学 術 前眼部OCT 角膜不正乱視の評価からHCLの処方まで 東京医科大学附属病院 講師 森 秀樹 ■ はじめに トーメーコーポレーション社製の前眼部OCT SS-1000 CASIA(以後CASIA)が発売後2年たちバージョンアップを繰り 返すことで角膜形状解析機能が搭載された。CASIAによるトポグラファーは従来のトポグラファーと比較して眩しさがなく、0.3 秒と高速に測定できること、高度不正乱視眼や角膜混濁眼でも解析できることが特徴として挙げられる。 本稿では、円錐角膜患者に対して私たちが行なっている、CASIAを用いた東京医大式ハードコンタクトレンズ(以下HCL) 処方法をご紹介したい。 ■ CASIAの角膜形状解析 【CASIAの角膜形状マップ表示(6Map)】 角膜前面Axial Map 角膜後面Axial Map 角膜前面Instantaneous Map 角膜後面Instantaneous Map 角膜前面Elevation Map 角膜後面Elevation Map CASIAの角膜形状解析はOCT断層像をトレースする ● Corenal Mapモードのスキャン設定 ことで角膜形状解析を行う。CASIAで角膜形状解析を Scan Method = Radial 行う場合はCorenal Mapモードで撮影するが、 その設定は 右記のとおりとなる。 A/B scan = 512 B/C scan = 16 Scan Range = 10.2 [mm] Scan Time ≒ 0.3 [sec] ● マップの表示範囲:最大φ10.2 [mm] ● 角膜中心の定義:角膜頂点(Vertex Normal角膜形状 データ中心部の極大値位置) TOMEY OPHTHALMOLOGY NEWS 前眼部OCT SS-1000 CASIA ■ 高度な円錐角膜に対するCASIAの角膜形状解析 1回目 2回目 再現性 10.35D TMS-4 プラチドリング型トポグラファー 0.10D CASIA プラチドリング型トポグラファーでは解析が難しい高 度円錐角膜眼でも、CASIAでは再現性の高い解 析を行える。 角 膜 混 濁を伴う円 錐角 膜 眼でもO C T 断 層 像から 正確性の高い解析が行える。 CASIAによるトポグラファーは高度な不正乱視や角膜混濁の伴う不正乱視の評価を行えるため、高度な不正乱視眼に対 するHCL処方において強力なツールになる。 ■ 円錐角膜の重症度 円錐角膜の重症度の判定は重要であるが、国内外で統一 【CASIAのK値による円錐角膜の重症度分類】 された分類はない。本邦の特にコンタクトレンズ分野ではフォト K値 治療方針 ケラトスコープのマイヤー像を用いた分類がよく用いられる。 し グレードⅠ (軽度) 7mm以上 HCL 当科CL外来ではCASIAによって測定された平均角膜曲率 グレードⅡ (中等度) 7mm未満 HCL:時に困難 半径(K値)により右表のように重症度を決めて分類し、治療 グレードⅢ (強度) 6mm未満 HCL:しばしば困難 かしフォトケラトスコープがないと分類はできない。 方針の参考にしている。平成22年1月からの円錐角膜連続 グレードⅣ(最強度) 5mm未満 角膜移植を考慮 症例80眼をこの分類で当てはめてみるとグレードⅠが29眼 (36.2%) 、 グレードⅡが28眼(35.0%) 、 グレードⅢが14眼(17.5%) 、 グレードⅣが9眼(11.3%) であった。 ■ 円錐角膜眼に対するFirst Trial HCLの選択 1st レンズ Trial and Error ベストフィット レンズ 一般的に円錐角膜眼に対するFirst Trial HCL(1stレンズ) はあらかじめ重症度別に決めておいたものが選択される。1st レンズのフィッティングを確認した後に、Trial and Errorでベストフィットレンズを決定する。このとき、1stレンズがベストフィット レンズに近いものを選択されていれば、Trial and Errorは効率的に行なえる。 