経営指導員ハンドブック

経営革新支援のための
経営指導員ハンドブック
2005 年 3 月
経営革新支援のための経営指導員ハンドブック
目次
1章 経営指導員の心構え
2章 面談技法
3章 支援制度・支援先
4章 経営指導の手順
5章 金融
6章 税務
7章 労務
8章 情報化
9章 経営革新
10章
経営革新事例
11章 新規創業
12章 廃業・事業清算
13章 製造業の基本用語と業界別情報
第Ⅰ章 経営指導員の心構え
〈第Ⅰ章のポイント〉
1.経営指導の意義
経営指導とはその企業の経営のあり方について指導を実施する。経営指導を実施する場合、
まず検討しなければならないことは経営の総体的な観察を行うことである。経営の改善は現実
の欠陥を改善するということにとどまるものではなく、将来の経営のあり方との関連において
考えなければならない。
2.経営指導時の留意事項
経営指導倫理の基本は①客観性、公平性、②経営者への思いやり、③企業秘密の厳守、④約
束を守る、⑤同時に競合企業の相談はしない、⑥能力の限度以上は助言をしないことである。
経営指導の目的の一つは経営者の意欲を刺激して経営能力を高める機会となることを狙う。
3.経営指導員の役割
経営指導員は①地域の活性化、②ビジネスチャンスの創設、③企業育成の 3 本柱を基本目標
として、その実現に向けて貝体的な各種事業を推進していかなければならない。
経営指導員が経営改善普及事業をすすめていくに当たっては①役職員一体となった経営改善
普及事業の推進、②積極的な巡回指導の実施、③計画的かつ魅力ある集団指導の実施、④専門
かつ高度な相談・指導事項への対応という 4 つの留意点がある。
事後指導から事前指導へ向けて、経営リスクに対する適切なアドバイスを行うことが必要で
あり、経営指導員の資質の向上が求められる。
1.経営指導の意義
(1)経営指導とは
企業経営は広範囲にわたる社会的関係の中において、極めて複雑な活動によって成り立って
いる。企業の経営は企業の目的とするところを実現するための活動であり、経営指導はその企
業の経営のあり方について指導を実施する。
経営管理は経営を円滑に遂行し、さらに企業の目的とするところを実現するための活動であ
る。通常、大企業においては専門的知識をもった経営者及び管理者等によってその経営の運営
が行われている。しかし、中小企業においては経営規模が小さくなるほど経営者の人材層も比
較的薄く、また自社内に経営各部門についての専門家をおくことは容易ではない。また、経営
者自身も旧来からの特殊な固有技術や自社の製品力のみを自負して経営管理に関して無関心な
場合も多い。
経営指導はこのような企業に対して経営指導員がその企業経営の実態を調査分析し、スタッ
フ的関係において今後の発展や経営の改善策の提言や提案を行う。一般的に経営資源を十分に
保有しない中小企業では適切な経営判断が困難である場合が多いため、経営指導を行う者が客
観的立場の第三者として分析や判断を実施することになる。
(2) 統合的観察の必要性
経営指導を実施する場合、まず検討しなければならないことは経営の総体的な観察を行うこ
とである。企業経営を人間の体に例えるなら、頭、手や足といった肢体的な活動と同じように
生産、販売、財務活動というように機能的に分けることができる。通常、これらが有機的な活
動のもとに運営されている。
したがって、たとえば財務なら財務のみから判断するといった経営の一部門だけを経営の全
体から切り離して考えても適切な改善を行うことができない。経営の一部門について指導する
場合であっても統合的観察の視点は欠くことができない。
経営指導は統合的観察に基づくことを本来の性格とするものであるが、統合的ということは
必ずしも生産、販売、財務、労務等の各部門をすべて観察して分析することを意味しない。
すなわち、統合的分析は企業目的の達成に関して体系的、関連的に分析・診断するものであ
り、単に部分的、技術的にみるだけではなく経営的に企業の分析や観察を行う。
(3)将来に向けての指導の重要性
企業経営は未来に向かって進むものであり、継続性を前提としている。現状のまま停止する
ものではないため、経営の改善は現実の欠陥を改善するということにとどまるものではなく、
将来の経営のあり方との関連において考えなければならない。したがって、現状における経営
の欠陥は現在の時点にいてのみ観察されるものではない。将来の経営のあり方との関係におい
て検討する必要がある。さらに未来に予測される適切でない経営のあり方に対して予防的な対
策を実施し、また一方で積極的な経営発展の機会を探求することにより、経営改善は大きな意
義と効果をもってくる。今日の経営指導においてはもはや単に現状を断面的にとらえて欠陥を
論ずるだけのものではなく、より長期的な観点に立ち現状の経営を将来に結びつけた改善案が
提言されなければならない。
2.経営指導時の留意事項
(1)受診者の信頼を得る
経営指導において受診企業に感謝され、満足を与えるためにはまず診断者サイドの要求を満
たすことが必要である。
特に経営者に改善への動機づけをするためには慎重を期することが求められる。
したがって、
経営指導を担当する者は豊かな人生体験に基づく愛情ある人間性と確固たる姿勢をもつことが
望まれる。
経営指導を担当する者は絶えざる自己啓発を行うことが求められる。指導や提言が受診者に
とって新しい企業戦略のきっかけとなり、停滞から成長へと移行することが目標となるが、そ
の前提は担当者が「信頼され、尊敬される」ことである。
以下、経営指導倫理の基本をあげることができる。
① 客観性、公平性
② 経営者への思いやり
③ 企業秘密の厳守
④ 約束を守る
⑤ 同時に競合企業の相談はしない
⑥ 能力の限度以上は助言をしない
(2)経営者のやる気を喚起する指導
企業のライフサイクルは 20~30 年とも言われる。企業が永続性をもつために経営者は常に
意欲をもち、欠けている経営資源などを絶えず補充する必要がある。経営指導は経営者の意欲
を刺激して経営能力を高める機会となることを狙っている。
3.商工会経営指導員の役割
(1)小規模事業者支援促進
旺盛な企業家精神を発揮して事業の積極的な展開を図っていこうとする意欲ある小規模事業
者に対しては、そうした積極性が報われるような環境の整備が必要となっているため、
「商工会
及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律(平成 5 年法律第 51 号)」が制定され、
平成 5 年 8 月 9 日から施行されることになった。小規模事業者がその事業を維持、発展させて
いくためには自己の経営資源の充実、強化を図ることはもちろんのこと、小規模事業者の強み
である機動性のある事業活動を展開することにより、経営環境の変化に対応していくことが必
要である。また、小規模事業者は対象とする市場が比較的狭く、立地する地域と密接に関わっ
ていることから、
地域の一員として地域の中に確固たる経営基盤を構築することも重要である。
これらは、小規模事業者自らが十分な問題意識を持ち自助努力によって取り組むのが基本であ
り、小規模事業者自身の一層の自覚と努力が期待されるところである。
経営指導員は①地域の活性化、②ビジネスチャンスの創設、③企業の育成の 3 本柱を基本目
標として、その実現に向けて貝体的な各種事業を推進していかなければならない。
①地域の活性化
地域商工業の総合的な改善発達を図るためには経営改善普及事業の推進とともに、地域商工
業が立地している地域社会そのものを全体としてより大きく、より豊かなものに造っていく地
域振興の取り組みが不可欠となる。経済的側面だけでなく地域コミュニティの発展も視野に入
れた、全体的な地域振興事業なしには地域商工業の発展はありえない。
従来、地域振興事業の多くは事業が終了すると終わりという一過性のものが多かった。しか
も、それらは年を重ねるごとに年中行事化し、形骸化した取り組みとなり、運営組織も固定化・
硬直化を招く。その結果、徐々にイベント開催は自己目的化されあたかもイベントを実施する
ことこそが最も重要で、それにより企業経営や地域社会が活性化されるという視点はあまり考
慮されなくなってきている。
地域振興事業を推進するに当たり、研究・開発、生産・流通体制、人材育成などが組織的に、
長期的な展望をもって行われず、個別・単独の事業として位置付けられてきたことが、地域振
興事業の停滞を生みだす要因であった。地域振興事業は常に社会全体の発展を目指し、持続的・
継続的に取り組むことが求められる。
②ビジネスチャンスの創出
日本経済の成熟化に伴い、中小企業の経営はますます難しい状況になってきている。これま
で経営改善普及事業において個々の会員に対し経営相談や受注を行い一定の成果をおさめてき
た。しかしながら、地域全体から見ると過疎化が進行したところも多く、経済の成熟化と相ま
って、これまでの個別対策では対処しきれない状況が生じつつある。
組織力を十分に発揮し、異業種交流、販路開拓等の事業を広域的に展開し、会員に対して新
しいビジネスチャンスを積極的に提供していかなければならない。
③企業の育成
地域経済再生の主役は基本的には商工会を構成する小規模事業者である。これらの活性化を
基盤とする新規企業の創業支援・育成なしには地域振興は不可能である。地域の活性化と企業
の成長に意欲を持つ事業者の発掘と指導が最も重要な仕事であるといえる。
(2)経営改善普及
商工会が法制化された理由は地域商工業の経営改善のための事業を強力に推進しようという
ところにあった。国は小規模企業をめぐる経営環境の変化に即応した事業の基本的なあり方、
小規模企業の経営基盤の充実を図るための必要な事項として、
「経営資源が高度化していること、
小規模事業者が持ち前の機動性を発揮して事業を展開することが必要となっていること等にか
んがみ、個別の相談・指導を中心とした体系から、地域振興事業の実施、専門的指導体制の拡
充、情報提供体制の整備、後継者育成等人材能力開発の推進等をも含めた多面的な体系へと変
化させていくことが必要である」とし、
「個別の相談・指導を基本に据えつつ相互に関連して実
施される事業の総体を『経営改善普及事業』と位置づけ」ている。
経営改善普及事業の基本は地域に根づく地域商工業の経営の改善発展を支援するところにあ
り、地域経済の現状を踏まえて望ましい経営のあり方を指し示すところにある。
経営改善普及事業をすすめていくに当たっては①役職員一体となった経営改善普及事業の推
進、②積極的な巡回指導の実施、③計画的かつ魅力ある集団指導の実施、④専門かつ高度な相
談・指導事項への対応という 4 つの留意点がある。
①役職員一体となった経営改善普及事業の推進
経営改善普及事業の成果は経営指導員及び補助員の任命権者である商工会会長、その他役職
員の経営改善普及事業に対する正しい認識が不可欠であることから、役職員の理解を深め、経
営指導員と一体となった推進が求められる。
②積極的な巡回指導の実施
経営指導員は来訪者の求めに応じて相談に応ずるというのではなく、地区内の小規模事業者
に対して、その相談の有無に拘らず、積極的に出向き、相談・指導を行うことを本務とする。
③計画的かつ魅力ある集団指導の実施
講習会等の集団指導においては講習会等の企画、講師の選定、場所、日時、テーマ等が参加
対象事業者のニーズに対応したものであることが必要であり、そのために常に小規模事業者の
求めるものを把握する努力が求められる。また、年度の事業計画の中で適切な講習会等の開催
計画をつくり、計画に従って着実に実施する。
④専門かつ高度な相談・指導事項への対応
消費構造及び小規模事業者の指導ニーズの多様化等経済環境変化により、専門的な経営内容
に関する問題、業種特有の専門的問題などに加え、広域化している問題に係る指導体制が必要
なことから、昭和 55 年度から都道府県商工会連合会に広域指導センターが設置された。
今後一層進展するであろう上記の問題に対応するため、商工会と広域指導センターとの連携
の強化を図るとともに、商工会は広域指導センター機能を効果的に活用すべきである。
(3)経営指導員の課題
融資の斡旋、税務指導を中心としたこれまでの経営指導の成果は高く評価されているが、技
術的な経営管理や財務管理の範囲に止まっている限り、今後の経営指導は行き詰まると考えら
れる。従来から経営指導員に対しては、地域の実情に精通してはいるものの、多様な業務体験
を通じての能力アップや新たな課題への対応力に乏しいといった点が指摘されてきた。経営全
般に対する適応能力と合わせて、
特定の専門分野についての能力が求められる。
そのためにも、
商工会組織の指示を忠実に果たすといった組織の内に生きる能力ではなく、自分のリスクで組
織の枠を超えた発想ができるという能力が要求されてきている。
事後指導から事前指導へ向けて、経営リスクに対する適切なアドバイスを行うことが必要で
あり、経営指導員の資質の向上が求められるととなる。今後は地域商工業それぞれのリスクの
存在に気がつかない、リスクの存在を軽視する、あるいはリスクの解消を回避するといったこ
とは許されない。
また商工会自身も地域商工業の支援に応えうるだけの十分な機能を備えているか。地域商工
業の経営リスクに対して適切なアドバイスを行うだけの情報が蓄積されているかなども今日要
求されてきているといえよう。
税・社会保険関係カレンダー
月
4月
税関係
社会保険関係
事務処理チェックポイント
所得税振替納税振替日
給与支払い報告に係る給与所得
新入社員の社会・労働保険資格
消費税振替納税振替日
者移動届け期限
取得届け手続
「賃金データ連絡表」作成・提出
5月
所得税延納分納税期日
労働保険確定概算納付期限(事務
前年度個人住民税特別徴収税額
組合委託事業所においては事務
通知
組合の指定日による)
労働保険料申告書提出
6月
7月
職安求人説明会
源泉所得税、特例分納付期日
標準報酬月額算定基礎届
所得税(予定納税)減額申請期
日
所得税第 1 期分(予定納税)納
付期日(確定税額 15 万円以上)
8月
9月
10 月
11 月
個人事業税第 1 期分納付期日
労働保険第 2 期分納付期限(事務
