WHITE P APER Hitachi Accelerated Flash がもたらすストレージシステムの変革 Sponsored by: 日立製作所 森山 正秋 February 2013 IDC Japan(株)〒 102-0073 東京都千代田区九段北 1-13-5 Tel 03-3556-4761 Fax: 03-3556-4771 www.idcjapan.co.jp 調査概要 企業のストレージシステムに対する選択基準が変化している。「I/O-Intensive(I/O 性能指向型)データ」の高速処理によってアプリケーションからビジネス価値を迅 速に引き出すことや、サーバー仮想化/デスクトップ仮想化などの普及に伴い IT シ ステム全体の中でボトルネックになりつつあるストレージのパフォーマンス改善の ために、ストレージシステムの I/O 性能向上に対する要求が強まっている。しかし、 HDD ベースのストレージシステムでは、I/O 性能の向上と、低消費電力化、省スペ ース化、リソース(容量など)の効率的利用といった要求を同時に満たすことは容 易ではない。そうした中で NAND 型フラッシュメモリーをストレージシステムに搭 載し、I/O 性能の向上と同時に低消費電力化や省スペース化などの要求に応えられる ソリューションが本格的に立ち上がりつつある。本ホワイトペーパーでは、サーバ ーやストレージシステムなどのエンタープライズ市場においてフラッシュメモリー 技術が必要とされる背景や、フラッシュメモリー利用の促進要因と阻害要因を分析 すると共に、日立製作所のエンタープライズディスクアレイシステム Hitachi Virtual Storage Platform ( VSP ) 向 け フ ラ ッ シ ュ モ ジ ュ ー ル 「 Hitachi Accelerated Flash 」 (HAF)の特徴や課題解決のための有効性、また、その普及において日立製作所が 取り組むべき課題について考察する。 ストレージインフラに対する要求の変化 IDC では、国内企業のディスクストレージシステム利用実態に関する調査を毎年実施 している。Figure 1 は、国内企業が次回の更新時において、外付型ディスクストレー ジシステム機能の選択基準として重要視する項目を、大企業(従業員規模 1,000 人以 上)と中堅中小企業(同 999 人以下)に分けて示している。 上位の 3 項目(運用/管理コスト削減効果、拡張性、大容量)は、大企業、中堅中小 企業に関わりなく過去から常に上位 3 位以内に入っているストレージシステムに対す る基本的な要求である。第 1 位に「運用/管理コスト削減効果」が入っているのは、 国内企業では IT 投資の抑制傾向が続いており、初期投資コストと併せて運用/管理 コストの削減が課題になっていることを示している。 一方、4~7 位の 4 項目は、この 1~2 年で回答率が以前と比べて大幅に伸びている項 目である。4 位の低消費電力と 7 位の省スペースは、企業のデータセンター運用の効 率化と密接に関わっている。データセンターの効率的運用を実現するためには、電 力コストと冷却コストの抑制や、サーバーやストレージの設置スペース削減による 省スペース化が重要な投資課題になっている。コスト削減や環境配慮といった観点 のほか、2011 年の東日本大震災による電力不足を契機として、データセンターの低 消費電力化と省スペース化は事業継続や災害対策とも結び付き、国内企業が取り組 むべき喫緊の課題となっている。また、5 位のセキュリティは、国内企業における IT インフラの統合や、プライベートクラウド構築など、複数のアプリケーションや部 門が利用する共有インフラの構築が進むにつれて、その重要性が増している。 6 位のストレージシステムの I/O 性能の高さに対する要求の増大は、国内企業が今後 のストレージインフラ構築を考える上で重要な示唆を与えている。IDC では 2011 年 ~2016 年における国内のディスクストレージシステムの出荷容量は年率 40%以上で 成長すると予測している。その期間においては、多様な種類のデータが増大してい くとみられるが、その中でも高速アクセスや高速処理を必要とする「I/O-Intensive デ ータ」は最も成長率の高いデータの 1 つであると考えられる。