TOMEY OPHTHALMOLOGY NEWS 学 術 私たちは、1stレンズのベースカーブ(以下BC)にCASIA OCT 断層像 Axial Map で測定した「Elevation MapのBFS値」を用いている。 Elevation Map Elevation Mapは角膜形状に対する基準球面(BFS) との 高さの差分をカラーコードで表現したマップで、BFSより低い 谷の部分は寒色系で山の部分は暖色系で示される。BFS BFS値 BFSの 曲率半径 値はBFSの曲率半径で表現される。1stレンズのBCにこの BFS値を用いることで、角膜形状によく適合した3点接触 のレンズを選択することができる。1stレンズには直径が K値 8.8mmの球面レンズを使用するが、BFSの計算も同じ直 平均角膜 曲率半径 径8.8mmか9.0mmで計算する。 ■ BFS値とK値の差を見る BFS値とK値の差からは、1stレンズが角膜の中央部では 1st レンズ BCはBFS値 どれだけフラットで、角膜の周辺部ではどれだけスティープで あるかを読むことができる。すなわち、 この差はレンズのタイ トさの目安にもなるため、私たちはタイトレベルと呼んで下表 のように分類しフィッティング法や、非球面レンズの選択の 参考にしている。 角膜中央部の突出 平均角膜曲率半径 K値 BFS値 BFSの曲率半径 【タイトレベル】 BFS値とK値の差 程度分類 フィッティング手法 0.5mm未満 Level 1 3点接触法 0.5mm ∼1.0mm未満 Level 2 時に2点接触法 1.0mm以上 Level 3 しばしば2点接触法 ■ フィッティングを読む HCLのBCをBFS値にすることで、 フルオレセインパターンがElevation Mapと近似する。そのためElevation Mapのパターン からフィッティングを読むことができる。Elevation Mapで山の部分はレンズ後面にタッチして、谷の部分にはフルオレセインが プールする。またタイトレベルはベベルの幅とよく一致する。 <症例1> 円錐角膜(中等度) タイトレベル(Level 2) Elevation Mapの山の部分 はレンズ後面にタッチして、 1stレンズのフィッティング 谷の部分にはフルオレセイン がプールしているのがわかる。 タイトレベルがLevel 2である のでベベル幅は少し狭い。 BC:7.5 K値=6.87 BFS値=7.45 TOMEY OPHTHALMOLOGY NEWS 前眼部OCT SS-1000 CASIA <症例2> 円錐角膜(中等度) タイトレベル(Level 1) 症例1と同じ中等度円錐角 膜であるが、 タイトレベルが 1stレンズのフィッティング Level 1であるので、ベベル 幅は適度に見られる。フルオ レセインパターンはElevation Mapのパターンに近似して BC:6.9 K値=6.74 いる。 BFS値=6.91 <症例3> 円錐角膜(突出部が下方) タイトレベル(Level 1) Elevation Mapをみると角膜 の中央部は谷になっている。 1stレンズのフィッティング 1stレンズのフィッティングは 予想どおりアピカルクリアラ ンスになる。 BC:7.6 K値=7.46 BFS値=7.57 <症例4> 円錐角膜(最強度) タイトレベル(Level 3) 1stレンズは角膜中央部の タッチが強くベベル幅が狭い、 1stレンズのフィッティング かなりタイトなフィッティングに なるため、 2点接触法を考慮 する。2点接触法のBCは、 角膜上半分のBFSを計算 BC:6.3 K値=4.88 BFS値=6.31 することによって求めること ができる。 以上、円錐角膜患者に対して私たちが行っている、CASIAを用いた東京医大式HCL処方の概要をご紹介した。 これまで名人芸とされていた円錐角膜に対するHCL処方は、CASIAの登場によって正確なデータとセオリーに基づいたよ り簡便な方法に置き換わっていくだろうと感じている。 TOMEY OPHTHALMOLOGY NEWS
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