個人事業者・消費税中間申告
組合委託事業所においては事務
(確定税額 60 万円以上の場合)
組合の指定日による)
取引先盆休み予定を確認
年末までの資金繰り計画立案
年末特別融資受付スタート
所得税(予定納税)減額申請期
労働保険第 3 期分納付期限(事務
税務署主催年末調整説明会への
日
組合委託事業所においては事務
出席
年末調整説明会
組合の指定日による)
所得税第 2 期分(予定納税)納
付期日
個人事業税第 2 期分納付期日
個人事業者・消費税中間申告
(確定税額 60 万円以上の場合)
12 月
1月
年末調整、決算説明会
取引先年末・年始休暇予定を確
個人事業者、消費税に関する届
認
出(簡易課税見直し等)
年末調整の実施
源泉所得税納付期日(年末調整
給与支払い報告書の提出期限
暦年で区分している文書の整
の結果)
支払調書の提出期限
理・保管
本年分、給与、家賃などの支払
報告書提出期日
償却資産税申告書提出期日
2月
本年分、所得税確定申告説明会
3 月期決算企業はこの時期まで
本年分、所得税確定申告受付開
に仮決算済ませる
始
3月
本年分、所得税・贈与税、確定
身分証明書・三六協定・諸契約
申告提出期限
など末で期限切れとなる文書の
本年分、消費税確定申告提出期
更新
限
Ⅱ章 面談技法
〈第Ⅱ章のポイント〉
1.受診者面談の前提
経営指導員はまず受診者の受入れ態度、性格、学識、管理能力などをよく観察してそれに
応じた指導方法を採用し、受診企業が少なくとも提言に敬意を表わし、実施しようという意
欲を起こさせるだけの内容を備えていなければならない。さらに忍耐も必要であり、人を見
て法を説く雅量とユーモアと機知をもつことも求められる。
愚痴を聞く対応も大切なことである。興味を感じるすべてのことに対話や面接は及ばねば
ならない。それには受診者の人間性、表現力、考え方、態度にまで洞察力が及ばねばならな
い。
できるだけの誠意をもって受診者に接することも重要である。受診者に対して自分の全力
をもって誠意をもって当たれば、たとえ十分満足すべき解答が与えられないで相談や指導が
終了してもさわやかな印象を残すであろう。
2.経営指導に求められる面談技法
企業組織の中に疲労部門や欠陥部門が増殖され、それによって経営者の心理的な活動力の低
下が発生している状態ならば、経営指導員による指導によりその原因を修正していくことが求
められる。
経営指導には高度で豊富な専門知識や経験が必要とされるのはいうまでもないことである
が、通常それを伝えるのは基本的には一対一の人間関係の中においてである場合が多い。一人
の受診者をどう理解し、その人とどう向き合い、どのように、あるいはどのようなアドバイス
をしていくか、このことがうまく機能しなければ、どんな素晴らしい知識も情報も無益なもと
のなってしまうであろう。そのためにも、カウンセリング、コーチングの知識が重要となる。
3.面談時のカウセリング技法
「この経営指導員は自分の味方である」
「自分の身になって聞いてくれる人である」という
信頼感がないと、受診者は胸襟を開いて語ってくれない。
感情交流・役割関係づくりとは構えのない感情交流であり、その根底には信頼感がある。胸襟
を開いて語ってくれないと、経営指導員は情報不足のために相手を理解することができない。
カウンセリングの基本的技法として受容、支持、繰り返し、明確化、質問の 5 つを挙げるこ
とができる。
4.面談時のコーチング技法
「本当に人々がやる気になったならば、成果はついてくる」というのが近年のマネジメント
の考え方であるが、人々がやる気になり、成長し、業績を上げる方法は何か、それを現場で実
現したのがコーチングである。コーチングの考え方は、人々が真に成長し、自ら学び主体性を
確立していくプロセスを支援するものであり、答えを教えるものではない。
コーチとしての経営指導員には次の役割がある。①答えを引き出す、②不満を提案に変える、
③かたまりをほぐす、④かたまりにする、⑤要望を聞く、⑥安心感で人を動かす、⑦夢に気づ
かせる、⑧目標について語る、⑨理由を伝える、⑩価値を見つける、⑪ノーといえる自由のあ
る提案をする、⑫フォローする、⑬エネルギーを補充させる。
1.受診者面談の前提
(1)経営指導の客観性
経営指導はあくまで客観的に行わなければならない。しかし、現実の経営指導依頼の中に
は特殊な目的をもって依頼してくる場合がある。たとえば一般的な改善ではなく、金を借り
る目的、信用を誇示する目的、自分の企業のやり方を自慢するタイプのものなどがある。
しかし、どんなタイプの経営指導であってもその目的をよく理解してその要請に応ずるよ
うにすることが経営指導の態度としては大切である。
またこのほか、資金調達などで受診企業の経営状態を整備することも経営指導を行う者の
大切な業務の一つであるが、その場合も受診企業側に有利な経営指導をして金融機関を誤ら
せるようなことは慎まなければならない。
経営指導はあくまで客観的にオーソドックスな手法によって行うことが必要であり、社会
的信用を高めることにも留意しなければならない。
また経営指導は単なる調査又は分析あるいは経営指導員の研究のためのものではない。従
来経営指導に対して不満をもたれていたのも、経営指導が単に事実の発見と分析に終わり、
当初の目的であるその企業の改善方法の発見や提示にまで至っていない例があったからであ
る。
経営指導員自身が立派な報告書であると自負するようなものであっても、受診者が理解や
納得をせずに実施への行動を起こさなかったとすれば、その経営指導は価値を持たない。
したがって、経営指導員は理論家であると同時に、受診者が自説に同調するだけの説得力
を有し、信頼を得る円満な人格も必要とされる。経営指導員は人の心理をよくつかめる者で
あることが望まれる。
また経営指導員はビジネス・ドクターといわれているが、人体に関する医者の場合は相手
の病人は現に病患に悩み、医者を信頼してその行う治療には無条件に従う。そして医者は役
目に従い治療を行う。
しかし、経営の医者である経営指導員に対して受診者が患者のような態度をとるのはまれ
である。提言事項を実施するか否かは経営者の自由であり、しかも提言を実施するのは経営
者であって経営指導員ではない。その成否についての結果は経営者自身が負わなければなら
ない。
したがって、経営指導員はまず受診者の受入れ態度、性格、学識、管理能力などをよく観
察してそれに応じた指導方法を採用し、受診企業が少なくとも提言に敬意を表わし、実施し
ようという意欲を起こさせるだけの内容を備えていなければならない。さらに忍耐も必要で
あり、人をみて法を説く雅量とユーモアと機知をもつことも求められる。
このように経営指導員と受診者との間の人間関係がうまくいかなければ、経営指導の効果
は半減しかねない。
それは必ずしも社長など経営者に限ったことではない。各管理部門の責任者、管理職、時
には受診企業の全従業員との関係についても考慮しなければならない。目的は提言事項が効
果的に受診企業に受け入れられ、実施されることである。経営者とそれに協力する人たちに
提言内容について信頼と興味と協力意思とをもたせることが必要となる。
(2)経営相談と経営指導
経営相談業務のある部分は対象として内容的にも経営指導業務と当然重複している。同じ
内容のものか経営相談に応じるという形で処理され、あるものは経営指導という形になる。
経営相談という形で経営指導という手法を使わないで提起された問題はかなり処理できる。
したがって、経営指導員も相談を受け、相談に応じるという形で実際上対応している場合や
あるいは対応しなければならない場合がかなり多い。
ただ経営相談という形で解決する場合は相談には応ずる者自身が現場に行かず処理しよう
とするし、調査そのものの多くは相談提起者に提出させ、一定のシステムに従って処理する
ことも多い。
経営相談業務は事前に必要と思われる資料全般を準備しておかなければならない。経営指
導業務の方も予備知識は同じく必要であるが、申込受付後に初めて調査がスタートするケー
スも多い。
経営相談時に持ち込まれた内容について即座に答えられるならば経営指導員もやりがいが
あり、受診者の満足度も高い。
しかしそれができないときは次善の策を取らなければならない。 その一つは類似のケース
があれば、それを受診者に提供して参考にしてもらう方法である。これでうまくいく場合も
ある。うまくいかないときは受診者にこまかく問題点を聞きただして提起された相談事項に
ついて判断し、答えなければならない。これでもうまくいかない場合もある。提起された相
談事項を推定したり、類推したり、類似のケースを持ち出すことで済まない場合である。そ
れは法律問題や技術処理問題、その他正確さを要求する場合である。このときは自身でそれ
を調査して回答することを約束するか、あるいは正確に解答できる人や機関を紹介し、処理
しなければならない。
(3)受診者との対話の重要性
経営相談業務、経営指導業務の大きなポイントとなるのはそれが受診者との対話を通じて
行われるということである。
そこに経営指導員の人の問題、また受診者の人の問題が生じる。対話は同時に面接的であ
る。問題点を引き出し、問題点の考え方を与え、理解させ、そしてその解決の方向を示し、
対話を続けて行く。対話の中に論理が織りこまれ、対話の中で真相を理解させて行く。しか
し対話が単なる話し方ではないのはそこに一方的な流れが存在するのでなく、新たな質問を
呼びおこし、関心を特定の方向へ強め、しかも感情の交流が生じなければならない。
それが面接的であるという意味は対応を評価していることだけではない。対応の評価は必
要であるにしても経営相談や経営指導であるという以上は血の通った結論が必要だというこ
とである。愚痴を聞く対応も大切なことである。興味を感じるすべてのことに対話や面接は
及ばねばならない。それには受診者の人間性、表現力、考え方、態度にまで洞察力が及ばね
ばならない。
①面談における経営指導員の留意点
経営相談業務、経営指導業務に対して役目だから行っているという経営指導員がいること
も現実であり、その一方でそれに生きがいを覚えてやっている経営指導員もいる。経営相談
業務、経営指導業務担当経営指導員のその業務に対する意識や態度の違いは大きい。
役目だからというのでなく、意義を認めて従事している経営指導員の態度がすぐれている
には違いはないが、業務に関する知識が無いと遂行することはできない。業務の事後処理、
ケースの分類整理、活用の準備ができていなければそれはいつも出たとこ勝負になり、受診
者に十分な満足を与えることはできない。すぐれた事務処理ができる経営指導員でなければ
ならない。
したがって、やらねばならぬことは何としてでもやってのけるという意欲ある経営指導員
であることが求められる。
また経営指導員の条件の一つとしてできるだけの誠意をもって受診者に接することも重要
である。受診者に対して自分の全力をもって誠意をもって当たれば、たとえ十分満足すべき
解答が与えられないで相談や指導が終了してもさわやかな印象を残すであろう。
さらに求められるのは受診者から信頼されるということである。不親切、傲慢顔、鼻であ
しらう、つまらない問題だと顔に出すことはたとえ十分な知識技術を持っていても、その経
営指導員は不的確であると言わざるを得ない。
ベテランの経営指導員になるというのは受診者に対して、一度面接しただけで信頼感を持
たれる人柄になるということであり、馴れてマンネリズムに陥り、冷たく事務的に速い処理
をするということではない。
②受診者の多様性
相手をみてものをいえ、という言葉はもちろん相談や指導にも通じることであるがそれは
相手をみて態度をかえるということではない。
窓口にはいろいろな性格の人がやってくる。顔を利かせようという人あり、後生大事に紹
介名刺を持ってくる人あり、こわごわおずおずとくる人あり、見栄っ張りの人があり、一生
の大事を持ちこんできたという人あり、冷やかし半分の何をいうか聞いてみてやれという態
度の人もある。
経営指導員は相手がどのようなタイプの人であっても差別はせず、懇切丁寧に応対するこ
とが必要であるが、受診者の人柄を見分ける眼を持っていなければならない。受診者の満足
を得るためにも必要なことである。経営指導員にとって苦手であるのは傲慢な人や、冷やか
し半分の人であるより、むしろ指摘したことを納得しながら実行もしないで、優柔不断、そ
れでいてあれかこれかと繰り返し、相談を持ちこむタイプの人の場合が多い。
それを実行したらその結果をもってまたお越しください、と突き放すケースも存在する。
決断できずに迷いに迷う人は気の毒な人であるが、そういう人柄であることが問題なのであ
って、それが対話や面接を通じて解消されて行くことを期待しなければならない。
2.経営指導に求められる面談技法
(1) 経営指導による受診企業の心理的活性化
一般に経営指導とは、①相談とかアドバイスによって、②相談を受けた人や企業に適切な行
動や物の考え方を提供し、③その実施方法や行動の分析評価も含めて、④その後の対応方向を
示唆し、これらの行為を通じて、⑤その人や企業のために、実際のためのアイデアやノウハウ
を提供し、支援活動の奉仕を行っていく活動と考えられている。
特に最近は経済環境の複雑な多様性から、経営指導の内容も単に販売促進とか商品開発とか
の問題に関しての相談ばかりでなく、マーケティングとかマーチャンダイジングに絡んだ広い
視野からの積極的な経営指導が望まれる時代となっている。
まさに経営指導とは広い観点からの適切な相談業務やアドバイスを積極的に行い、企業が欲
している経営の活性化に対して適切なアイデア提供を行い、その企業の活動力を向上させてい
くために行われるのである。
経営指導はまさに医者の患者に接するときと同じように、ただ悪い患部をなくし、取り除け
ばよいというものでなく、その患者の心理的な生活の活性化を図る行為も含まれており、患者
の心を癒すことによって、その事後の経営の実を上げる行為が含まれていると解釈されている
のである。特に経済状態の激しく変化する時代においては、企業組織の中に疲労部門や欠陥部
門が増殖され、それによって経営者の心理的な活動力の低下が発生している状態ならば、経営