「I/O-Intensive デー タ」としては、現在では OLTP(On-Line Transaction Processing)、ERP(Enterprise Resource Planning)、金融系データベース、研究/開発におけるシミュレーションな どが挙げられる。こうしたデータを利用するアプリケーションでは、ビジネス上の 要求に対応するため、I/O 性能の向上に対する要求が高まっている。さらに、今後、 国内企業においても利用の広がりが予測される「ビッグデータ」処理では、巨大な データをいかに保存するかと同時に、そこから迅速に価値を引き出すため、リアル タイム処理などの高速処理が求められている。 FIGURE 1 外付型ディスクストレージシステムの機能で次回更新時に重視する上位 10 項目 運用/管理コスト削減効果 拡張性 大容量 低消費電力 セキュリティ I/O性能の高さ 省スペース データ保護機能 容量削減技術 サーバー仮想化環境での運用性 0 10 20 30 40 50 (%) 大企業(n = 135) 中堅中小企業(n = 190) Note: 『国内企業のストレージ利用実態に関する調査 2012 年版(IDC #J11660601、2012 年 2 月発行)』を基に作成 Source: IDC Japan, February 2013 企業が保有するデータの絶対量から見ると低コスト/大容量ストレージに保存され る「Capacity-Optimized(容量指向型)データ」が占める割合が圧倒的に多いが、企業 のビジネスに与える影響の大きさという観点では、「I/O-Intensive データ」をいかに 2 #500170 ©2013 IDC 管理し、そこからいかに価値を引き出すかが、今後のストレージインフラ構築に当 たっての重要な課題となる。 しかし、CPU がマルチコア化などの技術によってムーアの法則通りにその能力向上 が続いているのに対して、HDD の性能は CPU の能力向上に追随できていない。 HDD の性能は回転数(RPM:Revolutions Per Minute)で測られるが、10 年以上前に 1 万回転から 1 万 5,000 回転に上昇して以降、それ以上の回転数の向上は実現していな い。このため、「I/O-Intensive データ」を活用する際に、IT システム全体の中で HDD ベースのストレージシステムの I/O 性能がボトルネックになるケースが増えて いる。また、サーバー仮想化やデスクトップ仮想化の普及によって、仮想化環境に おける仮想マシンの増大やブートストームへの対応などのために、ストレージシス テムに対して I/O 性能の向上が求められるようになっている。 ストレージシステムの I/O 性能向上を図ろうとするときに課題となるのは、Figure 1 で示したストレージシステムに対する他の要求(低消費電力、省スペース、ストレ ージリソースの有効利用、コスト削減など)も併せて実現することが強く求められ るということである。これまでストレージシステムの I/O 性能向上の方法の 1 つと して、容量に対する必要性とは別に、高速回転の HDD を大量にストレージシステム に搭載することが行われてきた。しかし、この方法では、システム全体のコスト増 を招くと共に、ストレージシステムのリソース(容量など)の利用率を低い水準に 留めていた。また、搭載される HDD 台数の増加や、それに伴う筐体の大型化や設置 スペースの増大は、データセンターの効率運用の必須要件となっている低消費電力 化や省スペース化とも相反していた。 HDD ベースのストレージシステムでは、IT システム全体の中での I/O ボトルネック の解消や、それと相反するストレージシステムに対する要求を同時に満たすことが 困難になっている。そのような中、エンタープライズ市場では、フラッシュメモリ ーをストレージシステムやサーバーに搭載することで、I/O 性能の大幅な向上や、低 消費電力化、省スペース化、リソースの効率的利用を実現するソリューションが登 場し、注目を集め始めている。 エンタープライズ市場におけるフラッシュメモリー利用の メリットと課題 NAND 型フラッシュメモリーのストレージ利用は、PC、スマートフォンに代表され るコンシューマー市場ではすでに浸透しているが、サーバーやストレージシステム などのエンタープライズ市場では本格的な導入は始まったばかりである。 