第1編 独占禁止法と入札談合 - 四国建設青年会議

全国建設青年会議 第2回準備会資料抜粋
第1編
独占禁止法と入札談合
1.入札談合と独占禁止法の適用
(1) 独占禁止法(以下「独禁法」という)の目的・禁止行為
独禁法は、公正で自由な競争を促進して、我が国経済の効率的な運営を図ろう
とする法
律である。
注:競争=企業が消費者の購買を目指して価格や品質、サービスなどについ
て、お互いに競い合うシステム。
独禁法は以下の行為を禁止している。
ア)カルテルの規制・・・入札談合がこれにあたる
・事業者が互いに連絡を取り合って、
・本来個々の事業者がそれぞれに自主的に判断して決めるべき事項
(価格、数
量、受注予定者など)を共同して決定し、
・市場において有効な競争が行われないような状態をもたらす
こと。
イ)独占・寡占の規制
・公共入札に関する事例としては、事業者が自らの製品のみが適合
する仕様書の作成を働きかけて、それを実現したことについて私
的独占に該当するとされた事例がある。
ウ)不公正な取引方法の規制・・・公正な競争を阻害する恐れのある行為
・あらかじめ受注予定者が落札できる取り決めを行った場合に、こ
れに従わない事業者に対して、取引を妨害したり、差別的な取り
扱いを行うことが違反行為となる。
(2)入札談合に対する独禁法の適用関係
ア)適用関係(事業者間の場合と事業者団体の場合)
・事業者間で行われた場合・・・独禁法第3条
・事業者団体により行われた場合・・・独禁法第8条第1項第1
号
・事業者が入札談合に従わない事業者に対して、取引を妨害したり、
差別的な取り扱いを行ったり、行わせた場合・・・独禁法第 19
条
・事業者団体が同様のことを行った場合・・・独禁法第8条第1
項第 5 号
にそれぞれ違反する。
イ)違反行為の確定
・排除勧告を応諾した場合・・・審判手続きを経ずに勧告と同様
1
の審決
・排除勧告を不応諾の場合・・・審判手続を経て審判審決
注:審決が公正取引委員会(以下「公取」という)の最終判断
となる
注:独禁法の対象は事業者又は事業者団体であり、発注機関は高い価格
で契約させられた被害者として位置付けられる。ただし、発注機関が
入札談合に関与している場合は、①刑事事件として事業者等が起訴さ
れた場合には、その共犯者として発注機関担当者が起訴されることが
ある。②行政処分(排除を命じる審決、課徴金納付命令)の場合は、
独禁法上では発注機関に対する措置はできない。ただし、公取から発
注機関に対し改善措置をとることを要求できる法律が平成 14 年に成
立した。(入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律)
(3)入札談合の態様
―省略―
2.入札談合事件に対する独禁法上の措置
(1)独禁法違反事件の処理の流れ
事件の開始(違反の疑いがあるとの情報入手)→事件の審査(調査活動)→
措置(審決等)
(2)事件の開始(端緒)・・・審査を開始するのは次の場合
① 一般の人からの報告(申告)
② 職権探知(公取自らが違反を発見する場合など)
③ 検事総長からの通知
④ 中小企業庁長官からの調査請求
(3)事件の審査(調査活動)
事件の端緒に接すると公取は審査を開始する。この場合、強制捜査を行うこ
とも可能。
(4)入札談合に対する措置
ア)違反行為の排除措置・・・審決という行政処分により次のような排除措
置を命じる。
① 協定(カルテル)の破棄
② 協定を守るための手段の破棄、会合の廃止や団体の解散
③ 協定を破棄した旨の周知徹底
④ 将来、同様の行為を行わないこと(不作為命令)
⑤ ①∼④で採った措置の公取への報告
イ)課徴金の徴収
価格の引き上げや維持など対価に係るカルテル(入札談合はこれにあた
る)と生産数量など価格に影響を与えるカルテルを行った場合は、事業
者又は事業者団体の構成員に課徴金が課せられる。
課徴金の額は、カルテル実行期間中の売上額に一定の率を掛けて算出さ
れるが、中小建設業(従業員300人以下又は資本金 3 億円以下)の場
2
合、その率は原則として3%である。(大企業は6%)
ウ)刑事制裁(公取による告発)
刑事罰として、カルテルを実際に行った者には 3 年以下の懲役又は 500
万円以下の罰金が科せられ、カルテルを実際に行った者の他に、事業者
及び事業者団体には上限を 5 億円とする罰金が科せられる。又、法人の
代表者や事業者団体の役員がその独禁法違反の計画を知りながら、その
防止に必要な措置をとらなかった場合、500 万円以下の罰金が科せられる。
注:国又は地方公共団体の入札に係る談合は、刑法の対象にもなり、行
為者は 2 年以下の懲役又は 500 万円以下の罰金が科せられる。(事業者は
対象とはならない)
(5)発注機関による損害賠償請求等
カルテルなどの独禁法違反を行った事業者又は事業者団体は公取による審決
が確定した場合、被害者に対して無過失損害賠償責任を負う。また、確定審決
がなくても、被害者は民法の規定により損害賠償を求めることが可能で、近年
は住民による損害賠償請求がみられる。なお、入札談合に対する損害賠償請求
は、被害者による損害額の立証が困難との問題があったが、平成 8 年の新民
事訴訟法第 248 条により、裁判所の職権により相当な額の損害額を認定する
ことが可能となった。
ア)発注機関による損害賠償請求等事例
―省略―
イ)住民訴訟
平成 4 年の埼玉土曜事件以降、数多くの訴訟が提起されている。なお、
平成 14 年の地方自治体法改正法により、住民代位訴訟制度は廃止され、
住民が職員個人や怠る事実に係る相手方(入札談合を行った事業者等)に
損害賠償等を請求することを地方自治体法などに求める請求制度(履行請
求制度)が創設された。
3.発注機関における入札談合事件への対応
(1) 概要
入札談合事件の端緒情報として発注機関から公取に寄せられる情報は、年々
増加している。(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(以下
「適化法」という)第 10 条で義務付けられた通知を除く通報ベースで、平成
14 年は 1072 件(前年比 18%増))
適化法第 10 条では、全ての公共工事発注機関が、入札談合等の行為があっ
たと疑うに足りる事実があるときには公取に通知することが義務付けられた。
また、同法に基づく指針により、発注機関は談合情報の取扱要領を策定し、職
員に周知徹底するとともに、その要領に定める各種手順については、公取の審
査の妨げにならぬよう留意することとされた。
(2) 談合情報提供にあたっての留意事項
ア)公取が通報を望む情報
入札の前後に不審な点がある入札や談合の疑いが報道された入札に
3
ついて、発注機関としての経験を踏まえての情報提供を望まれている。
①発注機関が談合情報を受けた日時②工事名③入札(予定)日④情報提
供者⑤通報を受けた者(担当者)⑥情報手段(電話、書面等)⑦情報内
容⑧談合情報に対する対応の概要⑨入札結果(入札済の場合)などの基
本的な情報の他、
⑩入札調書などの当該入札に関する
情報(加工せず詳しく)
⑪発注機関の経験や情
報により存在が予想される談合ルールや方法に関する情報
⑫当該物件に関する公開情報の有無、公開場所、その他関連情報
イ)審査の妨げとならための留意点
公取に談合情報を提供したことが明らかになると、証拠隠滅等の恐れ
があるため
① 個別の案件について、公取に情報提供を行った(行う)ことは内密
にする。(報道機関への公表を含む)
国交省のマニュアルでは、
発注者側からは積極的に公表せず、報道機関から求められた場合の
み公表としている。
② 独自の事情聴取は、公取に通知されることが予見されるため、事業
者側に調査を行っていることが知られないようにする。国交省のマ
ニュアルでは、事情聴取は公取が必要と判断した場合に行うとして
いる。
ウ)談合があると疑うに足る事実の通知に関する発注機関の留意事項
適化法第 10 条では、談合情報だけでなく入札時の参加者の行動から、
経験等を踏まえて入札談合があると推測される場合にも、公取への通知
をすることとされている。例えば、
① 工事の種類や規模ごとに、入札参加者の指名回数や落札金額の累計額
に基づいて落札していたり、入札参加者の落札回数が均等になってい
るなど、落札結果に規則性がある場合。
② 複数回の入札ごとに 1 番札が同じであるとか、入札不調を繰り返すう
ちに1社を除いて他社が辞退するような不自然な状況。
③ 入手した情報が、落札ルールの存在を示すものであり、また、これを
裏付ける具体的な資料等の提供があった場合。
エ)公取における談合情報の取扱等
―省略―
オ)連絡先
―省略―
4.入札談合の未然防止に向けた取り組み
