有明粘土の基礎知識 1. 有明粘土とは? 2 有明粘土の特性 2. (株)ジオテック技術士事務所 RCCM (土質及び基礎) 木寺將仁 1 1. 有明粘土 とは? 脊振山地 耳納山地 現在地 筑 後 川 有明海北部 有明海 有明海北部の地形区分図 2 花崗岩類 変成岩類 火山岩類 Qt;段丘堆積物 嘉 瀬 川 塩 田 川 沖積層 筑 後 川 現在地 変成岩類 沖積低地 矢部川 有明海 火山岩類 有明海北部の地質図 3 現在地 4 有明海北部の海岸線の変化 世界の安定大陸の場合 縄文海進 ピークは6,000年前 ヤンガードリアス期 氷河期(10 500年前) 氷河期(10,500年前) 最終氷期(約20,000年前) 有明海では -140m 日本の場合 海面変動の変化 (「変動する地球-現在および第四紀」岩波書店,p.212) 5 有明海沿岸の海水準変化(下山) 6 現在地 有明粘土層基底深度の等深度線図と海成層の有無(下山ほか,1994) 黒丸:地下に海成層が存在(=有明粘土層) 白丸:地下に海成層を欠く(=蓮池層) 細実線:有明粘土層(海成層)の基底(下限)の深度線 太実線(赤線):有明粘土層分布限界線 7 有明海北部 現在地 8 有明海北部の代表地質断面位置 (下山,1994) 現在地付近 沖積層;有明粘土層,蓮池 洪積層;三田川層以深 筑後地質断面図C-C’ (下山,1994) 9 沖積層;有明粘土層,蓮池 洪積層;三田川層以深 10 地質断面図B-B’ (下山,1994) 沖積層;有明粘土層,蓮池 洪積層;三田川層以深 11 地質断面図A-A’ (下山,1994) 沖積層 1万年前 洪積層 12 地質層序表 有明粘土層 砂層 2 50 2.50m 4 60 4.60m 洪積砂礫層 筑後市の柱状図とコア写真 13 貝殻片を混入。 大木町のコア写真(接写) 14 大木町のコア写真(接写) 参考までに、改良土の見分け方。 改良土の判定;フェノールフタレインを散布すると赤紫色に変化 改良土の判定;フェノールフタレインを散布すると赤紫色に変化。 15 2. 有明粘土の特性 有明粘土の特性を知るために、室内土質試験を実施す る必要がある。試験に使用する試料の状態を示した。 乱した土 (撹乱試料) 定義:原位置における土の構造と力学的性質が 保持されていない土 調 る性質 主として物理的性質 調べる性質:主として物理的性質 (粒度、液性限界・塑性限界、土粒子の密度など) 乱さない土 (不撹乱試料) 定義:土の構造と力学的性質をできるだけ原位置 に近い状態で採取した土 近 状態 採 調べる性質:主として力学的性質 (湿潤密度 土の強さ 土の圧縮性など) (湿潤密度、土の強さ、土の圧縮性など) 16 サンプリングの方法 サンプラーの構造と適用地盤 17 サンプリングの方法 18 固定ピストン式シンウォールサンプラーの概要 サンプリングの方法 両方ともに、Φ86mmで掘進可能 19 2.1 物理的特性 土の三相構造図 物理特性の算出方法 (比重) (単位体積重量) 20 有明粘土の物理的性質一覧 液性限界 塑性限界 21 「九州・沖縄の特殊土」:土質工学会九州支部編、p.27 物理試験 (1)含水比試験 含水比w は、式(3.1)で定義されるように土粒子の質量に対する間隙 に含まれる水の質量の割合を百分率で表したものである。 (2)土粒子の密度試験 土粒子の密度ρs は、式(3.2)で定義されるように土粒子部分のみの 単位体積質量である。 (3)湿潤密度 湿潤密度ρt は、式(3.3)で定義されるように土全体の単位体積質量 であり、自立する塊状の土を対象とし、その体積と質量を測定して求 める。 める 代表的な土の物理特性の測定例 22 物理試験の測定例(福富工区)、2010.10「農業農村工学会」発表論文より 盛土(3m). 