深夜ラジオ - タテ書き小説ネット

深夜ラジオ
小春日和
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︻小説タイトル︼
深夜ラジオ
︻Nコード︼
N9305BS
︻作者名︼
小春日和
︻あらすじ︼
DJ端貫木の提供する深夜ラジオ﹃ミッドナイトランデブー﹄へ
ようこそ! 今日もS放送局の第四スタジオから三〇分間、みなさ
んに耳寄りな情報をお届けします。今週は、夏の納涼企画として、
リスナーのみんなからメールでもらった﹃怖い話﹄を五夜連続で紹
介するよ。題して﹃夏のホラー二〇一三﹄! 全部実話だから心し
て聞いてくれよな。ではさっそく第一夜の話⋮⋮。
DJの一人称と体験者のセリフを織り混ぜるという書式に挑戦して
みました。中で紹介されている話はすべて作者自身が体験した実話
1
です。ぼかしたり進路を変えたりはしていますが地名にも同じく創
作はありません。
2
第一夜 火事の夢
はたぬき
みなさん、こんばんは! 今夜もミッドナイトランデブーを聞い
てくれてありがとう! お送りするのはDJ端貫木。この業界に入
ってまだ二年のハンパ人だけど、頑張るから応援よろしく!
さて、さっそくだけど、今晩の話を紹介しよう。ええっと、﹃住
所秘密﹄に住むTさんからの投稿。ありがとうな、Tさん! タイ
トルは。
﹃火事の夢﹄。
﹁もう七年ほど前のことですが、当時の私は、妊娠を期に仕事を辞
め、昼間は家でごろごろとしていたぐうたら主婦でした。
そんなある日、たしか夏のことだったと思います。寝苦しい湿気
に寝るとも起きるともつかない心地でベッドの上にいると、変な夢
を見ました。
夢の中では、まず玄関のチャイムが鳴りました。夢の中だという
のに起き上がった私は、気だるい体を引きずって玄関に向かいます。
いぶか
﹃はい? どちら様ですか?﹄と問いかけても答えはありません。
訝しく思いながらも、慎重に集合住宅の重い鉄扉を開けてみますと。
そこには二人の男女が立っていました。私は声も出ずに立ち尽く
くすぶ
しました。なぜなら、その男女は全身が焼けただれて、赤黒い皮膚
からはまだ煙が燻っていたからです。苦しそうに表情を歪める女性
は、黒く長い髪が半ば骸骨化した頭部にまだ残っていました。男性
は足元が溶けて骨が見え、不安定にぐらぐらと揺れています。
どうしようか、となぜか妙に冷静になってその二人を観察した私
は、突然﹃可哀想に﹄という同情に囚われました。いま思えば、妊
娠中ということで母性本能のような情が過多になっていたのかもし
れません。このまま追い出してしまうには忍びないと思い、ふだん
食卓にしている居間に二人を招き入れました。じゅくじゅくとした
3
火傷の皮膚を床に残しながら移動する二人は、居間に入ったとたん
に力尽きたように倒れました。私は二人を順に部屋のすみに引っ張
って移動させ、綺麗に並べてあげました。この男女がどんな関係か
はわかりませんが、一緒に訪ねてきたぐらいだから、離すのは良く
ないことだと思えたのです。
溶けて体と一体化してしまった服、目と鼻のあった部分にはポッ
カリと穴が空き、口からは焦げくさい吐息がかすかに漏れていまし
た。まだ生きてはいます。でも、一度転がったせいでしょうか、二
人はもう起き上がることはできないようでした。﹃完全に死んでし
まったら救急車を呼んであげるからね﹄と、私は思わずそんな約束
をしたんです。もう助からないことはわかっていたので、下手に病
院なんかに運んで二人が離れてしまうことになったら、もっと可哀
想だと思ったから﹂
まだ途中だけど、いったんコメント入れます。
Tさんは優しいねえ。まあしょせんは夢なんだけど、でもなかな
か焼死体もどきを家に上げるってできなくね?
妊娠中ってこういう夢見るもんなんかねえ。胎教には悪そうだけ
どな。
では話に戻ります。
﹁しばらくして、二人がほとんど動かなくなったのを見極めてから、
私は夫に電話をしました。そろそろ帰ってくる時間だったから。い
きなり家の中にこんなのがあったらびっくりするので、前もって教
えてあげようとしたんです。
事情を説明すると、夫は慌てた様子で﹃すぐに帰る﹄と言って電
話を切りました。そして、本当にすぐでした。夫が玄関のチャイム
を鳴らしたんです。夢の中だったので時間の感覚が変だったのでし
ょう。
私は玄関に出て夫を迎えようとしました。でも足がなぜか動かな
4
いんです。足どころか、体全体がすごく重くて、床に這いつくばっ
てしまったのでした。なんとか呼びかけだけでもしようと思うので
すが、声は出しているはずなのに空中に溶けていってしまいます。
それでも﹃夫を出迎えなければならない﹄という焦りから、どうに
か頭をもたげたとき。
目が覚めました。体が重かったのは眠っていたからでした。そし
て夫からのチャイムは本当に鳴っていました。しかも外ではけたた
ましい消防車のサイレンが何台も通り過ぎていきます。
どうやら、私はこの音たちに影響されてあんな夢を見たようでし
た。ずいぶんと長い夢だった気がしましたが、以前にもほんの一〇
分ほどの間に三日間が経過するという夢を見たことがあります。夢
の中では一瞬でたくさんの場面を過ごしてしまうんでしょうね。
自分で鍵を開けて入ってきた夫は、ベッドの上でぼうっとしてい
た私を見て、﹃ただいま。寝てた?﹄と声をかけました。﹃うん。
変な夢、見た﹄とだけ答えた私は、すでに遠ざかって消えた消防車
のサイレンに、なんとなく居心地の悪いものを覚えて、それ以上は
口をつぐみました。実際にどこかで火事が起こっているのに、より
にもよって焼死者が出た夢とリンクさせてしまった自分が、人の死
という刺激を求める嫌な人間だと見抜かれそうな気がしたので﹂
はい、またここでちょっとコメントね。
Tさんのこの気持ち、俺、わかるなあ。俺もさ、道端に花とか供
えられてるのを見ると、ここってどんな事故が起こったんだろうな
あ、って想像しちゃうもんねえ。
あ、でもさ、夢ってコントロールのしようがないじゃん。だから
気にしちゃだめだって。現実にやらなきゃいいんだよ。
じゃあラスト、行きます。
﹁そこから起き上がって晩ご飯を作り始めたころには、悪夢の余韻
からも覚め、私はすっかり元気になっていました。だから、晩ご飯
5
のとき、夫に軽口で夢の内容を告げることもできたんです。﹃気持
ちの悪い夢だったけど、でも夢で実際の火事の様子がわかるわけも
ないし。大きな火事っぽかったから大げさな想像をしちゃったんだ
ね、きっと﹄と。ふだんから不思議な現象に興味を持っている夫は
私の言葉に首をかしげましたが、﹃まあ普通はただの夢だよな﹄と
ちょっと懐疑的に答えました。
話が終わったのでテレビのリモコンに手を伸ばした私は、つけた
チャンネルで流れていたニュースをそのままなんとなく見ていまし
た。夫も視線をそっちに向けます。﹃火事のニュース、やってない
かな﹄と言うので﹃ニュースで出るような火事だったら被害が大き
いってことでしょう﹄とたしなめました。だって、私の見たのはた
だの夢なんですから。実際に二人も人が死んでいるはずがないんで
すから。
でも、テレビ画面が該当の情報を映しだしたとき、私は驚きで箸
を取り落としてしまいました。私の住む市内で起きた夕方の火事は、
民家四件を焼き、家にいた妊婦さんと、その妊婦さんを助けに行っ
た旦那さんを焼死体にしていたのです。
夢の中で焼け焦げた二人を安置したスペースは、私の座っている
すぐ後ろでした。なんだかそちらから冷たい空気が流れた気がして、
私は後ろを振り向けませんでした。
でも。
あえて言うなら、夢の中の二人と現実の犠牲者は、性別と人数が
一緒だっただけ、です。充分に偶然の内に入るのではないでしょう
か。それにもともと、火事の夢は我が家のそばを消防車が走り抜け
たことに影響を受けて見たわけですから、火事を連想させる夢と火
事が起きたという現実が一致する理由はちゃんとあるんです。
私はわざと明るい声で﹃やだなあ。当たっちゃったね﹄と言いま
した。不謹慎だけれども、火事の犠牲者のご夫婦と私の夢を無関係
だと言い張っておかないと、ご夫婦に居座られてしまうような気が
したので。
6
でも。
夫は言うのです。また懐疑的に首をかしげて。﹃消防車のサイレ
ン、俺、聞いてないんだけど。あんたの話って、どこまでが夢でど
こが現実?﹄。
ニュースでは火事の場所が報道されていました。そこは、同じ市
内ではあるのですが、うちから六〇キロは離れている地域です。う
ちの前を消防車が通るわけはありません﹂
うわっ。最後にぞぞっと来たなあ、これ。じゃあTさんが聞いた
消防車のサイレン自体が不思議な現象だったっていうわけなんだね。
それにしても、亡くなった夫婦が幽霊だったとしたら、なぜTさ
んのところに来たのかねえ。同じ妊婦さんだったからかな。
いまはもうTさんの家から出て行ってくれたかな、その二人。で
もさ、幽霊からしたら、焼死体になっても親切にしてくれたTさん
って、ある意味恩人なんじゃないのかな。
さて、じゃあ最後にリスナーのみなさんから寄せられたコメント
を読ませてもらうな。えっと﹃オーラスの鬼﹄さんから。﹁夜中に
やめてくれよお。トイレに行けないじゃないかあ﹂。あははっ。朝
まで我慢してくれ。もう一人﹃霊安室より﹄さんから。﹁妊娠中は
感覚が鋭くなるって言うからそれかもね﹂。あ、そうなんだ? 妊
婦さん限定の霊能力ってか。便利なような迷惑なような。
というところで時間になりました。遅くまで聞いてくれてありが
とう! 明日もまた強烈な話を用意しておくから、時間になったら
スタンバイよろしく!
