1999(日本語Pdfファイル)

2000.L2.1.5.
遠隔石油精製施設の広角的監視システムの研究開発
(広角的監視システムグループ) ○西村 淳、淺井 秀敏、石田 和宏
市川 昇一、柳川瀬一美
1.試験研究の内容
1.1 試験研究の目的
石油製油所施設の安定・安全運転の確保並びに省力化推進の観点からプラント監視シス
テムの強化が必要とされる。
これに対応する技術として監視カメラ、センサー等監視システムの有線方式信号伝送技
術が一般的である。
一方、遠隔地施設への伝送にはケーブル等設置費用によるコストアップ、監視業務の増
加及び地震等の災害時での通信の確実性に問題がある。
そこで、本研究では信号伝送を有線方式から非有線通信技術を用いた方式に変更し、設
置費用のコストダウン、広範囲監視が可能となることによる省力化及び災害時での通信の
安定性確保に寄与することを目的とする。
また、非有線方式の応用技術として、緊急時操作機器への信号伝送システムの開発及び
電源・検出部をスタンドアローン化した自走式無人監視システムの開発を実施することに
より、石油精製業界における監視技術向上に貢献を目指すものである。
1.2 研究開発の内容
現状の製油所監視システムは有線方式が主流で、監視カメラ、ガス油漏洩・温度・振動
検知、緊急時操作設備等の信号の受発信に用いられており、非有線方式は計器室とフィー
ルドとの連絡用に無線ページングが用いられている程度である。
一方、有線方式伝送システムはリアルタイム監視が可能であり、技術としては確立され
たものであるが、広範囲をカバーするには敷設費用が高く、ケーブル断線等災害時の伝送
の安定性に欠ける。
本研究では非有線方式として実用段階にあるSS無線、PHS に代表されるデジタル通信、
赤外線通信、衛星回線通信を調査対象とし、各々のメリット・デメリットを比較検討する
ことにより、製油所の最適システムを選定する。
選定したシステムは製油所の諸条件下で実機テストを行い、実用性の評価を実施する。
また、応用技術としての緊急時操作機器への操作信号発信システムを組み込むことにより、
地震等の緊急時操作の安定化を目標とする。
対象機器としては、隣接工場との外連設備の遮断、出荷設備の停止、火災発生源の遮断
を計画した。
スタンドアローン化した自走式監視システムは将来の遠隔地施設無人化またはプラント
細部の連続監視さらには異常時に運転員が近づけないエリアの監視に有効と思われるため
現状実用段階にあるものから適用性を検討するものとする。
本研究では、燃料油漏洩により出火の可能性のある加熱炉下部の監視にシステムを設置
し適用性について検証するものである。
試験研究のシステム概要を図1.2−1に示す。
独立電源
緊急時設備
監 視 ・操 作 盤
検知器
監 視 ・操 作 盤
監視 カメラ
計器室
電源独立
自走式監視システム
有線方式
監 視 カ メ ラ
非有線方式
ロ ーカル エリア
図1.2−1 システム概要
1.2.1 試験研究システムの範囲
研究開発システムでは、現在実用レベルにある機器を組合せ、システムとして有効な機
能性、実用性を評価するものであるため、非有線方式及び対象機器の開発には主眼とせず、
性能評価を中心に研究開発を行うものである。
従って、監視カメラとして工業用監視カメラ(ITV)
、緊急時対応設備としては熱源
停止・回転機器停止・緊急遮断に適用し、検知機器は漏油・水質・振動・ガス・温度検知
器を対象とする。
また、非有線伝送方式の製油所の諸条件下での実用性を評価するため、対象機器は次の
条件に該当する範囲とした。
(1) 設置環境による違いとして、タンク出荷設備等の広範囲のエリアを有するオフサ
イト系とプラント細部の監視が必要でかつ危険物・高温高圧流体・毒性ガスを取
り扱うオンサイト系に分けてテストを行うこととする。
(2) 非有線伝送で懸念される電波相互干渉状態を検証するため単独設置・複数設置の
両面でテストを行い、更には他の動機器・電機機器からのノイズ干渉状態も検証
する。
(3) 電波の気象条件による影響度を調査するため、屋内・屋外に分けて設置し、屋外
は距離・障害物の影響も考慮してテストを行う。非有線方式研究対象設備を図1.