指導員による指導によりその原因を修正していくことが求められる。
(2)面談技法へのカウンセリング理論、コーチング理論の活用
経営指導員への相談者や受診者に対しての心理的サポートの重要性はますます高まっていく
ことが予測される。
経営指導員には高度で豊富な専門知識や経験が必要とされるのはいうまでもないことである
が、通常それを伝えるのは基本的には一対一の人間関係の中においてである場合が多い。一人
の受診者をどう理解し、その人とどう向き合い、どのように、あるいはどのようなアドバイス
をしていくか、このことがうまく機能しなければ、どんな素晴らしい知識も情報も無益なもの
とのなってしまうであろう。そのためにも、カウンセリング、コーチングの知識が重要となる。
現状を打破し少しでも向上していこうとする人たち全ての人間関係に必要であると言っても過
言ではない。
①カウンセリングの定義
現在カウンセリングには40近くの理論があり、カウンセリングとは何か、という定義も各
人各様であり、実にさまざまな定義、解釈がある。
一般にカウンセリングとはカウンセラーと受診者がもっぱら言葉を介してやりとりすること
によって、悩みの解消をはかること。悩みを受容する雰囲気の中で、受診者の自己洞察が深ま
り、鬱屈した感情の発散ができるよう配慮されることであるといわれる。
今日では学校、企業、病院などでの相談、さらに災害や事故などによる心の傷のケア、マイ
ンド・コントロールの解除といった問題にまでカウンセリングは関わるようになってきている。
本ハンドブックではカウンセリングを「カウンセリングとは主に言語的および非言語的コミ
ュニケーションを通して、相手の悩みの解消をはかり、相手の行動の変化、向上を援助する人
間関係である」と定義したい。
②カウンセリング効果への期待
行動の変化
カウンセリング効果への期待
新たな行動の発展
現代社会において、人は常に情報の洪水の中で自分を見失いがちである。受け取る物、情報、
はあふれるばかりでとても処理しきれないほどであるが、自分から発信することはそれに反比
例するように少なくなっている。
その要因の一つは、地域社会で、職場で、あるいは家族の中でも、自分の気持ち、意見等を
受け入れて聞いてくれる人がいないという問題がある。
「カウンセリングはそのような現代社会
の中で、一人の人の話をじっくり聞いて理解するという態度である。人は話を聞いて理解して
もらえるだけで、癒される。
」という風にカウンセリングを位置づける人もいるが、それだけな
らば、昔の井戸端会議や仕事の後の居酒屋での愚痴のこぼしあいと同じである。まず「話す」
「聞いてもらう」
、これは全ての始まりである。
しかし何のために話すのか、何のために聞いて理解するのか、それを考えた時、前述の定義
の中で述べた、
「相手の行動の変化、向上」これを抜きにカウンセリングを考えるべきではない
であろう。つまり、カウンセリングは究極的には結果的に「行動の変化、新たな行動の発展」
を期待しているのである。
③コーチングの定義
コーチングとは一言で言えば
「受診者の自己実現をサポートするシステム」
であるといえる。
自己実現とはもともとアメリカの心理学者マズローが提唱した「欲求五段階説」の中で最上級
の欲求として位置づけた概念である。欲求五段階説とは、
「人間の欲求には段階があり、下層の
欲求が満たされると、次の欲求が動機づけの要因となる」というものである。
マズローによれば、自己実現とは「その人が本来持っている能力や可能性を最大限に発揮す
ること」であり、このような欲求こそ、人間として一番高度な欲求だということになる。
コーチングが最終的にめざすのは、まさに、この意味での「自己実現」に他ならない。自ら
考え、自ら動ける自立した受診者にとどまらず、さらに自らの持てる能力や可能性を最大限に
発揮できる受診者に変えていくことなのである。
コーチングにおけるサポートはヘルプと異なっている。ヘルプは助けを求めている人が自分
の力だけではどうしようもできない、いわば「無力」状態にある。同時にこの場合、助ける人
は助けを求めている人にとってなくてはならぬ存在であり、両者はいわば支配従属的な関係に
ある。
すなわち、ヘルプはマイナスの状態にある人をゼロの状態まで上から引っ張り上げてあげる
ことであるのに対して、サポートはもともとゼロまたはプラスの状態にある人がさらなるプラ
スの状態まで行くのを下から支えることである。
協働的な人間関係とは一つの目的を達成するために、お互いが補完・協力し合う関係である
が、ここでいう一つの目的とは受診者の自己実現を指す。 したがって、コーチングとは、言い
換えると受診者の自己実現を唯一最大の目的として経営指導員と受診者の間に結ばれる協働的
な人間関係であるといえる。
③コーチング効果への期待
進むべき方向の発見
コーチング効果への期待
行動をおこす意欲
具体的アドバイス
カウンセリングにより受診者と接することによって、経営指導員は確固たる信頼関係を受診
者との間に築き、その信頼関係に勇気を得て受診者は現状を打破し、新たな一歩を踏み出そう
とするであろう。様々な悩みや不安を聞いて理解するだけが経営指導員の仕事ではない。そこ
から受診者の行動の変化を生み出すのが目的である。
受診者は新たな行動を起こす。
そして新たな事業を興すことかもしれないし、
店舗を増やす、
あるいは広げることかもしれない。取り扱う商品を変える、増やす、従業員を変える、増やす、
または店舗の内装を変える、接客の方法を見直す等々、その規模の大小はともかくとして、新
しい行動をとろうとする。その目標が定められた時点で必要となってくるのが、経営指導員に
よるコーチングである。
カウンセリングが受診者に進むべき方向を見つけさせ、それに向かって行動をおこす意欲・
希望を与えたあと、コーチングはその行動を成功させるための具体的なアドバイスを与えると
いうことになる。
このコーチングにおいて、経営指導員の専門知識や経験が十二分に活かされることになるの
である。
3.面談時のカウンセリング技法
(1)感情交流・役割関係づくり
感情交流・役割関係づくりとは複数の人間の間に、感情交流か役割関係のいずれかあるいは
両方が存在する場合をいう。この両方を人生のより多くの状況でつくる能力のある人間が健全
であるといえる。カウンセリングでは特に経営指導員と受診者の間に感情交流・役割関係のあ
ることが不可欠の条件であると考えられる。
感情交流・役割関係が必要な理由は次の点である。
第一に、
「この経営指導員は自分の味方である」
「自分の身になって聞いてくれる人である」
という信頼感がないと、受診者は胸襟を開いて語ってくれない。
感情交流・役割関係つくりとは構えのない感情交流であり、その根底には信頼感がある。胸
襟を開いて語ってくれないと、
経営指導員は情報不足のために相手を理解することができない。
第二に、感情交流・役割関係そのものが相手に生への意欲を回復させる経験になるからであ
る。特にこれといった話をしたわけではないが、人生で初めて人に心を包んでもらった、人生
で初めて自分の味方になってくれる人と出会った、人生で初めて自分をもたれかける対象が見
出せたなどの自他の融合感があると人生への勇気が湧いてくるのである。
第三に、感情交流・役割関係がつくにつれ、生地が出やすくなる。構え・気がねがとれるか
らである。生地とはその人の基本的な反応のパターンのことである。つまり、感情交流・役割
関係は受診者を理解する素材を提供してくれる。
①受容
(2) カウンセリングの基本的技法
②支持
カウンセリングの基本的技法
③繰り返し
④明確化
⑤質問
カウンセリングの基本的技法として受容、支持、繰り返し、明確化、質問の 5 つを挙げるこ
とができるが、これらはいずれもこの順序で使うわけではない。また、この 5 つがすべての面
接でフルに使用されるというわけではない。
受容と繰り返しだけの面接もあれば、質問が多い面接もある。それは問題によるし、面接の
時間経過にもよる。
いずれにせよ、この 5 つの技法を駆使展開するうちにおのずから感情交流・役割関係は成立
し、問題の核心はクローズアップされてくる。問題の核心とは、今困っていることの原因は何
か、今困っていることの具体的局面は何かのことである。
①受 容
1) 受診者の表明に評価や判断を加えず、それをそのまま受け取ろうとする。経営指導員の
応対技法であり単純受容ともいわれる。
2) 応答の技法というよりもっと深いレベルでの経営指導員の受容的な姿勢の意味で用いら
れる。この技法はあらゆるスタイルの面接に活用されるべきものである。具体的には、相手の
話に「うむ、うむ」と相槌を打つことである。
自分を無にして相手の話に共感しなければならない。
「なるほど、そうだったのか。そういう
考え方もあったのか」と内心で納得した状態が外面的には「うむ、うむ」
「なるほど」という一
見単純に見える反応になって表現されてくるのである。
経営指導員は自分の価値観に固執せず、それを失わずに受診者の世界に漂うことが求められ
る。面接の技法でまず必要なことは非審判的・許容的態度で人の話に耳を傾ける(受容)がある
ことであり、受容があると受診者は当然構えがとれ、感情交流・役割関係が生まれてくる。
②支 持
支持はカウンセリング技法の一つであり、言語的レベルのものと非言語的レベルのものがあ
る。言語的レベルとは受診者の言動に賛意を表明する経営指導員の言葉により受診者の自信と
自己受容を高めるのがねらいである。
非言語的レベルの支持とは、受診者の能力の足りないところを補う具体策を講ずることであ
り、ねらいは受診者の独立能力、自立心を育てることにある。
相手の気持がわかるにつれ、
「それは大変だったなあ」
「それはそうだ」という感情が経営指
導員に湧いてくる。通俗的にいえば同調したい気持である。これを支持という。受容が己を無
にしている状態とすれば、支持は己を表現している状態である。経営指導員の「中立性」とい
う美名のもとに支持を恐れると、感情交流のない面接になってしまう。
支持は一種の承認である。われわれは日常生活で人から水をさされたり、批判されたり、け
ちをつけられることは多いが、それでよいのだと認められることは意外に少ない。それだけに
カウンセリングの場面での支持は、自己受容の原動力になるのである。
受診者の表明に対して何でも「それはそうだ」
「それは当然だ」と反応すればよいというもの
でもない。支持するものとしないものを識別して反応しなければならない。でなければ、受診
者は「この経営指導員は調子者だ」
「この経営指導員には定見がない」と信用しなくなる。
まず、支持するか否かは理論的に考える必要がある。経営指導員の一挙手一投足が理論に支
えられているのが理想的である。理論的支えもなしにただ慰めるだけというのは、プロフェッ
ショナルではない。
しかし、すべての事象が理論で説明できるわけではない。仮に理論があっても、たまたまそ
れを知らないということもありうる。そういう場合は類似の事例を思い出すことである。
理論も知らないし、過去の類似の事例も想起できない場合は自分自身の体験をふり返ること
である。かつては自分もそういうことがあった、それゆえこの人がこう言うのも当然だ、と考
えると心のこもった支持的反応になる。支持的に接してもらう過程を経た方が人生の苦難に立
ち向かう意欲がでてくるのではないだろうか。
③繰り返し
繰り返しは言い換え技法とも呼ばれ受診者の話した内容を経営指導員が受診者に繰り返すこ
とである。
経営指導員は受診者の話した内容を全部覚えていて繰り返すわけではないが、受診者の話の
内容からもっとも重要と思われるエッセンスを繰り返す。受診者は自己洞察を深めることがで
き、カウンセリングは次の話題へ展開する。
感情交流・役割関係はカウンセリングにとって必要な条件ではあるが、それだけで充分とは
いえない。自他の行動のパターン、行動の意味、行動の原因について気づくことが大切である。
いわゆる洞察である。準備のできていないときの解釈は、抵抗を起こさせるか、混乱を生じさ
せるからである。そこで、
「繰り返し」を用いる。
「繰り返し」とは相手の話したポイントをつかまえて、それを相手に投げ返すことである。
「私はあなたの話をこういうふうに理解しましたが、私の理解に間違いはないでしょうか」と
確認する気持をこめて、ポイントを復唱するのである。
受診者としては、自分の話したことが音声になって外から戻ってくるわけであるから、自分
の気持や受けとり方を離れて眺めることができる。つまり自問自答を促進することになる。そ
れによって、今までぼんやりしていた自分がはっきり見えてくるのである。
繰り返しは昔の軍隊の復唱ではない。相手の文章を全部記憶して、それをおうむ返しにする
ことではない。相手の言いたいことをキャッチして、そのポイントを繰り返すのである。言葉
も必ずしも相手の使った言葉を用いる必要はない。自分の受けとり方を正しく伝える言葉であ
ればよい。
相手の言いたいポイントを押さえて枝葉末節は切り捨てて、要点を繰り返すのである。そこ
で受診者は当然、次の感情を表明する。一枚一枚ラッキョウの皮をはがしていくのが繰り返し
である。徐々に自分の実態に対決するように助けていくわけである。もし相手がたくさんしゃ
べった割には、何を言いたいのかつかめないような場合は「おっしゃりたいことを一言でまと
めるとどうなるでしょうか」と聞くのも効果的である。相手はもう一度自分の内面を整理し吟
味せざるを得ないから、これがまた自己理解を促進させてくれる。あるいは「すみませんが、
もう一度わかりやすく言って下さいませんか」と率直に言ってもよい。
要点を繰り返そうと思っても相手がのべつまくなしに話し続けるので、口のはさみようがな
い場合がある。ある程度話を聞いてから話をさえぎる勇気をもって、
「今までのところを要約す
ると、○○○ということですか」と言ってみる。こちらの理解通りでよいということになれば
「どうぞ続けて下さい」とやればよい。こんな方法を 2、3 回用いているうちに、受診者はだ
んだん要領よく話すようになるから、このようにしてある程度方向づけをした方が時間の効率
はよい。
面談場面では受診者は自分のことで頭が一杯であるから、他者が自分の考えをまとめて繰り