7
終わったよ、ディレクター。おーい、尾木ちゃん? あ、いたい
た。眠そうにしてんじゃないよ、まったく。なに? 飲みに行くか
って? うーん⋮⋮ちょいやめとく。こういう特集してるとなんか
つかれるんだよね。え? そっちの﹃憑かれる﹄じゃねえよ。やめ
ろよなあ、俺、一人暮らしなんだから。じゃあお疲れ。また明日ね。
8
第一夜 火事の夢︵後書き︶
読んでくださった方々、どうもありがとうございました。
第二夜は明日の二二時にアップします。
9
第二夜 山のおじさん
みなさん、こんばんは! 今夜もミッドナイトランデブーを聞い
てくれてありがとう! お送りするのはDJ端貫木。この業界に入
ってまだ二年のハンパ人だけど、頑張るから応援よろしく!
さて、昨日から始まったこの企画、今日は二回めの話を届けるよ。
ええっと、﹃愛知県のある山﹄の出来事を投稿してくれたのはUさ
ん。ありがとうな、Uさん! タイトルは。
﹃山のおじさん﹄。
しゅうとめ
﹁あれは僕が小学六年生のときの出来事です。当時、僕の家では母
親と父方の祖母、つまり母から見たら姑になるんですが、その二人
の折り合いがとても悪くて喧嘩ばかりしていたんです。その結果は
いつも、祖母が泣き、母はヒステリーを起こして僕たちに八つ当た
りするという繰り返しでした。そんなある日、母と祖母が、もう殺
し合いでもするんじゃないかってぐらい盛大にやりあったんです。
父親は、僕たちをいったん家から逃がしてから祖母を連れだして、
母を残した全員で車に乗りました。
目的もなく飛び出したドライブだったために、車内には異様に重
い空気が流れていました。弟を二人抱える長男の僕は、なんとかそ
の空気を軽くしようと、必死で明るい話題を口にしていました。父
も同じことを思ったらしく、﹃このままどっか遊びに行くかあ﹄と
か﹃明日の学校は休め休め。お父さんも仕事なんか行かないから。
遠くまで旅行するぞ!﹄とか、真面目だった僕からするとちょっと
驚くような提案を連発していました。その父の横の助手席でうなだ
れた様子の祖母は、僕たちが一生懸命気分を上げようとしているの
を完全に無視して、﹃あたしはどこにも行きたくない﹄と恨み言を
言い続けます。でも、とうとう爆発した父の﹃お前が原因なんだろ
うが!﹄の一喝に、小さくなって黙りました。
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結局、父が僕たちを連れて行ったのは、愛知県の北東部に位置す
るN岳でした。そこは、以前一度連れて来たもらったときに、僕た
ち兄弟がとても気に入った場所です。小さなキャンプ場と広い沢、
平易なハイキングコース。高原なので気温も低く、猛暑の太陽が照
りつけていたその日のイライラを根本から冷やしてくれるような環
境でした。水着も何も持っていませんでしたが、僕たちは服のまま
清水に浸かり、途中で買い込んだ弁当をほうばりました。僕はもう
大きかったので後先考えずに遊ぶのはちょっと恥ずかしかったんで
すが、父が僕たちのためにここを選んでくれたことはわかったので、
あえて一番大騒ぎをしました。
祖母はその間ずっと車の中でうずくまっていました。昼食時に父
が呼びに行って、そのときに少しだけ顔を出したんですが、ほとん
ど食べずに、また車に戻ってしまいました。僕はもう正直どうでも
いいと思っていました。祖母がいなくなってくれれば我が家も平和
になるのに、ぐらいに考えてしまっていました﹂
えー、ここでコメント入れますね。俺、わかるなあ、この気持ち。
俺んちも母親と父親の仲悪くってさあ。結局、俺が高校生のときに
離婚したんだけど、それまで俺もずっと、どっちかがいなくなって
くれたらいいのになあ、って思ってたんだよね。誰のことが嫌い、
っていうんじゃないんだよ。トラブルになってほしくないだけなん
だ。だけど、親が別れてしばらくは、俺が願ったからこんなことに
なったんじゃないか、って後悔したよ。いまは別れてくれてよかっ
たと思ってるけど。
じゃあ話に戻ります。
﹁さんざん遊んで疲れたので、僕たちは父も含めて昼寝に入りまし
た。車に戻って寝転がったのですが、そのときには祖母の様子も少
し落ち着いていて、空気を読まずにまとわりつくまだ幼い弟たちに
笑顔で受け答えをしていました。父もそれを見て安心したようで、
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﹃ばあちゃんも少し休め﹄と優しい言葉をかけていました。
目が覚めたのはもう夕方です。何時かははっきり覚えていないの
ですが、僕たちの近くに停まっていた車が一台もなくなっていたか
ら、きっと山にいるには不適当な時間だったんでしょう。一番に目
が覚めてしまった僕は、父を起こして﹃もう帰ったほうがいいよ﹄
と言いました。夜に向かう山に留まるのは本能的に怖かったんです。
でも、僕はそのときに気づいてしまいました。助手席にいるはず
の祖母の姿が視界の隅に入ってこないことに。僕は父のいる運転席
に体を向けていましたが、もし祖母がちゃんと座っていれば、気配
なり何なりは感じるはずでしたから。
実は、いまだから言いますが、僕はその瞬間にとても薄情なこと
を考えていました。﹃せっかくいい気分に復活したのに、またお祖
母ちゃんの無責任な行動で振り回されるのか。もうお祖母ちゃんは
この山に捨てて行きたいなあ﹄と。
そんな僕の本心を知ることのない父が、次に祖母の不在に気づき
ました。﹃あれ? お祖母ちゃん、どこに行った?﹄。僕も、そし
て後部座席で寝ぼけた目をこすっている弟たちも、当然居所は知り
ません。父の顔がみるみる険しくなっていきます。﹃トイレかなあ
⋮⋮。でも⋮⋮﹄。トイレは車を停めた場所のすぐ前にありました。
中は電灯もつかず真っ暗です。
そのまま五分ほど祖母が自力で帰るのを待ちましたが、祖母は戻
って来ませんでした。父は、一番下の弟だけ車内に残し、僕とすぐ
下の弟を連れて登山口に向かいました。
N岳には自然歩道が整備されていて、それを辿って行くと山の奥
まで入り込めます。父は、家に帰りたくない祖母が山に逃げ込んだ
のだ、と考えたようでした。﹃お前たちはこの山道を行ってくれ。
ずっとまっすぐに行くと大きな通りに出るから。お父さんは別のル
ートを覗いたあとに、その大通りでお前たちを待ってる﹄。そう命
令する父に、僕は、内心では不安でいっぱいになりながら、黙って
頷いて弟の手を引きました。祖母に対して﹃いなくなってくれたら
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いいのに﹄と考えた自分には罪悪感がありました。だから﹃怖い﹄
なんてわがままを言ってはいけないと思ったんです﹂
いくつ
Uさんは、えっと、いま何歳の人なんだろうか。ちょっとわから
ないけど、将来はいい父親になりそうだね。責任感強いもんな。
って一言が言いたかった。閑話休題。
﹁山道は駐車場と違ってもう夜でした。懐中電灯もなかったので、
なんとか見える足元だけに集中して先を進みました。弟はすぐに﹃
怖いから戻ろう﹄と音を上げます。そのたびに、弟が何に怖がって
いるのかを妄想して、僕も足が震えました。でも、お祖母ちゃんを
見つけないと僕たちは家に帰ることはできない、と思って我慢した
んです。
たぶん時間にして一五分ぐらいが経ったころだと思います。父の
言う﹃大きな通り﹄がまったく見えてこないことに、僕の心細さも
マックスになりかけていました。弟はもう泣いています。もしかし
て道を間違えたんじゃないだろうか、お祖母ちゃんどころか僕たち
のほうが遭難しかけているんじゃないか、と次々に悪い想像が頭を
よぎります。そんな状況の中。
いきなり後ろから﹃こんな時間にどこに行くの?﹄と声をかけら
れたんです。
弟と僕は悲鳴を上げて飛び上がりました。だって辺りはもう真っ
暗です。さっきから誰一人にも会っていません。そんなときに、足
音もしなかった背後から、突然おじさんの声が降ってきたのですか
ら。
僕は、弟をとっさに声と反対方向に押しやってから、振り向きま
した。そこには登山の格好をした五〇歳ぐらいのおじさんが立って
いました。チャコールグレーのリュックを背負った、目の異様に大