(1)事業者・事業者団体に対する取組
公取は平成6年に入札ガイドライン(公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独禁法上の
指針)を公表し、事業者及び事業者団体の入札に関連した活動類型ごとに、
「原則として違反となるもの」
、「違反とな
る恐れのあるもの」、
「原則として違反にならないもの」に分類し、参考例として示した。
活動類型
原則として違反
違反の恐れあり
4
原則として違反にならない
受注者の選定に関
する行為
入札価格に関する
行為
1受注予定者等の決定
−①受注意欲の情報交
換等
−②指名回数、受注実績等
に関する情報整理、提供
−③入札価格の調整等
−④他の入札参加者等へ
の利益供与
−⑤受注予定者の決定へ
の参加要請、強要等
1最低入札価格等の決定
−①入札価格の情報交換
等
1受注数量、割合等の決定
受注数量等に関す
る行為
情報の収集・提供、 −①受注意欲の情報交
経営指導等
換等(前掲)
−②指名回数、受注実績等
に関する情報整理、提供
(前掲)
−③入札価格の情報交換
等(前掲)
1指名や入札参加予定に
関する報告
2JVの組合せに関する
情報交換
3特別会費、賦課金等の徴
収
1発注者に対する入札参加
意欲の説明
2自己の判断による入札辞
退
1入札対象の商品又は役
務の価格水準に関する
情報交換等
1積算基準についての調査
2標準的な積算方法の作成
等
1官公需受注実績等の概括
的な公表
1入札に関する一般的な情
報の収集、提供
2官公需受注実績等の概括
的な公表(前掲)
1指名や入札参加予定に
関する報告(前掲)
2JVの組合せに関する
情報交換(前掲)
3入札の対象となる商品
又は役務の価格水準に
関する情報交換等
(前掲)
3平均的な経営指標の作成、
提供
4入札物件の内容、必要な技
術力の程度等に関する情
報の収集、提供
5経常JVの組合せに関す
る情報提供
6JVの相手方の選定のた
めの情報聴取等
7発注者に対する入札参加
意欲の説明(前掲)
この他、事業者団体の活動一般については、独禁法との関係を示した事業者団
体ガイドライン(事業者団体の活動に関する独禁法上の指針)がある。
(2)発注官庁等との連携・協力
平成 5 年から、入札談合の排除や防止のため発注官庁において公取との連絡担
当官を指名することと、公取への情報提供の円滑化、公取との協力体制整備による
入札談合の未然防止のため「公共入札に関する公取との連絡担当官会議」を開催し
ている。
第2編
入札談合防止に向けた国・地方公共団体における入札・契約制度改革
の取組み
1.入札談合防止に向けた入札・契約制度改革の概要
(1)国における入札・契約制度改革のこれまでの取組み
平成 5 年に贈収賄事件により地方公共団体の首長や大手建設会社の幹部が、逮
捕・起訴されたことを契機として、中央建設業審議会(以下「中建審」という)の
建議を基に、一般競争入札の本格的導入や談合情報マニュアルの策定、指名停止措
置の強化等の入札談合防止策の強化を柱とする「公共工事の入札・契約手続きの改
5
善に関する行動計画」をまとめ、平成 6 年に閣議了解された。
しかし、その後も不祥事が続いたことから平成 12 年に①透明性の確保②公正な
競争の促進③適正な施工の確保④不正行為の排除の徹底を柱とする適化法が制定
された。また、公共工事発注機関が、入札談合等の行為があったと疑うに足りる事
実があるときには公取に通知することが義務付けられ、同法に基づく指針により、
発注機関は談合情報の取扱要領を策定し、職員に周知徹底するとともに、その要領
に定める各種手順については、公取の審査の妨げにならぬよう留意することとされ
た。
(2)最近の入札・契約制度改革の特徴的な取組み
ア)国交省内検討会による入札適正化策の公表
平成 15 年には、地方公共団体等における情報公表の促進のためのマニュ
アルの策定、混合入札の促進、工事成績を重視した競争入札等の導入、技術
提案を重視した入札の導入等を講じるとした。
イ)地方公共団体の取組みの概況
例えば、全ての案件での条件付一般競争入札の導入、入札監視委員会の
設置、入札談合を行った場合の違約金条項・損害賠償請求条項の契約書への
明記など。
(3)入札・契約制度に関連した公取のこれまでの取組み
ア)中建審における公取事務局経済部長の意見陳述(平成 5 年)
入札談合の未然防止のため、入札制度やその運用のあり方について充分
な検討が行われることを要望。
イ)競争政策の観点からみた地方公共団体による規制・入札等について(平成
11 年)
地方公共団体の実態調査により、事業者団体への工事等の一括発注、特
定の事業者団体の加入業者に限定した競争入札参加者の選定、地元企業優先
発注、物品の入札等における銘柄の指定などについて競争政策上の問題を指
摘。
ウ)分割発注に係る建設省との共同要請(平成 11 年)
行き過ぎた地域要件の設定及び過度の分割発注による建設業法違反が生
じたことを契機に、公取と建設省が共同で、都道府県知事に対して「行き過
ぎた地域要件の設定及び過度の分割発注は、入札に参加するメンバーが固定
されること等を通じて入札談合を誘発・助長する恐れがあるなど、市場にお
ける競争が制限・阻害されること等につながるため、競争の確保に充分注意
する」旨の要請を行った。
エ)入札談合事件措置に関しての発注者に対する改善要請
公取は入札談合事件で、発注機関職員の関与があった場合や、発注方法
が入札談合を誘発・助長している場合には発注機関に対して改善を要請して
いる。(北海道上川支庁発注の農業土木工事など)
オ)公共調達と競争政策に関する研究会の開催(平成 15 年以降)
適化法も必ずしも入札談合等不正行為の減少につながっておらず、より
6
根本的な問題として会計制度やその運用についての問題点も指摘されてい
ることなどから、公共調達に関する根本的かつ具体的な課題を抽出し提言
を行うため、
「公共調達と競争政策に関する研究会」を開催している。
2.入札・契約制度改革に関する考え方
(1)基本的考え方
入札談合の未然防止の観点から、確保されるべき基本的な要素として、
① 充分な入札参加者の確保、入札参加者の固定化の防止
② 秘密情報管理の徹底(当該情報を公開する場合にはデメリットに対する
別途対策)
③ 発注者としてのペナルティーの明確化
④ 単独の方策でなく、複数の方策を組み合わせること
が必要かつ重要。
(2)指名競争入札の見直し(いわゆる「抽選入札」を含む)
不良不適格業者の排除は検査体制の充実等で対応し得る問題であり、事務量の
増加は電子入
札等IT化の推進で対応し得ると考えられ、一般競争入札への移行を積極的に図
るべきである。
他方、指名競争入札では競争性の確保に充分な入札業者数の確保、指名手続き
の恣意性の排
除が重要であり、入札参加意欲を確認し、技術資料の提出を求める公募型指名競
争入札等によ
り、受注意欲を有する広範な事業者の入札参加を求めることが望まれる。
なお、抽選による指名業者の選定等、入札における抽選の活用については、入
札談合防止に
一定の効果はあると認められるが、事業者の入札意欲の減退等マイナス面もあり、
事業者の談
合体質が強い地域など、入札談合防止が特に強く要請される地域や時期に限って
活用されるべ
き制度と考えられる。
(3)電子入札
基本的には入札事務の効率化に資するシステムと考えられるが、その導入によ
り入札制度の
競争性・透明性向上に結びつける改善が可能であり、入札談合の未然防止の観点
からも望まし
い。
(4)地域優先発注
公共工事と地域経済の活性化との密接な関係から一概に否定はできないが、競
争性を失わし
める形での地域要件賦課は、入札談合を誘発・助長させる恐れが強く、例えば、
一定数以上の
7
入札参加が期待できる場合に限るなど、柔軟に運用する必要がある。
(5)予定価格・指名業者の事前公表
予定価格の事前公表は、予定価格が目安となって競争が制限され、価格が高止
まりになるこ
と、事業者の見積努力を損なわせること、また談合がより容易に行われる可能性
があることから、入札談合の未然防止の観点からは、必ずしも好ましくない。予
定価格を公表しないことにより職員が不正行為に巻き込まれる恐れがあるという
事情は否定しないが、予定価格の事前公表を行う場合は、より一層入札談合を行
いにくい環境を整備する必要がある。
指名業者の事前公表についても、入札談合を一層容易にする可能性が否定でき
ないことから、競争性の確保をより厳格に行う必要がある。
(6)損害賠償予定条項
入札談合の抑止に関して相当の効果を有するものと考えられるが、損害額の水
準の考え方を
10%とする地方公共団体が多いものの、抑止効果を高めるためには不足との見解