HDD と比較したフラッシュメモリーのメリットとしては「高速なデータ処理速度」 「優れた耐衝撃性」「低消費電力」などを挙げられる。一方、デメリットとしては 「ビット単価が高い」「小容量」「書き込み回数の制限」などが挙げられる。また、 フラッシュメモリーは、SLC(Single Level Cell)と MLC(Multi Level Cell)の 2 種類が ある。SLC は 1 つの記録素子に 1 ビットのデータを保持するのに対して、MLC は 1 つ の記録素子に 2 ビット以上のデータを保持できる。MLC は SLC に比べて、書き込み 回数とデータ保持期間で劣るが、大容量化やビット単価の低減を進めやすいという メリットを持っている。エンタープライズ市場では、フラッシュメモリーが利用さ れ始めた当初は SLC が主力で利用されていたが、現在では大容量化やビット単価の 低減で勝る MLC が主力で利用されるようになっている。 エンタープライズ市場におけるフラッシュメモリーの提供形態の 1 つとしては、SSD (Solid State Drive)として提供される場合が挙げられる。SSD は複数のフラッシュメ モリー、およびコントローラー、キャッシュ(DRAM)、接続インターフェース (SATA、SAS など)を備えたドライブ装置である。HDD 同様にサーバーやストレー ジシステムに搭載して利用される。 ©2013 IDC #500170 3 もう 1 つの提供形態は、複数のフラッシュメモリーを集約し、専用フラッシュコント ローラーで制御するアーキテクチャで、「オールフラッシュアレイ」や「フラッシ ュモジュール」などの形で提供されている。専用フラッシュコントローラーでフラ ッシュメモリーを制御することで、高性能や高信頼性を実現できる。 フラッシュメモリーを SSD や、オールフラッシュアレイ、フラッシュモジュールな どの形でストレージシステムに適用することでユーザーは以下のメリットを得られ る。 ハイパフォーマンスの実現:高速なアクセス性能を持つフラッシュメモリーを 利用することで、ストレージシステムのスループット性能(IOPS:Input/Output Per Second)とレスポンス性能(ランダムリード応答時間)を大幅に改善し、ア プリケーションのパフォーマンスを向上させることができる。 低消費電力/省スペース:フラッシュメモリーをストレージシステムに利用す ることで、I/O 性能向上のために大量の HDD を搭載していた従来の HDD ベー スのストレージシステムと比べ、HDD 搭載台数を大幅に減らし、低消費電力化 や省スペース化をパフォーマンスの向上と同時に実現できる。 ストレージリソースの効率的な利用:フラッシュメモリーを利用して、ストレ ージシステム装置内で複数のストレージ階層を構成することで、データの価値 やアクセス頻度に応じた最適なコスト/サービスでのデータ管理やリソース (容量など)の効率的な利用が可能になる。たとえば、アクセス頻度の高いデ ータをフラッシュメモリーに保存し、アクセス頻度が低いデータを低コスト HDD に移行することで、データの利用頻度に合わせたサービスや、リソースの 効率的な利用が可能になる。さらに、階層管理ソフトウェアと組み合わせ、ポ リシーに基づいたデータ移行を行うことで、運用/管理に関わるコストや作業 負荷の削減を進めることができる。 ストレージ効率化技術との組み合せ:フラッシュメモリーのビット単価は以前 に比べて低下しているが、HDD のビット単価と比べるとその開きはまだ大きい。 しかし、エンタープライズ市場で浸透し始めている重複排除技術やデータ圧縮 技術を組み合わせることで、フラッシュメモリーのビット単価やコストを抑え ることも可能になる。 エンタープライズ市場で利用が進み始めているフラッシュメモリーであるが、スト レージシステムなどで利用する際に留意すべき点もある。1 つは HDD と異なる、フ ラッシュメモリーの固有の特徴である。改良が進みつつあるが、NAND フラッシュ メモリーは、書き込み回数(書き込み寿命)が制限されているほか、長期間利用し ているとビットエラーが発生する可能性がある。