きなおじさんです。
おじさんはぎょろぎょろと僕たちを凝視すると、もう一度﹃こん
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な時間にどこに行くの? 早く戻らないと熊が出るよ﹄と言いまし
た。僕はビビりながらも﹃こ、このまままっすぐに行けば大きな通
りに出るから、そこまで行くつもり⋮⋮﹄と答えました。するとお
じさんは首をかしげて﹃この先は行き止まりになるだけだよ。さっ
さと戻らないと帰れなくなるよ﹄と繰り返すんです。
僕は父の言葉を信じてはいました。でも、それ以上に﹃早く車に
戻りたい﹄と思っていました。そこにこのおじさんの言葉を聞いて
限界が来てしまったんです。おじさんへの挨拶もそこそこに、弟の
手を引っ張って﹃来た道を戻ろう! 熊が出る前に!﹄と急かしま
した。相当にテンパっていたなあ、といまでも情けなく思います。
ほとんど視界なんかないはずの山中。でも人間っていうのは不思
議なもので、強い恐怖感を持っていると夜目が利くんです。僕は転
ぶこともなく弟と一緒に登山口まで猛ダッシュしました。そして、
そこで父と無事に会えたんです。父は、僕たちがなかなか大通りに
姿を現さないことを心配して、登山口のほうまで戻っていたのでし
た。
祖母は捜索をし始めてすぐに父が見つけたそうです。車からすぐ
のところ、僕たちが遊んでいた沢のほとりでいじけて座り込んでい
た、とのことでした。
欠員のない帰路で、一気に脱力した僕は、半分眠りながら、父に
おじさんの話をしました。すると父もおじさんを見たと返しました。
それどころか、先に登山道に入った僕たちの様子が心配だから、お
じさんに付き添いを頼んだと言うんです。﹃あの道は一本道だから
どうやっても大通りに出るんだよ﹄。そう重ねて説明した父は﹃だ
つぶや
からおじさんが元の道を戻れって言ったのは腑に落ちないなあ﹄と
も呟いたんです。
なぜ、あのおじさんは嘘をついたんでしょうか。いまでも非常に
不思議です。僕たちを恐がらせるためのいたずら、と考えられなく
もないのですが、一歩間違えれば大きな事故につながる行為です。
そこまで非常識な人だったんでしょうか。
14
すべ
父は﹃狸だったんじゃないか?﹄って笑っていました。本当にそ
うかは確かめる術がありませんが、もしそうだったんなら貴重な体
験です。
ただ⋮⋮大人になっていろんなしがらみを知ったいまの僕は、こ
うも考えてしまうんです。誰もが避けようとする夜の山にあえて一
人で入り込んだおじさんは、もうどこかに帰る気のない人だったん
じゃないかな、と。祖母は僕たちの気を引くために行方不明を装っ
たんだそうです。母は自分こそが被害者だといまも盲信しています。
そんな、ある意味たくましい人間たちに囲まれていたから、子ども
だった僕は気づくこともなかったんです。自己嫌悪にまみれて自ら
の死を願う人たちが世の中にいるってことを﹂
狸か人間か、かあ。俺ね、生まれが四国で、あっちでは、狸が化
かす、っていうのは普通に使われる言葉なんだよ。だからUさんの
ケースも、狸だったらいいなあ、なんて思うんだよね。
深い話をどうもありがとうな、Uさん。俺、これ、どっちかって
いうと、怖い話って言うより腹立つ話だなあ、と思って読んでまし
た。子どもが頑張ってんのに、大人、みっともないよ。Uさんはい
い家庭を作ってくれよな。
さあ、じゃあ今日も最後にリスナーのみなさんから寄せられたコ
メントを読ませてもらおう。えっと﹃ヲンバット﹄さんから。﹁私
もUさんに同情しちゃいましたあ。狸もお祖母ちゃんを化かせばい
いのにぃ﹂。あはははっ。そりゃそうだよなっ。とあと一人﹃未知
との遭遇希望者﹄さんから。﹁おっさんの目がぎょろついてたって
いうのが狸っぽい﹂。あ、そうか。じゃあやっぱり狸だったのかな。
リュックサック背負った狸。ちょいゆるくて可愛くね?
というところで時間になりました。遅くまで聞いてくれてありが
とう! 今日も面白かったかな? 明日はほのぼのする話をお伝え
します。またご拝聴よろしくな!
15
終わった終わったあ。え? テーマ重すぎじゃないかって? ラ
イトなもんばっかり提供してちゃダメっしょ、尾木ちゃん。幽霊話
っていうのは死人の話なんだから。今日こそ飲みに行くかって? ごめん、ちょっと調子悪いんだよね。﹃憑かれてる﹄んじゃなくて
健全な疲れだっちゅーの! じゃあお疲れ。また明日ね。 16
第二夜 山のおじさん︵後書き︶
いつもお越しくださってありがとうございます。
第三夜はいつもどおり明日の二二時にアップします。
17
第三夜 みのるさん
みなさん、こんばんは! 今夜もミッドナイトランデブーを聞い
てくれてありがとう! お送りするのはDJ端貫木。この業界に入
ってまだ二年のハンパ人だけど、頑張るから応援よろしく!
さあ、この企画も三回めになりました。五回で終わりだから聞き
逃すなよ。今日の話は富山県に住むSさんから。ありがとうな、S
さん! タイトルは。
﹃みのるさん﹄。
﹁これは友人のMとドライブに行ったときの話だ。俺は富山県に住
んでいるので、そのときは国道四一号線を南下して下呂あたりまで
行こうと思ってたんだ。四一号線っていうのは、いまはもう整備さ
れて広くなってるんだけど、そのころは対面通行がギリギリぐらい
のぐねぐねと曲がった悪路が断続してたんだよね。当然事故も多か
った。
午後の早い時間に富山を出た俺たちだったんだけど、すぐに豪雨
に見舞われたんだ。山間部の雨っていうのは洒落になんなくってさ。
もう前が見えないんだよね。しかも道はトンネル続きで視界最悪。
車の流れはあったけど、かろうじて前の車のテールランプが見える
程度の状態だったから、あんまり参考にはならなかったな。俺たち
みたいな土地勘のないドライバーにはまさに決死の行程だった。
それでもなんとか下呂には夕方に着いたんだよ。まだ雨は降って
た。ここまで運転してきたMに﹃どうする? 温泉にでも入って帰
るか?﹄って聞いたら﹃この雨の中を? 露天風呂は全滅じゃん。
もうちょっと先まで行ってみようぜ﹄って言う。疲れてもうハンド
ルを握れないっていうMに代わって、ここからは俺の運転になった。
正直、俺は運転には自信がない。四一号に戻っても、地元のドラ
イバーが多いのかみんなが飛ばす中、俺だけ緊張してゆっくりと進
18
んだ。信号で早めに停まるたびに後続車からはクラクションが鳴る。
助手席のMはとろい俺の運転に呆れて熟睡していた。俺は独りで大
雨と闘わなくちゃならなかった。
どれぐらい走ったのか、同じような景色が続く山道に少々緊張感
が切れてきたころ、俺の頭の中に突然イメージが閃いたんだ。いま
通り抜けているトンネルを越えたすぐのところに信号がある、って。
それが赤に変わりつつあるから減速しなくちゃいけない、ってね。
そのイメージ通りに見えない信号に備えてみたら、やっぱりあった
わけだよ、トンネルの出口から一〇メートルぐらいのところ、しか
も大きな右カーブの死角になったところに、赤信号がさ。あらかじ
め心の準備をしておかなかったら、スムーズに停止はできなかった
だろうな。
変な話だけど、俺にはときどきこういうことが起こるんだ。トラ
ンス状態、っていうのか⋮⋮ほら、マラソンランナーがずっと走り
続けてるとランナーズ・ハイになるだろ。あんな感じで、視界がも
のすごくクリアになって、勘が異常に冴えるんだ。便利なんだけど
気味は悪いよ。幻聴や幻覚も起こるからさ。
そのときも俺の耳には穏やかな若い男の声が聞こえてた。それが
﹃次の右カーブのあとはすぐに左カーブだよ﹄とか﹃見にくいだろ
うけど脇道があるから合流車に気をつけて﹄とか教えてくれたわけ
だ。俺は、トランスに入るといつもなんだけど、妙にいい気分にな
ってて、その声と会話なんかしちゃってたんだ。﹃おっ、サンキュ﹄
とか﹃親切だねえ﹄とか。
そうこうするうちに、若い男の声は道案内以外の話もしはじめた。
﹃僕の名前はみのる﹄と自己紹介をし、隣で寝ているMの親族であ
ること、死んだのは二〇代後半であること、病死であること、など
をつらつらと説明していく。俺が﹃Mを起こして挨拶させようか?﹄
って聞いたら、笑いながら﹃Mに僕の声を聞くことはできないだろ
うから、いいよ﹄と断った。﹃みのるさん﹄によれば、彼はいつも
