第21号「注目される社外取締役の要件」

証券代行コンサルティング部長の眼 (第21号)
注目される社外取締役の要件
―複雑な独立性基準についての理解が重要―
12月17日に、コーポレートガバナンス・コード(以下、コードと略します)の基本的な考え方(案)がパ
ブリック・コメントに付されました。そこには独立社外取締役の複数確保があるべき姿として記載されて
おり、さらに社外取締役確保に向けた動きが加速すると思われます(社外取締役の選任状況等につい
ては裏面資料をご参照ください)。社外取締役については、会社法の定義と東証とISS(注)の独立性
基準というトリプルスタンダードが存在し、考え方としては、会社法、東証、ISSの順に厳しくなります。こ
こでは改めて社外取締役の定義と独立性基準について解説します。
○改正会社法では親会社・兄弟会社の関係者は兼務できない
現行会社法での要件は、社外取締役に就こうとする会社またはその子会社の取締役や使用人等
の関係者(過去も含む)ではない人です。来年5月に施行予定の改正会社法ではさらに、その会社の
親会社・兄弟会社の関係者との兼務ができなくなります。すなわち、現行では親会社の取締役が子会
社の社外取締役を兼務することができますが、改正により「社外」とはならなくなります(取締役として
の兼務はOKです)。
○東証の独立性基準では主要な取引先、報酬が多額の弁護士・会計士等が除かれる
会社法で定義される社外取締役のうち、東証の独立性基準をクリアする社外取締役が、コードで規
定される独立社外取締役となります。考え方のポイントは、主要な取引先の取締役や使用人等の関係
者や、報酬が多額の弁護士・会計士等は独立性なしとされることです。悩ましいのは「主要な取引先」
について、「売上高の○%以上の取引」という明確な基準が示されておらず、会社で判断することとさ
れていることや、弁護士・会計士等の報酬についても同様に数値基準が示されていないことです。保
守的に判断すれば、社外取締役候補者から取引先や顧問弁護士・顧問会計士等を除外することにな
りますが、さらに選択肢を狭めることとなってしまい、候補者探しを一層困難にしてしまいます。
○ISSでは主要な取引先や顧問契約先での勤務経験があったことでも除かれる
ISSの独立性基準では、現在主要な取引先や顧問契約先に在籍しているということだけではなく、
勤務経験があったことでも独立性なしとされます。「主要な取引」の判断も取引規模を数値で開示する
ことが求められますが、その場合でも独立性ありと判断されるのは極めて限定的のようです。海外機
関投資家においてISSは影響力が大きく、その基準をクリアするためには、大株主、取引先、顧問先と
いった関係者以外から候補者を探すのがベターでしょう。コードが導入されることにより、今後は社外
取締役の独立性に関心が高まってきます。独立性基準についてのご不明点や、独立社外取締役に関
するご相談などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
(注) ISSは海外機関投資家に議決権行使のアドバイスを行う会社(議決権行使助言会社)の最大手です。なお、ISSは監査役会設置
会社において社外取締役が独立性基準に抵触しても反対推奨はしません。
ー会社法(2条15号)ー
社外取締役の定義と独立性基準(概要)
ー議決権行使助言会社:ISSー
ー東京証券取引所ー
①自社の業務執行取締役その他の使用人
①親会社、兄弟会社の業務執行者
(以下、業務執行取締役等という)でない
②主要な取引先の業務執行者
②子会社の業務執行取締役等でない
③多額の報酬を受けるコンサル
※改正により以下が追加・変更
タント、弁護士、会計士
③親会社・兄弟会社の業務執行取締役等
④上記①~③に最近まで該当して
でない
いた者
④オーナー・自社の関係者の近親者でない
⑤上記①~④の近親者など
⑤過去10年間に上記①②になったことがない
※上記の定義、独立性基準はいずれも概要ですので、詳細はお問い合わせください。
コードでは会社独自の独立性判断基準の策定・公表が推奨されています。
①大株主で勤務経験あり
②メインバンク、主要な借入先で
勤務経験あり
③主幹事証券において勤務経験あり
④監査法人において勤務経験あり
⑤顧問契約などが現在または過去
にあり
⑥親戚が会社に勤務など
2014年12月25日発行
【裏面資料:社外取締役の選任状況等】
1.東証上場会社における社外取締役の選任状況(東証調べ)