また、同一領域への上書きができ ないため、書き込み時には、更新領域と呼ばれるバッファ領域を使って新しいデー タを書き込み、旧データ領域を順次消去する作業が必要になる。 また、フラッシュメモリーのビット単価は以前に比べて低下しているが、大量に利 用するとコストが大幅に上がってしまう。このため、フラッシュメモリーと HDD を 利用して階層型ストレージを構成しても、高価なフラッシュメモリーを大量に使う ことはできず、高性能領域の容量が限定されることで、階層ストレージのメリット を十分に発揮できないといったケースも出ている。 上記の理由から、エンタープライズ市場では、フラッシュメモリーのメリットを十 分理解していても、その利用に踏み切れないユーザー企業は少なくない。同市場で フラッシュメモリーを適用したストレージシステムの利用が広がっていくためには、 その高信頼性の確保や、コストパフォーマンスを大幅に向上できるソリューション が求められている。 4 #500170 ©2013 IDC Hitachi Accelerated Flash がもたらすメリット コストパフォーマンスの向上 Hitachi Accelerated Flash(HAF)は、日立製作所が 2012 年 11 月に発売した大容量フラ ッシュモジュールであり、大容量フラッシュメモリーデバイスである Flash Module Drive(FMD)と、FMD を搭載する大容量/高密度実装の専用筐体 である Flash Module Drive Chassis(FBX)の総称である。現在は、エンタープライズディスクアレ イシステム Hitachi Virtual Storage Platform(VSP)で利用できる。 VSP は、HAF の投入により、キャッシュメモリー、次いで SSD や HAF で構成される 高性能領域から、SAS HDD、さらに SATA HDD またはニアライン SAS HDD で構成 される低コスト/大容量領域までの階層ストレージを構成することが可能になった。 大容量フラッシュメモリーデバイスである FMD は、MLC フラッシュメモリーと日立 製作所が独自開発した専用フラッシュコントローラーで構成されている(Figure 2 参 照)。FMD は、物理容量 2TB のフラッシュメモリーを搭載しており、RAID-1/5/6 の 構成を組むことができる。また、FBX は、FMD を最大 48 台(76.8TB)まで搭載可能 で、VSP のディスク制御装置(DKC:Disk Controller)1 台当たり、最大 2 台まで FBX を搭載できる。VSP では最大 4 台の FBX(192FMD)の搭載が可能で、その場合フラ ッシュ領域の物理容量は 307TB に達する。 独自開発された専用フラッシュコントローラーは、高性能マルチコアプロセッサー、 DRAM メモリーコントローラー、フラッシュメモリーコントローラー、制御ソフト ウェア用メモリーなどをワンチップ化したものである。コントローラーは、フラッ シュメモリーの制御のほか、フォーマットデータ生成、データチェックなど、FMD の高信頼/高機能を実現する機能を備えている。 FIGURE 2 日立製作所の Flash Module Drive の構造 Source: 日立製作所, 2013 ©2013 IDC #500170 5 HAF の最大の特徴の 1 つは最大 307TB までの大容量/スケーラビリティを提供する と共に、VSP における SSD 構成に比べてそのコストパフォーマンスを大幅に向上し ている点にある。SSD ではドライブ 1 台当たりの容量を増やすことで、ビット単価を 下げてきた。一方、FMD は、MLC フラッシュメモリーを 1 モジュール内に集約し、 それを専用フラッシュコントローラーで制御するアーキテクチャを採用することで、 大幅にコストパフォーマンスを向上させることが可能となった。日立製作所の試算 によると、VSP において SSD 構成と HAF を比較した場合、7.0TB の HAF では、3.2TB の SSD 構成(400GB×8 台)とほぼ同等の価格での購入が可能になったとしている。 