もあり、今後
の検討課題と考えられる。
(7)談合情報への発注機関独自の対応
入札談合は適正な入札を妨害する行為として、発注機関が入札中止等独自の対
応を進める必
要性が認められる場合もあると思われるが、事情聴取を行う場合には事実関係につ
いて可能な
限り詳細な調査を行うことが望まれる。
(8)低入札価格調査制度・最低制限価格制度
入札の競争性を向上させた場合、発注機関が、過当競争の結果としてダンピン
グや疎漏工事の多発を懸念する傾向があり、低入札価格調査制度の厳格な運用や
最低制限価格制度の運用を重視する傾向があるが、その運用にあたっては競争制
限的にならぬよう留意すべきである。
(9)地方公共団体による公共工事における地元業者の下請け使用義務付け等
一部の地方公共団体において、公共工事の受注業者との契約に地元業者を下請
として使うよ
う努力する旨の規定を設ける動きがある。地元経済の活性化や中小企業対策等を目
的としての一般的な要請であれば、地域政策上の問題であると理解できるが、利用
を義務付ける場合には、事業者の自由な事業活動を制限する恐れがあるため、競
争政策上問題があり、仮にこのようなことが広く行われれば、公共調達が地域ごと
に行われ、地域間の自由な流通が妨げられるため一般的な要請の範囲を超えるこ
とのないよう配慮が必要。
8
第3編
入札談合等関与行為防止法の解説
1.入札談合等関与行為防止法の制定経緯
平成 12 年 5 月に公取が排除勧告を行った北海道上川支庁発注の農業土木工事談
合事件において、発注者側が受注業者の意向を提示していた事実が認められたにも
拘わらず、独禁法では発注機関側に対して法的措置がとれないため、事業者側には
不公平感があった。そのため、官製談合に対処するための法制度の検討が開始され、
地方公共団体の首長による談合への関与や議員による口利き疑惑などを踏まえて、
平成 15 年から施行された。
2.入札談合等関与行為防止法の基本的なスキーム
(1)入札談合関与行為を排除するための行政上の措置(第 3 条)
−省略−
(2)当該行為を行った職員に対する賠償請求(第 4 条)
・懲戒事由の調査(第
5 条)
−省略−
(3)その他
入札談合等関与行為の防止に向けた関係行政機関相互の連携・協力。本
法運用上の地方公共団体等の自主的な努力への配慮等について規定。
3.入札談合等関与行為防止法の規定の解説
(1)本法が対象とする発注機関(第 2 条第 1 項から第 3 項)
−省略−
(2)入札談合等関与行為(第 2 条第 4 項、第 5 項)
−省略−
(3)発注機関が講じる改善措置(第 3 条)
−省略−
(4)損害賠償(第 4 条)
発注機関は入札談合等関与行為を行った職員に対して調査の結果、故
意・重大過失があった場合には、速やかに損害の賠償を求めなければなら
ない。
(5)懲戒(第 5 条)
−省略−
(6)指定職員による調査(第 6 条)
−省略−
4.入札談合等関与行為防止法の適用事例
岩見沢市が発注する建設工事の入札参加業者(138 社)に対し、独禁法第 3
条の規定に違
反するものとして勧告した。(平成 15 年 3 月勧告審決)
また、岩見沢建設協会及び岩見沢管工事協同組合に対しても、その役員が独禁
法違反に関
与していたとして、所要の措置を講じるよう求めると共に、岩見沢市長に対して
も、入札談
9
合等関与行為があったと認められたため改善措置要求を行った。
(1)独禁法違反行為の概要
−省略−
(2)岩見沢市職員による入札談合等関与行為の概要等
−省略−
(3)岩見沢市長に対する改善措置要求の概要等
ア)発注担当者の行為と入札談合等関与行為防止法の関係
① 事業者に入札談合を行わせること
② 契約の相手方となるべき者を指名すること
③ 入札談合を行うことが容易になる情報であって、秘密として
管理されているものを特定の事業者に対して教示すること
イ)岩見沢市長に対する改善措置要求
−省略−
ウ)岩見沢市が講じた改善措置
−省略−
オ)会計検査院に対する通知
−省略−
地方公共団体における入札実態調査について
○入札制度問題への意見
(前文略)所謂「ゼネコン疑惑は」公共事業の発注・受注をめぐる腐敗の根の深さと広が
りを、改めて世間に印象づけた。
(中略)この腐敗は(閉鎖的、競争制限的な)
「指名競争入札」制度の中で生まれた。
(中略)談合もまた犯罪であるとともに、最も悪質なヤミカルテル行為である。ヤミカル
テルを典型とする競争阻害行為や不公正な取引、優先的な地位を濫用しての販売価格指定
や競争制限などは、商品やサービス価格の上昇等をもたらし、国民や消費者に多大の不利
益を蒙らせ、その生活を圧迫さえするものである。
(中略)公正、透明な経済取引の実現を期待するためには、今こそこれまでの入札制度を
抜本的に改め、また独占禁止法の改正等を含めその運用の強化と適正を図る事が肝要であ
る。
(中略)入札制度については、試行段階にある一般競争入札方式を定着させて一層の拡充
を図るとともに、入札参加資格の審査基準や審査内容の公表を行うべきであり、入札予定
価格や各業者の入札価格等を含めた入札結果の速やかな公表が求められる。(後文略)
(日本弁護士連合会、第43回定期総会・入札制度の改革と独占禁止法の改正及び運用強化を求める決議より)
‘94
(前文略)一般競争入札を大幅に導入した自治体では、入札参加者の間で競争が確保され
た結果、落札率が予定価格の80%台に下がっているのに対し、指名競争入札制度を墨守
している自治体の落札率は限りなく100%に近い。
(中略)会計法、地方自治体法の規定の上では、一般競争入札が原則であり、指名競争入
10
札は極めて例外的に許可されるものである。
(中略)入札制度改革に抵抗する側の代表的な意見は「落札率が低下することは工事の品
質の低下を招く」と言うものであった。しかし、落札率と工事の検査成績との間に相関関
係が存在しないことは、改革後2年余の歴史をふまえた宮城県の調査によって明らかにな
っている。
また「中小建設企業を保護する」という政策目的は、工事の分割発注や入札参加資格の上
限設定などによって実現するものであって、指名制や地域要件の撤廃と矛盾するものでは
ない。
指名制と地域要件を原則として撤廃することによって、談合を追放し、巨額な公金の無駄
づかいを防止することは、いまやすべての発注機関がただちに実行すべき法的義務である
と言うことができる。(中略)
1、予定価格250万円以上のすべての公共工事を一般公共入札の対象とし、地域要件を
原則として撤廃すること
2、予定価格を含む入札結果情報は、電磁的情報の形でも情報公開し、公正な競争の有無
を国民が容易に検証できること
(2003年、第10回全国市民オンブズマン大会 in 仙台・提言「入札制度を改革して談合を追放しよう」より)
2003年3月に行われた「宮城県公共工事入札・契約適正化委員会」で、平林委員長(東
北大教授)からの発言として、落札率と工事成績が相関関係に無い事は重要なポイントで
ある。業界の主張に対する有効な反証材料になる。落札率が高くても品質が悪いようなも
のがあることについてどの様に捉えているのか、と言う内容がある。
5月に行われた同会議で小野寺委員(弁護士)より、落札率の低い工事、そうでない工事
で品質の違いがあるのかどうか、と言う質問に、出納局長より、2千万以上の工事につい
ての工事成績評定点は低入札の有無に関わらずあまり差が無いとの答え有り。
会計法、第29条の3
契約担当官及び支出負担行為担当官は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合に
おいては、第3項及び第4項に規定する場合を除き、公告して申し込みをさせることによ
り競争に付さなければならない。
3項:契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で第1項の競争に付する必要
が無い場合及び同項の競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定め
るところにより、指名競争に付するものとする。
4項:契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することが
できない場合及び競争に付する事が不利と認められる場合においては、政令の定めるとこ
ろにより、随意契約にするものとする。
5項:契約に係わる予定価格が小額である場合その他政令で定める場合においては、第1
項及び3項の規定にかかわらず、政令の定めるところにより、指名競争入札に付し又は随
意契約によることができる。
地方自治体法、第234条
11