2013年8月末
集計時点
上場市場
東証1部
東証2部
マザーズ
JASDAQ
東証全体
2014年7月14日
上場
うち社外取締役選任 うち独立社外取締役選 上場 うち社外取締役選任 うち独立社外取締役選
比率
会社数
比率
比率
会社数
比率
会社数 会社数
会社数 会社数
821社 46.9% 1,814社 1,347社 74.3% 1,114社 61.4%
1,752社 1,092社 62.3%
264社 46.3%
103社 18.1%
301社 55.2%
168社 30.8%
570社
545社
120社 65.2%
61社 33.2%
131社 67.5%
74社 38.1%
184社
194社
364社 41.0%
162社 18.2%
421社 48.9%
239社 27.8%
888社
861社
54.2% 1,147社
3,394社 1,840社
33.8% 3,414社 2,200社
64.4% 1,595社
46.7%
※ 2013年8月から翌年7月までに東証上場全体での社外取締役選任比率は10.2ポイントの大幅増
(54.2%→64.4%) 独立社外取締役の選任比率も12.9ポイントの大幅増(33.8%→46.7%)
2.東証上場会社における1社あたりの社外取締役人数(東証調べ)
上場市場
社外取締役
上場
平均
選任せず
1名選任
2名以上選任
会社数
人数
(注) ISSは海外機関投資家に議決行使のアドバイスを行う会社(議決権行使助言会社)の最大手です。なお、ISSは監査役会設置
会社数
比率
会社数
比率
会社数
比率
会社において社外取締役が独立性基準に抵触しても反対推奨はしません。
東証1部
1,814社
1.79人
467社
25.7%
725社
40.0%
622社
34.3%
東証2部
545社
1.50人
244社
JASDAQ
861社
マザーズ
東証全体
194社
3,414社
63社
44.8%
32.5%
205社
69社
35.6%
62社
32.0%
1.58人
440社
51.1%
276社
32.1%
145社
16.8%
1.71人
1,214社
37.3%
925社
1.75人
37.6%
96社
17.6%
27.1%
3.東証上場会社における1社あたりの独立社外取締役人数
※ 東証上場全体での1社あたり社外取締役平均人数は1.71人、1名選任している会社は37.3%
2名以上選任している会社が27.1%
(東証調べ)
35.6%
1,275社
3.東証上場会社における1社あたりの独立社外取締役人数(東証調べ)
上場市場
東証1部
東証2部
マザーズ
JASDAQ
東証全体
上場
会社数
1,814社
545社
194社
861社
3,414社
平均
選任せず
独立社外取締役
1名選任
2名以上選任
人数
1.57人
1.15人
1.16人
会社数
700社
377社
120社
比率
38.6%
69.2%
61.9%
会社数
724社
150社
63社
比率
39.9%
27.5%
32.5%
会社数
390社
18社
11社
比率
21.5%
3.3%
5.7%
1.44人
1,819社
53.3%
1,148社
33.6%
447社
13.1%
1.15人
622社
72.2%
211社
24.5%
28社
3.3%
※ 東証上場全体で独立社外取締役を1名選任している会社は33.6%、2名以上となると東証1部で
21.5%、東証全体で13.1%であり、コードのいう複数確保のハードルの高さを示しています。
4.社外取締役の属性(2014年6月株主総会での新規選任:当社調べ)
属性
弁護士
①社外取締役
割合
15.2%
16名
公認会計
士
5名
4.8%
学者
11名
10.5%
税理士
3名
2.9%
官僚
12名
11.4%
②うち、独立役 16名
5名
11名
3名
10名
割合(②/①) 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 83.3%
他の会社
の出身者
57名
その他
1名
合計
105名
うち、社外監査役
からの転身
21名
54.3%
1.0%
100.0%
20.0%
77.2%
100.0%
85.7%
100.0%
44名
1名
90名
21名
※ 最多は他の会社の出身者(役員経験者など)で、次いで弁護士、官僚、学者などが続きます。
なお、社外監査役からの転身も多いことが目を引きます。