高信頼性の実現 フラッシュメモリーのエンタープライズ市場での利用を進める上では、フラッシュ メモリー固有の動作特性を管理し、エンタープライズ市場で必要とされる高信頼性 の確保が必要となる。HAF では、以下の FMD 内部機能であるオンラインデータリフ レッシュ機能(データ診断機能/リードリトライ機能)、さらに VSP と連携した定 期的データ診断/回復機能により高信頼性を確保している(Figure 3 参照)。 データ診断機能:FMD 内部では、定期的にデータのチェックを行い、フラッシ ュメモリー上で発生しているビットエラー率を測定し、問題が進行する前に、 データを読み出して別領域にコピー(リフレッシュ)する機能を持っている。 さらに、ビットエラー率が閾値を超えた領域については、データを移動後、そ の領域を使用不可とし、データのリフレッシュを実施する。 リードリトライ機能:FMD の ECC(Error Correction Code)訂正能力以上のビッ トエラーが発生した場合は、コントローラーからフラッシュメモリーのパラメ ーターを調整して読み直すリードリトライ機能でデータを読み出してリフレッ シュを実施する。 VSP との連携:VSP では、そのコントローラーに定期的に FMD のデータ診断結 果を吸い上げ、読み出しできない部分については他のフラッシュモジュールか らデータを集めて回復させる機能を持っている。VSP と HAF が緊密に連携する ことで、FMD のデータ診断機能だけでは対応できない故障などによるデータ損 失を防ぎ、システム全体の信頼性を確保している。 6 #500170 ©2013 IDC FIGURE 3 Hitachi Accelerated Flash の高信頼性確保の仕組み Hitachi Virtual Storage Platform VSP連携での データ回復 Hitachi Accelerated Flash フラッシュメモリー リードリトライ機能での リフレッシュ 定期診断&リフレッシュ MLCフラッシュメモリー Source: 日立製作所, 2013 また、HAF ではフラッシュメモリーセルスマート管理機能を持っている。フラッシ ュメモリーは一定期間でのリフレッシュが必要になるが、書き込み回数が多くなる とデータの保持期間が短くなるという特性がある。フラッシュメモリーセルスマー ト管理機能は、それぞれのフラッシュメモリーの状態に合わせてリフレッシュ間隔 を最適化する機能で、格納したデータの信頼性を高めると共に、フラッシュメモリ ー自体の長寿命化にも効果がある。さらに、専用フラッシュコントローラーに搭載 された高性能プロセッサーが持つ書き込み回数平準化機能によって、フラッシュメ モリーの耐久性を向上させている。 高性能化/高機能化 HAF の利用によって、VSP における SAS HDD や SSD 利用時に比べて、スループット 性能とレスポンス性能を大幅に向上させることが可能になる。日立製作所では、VSP で FMD、SAS HDD、SSD を利用した場合の相対性能比較を公開している。SAS HDD の性能を 1 とした場合の相対比較では、スループット性能におけるランダムリードは、 SSD が 60.8、FMD が 182.6 となり、ランダムライトは、SSD は 16、FMD は 87.5 とな る。レスポンス性能は、SSD、FMD 共に 0.08 となるとしている(以上の SAS HDD と SSD、FMD との比較は、後述する SSD や FMD のデータ処理を最適化するソフトウェ ア Flash acceleration と組み合わせた場合の性能数値である)。 また、日立製作所では、フォーマットデータ(ゼロデータ)圧縮機能と高速 LDEV (Logical Device:論理デバイス)フォーマット機能により、HAF の高機能化を進めて いる。 フォーマットデータ圧縮機能:フラッシュメモリーの書き込みは、HDD と異な り同一領域への上書きができないため、「更新領域」と呼ばれるバッファ領域 を使って新しい書き込みを行い、旧データ領域を順次消去するという方法を取 ©2013 IDC #500170 7 っている。書き込みが多くなると、断片化が起こり空き容量を確保するための ガベージコレクションが必要になるが、この作業によってパフォーマンスが低 下する。