NEC の IT サービス事業における人材育成

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〈調査報告〉
NEC の IT サービス事業における人材育成
夏 目 啓 二
上 田 智 久
陸 雲 江
較」(研究代表者:夏目啓二 2010年∼2012年)
キーワード
ICT 企業
による研究の一環として実施されたものである。
ICT 人材
NEC の訪問記録について,I.NEC の会社
人材育成
概要は,同社の Annual Report 2010及びホー
経営戦略
ムページの会社資料(2011年 2 月,現在)に基
人材戦略
づいて夏目が作成した。Ⅱ.「NEC における人
人材開発
材開発の基本方針」より以降の記録は,NEC
日本企業
のヒアリングと提供資料に基づいて夏目と上田
グローバル人材
が作成した。佐藤秀明様,杉田こずえ様,佐粧
慎一様には,長時間にわたって丁寧にご対応い
ただきました。また,本調査にあたって本学の
調査概要
情報メディアセンター事務部 西坂正雄氏にご
日本電気株式会社様(以下,NEC と略記)に
協力いただきました。ご協力いただきました皆
対し,表記のテーマにてヒアリング調査を行っ
様に深く感謝申し上げます。
た。2010年11月16日(火曜)13時30分∼14時30
分まで,NEC 本社ビル(東京都港区芝5 7 1)
1)
を訪問した。そして,佐藤秀明 様,杉田こず
2)
3)
I.NEC の会社概要
NEC は C&C をとおして,世界の人々が相
え 様,佐粧慎一 様,からお話をいただき,
互に理解を深め,人間性を十分に発揮する豊か
さらに貴重な資料も提供していただいた。調査
な社会の実現に貢献する,という企業理念を持
員は,研究代表者の夏目啓二ほか,上田智久,
つ会社である。NEC は,C&C,すなわちコン
陸雲江の 3 名である。なお,今回の NEC に対
ピュータ(Computers:情報技術)とコミュニ
するヒアリング調査は,日本学術振興会科学研
ケーション(Communications:通信技術)の
究費補助金(基盤C)「日米 ICT 多国籍企業と
融合を通じて情報社会の発展に貢献し,グロー
アジア ICT 企業との研究開発に関する国際比
バル企業として成長することを目指している。
同社は,また,創業1899年の歴史ある会社であ
1) 2010年11月16日時点での役職は,人事部 人事
マネージャー(国際人事企画担当)である。
2) 2010年11月16日時点での役職は,IT サービス
企画本部 グループマネージャーである。
3) 2010年11月16日時点での役職は,文教・科学ソ
リューション事業部 グループマネージャーであ
る。
る。NEC の経営方針(2010)にみるとおり,
同社は,情報通信技術と IT サービスを提供す
る日本有数の総合企業である。しかし,NEC
をとりまく世界の経済・社会環境は,厳しいも
のがある。なかでも,2008年 9 月のリーマン・
ショックが世界と日本の経済,情報通信産業に
June 2011
NEC の IT サービス事業における人材育成
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及ぼした影響は,極めて大きい。NEC もその
他の事業となっている。
例外ではない。
NEC は,事業構成から見ても,C&C の情報
NEC の2009年度の売上高は, 3 兆5831億円
通信技術と IT サービスを提供する日本有数の
(内:海 外 売 上高,7128 億 円),経 常 利 益 が,
総合企業である。しかし,過去 5 年間の NEC を
494億円である。その事業構成(図 1 )をみる
取り巻く世界の経済・社会環境の変化は,激し
と,IT サービス事業(売上高比率:24%),プ
い。とくに,過去 5 年間の売上高と経常利益と
ラットフォーム事業(10%),キャリアネット
もに減少が著しいものがある。この環境変化に
ワーク事業(18%),社会インフラ事業( 9 %),
対して NEC は,構造改革を実施しており,同
パーソナルソリューション事業(21%),その
社の経営方針によると,⑴ C&C クラウド事業
の推進,⑵ 海外事業の拡大,⑶ 新規事業の創
図 1 2009年度における事業別売上高構成比率