2−2、及び非有線方式研究範囲を図1.2−3に示す。
研究範囲は、 プラント運転に密着し、
実用可能な範囲とする
自動消火設備
緊急時対応設備
緊急脱圧設備
熱源停止設備
回転機停止設備
難
緊急遮断設備
易
監視カメラ
監視検知器
異臭検知器
ハイビジョンカメラ
漏油検知器
水質検知器
振動検知器
ガス検知器
温度検知器
赤外線カメラ
工業用監視カメラ
図1.2−2 非有線方式研究対象設備
信号の種類
設置環境の疎密度
①SS 無線方式
②デジタル通信方式(PHS)
③赤外線通信方式
④通信衛星回線方式
①オンサイトエリア
②オフサイトエリア
監視カメラ
検知器
緊急時対応設備
相互干渉・ノイズ
①単独設置
②複数集中設置
③動機器,電気機器のノイズ
④移動体無線の影響
気象条件・設置場所
①屋内区間内伝送
②屋外伝送
③振動の影響
図1.2−3 非有線方式研究範囲
1.2.2 研究開発の評価方法
非有線伝送方式は、有線方式と比較してコスト・安定性で有利であることから、実用性
の評価は伝送速度・信号安定性・伝送距離・画像伝送の性能で行うものとする。
ここで、伝送信号としては、各種検知器のアナログ・デジタル入力、緊急時操作出力と
してのデジタル出力信号及び画像入力信号があり、各々以下の要素で評価するものとする。
(1)伝送速度は特に緊急時の操作としてのデジタル出力信号速度を評価する。
(2)信号の安定性は非有線伝送設備間の相互干渉、他動機器・電気機器とのノイズの
影響、他移動体無線(自動車無線・船舶無線)との影響を評価する。
(3)伝送距離については、製油所内では最大 500m程度の距離間での通信が一般的で
あるため、500m内での距離による影響をみるとともに、高さによる違い、遮
蔽物の有無による影響を評価する。
(4)画像伝送ついては、ITV の画質が画像圧縮技術 JPEG 規格によって、高画質・中
画質・低画質があり、それぞれ映像更新スピードで評価する。
また、画像の込み入り具合・画像の明暗によって、更には画像受信側の表示サイ
ズ(フルサイズ・ハーフサイズ)によっても画像更新スピードに差がでる。従っ
て、これらの要素について評価する。評価の概念を図1.2−4に示す。
非有線方式
監視カメラ
監視カメラ
検知器
検知器
緊急時対応設備
緊急時対応設備
比較・評価
有線方式
伝送速度
監視カメラ
監視カメラ
検知器
検知器
信号安定性
緊急時対応設備
緊急時対応設備
伝送距離
自走監視システム
自走監視システム
画像更新速度
図1.2−4 評価の概要
自走監視システム
自走監視システム
2.試験研究の結果と解析
2.1 第1期オフサイト系システム開発
オフサイト系開発機器は以下の要領で設置した。
(1)有線/非有線共有タイプ監視カメラ(ITV)をタンクヤード、桟橋周辺の海上
出荷設備、LPG 系高圧ガスポンプ及び調合設備を対象とした地区と、排水最終設
備であるガードべースン及びローリー陸上出荷設備を対象とした地区に設置した。
(2)有線/非有線共有タイプ監視検知器として LPG 出荷ポンプに接触燃焼方式可燃性
ガス検知器、ガソリン等出荷ポンプに加速度検知方式振動検知器・測温抵抗方式
ポンプ温度検知器・レベル検知方式及び高周波式漏油検知器を設置した。
この中には電波の相互干渉、動機器・電気機器とのノイズ影響及び屋内屋外のも
のを選択して設置した。
(3)有線/非有線共有タイプ緊急遮断装置(ESV)として、海上出荷停止用及び隣
接工場への外連出荷停止用にカムフレックス弁を設置した。
以上の設備は全て有線と非有線方式の両システムで性能評価ができる形式として、設置
を完了した。開発機器設置図を、図2.1−1及び図2.1−2に示す。
図2.1−1
有線/非有線共有タイプ
工業用監視カメラ
図2.1−2
有線/非有線共有タイプ
緊急時操作弁
2.2 非有線デジタル通信検討・設置
2.2 非有線デジタル通信検討・設置
非有線方式伝送システムの検討にあたっては、現在実用レベルにある通信システムの中