HAF は圧縮機能を使いフォーマットデータ(ゼロデータ)を最大 94% 低減させて格納することで、最大限の更新領域を確保できる。また、大きな更 新領域を確保することで、書き込みデータが徐々に増加する用途では、空き容 量作成のためのガベージコレクションが低減され、高い書き込み性能を維持で きる。 高速 LDEV フォーマット機能:通常 VSP のコントローラーが実行するフォーマ ット処理を FMD 内部で自律的に処理する機能である。フォーマット処理の対象 となるドライブ台数に関係なく、約 60 分という短時間でフォーマット処理が可 能なため、装置導入の時間を大幅に短縮できる。また、FMD を増設する時も、 システムに影響を与えることなくフォーマット処理を実行できる。たとえば、 VSP において物理容量 22.4TB のフラッシュ領域をフォーマットする場合、FMD は SSD に比べて約 4 分の 1 以下の時間でフォーマットを完了できる。 また、日立製作所では、SSD や HAF を利用したデータ処理に VSP のコントローラー のマイクロコードを最適化するソフトウェア Flash acceleration を 2012 年 8 月から提供 している。SSD や HAF と上位のストレージコントローラーとの連携により、システ ム全体の高性能/高機能化が可能になる。 VSP に Flash acceleration を適用することで、SSD や HAF のランダムリードで、適用前 の約 3 倍の 100 万 IOPS 以上のスループットを実現しており、大量データを扱うデー タベースや基幹業務システムなどでのデータ処理の高速化が図れる。また、新たな プロセッサーの追加なしでデータ処理性能を向上できるため、低消費電力化や省ス ペース化を実現でき、ストレージシステム全体の TCO(Total Cost of Ownership)削 減が可能になる。なお、Flash acceleration は、すでに導入されている VSP に追加して 利用することもできる。 低消費電力/省スペース化とセキュリティ ストレージシステムにフラッシュメモリーを適用することの大きなメリットの 1 つは、 HDD ベースのストレージシステムでは実現が困難であったハイパフォーマンス化と、 低消費電力化/省スペース化を同時に実現できることである。 HDD ベースのストレージシステムでは、I/O 性能を向上させるため、実際の必要容 量とは関わりなく、HDD を大量に搭載してきた。たとえば、VSP においては、ラン ダムリードで 35 万 IOPS を実現するために、2 台のコントローラーモジュールと 1 万 5,000 回転の HDD を 1,000 台以上搭載した 4 台の筐体が必要であった。しかし、HAF と Flash acceleration を利用することで、HDD の搭載台数を大幅に削減し、1 台のコン トローラーモジュールと 1 台の筐体で同様の IOPS を実現し、8 倍の高密度化と 5 倍 の電力消費の効率化を実現している。 なお、VSP における消費電力は SAS HDD を 1 とした相対比較では、HAF は容量当た りでは 0.2 に、IOPS 当たりでは 0.011 に抑えることができる。 HAF ではセキュリティの確保も配慮されている。VSP のコントローラーが持つイレ ーズ機能を利用して FMD の内部のデータを予備領域も含めて全面的に消去できる。 また、日立製作所のエンジニアが、FMD からデータが保持されているフラッシュメ モリーDIMM(Dual Inline Memory Module)を取り出し、破壊するサポートも行ってい る。 8 #500170 ©2013 IDC VSP における HAF と SSD の適用用途 HAF と SSD のメリット VSP にフラッシュメモリー技術をベースにした HAF または SSD を適用し、さらに日 立製作所が持つ各種のストレージソリューションと組み合わせることで、ユーザー は以下のメリットを得られる。 パフォーマンスの向上:キャッシュのヒットが期待できないランダムアクセス 中心の性能重視アプリケーションや、データベースやインデックスにおいて I/O 要求が集中するホットファイルを HAF または SSD に移行することで、アプリケ ーションやデータベースのスループット性能やレスポンス性能を向上できる。 