パーソナル
ソリューション
21%
その他
18%
出,に向けて経営資源の再配分を実施している。
この経営戦略を実行する組織体制として,
ITサービス
24%
NEC は,310社の連結子会社を擁し,2010年 3
プラット
フォーム
10%
月末現在,単独で24,871名,連結で142,358名の
従業員を擁している。この NEC の組織体制を
機能の観点からみると,図 2 のようになる。営
キャリア
ネットワーク
18%
社会インフラ
9%
業ビジネスユニットは,全国の顧客に対する営
業事業および NEC 全商品の営業事業,全国の
(出所):NEC における2010年度のアニュアルレポート
より作成。
パートナーと連携した営業事業の組織である。
海外営業ビジネスユニットは,海外現地法人と
図 2 NEC の組織図
営業ビジネスユニット
ユ I
ニT
ッサ
トー
ビ
ス
ビ
ジ
ネ
ス
ユプ
ニラ
ッッ
トト
フ
ォ
ー
ム
ビ
ジ
ネ
ス
海外営業ビジネスユニット
ビキ
ジャ
ネリ
スア
ユネ
ニッ
ット
トワ
ー
ク
ビ社
ジ会
ネイ
スン
ユフ
ニラ
ッソ
トリ
ュ
ー
シ
ョ
ン
ビパ
ジー
ネソ
スナ
ユル
ニソ
ッリ
トュ
ー
シ
ョ
ン
知的資産R&Dユニット
スタフ
取締役会
監査役
(出所)NEC ホームページより(http://www.nec.co.jp/profile/organization.html 2011年 2 月21日確認)
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経 営 学 論 集
Vol. 51 No. 1
の連携に基づく,海外顧客に対する NEC の全
同社は,また,事業構成を見ると,IT 機器・
製品・サービスの営業事業の組織である。この
シ ス テ ム の 開 発・製 造・販 売 の 事 業 か ら IT
営業組織に全製品・サービスを提供する責任を
サービス事業のウエイトを高めている。⑵ IT
もつのが, 7 つのサービス・開発・製造のユ
機器・システム産業分野における競争力の源泉
ニットである。NEC の最大の事業部門である
は,ICT 製品・IT サービスの開発力,製造力,
IT サービスビジネスユニットは,コンサルティ
マーケティング力にある。より具体的には,
ングから SI 構築,運用,保守,アウトソーシ
ICT 製品のハードウェア,ソフトウェア,IT
ング等の IT サービス事業に責任をもつ。
サービスの開発力,マーケティング力にある。
プラットフォームビジネスユニットは,OS,
このなかでも,⑶ IT サービス事業の開発力,
SI 基盤ソフト等のソフトウェアプロダクト事
マーケティング力を左右するのは,IT サービ
業,ソフトウェアサポートサービス事業,企業
ス事業分野で活躍する人材の組織的能力であり,
向けネットワークソリューション事業,および
その人材開発(育成)に左右されると思われる。
IT・ネットワーク融合製品,オープンサーバ,
そこで,ここでは,IT サービス事業の開発力,
メインフレーム,スーパーコンピュータ,スト
マーケティング力の源泉である人材開発(育
レージ,業種ワークステーション等のプロダク
成)に焦点を当てる(以上の文責は,調査員)。
ト事業に責任をもつ。キャリアネットワークビ
NEC における人材開発の体系としては,図
ジネスユニットは,通信事業者に対するネット
3 に示されるように活用,評価,処遇,採用,
ワークインテグレーション事業,プロダクト事
人材計画といった人的資源管理の要素を含めた
業に責任を持つ。社会インフラソリューション
形で行われる。その基盤は,例えばeラーニン
は,放送・制御,航空宇宙・防衛システム等の
グのプラットホームや,人材育成情報管理シス
社会インフラソリューション事業に責任をもつ。
テムなどである。個々人のスキル,経歴,資格
パーソナルソリューションは,モバイルターミ
を管理する情報基盤を持っている。そのうえで,
ナル,モバイルソフトウェア等のプロダクト事
OJT,研修制度,資格制度といった人材開発の
業,PC・ディスプレイ・周辺装置,等のプロ
仕組みが構築されている。
ダクトおよびサービス事業,BIGLOBE サービ
人材開発の体制は,全社的なものもあれば,
ス事業に責任をもっている。
