運転免許証のスキャニングと OCR による 本人確認支援 - PFU - Fujitsu

運転免許証のスキャニングと OCR による
本人確認支援ソリューションの展開
Development of an Identification Assistance Solution
by Scanning Driver's Licenses and Using OCR
坂本竜生 *
豊田裕史 *
Tatsuo Sakamoto
Hiroshi Toyoda
*
ドキュメントソリューション事業部 システムインテグレーション部
窓口業務において多くの時間が費やされている本人確認作業の改善を支援するため,本人確認証としての利用率
が最も高い運転免許証を対象とした,本人確認情報の入力を支援するソリューションを提供した.運転免許証のス
キャニングによりエビデンス画像取得と情報自動取得(OCR)を同時に行い,必要な情報を顧客情報のデータベー
スへ自動的に入力するものである.
In order to facilitate time-consuming identification procedures with over-the-counter services,
we have provided a solution to assist with the registration of customer identification information
based on driver's licenses which are the most commonly used form of identification. Scanning
the driver's license obtains an evidence image and simultaneously executes an OCR process
(automatic data acquisition), and automatically registers the necessary information in the
customer information database.
1
まえがき
自治体や金融機関などの窓口で,
お客様に直接応対し,
2
開発の背景と狙い
現状の本人確認作業のイメージを図 - 1に示す.
諸届や入出金の受付などを行う業務を窓口業務という.
現状の本人確認作業では,顧客情報のデータベース
お客様をお待たせしないよう迅速さが求められる反面,
へのお客様情報の入力は,本人確認証をお預かりした上
正確さや丁寧さも必要とされる.中でも本人確認作業は,
で,記載情報を目視で確認しながら主に手動で行われて
この両立が重要である.
おり,多くの時間が費やされているにも関わらず,情報
本人確認作業は,申請や届け出の際にお客様が本人で
の正確性には課題がある.
あることを確認する,窓口業務における重要な作業の一
また,窓口業務を行うスペースは非常に限られている
つである.お客様から,運転免許証や各種健康保険証な
ため,コピー機を設置しづらいという物理的な課題が存
どの本人確認証を預かり,氏名や住所などの情報が正し
在し,本人確認のエビデンスとして本人確認証のコピー
いことを確認した上で,必要な情報を顧客情報のデータ
を取る際,窓口を離れてお客様の目の届かない場所にあ
ベースに入力する.また,
本人確認をしたエビデンス
(証
るコピー機を使用すると,本人確認証が不正に利用され
拠)として,本人確認書類のコピーを取る.お客様の個
ていないかお客様を不安にさせるおそれがある.
人情報であるため,取扱いには配慮が必要である.
これらを解決するために,本人確認に必要な情報の自
動入力を,受付の限られたスペースで行えるような本人
確認作業支援システム(以降,本システム)の構築を検
討した.
PFU Tech. Rev., 25, 2,pp.13-17 (11,2014)
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運転免許証のスキャニングと OCR による本人確認支援ソリューションの展開
窓口受付
確認
入力
業務システム連携
既存システム
既存端末
本システム
入会申込
名前: PFU 太郎
申請書など
連携
生年月日: 昭和55年5月5日
住所: 神奈川県川崎市幸区堀川町
顧客情報
データベース
既存システム
【バックヤード】
免許証
運転免許証OCR
電話番号: 044-540-****
既存
アプリケーション
本システム
連携
アプリケーション
連携
インターフェース
スキャン指示
スキャン指示
画像取得
画像取得
OCR結果取得
OCR結果取得
免許証(コピー)
受付業務
アプリ
ケーション
スキャナ
コントロール機能
+
スキャナ
コントロール
+
カラー/
モノクロ
同時出力
PDFファイル
生成
免許証OCR
コントロール
◆図 - 1 本人確認作業イメージ図◆
(Fig.1-Identification procedure workflow)
◆図 - 2 システム構成図◆
(Fig.2-System configuration)
3
システム概要と特長
PFU は,世界シェア No.1
ア№ 1
ものを採用する.
注1)
のスキャナ,国内シェ
注2)
の OCR(光学式文字認識)ソフトウェアを有
参1)
,参2)
,参3)
また,窓口業務はお客様と企業をつなぐ重要な業務で
あり,早くからシステム化が進められている.そのため,
.自社のハードウェアとソフトウェ
自社のノウハウが詰まった基幹業務システムとして完成
アを組み合わせ,既存システムへ簡単に組み込むための
している場合が多く,改修には大きなリスクが伴う.お
ソリューションアプローチ(Add-On アプローチ)を
客様に本システムの導入を敬遠されないよう,既存の窓
図ることで,PFU ならではの本人確認作業を含む窓口
口業務システムに対して,大規模な改修を行うことなく,
業務の改善を目指した.
