試験・研究 鉄筋コンクリート造床スラブに用いる 異形鉄線溶接金網の重ね継手および定着 に関する確認実験 Experiment on Lapped Splice and Anchorage of Welded Steel Wire Fabrics using Ribbed Wires in Reinforced Concrete Slabs 堂下 航*1、井上 寿也*2、益尾 潔*3 1.はじめに び定着長さは、JASS5 3) による異形鉄筋のフックなし RC構造計算規準 1)では、丸鉄線を用いた「溶接金網」 (直線)の重ね長さL1および定着長さL2を念頭に置き、 を想定し、横筋の支圧効果を考慮に入れ、溶接金網の重 同種の異形鉄線溶接金網の重ね継手および定着に関する ね継手および定着を規定している。これによると、重ね 既往実験2)の場合よりも概ね10db減じた値とした。溶接 継手部の素線段数の増加に伴い、かぶり厚さの不足、ま 金網の網目寸法は、コンクリートのひび割れ性状に対し たは有効スラブ厚さの減少など、構造耐力上の問題が生 て溶接金網の影響が明瞭に現れるように、床スラブの引 じる恐れがある。これらより、本実験では、JIS G 3551 張鉄筋比ptができるだけ大きくなるように設定した。 (溶接金網及び鉄筋格子)に適合する「異形鉄線溶接金 網」について、横筋の支圧効果を期待せず、図-1に示す ように、異形鉄筋と同様の重ね継手および定着としても よいことを確認した。 筆者らは、「異形鉄線溶接金網」について同種の実験 図-1 2) をこれまでに行っており、今回の実験では、文献(2)の 重ね継手部詳細 表-1 実験概要 (a)重ね継手シリーズ 実験結果との整合性を確認することとした。 2.実験計画 2.1 実験シリーズおよび実験因子 本実験は、表-1に示すように、重ね継手シリーズと定 着シリーズよりなり、実験因子は、それぞれ①鉄線の直 径db(呼び名:CD5、CD7、CD10)、②コンクリートの (b)定着シリーズ 圧縮強度Fc、③重ね長さëdまたは定着長さëdである。重 ね長さëdは図-2 (a)、定着長さëdは図-2 (b) に示す定義に よる。試験体数は、重ね継手シリーズ12体と定着シリー ズ8体の計20体であり、重ね継手シリーズでは継手を設 けない試験体を比較のために加えた。 試験体の床スラブ厚さは150mmであり、重ね長さおよ * 1 2 * 2 * 14 DOUSHITA Wataru:(財)日本建築総合試験所 試験研究センター 構造部構造物試験室 INOUE Toshiya:(財)日本建築総合試験所 試験研究センター 構造部構造物試験室 主査 MASUO Kiyoshi: (財)日本建築総合試験所 試験研究センター 構造部長 工博 GBRC Vol.33 No.1 2008.1 (a)重ね継手シリーズ(CD7の場合) 表-2 使用材料の各試験結果 (a)溶接金網の引張試験結果 (b)コンクリートの強度試験結果 (b)定着シリーズ(CD7の場合) 図-2 試験体の形状・寸法 15 GBRC Vol.33 No.1 2008.1 2.2 試験体 引張側になるように試験体両端部に荷重を加えて行った。 試験体の形状寸法の一例としてCD7の場合を図-2に示 す。各試験体ともに、溶接金網はダブル配置とし、上端 側からコンクリートを打設するとともに、付着応力の条 件が厳しい上端側に重ね継手部または定着部を配置し、 定着シリーズの実験は、床スラブ支持用梁を載荷床に 固定した上で、床スラブ先端部に荷重を加えて行った。 実験中、コンクリートのひび割れ発生状況を観察し、 適宜、主要なひび割れ幅を測定した。 上端および下端の鉄線中心からコンクリート縁端部まで 両シリーズともに、それぞれ3サイクルの片振り繰返 の距離を35mmとした。この場合、最小かぶりは30∼ し載荷を行った後、単調漸増載荷を行った。各上限荷重 32mmとなる。 Piは、下式より算定した。 重ね継手シリーズ試験体については、一方の溶接金網 Pi=Mi/ë、 Mi=at・fti・j、 j=(7/8)d (1) 端部の直交方向の鉄線を取りはずし、もう一方の直交方 ëは加力点から危険断面までの距離、atは引張側鉄線 向の鉄線を内側に配置した。また、重ね継手部の鉄筋相 の断面積、dは有効せい、ftiは鉄線の引張応力度であり、 4) f t1∼3 =200N/mm 2、f t4∼6 =345N/mm 2とした。