提 言 書 マイナンバー制度の社会定着に向けた緊急アピール ~積み残してきた社会変革実現のチャンスを活かそう~ 2015年12月22日 情報化推進国民会議 基本認識 マイナンバーの通知が 10 月から始まった。今後、通知カードの配布が一巡すること を受けて、12 月から、企業等が個人からマイナンバーの収集を始めることが見込まれる。 マイナンバー制度は、正確な本人特定ができる重要な社会基盤であり、国民一人ひと りの所得や、様々な社会保障などの行政サービスの受給状況が正確に把握できるように なる。そして、これらの情報に基づき、税金や社会保険料の不払い、年金や生活保護の 不正受給等を防止する一方、本来享受しうる給付が万遍なく受けられるようになり、公 平・公正な社会の実現が期待される。また、本人を正確に特定できることによって、行 政手続きなどに必要な添付書類が減り、照合・照会・転記・入力などの作業効率が大幅 に向上する。このような行政手続きの簡素化は、事務手続きに係る国民・企業等の負担 を大幅に減らす社会改革の一つと言える。 一方、こうした社会改革は、段階的に進んでいくものである。そのため、マイナンバ ー制度の定着に至る過程では、オフラインからオンラインへの手続きの移行等、これま でのビジネスフローの変更や、事業モデルの転換をしていくことも不可避だが、公平・ 公正な社会の実現のためには、是非ともやり遂げなければならない。もしも利害の衝突 が起きれば、これに適切に対処して改革に邁進すべきである。 情報化推進国民会議では 2007 年頃より、国民識別番号制(呼称:JAPAN-ID)の導入 を提唱してきた。マイナンバー制度については様々な反対意見もあるが、公平・公正な 社会を実現するためにも、円滑な運用開始と着実な定着を望む。マイナンバー制度がい よいよ動き始めようとしている今、既に種々の機関が前向きに活用策を提案しているこ とを後押しする意味合いも含め、次の2点を柱として提言を取りまとめた。 ・税・社会保障・災害対策分野でのマイナンバーの利用を着実に定着させること ・公平・公正な社会の実現に向け、マイナンバーの利用範囲を拡大させること 1 提 言 1.マイナンバー制度の正しい理解促進のため、国民に対して納得感のあ る懇切丁寧な広報を継続しよう マイナンバー制度の施行に至るまで、行政や企業、組織等によってこの制度について の様々な認知度調査が実施されていた。マイナンバーという言葉は徐々に浸透しつつあ るだろうが、制度の中身については誤解も多く、多くの国民が納得感のある理解をして いるわけではない。今年の6月に、日本商工会議所が実施したアンケート調査によれば、 都市部の企業では約 30%が準備を進めているが、情報が充分に行きわたっていない地方 では、この割合もわずかにとどまっているというような状況であった1。自治体では、 10 月から通知カードの発送や、窓口での個人番号付住民票の交付が始まったが、事務処 理上のミスが尐なくない。不慣れも相俟って脆弱な運用体制がマイナンバー制度自体に 対する信頼を損ねてしまうことに懸念を感じざるをえない。今後、通知カードの配布が 一巡することを受けて、12 月から、企業等が個人からマイナンバーの収集を始めること が見込まれる。この時期を捉えてマイナンバー制度に関する安全管理体制構築の支援や 情報提供の活動を強化し、来年1月からの、円滑な運用が開始できるよう万全の体制を 整えるべきである。 また、メディア等においては、①マイナンバーによって個人情報の漏えいリスクが 増大する、②個人情報が全て一元的に統合されてしまう、などといった誤まった理解 の流布が散見される。この種の情報に触れた国民や企業等は不安感を払拭できず、個 人が通知カードの受取を拒否したり、企業が安全管理体制の構築に遅れをきたすこと も想定される。このような事態が起こらないように、次のような対策が講じられてい る制度であることをきちんと伝え、さらなる理解を促すべきである。 ・マイナンバーを取り扱う行政機関・自治体・企業には、法律上、安全管理措置 が義務付けられていて、漏洩防止や漏洩発生時の対応策が厳しく管理されるなど、 リスクを最小化する制度設計になっている。 ・マイナンバーの漏洩がありうることを想定して熟慮し、設計された制度であり、 万が一、漏洩した場合でも、マイナンバーだけでは、社会保障費の不正な受給申 請等ができない仕組みになっている。また、国や自治体では、様々な個人情報が 分散されたデータベースに保管されており、各情報を芋蔓式に手繰り寄せて収集 することができない仕組みになっている。 誤った理解を是正し、正しい理解を広めるためには、幅広い国民各層に向けた情報 提供が不可欠である。政府や自治体などの広報活動をきちんとやっていくことは勿論 のこと、WEBサイト、SNS等を介した口コミ的な情報発信媒体を積極的に活用す べきである。更に、認定個人情報保護団体等の民間事業者と連携した継続的・全国的 な啓発活動や、企業等が公的個人認証を活用することを推奨したり、企業等のマイナ ンバー実務担当者向けに関連資格の取得を奨励したりするなどの施策も有効と考える。 1 JIPDEC・日本商工会議所共催「企業におけるマイナンバー制度実務対応セミナー」 参加申込者ア ンケート結果 http://www.jipdec.or.jp/topics/news/20150602.html 2 2011 年 7 月、政府はテレビの地上デジタル放送への完全移行に向けて、2009 年 4 月にキャラクター「地デジカ」を発表し、地上波、BS、衛星放送など全てのチャンネ ルにおいて、これを活用したCMを放送し、啓発活動を行った。また、2010 年 4 月か らは、地デジカを関連製品の販促活動に活用したり、キャラクター自体が商品化され た。そして、その収益は、地デジ対応が遅れていた病院・福祉施設等に地デジ対応テ レビを寄付するための財源にも充てられ、ほとんど混乱もなく移行することができた のである。そこで先例に習い、既存の社会基盤を改変していく過程においては、国民 の誤解も否めないので、マイナンバー制度についても「マイナちゃん」を使うなどし て積極的な啓発活動を行い、国民全体の納得感が得られるまで、懇切丁寧な広報を継 続していくべきと考える。 2.行政分野におけるマイナンバーの利用領域をさらに拡大し、社会改革 を一気に進めよう マイナンバー制度は、税・社会保障・災害対策の3領域での運用が始まる。具体的に は、 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」 (平成 25 年 5 月 31 日法律第 27 号)の別表第一(第九条関係)に示された業務が、マイナン バーの利用範囲であるが、税と社会保障の分野で、企業が膨大な数と種類の書類を行政 機関や自治体等に代わって作成し、提出している現状においては、企業の協力が欠かせ ない。マイナンバー制度の導入によって、これまで企業が行政機関や自治体等に代わっ て行ってきた書類作成等の業務が軽減され、行政機関や自治体等の業務も効率化される ので、社会的コストの削減という観点から望ましいことである。 他方、マイナンバー制度が導入された後も、例えば、児童手当の新規認定を受けるた めに課税証明を提出しなければならない。また、家族を亡くした場合に、年金の受給停 止届や介護保険の資格喪失届等の提出は、依然として紙で行わなければならない。マイ ナンバー制度の運用が開始しても、まだまだ紙による手続きが多く残されており、これ を契機に改革が前進していくことを期待したい。 行政分野の改革で重要なことは、従来の紙による手続きを電子的な手続きに抜本的に 変えていくことである。例えば、マイナンバーによって正確な所得情報が把握できるよ うになれば、デンマークやエストニアなどで運用されているように税の記入済み申告が 可能になり、企業による年末調整事務に替えて、各個人がネット上で税務署に直接確定 申告をできるようになる。企業は、これによって年末調整事務のコストを削減できるし、 従業員も申告書の未記入部分を補筆するだけですむようになる。また、従業員が家族の プライバシー情報を会社に提供する必要もなくなる。更には、税務署も膨大な紙に埋も れる作業とその保管の煩わしさから解放される。全体として、社会的コストが削減され、 効率化により生まれた「余力」は、いわゆる情報弱者等を手厚く支援するためのサービ スに投入できると考える。 