簡単に組み込めるように考慮する必要もある.
3.1 システム概要
現するソリューションを提供する.
している
以上により,窓口業務の効率性,安全性,容易性を実
図 - 2にシステム構成図を示す.目視,手入力,コピー
で行っていたエビデンス取得及び顧客情報データベース
への情報入力作業を,スキャニングと OCR によって自
動的に行うことで,入力時間の短縮や入力ミスの防止を
3.2 システム構成要素と特長
(1)
運転免許証からの自動情報取得(運転免許証
OCR)
図る.読取りの対象は,本人確認証として利用される割
手動で行っていた顧客情報の入力作業を補助するた
合が最も高い運転免許証に絞った.
「氏名」
「住所」
「生
め,運転免許証の券面情報から OCR 技術を使って自動
年月日」など,本人確認に必要な情報がカードの片面に
的に読み取ることで,本機能を実現した.
すべて記載されていることからも,本システムの対象に
適していると判断した.
使用するスキャナは,読取り対象とした運転免許証の
本システムでは,運転免許証をスキャニングするだけ
で,運転免許証のレイアウトを自動的に判断し,最適な
OCR 結果を抽出する.
ようなプラスチックカードをスキャニングできることに
本人確認処理に必要な 11 項目は,図 - 3のとおりで
加え,本人確認証を預かった際に,窓口を離れることな
ある(①氏名,②生年月日,③住所,④交付日,⑤有効
く,お客様の目の前でスキャニングできるよう,スペー
期限帯色,⑥有効期限,⑦免許証番号,⑧免許種類,⑨
スが限られている窓口の机にも設置可能な小型サイズの
顔写真,⑩免許の条件等,⑪取得日(二・小・原,他,
注1)業務用スキャナ fi シリーズは,ドキュメントスキャナの主要
市場である北米,欧州,日本でそれぞれシェアトップである.
詳細は業務用イメージスキャナ「fi シリーズ」紹介ページを参
照されたい.
http://imagescanner.fujitsu.com/jp/concept/feature-story/
page2.html
注2)日本市場トップシェア:帳票 OCR ソフトにおいて,JEITA
(2010 年度)の集計に基づき,PFU にて推計.
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二種)
)
.
名前の OCR 処理では,認識精度を向上させるために,
OCR での読取り結果を認識処理用のデータベースで補
正する.しかし,若年層(20 代前半)に多い個性的な
名前は,データベースに登録されている名前では補正で
きないため,認識精度が低下するという課題があった.
PFU Tech. Rev., 25, 2, (11,2014)
運転免許証のスキャニングと OCR による本人確認支援ソリューションの展開
①氏名
②生年月日 ③住所
④交付日 ⑤有効期限帯色,
⑥有効期限
[氏名]
=免田 一郎
OCR
処理
[住所]
=石川県かほく市・・・
[生年月日]
=昭和37年5月・・
◆図 - 4 fi-65F ◆
⑦免許証番号 ⑧免許種類 ⑨顔写真
⑩免許の条件等 ⑪取得日(二・小・原,他,二種)
(Fig.4-fi-65F)
◆図 - 3 運転免許証 OCR の概要◆
(Fig.3-Driver's license OCR overview)
このため,本システムでは,若年層の名前情報を別途追
加対応し,名前情報の認識精度を向上させることに成功
した.特に若年層に関する申請が多い窓口業務では大き
な成果を上げている.
◆図 - 5 ScanSnap S1100 ◆
(2)
窓口端末用スキャナ(fi-65F 又は ScanSnap
(Fig.5-ScanSnap S1100)
S1100)
窓口で本人確認証のスキャニングを行うため,卓上に
置けるコンパクトな A6 サイズフラットベッド型スキャ
の画像データを保存する際,短期/長期保管用で異なる
ナである fi-65F を対象スキャナとした(図 - 4参照)
.
画像品質,画像形式が要求されるため,カラー/白黒,
しかし,窓口業務においては,本人確認証だけでなく,
付帯書類(申請書など)もスキャニングが必要な場合が
あり,それらの多くは A4 サイズである.
そのため,運転免許証などのプラスチックカードがス
JPEG / TIFF / PDF など,用途に合わせた出力が行
える仕組みとしている.
(3)
既存システムへの簡単組込み(Add-On アプロー
チ)
キャニング可能なことに加え,A4 サイズの一般書類も
既存システムに簡単に組み込めるようにするため,既
合わせてスキャニング可能な ScanSnap S1100 も対
存システムで多く採用されているアプリケーションとの
象スキャナとして選定した(図 - 5参照)
.