粘土分 68% 48% 68%~48% 土質詳細図 23 含水比の測定例(柳川付近) 一般値 Ac層の平均値=89% Ac1層の平均値=98% A 2層の平均値 97% Ac2層の平均値=97% Ac3層の平均値=81% 24 土粒子の密度試験の測定例(柳川付近) 一般値 般値 Ac層の平均値=2.607 g/cm3 Ac1層の平均値=2.609g/cm3 Ac2層の平均値=2.625g/cm3 Ac2層の平均値 2.625g/cm3 Ac3層の平均値=2.631g/cm3 25 湿潤密度試験の測定例(柳川付近) 一般値 Ac層の平均値=1.481 g/cm3 Ac1層の平均値=1.467g/cm3 g Ac2層の平均値=1.466g/cm3 Ac3層の平均値=1.531g/cm3 As層の平均値=1.748 g/cm3 As1層の平均値=1.728g/cm3 g As2層の平均値=1.738g/cm3 Dc層の平均値=1.748g/cm3 26 土の湿潤密度試験の算出方法 供試体の作成できない 腐泥層の単体の推定等。 《参考資料:土粒子の密度》 ρs=22.00(以下) ρs 00(以下)~22.60 60 (gf/cm3):腐植物を多量に含有する土。 ρs=2.60~2.80 (gf/cm3) :普通の土。 ρs=2.80~3.00(以上) (gf/cm3):砂鉄などの重鉱物を含む土。 27 物理試験 (4)粒度試験 試験は、高有機質土以外で、粒径が75mm未満の土を対象とする。 機 まず、試料を粒径により2mm以上と2mm未満の2つに分ける。粒径 2mm以上の土粒子は水洗いを行った後、ふるい分析を行う。粒径 2mm未満の土粒子は沈降分析を行った後 粒径0 075mm以上の土粒 2mm未満の土粒子は沈降分析を行った後、粒径0.075mm以上の土粒 子を水洗いし、ふるい分析を行う。 土粒子の粒径区分と呼び名 粒子の粒径区分と呼び名 28 粒径 加積曲線 粘土、シルト(細粒土) ふるい分析+沈降分析 細粒分混り砂 ふるい分析のみ 29 (5)土の液性限界・塑性限界試験 細粒土は 含水量の多少によりドロド 細粒土は、含水量の多少によりドロド ロした液体状、ネバネバした塑性体状、 ボロボロとした半固体状、さらにカチカ チの固体状となる。このような土の含水 量の変化による状態の変化や変形に対す る抵抗の大小を総称してコンシステンシ ーという。 含水比を減じてもそ の体積が減少しない 状態の含水比 土のコンシステンシー限界 境界 含水比 境界の含水比 含水比の違いによる粘土の4種類の状態と液性限界 塑性限界 収縮限界 含水比の違いによる粘土の4種類の状態と液性限界,塑性限界,収縮限界 30 ※ 結果より得られる数値 塑性指数Ip(無単位) は、液性限界WL と塑性限界Wp の差である。 塑性指数IL は、自然状態にある土の含水比Wn は 自然状態にある土の含水比Wn がWL やWp に対して相対的にど の位の所にあるかを示したもので、相対含水比とも呼ばれ、自然含水状態におけ る土の相対的な硬さ・軟らかさを表す指数である。 コンシステンシー指数Ic は、粘性土の相対的な硬さや安定度を表す指数である。 Ic≧1又は IL=0に近い程安定した土であると言われている。 31 測定例 wL (%) wP (%) I Ip IL コンシステンシー指数 Ic 60.7 87.1 36.4 50.7 0.5 0.521 Ac3 66.7 54.8 28.7 26.1 1.5 -0.456 T2-1 Ac1 117.0 117.9 45.4 72.5 1.0 0.012 T2-2 Ac3 95.9 81.4 37.9 43.5 1.3 -0.333 T3-1 Ac 89.1 91.4 37.4 54.0 1.0 0.043 T4-1 Ac1 69.3 73.5 32.1 41.4 0.9 0.101 T5-1 Ac1 100.2 102.3 38.7 63.6 1.0 0.033 T6-1 Ac1 58.9 81.1 32.7 48.4 0.5 0.459 T7-1 Ac1 120.7 119.5 