① 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売
りの方法により締結するものとする。
② 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限
り、これによることができる。
地方自治法施工令
第167条:地方自治体法第234条の規定により指名競争入札によることができる場合
は、1)工事又は製造の請負、物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入
札に適しないものとするとき。2)その性質又は目的により競争に加わるべき者の数が一
般競争入札に付する必要が無いと認められる程度に少数である契約をするとき。3)一般
競争入札に付する事が不利と認められるとき。
発注者責任研究懇談会(第1次取り纏め)
基本的考え方
/
発注者が工事内容を適正に「評価」し、工事内容に応じて企業の技術力を適正に活用できる入札契約
方式を選択出来る様にする。
させる。
工事成績評定を含めた企業評価の充実を図ると共に、その結果を適切に企業選定に反映
必要に応じて支援措置を講ずるなど、発注者として適正な評価が出来る為の体制をつくる。
多様な入札契約方式の選択
/
企業の技術力の適正な評価
/
各発注者統一による企業
評価の実施と企業評価データベースの整備
(第2次取り纏め)
公共工事の発注にあたっては、定期的に行われている経営事項審査や競争参加資格審査だ
けで企業を選定するのではなく、事業の内容や個々の工事がもつ地域的、技術的特性等に
応じて最も信頼出来る企業を適正に選定して発注する事が重要。
公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律施行令(平成13年2月)
公共工事の入札及び契約の適正化の基準となるべき事項(抜粋)
契約の過程並びに契約の内容の透明性が確保。公正な競争。不正行為の排除。適正な施工。
公正取引委員会・公共調達と競争政策に関する研究会(座長
金子
昇
慶應義塾大学名誉教授)
研究方向の概要(平成15年11月)
一般競争入札の対象範囲の拡大と適切な参加資格の設定
(前文略)一般競争入札といえども、入札への参加に必要な資格を定める必要があること
は指名競争入札の場合と異なるものではなく、競争参加資格を適切に設定し、また監督、
検査体制を充実することにより対処すべき。
(中略)入札参加業者の経営力や技術力を確保していくための体制整備を図っていく必要
(中略)国・地方公共団体等がデータベースを構築し、適切なデータを提供するなどの補
完・支援(後略)指名競争入札の対象範囲の限定。公募型指名競争入札の活用
中小企業の受注機会拡大・地域振興のための発注方法と競争性の確保
品質の確保
契約者選定過程の多様化
一定のコストに対して最も価値の高い調達を追求する観点から、案件に応じた契約者選定
基準を用いる必要
品質の確保に関する問題が生じる恐れの少ない案件に於いては価格だけを落札基準とする
12
方式
技術力や品質と言った要素が重要な案件については総合評価落札方式
事業者の発意による技術提案の活用が適当な案件については競争的交渉方式
○地方公共団体における入札実態調査
H15年7月財団法人建設経済研究所による「地方公共団体における入札実態調査」より
同調査は、都道府県47団体、政令指定都市12団体、中核市30団体、人口10万人以
上の市183団体、特別区23団体、合計295団体を調査対象とし、平成15年2月か
ら約1ヶ月間で行われた。
(中核市とは、人口30万人以上又は人口50万人未満の場合は100平方キロ以上の用件を満たす政令指定都市以外
の規模や能力などが比較的大きな都市を指している)
同調査は、公共工事の品質の確保と効果的な社会資本整備を行う際、適切な入札参加資格
審査と企業評価を行い、不良不適格業者の参入を排除し、民間の技術力を一層広く活用す
る入札方式が必要となる、との考え方を基に、企業評価と、入札・契約方式を取り上げて
いる。
特に近年試行亦は導入が検討されている総合評価方式及び競争交渉方式について取り上げ
られている。
(企業の事前評価)
主観的事項の審査について、全体では58%の団体で行われている。
都道府県は93.6%・政令指定都市では.90.9%で大部分の団体で実施されているが、
特別区で68.2%、中核市で53.6%、その他の市で45.7%での実施となっている。
審査項目は、
「工事成績」
「ISO 認証の取得」「指名停止暦」「優良工事等の表彰」の順にな
っており、以下、下記の様な項目が挙げられている。
(自団体、一定期間における施工実績の有無・建設業法に基く処分実績・障害者の雇用状
況・納税状況・業務災害・営業年数・建設機械の保有状況・経営不振・指定研修会への参
加・賃金不払い・施工体制・環境対策)
「優良工事等の表彰」については都道府県で45.5%と平均を大きく上回る一方、中核市・その他の市・特別区では、
順に13.3%、15%、6.7%と殆ど審査項目とされていない。
技術力や社会性を反映した主管事項の審査を行っている団体の割合が、特に中核市、その
他の市において低い。
納税の有無、賃金不払い等を事前に把握している団体が少なく、雇用保険等義務的事項を
遵守していない企業の審査は皆無であった。
13
(入札・契約制度と企業評価要件)
・一般競争入札
WTO 政府調達対象工事以外での一般競争実施状況は、全体で82.3%の団体が実施。
都道府県で70.2%、政令指定都市で54.5%と他の団体に比べやや低い水準。
他の団体では、中核市で92.9%、その他の市で85.7%、特別区で81.8%と8割以上
の団体が実施している。
都道府県・政令指定都市においても実施割合は増加傾向にある。(WTO 未満で実施の割合
は、都道府県平成11年の51.1%から14年の70.2%へ。政令指定都市平成11年の
33.3%から50%へ)
入札参加資格で採用されている項目は、所在地に関する条件(72.8%)、
他団体を含む施工実績(71%)、JV 発注工事について地元企業を構成員に含む(57,2%)
が多く、特に中核市において当該3項目の採用割合が高い。
受注者の実質的な財務力重視を反映したものでは、
法的整理中にある企業の除外(34.6%)や金融機関からの債務免除の状況(1.1%)が
ある。
JV 工事において地元企業を構成員に含むこと等の地域要件については、競争性を阻害する
可能性が有ると指摘。
横須賀市入札監視委員会では、平成16年2月に、技術力習得型の共同企業体工事は、入
札の競争性・透明性・公正性確保を考慮し、段階的に縮小、混合入札の導入と言う見解を
出している。
亦、長野県では JV 制度の廃止に伴い直接工事費の30%を県内事業者と下請け契約する義
務付けがあるが、この様な事象に対し、土工協では、見も知らない企業を下請けに強要す
るのは効率的施工を阻害し、事故等の場合発注者はどの様な責任を取るのかと言う見解を
示している。
・指名競争入札における指名基準
全体としては、所在地に関する条件(86.6%)、他団体を含む施工実績(68.2%)、JV
発注工事において地元企業を含むこと(44.9%)、法的整理中にある企業の除外(42.
8%)、自団体のみの施工実績(39.9%)となっている。
法的整理中にある企業の除外については、指名競争入札での方が高い割合で採用されてい
る。
全国建設青年会議で言われている、災害対応・協力については4.6%と低い位置にあると
思われる。
・ネゴシエーション方式実施の状況
ネゴシエーション方式とは発注者と建設業者が最終的な落札者決定前にネゴを行い、それに基いて落札者や契約内容・
価格を決定する方式。平成14年に草加市で試行された。
過去実施しているのは1団体であり、実施要領等も未策定の状況にある。
14
・入札者抽選方式実施の状況
過去実施も含め実施していのは14団体で、談合情報があった時のみ実施している団体が
6団体。
その他の団体(同調査では260団体、91.9%)では実施実績が無く、実施要領等も未
策定の状況。
実施団体
−
埼玉県、郡山市、豊田市、川越市、熊谷市、草加市、越谷市、戸田市、
さいたま市、海老名市、座間市、松原市、東大阪市、宝塚市
談合情報入手時のみ
宮城県、神奈川県、愛媛県、多治見市、大津市、新居浜市
・工区抽選方式実施の状況
実施実績は11団体、試行2団体。実施要領等未策定の状況。
実施団体
−
埼玉県、香川県、長崎県、和歌山市、所沢市、草加市、越谷市、戸田市、
豊中市、松原市、佐賀市
試行
名古屋市(一部部局)、八尾市
(企業の提案を活かす入札・契約方式及び評価基準)
公共事業の入札は、会計法に基き予定価格内で最低の価格をもって落札としているが、社