返していることを気にする人はいない。経営指導員と対話しているというよりは、自己と問答
している感じだからである。
経営指導員はこの場合、鏡の役割を演じているのである。
「経営指導員の意見はどうですか」
と他者の存在を認識した発言をする場合は、大分頭がさめているといえよう。その場合は自分
の問題に我を忘れて埋没していないと推論できよう。
「繰り返し」をするためには枝葉末節の話には眼もくれず、ひたすら論旨をつかむ作業をし
なければならない。この作業は観察力・洞察力・感受性・分析力・知力を要するのである。
「繰
り返し」は、言葉を繰り返しているような印象を与えるが、実は心を繰り返さねばならないの
である。したがって、繰り返すときの声の質量が大切である。相手の心のリズムが繰り返しの
ことばの中にこめられていなければならない。でないと、相手は自分の心と対決している気が
しない。経営指導員の発する「繰り返し」の言葉の響きは受診者があたかも自分と出会ったか
のごとく感じるようでなければならない。
④明確化
明確化は受診者のはっきりと意識化(言語化)されていない潜在意識レベルのところを経営
指導員が先取りして言語で表現してみることである。
明確化するときは受診者の言葉を知的に解釈するのではなく、経営指導員が自分の感受性を
総動員して受診者の感情に反応することが大切である。
経営指導員は受診者が最も伝えたいと感じているところを感じ取り、伝え返していく。明確
化においてもっとも重要なことは正解を言い当てることではなく、受診者の体験過程を敏感に
感じ取ることである。そのことでときには仮定や推測であっても受診者は経営指導員に暖かく
受け入れられていると体験できる。
受診者が薄々気づいてはいるけれども、まだはっきりとは意識化していないところを先取り
して、これを経営指導員が言語化(意識化)することを明確化という。
「明確化」はもっぱら言葉
による表現に焦点をあわせている。
解釈は時期尚早だったり、解釈の量が多すぎたりして、かえって受診者を混乱に陥れる危険
性があるが、明確化は相手が薄々気づいていることを指摘するわけであるから、解釈ほどの危
険性はない。しかも解釈は多かれ少なかれ推論であるから、当たらないこともある。明確化に
も推論的要素がないとはいえないが、解釈ほどに推論性が強くない。したがって、技術的にも
解釈ほどには難しくないといえよう。感受性を動員すればできることである。明確化というの
は意識の面積を拡大する作業である。意識の面積が拡大するほど、人間はその言動に現実性が
出てくる。
⑤質 問
質問は質問技法とも呼ばれ面接の話題を広げ、問題点を掘り下げ、受診者との間の感情交流・
役割関係を作る。
また、カウンセリングでは質問することをリードともいう。相手を助けるためには質問をし
て必要な情報を手に入れなければならないことがある。質問しないで受身的に聞くだけでは、
相手はもの足りないことがある。また、質問されるということはそれだけ関心をもたれている
と感じるものである。また、聞かれたら答えるつもりだったのに、聞いてくれなかったので話
す機会がなかったということもある。多すぎる質問は相手が追いつめられるため好ましくない
が、全く質問のない会話は突っ込みが足りない表面的な会話になってしまう。
質問の仕方はまず相手がイエス、ノーで答えられないような聞き方がよいであろう。これを
開かれた質問という。
「ハイ、イイエ」でしか答えられない質問に対して答える方は尋問を受けているように感じ
るだろう。答える方にすればことばを選んで答える余裕が残されている方が、追いつめられる
感じはしないですむ。
「ハイ、イイエ」で答えられたのでは、詳しい事情がつかめないが、開か
れた質問では情報収集の量が多いため、それだけ詳しく受診者を理解することができる。
「ハイ、イイエ」で答えられない聞き方がよい第一の理由は、人間には両面価値感情があるか
らである。人間は相反する 2 つの感情をもっていることが多い。たとえば、愛と憎しみ、信頼
感と不信感、結婚したい気持としたくない気持、会社を辞めたい気持と辞めたくない気持など
である。それゆえ、
「ハイ、イイエ」で答えさせようとすると無理がある。
質問の第二の留意点は、受診者の語ったことに関連あるところから聞くことである。あちこ
ち「つまみ喰い」的に聞かないことである。質問に答えることによって考えが発展するとか、
今まで気づかなかったことがはっきりしてくるような聞き方がよい。
質問の第三の留意点は、好奇心をもってきかないことである。相手を助けるのに必要な情報
だから聞くのである。経営指導員個人の好奇心を満たすために聞くと受診者は自分のプライバ
シーを不当にのぞかれた感じがする。この場合、感情交流・役割関係はつくれない。
収入、学歴、性体験など日常生活でわれわれ凡人の好奇心をそそる事柄を聞く場合は、特に
自分の気持をチェックする必要がある。もし、自分個人の好奇心から聞いているわけではない
のに受診者がいやな顔をして答えを渋っているときは、すぐさまその問いを発した理由を説明
するのがよい。
質問の第四の留意点は相手のいやがることはなるべく後回しにし、感情交流・役割関係がつ
いてから聞くことである。
一番よいのは相手が自ら語ってくれるまで待つことである。しかし、時間の制約でそれまで
待てないこともある。
その場合は、
こちらが好意を持っていることが相手に充分伝わっている、
という確信がもてたときに聞くのがよい。
4.面談時のコーチング技法
(1)経営指導におけるコーチングの必要性
我々の多くは現在、結果を出すというサバイバル・ゲームに追われている。またこのゲーム
の条件は過酷になる一方である。今後は単に結果を出し続けるだけの企業や組織ではいつかは
ゲームに取り残されてしまうであろう。
結果を出し続ける一方で、同時進行的に結果を出す能力を高めていくことのできる企業や組
織だけが、勝ち残ることができるであろうと考えられる。
①受診者自身による学習の必要性
これまで学習という言葉は、教わることによる能力の向上や情報の蓄積という意味で語られ
ることが多かったのではないであろうか。しかし、我々は生まれながらにして経験を通して自
発的に学習する能力・機能を備えているのである。さらに人間にはこの能力・機能を高める力
も備わっている。さらに、この自発的学習には喜びが伴うという効果もある。
そのため、受診者は学習が促進されることにより成果が高まる一方で、それが学習とパフォ
ーマンスに対するモチベーションの向上につながり、さらなる学習と成果、喜びの高まりが生
まれるという好循環が回り始める。
これまで我々は「教えれば学習が促進する」という仮説を無批判に信じて、ティーチング文
化から抜けきれないでいた。
学習能力は我々の精神身体機能という畑に蒔かれた植物の種のようなものである。必要な環
境を整えれば、自然に成長し、花開き、実を結ぶものであることが、各方面の研究調査によっ
て明らかになっている。
スポーツの世界でのコーチングにおいてはプレーヤーにスキルを教えなくても、コーチが適
切な環境作りをするだけで、
プレーヤーが自然に必要なスキルを身につけていくこと、
そして、
その場合のスキル習得に要する労力と時間は教える場合とは比較にならないほどわずかですむ
ことなど、幾つかの画期的な発見があったのである。
これらをきっかけに教えることと学ぶことの関係の見直しがはじまり、相手の中に主体的学
習が起きるための環境を生み出す手法として、コーチング手法が開発されてきた。その後、コ
ーチング手法はビジネスの世界でも目覚ましい力を発揮することが実証され、スポーツやビジ
ネスのみならず、教育や子育て、医療、音楽など幅広い分野で導入されるようになってきてい
る。
コーチングの導入によって開ける新しい世界はさまざまな希望をもたらすことになる。基本
的にコーチングは、信頼関係を基盤としたパートナーシップであり、人間本来の自然な特性を
大切にすることによって効果の高まる手法である。
経営指導員による受診者へのコーチングは受診者自身の自発性と問題解決能力を高める。ビ
ジネスにおいても、コーチングが浸透した組織は活性化し、コミュニケーションの風通しもよ
くなってきている。
②コーチングが求められている背景
仕事の方法が変化、スピード加速
コーチングが求められている背景
仕事を部下から教えてもらう必要
ではなぜ、
最近になってビジネスの現場でコーチングということが言われるようになったのか。
コーチングの考え方は古くからあるが、今日求められているコーチングの考え方は背景に流れ
る基本的な思想が従来のものとは大きく異なっている。
その基本的思想はコーチングに限らず、
マネジメント変化の潮流の中に位置づけられるものである。
1)仕事の方法が変化し、そのスピードが加速
仕事のすすめ方が変わってきた。仕事の環境、システムも従来と異なってきている。また、
それらの変化のスピードも加速しているのである。
しかし、書類や報告書を作成する時間が短くなったから、仕事に余裕ができたわけではない。
仕事全体がスピードアップし、仕事を進めていくシステム自体が変化しているのである。
2)仕事を部下から教えてもらう
これまでの企業を取り巻く経営環境は変化がそれほど激しくなく、ビジネスサイクルも比較
的長期であったといえる。そのような時代は正解が決まっており、計画通り物事が進むことが
多かったのである。
しかし、現在ではビジネスサイクルは短期となり、計画通りに仕事が進むことは少なくなっ
てきている。年初に目標を立てても、予想のできない事態が頻繁に発生する。
体験したことのない出来事や変化に遭遇するため、誰も正解を知らない。組織のメンバーも
上からの指示に従っているだけではこの事態に対応することができないのである。
こういった未知の状況に対応するためには自らの問題解決能力が求められるのである。
今日の環境で求められる人材開発のあり方は指示・命令通りに行動し、型通りの行動を身につ
けるためのトレーニングやティーチングを行なうことではなく、自ら答えを考え発見していく
コーチングにならざるを得ない。
「本当に人々がやる気になったならば、成果はついてくる」というのが近年のマネジメントの
考え方であるが、人々がやる気になり、成長し、業績を上げる方法は何か、それを現場で実現
したのがコーチングである。コーチングの考え方は人々が真に成長し、自ら学び主体性を確立
していくプロセスを支援するものであり、答えを教えるものではない。
(2)コーチングの哲学
①人は皆、無限の可能性を持つ
コーチングの哲学
②答えはすべてその人の中にある
③答えを見つけるためにはパートナーが必要
①人は皆、無限の可能性を持っている
自己実現とはその人が本来持っている能力や可能性を最大限に発揮することであるが、これ
は私たち一人一人が今現在発揮している以上の能力や可能性をもともと持っていることを前提
とした概念なのである。
この哲学にはコーチングと従来の操作主義的な経営指導とを画す重大なポイントが含まれて
いる。それは人間という存在をどう見るかという両者の「人間観」の違いである。
受診者が困っているとか受診者が助けを必要としていると考えているのは、もしかしたら、
経営指導員のあなただけかもしれない。
受診者が必死に自力でなんとかしようと頑張っているのに、経営指導員が勝手にダメと判断
し受診者に手を貸したとしたら、それはとんだ「おせっかい」になってしまう可能性がある。
そんなことを続けていたら、受診者はいつまでたっても自己実現できないであろう。
へルプは受診者の中に依存心を生み出す。へルプをしても受診者は所詮ゼロの状態に戻るだ
けであり、決してプラスの状態になるわけではない。したがってまた次の苦境が訪れれば、受
診者は再び無力な状態に逆戻りしてしまう可能性が高いわけである。
経営指導員と受診者の関係においては、経営指導員の下手なおせっかいで受診者の自己実現
を妨げることがないように十分注意したいものである。
②必要とする答えはすべてその人の中にある
受診者が持っている本来の能力や可能性を最大限に発揮するにはどうしたらいいかという問
いに対する答えはすべて受診者の中にある、と言い換えることができる。
しかし多くの場合、その答えは受診者の中に「眠っている」のである。なぜ「眠っている」
のかと言えば、それは多くの受診者が答えは自分の中にあるということ自体を信じていないか
らである。この考え方は経営指導員と受診者の関係に限られたことではない。現代社会に生き
るほとんどの人たちが、自分の中に自分の必要とする答えがあるなどとは信じていないように
思われる。これまで我々は家庭でも、学校でも、あるいは会社に入ってからも、答えは誰か「上」
の人たち、つまり親や先生や上司といった立場にある人たちが持っていると常に教えられてき
た。このような環境の中で育つうちに我々は知らず知らずのうちに自分たちの中にある答えに
封印をしてきてしまったと考えられる。
受診者が「答えは誰か他の人たちが持っている」と信じていれば、受診者の考え方や動き方
はどうしても依存的になる。逆に「答えは自分の中にある」と信じていれば、自ら考え、自ら
動くという自立的な考え方や動き方が可能になる。
答えが経営指導員の中にではなく受診者の中にある以上、それを経営指導員が与えることは
できない。経営指導員にできることは受診者の中にある答えを「引き出す」ことだけである。
③答えを見つけるためにはパートナーが必要である
経営指導員は自分が答えだと思うことを受診者に与えるのではなく、むしろ受診者の中にあ
る答えを引き出すという役割を担っている。
具体的には受診者に対して問いを投げかけることにより受診者の中にある答えを引き出して
いかなければならない。
通常人間の意識は外を向いている。
それは外界から入ってくる様々な刺激を受け止めながら、
それに対して自分はどう反応すべきなのかを無意識のうちに判断しようとしている。この働き
がなければ、私たちはこの複雑な世の中で正常な社会生活を営むことはできない。
それでは、このように普段は外を向いている意識に対して、問いを投げかけてみたらどうな
るか。問いかけに対して普段は外を向いている意識の矢印は内に向けられ、しかも、それまで
とはまったく関係のない方向に向ける力が働くと考えられる。意識が外ばかりを向いているの