45.1 74.4 1.0 -0.016 T7-2 Ac1 75.8 46.7 33.0 13.7 3.1 -2.124 A8-1 Ac1 105.0 129.0 81.3 47.7 0.5 0.503 T8-1 Ac2 104.1 85.3 39.2 46.1 1.4 -0.408 T9-1 Ac1 129.0 114.6 45.0 69.6 1.2 -0.207 T9-2 Ac1 131.8 97.9 44.0 53.9 1.6 -0.629 T9-3 T9 3 Ac1 119.7 84.9 41.2 43.7 1.8 -0.796 0.796 T10-1 Ac1 93.4 92.1 39.7 52.4 1.0 -0.025 T10-3 Ac2 90.1 79.7 33.3 46.4 1.2 -0.224 T11-1 Ac1 87.8 64.0 29.5 34.5 1.7 -0.690 T3-3 T3 3 Dc 42 1 42.1 54 9 54.9 28 7 28.7 26 2 26.2 05 0.5 0 489 0.489 試料番号 地層 区分 分 T1-1 Ac1 T1-2 自然含水比 液性限界 塑性限界 塑性指数 液性指数 wn (%) WnとWpの相関図 ほとんどの試料がWL<Wn, 0< Ic <1で不安定な土層と言 える。 一般値 般値 32 2.2 力学特性 一般的に実施されている力学試験(せん断試験)は、乱さない試料を 般的 実施され る力学試験 断試験 乱さな 試料を 用いた土の一軸圧縮試験、土の三軸圧縮試験である。 (1)土の一軸圧縮試験 一軸圧縮試験は、自立する供試体に対して拘束圧が作用しない状態 で圧縮する試験であり その最大圧縮応力を一軸圧縮強さquという で圧縮する試験であり、その最大圧縮応力を 軸圧縮強さquという。 自然状態の地盤から採取した乱さない粘性土試料を用いて一軸圧縮 強さを調べ、その試料の地盤状態での非排水せん断強さSu ( C (=Cu=qu/2) /2) を推定することが主な目的である。この場合、安全側 を推定することが主な目的である この場合 安全側 に内部摩擦角φ=0°とする。 結果の利用としては、下表に示すようにUU条件(モール円でφ=0°) ( φ ) が想定できる短期安定問題や改良土の効果判定に利用されている。 33 ・力学試験が、なぜ必要なのか 力学試験が、なぜ必要なのか 図より、Terzaghi and peckの 式は、N値の小さいもの(概ね 4以下)に対しては、著しく過 小であることがわかる。 大崎の式はN≦3の沖積粘 性土層に対して下限に位置し ている。 よって、N値が4~5回未満の 推定値では、安全側の過大 設計となる事が予想される (推定は困難である)。 推定 難 あ なお、砂質土層のΦの推定 式においてもN値5回以上等 条件付きの式もある 条件付きの式もある。 qu=12 5×N値(kN/m2) qu=12.5×N値(kN/m2) qu=40+5×N値(kN/m2) N値と一軸圧縮強度の関係(地盤工学会) 34 ① 各種せん断試験結果の測定例 (福富工区、2010.10「農業農村工学会」発表論文より) Su:一軸圧縮試験による一軸圧縮強さ Su=qu/2 Sud:定体積一面せん断試験によるせん断 強さの補正値 Sud=0.85τ Suc:簡易CU試験によるせん断強さの補正値 Suc=0.75Su2 Suv:ベーンせん断試験によるせん断強さ (ベーン試験と同じ深度で一軸圧縮試験 を実施.) ※ SudとSucのせん断強さの補正に ついては、国土交通省監修:「港湾 の施設の技術上の基準・同解説(上 巻)」 (社)日本港湾協会, 巻)」, (社)日本港湾協会 平成19年 7月, p.318 によった. 