ここで、 互の間隔をなくした 。 定着シリーズ試験体については、いずれも上端側定着 Mi=1∼3は、長期許容曲げ耐力Maと等しい。 部の直交方向の鉄線を取りはずし、直線定着となるよう ft1∼3=200N/mm2は、RC構造計算規準1)による溶接金 に床スラブ支持用梁の幅を設定し、下端筋の定着長さは、 網の長期許容引張応力度であり、f t4∼6 =345N/mm 2は、 上端筋の定着長さが150mm以上の場合には150mm、 異 形 鉄 筋 S D 3 4 5 の 規 格 降 伏 点 で あ る 。 な お 、 f t4∼6= 150mm未満の場合には上端筋の定着長さと等しくした。 345N/mm2は、建築基準法施行令 第90条による溶接金網 2.3 使用材料 の床版に用いる短期許容引張応力度(295N/mm2)より (1)異形鉄線溶接金網 も高い。 溶接金網より採取した異形鉄線の引張試験結果を表-2 (a) に示す。同表によると、溶接金網より採取した異形 4.実験結果および考察 鉄線の降伏点σ y 、引張強度σ u および伸びの試験値は、 4.1 それぞれJIS G 3551の規格値を満足した。 4.1.1 (2)コンクリート 重ね継手シリーズ 荷重−変形関係および破壊性状 M/Mu−δv関係を図-3.1に示す。M(=P・ë)は曲げ コンクリートの強度試験結果を表-2 (b) に示す。 区間の曲げモーメント、δvはスパン中央の鉛直変形量、 Muは曲げ終局耐力であり、下式による。 3.実験方法 Mu=0.9Σat・d (2) 重ね継手シリーズの実験は、スパン中央の純曲げ区間両 各試験体ともに、曲げひび割れ発生後、剛性低下を起 側の下端部をピン・ローラ支持し、上端側の重ね継手部が こしつつ、純曲げ区間の鉄線が引張降伏を起した。鉄線 (a)Fc21:CD5 (b)Fc21:CD7 (d)Fc21:CD10 (c)Fc36:CD7 図-3.1 重ね継手シリーズのM/Mu−δv関係 16 GBRC Vol.33 No.1 2008.1 の引張降伏は、荷重−変形関係中の明瞭な剛性低下によ 4.1.2 ひび割れ幅 Fc21、CD7としたNo.4∼No.6では1サイクル目のMa時 って判定した。 Fc21、CD5およびCD7とした試験体No.1∼No.6につい に、Fc21、CD10としたNo.10∼No.12では1サイクル目の ては、継手の有無に係わらず、いずれもδ v が50mm∼ 0.6×M a程度で、純曲げ区間にひび割れが発生した。ま 90mm程度で、鉄線が引張強度に達するかまたは下端コ た、F c 21、CD5としたNo.1∼No.3では4サイクル目の ンクリートが圧壊して最大荷重に達し、その直後に純曲 1.5×Ma程度で、Fc36、CD7としたNo.7∼No.9では1.1× げ区間の鉄線が破断した。F c 21、CD10としたNo.11∼ Ma程度で、純曲げ区間にひび割れが発生した。 No.12については、δvが80mm∼110mm程度で、下端コ M a 時までにひび割れが生じたF c 21、CD10試験体の ンクリートの圧壊に伴い最大荷重に達し、耐力低下を起 M/Mu−w関係を図-3.2に示す。wは各測定段階における こした後、純曲げ区間の鉄線が破断した。ëd/d b=25の 純曲げ区間の最大ひび割れ幅である。同図によると、 No.10については、δvが50mm程度で、異形鉄線の抜け Fc21、CD10試験体のMa時のwは0.2mm以下に留まる。 出しを伴う付着破壊により、最大荷重に達した。 Fc36、CD7としたNo.8とNo.9については、δvが70mm なお、ひび割れ幅は、重ね継手なしの試験体では、ほ ぼ均等に進展したのに対し、重ね継手ありの試験体では、 ∼100mm程度で、鉄線が引張強度に達して最大荷重に達 重ね継手のない範囲で進展する傾向があった。No.4∼ し、その直後に純曲げ区間の鉄線が破断した。ëd/d b= No.6およびNo.10∼No.12のMa時のひび割れ幅wは0.04∼ 20のNo.7については、δvが60mm程度で、重ね継手の鉄 0.15mm程度であり、2.0×Ma程度までのひび割れ幅wに 線に沿った床スラブ上面および側面にひび割れが発生し は、重ね継手の有無または重ね長さによって有意な差が て最大荷重に達し、耐力低下を起こした後、純曲げ区間 見られなかった。 の鉄線が破断した。 