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武者リサーチコメンタリー
2009 年 7 月 14 日
ストラテジーブレティン
「偽りの夜明け」論の誤り、株価上昇トレンドは続く
(1)「回復の挫折」は調整の口実
株式会社武者リサーチ
代表
日米株式市場は 6 月の高値以降ほぼ 10%の反落となり、再び悲観論が台頭している。3
月のボトムが大底ではなく、金融危機も未だ最悪期を過ぎていないという観測が大きく
なっている。5 月の失業率に対する失望、順調に上昇していた ISM 新規受注が小幅低下
したことなどがその理由としてクローズアップされた。
武者 陵司
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しかし景気回復トレンドの挫折という観測は、誇張というほかない。IMF が 2009 年、
2010 年の経済見通しを上方修正するなど、エコノミストは軒並み 2009 年以降の予測を
上方修正している。2009 年いっぱいマイナス成長というエコノミストのコンセンサスは
2009 年後半にはプラスに転ずると見方に転換した。
結論ありきの悲観論
また回復モメンタムの頓挫により、追加対策が必要とのコメントが流布されたが、その
報道も信憑性に乏しい。第 2 弾の景気刺激策が必要とのコメントの発信源と伝えられた
ローラ・タイソン米大統領経済顧問はその必要性は「時期尚早」と否定した。また、7
月 10-12 日のウォールストリートジャーナル紙は追加対策の必要性アンケートを 51 エ
コノミストに対して行い、43 人が不必要、必要との回答は 8 人にとどまった、と伝えた。
大半のエコノミストはガイトナー財務長官の「7870 億ドルの景気対策の最大の効果は
2009 年後半に現れる」とのコメントに同意している。回復にネガティブな論者は、以前
からの悲観シナリオ信奉者であることに留意されたい。3 月の暴落時点でも株価に悲観
的であった人が、株価が 3、4 割も上昇した後になって強気に転ずることなど、できるわ
けはない。
1~3 月にクレジット市場、株式市場、商品市場で極端なリスク回避姿勢の転換が起こり、
3~6 月と社債も株式も商品も大幅上昇を見せた。世界株式の時価総額は 3 月安値の 26
兆ドルから 6 月ピークには 37 兆ドルまで 4 割以上の大幅上昇となった。直近ではその高
値から 2 兆ドル 5%強のセットバックとなっている。原油価格の調整も同様。「偽りの夜
明け」説はテクニカル調整の口実として使われたに過ぎないのではないか。
(2)今回金融危機はなぜ 100 年に一度の津波だったのか
ブラックマンデーと同質の原因
『株価は景気実態を映す鏡である』と言う常識は正しいとは言えないのではないか。確
かに株価は景気に先行して動くが、逆は真ならずで、株価が大きく動いたからと言って、
必ずしも景気が変化するとは限らない。株価は景気とは別の売り方と買い方とのバラン
ス、つまり需給要因によって大きく動くことがある。たとえば 1987 年の米国ブラックマ
ンデーの時には一日でダウ指数は 23%下落した。すわ大恐慌の再来か、と皆が身構えた
が、実際は不況にすら落ち込まず、株価は 2 年足らずで元に戻った。後で考えればあれ
ほどのパニックが起きなければならない、実体経済上の必然性はなかったと言える。ブ
ラックマンデーの株価大暴落がおきたのは、当時導入され始めた「ポートフォリオ・イン
シュアランス」という株価保険が、全く機能しないどころか、株価下落の悪循環をもたら
したためである。保険が安心を与えてくれるのではなく、恐怖を与えたのであるから、
これはパニックになって当然であったといえる。
保険に裏切られた衝撃
2008 年の大暴落も類似した側面がある。今回の保険はモノライン保険や CDS(クレジッ
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ト・デフォルト・スワップ)と称する金融工学を駆使した破綻リスクを回避する技術であ
った。クレジット市場全体を覆った 100%安心のメンタリティーが、リスクを買ってく
れていた保険会社や投資家が時価会計、銀行自己資本規制などの制度改正と共振し、一
斉に売りに回ったことによって、今度は 100%裏切られた。全世界の金融市場で、阿鼻
叫喚の市場崩壊が起きたのである。
需給悪で壊れた市場と経済は需給復元で立ち直る
株価の変化を大げさに取り上げすぎないことが、肝要という、ブラックマンデーの教訓
は、現在にも当てはまるのではないだろうか。市場からは買い手がいなくなったという
極端な資金需給悪化で壊れた市場は、資金需給の復元で立ち直る。そして証券市場の正
常化が、今度は急激に収縮した実体経済を V 字型で復活させる。そうしたマイナスのサ
プライズの行き過ぎが、プラスのサプライズの好循環に火をつけるという可能性もある
のではないか。市場心理は大暴落の結果「非理性的熱狂」ならぬ「非理性的恐怖心」に
支配されている。しかし実は暴落の真犯人が実体経済ではないと判明したとき、逆のう
れしいパニックが起きる、つまり株価が V 字型の上昇を見せる、その可能性を排除すべ
き論理は見当たらない。
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