会資本は長期間にわたって利用されるものであるため、施工時点での価格ではなく、最終
的な品質の確保・最終的な社会コストと言う視点が不可欠。
工事の複雑度・難易度が高く、発注者が詳細を決められないものについては、施工者から
の提案を活かす方式の活用が望まれる。
この様な工事については価格だけではなく、品質や技術の評価が重要で、具体的な入札方
式としては入札時 VE 方式、契約方式としては設計・施工一括方式(DB)、評価基準として
総合評価方式が挙げられる。
・総合評価方式
国土交通省では、これまでの一般競争入札及び公募型指名競争入札に加え、工事希望型指
名競争入札でも総合評価方式の試行を始めている。
一方地方公共団体では、ほとんど試行実施とも成されていない。
平成13年度の発注実績は都道府県で1件、中核市で1件。
単なる価格競争ではなく、企業の技術力が評価されるとあって、業界側も導入に好意的で
はあるが、進んでいないのには、
発注者側の事務負担増大
技術提案の範囲が限られていたり、技術力評価が限定的てあることから企業側にインセン
ティブが働かない
等が挙げられている。
15
政府も行政効率化省庁連絡会議を開催し「行政効率化推進計画」の中で、入札時 VE と共に
総合評価方式の採用を推進するとしている。
全国建設業協会では、入札参加資格要件の設定、適切な地域要件の設定、技術・社会点数
の充実と共に、総合評価落札方式の適切な運用と対象工事の拡大を提言している。更に土
工協からは、総合評価方式をよりよい形で定着させる為に、試行工事を通じて得られた技
術評価項目の内容、技術評価ウエイトの妥当性を検証する事が重要であるとし、加算点方
式のほか、総合評価管理費(技術提案時に増加する費用を把握し、それを加算し予定価格
を設定する)を計上した工事の施工が必要と要望している。
総合評価方式導入にネガティブな意見としては、
落札者の決定に至るまでの発注者の事務量の増大が懸念される。
事務量の増加が考えられるが、地方自治体の財政が悪化している中で人員体制の確保が困
難。
市側の審査能力が問われ、それを解決するだけの人材の確保が難しい。
地方に於いて、その工事内容に応じた学識経験を有する者をどの様に確保するか、出来る
かと言う問題がある。
本方式を採用する際には、評価の指標・定量化等、統一した基準が必要。
総合評価方式で点数にこだわると中小企業の採用が狭まる。
大型工事とは違い、地方公共団体が実施している入札は、特に現状の入札方式で対応でき
る。
等がある。
・競争的交渉方式
落札決定時点の前段階で、価格のみならず資材、施工方法等について発注者が競争的プロ
セスの中で応札者と交渉を行った上で、契約の相手方や契約内容・価格を決定する方式。
(WTO 政府調達協定上では、第14条に規定されている。
)
我国では、会計法上の制約があるが、中部国際空港株式会社の様に会計法令対象外の団体
に於いてこの競争的交渉方式がなされており、地方自治体でも検討され始めている。
中部国際空港株式会社では、「価格調整(価格交渉)の実施;提出された見積内訳書と発注
者の積算資料を比較検討し、双方合意により見積を見直し」が成されている。
この価格調整は、客観的、公平且つ正当な理由のある場合で、必ず価格交渉を行う企業が
最低見積者で契約先候補の第1順位者である事を明らかにして行われ、2者以上の者と同
時並行してその価格調整を行わないこと、等が方針として示されている。
(予定価格の決定について)
全体では「積算価格と同額」「一定の控除額の基準」「担当者等の判断」が各3割程度。
発注者別に見ると、都道府県・特別区において「積算額と同額」の割合が高く、市レベル
では「一定の控除額(又は割合)の基準」による金額が最も多い。
16
中には、「抽選やくじ引きにより控除額(又は割合)を決定」と言う団体が、中核市に1件
とその他の市に4件存在した。
全国建設業協会では、予定価格、最低制限価格等の事前公表の廃止を提言している。
横須賀市入札監視委員会では、最低制限価格の見直しについて、平成16年2月の意見書
の中で、従来予定価格の85%であったものを「平均額型最低制限価格」に転換する事が
望ましいとしている。
予定価格を基準として最低制限価格を設ける事は、上限額・下限額共に官製価格で決める
事になり、市場による価格形成を図る為の手段である入札の本来の趣旨から考えると疑問
が残る。
平均入札額の算出基準は、生産性の高い(入札額の低い)事業者の見積を基本とするべき
点、平均額の吊り上げを意図する参加者を排除すべき点等を考慮して決める必要がある。
その為算出対象は、低い方から5番目∼10番目までの範囲内の入札額とすることが必要
である。との見解を示している。
工事入札に平均額型最低制限価格を導入している団体
佐賀市、長野県、相模原市、明石市
<検討テーマ>
企業評価の入口(経営事項審査)について
Ⅰ.経営事項審査とは
経営事項審査(以下経審)とは、官公庁の発注する工事を請け負う為に受審を義務
付けられている経営分析をいう。これは、官公庁が工事を発注する業者を客観的に分
別するために、企業に点数を付ける制度である。各官公庁は経審の評点(客観点数)
を基に、一定の独自評価(主観点数)を加味して建設業者をランク分けしている。
また、経審には、売上高、技術者数、資金繰り状況、利益率等の主な企業情報が網
羅されており、平成 10 年 12 月からインターネットにより全国 19 万の経審受審建設業
者の結果が閲覧可能となっている。
Ⅱ.経審評点と発注金額
工事発注官公庁は、建設業者をランク分類し受注可能金額を決定している。ランク
分類された業種では、いくら営業活動を活発に行なっても受注可能金額を超える工事
には指名されない。ランク分類に経審が利用されており、一般的には 5 業種(土木、
建築、管、電気、舗装)がランク分類の対象となっている。
Ⅲ.経審の役割
建設 CALS/EC の社会では、
「品質」「価格」「納期」の面で他社よりひいでた会社
17
が生き残る社会でなければならないが、現実はその様な状況ではない。実際、建設業
では「企業の信用」が重視され、この状況を変えるには信用情報を客観的に提供する
「経営事項審査」が重要な役割を持っている。官公庁では、官公需確保法を根拠に一
定量の工事は地元企業に施工させなければならなく、数多くある地元建設会社をどの
ように選別するかは非常に難しい問題である。故に、建設工事の信用を全て発注官公
庁内で計るには相当な技術力が必要となり人員面、教育費の面で大変困難な事である。
結果、①既にある地元の建設会社に選別させる。
②信用ある政治家からの紹介といった汚職の温床となりやすい業界体質へ結
びつく事となっている。
この様に汚職体質と批判される建設業界の問題は、過度に信用を必要とする構造的
な問題が根本的な原因と考えられる。「品質」
「価格」「納期」で競争するマーケットメ
カニズム機能を発揮させる為には、発注者の不安を解消するだけの企業情報が市場に
提供されなければならない。政府は公共工事の執行をめぐる不祥事が続出した事から
平成 5 年「公共工事に関する特別委員会」を設置し入札制度改革の一環として、官公
庁工事を受注する建設会社は、毎年経営事項審査を行なわなければならないとし、官
公庁の建設会社の信用情報提供を経審を中心に考える大幅な改正を行なった。
経審は客観的に建設業者の信用情報を国から提供するものであり、公表することに
より民間への利用を促し、従来より利用価値の高い仕組み作りへ迅速に改正している。
また、現在の経審は、施工能力を評価するものではなく、技術的な評価は別途各発注
者が判断する事になっている。技術的な評価についてもある程度評価基準を作り統一
的な評価制度を作り経審と合せて利用すれば、発注者の信用不安を取り除く事が可能
となる。この為には大手建設業者を中心とした元請型企業には財務指標の拡充、下請
施工型企業には、技術力の評価方法の新設が必要になると思われ、主に下請施工型企
業である我々中小建設業者が技術力評価に関し、より積極的に提言する必要がある。
Ⅳ.経審の必要性
1.経審の必要性を考える
①何故、経審は必要か?
何故なら、建設業者を客観的に「ランク」分けしなければならないため。
②何故、
「ランク」分けしなければならないか?
何故なら、「官公需確保法」の要請に基づき、大きな工事は大きな業者、小さな工
事は小さな業者に発注しなければならないため。
③何故、官公需確保法が制定されたか?
何故なら、「中小企業基本法」を実践しなければならないため。
④何故、
「中小企業基本法」を実践しなければならないか?
何故なら、中小企業を「保護」するという政策目標があるため。
⑤何故、中小企業を「保護」しなければならないのか?