また、データベース上のホットファイルの特定には、ストレージシステム稼働 管理ソフトウェア「Hitachi Tuning Manager」などを活用できる。 ストレージ性能設計の簡易化:HAF や SSD を適用しない場合は、リード/ライ トの高性能を維持するため、VSP の管理者は HDD-RAID グループのデータ分散 配置設計に多くの時間を取られていた。高性能な HAF や SSD を適用することで 性能設計に関わる VSP の管理者の手間や作業時間を削減できる。 階層化によるリソースの有効利用:HAF または SSD と、HDD(SAS、ニアライ ン SAS、SATA)を利用し、VSP 内に高性能階層から低コスト階層まで複数のス トレージ階層を構成できる。さらに、階層ストレージリソース管理ソフトウェ ア「Hitachi Tiered Storage Manager」を適用し、その価値やアクセス頻度に応じて データを最適なサービスレベルや管理コストの階層に移行することで、ストレ ージリソースの効率的な利用が可能になる。また、HAF や SSD をサポートして いないストレージシステムでも、VSP のストレージデバイス仮想化機能「Hitachi Universal Volume Manager」によって仮想プール内に統合することで、VSP とその ス ト レ ー ジ シ ス テ ム で ス ト レ ー ジ 階 層 を 構 成 で き 、 「 Hitachi Tiered Storage Manager」を利用して階層間でデータ移行を行うことが可能になる。 運用/管理コストや負荷の軽減:HAF は、各業務システム間で共有して利用で きるため、業務システムの追加のたびに必要であった詳細な容量設計を簡素化 でき、運用/管理コストや負荷を低減できる。また、VSP と共通の管理体系で HAF が利用可能なため、キャッシュ専用ストレージを導入した場合に比べて、 キャッシュ専用ストレージの個別管理、IT 管理者の新たなトレーニング、プロ セス変更などが不要になる。 上記のいずれの場合も、SSD に比べて HAF を適用した方が、コストパフォーマンス、 記憶容量/スケーラビリティ、信頼性/機能性がより向上する。 HAF と SSD の適用用途 VSP における HAF や SSD の代表的な適用用途としては、以下のものが想定される。 高性能要件を持つ LU(Logical Unit)の集約:SAS HDD を大量に搭載し、複数 RAID グループに負荷分散することで高スループット性能を得ていたストレージ システムに、HAF または、SSD を適用し、高スループット性能が要求される LU を、HAF または SSD に移行することで、HDD 台数の削減による消費電力低減や 省スペース化、性能設計の容易化が可能になる。 ©2013 IDC #500170 9 データ解析の高速化:高スループット性能が要求される解析用データを HAF、 または SSD に格納し、データの解析に要する時間を短縮する。 インメモリーデータベース/SAN ブート:起動時に読み込まれるデータ(デー タベーステーブル、OS など)を HAF または SSD に格納することで、スループ ット性能の向上による起動時のデータ読み込みの高速化と、待ち時間の解消を 実現できる。 HAF と SSD の使い分け 日立製作所では、HAF と SSD の使い分けについては以下の基準を推奨している。 SSD:物理容量が 6.4TB 未満で、必要な高性能領域の容量が小さい場合、または、 小容量の SSD で RAID 構成を組み、障害時の影響範囲を小さくしたい場合や、 拡張単位を小さくしたい場合。 HAF:物理容量が 6.4TB 以上の大容量な高性能領域が必要な場合、また、1 台が 大容量かつ、フォーマットデータ圧縮機能で予備領域が大きく確保できる特徴 を持つ HAF によって、書き込みデータの性能劣化を抑えたい場合、高コストパ フォーマンス、高信頼、高機能なフラッシュ領域が必要な場合。 日立製作所のビジネス機会と課題 エンタープライズ市場におけるフラッシュメモリー技術の本格的な利用は、まだ始 まったばかりであるが、ストレージインフラ投資の考え方を大きく変える可能性を 持っている。