ユニット単位のものもある。ミクロ的に各事業
以上のように,NEC の組織は,機能別にみ
部の中には,人材開発というミッションを持っ
ると,国内・国外の営業組織と全製品・サービ
た育成担当者が存在している。マクロ的には,
スの開発・製造に責任をもつ組織に分けること
人 材 開 発 の 検 討 を 行 う 会 議 体 が あ る。プ ロ
ができる。最後に,これら全製品・サービスの
フェッショナル推進会議や,プロフェッショナ
開発・製造の責任をもつ組織とは異なり,知的
ル認定委員会にて,NCP(NEC Certified Pro-
資産 R&D の組織は,NEC グループの技術コ
fessional)という NEC 独自のプロフェッショ
ンピタンスを強化するための研究開発および新
ナル認定制度を職種別に推進している。また,
事業・新ビジネスモデルの開発,知的資産の創
関係会社でも各社ごとに人材開発を行っている。
造・収益化に責任を持っている。
関連会社と連携し,人材の育成を NEC グルー
Ⅱ.NEC における人材開発の基本方針
プ全体として遂行する体制がとられている。人
事部では全社人材育成方針の策定が行われてお
以下では,NEC の IT サービス事業の人材育
り,NEC ラーニングという教育に特化した機
成政策に焦点を当てる。というのも,⑴ NEC
関としての独立会社と連携し育成を行う。ここ
は,すでに述べたように日本有数の情報通信技
では,社内だけでなく,社外に対しても教育を
術と IT サービスを提供する総合企業である。
行っている。
June 2011
NEC の IT サービス事業における人材育成
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図 3 NEC グループ人材開発の体系
人材開発(HRD)
セルフディベロップメント
人材計画
― 採用 ― 人材プール
ライフタイムキャリアサポート
事業遂行力強化
評価/処遇
― 考課
― 昇格
高度専門家
育成
グローバルビジネス
リーダー(GBL)
育成
プロフェッショナル
認定制度
キャリア
アクセラレーション
POOL制度
技量認定制度
研修制度
OJT
コンビテンシーモデル(プラクティスファイル)
2WAYマネジメント
人材活用
― 業務アサイン
― 異動 人材開発活動基盤
(人材育成情報管理システム,e-Learningプラットホーム,育成体制等)
(出所)NEC より提供資料。
Ⅲ.IT サービス事業の業務と
求められるスキル のが,システムモデルコンサルタントである。
さらに,最適な IT モデルのシステムアーキテ
クチャに仕上げていくのがシステムズアーキテ
つぎに,IT サービス事業の業務内容と求め
クトである。
られるスキルとの関係をみる。図 4 に示される
システム開発の段階では,アプリケーション
ように,アカウント・エグゼクティブが,まず
が重要になる。ここでは,業務知識・製品適用
顧客に対してアプローチする。そして,ビジネ
知識とシステム開発の豊富な経験と,深い見識
スコーディネータや IT・NW(ネットワーク)
を持つビジネスアプリケーションオーガナイザ,
ソリューションプロフェッショナルといった人
ビジネスアプリケーションアーキテクトといっ
材も含めて,顧客の要件が何か理解することで,
た人材が重要な役割を担う。これらの人材を束
提案する内容を明確化する。これらの人材が,
ねプロジェクトの全体を通してマネジメントし
営業の役割を果たす。その他にも,シニアビジ
ていくのが,プロジェクトオーガナイザである。
ネスコンサルタントやビジネスコンサルタント
各々の専門性を活かしプロジェクトを遂行する
は,例えば顧客の要望が漠然とした要件であっ
これらの人材は,高度なプロフェッショナル集
たとしても,具体的に明確化する方向にコンサ
団といえる。
ルを行うことができる。現状の客先システムの
これらのプロフェッショナルになるまでは,
全体像を理解し,顧客の持つ抽象的な要求イ
図 5 に示されるように,階層的に何層か設けら
メージを具体化し,アプリケーションを含むシ
れており,そこにたどり着くまでのキャリアパ
ステム全体の概念モデル,論理モデル,物理モ
スのプロセスがある。階層としては,アソシエ
デルを適用し,実装を踏まえた提案にしていく