親和性が高い Windows® 注3) DLL 注4)の API 注5)として
しかしながら選定した二つのスキャナ(fi-65F と
ScanSnap S1100)は,
製品の仕様上,
同一のインター
フェースでは利用できないという課題を抱えていた.
fi-65F は業務用スキャナとなるため一般的に広く利
用されている TWAIN インターフェースに対応してい
るが,ScanSnap S1100 は個人用スキャナとなるた
め独自インターフェースとなっていた.
提供することとした.
しかし,既存システムの業務ノウハウが豊富なお客様
でも,スキャナ制御や OCR 制御については専門外なた
め,簡単に「自動入力(OCR 結果抽出)
」できる機能
として提供してほしいとの要求を頂いた.
そのため,以降の特長を持つ Windows API として
提供した.
そのため二つのスキャナの制御インターフェースの
差異を吸収し,同一のインターフェースで利用できるよ
うにする共通ライブラリを構築することで,いずれのス
キャナでも自由に選択可能とした.
結果,業務に応じたスキャナを自由に組み合わせるこ
とが可能になり,お客様の様々なニーズに柔軟に対応し,
幅広く導入いただける仕組みを実現した.
また,本人確認をしたエビデンスとして本人確認証
PFU Tech. Rev., 25, 2, (11,2014)
注3)Windows は,米国 Microsoft Corporation の,米国,日本
およびその他の国における登録商標または商標である.
注4)Dynamic Link Library(ダイナミック リンク ライブラリ)
の略.同時に複数のプログラムから利用可能な汎用性の高い機
能を保持する部品化されたプログラムのこと.
注5)Application Programming Interface(アプリケーションプ
ログラミングインターフェース)の略.あるプログラム ( ソフ
トウェア ) が保持する機能やデータを,外部のプログラムから
呼び出して利用するための規約のこと.
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運転免許証のスキャニングと OCR による本人確認支援ソリューションの展開
1)
スキャニングから運転免許証 OCR までの機能
を,一つのインターフェースで簡単に実行可能
2)
複 数 の ス キ ャ ナ(fi-65F 又 は ScanSnap
5
今後の取組み
窓口業務を改善するため運転免許証のスキャニングと
S1100)を,同じインターフェースで利用可能
OCR を同時に行う本システムは,現状,窓口業務を行っ
3)
運転免許証 OCR に最適なスキャニング設定が設
ている多くのお客様から引き合いを頂き,様々な分野で
定済みのインターフェースで利用可能
ご採用いただいている.
こうしたインターフェースとすることで,お客様は
スキャナや OCR についての独自技術を気にすることな
く,既存システムへの Add-On 組込みを行えるように
なった.また,Add-On 組込みを前提としているため,
今後も,
お客様からの要望を基に以下の取組みを進め,
更に使いやすいシステムとしていく予定である.
(1)
本人確認証のバリエーション対応
現状の窓口業務で,本人確認証として運転免許証が利
既存システムの大規模な改修が不要で,更に部分的な業
用される割合は全体の 7 ~ 8 割となっているため,本
務展開も可能としている.
システムで入力業務の大部分の効率化を実現できてい
る.しかし,残りの 2 ~ 3 割であるそのほかの本人確
4
認書類にも対応できないかとの要望は多い.
適用事例
対応を希望されている本人確認証は,
保険証,
パスポー
全国に展開する通信業の窓口店舗において,本シス
ト,外国人登録証,住基カードなどであるが,いずれも
テムを業務端末の既存システムへ Add-On 組込みする
普及率の低さや,単体での証明力が乏しいなど,いくつ
形でご利用いただいている(図 - 6参照)
.新規契約や
かの課題を抱えている.
契約情報の変更など,お客様情報を管理する仕組みは
国は,
国民一人一人に番号を付与(マイナンバー制度)
従前から使用されていたが,本人確認証のコピーを取る
して個人情報管理の効率化を図り,社会基盤(インフラ)
作業をバックヤードで行わない点,運転免許証の OCR
と併せて活用できる仕組みの構築を進めている.運転免
により業務効率を向上可能な点,現状の仕組みに容易
許証は本人確認証として最も多く利用されているが,マ
に組込み可能な点を評価いただき,全国 1,000 店以上
イナンバー制度の導入により,社会の仕組みが大きく変
(10,000 端末以上)に導入いただいた.1 日あたり数
化していくことが想定される.未確定な要素も含まれて
万件の処理が行われているため,窓口業務の大幅な効率
いる制度ではあるが,国の施策という面も考慮し,技術
化,スピードアップに貢献している.
的な検証を踏まえて取り組んでいく.