であれば、自分の中にある答えを見つけることはできない。
したがって、
経営指導員はまず普段から外ばかり向いている受診者の意識の矢印が内を向き、
自分の中にある答えを見つけられるよう、繰り返し問いを投げかけることでサポートする必要
がある。
意識には顕在意識と潜在意識があることが知られている。顕在意識は、我々が普段認識して
いる部分、つまり自分が気づいている自分を指し、潜在意識は、我々が普段あまり認識してい
ない部分、つまり自分が気づいていない自分を指す。普段我々が認識しているのは、意識全体
の中でほんのわずかな部分にすぎない。いわば、
「氷山の一角」である。
そして、
「すべての答えはその人の中にある」といった場合の「答え」は、実はその多くが顕
在意識ではなく、その人自身が気づいていない潜在意識の中にある。
これは、ある意味で我々が自分自身の姿を自分の目で見ようとしても、部分的にしか見るこ
とができないのと似ている。つまり、我々は自分自身の意識を自分自身で見ようとしても、部
分的にしか見ることができない。
そこで自分自身の全姿を見ようと思えば、鏡が必要となってくる。同様に、自分自身ではな
かなか見ることのできない自分の潜在意識の中を覗こうと思えば、何か「鏡」にあたるものが
必要となってくる。この意識を映す「鏡」にあたるのが「問いかけ」になるのである。
「答えを見つけるためには、パートナーが必要である」というコーチングの第三哲学が意味す
ることは経営指導員による受診者に対してのサポートの必要性である。
(2)コーチとしての経営指導員の役割
コーチとしての経営指導員の役割
①答えを引き出す
⑧目標について語る
②不満を提案に変える
⑨理由を伝える
③かたまりをほぐす
⑩価値を見つける
⑪ノーといえる自由のある提案をする
④かたまりにする
⑤要望を聞く
⑫フォローする
⑥安心感で人を動かす
⑦夢に気づかせる
⑬エネルギーを補充させる
代表的なコーチの役割として以下のものを挙げることができる。
①答えを引き出す
経営指導員が受診者から「答えを引きだす」とは、相手さえもまだ自分の内側に眠ることに
気づいていない情報を引き上げ、新たな行動の指針となる知識に変えていくことである。誰か
が引きださなければ永遠に口にされることのない思いや考えが内側にあるかも知れない。
しかし、人と人が向かい合えば、たとえそれが親子であったとしても、ある種の摩擦が生じ
る。人は基本的に自分以外の人間に対して防衛を働かせているからである。では、具体的には
どうすれば答えを人から引き出すことができるのであろうか。
引きだすためには質問が必要である。問うことで答えを相手から求めていく。そしてその質
問の答えのひとつを受けとったら、受けとったことをちゃんと相手に伝えなければならない。
答えの内容の細部に対して関心が生まれたら、また質問をする。そしてまた、受けとって、受
けとったことを伝えて質問をする。この過程が繰り返されることによって、相手は引き出され
たという実感を持つ。
目前の人の能力や気持ちや考えを引き出してみよう、そう思った瞬間に経営指導員はその人
のコーチとなることができる。
コーチの役割は相手から引き出すことであるが、いきなり相手の内にあるものを引っ張り出
すような質問は、効果的ではない。
人は基本的に不快なことはなるべくしたくないため、まずは相手の意識を「小さい」質問で
慣らす必要がある。相手から多くを引き出すためには、まず「小さくて」必ず答えられる質問
からしていかなければならない。
②不満を提案に変える
人を指導育成する立場にあると、一番怖いのが自分に向けられた「不満」である。
「不満」に
は接したくない。自分の「正しさ」を壊されたくないのである。
経営指導員は不満を提案に変える必要がある。不満とは基本的には被害者的なスタンスから
のメッセージである。自己責任を明確にしたメッセージに変えていかなければならない。
③かたまりをほぐす
人は自分の過去の経験をひとつのかたまりとして脳のなかにストックする傾向がある。そこ
で経営指導員はそのかたまりをほぐさなければならない。
相手のかたまった言葉を受けて、それをほぐす。またかたまりを見つけてほぐす。相手の話
を自分の中で絵に置き換えていくプロセスにおいてはっきりとしない部分を質問して返してい
く。これを繰り返すことで相手のかたまりの詳細を理解することが可能になる。
④かたまりにする
経営指導員には現在の状態をプラス行動で目標に近づけていく役割がある。まず望んでいる
状態をきく。最初は漠然とした答が返ってくるであろうからかたまりをほぐすことで、より具
体的にしていく。具体的になればなるほど、すなわち望んでいる状態が細部にまでわたっては
っきりすればするほど、未来は魅力的になる。
次に現在の状態を聞き、ここでもかたまりをほぐすことによって、より具体的に現在なにが
起きているのかをとらえる。
そして最後にまたかたまりをほぐすことによって行動を引きだす。
いつ、どこで、誰と、なにを、どのようにするのか、その行動が明確にイメージできるまで詳
細に聞くのである。次にいくつかの小さなものを大きなかたまりにまとめあげる、具体的なも
のの集まりから抽象的な概念を抽出することが求められる。
かたまりにすることは 2 つの部分で行う必要がある。ひとつは「望んでいる状態」で、もう
ひとつは「行動」である。望んでいる状態が具体的になったあとにそれをもう一度短い言葉に
まとめあげるために相手に問いかける。ずっと先まで相手が「行動」を継続し、
「望んでいる状
態」を心の中に持ち続けられるように相手が自分の言葉でかたまりをつくるのをサポートする
のである。
⑤要望を聞く
コーチングをはじめたばかりの新米経営指導員が犯してしまうミスの一つがすべての受診者
に対して同じスタイルのコーチングを強要してしまうことである。
もちろんコーチの役割は受診者の目標達成にある。しかし、目標達成に向けてどのようなサ
ポートを必要としているかは受診者それぞれ異なっており、受診者のそのときの状態によって
も変わってくる。
ただ励まして欲しいときもあれば、鋭く突っ込んで欲しいときもあるし、笑い話で盛り上が
りたいときもあるのである。経験を積めばコーチの側で受診者が何を欲しているかだいたいは
察知することができるようになるが、それでも迷うときは多い。
受診者のためとの思いこみで相手を苦しくさせてしまうことをなくすためにも、受診者の要
望を聞くことが大切になってくるのである。
⑥安心感で人を動かす
経営指導員の役割には「安心感で人を動かす」というものがある。それはアメやムチで相手
を動機づけるのではなく、安心感をお互いの関係の中につくりだし、それを相手が行動を起こ
すための土壌とするのである。
相手に安心感を与える非常に強力な方法として「同じ言葉を繰り返す」方法がある。語尾だ
けを繰り返してもよいし、あるいは「そうだね」などの文で置き換えても構わない。
「同じ言葉を繰り返す」ことは相手の意見に賛成するということではなく、相手が今そういう
状態にあることを認めるということである。
したがって逆に同じ言葉が繰り返されないのが長く続くと、人は自分の在り方に対して漠然
とした不安を持つようになるのである。
⑦夢に気づかせる
夢はその人の中にすでに存在しているとコーチは考える。外側のどこかに転がっているわけ
ではなく、誰でも今この瞬間、夢を見ることができるとコーチは信じる。
しかし往々にしてその内側の夢にはたくさんの膜や霧が覆い被さっていて、それをはっきり
と鮮明に見ることができない。膜や霧の向こう側に横たわる夢へのアクセスを可能にする、そ
れが経営指導員の役割である。
「視点を変えること」
、それが夢への道を開く経営指導員のアプローチである。たとえば上か
らではそれが見えないとしても、横に移動したり、下に回ったりしてみれば、その姿を確認す
ることができるかもしれない。あるいはその対象から遠ざかってみることで、全体像をより鮮
明に見ることができるかもしれない。これらの視点を移動させるために、経営指導員は「質問」
をクリエイトしていく。相手の視点を変え、それまでは姿をとらえることのできなかった夢を
垣間見させ、夢のかけらを拾い上げさせる。
さらにその夢の全貌が鮮明に見てとれるように、相手にその夢について多く語らせ、相手が
夢についての思いをどんどん深め、そこに多くの可能性を見いだし、心の底からそれを手にし
たいと思うまで、話をさせるのである。
相手の夢の中に心からの興味と関心を持って入っていく。こうして夢のかけらが意識の底に
沈んでしまうことのない、大きな大きな一枚の絵へと変えていくのである。
⑧目標について語る
かつて日本全体が右肩上がりで頑張ればなんとかなると思えた時代は過ぎ去った。したがっ
て、目標を達成したらそれはどんな「いいこと」を自分にもたらしてくれるのかということも
含めて、目標について多くのことを受診者と話す必要がある。その結果、始めて目標というも
のに意識が集中し「やってみようか」と思うのである。
経営指導員として考えられ得る数多くの目標にまつわる質問をつくりだし、受診者と目標に
ついて話すことは意義があると考えられる。
⑨理由を伝える
大企業、官僚、警察など、かつて「権威」とあがめられた集団がその弱さをもろくも露呈す
る現在、上からの指示に盲目的に従うことはナンセンスであるという意識は強まっている。
説明の付与されない、上司という立場だけの指示はまったく従うに値しないというわけであ
る。一昔前であれば「理由なんか考えずまずやってみろ」で通っていたところを、今は「なぜ
それをする必要があるのか」
「それをするとどんな利益がもたらされるのか」を明確に伝える必
要がある。
⑩価値を見つける
人はそれぞれ無意識のうちに「価値」を置いている行動や状態がある。目標達成のための行
動はできるだけその人が価値を置いているもの、いい換えれば自然に楽しんでやれるような行
動であることが望ましい。無理なく続けることができるからである。価値に合わないような行
動を目標達成の手段として選ぶと、継続が大変になってしまう。
経営指導員はコーチングする相手の価値に目を向けてそれを知る必要がある。
⑪ノーといえる自由のある提案をする
本来提案は、イエスというかノーというかの選択を相手に完全に委ねてはじめて成立するも
のである。ところが会社でも学校でも、上位にいる人が下にいる人に向かって、本当の意味で
の提案をする姿はあまり見かけない。
形態は提案であるが、ほとんど「命令」や「おせっかい」の場合が多い。命令やおせっかい
は、どうしても、
「やらされている」というところに相手を導いてしまう。
「イエスでもノーで
もいい、判断はおまえに任せた」というトーンで語られたとき、初めて相手はその問いかけを
「提案」として受け入れることができる。
⑫フォローする
子どもを育てることから始まって、人の育成に従事する者なら誰しも、自分の与えた言葉の
影響が永久に続くことを願う。しかしそれは現実にはとてもむずかしい。したがって経営指導
員はフォローしなければならない。相手を一瞬盛り上げて終わるのではなく、相手が確実に行
動を起こすまでフォローを行う必要がある。
まず、相手がとるべき行動を決定したら、数日後にその行動をとってどうなったか教えてほ
しいと伝えておく。次に、実際何日かしたら、相手とコンタクトをとり、進捗状況を確かめる
のである。もし行動が起きなかったのであれば、なにが妨げとなったのかをはっきりさせなけ
ればならない。
続いて、新たな行動を相手の主導で選択し、その行動へと向かわせる。そして何日か後に再
び相手の状況を確認する。
簡単なようであるが、これを繰り返すことで相手は経営指導員が自分の成長を確かにサポー
トしてくれている、
自分を大切にしてくれていると思う。
経営指導員が単なる起爆剤ではなく、
真の伴走者となる瞬間なのである。
⑬エネルギーを補充させる
車が走るためにはガソリンが必要なように、
人が行動するためにはエネルギーが必要である。
行動することばかりに躍起になってエネルギーの補充を怠ると、ガス欠になって思いがけない
トラブルが発生することもある。
経営指導員は車を走らせるときガソリンの残量をこまめにチェックするように、その人のエ
ネルギーの充実度に絶えず意識を向けていく必要がある。
第Ⅲ章 支援制度、支援先
<第Ⅲ章のポイント>
中小企業は、機動性・柔軟性・創造性を発揮するわが国ダイナミズムの源泉と位置づけられ
ている。この中小企業が、厳しい経営環境を克服し、活力ある成長発展が遂げられるよう、国
は、企業の成長段階や経営課題に応じた施策を講じている。
中小企業への支援策は、相談・助言から融資・税制まで横断的な支援がなされているが、本
章では支援制度を体系別に示すとともに、代表的な制度を説明した。またあわせて、滋賀県の
支援制度と支援先を載せた。なお、制度の統合が予定されているもの、制度の終了が確定して
いるものの代替制度が見込まれるものについては、現制度を示した。
1.支援制度の体系
新しい中小企業基本法では、中小企業政策の目標を「大企業との格差の是正」から「独立し
た中小企業の多様で活力ある成長・発展」に転換した。また、中小企業政策の理念は「多様で
活力ある独立した中小企業の育成・発掘」であるとした。
2.中小企業の経営の革新・創業の促進
中小企業の成長を保証する経営革新に向けての支援、また起業・創業を目指す方々への積極
的な支援策が今後の中小企業政策の柱である。創造法・経営革新支援法・開業支援融資がこれ
らの中心となっている。
3.経営基盤の強化
中小企業の資金・人材・技術・情報等経営資源の面での確保強化が、中小企業基本法の基盤
的な施策である。経営基盤の強化のための、①経営資源の確保、②交流・連携、共同化の推進
、③産業・商業集積の活性化等の支援策がある。
4.セーフティネットの整備
今日的課題である経済環境の急激な変化による影響を緩和するため、経営の安定化を図るセ
ーフティネットである支援策が重視されている。
5.資金供給の円滑化・自己資本の充実
やる気と能力のある中小企業者の破綻を回避する支援策とあわせて、事業の再生、新分野進
出等を支援するため金融面を中心とした支援策が用意されている。
6.小規模企業対策
経営資源の確保が比較的困難な小規模企業者の経営の改善・発展のため、商工会等による支