Mのことを心配してそばにいるんだけど、Mがそれに気づいたこと
19
は一度もなかったそうだ。
Mは、俺もそれほど詳しいわけじゃないんだけど、けっこう複雑
な家庭環境にあるらしかった。祖父母は地元の名士で大きな屋敷を
構えていたが、祖父が死んだあと、過剰に頑固な祖母を嫌って親族
は土地を離れていったそうだ。そんな中で、六男だったMの父親だ
けが地元に残って祖母の面倒を見たわけなんだけど、ここでもまた
Mの母と祖母の確執が大きくなって、けっきょく、MとMの姉が祖
母と同居、父親と母親は別居、という家族離反の生活を余儀なくさ
れた。いまはその祖母も死んで、Mは結婚した姉一家とそのまま同
居生活を続けている。
﹃みのるさん﹄が死んだのは戦時中だったそうだ。でも、俺はそ
れを﹃みのるさん﹄本人から聞く前に想像できていた。というのも、
話が進むにつれて、俺の視界には﹃みのるさん﹄の姿までもが明瞭
に映るようになっていたからだ。﹃みのるさん﹄は軍服を着ていた。
真っ白な生地に金で襟元を縁取りしてある、かなり洒落たやつ。ふ
つうの軍服って茶色っぽいんだよな、たしか。だから俺は﹃みのる
さん﹄のことを﹃階級の高い軍人さん﹄なんだと思っていた。
ちょっと不気味だったのは﹃みのるさん﹄の格好。彼は俺たちの
車の屋根の上に浮いてたんだけど、なぜかその姿勢は直立不動で固
まってて、しかも車内に顔を向けるようにうつ伏せ状態だったんだ。
声や態度からは恐怖を感じなかった俺だけど、ピッタリと並走して
くる﹃みのるさん﹄のその異様な姿にはちょっと寒いものを感じた。
暴雨に霞む山道で起立した軍人の霊を従えた俺の車。対向車が事故
を起こさなくてよかった、と、いまでもつくづく思うよ﹂
うひゃっ。いい話だと思って聞いてたけど、やっぱり幽霊が見え
るってのは怖いもんだな。でも﹃みのるさん﹄は悪霊じゃなさそう
だ。守護霊っていうのかな。
人間って死んだら簡単に守護霊になれるのかねえ。ちょっと﹃み
のるさん﹄に聞いてみたい気もするな。
20
それじゃあ本編に戻ります。
﹁まあ、そんな﹃みのるさん﹄に緊張したり親しんだりしながらド
ライブを続けたわけなんだけど、本格的に夜になったころ、山を抜
けて都会に入った俺には、だんだんと﹃みのるさん﹄の声が聞き取
りづらくなっていった。同時に姿も見えなくなってきてさ。大通り
の横にチェーン店が乱立するような都会⋮⋮たぶん愛知県に入った
んだろうな、そこでMが目を覚まして﹃腹減ったからどっか入ろう
ぜ﹄って言ってからは﹃みのるさん﹄の気配は完全に消えた。
手近のファミレスの駐車場に車を入れた俺に、Mはちょっとバツ
が悪そうにしながら﹃寝ちゃってごめん。疲れたろ?﹄と労ってき
たんだ。だから、自然な流れで、ずっと﹃みのるさん﹄が相手をし
てくれていたことを伝えた。あんまり言っちゃいけないかなとも思
ったんだけど、あんなにいい先祖がついてくれてるんだったら、知
ったほうがMにとってもいいと考えたからさ。
案の定、Mは飯食ってる最中もずっと﹃みのるさん﹄の話題に食
いついた。﹃みのる、っていう伯父さんはたしかにいたよ。俺が生
まれる前に死んでるから、会ったことはないけどね。親父のすぐ上
の兄さんだった﹄とか﹃戦時中だったけど死因は結核なんだ。だか
ら病死には間違いない﹄とか、俺の情報を肯定する。
けど、最後には、笑いながらこうも言ったんだ。﹃でもみのる伯
父さんは戦争には行ってないんだ。結核患者には召集令状は来ない
からさ。だから軍服姿ってのはおかしいよ﹄。俺は、自分の見た﹃
みのるさん﹄が本当にMの先祖だという自信がいまいち持てなかっ
たんで、そこはMに従った。﹃俺の妄想にも限界はあったってこと
だ﹄と笑い話にして﹂
えー!? ⋮⋮うーん、でもSさんしか見てないものの実在を証
明するのは難しいもんなあ。実際に﹃みのるさん﹄の親族であるM
さんから否定されたら受け入れるしかないか⋮⋮。
21
でも﹃みのるさん﹄って名前の一致とか、病死とか、ちょっと偶
然では済まない話だよな、これ。軍服を着てる点だけがおかしいっ
ていうんなら、ここにもなにか理由があったりしないんだろうか。
話に戻ります。
﹁その後、夜通し走ってまた富山に戻った俺たちは、翌日はそれぞ
れの自宅で爆睡した。
Mから連絡が来たのは翌々日だった。もう夜になっていたが、﹃
ちょっと来てくれないか﹄とやつが深刻な声で言うので、俺は晩飯
もそこそこにM宅に向かった。
Mの家は地元名士の祖父母が住んでいた屋敷をそのまま使ってい
るプチ豪邸だ。古い家屋にありがちな、ふすまを開けると大広間に
なるって造り。俺は、いつもはMの部屋にしか行かないので知らな
かった奥座敷に通された。そこは仏間になっていて、天井近くには
Mの祖父母の遺影が掲げられている。
少し待つと、Mが同居の姉を連れて部屋に入ってきた。ほとんど
話をしたことはなかったが、俺はこの姉ちゃんとも見知った仲だ。
二人で複雑な表情をして俺の前に座るので﹃なんだよ?﹄と俺から
切り出すと、Mがおもむろに一枚の写真を卓の上に乗せた。
それは、軍服を着た二〇代後半の青年が穏やかに笑っている写真、
だった。白黒だが、着ているのは間違いなく軍服で、色は白、襟の
縁取りは白に近い色で装飾されているのがすぐにわかった。なによ
りも顔が、俺の見た﹃みのるさん﹄と同一だったんだ。
Mが言うには、一昨日のドライブのあと、俺の話が気になって姉
ちゃんに相談したんだそうだ。そうしたら姉ちゃんは﹃たしか仏壇
にみのる伯父さんの写真が入っていたはずだから、Sくんに確認し
てもらったら?﹄と言う。そして二人で仏壇を覗いたら、軍服姿の
﹃みのるさん﹄が出てきたってわけらしい。
﹃病気で戦争に行けなかったみのる伯父さんは、やっぱり肩身が狭
かったみたい。当時は戦争に行くのが国民の義務のように言われて
22
たものね。だからせめて写真だけでも軍人らしくしてあげたいと思
ったんじゃないかしら、うちの祖父母は﹄。そんなふうに説明する
姉ちゃんは、それから﹃親族に怖がられるほど頑固だった祖母だけ
ど、実は病気のみのる伯父さんに心を砕く情に厚い人間だったのよ﹄
と付け足した。
俺も速攻で﹃うん。わかります﹄と答えたんだ。
だってさ。あのドライブの最中、俺に見えていたのは﹃みのるさ
ん﹄だけじゃなかったから。険しい顔つきをした六〇代ぐらいのお
婆さん、彼女もまたMの寝顔を慈愛に満ちた表情でじっと見つめて
た。その顔は、いま俺の頭上にある﹃Mの祖母﹄の遺影にそっくり
だったんだ﹂
⋮⋮Sさん、すげー。なあ、まじめに霊能者とかしない? 俺、
死んだあとでこういう人に見つけてほしいよ。
今日はあんまりコメントできないな。本物の迫力ってやつかね。
俺、テレビとかで無用に騒いでる自称さんたちは全然信用しないん
だけど、やっぱりこの類の人にはいてほしいと思うんだよね。死ん
だら生きてる人間に何も伝えられないのは寂しいじゃん。
さて、じゃあ今日も最後にリスナーのみなさんから寄せられたコ
メントを読ませてもらおう。えっと﹃鶴に恩返し﹄さんから。﹁似
非霊能者、絶対反対! 本物がやりにくくなる∼﹂。そう! そう
なんだよ! なんであいつらってあやふやなことは言うのに証拠は
出せないのかね。本物はちゃんと辻褄合わせるんだよな。それとも
う一人﹃肩甲骨が筋肉痛﹄さんから。﹁けっこう怖かった。Sとは
一緒にドライブしたくねえ﹂。はははっ、これもわかる。でも守護
霊って見てもらいたくね? 俺、Sさんとリア友になりてえなあ。
というところで時間になりました。遅くまで聞いてくれてありが
とう! 今日の話が新たなホラー好きを増やすことを祈ってる。じ
ゃあまた明日!
23
なんかしみじみしちゃったな、今日の話。え? 胡散臭い? 尾
木ちゃんも身近な人間が死んでみればわかるさ。飲みに行くのは無
理そうだから飯行くか、って? なんで飲みは無理? ああ顔色か
あ。うん、かなり限界。つーわけでまっすぐに帰るわ。じゃあお疲
れ。また明日ね。 24
第四夜 なぜ自殺したのに化けて出るの?
みなさん、こんばんは! 今夜もミッドナイトランデブーを聞い
てくれてありがとう! お送りするのはDJ端貫木。この業界に入
ってまだ二年のハンパ人だけど、頑張るから応援よろしく!