お客様からは,運転免許証 OCR の高い認識率,省ス
(2)
マルチプラットフォーム対応
ペースなスキャナを非常に高く評価していただいてお
窓口業務を行っている企業や自治体では,窓口業務
り,対応機器の増設や更なる業務展開のご相談も頂いて
全体の一新を検討されているお客様も少なからず存在
いる.
する.案の一つとして,窓口端末に,タブレット端末
を使うことを検討されている場合が多く,iOS 注6)端
末,Android™ 注7)端末とのスキャニングや運転免許証
従来
OCR の連携対応への問い合わせが増加している.
別室
窓口
免許証コピー
図 - 7に示すように,運転免許証の OCR 処理を,
Web サービス化することで,マルチプラットフォーム
対応を可能にする提案をしている事例もあるが,多くの
OCR導入後
お客様の不安
移動による
非効率性
窓口
スペース確保
コピー不要
場合は以下の理由により,各端末に閉じた状態での対応
を求められている.
1)
取扱いが難しい個人情報を扱う点
2)
社内にサーバを構築する必要がある点
3)
オフラインでの対応が必要である点
◆図 - 6 適用事例◆
(Fig.6-Application example)
16
注6)iOS は,iPad や iPhone に搭載されている Apple 社製の独自
OS である.
注7)Android は,Google Inc. の商標である.
PFU Tech. Rev., 25, 2, (11,2014)
運転免許証のスキャニングと OCR による本人確認支援ソリューションの展開
リスト
テキスト・数値入力
日付・時刻入力
運転免許証OCR
Windows Server※1
写真貼り付け
Webサービス
手書き入力
Windows
端末
画像化
iOS端末
Android
端末
画像化
必須入力チェック
チェック入力
(複数/単一)
フォーカス
位置情報
埋め込み
数値/日付の範囲チェック
画像化
◆図 - 8 BIP Smart の機能概要◆
(Fig.8-BIP Smart functional overview)
※1 Windows Serverは,
米国Microsoft Corporationの,米国,
日本およびその他の国における登録商標または商標です.
6 むすび
◆図 - 7 OCR 処理の Web サービス化案の構成図◆
本システムは,ハードウェア(スキャナ)
,ソフトウェ
(Fig.7-Web service configuration plan for OCR
ア(運転免許証 OCR)
,アプリケーション開発,保守
processes)
作業含め PFU 全体で対応するソリューションパッケー
ジ(本人確認支援ソリューション)となっている.これ
ソフトウェアだけでなく,スキャナ機器についても同
らは,紙文書の電子化と,システムでの文書管理を効率
様な対応が必要となるため難しい面はあるが,今後の重
的に短期間で実現するドキュメントソリューションを提
要な取組みとしたい.
案する上でのすべての商材をもれなく有している PFU
(3)
ペーパーレス対応
ならではの取組みであり,スキャナと OCR ソフトウェ
窓口業務全体の一新を検討されているお客様の中には
アを組み合わせ,業務システムに連携することで業務を
ペーパーレス化を目指すお客様も多数存在する.窓口業
改善,及び効率化するスキャン入力ソリューションが生
務では,本人確認証と申請書を併せて提示していただく
み出した新しいビジネスの形だと考えている.
場合が多く,
「申請書」自体をなくすことで,業務効率
を向上したいという考えである.
PFU では,新たな帳票ソリューションとして,
図 - 8に示すような紙帳票のインターフェースをタブ
レット上で実現するソフトウェア(BIP Smart)を昨
年度より販売し,好評を頂いている参4).
これまでは,本システムを既存システムへ組み込む形
でビジネス展開を図ってきた.今後は,窓口業務の一新
を検討されているお客様に対し,
「BIP Smart」を活用
したペーパーレスを実現する仕組みを含めて,新たなア
プローチで提案活動できると考えている.更なる展開を
含めて検討を進めたい.
PFU Tech. Rev., 25, 2, (11,2014)
今後は,5 章に記載したお客様の新たな要望にも耳を
傾けつつ,運転免許証だけではない様々なスキャン入力
ソリューションのパッケージングを進め,新しい業務適
応モデルを創造していく.
参考文献
参1)業務用スキャナ fi シリーズ紹介ホームページ
http://imagescanner.fujitsu.com/jp/
参2)カラーイメージスキャナ ScanSnap 紹介ホームページ
http://scansnap.fujitsu.com/jp/
参3)ソフトウェア帳票 OCR DynaEye EX(ダイナアイイーエッ
クス)紹介ホームページ
http://www.pfu.fujitsu.com/dynaeye/
参4)帳票ソフトウェア BIP Smart 紹介ホームページ
http://www.pfu.fujitsu.com/bip/bipsmart/
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