援、マル経制度、設備資金制度についての支援策が展開されている。
7.雇用関係の支援
雇用関係の支援制度系を整理して経営指導員の利便性を図った。
8.県内の支援体系
滋賀県の支援体系を整理して経営指導員の利便性を図った。
9.支援策と照会先
中小企業への支援先と、その照会先を載せた。
1.支援制度の体系
(1)中小企業施策の転換
昭和38年に制定された中小企業基本法が、平成11年12月に抜本的に改正された。旧法
は、その制定された経済的背景である「経済の二重構造」をふまえて、非近代的な中小企業構
造を克服するという「生産性などの諸格差の是正」を政策目標としてきた。また、政策体系も
スケールメリットの追求(中小企業構造の高度化)を中心とし、さらに事業活動の不利の補正
などを主な内容としてきた。
新法では、21世紀に期待される中小企業像を、機動性、柔軟性、創造性を発揮する、「わ
が国のダイナミズムの源泉」と位置づけた。また、中小企業政策の理念として「多様で活力あ
る独立した中小企業の育成・発展」が示され、中小企業が厳しい経営環境を克服し、活力ある
成長発展が遂げられるよう、企業の成長段階や経営課題に応じた中小企業施策を講じている。
このような政策理念の転換に基づき、新法では、「経営の革新・創業の促進」が最重要課題
として位置づけられ、規模拡大の追求などの施策を一律に講ずるのでなく、その多様性を前提
に再構築を図るべきとしている。
具体的には、資金、人材、技術、情報等の経営資源の面での支援を基盤的な施策とし、これ
に経営の革新・創業の促進等の前向きな事業活動を行う者への支援と経済的社会的環境変化へ
の適応を重点課題としている。
(2)中小企業施策の体系
国が現在実施している中小企業施策の全体を経営の革新・創業の促進、経営基盤の強化、経
済的社会的環境変化への適応の円滑化、資金供給の円滑化、自己資本の充実、小規模企業対策
に分け、その関連する施策を体系としてまとめると次のようになる。
中小企業基本法における中小企業施策の体系
経営の革新・創業の促進
(第12条~第24条)
○経営革新の促進 (第12条)
○創業の促進 (第13条)
○創造的事業活動の促進 (第14条)
経営基盤の強化
(第15条~第21条)
○経営資源の確保 (第15条)
○交流・連携・共同化の推進 (第16条)
○産業集積の活性化 (第17条 )
○商業集積の活性化 (第18条)
中小企業施策の体系
○労働に関する施策 (第19条)
○取引の適正化 (第20条)
○国等からの受注機会の増大 (第21条 )
経済的社会的環境変化への適応の円滑化
(第22条)
○経営の安定、事業の転換の円滑化
○共済制度の整備、倒産法制の整備(セーフティネットの整備)
資金供給の円滑化・自己資本の充実
(第23条・第24条)
○資金供給の円滑化 (第23条)
○自己資本の充実 (第24条 )
小規模企業対策
(第8条)
(3)中小企業の定義、小規模企業者の定義
中小企業の定義は、基本的な政策対象の範囲を定めた原則であって、中小企業基本法に定め
られている。一方、小規模企業者の定義は旧法と変わっていない。
中小企業の定義(範囲)
業 種 別
資本金または従業員数
製造業・建設業・運輸業等
3億円以下または 300人以下
卸売業
1億円以下または100人以下
小売業
5千万円以下または50人以下
サービス業
5千万円以下または100人以下
小規模企業者の定義
製造業その他
従業員20人以下
商業・サービス業
従業員5人以下
2.中小企業の経営の革新・創業の促進
中小企業の強みを活かし、創意工夫により中小企業の成長、経営革新に向けての取り組みや
創業への自主的な努力を積極的に支援する施策を講じている。また、個人の創業および中小企
業による新事業展開を促進するため、創業等に必要な資金の円滑な供給、人材育成の充実支援
等の施策を講じている。
経営の革新・創業の促進
経営革新に対する法的支援
・中小企業創造活動促進法(創造法) 2(1),3(1)⑤,8
・中小企業経営革新支援法(経営革新計画) 2(2),3(1)⑤,8
創業への資金供給の円滑化
・新創業融資制度
・新規開業支援資金
2(3),2(3)①,8
2(3)②,8
・女性起業家高齢者起業家支援資金
・女性起業家高齢者起業家貸付
・新事業育成資金
2(3)③,8
2(3)④,8
2(3)⑤,8
・起業挑戦支援無担保無保証貸出制度
2(3)⑥,8
(1)中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法(創造法)による支援
①概要:創業や研究開発・事業化を通じて、新たな事業分野の開拓を行おうとする中小企業を
支援するものである。県知事の認定を受けた研究開発等事業計画にしたがって事業を行う中小
企業者等に対して、補助金、融資、税制等の措置が講じられる。
②支援対象:製造業、印刷業、ソフトウエア業、情報処理サービス業に属する創業5年未満の
者、売上高に対する試験研究費の割合が3%を超える者、または、3%を超える創業5年未満
の者、5%を超える創業10年未満の者(いずれも特定中小企業者という)、あるいは著しい新
規性を有する技術・ノウハウの研究開発およびその成果の事業化を行う中小企業者等(これから
創業する者を含む)。
③支援措置:1)中小企業金融公庫等による融資制度-事業に必要な設備資金・運転資金を融資
する、2)高度化融資制度-中小企業組合が施設の共同化を行う場合に長期低利融資を行う、3)
信用補完-事業に必要な資金について、保証限度額の別枠化や担保・第三者保証人が不要な特
別枠などの措置が講じられる、4)税制-試験研究関連税制(特別償却、税額控除、圧縮記帳)、
設備投資減税、欠損金の繰越期間の延長などの特例措置を講ずる、5)地域活性化創造技術研究
開発費補助金-事業に必要な原材料、機械装置・工具器具等の購入、試作・改良、技術指導受
入等に要する経費の一部について県が補助する。
(2)中小企業経営革新支援法(経営革新計画)による支援
①概要:経済的環境の変化に即応して、
中小企業者等が行おうとする、
経営革新に関する計画(経
営革新計画)を作成し、県知事の承認を受け、その計画にしたがって事業を実施する場合、補助
金、融資、税制措置などの支援を講じる。承認の対象となる計画内容は、新商品の開発または
生産、新役務の開発または提供、商品の新たな生産または販売の方式の導入、役務の新たな提
供の方式の導入その他の新たな事業活動であり、個々の中小企業者にとって「新たなもの」で
あれば、他社で採用されている技術・方式を活用する場合でも原則経営革新計画の承認対象と
なる。さらに、計画の数値目標は、企業全体の付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)、
または企業全体の従業員一人当たりの付加価値額が、3年計画なら9%以上、4年計画なら1
2%以上、5年計画なら15%以上の目標を立てる必要がある。
②支援対象:中小企業者単独だけでなく、異業種交流グループ、組合など多様な形態も対象と
なる。
③支援措置:1)中小企業金融公庫による融資制度-事業に必要な設備資金・運転資金等に対し
て、低利の中小企業経営革新等支援貸付等を行う、2)高度化融資制度-承認を受けた中小企業
組合等が、工場の集団化、施設の共同化等を行うときに長期低利融資を行う、3)信用補完-必
要な資金について、保証限度額の別枠化(付保限度額の2倍)や保険料率の引き下げ等の特例措
置を行う、4)税制-事業開始時の設備投資に要する負担の軽減を図るため、設備投資減税、試
験研究費賦課金の任意償却等試験研究関連税制、欠損金の繰戻還付等の特例措置を行う、5)中
小企業投資育成株式会社の特例-事業を行うために必要な資金調達を図る場合、中小企業投資
育成株式会社の事業の対象となる、6)特許関係料金減免制度-技術開発による経営革新計画の
承認を受けた場合は、その事業により生じた特許の審査請求料と第1~3年分の特許料につい
て2分の1の減免措置を行う、7)雇用対策臨時特例法-45歳以上の労働者を新たに受け入れ
る場合、また職業訓練を受けさせる場合に、中小企業基盤人材確保助成金、中小企業雇用創出
等能力開発助成金の支援を行う。
(3)創業への資金供給の円滑化
①新創業融資制度
1)概要-創業者にとって障害となる資金調達を円滑にするため、ビジネスプランの的確性を審
査することにより無担保・無保証人で迅速な融資を行うもの、2)貸付対象者-雇用創出をとも
なう事業や、技術やサービスに工夫を加えて、多様なニーズに対応する事業が始められる者で、
的確なビジネスプランを有している者、3)貸付限度額-750万円、4)貸付期間-設備投資7
年以内、運転資金5年以内(据置期間はいずれも6か月以内)、5)貸付金利-基準金利に1.2%
を加算、6)担保等-無担保・無保証人、7)自己資金要件-1期目の税務申告を終えていない場
合には、開業資金総額の2分の1が自己資本であることが確認できること
②新規開業支援資金(一般創業向け融資)
1)概要-これから創業する者や創業5年以内の者に対し、開業に必要な設備資金と運転資金の
融資を行うもの、2)貸付対象者-新規開業者で継続勤務年数等一定の要件を満たす者、開業後
5年以内の者、3)貸付限度額-7,200万円以内(運転資金は4,800万円以内)、4)貸付期間
-設備資金15年以内、運転資金7年以内、5)貸付金利-普通貸付の利率を下回る基準で設定、
6)担保・保証人-保証人、担保または信用保証協会の保証が必要
③女性起業家・高齢者起業家支援資金
1)概要-これから創業する者および創業5年以内の女性または高齢者に対し、開業に必要な設
備資金と運転資金の融資を行うもの、2)貸付対象者-女性または高齢者(55歳以上)で、新た
に事業を始めるか、または新規開業して概ね5年以内の者、3)貸付限度額-7,200万円(う
ち運転資金4,800万円)、4)貸付期間-設備資金15年以内、運転資金7年以内、5)貸付金
利-普通貸付の利率を下回る水準で設定、6)担保・保証人-保証人、担保または信用保証協会
の保証が必要
④女性起業家、高齢者起業家貸付
1)概要-これから創業する者および創業5年以内の女性または高齢者に対し、開業に必要な設
備資金と運転資金の融資を行うもの、2)貸付対象者-女性または高齢者(55歳以上)で、新規
開業しておおむね5年以内の者、3)貸付限度額-7億2,000万円(うち運転資金2億5,00
0万円)、4)貸付期間-設備資金15年以内、運転資金7年以内、5)貸付金利-一般貸付の利率
を下回る基準で設定、6)担保微求の免除-担保が不足する場合は、担保微求の一部免除が受け
られる場合がある
⑤新事業育成資金
1)概要-新たな事業を開始して7年以内の中小企業者を対象に、新しい技術の活用、特色ある
財・サービスの提供など、高い成長性が見込める事業に融資するもの、2)貸付対象者-高い成
長性が見込める新たな事業を行う一定の要件を満たす中小企業者、
3)貸付限度額-6億円(うち
新株予約権付社債は1億2,000万円)、4)貸付期間-設備資金15年以内(うち据置期間5年
以内)、運転資金7年以内(うち据置期間2年以内)、5)貸付金利-一般貸付の利率を下回る基準
で設定、6)担保微求の免除-担保が不足する場合は、担保微求の一部免除が受けられる場合が
ある、7)新株予約権付社債の引受-限度額1億2,000万円(ただし、本融資における貸付と
合わせ6億円以内)償還期間7年以内、担保条件無担保
⑥起業挑戦支援無担保無保証貸出制度(組合に所属する創業者向け融資)
1)概要-創業7年以内の中小企業者に対し、独創的なアイデアによるなど新たな事業であれば
無担保無保証で融資するもの、2)貸付対象者-新規性を認められる事業を行う中小企業者、
3)貸付限度額-3,000万円、4)貸付期間-5年以内(据置期間6か月以内)、5)貸付金利-商
工組合中央金庫所定の利率、6)担保要件-無担保、無保証人
(4)中小企業新事業活動促進法(仮称)
2005年度の経済産業省の施策の柱は「挑戦する中小企業への支援」「産業人材育成」「中
小金融の円滑化」「地域経済再生」である。なかでも、中小企業経営革新支援法、中小創造法、
新事業創出促進法を一本化する新法「中小企業新事業活動促進法(仮称)」の制定がすすめられ
ている。
技術や製品などに強みを持つ中小企業同士が相互補完して、付加価値の高い商品やサービス
の創出を目指す新連携支援は、新法の中心となる期待の新規施策である。新分野に挑戦する企
業支援策として、商工会・商工会議所などの経営指導員が中小企業に対してビジネスプラン策
定やマーケティングをサポートし、創業や経営革新につなげるシニアアドバイザー事業が新た
に始められる。これには経営指導員のスキルアップを図る狙いもあるとされている。
3.経営基盤の強化(経営資源の充実)
地域経済において大きな役割を果たしている中小企業は、経営環境の変化に適応しながら、
発展を持続していくことが求められている。一方、近年、市場ニーズの把握、商品企画、販路
開拓、情報化対応など、中小企業をとりまく経営課題がますます高度化・多様化しており、こ
のため、時代のニーズに対応した的確な支援施策を講じることにより、中小企業における経営
基盤の安定と強化を図っていくことが課題となっている。経営資源の確保、また、中小企業の
経営基盤の強化を図るため、①経営資源の確保、②交流・連携・共同化の推進、③産業集積の
活性化、④商業集積の活性化、⑤労働に関する施策、⑥取引の適正化、⑦国等からの受注機会
の増大、などの施策を講じることとしている。
経営基盤の強化
経営資源の確保
・地域中小企業支援センター
3(1)①,8
・中核的支援機関・プラットホーム
・人材育成
3(1)②,8
3(1)③,8
技術基盤の強化
・中小企業技術革新制度(SBIR) 3(1)④1),3(1)⑤c,8
・中小企業技術基盤強化推進事業
特許に関する支援
3(1)④2),8
3(1)⑤,8
中小企業国際化対策
・中小企業海外展開支援
3(1)⑦1),8
・中小企業情報提供事業
3(1)⑦4),
・現地日系中小企業者に対する支援
・中小企業海外展開輸出支援事業
3(1)⑦3),8