さあ、念願の四回め。何が﹃念願﹄かっていうのは聞くなよ。語
呂合わせ的にホラー向きじゃん、﹃四﹄回って。今日の話はとある
県の﹃県民の森﹄って言われるキャンプ場での話。語り手はKさん。
まだ大学生の女の子だ。ありがとうな、Kさん! タイトルは。
﹃なぜ自殺したのに化けて出るの?﹄。
﹁こんばんは、端貫木さん。Kと申します。今日はわたしの話を取
り上げてくださってありがとう。
これはわたしが中学生のときの体験です。学校の行事で、夏休み
に、県内の﹃県民の森﹄っていうキャンプ場に二泊三日の合宿に行
ったときのこと。
わたしは生来体が弱く、家から離れて泊まりがけで出かけるとな
ると、まず心のほうが心配で参ってしまっていたんです。でもこの
ときは、もう中学生にもなっていて体もそこそも頑丈になっていた
し、なによりも﹃どこかでこの体質を改善しなきゃ!﹄って焦って
いたこともあって、両親の心配をよそに元気なふりで﹃参加﹄の欄
に丸をつけました。
﹃県民の森﹄は学校から二時間ほどバスで揺られた山の中にあり
ました。お決まりの車酔いに四苦八苦しながら、それでも現地に到
着したときは、静かな山の空気が気持ちよくて大喜びでした。わた
したちの宿泊する施設は、キャンプ場の中でも離れた場所に位置し
はんごうすいさん
ていたので、他の利用客とはまったく会わずに済んだのです。
一日目のカリキュラムは夕食の飯盒炊爨とキャンプファイヤーで
した。入所式のあと、まず割り当てられた部屋に荷物を運び込んだ
25
わたしたちは、それぞれの気に入ったベッドに陣取って、二〇分ほ
どのゆとりの時間を楽しみました。部屋には二段ベッドが四つ。わ
たしは窓側の上の段。他のクラスメートたちも思い思いの場所でく
つろいでいました。
そんな中、﹃暇だから怖い話しようよ!﹄って子がいたんです。
すぐに部屋中が乗り気になって怪談が始まりました。わたしはあま
り興味がなかったので、寝転がりながら片手間に話を聞いていまし
た。一話五分ぐらいの他愛のないものばかりだったと思います。も
う内容も覚えていないぐらいですから。
三話目が始まったあたりで、わたしはふと、自分の向かい側のベ
ッドの下段に寝ている同級生に目を移しました。彼女は、窓のほう
に頭を向けているわたしとは反対向きの位置になるようにして、横
たわっています。その彼女の周囲が妙に暗いんです。まだお昼で窓
からの陽もさんさんと入ってきていたのに、彼女の体は真っ暗な闇
に包まれていました。顔だけが日光を受けて白く浮き上がっている
ので、まるで⋮⋮。
わたしは自覚しないままに、彼女に向かって﹃ねえ○○ちゃん、
なんか生首みたいで気持ち悪いよ﹄と軽口を叩きました。
その瞬間のことはいまでもはっきりと覚えています。数秒の沈黙
のあと、誰のものかはわかりませんがけたたましい悲鳴が上がって、
部屋にいた子たち全員が廊下に逃げ出してしまったんです。向かい
のベッドの○○ちゃんも一緒に出て行ってしまいました。わたしは、
何が起こったのかはよくわからなかったのですが、わたしの一言が
原因だろうとは思ったので、かなり申し訳ない気分でみんなに謝り
に廊下に出ました。
そこには、震えるクラスメート、と、すでに駆けつけていた担任
の先生の怒った顔がありました。騒ぎを起こしたわたしたちを先生
は順番に叱りつけます。そのさなかにわたしは○○ちゃんに謝罪し
ました。﹃変なこと言ってごめんね﹄と。すると周りの子がこう言
うんです。﹃違うんだって。わたしたちも○○ちゃんが生首みたい
26
で気味悪いなあって思ってたの﹄。どうやらあの現象は室内の全員
に見えていたようです。当の○○ちゃんは、泣きそうな顔になりな
がら、﹃なんかね、誰かが体を押さえつけてる気がしたの﹄と答え
ます。
その出来事で始まった合宿。なんとなく不穏なものを覚えながら、
でも時間に追われるまま、わたしたちは次々と行事をこなしました。
早めの夕食はまだ日のあるうちのカレーです。食事風景は和やかな
もので、何も変わったことはありませんでした。そのあとはお風呂。
一人一〇分ほどの大忙しの割り振りだったためか、これも慌ててい
るうちに難なく終わってしまいました。
そしてキャンプファイヤーです。宿泊施設から丘を一つ越えたと
ころにある広場で行われたこのイベントは、日暮れの早い山の一九
時過ぎに始まりました。あたりは真っ暗です。真ん中に組まれた薪
にくべられた火だけが明かりになってくれました。その火の周囲で
用意した催し物をクラス別に出し合う。そんな進行のさなか。
わたしはなぜか猛烈な寒気を感じていました。少し標高が高い山
だったので、外界より寒いのはわかります。でもわたしたちはそれ
に備えて長袖長ズボンの冬の体操服を着ていたんです。それなのに
震えが止まらない。歯の根が合わない。指先がかじかんで感覚がな
くなっているのも困りました。
季節は真夏。現に、隣の子に聞くと﹃そこまで寒くはないよ? むしろ長袖あっつい﹄と手でパタパタと顔を仰ぎ始めるのです。虚
弱なわたしは、自分が風邪でも引いたのかと思って、先生にも不調
を告げずに我慢しました。キャンプファイヤーはせいぜい二時間ぐ
らい。耐え切れない長さではないと思ったからです。
でもわたしの状態は予想に反してますます悪化して行きました。
吐き気をこらえるためにうつむいて抱えた膝の間に顔を埋め、なん
とか意識を保っているほどにまでなったのです。先生を呼ぼうか、
と本気で思い始めました。ガンガンと痛みを発する頭を無理に持ち
上げ、広い円を描いて座っているわたしたちのそばには見当たらな
27
い先生の姿を探してみます。
そのとき。
お笑い系の出し物をしている他のクラスの演目の向こう側、火の
くべられた薪の中に、奇妙なものを見つけたんです。それは顔、め
まぐるしく変わる大人の顔でした。火炎が風でなびくたびに入れ替
わる、四〇歳ぐらいの男の人、五〇歳ぐらいのおばさん、二〇代の
男性。そのどれもが口を大きく開けて苦しがっています。
驚きと具合の悪さで呆然としながらそれらを見ていると、いつし
かその顔から発せられる声まで耳に届くようになってきました。そ
れは甲高い中年女性のものであったり、半狂乱で喚く若い男性の声
であったりしたのですが、内容はすべて同じでした。彼らはみんな
﹃熱い! 熱い!﹄と苦しんでいたんです。まるでキャンプファイ
ヤーの火で焼かれているようでした。
そこからの記憶は定かではありません。気づくとわたしはキャン
プファイヤーの広場を出ていました。あれほど寒かった空気が心地
よく感じました。吐き気も頭痛も嘘のように治まっていました﹂
うーん⋮⋮。なんだろうな、その火の中に出てきた人たち。Kさ
んの幻覚にも思えるんだけど、もしかしたら﹃県民の森﹄で死んだ
人たちがいたとかかな。キャンプ場でそんなにたくさんの人が死ぬ
っていうのもおかしな話だけど。
では先を続けます。
﹁宿泊施設に戻ってベッドに入るころには、キャンプファイヤーの
出来事はすっかり気にならなくなっていました。わたし以外にあの
顔を見たクラスメートもいなさそうだったし、なによりも、そんな
ことで悩み続けていたらまた病気になると恐れたからです。
二二時の消灯を迎え、すぐに眠りにつきました。窓にはカーテン
がなかったために屋外の闇が丸見えでしたが、同室には八人もの同
級生がいるんです。怖いとはまったく思いませんでした。寝入りば
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なにはまだみんなのヒソヒソと話す声が聞こえていたことから、た
ぶんわたしが一番に寝ついたのだと思います。
ところが。
ふと目を覚ました夜中、二時ごろだったと記憶しています。まだ
部屋の中で声がしていたんです。室内の照明はありませんでしたが、
ドアに付いた明かり取りの窓から廊下のオレンジの光がかすかに入
っていたので、内部の様子はよくわかりました。布団をかぶって転
がっているみんなは、とても起きているようには見えませんでした。
それに声は。
この部屋に入って最初に異変のあった場所。わたしの向かいで眠
る○○ちゃんのベッドから聞こえているんです。ぼそぼそと呟く低
い女性の声。それにときどき正体不明の奇声が混じります。もちろ
ん○○ちゃんは喋っていません。熟睡している顔が妙に白く浮き上
がっていたので、寝ていることは確信できました。
わたしはそっと体を起こして﹃○○ちゃん、大丈夫?﹄と呼びか
けました。もし○○ちゃんのベッドに﹃何か﹄がいるのだとしたら、
さっきのわたしと同じように、○○ちゃんも体調を崩しているかも
しれないと思ったからです。
でもそのとたん、声はやみました。と同時に○○ちゃんの不自然
に白かった顔が自然な闇の中に溶けて行きました。
ほっとしたわたしは、半ば意識を失うように、また寝入ってしま
いました﹂
なんだかわけがわからない話だねえ。とり憑かれているのは○○
ちゃんみたいな気がするのに、気づくのはKさんばっかりなんだ?