何故なら、経済の二重構造論を背景とした非近代的な中小企業構造を克服(=脱
中小企業論)し、「大企業との格差を是正」するため。
18
この弱者保護の考え方により、官公需確保法が制定され、中小企業発注目標額が決ま
り、ランク制を定め、経審が実施されている。中小企業向け公共工事はこのような前提
があって行なわれており、もし中小企業を「保護」する必要がなければ、わざわざ難し
いランク分けをする必要もない上、経審をする必要もなくなるのである。大半の工事を
中小建設業者が受注する公共工事の問題を考える時、この事は非常に重要となる。
2.官公需確保法とは
<官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律>
昭和 41・6・30・法律
改正昭和 61
法律
97号
93号
改正平成 11・12・3・法律146号
改正平成 11・12・22・法律160号
第1条(目的)この法律は、国等が物件の買入れ等の契約を締結する場合における中
小企業者の受注の機会を確保するための措置を講ずることにより、中
小企業者が供給する物件等に対する需要の増進を図り、もって中小企
業の発展に資することを目的とする。
以下条文省略
第 2 条(定義)
≪改正≫平 11 法 146
第 3 条(受注機会の増大の努力)
第 4 条(中小企業者に関する国等の契約の方針の作成等)
≪改正≫平 11 法 160
第 5 条(国等の契約の実績の概要の通知)
≪改正≫平 11 法 160
第 6 条(各省各庁の長等に対する要請)
≪改正≫平 11 法 160
第 7 条(地方公共団体の施策)
<引用:「平成 15 年度中小企業者に関する国等の契約の方針」平成 15 年 7 月 11 日閣
議決定>
(10)中小建設業者に対する配慮
国等は、上記に掲げるもののほか、中小建設業者を取り巻く現下の諸情勢にか
んがみ、中小工事の早期発注等により中小建設業者に対し特段の配慮を払い、そ
の受注機会の増大に努めるものとする。
また、指名競争を行なうに際しては、極力同一資格等級区分内の者による競争
を確保することとするが、優良な工事成績を上げた中小建設業者に対しては、施
工能力等を勘案し、上位の等級に属する工事に係る競争に参加できるようにする
等積極的に受注機会の確保に努めるものとする。
特に公共工事に関する発注に当たっては、共同による請負の一層の活用等によ
り、中小建設業者に対する受注機会の増大に努めるものとする。また、地元建設
業者、専門工事業者等の中小建設業者を活用することにより円滑かつ効率的な施
19
工が期待できる工事については、極力分離・分割して発注を行うよう努めるもの
とする。
上記の通り官公需確保法について閣議決定文の中に、ランク制の堅持について書かれお
り、ランク制と経審の根拠になっている。また、この閣議決定文の中には、政府調達額の
うち 45.3%(約 4 兆 8,450 億円)は中小企業に発注すると目標値が具体的に書かれており、
中小企業の「保護」が伺える。
一方政府の規制改革会議では、官公需確保法は行き過ぎた中小企業保護であるとして問
題提起されている。
<引用:日刊建設工業新聞の平成 15 年 11 月 7 日記>
◆ 政府調達で官公需法はコスト高招く 総合規制改革会議で指摘
会議後の会見で宮内議長は、競争政策に関連した政府調達のあり方について触
れ、「毎年度、中小企業の受注割合を一定程度定めている官公需法の存在に問題が
ある」と指摘。年末の答申で、透明性と公正性を確保する観点から同法のあり方
に言及する考えを明らかにした。
3.中小企業基本法とは
<中小企業基本法>
昭和 38・7・20・法律154号
改正昭和 58・
法律
80号
改正平成 11・3・31・法律
18号
改正平成 11・7・16・法律102号
改正平成 11・12・3・法律146号
改正平成 15・4・9・法律
26号
改正平成 15・6・18・法律
88号
改正平成 15・7・16・法律119号
第1章
総則
(第 1 条∼第 11 条)
第2章
基本的施策
(第 12 条∼第 24 条)
第3章
中小企業に関する行政組織(第 25 条)
第4章
中小企業政策審議会
第1章
総則
(第 26 条∼第 30 条)
第 1 条(目的)この法律は、中小企業に関する施策について、その基本理念、基本方
針その他の基本となる事項を定めるとともに、国及び地方公共団体の
責務等を明らかにすることにより、中小企業に関する施策を総合的に
推進し、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上を図ること
≪全改≫平 11 法 146
を目的とする。
20
第 2 条∼第 30 条まで条文省略
中小企業基本法は平成 11 年 12 月 3 日、昭和 38 年の制定以来はじめて抜本的に改正さ
れた。これは従来同法の理念としてきた「大企業との格差の是正」を転換して、中小企
業を「経済発展の担い手」として位置付け、経営革新、創業促進、経営基盤強化等、個
別企業の自主的努力の個別支援を打ち出した。
新・中小企業基本法は中小企業の柔軟性や創造性、機動力に着目し、中小企業こそが
我が国経済の発展と活力の源泉であり、中小企業の自助努力を正面から支援している。
旧来の「中小企業は弱者なので保護する」という視点から「中小企業を一律弱者と扱わ
ず、中小企業こそが経済の活動の源泉であり、多様な伸びようとする中小企業を支援し
ていく」という視点に大転換を行ない中小企業基本法を抜本的に改正している。中小企
業基本法改正の概要は以下のとおりである。
21
中小企業基本法改正の概要
旧・中小企業基本法
新・中小企業基本法
1.企業間における生産性等の「諸格差の是 1.独立した中小企業の多様で活力ある成長
正」
発展
基
本
理
経済の二重構造論を背景とした非近代的な
中小企業構造を克服するという「大企業との
格差の是正」が政策目標であり、いわば「脱
中小企業論」的な考え方。
中小企業の柔軟性や創造性、機動力に着目し、
中小企業こそが我が国経済の発展と活力の源
泉であり、中小企業の自助努力を正面から支
援します。
<中小企業に期待される役割>
・ 新たな産業の創出
・ 就業機会の増大
・ 市場競争の促進
・ 地域経済活性化
念
1.中小企業構造の高度化(生産性の向上) 1.経営革新・創業の促進(自ら頑張る企業
の支援)
重
点
政
策
の
転
スケールメリットの追求(中小企業構造の高
度化)が中心で「創業」等の位置付けはない
政策。
・ 設備の近代化
・ 技術の向上
・ 経営管理の合理化
・ 企業規模の適正化
・ 事業共同化組織整備
・ 商業及びサービス業
・ 事業の転換
・ 労働に関する施策
換
経営基盤の強化として、資金、人材、技術、
情報等の経営資源の面での支援を基盤的な施
策とし、これに創業・経営革新等の前向きな
事業活動を行なう者への支援と大規模な金融
危機等の場合のセイフティネットの整備を重
点政策として位置付けます。
・ 経営革新の促進
(技術、設備、ソフト面の支援等)
・ 創業の促進
(情報提供・研修、資金供給円滑化等)
・ 創造的事業活動(ベンチャー)の促進
(研究開発、支援人材、株式・社債等
による資金調達等)
1.事業活動の不利の是正(取引条件の向上) 1.経営基盤の強化(経営資源の充実)
政
策
手
段
の
転
換
組合作りの促進や間接金融が中心の政策。
・ 過度の競争の防止
・ 下請取引の適正化
・ 事業活動の機会確保
・ 取引適正化
・ 国等受注機会確保
・ 輸出の振興
・ 輸入品との関係調整
2.金融・税制(共通の施策ツール)
・ 資金融通の適正円滑化
・ 企業資本の充実、租税負担の適正化
組合はスケールメリット追及の手段から経営
資源の相互補完の手段へ。
金融は間接金融中心から、直接金融も含め多
様な資金調達を可能に。
・ 経営資源確保
設備、技術(SBIR、産学管連携等)、
人材・情報、中核支援拠点等の整備
・ 連携・共同化の推進
・ 産業集積の活性化
・ 商業集積の活性化
・ 労働に関する施策
・ 取引適正化
・ 国等受注機会の確保
3.小規模企業への配慮
22
2.経済的社会的環境の変化への適応の円滑化(セイフテ
ィネットの整備)
・
・ 経営の安定、事業の転換等の円滑化
・ 共済制度整備、倒産法制
多
3.金融・税制(共通の施策ツール)
様
・ 資金供給の円滑化
・ 自己資本の充実、租税負担の適正化
※ 直接金融も含め、多様な資金供給
手段の整備
化
4.小規模企業への配慮
昭和 48 年以降定義の拡大はない。
資本金基準を中心に、サービス業については
従業員基準も引き上げられている。
中
小
資本金
従業員数
資本金
従業員数
企
製造業その他の業種
1 億円
300 名
製造業その他の業種*
3 億円
300 名
業
卸売業
3 千万円
100 名
卸売業
1 億円
100 名
の
小売業・サービス業
1 千万円
50 名
小売業
5 千万円
50 名
定
サービス業**
5 千万円
100 名
義
* その他の業種には鉱業、建設業、電気・
ガス・熱供給・水道業、運輸・通信業、
金融・保険業、不動産業がふくまれてい
る。
**サービス業にはクリーニング業、物品賃
貸業など、日本標準産業分類の大分類 L−サ
ービス業に分類される業種が該当。
の
拡
大
4.中小企業基本法改正の背景
① 大組織中心の終焉:冷戦終結と構造変化
冷戦体制以前の資本主義国家の象徴であるアメリカは、大企業が経済を牽引するという形がとられ
ていた。所謂、「弱者(中小企業)が淘汰される」資本主義経済であり大企業が中心の経済であった
が、日本企業の攻勢に負け、1970 年代∼80 年代において構造的な不況に陥った。
一方、社会主義圏のソ連の場合は、国全体が一つの巨大企業として官僚や研究者が考えた第 1 次五