イト,スペシャリスト,プロフェッショナル,
34
経 営 学 論 集
Vol. 51 No. 1
図 4 営業系・SE 系 NCP の活動フェーズ
お客様
高度化するお客様の
ニーズに対応するソリューションの提供
ソリューション
サービス
ソリューションセールス
ビジョニング
アーキテクト/デザイン
ソリューション
を提供する
人材タイプ
プロジェクト
オーガナイザ
シニアビジネスコンサルタント
ア
エカ
グウ
ゼン
ク ト テ ィ ブ
インプリメンテーション/
オペレーション
ビジネスコンサルタント
アソシエイトコンサルタント
ビジネス
コーディネータ
IT-NWソリューション
プロフェッショナル
シ
ス
テ
ム
コモ
ンデ
サ ル ル タ ン ト
システムズ
アーキテクト
プロジェクトオーガナイジング・スペシャリス
アプリケーションエンジニア
ビジネスAP
オーガナイザ
ビジネスAP
アーキテクト
テクニカルスペシャリスト
システムインプリメンタ
(出所)図 3 に同じ。
上席プロフェッショナルといった 4 つに分ける
なっている。
ことができる。新入社員が,各々の職場におい
図 7 の左上に「プラットフォームプラクティ
てどのような業務を行い,それを遂行するにあ
スに対応する研修」と記している領域がヒュー
たって必要なスキルは何かをまず理解する。そ
マンスキル系の研修である。SE は,ものをつ
してスキルを修得していくには,どのような研
くるだけではなく,顧客の要件に対して的確に
修を受けるべきかが研修制度の中に定義されて
対応する必要があるため,コミュニケーショ
いるので,各々が必要とするスキルに見合った
ン・スキルを中心に研修のプラットホームが構
研修を実際に受けることになる。また,キャリ
成されている。また,「プロフェッショナルプ
アパスが,高度に専門化するケースもあれば,
ラクティスに対応する研修」では,SE の多く
対照的に横へと広く伸びながらキャリアパスし
がプロジェクト・マネジャーになるにあたり必
ていく人材もいる。その際,業務を行いながら,
要な研修が織り込まれている。同図の右側に
必要なスキルを習得するまでの研修や OFF-JT,
NCP タイプ別研修とあるが,これは図 5 と連
OJT を組み合わせて個々人のスキル・アップ
動している。またコンサル,開発,運用保守な
が図られている。
どのメソトロジやマネジメントなどに対応し,
図 6 に示されているのが,NEC 全社に共通
レベル別に必要なスキルを強化していく研修制
した研修体系である。ここでは,共通研修と専
度が存在している。
門研修があり,共通研修では役職別に経営力を
図 8 に示されているのが,営業に関する IT
高める研修や,プラクティスを高める研修など
系のスキルを修得していく研修体系である。営
があり,全社員(営業,サービス,SE,ソフ
業といっても IT 系のスキルは必須であるため,
トウェア,スタフなど)に対する研修体系と
ここで共通のスキルを修得したうえでビジネス
June 2011
NEC の IT サービス事業における人材育成
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図 5 NCP 認定制度の人材タイプとキャリア体系
営業系
プ上
ロ 席 フ ェ ッ シ ョ ナ ル
プ
ロ
フ
ェ
ッ
シ
ョ
ナ
ル
上席プロフェッショナル
セールス
アカウントエグゼクティブ
ビジネスコーディネータ
IT・NWソリュ−ション
プロフェッショナル
サービス・SE系
上席サービスプランナ
上席サービスオーガナイザ
上席サービスマネジメント
アーキテクト
ソフトウエア系
上席ビジネスコンサルタント
上席システムズアーキテクト
上席プロジェクトオーガナイザ
上席ビジネスアプリケーション
アーキテクト
LCMプロフェッショナル
サービスプランナ
SIビジネスディレクタ
サービスコーディネータ
シニアビジネスコンサルタント
サービスマネジメントアーキテクト システムモデルコンサルタント
サービスオーガナイザ
システムアーキテクト
メンテナンスプロフェッショナル
プロジェクトオーガナイザ
ITファシリティプロフェッショナル ビジネスアプリケーションオーガナイザ
ビジネスアプリケーションアーキテクト
教育プロフェッショナル
上席ソフトウエアプロダクトプランナ