意外に病弱な子っていうのはそういう感覚が鋭くなるのかもしれ
ないね。俺の彼女も、よく、見えもしないものが見えた、とか言っ
て騒ぐんだよ。あいつも病気を患ってるからなあ。体じゃなくて心
のほうだけど。
じゃあ最後まで聞いてくれ。
29
﹁翌日は半日がかりで登山をする予定になっていました。登山とい
っても三時間ぐらいのハイキングコースです。朝食をまた野外で済
ませたわたしたちは、クラス別になって、一〇時ごろから山登りを
始めました。
この行事、体力のないわたしには、正直、とてもきつかった。加
えて前日の寝不足が祟っています。先生の励ましの中、なんとかル
ートの中腹まで進むことはできたのですが、あと一〇〇メートルも
登れば昼食休憩の予定地の滝まで辿り着くというところで、ついに
断念して一人下山することになりました。
帰り道、下りだからでしょうか、妙に軽快になった体に余裕を感
じたわたしは、何度か再度の登山に挑戦しようとしたんです。でも
ダメ。登ろうとすると異様に体が重くなる。諦めて登山口から宿泊
施設までの道を未練を断ち切って歩きました。そのときにはもう、
どうしてあんなに辛かったのかと疑問に思うほどに体は楽になって
いました。ただ、快調な気分とは裏腹に、宿泊施設に戻って体温を
測ったら三八度の高熱が出ていましたが。
それからは何も起きず、二時間ほどで熱も下がって、無事に最後
まで合宿を終えることができました。いつも行事の最後はふらふら
で話をすることもできない状態なので、みんなと一緒に帰りのバス
の中ではしゃげたことは、いまでもとても楽しい思い出になってい
ます。
そんなふうにわたしを成長させてくれたこの合宿。
でも最後に大騒ぎになっちゃったんです。
夏休みが終わり、通常の登校が始まってすぐのことでした。合宿
のときの写真が廊下に貼りだされたんです。初日の飯盒炊爨の楽し
そうな様子や、わたしが行けなかった登山ルートの滝での昼食風景
など。どれも思い出写真としていい雰囲気を醸していたものばかり
でした。だけどそんな中に、一枚だけ、不可思議な写真があったん
です。それはキャンプファイヤーの最後を撮ったものでした。会場
30
の広場から出て行くクラスメートたちの後ろ姿。どことなく淋しげ
に並んだその中に、○○ちゃんの姿がありました。少しうつむいて
歩く後頭部は、炎の残骸の光を受けて淡くオレンジに映っています。
まるで頭が燃えているようでした。そして、このオレンジの中に、
はっきりと、未だに長い髪の毛を生やした女性の頭蓋骨がこちらを
向いていたんです。
﹃心霊写真が撮れた!﹄と学年中が持ちきりになりました。当然
○○ちゃんにも好奇の目が向けられました。怯えた○○ちゃんは先
生に訴えたそうです。﹃県民の森﹄に入ってからずっといやな気配
に苛まれていたこと、登山で行った滝で人が死んだという噂を耳に
したこと、を。
後日、観念した様子の先生が、わたしたちに教えてくれました。
﹃県民の森﹄は県内でも有名な自殺の名所なのだそうです。午後
五時には管理人が引き上げてしまうため、敷地内の山に入っては、
滝から飛び降りたり、首を吊ったりする人が後を絶たないのだとか。
わたしたちが合宿をする一ヶ月前にも心中事件があり、女性は亡く
なりましたが、相手の男性は死にきれずに逃げたようです。その現
場が例の滝でした。
火は不浄な霊を浄化する効果があると聞きます。もしかしたら、
キャンプファイヤーのときにわたしが見た炎の中の顔たちは、﹃県
民の森﹄で成仏しきれずに燻っていた自殺者たちが強制的に浄化さ
れた瞬間だったのかもしれません。
それに、滝。わたしが登山の最中にどうしようもなく具合が悪く
なったのは、あの滝の一歩手前でした。虚弱なわたしは、恋人に見
捨てられて強烈な怨念を放つ女性の霊に関わるまいと、知らずに自
己防衛していたような気が、いまではしています。
おそらくとり憑かれてしまっていた○○ちゃんは、でも先生から
事情を聞いたあとはあっけないほど落ち着き、日常の生活を取り戻
しました。噂では、彼女は合宿の直前にある男子生徒から告白され、
交際しようかどうしようか迷っていたようです。そんな○○ちゃん
31
でしたから、対照的な自殺女性の霊に目をつけられてしまったのか
もしれません﹂
⋮⋮はあー⋮⋮。女の情念ってのは恐ろしいね。まるっきり無関
係な○○ちゃんにまで祟るんだもんな。俺も彼女を怒らせないよう
に気をつけよ。
ボリュームのある話をどうもな、Kさん。Kさんが自己防衛をし
て山に登れなくなったエピソード、なんか、俺、好きだったわ。そ
うだよな。危険回避は自分でしなきゃ。
しかしなんで自分で死を選んだのに化けて出るのかねえ。勝手だ
よな。Kさんはそんなのに負けんなよ。丈夫になって長生きしてく
れよな。
さて、じゃあ今日もリスナーのみんなのコメントを読ませてもら
うよ。えっと﹃てにをはに悩むオカルト作家志願﹄さんから。﹁端
貫木さんの彼女さんってメンヘラさんなんすね。おれも付き合った
ことあるけどコツ要るっすよね、ああいうタイプ。とりま応援して
おきます﹂。おう、サンキュ! 面倒だけど別れられないんだよね、
彼女。俺が捨てたら死んじゃうんじゃないかって思えてさ。なんて
公言するのも恥ずかしいから次のリスナーさんに行こう! ﹃単刀
直入に怖い﹄さんから。﹁自殺者って勝手に死んでんのに恨みも深
いって何様? でも死ぬほどの理由があるんだから何かを恨んでる
のも道理。僕の希望は安楽死﹂。安楽死ってまだ生きられる体を無
理やり死なせるある意味殺人じゃね? もうちょっと前向きになろ
うぜ。
というところで時間になりました。今日も聞いてくれてありがと
う! 端貫木個人への応援も感謝! じゃあまた明日!
32
なんでそんな顔してんの、尾木ちゃん? あ、メンヘラ、が放送
コード引っかかっちゃった? 悪い悪い。そんな相手と一緒で大丈
夫なのか、って? 問題あるように見える、俺? まあ付き合いが
悪くなったのは申し訳ないけどさ。だから今日も寄り道せずに帰り
まーす。尾木ちゃんもたまには奥さん孝行しろよ!
33
第五夜 少年の妖怪
みなさん、こんばんは! 今夜もミッドナイトランデブーを聞い
てくれてありがとう! お送りするのはDJ端貫木。この業界に入
ってまだ二年のハンパ人⋮⋮だけど、実は来週から三年目に入るん
だ。これからも頑張るから応援よろしく!
さて。五日間でお送りしたこの﹃夏のホラー二〇一三﹄企画、い
よいよ最終話までこぎつけました。いままでお付き合いしてくれて
ありがとう。最後の話は愛知県の都心部に住むRさんから。今回に
限っては、Rさんからの注意書きを先に読ませてもらうな。﹃この
話は聞いた人が同じ体験をしてしまうことがあるようです。実害は
ないのですが、念のため、放送の際には一部分をぼかしていただけ
るとありがたいです﹄。そういうわけで﹃幽霊の姿﹄に関してはデ
フォルメをしてある。もし万一に奇妙なものを見た人がいたら、ま
た番組までメールくれよ。実際の姿と合っているかどうか教えるか
ら。それじゃあ始めます! ありがとうな、Rさん! タイトルは。
﹃少年の妖怪﹄。
﹁あれは私が小学校五年生の出来事です。当時、フルタイムで働く
両親は夜の八時を回らないと帰ってこないほど忙しく、帰ってくれ
ば帰ってきたで、私に﹃家の仕事をしておきなさい!﹄と怒鳴り散
らす毎日でした。だから私は家に帰るのがすっかり億劫になってい
たのです。
そのころ学校には最終下校なるものがありました。いまもあるの
かな? 校内に残っている生徒を全員運動場に追い出して、強制的
に帰途に着かせるのです。時間はおそらく夕方の五時半ごろだった
と思います。
でも、私を含むごく少数は、その最終下校の見張りの目をかいく
ぐって校内に潜んでいました。そして最終下校後の﹃最々終下校﹄
34
時に細々と運動場に出て、形ばかりの先生の﹃気をつけて帰れよ﹄
の注意勧告を受けて解散したのです。最々終下校に臨む顔はいつも
同じでしたので、彼らも私と同様に家庭に不満を抱えていたのかも
しれません。
午後六時過ぎ。夏の遅い日暮れも耐えかねたように残照の光度を
落としていました。真昼の太陽の下では白く浮き上がって見えたア
スファルトの表面も、黒く得体のしれない表情を覗かせています。
私はそんな情景が妙に好きでした。逢魔が時。昔の人はこの時間帯
のことをそう呼んだそうです。親という拠り所を見失っていた私は、
魔の世界へとつながるこの景色に、知らず、救いを求めたのかもし
れません。このまま事故にでも遭って死ねば、人間としての鬱屈か
ら解き放たれ、魔物の一員になれるかもしれない、と。
母は子どもが好きではないようでした。子どもに携わる仕事をし
ているのですが、家でする仕事の話はいつも﹃どうして最近の子っ
てあんなに躾ができてないのかしら! うちの子があんなに聞き分
けがなかったらうちから放り出してやるのに!﹄と憤懣やるかたな
い愚痴ばかりこぼしていましたから。そのため、私は、母の期待か
ら少しでも外れたことをすれば、母、そして母の言いなりになって
いる父双方に捨てられるものだと恐れていました。だからいつも顔
色をうかがい、こそこそと卑屈な態度で彼らに接していたんです。
でも都合のいいことばかりを望む人間性の未熟な母に振り回される
のは辛かった。それこそ、疲れきって、生きていく希望を手放して
しまいたくなるぐらい。
端貫木さんは子どもを虐待死させてしまう親の気持ちってわかり
ますか? 私にはなんとなくわかる気がします。ああいう親って子
どもなんか見えてないんですよね。自分が楽しむことばっかりで。
私の父と母は高い美味しい料理を食べに行くときに子どもを自宅に
残していきます。﹃あんたには味なんかわからないから連れてって
もしょうがないよね﹄と。私はずっと﹃親子﹄とはそういうものだ
と思っていました。親は仕事をしているから子どもの世話などしな
35
くていいのだ、と。子どもはそんな親に不満など持ってはいけない
のだ、と﹂
ごめん。リスナーさんは、いま、なんでこんな話を聞かされてる
かわかんねえよな。実はこのあとRさんが見たものにいまの話が関
連してくるんだ。だからもうちょっと辛抱しててくれ。
それと個人的にRさんの質問にも応えておくよ。俺ね、前にも言
ったんだけど、俺の両親は不仲で離婚してるんだ。それで俺は母親
に引き取られたんだけど、母親、離婚してからずっと俺に言うんだ
よな。﹁あんたが離婚してほしそうだったから離婚した部分もあっ
たんだよ﹂って。無責任だろ? たしかに母さんは女手ひとつで俺
を育てるのには苦労してた。だから八つ当たりしたい気持ちもあっ
たんだろう。それは俺も理解できる。だからそういうときは侘びと
感謝を伝えるんだ。そうすれば母さんは満足するからさ。
けどな。
内心では、俺、こう言いたいんだよ。﹁俺のために離婚できるぐ
らいだったら、なんで俺のためにいい家庭を作ってくれなかったん
だ?﹂って。つまんねえことで喧嘩ばっかりしてたのは自分のため
じゃなかったのか? 親として出来損ないだった自分の責任は謝ら
ないのか? そんなことばかり考えるようになっちゃったから、俺
さ、母親に対して愛情の欠片も持てなくなったんだよ。もちろん離
婚以来一度も顔見てない父親にも。Rさんのいう﹃虐待﹄とは意味
が違うのかもしれないけど、こういう殺伐とした親子になっちまっ
た一因を、母親の﹃人間としての未熟さ﹄に求めてもいいよな?