上記のように、本実験結果によると、溶接金網の長期 許容引張応力度を200N/mm2とすれば、重ね継手を配置 した床スラブにおける長期荷重下のひび割れ幅は0.2mm 以下となる。 4.2 定着シリーズ 4.2.1 荷重−変形関係および破壊性状 M/Mu−δv関係を図-4.1に示す。M(=P・ë)は床ス ラブ危険断面の曲げモーメント、δvは加力点の鉛直変形 量、Muは曲げ終局耐力である。 図-3.2 重ね継手シリーズのM/Mu−w関係 (a)Fc21:CD5 Fc21、CD5、CD7およびCD10としたëd/db=35の試験 (b)Fc21:CD7 (c)Fc36:CD7 (d)Fc21:CD10 図-4.1 定着シリーズのM/Mu−δv関係 17 GBRC Vol.33 No.1 2008.1 体No.2、No.4、No.8については、床スラブ危険断面近傍 た床スラブについても、長期荷重下のひび割れ幅は の鉄線が引張降伏した後、δ vが40mm∼80mm程度で、 0.2mm以下となる。 鉄線が引張強度に達するか、または床スラブ危険断面近 傍の下端コンクリートが圧壊し、その後、最大荷重に達 して、床スラブ危険断面近傍の鉄線が破断した。ëd/db= 5.必要重ね長さおよび必要定着長さの検討 5.1 付着指標の定義 25のNo.1、No.3、No.7については、床スラブ危険断面近 重ね継手部および定着部については、異形鉄線のコン 傍の鉄線が引張降伏するか、またはそれ以前に、床スラ クリートに対する付着強度τbuが与えられると、式(3)の ブ危険断面近傍の鉄線の抜け出しを伴う定着破壊によっ 条件を満足すれば、鉄線の引張降伏を保証できるので、 て最大荷重が決定した。 この点を考慮し、付着指標Biを式(4)で定義する。 ëd・τbu・ψ≧σy・at (3) ラブ危険断面近傍の鉄線が引張降伏した後、δvが50mm Bi=(σy・db)/(4ëd・fb) (4) 程度で、床スラブ危険断面近傍の下端コンクリートが圧 ëd:重ね長さまたは定着長さ 壊した後、最大荷重に達し、床スラブ危険断面近傍の鉄 τbu:異形鉄線のコンクリートに対する付着強度 線が破断した。ëd/d b=20のNo.5については、床スラブ σy:異形鉄線の降伏強度、ψ:異形鉄線の周長 危険断面近傍の鉄線の引張降伏とほぼ同時に、床スラブ at:異形鉄線の断面積、db:異形鉄線の公称直径 危険断面近傍の鉄線の抜け出しを伴う定着破壊によって fb:長期許容付着応力度 最大荷重が決定した。 長期許容付着応力度fbは、建設省告示第1450号(平成 F c36、CD7としたëd/d b=30のNo.6については、床ス 4.2.2 ひび割れ幅 12年5月31日)による上端筋の値とし、下式で求める。 Fc21、CD10としたNo.7、No.8では、1サイクル目のMa すなわち、Biは、異形鉄線溶接金網を用いた床スラブの 時までにひび割れが発生し、F c 21、CD5、CD7とした 曲げ終局耐力確保のための長期許容付着応力度fbに対す No.1∼No.4およびFc36、CD7としたNo.5、No.6では、4サ る割り増し係数である。 イクル目の1.5×Maまでにひび割れが発生した。 M a 時までにひび割れが生じたF c 21、CD10試験体の M/Mu−w関係を図-4.2に示す。wは各測定段階において 床スラブ危険断面近傍上面の3箇所で測定したひび割れ幅 の最大値である。同図によると、F c21、CD10試験体の Fc≦22.5N/mm2の場合、fb=Fc/15 Fc>22.5N/mm2の場合、fb=0.9+Fc/37.5(N/mm2) (5) Fc:コンクリートの設計基準強度 5.2 付着指標と最大荷重時の鉄線引張応力と の関係 Ma時のひび割れ幅wは0.1mm程度であり、2×Ma程度ま 重ね継手シリーズおよび定着シリーズ各試験体のBi− でのひび割れ幅wは、定着長さおよびコンクリート強度 σmax/σy関係を図-5に示す。同図中には、同種の異形鉄 によって、有意な差は見られなかった。なお、ひび割れ 線(CD6、CD8)を用いた実験値2)も併示した。σmaxは、 幅は床スラブ危険断面近傍に発生したものが最も大きい。 下式より求めた最大荷重時の鉄線引張応力であり、Biは、 上記のように、本実験結果によると、溶接金網の長期 材料試験結果による鉄線の実降伏点をσyとし、材料試験 2 許容引張応力度を200N/mm とすれば、定着部を配置し 結果によるコンクリートの圧縮強度をFcとして算定した。 