上席ソフトウエアプロジェクトマネージャ
上席ソフトウエアアーキテクト
上席ソフトウエアアドバンスト
テクノロジスト
上席ソフトウエアプロセス&品質
プロフェッショナル
上席プロダクトプランナ
上席プロジェクトマネージャ
上席アドバンストテクノロジスト
上席プロダクアーキテクト
上席生産技術開発プロフェッショナル
上席品質保障プロフェッショナル
ソフトウエアプロダクトプランナ
ソフトウエアプロジェクトマネージャ
ソフトウエアアーキテクト
ソフトウエアアドバンストテクノロジスト
ソフトウエアプロセス&品質
プロフェッショナル
プロダクトプランナ
プロジェクトマネージャ
アドバンストテクノロジスト
プロダクアーキテクト
生産技術開発プロフェッショナル
品質保障プロフェッショナル
ス
ペ
シ
ャ
リ
ス
ト
サービスプランニングスペシャリスト ビジネスコンサルタント
サービス管理スペシャリスト
アプリケーションエンジニア
コンテンツディレクタ
プロジェクトオーガナイジング・
メンテナンススペシャリスト
スペシャリスト
ITファシリティスペシャリスト
テクニカルスペシャリスト
教育スペシャリスト
(NW,DB,基盤SW,セキュリティ)
ソフトウエアプロダクトプランニング
スペシャリスト
ソフトウエアプロジェクトマネージャ
スペシャリスト
ソフトウエアプロダクションスペシャリスト
ソフトウエアテクニカルスペシャリスト
ソフトウエアプロセススペシャリスト
ソフトウエア品質スペシャリスト
ア
ソ
シ
エ
イ
ト
サービス管理アソシエイト
ヘルプデスクアソシエイト
メンテナンスアソシエイト
ITファシリティアソシエイト
ソフトウエアプロダクションアソシエイト
ソフトウエアプロセスアソシエイト
ソフトウエア品質アソシエイト
営業要員
サービス要員
アソシエイトコンサルタント
システムインプリメンタ
SE要員
HWプロダクト系
SW開発要員
プロダクトスペシャリスト
HW開発要員
(出所)図 3 に同じ。
を行う。
富な成功体験を蓄積し,幅広く高度な技術を保
どのような人材にも言えることであるが,共
有することで,業界を代表する一流の人材とし
通した必須の研修があり,そのうえに人材のタ
て事業に貢献する。
イプ別で必要な研修体系が構成されている。営
IT サービス事業を展開する上では,特に大
業の人材にも IT のスキルは必須であり,一方
規模で難易度の高いプロジェクトを強力に推進
で SE の人材には営業のスキルが問われるので,
するプロジェクト・マネジャーが必要とされて
共通のスキルを持ち,業務に近い形の研修とい
いる。たとえば,顧客に対応する時,一つのプ
うものが重要になる。eラーニングといったよ
ロジェクトを立ち上げる。その際,プロジェク
うな知識教育も組み合わせながら,人材の育成
ト・マネジャーが中心となり,プロジェクトに
が図られている。
必要な人材を配置する。プラットホーム系の人
Ⅳ.高度専門職における業務とスキル
材やアプリケーション系の人材などを構成して,
プロジェクトを遂行するのである。構成する要
NEC における高度専門職は上席プロフェッ
員は規模や難易度に応じて適したプロを配置す
ショナルに位置づけている。それぞれの人材タ
ることが望ましい。
イプにおいて第一人者,プロ中のプロとしての
人材開発システムとしては,先にも述べたよ
業務を遂行する人材である。これらの人材は豊
うに OJT と OFF-JT を併用したスキル習得の
36
経 営 学 論 集
Vol. 51 No. 1
図 6 NEC の研修体系
共通研修
進路を定める
経
営
管
理
主
任
担
当
経営力を強める
N
キャリア開発
E
C W
A
Y
︵
ビ
ジ
ョ
ン
・
方
針
・
戦
略
・
施
策
︶
キ
ャ
リ
ア
開
発
研
修
専門研修
自
主
研
修
ビ
ジ
ネ
ス
リ
ー
ダ
研
修
︵
氏
名
︶
プ
ロ
モ
ー
シ
ョ
ン
研
修
︵
階
層
別
︶
プラクティス
を高める
プ
ラ
ク
テ
ィ
ス
ア
ッ
プ
研
修
専門性を研く
グ
ロ
ー
バ
ル
研
修
プロフェッショナル
認定制度
上席
プロ
職種別研修
共 (プロフェッショナル研修)
通
技
術
研 営 サ S ソ H ス
修 業 ー E フ W タ
ビ
ト プ フ
ス
ウ ロ
ェ ダ
ア ク
ト
プロ
スペシャ
リスト