以上のようなことから、行政分野におけるマイナンバーの利用領域をさらに拡大し、 これまでできなかった社会改革を一気に進めることを提言する。 具体的には、以下に示すような活用を求めたい。 3 <行政分野でのマイナンバー活用例> ① 記入済み申告書制度の導入及び各種証明書の電子データ連携による 年末調整事務の改革 ②給付付き税額控除制度の導入(消費税対策だけでなく一般的政策ツールとして) ③戸籍制度と住民基本台帳制度の改善 ④登記制度の改革(土地・家屋の所有者・相続者の現住所の明確化) ⑤農地台帳・森林台帳の整備(所有者の現住所の明確化) ⑥国勢調査の改善(効率的な調査の実施) ⑦預金口座・証券・保険の所有者・相続者の明確化 ⑧休眠口座の特定 ⑨現金領収証制度の導入(経済活性化と売上捕捉) ⑩行政サービスにおける対面書類の削減 3.オンラインにより諸手続きを簡素化し、かつ完結できる社会を実現す るため、マイナンバーカードに組み込まれた公的個人認証を民間領域 へさらに普及・拡大させていこう マイナンバー制度の導入に伴い、来年 1 月以降、希望者は申請により「個人番号カー ド(通称;マイナンバーカード)」を持つことができる。国家公務員は、これを身分証 明書として活用するようになるが、運転免許証やパスポート等の公的な身分証明書を 持っていない国民も、これを公的な身分証明書として利用できる環境が整った。 また、本人が電子署名認証機能は不要だと意思表明しない限り、マイナンバーカー ドには、この機能が標準的に格納される。平成 29 年からサービス提供が予定されてい るマイナポータルへのログイン等に使われる利用者認証のために必要な電子署名も、 マイナンバーカード内のICチップに格納される。さらには、この電子署名の検証者を 民間に拡大することが検討されており、総務省は政省令の改正や、ガイドラインの公 開なども計画している。 電子署名の検証者が拡大することによって、これまでサービス提供時に法令等によっ て取得しなければならなかった運転免許証などの公的な身分証明書のコピーや写真等 を取得する必要がなくなることが期待できる。 インターネットバンキングやオークションなどの一部のインターネットサービスで は、 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」等に基づき、本人確認書類を取得する 必要がある。主に公的な身分証明書のコピーを用意することになるが、これらの取得 は利用者にとってはコピー等を送付する手間がかかると共に、企業にとっては取得し た情報が本当に正しいかどうかの検証が難しい上に、個人情報として適切に管理する ことが必要となっている。 マイナンバーカードの利用者は、このカードに格納された公的個人認証機能によって 本人であることを証明できる。また企業も、身元確認のコストを軽減でき、サービス を提供するために必要な個人情報だけ(性別のみなど)を入手すればすむようになる。 (公的個人認証は認証のための鍵であり、マイナンバーそのものを提供するものでは ない。)これは、ドイツなどで実用化されているように対面書類を減らすことができる だけでなく、オンラインにより諸手続きを簡素化し、かつ完結できるので、社会的コ ストの低減や経済の活性化に大きな効果をもたらす。 4 以上のようなことから、オンラインにより諸手続きを簡素化し、かつ完結できる社会 の実現に向け、マイナンバーカードに格納された公的個人認証機能を、民間領域へさ らに普及・拡大させていくことを求めたい。 <公的個人認証の活用例> ① 公的個人認証の民間領域へのさらなる普及・拡大 4.マイナンバーカードの利用度を高めるため、マイナンバーが視認で きない、且つ又、公的個人認証が可能な「サブカード」を実現しよう マイナンバーが記載されているマイナンバーカードの裏面側は、漏洩を防ぐために法 で定めた目的以外で他人に見せたり、コピーや写真をとり第三者に提供することが禁 じられている。レンタルショップなどで身分証明書として利用する場合でも、マイナ ンバーが記載されていない表面側の提示に限らなければならない。