子:日本のオルフ音楽教育における言葉 のメロディー化の課題▼日本的感覚蘇生の観点 からの提言一、日本音楽教育学会編「音楽教育 うことの違いに気付くことを通して、「聴くこと 学研究Ⅰ音楽教育の理論研究』、音楽之友社、 の重要性を知る」ことができる。 2000 含昔を耳で捉えるだけでなく色彩や肌で感じ取ると いう体験を通して、「多面的に昔を捉える力」の 11)マリー・シェー77−:サウンド・エデュケー ション、鳥越けい子他訳、春秋社、1996, 12)モア・ザン・ミュージノク:若尾裕、勤葦書房、 育成を図ることができる。 ⑥図形で表現することによって個々の音の特徴を記 憶に留め、他者の図形と比較することによって、 −19− 1990.
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