から比較検討を行うこととし、検討対象はSS無線・1.9GHz デジタル通信(市販の PHS と
同一方式)
・赤外線通信・衛星通信の4種類とした。
各通信の調査結果以下の通りである。
(1) SS無線(Spread Spectrum 無線)
軍事用に開発されたもので、機密性・秘匿性が高く、伝送速度も 2Mbps と速く、
伝送距離の約 3km も可能と言われている。
特に、国内では 1992 年から 2.4GHz 帯スペクトル拡散(SS)無線通信方式が
利用できるようになってから、比較的安価であり、ここ数年のマルチメディア技
術の進歩により CCD カメラ映像伝送も可能となった。
但し、電波の直進性が強く送信・受信機の双方向性(±1°)が重要で高感度ア
ンテナが必要である。更に、障害物や反射電波によるノイズ影響を受けやすい。
(2) 1.9GHz デジタル通信(PHS 通信)
原理は市販の PHS 電話と同等であり、伝送速度は 32Kbps で、約 500m の伝送
距離である。
実用レベル調査では画像伝送状態を有線と PHS で比較しており、静画像は有線
と遜色ないが、動画像は雰囲気がわかる程度であった。
従って、動画像を PHS 方式で伝送するには、圧縮/伸張技術であるモーション
JPEG、といった技術を導入することにより、SS無線並の伝送が可能である。
(3) 赤外線通信
伝送距離が10m程度であり、実用レベルとしては OA 機器、LAN システム、家
電リモコン、自動ドア開閉システムに用いられている。太陽光線の影響を受けや
すい。
最近では IrDA(赤外線データ協会)規格による標準化がされている。
(4) 衛星通信
通信衛星を利用するため、広範囲の情報通信に適しているが伝送速度が遅く
(4.8Kbps)画像データ及び情報伝送の送信には不向きである。
また、通信回線を一般公共通信回線を利用するためランニングコストが膨大なも
のとなる。
以上の調査結果から、本研究開発では、機能的には SS 無線が優位であるが、電波の安
定性、価格の面から 1.9GHz デジタル通信方式(PHS 通信)を採用することとした。
非有線方式伝送システムの比較表を表2.2−1に示す。
方式
伝送速 度 伝送距 離 電波障 害 アンテナ指 向 コス ト
SS 無 線
2Mbps
3km
有
有
○
PH S
32Kbps
500m
無
無
◎
赤外 線
10Kbps
10m
有
無
△
衛星
4Kbps
全地 球
有
無
×
画像転送速度:12.5Kbps/コマ→1秒間コマ数:SS20、PHS2.5、赤外0.8、衛星0.3
表2.2−1 非有線方式伝送システム比較表
2.3 非有線デジタル通信システム製作
PHS 方式による非有線方式伝送システムの構成図を図 2.3−1及び図2.3−2に示す。
ここでは、監視カメラ(ITV)
・監視検知器・緊急遮断装置(ESV)の近傍に,号変換部分
とリモートアクセスサーバーと PHS 子機を内蔵した Air Purge Box を設置し非有線信号の
送信・受信を行う。
計器室では PHS 親機・PHS 制御装置を有し、映像・検知器データのモニタリング・緊急
時の指示信号の発信が出来るものとなっている。
有線信号も同様にモニタリングできることから有線・非有線方式の比較評価ができる構
成となっている。また、PHS データーは所内 LAN と接続されていることから所内で映像の
確認も可能である。
図2.3−1
非有線方式伝送システム
Air Parge Box
FHC21
端 @
1PS
FHC 21 We b C am era
Se rve r
Y
レベル PHS
変 子
CommAssist PRO
Ethernet
RS232C
端 @ RS485
計 @
1PS計 ・
FC13E
同
モニタ
カメラ操 作 ・
同 軸 ケーフ
端 @
2PS
250m
RS485 /RS232C 変
,
RS485
端 @ RS485
FC13E
2PS計 ・
同
同 軸 ケーフ