脱線ごめん。では本題に戻ります。
﹁のろのろとした足取りで帰路についていた私は、通学路の途中に
ある静かな住宅街へとさしかかっていました。このあたりは比較的
大きな屋敷が多く、黄昏どきのこの時間に公園や道路に人の姿を見
ることはふだんからありません。立派な門構えを見せる家々の間に
36
は車二台がなんとかすれ違えるほどの通りが貫いています。その路
上を、私の長い影が私より先に歩いていきました。広い庭の向こう
に見える家屋のそれぞれには温かな灯がともっています。でも私の
家は未だに電灯をつける人間もおらずに闇に沈んでいるのです。
溜息をついて、足を止めました。それは、帰りたくない家に帰ら
なければならない自分を奮い立たせるための儀式だったんです。高
級住宅街の中でもひときわ豪華なお屋敷。その門の脇に立っている
大きな柳の木の下で、私は、真っ暗な寂しい自宅に入る勇気をなん
とか呼び起こしていたのでした。
何度も何度も深呼吸し、隣を訝しげな顔をした犬の散歩中のおば
さんが通るのもあえて見過ごして、私はなんとか重い一歩を踏み出
しました。大丈夫。今日も耐え切れる。父母への嫌悪感を喉の奥に
飲み下し、さらに一歩、歩を進めました。
そのとき。
前方から白い外車が近づいてきたんです。ワーゲンという独特の
フォルムを持つ車でした。当時、まだこの車種を持っている人は珍
しく、私の記憶する限りでは、いま自分が立っている豪邸の奥さん
しか所持しているのを見たことがありません。
案の定、狭い通りを近づいてくるワーゲンの運転席には見知った
奥さんの顔がありました。車のせいで目立っていた女性なので、見
間違えるわけがありません。奥さんは、門のすぐそばに立っていた
私に柔らかく会釈をしてくれました。品のいい方なのです。私も慌
てて頭を下げかけました。
すぐ横をゆっくりと通り抜けていく白いワーゲン。うつむき加減
で車内を覗き見た私。目の前にはワーゲンの助手席がありました。
コンパクトな車にしては思いの外大ぶりのシート。
に。
少年がいました。いえ。⋮⋮少年の形をしたもの、がいました。
黄色と黒の横縞のTシャツはシミだらけでみすぼらしく汚れてい
ます。褪せたデニムの短パンを履いた足は、これも泥がこびりつい
37
たように薄黒くなっています。助手席の上に膝立ちになって立ち上
がり、丸刈りの頭を車の天井にぶつけて、黒く焼けた顔をじっとう
つむかせているのです。印象は私と同じぐらいの年齢でした。背の
高いひょろっとした体型で、頭部だけが妙に大きかったのが強く記
憶に残っています。
﹃それ﹄を見たとき、私がまず真っ先に思い出したのは、奥さん
の旦那さんがお医者さまだという情報でした。なぜかというと、私
には﹃それ﹄が死体に見えたからです。
﹃それ﹄の頭は車の天井にぶつかっていた、と先ほど私は説明し
ました。でも正確に言えばそうじゃないんです。﹃それ﹄はぼっき
りと折れた首を天井部分に括られていました。つまり首を吊ってい
たんです。自然に下を見るような格好になった﹃それ﹄の顔は、目
が半眼に開き、口のまわりにはよだれの乾いた跡がありました。ど
う見ても生きている人間ではなかったんです。
だから﹃旦那さんの病院から奥さんが死体を持ちだしてしまった
んだ﹄と、自分なりに拙い合理性をこじつけようとしたのでした。
何事もなかったかのように自分の邸宅に戻っていく奥さんの白い
ワーゲン。その後部を見ながら、私は、いま見た﹃それ﹄の姿を何
度も何度も反芻しました。清潔感のない肢体。絞め殺されたような
無念を覗かせた表情。頭蓋と比較して華奢な手足は栄養状態の悪さ
を示している気がしました。
夜の八時過ぎに帰ってくる母は、空腹に耐えて待っていた私に、
よくこういう仕打ちをしました。﹃家のことはちゃんとやっといて
! あたしは疲れてるんだから! もう作る気力ないから自分でな
んとかして!﹄。茶碗の位置ひとつを動かしただけでもイライラと
﹃なんでお母さんのするとおりに真似できないの?!﹄と怒鳴る母
の手前、私は自宅のものに手をつけることは精神衛生上できません
でした。だから待つしかないのです。母親という名前の鬼の怒りが
収まることを。そして祈るしかなかったんです。小学校の給食費す
ら脅しの道具にして私の自我を殺そうとする彼女の怒りが向かない
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ことを。諦めるしかなかったんです。同じように共働きの両親から
惜しみない愛情を注がれて輝いていく同級生たちのようになれるこ
とを。
私が死んだら、きっと私はみすぼらしい死体になるでしょう。も
し私が恨みを抱きながら死んだことが母にバレたら、彼女は私の死
体を人知れずどこかに捨て去ろうとするでしょう。協力的な父の運
転する車の後部座席にでも押し込んで。
ずいぶんと長い時間、私はそうやって、﹃それ﹄と自分の一致点
を探していました。気づくと黄昏さえ宵の闇に姿を変える時間にな
っていました。
病院にはきっといろんな患者がいるんでしょうね。家族に看取ら
れながら安らかな最期を迎える人もいれば、実の親にも見捨てられ
て寂しく死んでいく子どもも⋮⋮。私だったら、父と母が望まなか
った私の存在に対して最後まで面倒を見てくれようとしたお医者さ
んがいたとしたら、死んでも思わず魂がついていってしまうかな。
だって一人ぐらい大人に親切にされたいじゃないですか。
最初に端貫木さんにお願いしたように、私が見た﹃あれ﹄は、話
を聞いた他の方も見る可能性があります。そこでお願いなのですが、
もし﹃あれ﹄を見てしまった場合、どうか怖がらずに、この世に未
練を残しているだけの子どもの魂なのだと信じて、優しい気持ちを
持ってあげてください。不遇の子どもたちは、死んでまで大人に否
定されたくないのです﹂
というところでRさんの体験談は終わります。ちょっと半端だけ
ど、このあとちゃんと締めるからね。
それにしても、親ってのは巧妙に子どもを潰すもんだな。ニュー
スになるような虐待じゃなくても、Rさんのように半ば﹃飼い殺し﹄
状態にされれば、大人になっても後遺症は残るだろうに。でも、適
当な歳になったら親の責任はもう終わりだもんな。精神を病んでよ
うが社会不適合になろうが﹃本人の責任﹄で押し通しちゃえばいい
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わけだ。
俺もさ、いまもう二〇代脱しかけてる歳なんだけど、まだこのラ
ジオ局では半新人なわけ。どうしてかっていうと、ここに拾っても
らうまではまともな職業に就けなかったからなんだ。正規に就職し
て枷ができたときに、その会社の人間が俺を潰そうとするんじゃな
いかって、不信感しか持てなくてさ。で、気楽なフリーターでなん
とか凌いでたら、この番組のディレクターに声かけてもらえてね。
だから彼は恩人なわけ。あははっ。向こうで、手、振ってるわ。
でも、たださ⋮⋮。こう思ったりもするんだよ。子どものうちに
幸福になる方法を学ばなかった人間は、やっぱりいつまで経っても
幸福になるやり方を実践できないんじゃないかなあ、って。だから
知らず知らずのうちに不幸を呼び込んじゃうんじゃないかなあ、っ
てさ。
Rさんはさ、実はこの体験の直後、呆然と突っ立ってたところに
声をかけてもらったそうなんだ。話の中に犬の散歩をしてたおばさ
んが出てきたろ? あの人が散歩から戻ってきたときに、独りで泣
いてたRさんを﹁どうしたの? 大丈夫?﹂ってすごく心配してく
れたらしい。どんなに怖いことがあっても独りで乗り越えなきゃな
らないと気負ってたRさんは、﹃正常な大人﹄と触れ合えたことで、
ちょっとだけ大人に対する信頼感が復活したんだって。だから現在
はそれほど﹃後遺症﹄は残らずに済んだそうだよ。
俺にも現れるかねえ、そういう人。大仰に助けてくれなくてもい
いんだよ。ほんの些細な助けでいいんだ。困ったときにそれを見つ
けてくれるだけで。
湿っぽいこと言っちゃってごめん! じゃあ最後! リスナーの
みんなのコメントを読むよ。﹃のむら﹄さんから。﹁怪談の部分じ
ゃないとこが怖い気がする﹂。ごめんごめん。投稿の内容は変えて
ないけど、書き方は俺が演出しちゃってるからね。Rさんのせいで
内容が重くなったわけじゃないから、そこは言い訳しとく。じゃあ
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次、﹃むらた﹄さんから。﹁虐待ってなんでするのかわからん。イ
ジメも虐待も周囲の無関心に原因があるんじゃないの?﹂。そりゃ
あるかもな。でも﹃無関心﹄の中には本気で気づいてない人もいる
だろうし。そこに恨みを向けちゃだめだよな。
というところで時間になりました。五日間、聞いてくれてありが
とう! 来週、ぜひまた聞いてくれよ。三年目の端貫木で頑張るか
らさ。じゃあまたね!