サーバー仮想化/デスクトップ仮想化など、ストレージシステムに対 してパフォーマンス向上を求める環境が増加していることや、国内企業においても 「I/O-Intensive データ」が増加し、その活用からビジネス価値を引き出すことが強く 求められているためである。これまで国内企業は IT 投資を業務の効率化やコストダ ウンを主目的に行う場合が多かったが、今後は激しい国際競争などに打ち勝ってい くために、IT をビジネス判断やビジネスの拡大に利用することが増加し、「I/OIntensive データ」活用の重要性が増していく。 これまで、ストレージ投資の判断基準は、GB 当たりの単価や消費電力など、容量 (GB)をベースに行われることが多かった。しかし、今後のストレージシステム投 資では、IOPS 当たりの単価や消費電力など、I/O 性能をベースにした判断基準が増 え て い く と 考 え ら れ る 。 ユ ー ザ ー 企 業 は 、 ス ト レ ー ジ 投 資 の ROI ( Return Of Investment)を測る基準として IOPS 当たりの投資効果を考慮することが重要になる。 エンタープライズ市場におけるストレージ I/O 性能向上に対するニーズの増加を背 景に、スタートアップ企業を含めて多くのストレージベンダーが、フラッシュメモ リー技術を適用したストレージシステム市場に参入している。そうした中で、日立 製作所が果たすべき役割は、ハイエンドストレージで培った高信頼性技術を応用し、 エンタープライズ市場におけるフラッシュ適用製品の高信頼性の確保や高機能化を 実現し、ユーザーに安心感を提供することである。また、SSD や HAF 関連のソリュ ーションを充実させることで、既存の HDD ベースのソリューションでは対応困難な ユーザーの課題解決を図っていくことである。こうした取り組みの継続によって、 日立製作所の新しいビジネス機会が生み出されていくと IDC では考えている。その 際、日立製作所が取り組むべき課題としては以下のことが挙げられる。 ユーザーの理解度向上:エンタープライズ市場では、フラッシュメモリーを適 用したストレージシステムの利用に慎重なユーザー企業が少なくない。これは、 フラッシュメモリー固有の動作特性に対して不安を抱くユーザーがまだ多いた めである。日立製作所は、こうしたユーザーに対して HAF の高信頼性の訴求や 10 #500170 ©2013 IDC 導入事例の提供などを通じてその不安を解消すると共に、HAF のメリットに対 する理解を深めてもらうことが重要になる。併せて、「I/O-Intensive データ」を 扱うストレージでは、IOPS 当たりのコストや消費電力などを投資の重要な判断 基準とする考え方を、ユーザーに普及させていく努力を継続的に行っていくべ きである。 ソリューションの充実と新市場の開拓:フラッシュモジュールである HAF は、 エンタープライズ市場においては、まだ新しい技術であるが、自動化や階層化 などの技術と組み合わせることで、そのメリットを大きく発揮できる。日立製 作所は、ストレージ仮想化や重複排除技術など自社が所有する各種ストレージ 技術との組み合せで、HAF のメリットを引き出すソリューションの充実を図っ ていくことが重要になる。また、「I/O-Intensive データ」は必ずしも OLTP、 ERP、金融系データベース市場のみで増えているわけではない。画像処理、医療、 エネルギー管理などの分野でも大幅な増加が予測される。日立製作所は、こう した市場に対しても HAF のメリットを訴求し、新市場の開拓を進めていくべき である。 ©2013 IDC #500170 11 Copyright Notice 本レポートは、IDC の製品として提供されています。本レポートおよびサービスの詳 細は、IDC Japan 株式会社セールス(Tel:03-3556-4761、[email protected])まで お問い合わせ下さい。また、本書に掲載される「Source: IDC Japan」および「Source: IDC」と出典の明示された Figure や Table の著作権は IDC が留保します。 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