モニタ
PHS親
カメラ操 作 ・
RS485 /RS232C 変
,
RS485
計 @
RS232C
ケーブ ル補
900m
非 @
クライアントPC
RS232C
PHS制 御
Webサ ・
Web
非 @
Ethernet
ガス検 ・
制 御 シス
FJB
ガス検 変
RS232C
レベル PHS
変 子
Air Parge Box
ガス・
変 @
フィールド機
AI/PT/DI
Du onus
レベル PHS
変 子
FA-M
3
INC13
RS232C
点 線 内: Y S V
ソーラーバッテリー
: 既 設 又 は
図2.3−2 非有線方式伝送システム構成図
3.3 スタンドアローン化自走監視システム検討
非有線方式伝送システムの応用技術として、スタンドアローン化自走監視システムの検
討を実施した。
現在、発電所・炭鉱・洞道内の巡回監視用に「プラント巡視ロボット」の納入実績があ
り、画像・音・温度・ガス検知等のデータを伝送している。
自走方式はトロリー電源供給またはバッテリィー方式である。但し、工場用防爆認定が
未取得であり、取得には未だ時間と開発費用が必要とのことである。
また、小規模であれば、台車メーカーと共同で防爆型の機器の開発が可能とのことであ
った。
本仕様では、防爆式有軌道台車を用い、電源供給はケーブル給電方式とし、監視カメラ
を搭載し、12m/分の走行スピードで約13m間を往復し、停止ポイントは6カ所程度
を計画している。
映像データの伝送・監視カメラ制御及び台車の走行制御を非有線方式伝送システムによ
り行うことを計画している。
監視対象は比較的常時監視の必要な油焚き加熱炉のバーナーを集中監視し、オイルだれ
等の早期発見に寄与すること目的とする。
具体的には灯軽油脱硫装置の反応塔加熱炉に適用を計画している。スタンドアローン化
自走監視システムの概念及び設置環境を図3.3−1、図3.3−2に示す。
加 熱 炉
監視カメラ
停止ポイントは地
上側ドッグによる
リミット検出
W=1200
1000
モータは耐圧防爆
H=800
画像伝送装置
レールは埋没式
給電、信号はケー
ブルベアを使用
加
熱
炉
PHS
カメラ制御
駆動制御
M
13m
図3.3−1 スタンドアローン化自走監視システムの概念図
図3.3−2
自走式監視システム
設置環境図
4.試験研究の成果
本年度の研究開発では、非有線方式伝送システムの評価の対象となる機器の選択及び有
線・非有線方式の共用機器の設置が完成した。
また、非有線方式伝送システムの媒体として最適な方式が選択・製作が完了したことに
より、次年度の機能評価が可能となった。
応用技術としての緊急時操作機器への適用設置も完了した。
スタンドアローン化自走監視システムの検討は、次年度の製作機器の選択が計画通り終
了し、本年度の計画課題は達成することができた。
本年度で得られた研究開発の成果を以下にまとめる。
(1) 非有線方式伝送システムの媒体としては、SS無線が機能的には優れているが、
電波特性や価格面からは 1.9GHz デジタル通信方式(PHS 方式)が有利であり、
画像圧縮/伸張技術の導入で十分効果が発揮できることが判明した。
(2) 更に、PHS 方式で製油所内 LAN にも接続可能であり、広く監視システムの構築が
でき、将来性を有している。
(3) スタンドアローン化自走監視システムは現在のところ防爆型の開発があまり進
んでおらず、防爆製作可能な小規模の機器での開発とする。
5. まとめ
本年度の研究開発は調査と機器の設置で終了したが、次年度以降の広角的監視システ
ムの評価体制が整ったと考えられる。
また、オンサイト共用機器も次年度完成するため、
、オフサイト系とオンサイト系が評
価できる。
特に非有線方式伝送に影響を与え得る様々な要因を解析して、製油所の諸条件下で有効
な監視システムの構築を検討して行く。
Copyright 2000 Petroleum Energy Center all rights reserved.