カ年計画といった政策を全体で実施し、経済を発展させてきたが、この方法論が崩壊し、同じく不況
に陥った。
旧アメリカ・旧ソ連に共通する構造は、「大きな組織」が中心になって経済運営を行なうという形
であり、両者ともに大組織が完璧な答えを見つけて実行するやり方であったが、このやり方自体が不
可能な時代となり、唯一完璧な答えが見つからなければ、唯一の方法を大規模に実行しても大規模に
失敗してしまう時代となった。
② 中小の時代へ:アメリカ復活の理由と中小企業基本法の改正
資本主義も社会主義も「唯一の正解が見つけられないため、大規模に実施する事が出来ない」と
23
いう構造的問題にぶつかり、ソ連は崩壊し、アメリカは 20 年間不況で苦しんだ。しかし、アメリ
カ経済は再成長を始めた。
復活した経済はニューエコノミー経済と呼ばれており、現在アメリカで行なわれているニューエ
コノミー経済政策は、「一つの大企業」や「一つの国」が考える政策に全てを投資するのではなく、
数多く存在する政策、つまり多くの中小企業や NPO が考え出した事業計画に対し、株式投資など
により分散投資し、もし一つ失敗しても他でカバーするという、小組織に分散投資する経済に移行
した。これによりリスクを減らし、果敢に挑戦する社会体制を実現できることになり、アメリカ経
済の再成長が始まった。
こういった時代の変化を背景に、中小企業基本法は改正された。日本の中小企業も弱者ではなく、
新たな事業を開発し、新しい雇用の場を提供する「経済主体」としても機能を持っている。そうい
った企業を政府は支援していくという事である。金融ビックバン・税制改革などの政策もこの文脈
の中で考えられる重要な政策である。
中小企業こそが経済の主体であると考えれば、「中小企業がどんどん淘汰されて、新しい中小企
業が出て来ない」「弱者保護を名目に既得権者を保護して、新しいアイデアを持つ企業を排除する」
という状況は分散投資が出来なくなるという観点から大きな構造問題であると考えられる。この様
になってしまった日本の経済状況は、社会・経済問題を解決する可能性のあるアイデアを形にする
前に潰してしまっている社会であり、アメリカの不況時代と同様である。
誰も完璧な答えは考え出せない。だから様々な人・企業が新しいアイデア・事業計画を出して問
題解決に試行錯誤する。その中で出来るだけ正しいものを皆で選択し、見つけ出す。そういった努
力をする人を国は支援する。これが改正中小企業基本法の考え方の根底にあると言える。
Ⅴ.建設業界における経審監査とディスクロージャー
アメリカのニューエコノミー経済を支える重要な施策は、小さな企業への株式投資など直接金融の環境
整備であり、また個人投資家が挑戦する人への投資を促すため、上場基準の引き下げ、投資組合の法整備、
士業者の支援体制整備、税制改革、規制緩和、会計監査、そして投資家保護のための決算書公表等、ディ
スクロージャーの環境整備であった。
現在、日本の約 19 万社の経審受審業者はすべてインターネットで結果が公表されており、更に都道府
県に行けば、建設業許可業者約 60 万社の決算書がすべて閲覧可能であり、もう既に建設業界はディスク
ロージャーが行なわれていると言える。これを考えれば、全国の中小建設業者に直接金融を使う環境整備
はある程度出来ていると考えられるが、一方で会計監査の環境が整っていない。公表されている 19 万社
の経審データも上場企業以外は監査が行なわれておらず、いくらディスクロージャーされていても、その
データが正確でなければ投資家を呼び込み、「挑戦する中小企業」に資金を集めるという本来の目的は実
現できないのが現状である。経審監査はこの問題を解決する大きな可能性を持っている。
Ⅵ.経審監査の必要性
経審監査の必要性は、新しい問題に挑戦する中小建設業者のためであり、またそれを応援する投資家の
ためにあると言える。また現状、公共事業における経審を中心とした企業評価において、申請者(建設業
者)による虚偽申請が指摘されており、企業評価の公正性や正確性を担保する観点から、また不良・不適
格業者の排除の観点からも、虚偽申請の徹底的な排除に向けた施策として第三者機関による「経審監査」
が必要と思われる。
Ⅶ.検討事項
24
1.現行の Z 評点(技術者評点)に関し、技術者数のみならず、施工能力を加味した評価制度。
① ISO9000 シリーズ取得による評価
② CPDS 取得単位数による評価
③ その他
2.経審監査による企業の社会的信頼性の向上と企業評価の公正性・正確性の担保及び不良・不適格業者
の排除
企業評価の出口(工事成績評定・施工成績評定)について
「サンプリング件数」
9ブロック−25地方自治体
北海道ブロック(北海道庁、旭川市)
東北ブロック(福島県、山形県、宮城県)
関東ブロック(東京都、群馬県、横浜市、藤沢市、御殿場市)
北陸ブロック(富山県、新潟県)
中部ブロック(長野県、豊田市、御嵩町)
近畿ブロック(京都府、京都市)
中国ブロック(広島県、広島市)
四国ブロック(香川県、高松市)
九州ブロック(福岡県、福岡市、北九州市、大分市)
「調査結果」
全国の地方自治体のうち、任意にサンプリングした25の地方自治体の工事成績評定の内容に
ついて比較調査を実施いたしました。
その結果、都道府県単位ではそのほとんどが、工事成績評定表、項目別評定点採点表、工事成績
考査項目別運用表を公開しており(表題の名称は若干異なる)、検査の段階(監督員、総括監督
員、検査員)、検査項目、細目別の配点など共通点がかなりありました。
また、市町村では、工事成績表定表、項目別評定点採点表、工事成績考査項目別運用表すべて
の公表は少なかったが、工事検査規程(資料4)を公表しているところは多くありました。以下
に25地方自治体の公表状況を一覧表にて示します。
「都道府県」
ブロック
自治体名
工事成績考査
項目別運用表
北海道
東 北
〃
〃
関 東
〃
北 陸
北海道庁
福島県
山形県
宮城県
東京都
群馬県
富山県
○
○
○
○
○
○
○
工事成績評定表
○
○
○
○
○
○
○
25
項目別評定点採点表
○
○
○
○
○
○
○
工事検査規程
○
○
○
○
○
―
○
〃
中
近
中
四
九
新潟県
長野県
京都府
広島県
香川県
福岡県
部
畿
国
国
州
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
―
○
○
○
―
○
―
○
○
○
○
○
―
NO.2
「市町村」
ブロック
自治体名
工事成績考査
項目別運用表
北海道
関 東
〃
〃
中 部
〃
近 畿
中 国
四 国
九 州
〃
〃
旭川市
横浜市
藤沢市
御殿場市
豊田市
御嵩町
京都市
広島市
高松市
福岡市
北九州市
大分市
○
―
―
―
○
―
○
○
○
―
―
○
工事成績評定表
―
―
○
―
―
―
○
―
○
○
○
○
項目別評定点採点表
○
―
―
○
○
―
―
―
―
○
○
○
工事検査規程
○
○
○
○
―
○
○
○
○
○
―
○
工事成績考査項目別運用表(資料 1)及び工事成績評定表(資料2)における評定方法は、以
下に示す様な、a∼eの段階評価を行っているケースが多く、それぞれの段階では下記の様な評
価基準でレベルわけが行われています。
また、「高度技術」
「創意工夫」「社会性等」では、一定範囲内で加点評価が行われており、
「法令遵守等」では、法令違反や公衆災害・労働災害の発生により、減点評価が行われています。
a
b
c
d
e
各項目に対して、他の工事の模範となる能力を発揮した。もしくは、模範となる成果
が認められた。
各項目に対して、優れた能力を発揮した。もしくは、優れた成果が認められた。
受注者として最低限求められている事項を満足させた。
各項目に対して、不適切な事象が認められた。
重大な欠陥または不誠実行動が認められた。
工事成績評定の基準は、概ね以下に示すように7つの項目に分かれており、それぞれの項目を
工事成績考査項目別運用表(資料1)により評価し、それを工事成績評定表(資料 2)で点数化
し、項目別評定点採点表(資料 3)で評価点を算出して工事成績を決定するという仕組みの所が
多く、項目の中では一般的に、品質・出来形・施工管理・安全対策・出来ばえの配点が高くなっ
ています。
26
NO.3
項
目
細
別
考
査
内
容
1.施工体制
Ⅰ.施工体制一般
Ⅱ.配置技術者
・施工体制及び施工管理体制の評価
・現場代理人、主任(監理)技術者、専任技術者等の職務の
執行及び技術的判断に関しての評価
2.施工状況
Ⅰ.施工計画
・施工計画書に基づき、適切かつ効率的な施工管理を実施している
かどうかの評価
・適切な工程管理を実施しているかどうかの評価
・安全管理措置を適切に実施しているかどうかの評価
・対外調整、周辺環境対策等に対して、適切に実施しているかどう
かの評価
Ⅱ.工程管理
Ⅲ.安全対策
Ⅳ.対外関係
3.出来形及び Ⅰ.出来形
出来ばえ Ⅱ.品質
Ⅲ.出来ばえ
・目的物の出来形の水準を評価
・目的物の品質水準を評価
・目的物の仕上げや、すりつけ等の出来ばえの評価及び機能の評価
4.高度技術
Ⅰ.高度技術力
5.創意工夫
Ⅰ.創意工夫
・施工規模や工法等の難しさ、厳しい自然環境・社会条件に対して
高度な技術力をもって対応したものの評価
・施工、品質、安全衛生等について、創意工夫をもって対応したも
のの評価
6.社会性等
Ⅰ.地域への貢献度
7.法令遵守等
・環境保全、地域とのコミュニケーションや地域活動への参加、地
域への援助等で、地域に貢献した内容の評価
・関係法令等を遵守して、無事故・無処分で工事を実施したかどう
かの評価(減点のみ)
「考察」
工事成績評定は、同一地方における施工技術の統一的な評価基準であり、主観点数の中で大き
なウェートを占めるものですが、完全な全国共通のシステムにはなっておらず、発注者(自治体)