各種せん断試験結果 35 ② H22有明 各種せん断試験結果 測定例 凡 例 砂質シ 砂質シルト 36 ③ 一軸圧縮強さの測定例(柳川付近) 軸圧縮強さの測定例(柳川付近) 一軸圧縮強さと深度の相関図 軸圧縮強さ 深度の相関図 37 a) 試験の乱れと 試験の乱れと一軸圧縮強さ 軸圧縮強さ 一軸圧縮試験はボーリングやサンプリ ングによる応力解放や 試料運搬や成形 ングによる応力解放や、試料運搬や成形 による機械的な乱れによって供試体に乱 れの入りやすい試験である。 試料が乱れを受けると右図に示すように 応力ーひずみ曲線の結果に表れてくる。 砂分の多い粘土(中間土)や、地中深くからサンプリングされた試 料は、特に応力解放を強く受ける。その結果、一軸圧縮強さはUU三 軸圧縮強さより著しく小さくなり 軸圧縮強さより著しく小さくなり、qu/2を設計に用いると過度に安 /2を設計に用いると過度に安 全側の設計になる。 有明粘土では一般的に、妥当性の判断基準として、破壊ひずみ量 は5.0 %以下、変形係数と一軸圧縮強度の関係 E50/cuが80以上を目 38 安としている 安としている。 参考;中間土について 39 破壊ひずみと変形係数の測定例 40 ※ 棄却の有無については、応力ーひずみ曲線と各物理試験値を総合し て判断する事が必要。 破壊ひずみと深度の相関図 CuとE50の相関図 41 b) 鋭敏比 St 乱さない試料に対して行った 軸圧縮試験と同じ土で、含水比を変 乱さない試料に対して行った一軸圧縮試験と同じ土で、含水比を変 えず練返しを行い、一軸圧縮試験を行えば、両者の比から土の鋭敏比 St を求めることができる。 St qu/qur St=qu/qur 一軸圧縮試験からもとめた非排水せん断強さSuと鋭敏比Stを下図に 示す「土の状態図」にプロットすることによって、その土の状態、鋭 敏性を把握することができる。 42 (2)土の三軸圧縮試験 土のせん断強さとは、破壊時において破壊面上に作用しているせん 断応力である。いくつかの拘束圧のもとでのせん断強さを求めること ができれば、その結果を連ねることによりクローンの破壊基準(τf= c+σtanΦ)を適用することができる。 c+σtanΦ)を適用することができる しかし、三軸圧縮試験では、破壊面の測定が難しいため、直接的に せん断強さを求めることができない。そこで、破壊時の拘束圧と圧縮 強さ(主応力差 最大値) 基づ 強さ(主応力差の最大値)に基づいて決定されるモール円に対して、モ 決定される 対 ールの破壊理論を適用し、その包絡線を破壊基準としている。これが 、 、モール・クーロンの破壊基準である。 ク 破壊 準 あ 。 土の強さである粘着力cとせん断抵抗角Φは、この破壊基準の切片 と傾きをそれぞれ示している。 43 a) 試験方法の概略 土のせん断強さは、せん断に先立って圧密を行うが、せん断中に排 水を許すかどうかによって大きく異なる。原位置の状態に近い条件に 合わせて試験を行い、その土の強度・変形特性を求めるのが原則であ る。 三軸圧縮試験における作業の流れ 三軸圧縮試験の種類と結果の利用例 44 b) 三軸圧縮試験機 45 まとめ 有明粘土層とは 有明粘土層とは、 ① 貝殻片を混入した海成層(有明粘土)や貝殻片を混入しない陸成 層(蓮池層)よりなる 土質的には 粘性土層が主体 あるが 砂 層(蓮池層)よりなる。土質的には、粘性土層が主体であるが、砂 層を挟在する土層が多い。 ② 自然含水比は、80~100%程度であり、沖積粘土層の一般値(50 ~80%)と比べると、やや多い状態である。 ③ 自然含水比が、一般値より大きいため、湿潤密度は一般値(1.5 ~1.8g/cm3)より小さな値(1.4~1.5g/cm3)となる。 ④ 自然含水比が、液性限界より大きい試料が多く、不安定な土層 の状態であるといえる。 ⑤ 鋭敏比が高く、一度乱せば強度低下を起こしやすい、超鋭敏粘 46 土である 土である。 ご静聴ありがとうございました。 静聴ありがとう ざ ました。 つづく 47
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