3(1)⑦4),8
交流・連携・共同化の推進
・中小企業組合制度
3(2)①,8
・中小企業連携組織の推進に対する助成
・高度化事業
3(2)7),8
地域産業集積活性化法による支援
中心市街地活性化法による支援
雇用の安定・促進
取引の適正化
3(2)6),8
3(3),8
3(5),8
3(6),8
3(7)
国等からの受注機会の増大
3(8)
(1)経営資源の確保
中小企業の多様な課題に対して、専門的な解決策を提供するため、地域中小企業支援センタ
ー、滋賀県産業支援プラザ、中小企業・ベンチャー総合支援センター(全国8か所)の3つのタ
イプの中小企業支援センターを中心とする支援体制を整備し、中小企業者のあらゆる相談に応
じるワンストップ・サービス型の支援を行っている。
①地域中小企業支援センターによる支援
創業予定者や経営革新等の経営課題を有する地域の中小企業者等が、気軽に相談できる身近
な支援拠点として、各中小企業支援機関等との連携・役割分担を図りながら、県内7か所に「地
域中小企業支援センター」を開設し、中小企業者の相談にきめ細やかに対応している。同セン
ターでは、主に次のような事業を行っている。
1)窓口相談、2)弁護士等専門家による相談、3)専門家の派遣、4)情報の収集・提供
5)講習会等の開催
②(財)滋賀県産業支援プラザによる支援
滋賀県産業支援プラザは、創業予定者やベンチャー等、中小企業の人材、技術、情報等の不
足する経営資源の確保を支援するため、滋賀県から指定・設置されている。プラザには、民間
ベンチャーキャピタル等の経験・起業経験等を有するプロジェクトマネージャーや、マーケテ
ィング、財務、技術に関する知識・経験を有するサブマネージャーを配置し、資金面・技術面・
人材面での総合的な支援を、他の中小企業支援機関と連携を図りながら行っている。プラザで
は、主に次のような事業を行っている。
1)支援体制整備(経営情報、経営革新、創業支援、設備導入、貿易投資)、2)窓口相談・専門家
派遣、3)事業可能性評価、4)人材育成、(7参照)
③人材育成
中小企業が経営環境の変化に的確に対応し、経営の安定、事業の革新、新分野の進出等を図
るためには、人材の養成による経営力、技術力の向上が重要である。このため、雇用・能力開
発機構滋賀センターなどにおいて、人材育成研修等が行われている。
1)雇用・能力開発機構滋賀センターによる能力開発
中小企業の人材確保、雇用の安定に向け、「ものづくり」などの分野ではポリテクセンター、
ポリテクカレッジで、また、雇用情勢の変化に対応した離転職者に対しては職業訓練を実施し
ている。また、認定職業訓練に対する補助制度、人材高度化支援事業、キャリア形成促進のた
めの助成を行っている。
2)IT技術の習得支援
滋賀県産業支援プラザ、滋賀県中小企業団体中央会、商工会議所、商工会などで、中小・小
規模事業者を対象に、ホームページの作成、電子取引の実施方法など企業経営に有用なIT活
用に関する研修・セミナーを実施している。また、中小企業基盤整備機構ではIT導入を進め
ようとする中小企業者の依頼に応じて、IT導入に関する専門家を直接派遣し、中小企業経営
者をサポートしている。
3)滋賀県工業技術総合センターによる技術普及と技術教育
センターでは、ISO関連講座や知的財産権講座など技術普及・技術研修を目的に、広範囲
で連続的なセミナーを実施し、技術分野での人材育成を図っている。
4)中小企業大学校による研修
中小企業大学校において、中小企業者に対する財務・経営戦略等のテーマ別研修、中小企業
診断士、また、行政等の中小企業支援担当者に対する研修等、高度で専門的な各種研修を行っ
ている。
④技術基盤の強化
1)中小企業技術革新制度(SBIR)による支援
新事業創出促進法に基づき、技術開発力を有する中小企業を活性化し、独自性を有する事業
活動を促進することにより、新規産業・雇用創出を強力に進めるため、関係省庁が連携し、新
産業の創出につながる新技術の開発のための補助金・委託費等について、中小企業者への支出
の機会の増大を図るとともに、その研究開発成果の事業化までを一貫して支援する。
具体的には、国が毎年度、中小企業者への研究開発委託費・補助金等(特定補助金等)の支出
の機会の増大を図るために、その中小企業向けの支出目標を設定し、各省庁が研究テーマを中
小企業に提示、中小企業の研究開発の取り組みに対して重点的に特定補助金が交付される。合
わせて、特許料等の軽減措置、中小企業信用保険法の特例措置、中小企業投資育成株式会社の
投資対象についての特例措置、中小企業金融公庫の革新技術利用事業支援資金の貸付を受けら
れる。
2)中小企業技術基盤強化推進事業
ものづくりにかかわる熟練技能者が保有する高度な技能の客観化・マニュアル化・デジタル
化の促進、CAD/CAM/CAEの統合に向けた共通フレームワーク(プラットフォーム)
の構築により、中小製造業におけるIT化(デジタルマイスタープロジェクト)を推進し、産業
競争力の強化を支援している。
⑤特許に関する支援
1)特許利用促進事業
特許庁が保有する産業財産権情報について、インターネット上の特許電子図書館(IPDL)
において無償で提供し、中小企業、ベンチャー企業、大学等における産業財産権情報の利用を
通じた研究開発活動の活性化を図っている。また、特許電子図書館の有効な活用促進を図るた
め、特許情報検索の専門家を滋賀県知的所有権センターに派遣している。
2)特許の活用による技術開発・事業化支援
・特許流通アドバイザーの派遣-企業、大学、公的研究機関等から中小企業等への特許を活用
した円滑な技術移転を促進するため、知的財産権や技術移転に関する知識・経験を有する特許
流通アドバイザーを県や技術移転機関(TLO)からの要請により派遣する。
・特許流通データベースの整備-大学、公的研究機関、既存企業等が保有する開放の意思のあ
る特許をデータベース化し、インターネット上に公開している。
・特許流通フェアの開催-保有する特許の提供を希望または導入を希望する企業、大学、試験
研究機関等が交流する特許流通フェアを全国で開催している。
・特許流通支援チャートの発行-中小企業が、異業種分野から技術導入を図るための参考にな
るように、技術テーマごとの特許情報に基づいて主要な企業とその特許を体系的に分析し、イ
ンターネット等により提供している。
3)研究開発型中小企業に対する特許料等の軽減
研究開発に取り組む中小企業者が特許を取得する際の、
審査請求料と特許料(第1年から第3
年)を2分の1に軽減する。対象となる出願は以下の通りである。
a.売上高に対する試験研究費などの比率が、3%を超える中小企業者が行う出願
b.創造法認定事業に係わる出願
c.中小企業技術革新制度(SBIR)の補助金等交付事業に係わる出願
d.中小企業経営革新支援法の承認計画で技術開発に関する研究開発事業に係わる出願
ただし b.~d.については計画または事業終了後2年以内の出願に限る。
⑥中小企業技術開発産学官連携促進事業
中小企業の活性化と新規産業の創出を促進し、ものづくりを支える地域の中小企業が抱える
技術的課題を解決するため、公設試験研究機関を中心とした産学官の連携の下に、地域におけ
る中小企業の技術開発力の向上を図り、技術開発成果の普及促進等を推進している。
また、企業がもつニーズと大学等がもつシーズをマッチングさせるコーディネート活動も行
っている。
⑦中小企業国際化対策
中小企業においても、国際的な視点をもった経営が必要となってきている。しかし、中小企
業が海外展開をおこなう場合、情報、資金、人材等の面が十分でないことから、海外展開に関
する指導、情報提供、人材育成の強化等による海外展開の円滑化のための環境整備について支
援している。
1)中小企業海外展開支援事業
中小企業基盤整備機構において、現地の投資環境、海外展開事例等を内容とするセミナーの
開催、情報誌の配布、豊富な海外事業活動の経験・ノウハウのある企業の職員等を中小企業国
際化アドバイザーとして登録・常駐させ、中小企業の依頼に応じて、実務的な情報、ノウハウ
の提供を行っている。
2)中小企業情報提供事業
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)において、中小企業の対外経済活動の円滑化のた
め、海外の経済、貿易動向、商品動向等に関する調査、資料収集等を行うとともに、中小企業
が新たな貿易取引や新ビジネスへの参入の際に必要な情報のデータベース化を図り、インター
ネット上で公開している。
3)現地日系中小企業者に対する支援
現地における現地進出日系中小企業の事業活動を支援するため、独立行政法人日本貿易振興
機構の海外事務所において、現地の法律事務所や会計事務所と契約し、中小企業事業活動アド
バイザーとして、現地の法務、税務、労務等の問題に関する定期的なセミナーの開催、個別相
談等の事業を行っている。
4)中小企業海外展開・輸出支援事業
独立行政法人日本貿易振興機構において、海外投資に関心をもつわが国中小企業メーカー等
を組織し、諸外国に投資促進ミッションを派遣している。また、中小企業の対外直接投資を促
進するため、国内において諸外国の投資促進機関等と協力し、パネルの展示、情報提供、投資
相談等を行うフェアの開催、中小企業海外投資支援専門家の派遣による投資・技術提携等に関
するアドバイス、セミナー・交流会の開催等を行っている。
(2)交流・連携・共同化の推進
中小企業が相互にその経営資源を補完することを目的に、中小企業者の連携の推進、中小企
業者の事業の共同化のための組織の整備、中小企業が共同して行う事業に対する支援措置を講
じている。
①中小企業組合制度
中小企業組合制度は、中小企業者等自身が組織化し、相互扶助の精神に基づき、協同して事
業に取り組むことによって、技術・情報・人材等不足する経営資源の相互補完を図るための組
織である。これまで、共同購入・共同販売等を通じてスケールメリットを発揮すること等によ
り、経営を合理化するための有効なツールとして機能している。
最近では、異業種の事業者が連携して、新事業開拓や研究開発等のソフト面での共同事業を
行う組合、SOHO事業者、女性・高齢者が集まり自ら働く場を設けるための組合、情報化、
電子商取引の推進者や環境リサイクル等循環型社会の構築、福祉、介護、物流効率化等の新た
な事業を行う組合等の設立が多く見られる。
国は、組合等中小企業組織連携に対し、各種の融資制度、税制の軽減措置、補助金等の支援
措置を講じている。
②事業協同組合-中小企業者が、新技術・新商品開発、新事業分野、市場開拓、共同生産・加
工・販売等の事業を共同で行うことにより、事業者の新事業展開、経営革新、経営効率化等を
図るための組合である。最近では、異業種連携による技術等の経営資源の相互補完により、新
事業展開を目指すものが増えている。中小企業等協同組合法に基づく組合。
③企業組合-独特の協同組合の形態で、
組合自体が1つの企業体として事業を行うものである。
組合員は自己の資本と労働力のすべてを投入し、原則として組合の事業に従事することが義務
づけられている。従来組合員は個人に限られていたが、法改正により、法人の参加も認められ
ている。中小企業等協同組合法に基づく組合。
④協業組合-中小企業者が、お互いの事業を統合(協業)し、事業規模を適正化することにより、
生産性の向上を図ることを目的にする組合である。中小企業団体の組織に関する法律に基づく
組合。
⑤商工組合-地区内(県段階)に1組合とされており、地区内の資格事業者の過半数が加入する
必要のある、業界を代表する同業組合的性格をもつ組合である。組合事業として、情報収集・
提供、指導教育、調査研究事業等の他、協同経済事業ができる。中小企業団体の組織に関する
法律に基づく組合。
⑥商店街振興組合-商店街が形成されている地域において、小売業・サービス業が中心に組織
化されているもので、設立に際しては組合地区の重複が禁止されている。組合事業として、ア
ーケード・街路灯などの環境整備事業や協同経済事業で、街づくりをねらいとしている。商店
街振興組合法に基づく組合。
⑦中小企業連携組織の推進に対する助成-滋賀県中小企業団体中央会は、
中小企業等協同組合、
協業組合,商工組合等の設立・管理・事業運営などの指導を行っている。また、組合等の中小企
業連携組織の求めに応じ、専門家を活用しつつ、抱えるさまざまな問題に対して、助言・講習
会を実施し、中小企業の連携の促進や、交流会、展示会、シンポジウム等の開催により、企業
間、連携組織同士等の相互交流、相互関係の形成を支援している。なお、組合等中小企業連携
組織が行う事業に対して、中央会を経由して、各種補助金が交付されるほか、金融面、税制面
においてもさまざまな特例措置が講じられている。
⑧高度化事業-個々の中小企業が単独では行えない経営体質の改善、環境変化への対応を図る
ための事業を協同して行う場合や、公共団体と中小企業が一体となって設立した第3セクター
や商工会等が、中小企業の経営基盤の強化を支援する場合に、中小企業基盤整備機構と県が協
力して行う資金・指導両面からの助成制度である。
・貸付割合-貸付対象設備の設備資金の80%以内
・償還期限・据置期間-償還期間は20年以内、据置期間は3年以内
・貸付金利-原則として有利子、法律に基づく認定を受けて行う場合は無利子
・円滑な実施を図るため、各種税制上の特例措置が講じられる
(3)地域産業集積活性化法による支援(産業集積の活性化)
①概要
わが国のものづくりの基盤であり、かつ地域経済の担い手である基盤的技術産業が集積する
地域で、事業間連携といった集積のメリットを活用して、新たに事業展開をする事業者を支援
することを目的としている。
主務大臣(経済産業大臣、国土交通大臣)が活性化指針を策定し、これに基づいて県が活性化
計画(基盤的技術産業集積活性化計画または特定中小企業集積活性化計画)を作成し、大臣の同
意を受ける。中小企業者等は、同意された高度化計画または高度化円滑化計画を、特定中小企
業集積では進出計画または進出円滑化計画を作成し、県知事の承認を受ける。
②支援対象
(基盤的技術産業集積)基盤的技術産業に属する事業を行う者、商工組合、事業協同組合 (特