アソシ
エイト
基礎を固める
新入社員教育
(出所)図 3 に同じ。
図 7 職種別研修体系(SE 系)
プラットフォームプラクティスに
対応する研修
プロフェッショナルプラクティス
に対応する研修
修
研
別
プ
イ
タ
CP
N
SE共通研修
全
社
共
通
研
修
階層別
共通研修
メント マネジ テクノ ビジ パーソ
ロジ メント ロジ ネス ナル
プロ(上級)
スペシャリスト(中級)
若年次
共通研修
(出所)図 3 に同じ。
アソシエイト/エントリ(初級/入門)
オプ
ーロ
ガジ
ナェ
イク
ザト
アシ
ース
キテ
テム
クズ
ト
コ
ン
サ
ル …
タ
ン
ト
June 2011
NEC の IT サービス事業における人材育成
37
図 8 職種別研修体系(営業系)
プロセス
問題解決型
仮説検証型
需要創造型
顧客発掘
中堅営業
ソリューション営業力強化研修
ニーズ
サーベイ
セールスブートキャンプ(アドバンス編)
ALPS(Action Learning for Professional Sales)
プロ道場 ほか
提 案
クロージング
若手 3 年一環教育
1 年次:セールスブートキャンプ/顧客分析力強化(BSC)/総合演習①
2 年次:営業活動総括(GROWモデル)/洞察力強化(8-Method)
/総合演習②
3 年次:営業プロジェクトマネジメント基礎/総合営業スキルアセスメント
若手営業
新入社員導入教育
V2012テーマ
グローバル系
クラウド・サービス系
新事業創造系
業種別
製品・サービス
業種・業務(集合型)
異業種交流
異職種交流
共通
スキル
営業のための日学習教材(製品・サービス・業種・ITテーマほか)
経営
業種・業務
IT/NW
スキル
ロジカル
シンキング
対話力
プレゼン力
リーダー
シップ
マネジメント
創造
コンプライアンス
(出所)図 3 に同じ。
キャリア・プログラムにより,キャリアが形成
営業,あるいは営業をサポートするような部門
されていくのである。要員を配置する際には,
に近いところでは,中途採用の比率は比較的に
育成視点も加味した上で適した業務アサインを
高い。
おこない,生きたノウハウを身に付けることが
重要な育成施策につながる。
コンサルの中でも,事業戦略コンサルタント
Ⅴ.グローバル人材の現地化
―その採用と育成―
としてのより高度な専門性を要求されるような
グローバル人材の育成という側面を見ると,
領域については,系列会社のアビームコンサル
この点についても部署によって違いはあるが,
ティング社などのコンサルティングファームと
今後の新興市場や先進国市場を考慮すると,日
合同で業務を行う場合がある。
系企業もかなりグローバル展開を行っている。
また,NEC の中にも,コンサルティング事
従来のグローバル・ビジネスの考え方は,日本
業部が設けられている。コンサルティング専門
からビジネス内容に合わせた形で人材を海外に
の集団を集め,民需を中心に組織化されている。
派遣し,ビジネスをサポートするといったもの
顧客に対していろいろな提案を行う高度なスキ
であった。
ルを持ち,コンサルティングができる事業部で
しかしながら,現在においては日本の人材の
ある。
みならず,海外の人材を育成しながらビジネス
なお,人材の採用に関していうと,部署に
を展開していく必要がある。その際,国籍を問
よって差異があるため,一律的には言えないが,
わず本社の社員を派遣する形でビジネスを進め
38
経 営 学 論 集
Vol. 51 No. 1
図 9 Global Business Leader 育成の基本的な考え方
Global Business Leaders
計画的ローテーションによる
実践の場で磨きをかける
知識能力
教 育
経 験
素養資質
グローバルスタンダードとしての知識能力,
リーダーたる素養資質の育成(GBL研修)
コア人材候補(Pool)
(出所)図 3 に同じ。
る場合と,現地で採用するという 2 つのタイプ
合させた形で最適なソリューションを提供して
がある。現地採用というのは,基本的にその国
いく必要があり,現在,NEC はこのように変
の人材を採用することが多い。
化している。
従来,日本本社の採用においては日本人の採
ソリューションというのは顧客によってまっ
用が中心であった。海外の現地法人の際,海外