間で、業者の技術力の評定比較を容易にするためにも、全国的に統一された成績評定システムの
実施が望ましいと思われます。
また、工事の品質確保の観点から、現行のものでも施工時における粗雑工事防止に繋がってい
るとは思われますが、良質な施工の更なる道義付けのためにも、成績評定結果が経営事項審査そ
のものの技術評点に反映されるなどの方策が必要だと思います。
27
『履行保証制度』と『履行ボンド』
(平成 16 年度全国建設青年会議事業 第2回準備会
資料)
1. 履行保証制度
履行保証制度は、請負契約の確実な履行を担保するための保証措置。我が国の会計法及び
地方自治法においては、請負者に対して契約保証金の納付を義務付けているが、国債等の有
価証券や、保証会社の保証、履行ボンド等を提供することにより契約保証金の納付に代える
ことができる。
また、履行保証制度には、請負者の契約不履行による損害を金銭的に補填する「金銭的な
保証」と、工事の完成そのものを保証する「役務的な保証」に大別される。
発注者の選択
請負者の選択
・契約保証金の納付
・有価証券等の提供
履行保証の要求
金銭的な保証の要求
・金融機関の保証
・保証会社の保証(契約保証)
・履行保証保険
・履行ボンド
役務的な保証の要求
・履行ボンド
履行保証の免除(無保証)
2. 履行ボンド
(1) 履行ボンドとは
請負業者からの保証依頼に基づき、損害保険会社が発注者に対して保証証券を発行す
ることにより、請負業者が請負契約を履行することを保証するもの。
請負業者が債務不履行になった場合の損害を、発注者が損害保険会社に保証させる。
(2) 保証の種類
a) 保証金を支払う金銭的保証
b) 残工事を代替業者によって完成させる役務的保証
(3) 履行ボンド導入の副次的効果
損害保険会社が履行ボンドを引き受ける際は、請負業者の経営状況や履行能力などを
審査し、工事を請け負うことが難しいような場合は履行ボンドの引受けを拒否する。
履行ボンドを断られた請負業者は公共工事を受注することができず、不健全な請負業
者の受注を未然に防ぐことができるという効果も有る。
38
3. 『新たな保証制度に関する実務研究会報告』(平成 14 年 7 月 19 日 国土交通省)要約
2001 年(平成 13 年)12 月 4 日∼2002 年(平成 14 年)7 月 19 日 全6回開催
(1) 新たな保証制度の基本的な制度設計案
a) 保証請求の時期
入札参加時点での履行ボンドの予約(ないしは条件付契約)を求めることとするの
が適切。←現在の履行保証制度は受注後に保証契約を締結。
b) ボンド引受け時の審査事項
入札参加時点の保証(=履行ボンド予約)は、公共工事の受注を希望する建設業者
の経営状況を審査し、与信の可否を判断するもの。故に、技術力の審査等は困難。
c) 発注者による受注者選定との関係
公共工事の受注者の選定は、最終的には発注者がその責任において行なうべきもの
であり、履行ボンド予約は入札参加条件の一つ。
d) ボンド引受機関
引受機関として想定されるのは、損害保険会社、都市銀行、地方銀行等の金融機関
等。
e) 履行ボンド予約の対象工事
当面、一般競争入札の対象となるような大規模工事を対象とすべき。
f) 会計法令に基づく保証制度との関係
履行ボンド予約は入札参加時点で履行保証を受けられることが確実であることを担
保するものとして取得を求めるものであり、現在行われている履行保証の一形態と
して位置付けられるもの。
g) 履行ボンド予約の保証料(手数料)
入札参加時点に一定の審査を行うこととなることから、履行ボンド予約は有料とな
るものと想定。 保証料(手数料)は建設業者の経営状況に応じて相応の格差が設け
られることとなろう。
h) 経営事項審査との関係
履行ボンド予約が導入されても、受注者選定を行う発注者の判断材料としてのデー
タが必要であること、履行ボンド予約が当面大規模工事に限定したものとならざる
をえないことからも、経営事項審査については引き続き行うこととすべき。
損害保険会社等からも経営事項審査は、なお重要な役割と指摘。
(2) 新たなボンド制度導入の可能性
a) 損害保険会社
下記の理由から現時点での新たなボンド制度導入によるボンドの引受けは困難との
認識。
① 海外の再保険機関による日本の建設業向けの再保険枠はむしろ狭められる傾
向にあり、履行ボンド予約引受に伴う新たなキャパシティーの確保が極めて困
難である。
② 審査件数の大幅な増加と与信管理負担の増大に対応するため不可欠な新たな
システム整備や審査人員の確保について現状では収益性に疑問がある。
b) 都市銀行等の金融機関、前払保証事業会社等
主たる引受機関とすることは困難であり、既存の機関以外に新たな引受機関の設立
も難しい状況。
こうしたことから、現状においては、現時点での履行ボンド予約の制度導入は主に引受
機関の問題から困難。
29
(3) 今後の検討課題
引受機関の観点から直ちに新たなボンド制度を導入することは困難であるが、新たなボ
ンド制度導入の意義は大きく、また、経済環境の変化に対応して今後速やかに導入が可
能となるよう、引き続き以下の点について検討を進めるべき。
a) 実現可能な制度設計上の課題
① 引受機関の引受能力(キャパシティー)を広げる方策
引受機関である損害保険会社として最大の課題はキャパシティーの確保であ
るとの認識が示されたところであり、制度を実現する上ではまずキャパシティ
ーの確保方策の検討が必要。
② 履行ボンド予約と引受機関の与信枠の設定との関係
契約上、保証の効力が発生するのは落札・契約締結後である保証予約という形
態であっても、個々の引受機関としては、予約を行なう全ての建設業者が落札
し契約する可能性があることを前提として、与信枠を設定する必要が有るとの
指摘有り。引受機関のリスクヘッジをどのように制度化するかという点とも関
連すると考えられ、米国の例を参考に更に検討を深める必要。
※米国での与信審査…最初のボンド発行時点で厳格に行われ、設定された与信
枠を超えない限り、各入札時点での審査は比較的容易。
b) 関連制度等との関係
① ボンドの付保割合
国土交通省発注の一般競争入札対象工事においては、発注者のリスクヘッジと
経営悪化企業に対する受注の歯止めを期待して、履行保証割合が3割に引き上
げられている。履行ボンド予約を導入する場合、引受機関の与信枠との関係等
から、付保割合を3割とするかどうか検討が必要。
② 前払金制度との関係
履行ボンド予約の導入に当たっては、前払金制度の見直し、部分払などの公共
工事の代金支払方法の改革等と一体的に行なわれるべきである。
③ その他
一般競争入札の場合、入札参加資格の確認申請に併せて履行ボンド予約を提出
することとするのか、入札期日に提出することで足りるとするのか、整理が必
要。
(4) 終わりに
建設産業の経営状況の変化に対応した発注者のリスクヘッジと、建設産業の淘汰・再編
の促進等に資すると考えられる実現可能な新たなボンド制度についての検討を行なっ
た。
しかしながら、新たなボンド制度は市場でのプレイヤーを主体とした引受審査と与信設
定の制度を構築することから、その実現に向けては再保険の問題をはじめとする市場と
して受け入れるための条件が整うことが不可欠。米国の景気低迷とテロの影響により、
世界的に再保険市場が収縮しており、本研究会としては現時点での制度導入は困難と判
断せざるを得なかったところ。
今後、本研究会の検討結果を踏まえ、関係者の間で実現に向けた幅広い議論、検討が進
展することを期待する。
以 上
30
2004.8.4 日本工業倶楽部
地域再生参画をチャンスに
提出者:四国ブロック 丸浦世造
地域BANK
市 民
PFI
官
①
NPO
④
②
新しい社会基盤整備
③
旧来の
ゼネコン
⑧
⑥
⑦
CM
PM
参加
在来の社会基盤整備
⑤
21世紀型
ゼネコン
<論 点> PFI、NPO、PM/CM は、いずれも新しい社会基盤整備のアプローチであり、今後
の地域再生に適用されることが期待されている。我々も、地域再生に貢献する
ためにも、新しいビジネスチャンスを見出すためにも、こうした新しい社会基盤
整備の枠組みで活動する方法を模索してみてはどうか?
<備 考> 上図の各領域が検討の対象となる。
たとえば、領域①は PFI 事業に資本参加のみする場合に該当する。
(NPO にも PM/CM にも関係ない)
また領域④は行政が募集する PFI に NPO が応募する場合に該当する。
すべてが重なった領域⑧は、以下のように理解される
・ NPO が PFI の主体(選定企業)になる
・ NPO が PM 業務を実施、または NPO から PM 業務が外注される
・ PMR が CM 業務を実施、または PMR から CM 業務が外注される
31
PFIと地域性の関係
公共事業
民間事業
一般競争
地域性
地域要件
特命随契
一括下請
施工体制
「契約に関するガイドライン−PFI事業契約における留意事項について−」
平成15年6月23日、民間資金等活用事業推進委員会より転載
PMとCMの違いとは?
企画
計画
設計
調整・契約
工事
工事監理
CM業務の範囲
PM業務の範囲
• 事業主自身 or インハウス
• 設計者、請負者の付加的業務
• 設計者、請負者以外の第三者
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維持・管理
NPOの役割とは?
• 営利法人とNPOの違い
– 営利法人
– NPO
→ 利益の追求
→ ミッションの追求
• 委託と請負の違い
– 委託
– 請負
→ 行政とのパートナー
→ 事業の受注者
• NPO法人の役割
–
–
–
–
行政サービスは公平性・平等性の点で限界
NPOが限界をカバー(民間の効率性、自由な発想)
結論1:行政サービスに不可欠な存在
結論2:新たなビジネスチャンス
33