σmax=Mmax/(0.9Σat・d) (6) Mmax:危険断面の最大荷重時曲げモーメント、Σat: 引張側鉄線の全断面積、d:床スラブの有効せい 定着シリーズの同図(b)によると、σmaxは、Bi≦2.0で は1.5×σyとほぼ等しく、Bi>2.0では1.5×σyよりも低下 する。重ね継手シリーズの同図(a)によると、σ maxは、 Bi≦2.0では1.5×σyとほぼ等しく、Bi>2.0では、1.5×σy よりも減少するが、σyよりも小さくならない。 したがって、Bi≦2.0となるように、定着長さおよび重 図-4.2 定着シリーズのM/Mu−w関係 18 ね長さを確保すれば、異形鉄線溶接金網を用いた床スラ GBRC Vol.33 No.1 2008.1 (a)重ね継手シリーズ (b)定着シリーズ 図-5 σmax /σy−Bi関係 ブは、定着破壊を起すことなく、また重ね継手において とすれば、長期荷重時のひび割れ幅は0.2mm以下と 付着破壊を起すことなく、異形鉄線自体の引張強度によ なる。 って決まる曲げ終局耐力を発揮すると考えられる。 5.3 2)異形鉄筋と同様、直交方向の鉄線を配置しなくても、 必要重ね長さおよび必要定着長さの設定 式(4)より、異形鉄線の必要重ね長さおよび必要定着 すれば、RC床スラブが曲げ終局耐力に達しても、異 形鉄線溶接金網の重ね継手部は付着破壊を起こさず、 長さは下式によって算定できる。 ëd/db=σy/(4Bi・fb) 式(8)による必要重ね長さおよび必要定着長さを確保 (7) また定着部は定着破壊を起こさない。 σyをJIS G 3551(溶接金網および鉄筋格子)の規格最 小降伏点(400N/mm2)の1.1倍とし、Bi=2.0とすると、 〔謝辞〕 下記のように、必要重ね長さおよび必要定着長さを設定 本実験は、(株)トーアミが製造する異形鉄線溶接金網 できる。この場合、異形鉄線溶接金網を用いた床スラブ (トーアミCDメッシュ)に関する確認実験として行った ものであり、ここに記して謝意を表する。 は曲げ終局耐力を発揮できる。 2 2 21N/mm ≦Fc< 30N/mm の場合:40 db 以上 30N/mm2 ≦Fc≦ 60N/mm2の場合:35 db 以上 (8) 一方、デッキプレート床スラブ 5)において主鉄筋とし ない異形鉄線溶接金網は、コンクリートのひび割れ分散 性のみが求められるので、異形鉄線の必要重ね長さは下 記による値としてもよいと考えられる。 21N/mm2 ≦Fc< 30N/mm2の場合:35 db 以上 30N/mm2 ≦Fc≦ 60N/mm2の場合:30 db 以上 (9) 上記式(9)による必要重ね長さは、コンクリートのひ び割れ分散性の確保を意図し、σyをJIS G 3112(鉄筋コ ンクリート用棒鋼)による異形鉄筋SD295A、Bの規格最 【参考文献】 1)日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説,16 条 付着および継手,17条 定着,pp.170-202,1999. 2)小宮敏明,益尾潔:鉄筋コンクリート床スラブ用異形鉄線溶 接金網の重ね継手および定着に関する実験,GBRC,Vol.26, No.1,pp.12-20,2001.1. 3)日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説,JASS 5 鉄筋 コンクリート工事,11.9 鉄筋の継手位置および定着,11.10 鉄筋の重ね継手,pp.287-298,2003. 4)日本建築学会:鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説,6章 定着と継手,pp.130-148,2003. 5)日本鉄鋼連盟編:デッキプレート床構造設計・施工基準2004. 小降伏点(295N/mm2)とし、式(7)より求めた値を基に 定められている。 6.まとめ 本実験結果より、下記の結論を得た。 1)異形鉄線溶接金網を用いた重ね継手部または定着部 を配置したRC床スラブは、RC構造計算規準に示され た溶接金網と同様、長期許容引張応力度を200N/mm2 19
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