あれ? なんでもう電気消しちゃってんの、尾木ちゃん? スタ
ジオ、真っ暗なんだけど。⋮⋮ああ、そうか。﹃終わった﹄んだね、
俺。もう目も見えないんだ。うん。いいんだ。気づかれなくてもさ。
それも運命ってやつで。勝手に脚本書き換えちゃってごめんな。最
期のあがきってやつで。⋮⋮なんて言っても尾木ちゃんにはもう俺
の声は聞こえてないか。
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ああ、そうだ。言っておかないと。俺の彼女ね。あの子も家庭に
問題のある子でさ。やっぱり他人を信用できないみたいなんだ。だ
から不安だったんだろうな。俺がまともな仕事に就いて順調に経験
を重ねていくのが。﹁もうすぐ三年目だよ﹂って喜んで報告しちゃ
ったのは、ずいぶんと無神経だったと反省してる。すごく不安そう
な顔をして﹁あたし、捨てられるの?﹂って飛びついてきたんだ。
女の子だからあんまり力はなかったんだけど、けっこう痛かったよ。
腹にナイフ突き立てられるのは。そのときね、逃げようと思えば逃
げられたんだけど、俺、なんか﹁もういいか﹂って思っちゃってさ
あ。俺にはやっぱり幸せになる方法が身についてないんだな。だか
ら俺が死ぬのは俺のせい。彼女のせいじゃないから。悪いけど、彼
女にはそう伝えてやってくれる?
急な欠員ごめんな。
じゃあまたいつか。
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第五夜 少年の妖怪︵後書き︶
後日譚がありますので、1時間後にアップします。
いままで読んでくださってありがとうございました。
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後日譚 深夜ラジオのDJ
﹁変だと思ったんすよ。僕の脚本が微妙に書き換えられてたから。
でも端貫木さんが気に食わなかったのかなって思って黙ってたんで
す﹂
憮然とした顔で脚本担当の安井が言う。ディレクターのおれはそれ
を苦笑しながら受け流した。
﹁いまさら文句言ってやるなよ。⋮⋮端貫木もなんとか自分の職務
を全うしようとしたんだから﹂
﹁ですかねえ? まあ、端貫木さんは口は悪いけど責任感は強い人
でしたから⋮⋮。でも本体が死にかけてたのに魂だけが局に来るな
んてことがあるんすね。そっちのほうがずっとホラーでしたよ﹂
安井は気味悪そうな表情を浮かべて、腕の鳥肌をさすっている。
一人暮らしの自宅アパートで恋人に刺されたうちの担当DJは、
それから一週間、瀕死の状態で生き続けた。失血で徐々に顔色と意
識が失われていく中、なぜか端貫木の霊魂だけが第四スタジオに日
参したのだ。
﹁あいつの口癖は﹃頑張る﹄だったからな⋮⋮。死ぬ間際まで働き
続けないと本人の気が済まなかったのかもしれんよ﹂
おれは、最後の放送で﹃おれへの恩義﹄を口にした端貫木の心根を、
ありがたく受け取っていた。自分の部下にしていたDJの殺傷事件
は局でのおれの立場を危うくするのに充分の材料だったからだ。端
貫木が、少なくとも表向きは正常に番組を進めてくれたことで、今
回の件は不問に付された。続投役のDJもなんとかすぐに見つかり、
番組に穴を開けることも避けられた。
安井はまだ不服そうに、自分の書いた脚本をおれに突きつけなが
ら、言う。
﹁にしても、端貫木さんは何がしたかったんでしょう。警察の話で
は、端貫木さんは最初は致命傷じゃなかったそうじゃないすか。こ
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んなまどろっこしいことをするなら、自力でメンヘラ女から逃げた
ほうが早かったんじゃないですか?﹂
おれは安井に、
﹁お前、女に惚れたことないだろ﹂
とからかいながら、端貫木の心情を説明してやった。
おれが思うに、端貫木は恋人に刺されたとき、生きることをいっ
たん諦めたのではなかっただろうか。あいつは妙に厭世的なところ
のあるやつだった。おれに仲人を頼むほど信頼した恋人から裏切ら
れたショックに、抵抗する気も失せたのではなかっただろうか。
でも端貫木の心理とは裏腹に、あいつの生命力はしぶとく残り香
を放っていた。端貫木自身が自覚しないままに幽霊となっておれた
ちの前に現れ、ラジオを通じて全国の人間に助けを求めたのだ。
﹁安井、お前はいつ気づいた?﹂
おれは、最後の放送まで端貫木の叫びに勘づくことのなかった自分
を自嘲しながら、安井に聞いた。
﹁僕も同じっすよ。ただリスナーさんがけっこうな数気づいたんで
ね。それで念のためと思って端貫木さんのアパートに行ってみたん
ですよ﹂
安井は、自分だっておれと同じような鈍さだったくせに、どこか自
慢げにそう誇った。
安井の脚本を細かく作り変えていた端貫木。投稿内容に自分の境
遇をリンクさせ、そこに思わせぶりな私見を挟むことで、暗にリス
ナーや俺たち関係者に救ってもらおうと画策した。
特に、放送を聞いていたリスナーから多く寄せられたのは、端貫
木自身がアドリブで付け加えた﹃あるコーナー﹄への疑念だった。
投稿を読み終わったあとに毎回設けられていた、リスナーの感想を
読み上げる、あの部分。
そのリスナーの頭文字を全部つなげると、悲痛なメッセージが見
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えてくる。
安井がまた、
﹁でもやっぱりまどろっこしいすよ。どうせならずばりと番組内で
状況を説明しちゃえばよかったのに﹂
と愚痴る。それに対しておれはこう答えた。
﹁でも、あの番組は刺した端貫木の恋人も聞いていたかもしれない
んだぜ。もし端貫木が番組内で助けを求めたりすれば、おれたちが
駆けつける前に、彼女が端貫木にとどめを刺しにアパートに戻った
かもしれない﹂
﹁あ、そうか!﹂
安井はやっと合点が行ったように頷いた。
端貫木の恋人は、端貫木が見つかったとき、アパートの周囲をう
ろついていたらしい。だから逆にいち早く警察に確保される羽目に
なった。
ライブ
自分が刺したはずの恋人の端貫木がラジオに出演している。けれ
どこれ自体は不思議なことでもない。リアルタイム放送と銘打って
いてもところどころに録画を使っている番組は多々あるからだ。
﹁おっかねえ﹂
と、今度は端貫木の彼女の情念に肩をすくめる安井。
﹁あの女、なんで、自分が刺した端貫木さんと結婚したいなんて、
いまさら言えるんでしょうね﹂
﹁端貫木に甘えてるんだろ﹂
一言で答えたが、おれの頭の中にはいろんな考えが巡っている。
端貫木がああいう﹃不幸の元﹄を引き寄せてしまうのは、端貫木
の﹃優しさ﹄が引き起こす現象だ。けっして﹃不幸体質﹄が徒にな
っているわけじゃない。でも、では自分の損になる人間を合理的に
切り捨てていくのが端貫木の幸福につながるのかと言えば、おれは
それは違うと思う。端貫木は、自身がああいう育ち方をしたから、
他人の不幸をリアルに想像できてしまうんだ。その﹃不幸の共鳴﹄
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は、端貫木自身がどんなに無視しようと思っても、根っこの部分で
彼から離れて行かないんだろう。だから端貫木は一生他人の痛みに
振り回されて生きることになる。でもそれは端貫木の﹃長所﹄だ。
おれはそれを変える必要はないと思う。
そのあたりの機微を欠片も持っていそうにない安井が、腕を組み、
頭の後ろに回して、天井を見上げながら、言った。
﹁いいんですかねえ、端貫木さん。この前、病院に見舞いに行った
ら、彼女さんのこと許したい、なんて言ってたんすよ。また刺され
ても知らないですよお﹂
おれは思わず哄笑しながら、懲りないうちのDJにエールを送った。
﹁刺されたらまた助けてやりゃあいいじゃないか﹂
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n9305bs/
深夜ラジオ
2014年4月16日17時34分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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