そこで、漏洩を防 ぐ手立てとして、裏面側を覆い隠して収納できるケースや、マイナンバーを覆う目隠 しシールなどを商品化することも考えられうる。 しかし、マイナンバー自体をむやみに他人の目に触れないようにすると、管理の煩雑 さを伴うだけでなく、紛失した場合の不安もあり、日常的に携帯することに抵抗を感 じる人も多いだろう。このことは、近時、消費税の軽減税率相当額の還付にマイナン バーカードを利用しようとした提案に対する拒否反応の声が大きかったことからも、 窺い知ることができる。また、そもそもマイナンバーカードが利用される場面で、マ イナンバー自体を見せなければならないケースは、かなり限定されると思われる。 以上のようなことから、日常的に携帯して利用しているスマートフォンや既存のIC カード等、電子署名機能を付加したメディア(媒体)を「サブカード」として利用で きるようにし、マイナンバーが他人の目に触れることなく、公的個人認証が安心・安 全に行える仕組みを構築してもらいたい。 <サブカードの活用例> ①リコール対象製品の購入者への早期情報提供 ② マイナンバーカードと既存媒体(ポイントカード、電子マネー等)との連携 5 5.マイナンバー制度のインフラを活用した医療等分野における番号制度 の導入を評価し、保健医療分野におけるICTの利活用をさらに推進 していこう 医療等分野における番号制度は、とりわけ地域の医療情報連携や研究開発の促進に 向け大きな期待が寄せられている。日本再興戦略 2015 でも「医療・介護等分野におけ る ICT 化の徹底」や「医療等分野における番号制度の導入」が謳われている。また、 医療等分野における番号制度の導入に当たっては、マイナンバー制度のインフラを活 用することとされている。 たとえば、医療・介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らすことができるよう、 住まい、医療、介護、生活支援等が一体的に提供される地域包括ケアシステムを実現 するためには、患者・利用者を分野横断、地域横断で特定し情報連携できることが必 須の要件であり、医療等分野の番号が導入されることがカギとなる。もちろん、医療 等分野の個人情報は機微な情報を含むため、その連携・活用にあたっては、利活用の 目的ごとに匿名化のレベルやオプトイン・オプトアウトといった本人関与(意思の尊 重)に対する十分な検討とルールの整備が前提である。 また、ヘルスケアというさらに広い概念で個人情報を連携・活用できるよう、たと えばEHR1/PHR2等を構築して、健康な状態から病気の状態に至るデータを長期に わたり収集・分析することを可能にすることによって、予防医学の発展、医療技術の 向上や新薬の開発など様々な活用の道が拓けてくる。国民一人ひとりにとっては、的 確な医療サービスの享受や健康寿命の延伸、国にとっては社会保障の効率化、重点化 に役立つほか、医療の進歩、健康・医療・介護サービスの質の向上など幅広い効果も 期待できる。 以上のようなことから、マイナンバー制度のインフラを活用した医療等分野におけ る番号という独自の番号体系を導入する意義を再評価した上で、公益性やプライバシ ーに配慮した匿名化や本人関与の在り方など適切な個人情報の取扱いのルールの下、 保健医療分野における ICT の利活用を推進していくべきである。 <保健医療分野でのICT活用例> ① EHR1/PHR2 の構築 (健康医療情報の共有化による医療の質の向上など) ② 二重検査・二重投薬の防止 ③ お薬手帳の電子化 ④ 処方箋情報の電子化並びにネットワーク化(医療機関:薬局:患者) ⑤ 新たな地域医療等情報連携ネットワークの構築・普及 1EHR(Electronic Health Record):「健康情報連携基盤」 個人の生涯健康医療情報を、地域や国レベルで共有する仕組み。 2PHR(Personal Health Record): 「個人健康情報管理」 個人が生涯健康医療情報を収集・保存し活用する仕組み。 6
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