たく異なるので,現在のソリューション・サー
の人間を採用することが中心ではあるが,海外
ビスはローカル主導で進めるべきとの意識が生
の事業を担うコアとなる人材は,日本の本社で
まれている。したがって,必然的にグローバル
採用された日本人が現地に派遣され,指揮を
な視点で捉える際に求められる人材像は変化し
とっていた。しかしながら,現在では状況が変
てきている。人数の比率から言えば,海外現地法
わり,また,積極的に変えていかなければなら
人でコアとなる人たちの比率は,これまで出向
ないという意識が生まれている。
者がかなり占めていた。しかし現在では少しず
これまで日本で設計は行うが,生産そのもの
つではあるが,ローカルよりになってきている。
は中国やベトナムなどでというビジネスを展開
現地の人材の方が,その場所で求められ,ま
してきた。いわば,日本が主導となり,全てコ
た生み出すべき価値は何かという具体的な部分
ントロールするという形でビジネスが行われて
を熟知しているので,現地の人材の力を効率的
きたのである。しかしながら,現在の海外事業
に活用する方向へとシフトしてきている。さら
というのは,本社で開発したテクノロジーをコ
に言うならば,より優秀かつ意欲的な人材を現
アにして,より現地にいる顧客に近い形でビジ
地で積極的に採用しなければならないといった,
ネスを効率的に進め,さらに付加価値を付ける
意識が生まれるようになっている。こうしたグ
ため,現地の色々なサービスやプロダクトと結
ローバル人材の育成における考え方は図 9 で
June 2011
NEC の IT サービス事業における人材育成
39
ある。
ビジネスに必要な人材開発のあるべき姿を模索
そして,グローバル人材を育成するにあたっ
している段階である。
ての重要な問題としては,現地法人によって現
地で採用された人材のモチベーションとスキル
Ⅵ.グローバル人材との人事交流
の向上である。モチベーションを上げるには,
現地で採用した人材のキャリアを広げるとい
現地採用の人材の処遇やキャリアパスのありか
う意味では,その選択肢の一つとして日本に連
たを見直し,これまで以上に昇進の可能性を明
れてくることもある。この取り組みは,現地人
確に示して行く必要がある。
材の経験を広げることだけではなく,本社の人
また,横のキャリアを広げていくことも重要
材(日本人)に対して,顧客は世界にいるとい
である。例えばひとつの国の中でしかキャリア
うことを実感させることにおいても有効に働く。
がなかった人材を,他の国でも活躍できるよう
たとえば,こうした人材の移動を契機に,本社
な機会を与えることで,キャリアを広げるなど
の日本人とアメリカの人材が本社のコア・テク
である。しかし,この取り組みについては,今
ノロジーとインドの開発リソースを用いて,シ
のところ一部の国のあいだでしか実現されてい
ンガポールの顧客にサービスを提供するという
ない。今後,より広く実績を積むことが必要で
事例も出てきている。
ある。
現在は海外から出向している人員数はまだ非
人材開発に関して,NEC が注視しているの
常に少ない。しかし海外事業の拡大とともに必
はインドである。インドのソフトウェア開発の
然的に海外の人材が本社に来る機会も増える。
スキル体系は,非常に魅力的である。彼らは,
人事部門は,こうした人の移動がスムーズに運
アメリカから学び,独自の進化をもうすでに遂
ぶよう支援するとともに,本社の人材(日本
げている。体系的かつ膨大なデータベースを
人)に対しては,海外ビジネスに臆することが
持っている。多くの国の中でも,とりわけイン
ないよう,グローバルなビジネス・スキルを習
ドをベンチマークしつつ,NEC のグローバル
得するための研修も強化している(図10を参照)。
図10 日本国内におけるグローバル要員育成施策
管理職
【選抜制】
現法派遣幹部候補者研修
(海外現地法人経営研修)
主任
【選抜制】
若手グローバルビジネスリーダー向け研修
(Global Initiative強化研修)
担当
【選抜制】
新入社員向けグローバル要員育成
(Global Track to Innovator)
グローバル要員
拡充プログラム
各階層において,グローバル要員育成に向けた施策を実施
(出所)図 3 に同じ。
(受理 2011年 4 月 5 日)