定中小企業集積)「産地」などの中小企業集積、商工組合、事業協同組合
③支援措置
1)計画に基づき技術の高度化、新分野開拓等の事業を実施するために必要な資金の調達を容易
にするため、中小企業投資育成株式会社法、中小企業信用保険法の特例のほか、研究開発成果
の利用に係わる事業化を協業組合として実施することができるよう中小企業団体の組織に関す
る法律の特例等が図られる。
2)県、公益法人が設置する創造基盤施設(レンタル・ファクトリー等)に対する補助
3)県が行う集積地域活性化のための計画策定・各種調査等に対する補助
4)県知事から承認を受けた「進出計画」「高度化等計画」等に基づき実施する中小企業等が行
う研究開発・商品開発・事業化調査・販路開拓等の事業に対する補助
5)滋賀県工業技術総合センター等の支援機関が行う人材育成、共同研究支援等の事業に対する
補助
6)機械・装置取得費用に係わる税額控除・特別償却を認める設備投資減税等の税制のほか、中
小企業金融公庫等政府系中小企業金融機関による設備資金および長期運転資金の融資(地域産
業集積活性化資金貸付)制度等の支援措置が講じられる。
(4)地場産業への支援
地域産業が需要構造の変化、事業再構築の進展等により影響を受けていることから、地場産
業等活力強化補助金等の支援を行っている
①地場産品等・高付加価値化支援事業
公益法人、組合等が地場産業の活性化を図るために行う、地場産業の新商品・高付加価値化
商品の開発等の事業に対して補助する。
②地場産品等販路開拓支援事業
中小企業者または組合等が行う、地場産品の販路開拓に役立つ国内および海外での展示会・
見本市の開催、市場調査等の事業の実施に対して補助する。
③地場産業人材育成等支援事業
中小企業、組合、グループ等が行う、人材育成・確保に役立つ研究会、交流会、講習会等の
事業に対して補助する。
(5)中心市街地活性化法による支援(商業集積の活性化)
①概要
中心市街地の空洞化が深刻化し、中小小売商業等は厳しい状況に置かれている。このため国
は、空洞化が進行している中心市街地を活性化するため、「中心市街地における市街地の整備
改善および商業等の活性化の一体的推進に関する法律」を制定し、関係省庁、地方公共団体、
民間事業者等が連携して、地域の創意工夫を活かしつつ、市街地の整備改善と商業等の活性化
を柱とする総合的・一体的な支援を行うものである。
主務大臣が「基本指針」を定め、市町村がこの指針に基づき区域内の中心市街地について、
市街地の整備および商業等の活性化の一体的推進に関する基本計画を作成する。市町村の基本
計画に則して中小小売商業の高度化を推進する機関(タウン・マネージメント機関=TMO)、
民間事業者等が作成する商店街整備・中核的商業施設整備等に関する事業計画を国が認定する。
これら事業計画に基づくハード整備、商店街の活性化に向けたソフト事業に対し、各種の支援
策が講じられる。
②支援対象
TMO(商工会、商工会議所、第3セクター、公益法人)、商店街振興組合
③支援措置
1)計画策定に関する調査研究に必要な経費を補助、
2)総合的に企画運営できる人材の育成(中小
企業大学校での研修等)、3)関係分野の専門家をアドバイザーとしてTMO等に派遣、4)中心市
街地において、TMO、商店街振興組合、市町村等が中心市街地活性化法や中小小売商業振興
法の認定を受けた事業計画等に基づき、
商業施設や商業基盤施設(教養文化施設、
スポーツ施設、
アーケード、カラー舗装、公園、駐車場等)の整備に必要な事業資金を補助(中心市街地等中小
商業活性化施設整備事業)、5)TMO、商店街振興組合等が計画に基づき商業集積の機能を高め
る施設(ファサード整備、テナントミックス店舗、電子計算機や関連機器設備等)の整備に必要
な事業資金について補助(中小商業活性化総合補助事業)、6)地方自治体や第3セクターが行う
商業・サービス業集積関連施設(駐車場、多目的ホール、街路整備等)の整備に必要な事業資金
を補助(商業・サービス業集積関連施設整備費補助金)
(6)雇用の安定・促進
中小企業の労働力確保を図るため、「中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会
の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律」に基づき、雇用管理の改善に取り組む場
合、また、新分野進出等を目指す個別中小企業者に対する人材の確保・育成等の支援措置など
の施策が講じられている。
また、中小企業従業員、離転職者、新規学卒者、心身障害者等の職業能力の開発・向上を図
るため能力開発施設において、これらの者の職業訓練を行っている。
(7)取引の適正化
経済がグローバル化し、産業構造が空洞化する中で、大手メーカー等発注企業と下請中小企
業との取引関係も構造的な変化を見せている。とくに発注企業が、その地位を利用して下請中
小企業の利益を不当に侵害する行為は「下請代金支払遅延等防止法」によって厳しく禁止され
ている。
(8)国等からの受注機会の増大
官公需確保対策として、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」に基づ
き、「中小企業者に関する国等の契約の方針」を毎年閣議決定して、中小企業者の受注機会の
確保を図っている。
4.経済的社会的環境変化への適応の円滑化(セーフティネットの整備)
経済環境の急激な変化による影響を緩和し、事業者の変化への円滑な対応を促すため、脆弱
な中小企業に対するセーフティネットを整備して激変緩和を図っている。
セーフティネットの整備
経営安定化
・経営安定特別相談事業
4(1)①,8
・滋賀県中小企業再生支援協議会
・セーフティネット貸付
・経営安定関連保証
4(1)②,8
4(1)③,8
4(1)④,8
分野調整法による調整
・小売商業調整特別措置法
4(2)①,8
(1)経営安定対策
①経営安定特別相談事業
中小企業は経営の悪化などにより倒産寸前の事態に直面した場合、その処理能力が乏しいた
め、被害を深めて倒産することが多く見られることから、主要な商工会議所、滋賀県商工会連
合会等に経営安定特別相談室を設置し、中小企業の事前相談に応じる体制を整備し、倒産にと
もなう問題の円滑な解決を図っている。
②滋賀県中小企業再生支援協議会
中小企業再生支援協議会は、中小企業の再生を進めるために、産業活力再生特別措置法に基
づき、各都道府県に設置された組織で、多様性、地域性といった中小企業の特性を踏まえ、常
駐する専門家が再生に関する相談を受けつけ、助言や再生計画策定支援を行っている。
具体的には、過剰債務等により経営状況が悪化しているが財務や事業の見通しなどにより再
生が可能な中小企業者を対象に、常駐専門家が適切な対応策を提示し、必要に応じて中小企業
診断士、税理士、弁護士等の専門家に依頼して共同で再生計画の作成支援を行う。
③セーフティネット貸付
関連企業の倒産や、最近の経済環境の変化にともなう、一時的な業況悪化により資金繰りに
困難をきたしている中小企業者の経営安定を図るため、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫
および国民生活金融公庫による運転資金の貸付が行われる。
④経営安定関連保証(セーフティネット保証)
中小企業信用保険法に基づき、経済産業大臣に指定された再生手続開始申立等を行った企業
と取引のある中小企業者が、
売掛金債権の回収難等により経営の安定に支障を生じる場合など、
民間金融機関からの借入に対して、経営安定関連保証制度が利用できる。
(2)分野調整法による調整
中小企業以外の者の事業活動による中小企業者の利益の不当な侵害を防止し、経営の安定を
図るため、「中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法
律」に基づき、大企業者の事業活動の調整措置が講じられている。
①小売商業調整特別措置法による調整
小売商の事業活動の機会を適正に確保するとともに、小売商業の正常な秩序を阻害する要因
を除外して国民経済の健全な発展を図るため、「小売商業調整特別措置法」に基づき必要な措
置を講じている。
5.資金供給の円滑化・自己資本の充実
中小企業をめぐる金融経済情勢は依然として厳しいものがある。経済全体の動向、中小企業
の業況、ペイオフ解禁の地域金融情勢におよぼす影響等、金融経済情勢を注視し、セーフティ
ネットの整備に万全を期すとともに、中小企業の資金調達の多様化のため、資金供給手段の拡
大に努めている。
このため、政府系中小企業金融機関による制度融資機能の強化、信用補完事業の充実等が行
われている。
資金供給の円滑化・自己資本の充実
政府系中小企業金融機関
・中小企業金融公庫
5(1),8
・国民生活金融公庫
5(2),8
・商工組合中央金庫
5(3),8
信用保証協会
5(4),8
中小企業投資育成株式会社
5(5)
中小企業関連税制
・エンジェル税制
5(6)①
・中小企業投資促進税制
5(6)②
・中小企業基盤強化税制
5(6)③
・IT投資促進税制
5(6)④
・中小企業技術基盤強化税制
5(6)⑤
(1)中小企業金融公庫
中小企業金融公庫は、中小企業の成長・発展を促進するため、一般の民間金融機関から融資
が受けにくい設備投資や長期運転資金を中小企業に融資することを目的に、中小企業金融公庫
法に基づいて設立された全額政府出資の金融機関である。
①一般貸付
1)貸付限度-原則として設備資金4億8,000万円、長期運転資金2億4,000万円
2)貸付金利-設備・運転資金とも基準金利(設備投資については貸付期間によって変わる)
3)貸付期間-設備資金は原則10年以内、運転資金は原則5年以内
4)担保・保証人-原則として保証人、担保または信用保証協会の保証が必要
②特別貸付(経営革新等支援貸付など)
(2)国民生活金融公庫
国民生活金融公庫は、国民金融公庫と環境衛生金融公庫の統合により発足した政府全額出資
の金融機関で、民間金融機関から資金の融通を受けることが困難な中小企業に対して、必要な
小口の事業資金の貸付を行っている。
①普通貸付
1)貸付限度-貸付先当たり4,800万円以内、特定の設備資金は7,200万円以内
2)貸付金利-基準金利(貸付期間によって異なる)
3)貸付期間-設備資金は原則10年以内(特定の設備資金は20年以内、据置期間は年以内)、
運転資金は原則5年以内(うち据置期間は1年以内)
4)担保・保証人-原則的に保証人、担保または信用保証協会の保証が必要、平成15年1月か
ら、担保の提供や第三者の保証が困難な者に対して、家族などを保証人とする第三者保証人等
を不要とする融資も行っている。
②特別貸付(中小企業経営革新等支援貸付など)
(3)商工組合中央金庫
商工組合中央金庫は、商工組合中央金庫法に基づき、主として中小規模の事業者を構成員と
する中小企業等協同組合等に対する金融の円滑化を図ることを目的として、総合的な金融業務
を行っている。
貸付の原資は、政府と所属資格のある団体からの出資金、資金運用部からの借入のほか、商
工債券の発行や預金などである。
①普通貸付
1)貸付対象-商工組合中央金庫に出資している組合とその組合員に原則限定されている
2)貸付限度-原則として組合200億円以内、組合員20億円以内
3)貸付金利-貸付対象の組合・組合員の別および貸付期間等によって異なる
4)担保・保証人-原則的に必要
②特別貸付(中小企業経営革新等支援貸付など)
(4)信用補完制度(信用保証協会)
信用補完制度は、中小企業信用保険法に基づき、中小企業者が民間金融機関から資金を借り
入れる際に、信用保証協会がその借入債務の保証を行い、その保証を中小企業金融公庫が保険
契約に基づき保険に付するという仕組みである。債務者である中小企業者が返済不能になった
場合、信用保証協会がその中小企業者に代わって借入債務を返済(代位弁済)し、その後、中小
企業者は、その債務を信用保証協会に返済することになる。この場合、中小企業金融公庫から
信用保証協会に対して、
保険金が支払われる(平成16年7月から中小企業総合事業団から保険
部門の事業が中小企業金融公庫に移管)。
一般的な保証制度(融資利率は各金融機関所定)
対
保証の名称
保証限度額
保証料率
象
者
資金使途・
保証期間
県内で1年以上の営業経歴を有する中小企業者、組合など
担保・保証金
2億8千万円
有担保
おおむね
担保は必要に応じて、保証人は原則
一般保証
組合
1.25%
運転7年以内
1名以上(法人の場合は代表者以外に
手形割引保証
4億8千万円
無担保*
設備15年以内 1名以上)
1.35%
県内で1年以上同一事業を営む小規模事業者で、源泉徴収による所得税以外の所得税(
法人税)、事業税または、県民税もしくは市町村税の所得税のいずれかについて、保証申
込の月以前1年間において納期の到来した税額がある方で、かつ当該納税を完納してい
特別小口保証
る方
1,250万円
0.95%
原則
担保・保証金とも不要
運転3年以内
設備5年以内
県内で1年以上の営業経歴を有する中小企業者、組合など
商業手形割引
2億円
有担保
根保証
組合4億円
1.20%
無担保*
運転資金のみで 担保は必要に応じて、保証人は原則
1年以内
2名以上(法人の場合は代表者を含め
3名以上)
1.30%
・上記の保証については、申込額を含め保証残高が500万円以下の場合は保証料率を軽減する。
・*については、①過去の返済が順調な事業者については、0.05%を、表示料率より引き下げる。
②そのうち、貸出リスクの小さい事業者についてはさらに0.05%を、表示料率より引き下げる。
(5)中小企業投資育成株式会社
中小企業は証券市場を通じて資本を調達することが困難で、成長にしたがい資金需要が多額
になるにもかかわらず、資金調達に限界があることが多い。
このような中小企業の自己資本の充実と健全な成長発展を支援するため、中小企業に対する
投資等の事業を行うことを目的に、中小企業投資育成株式会社法に基づいて、東京、名古屋、
大阪に各1社の中小企業投資育成株式会社が設立されている。
事業内容は、①会社の設立に際して発行される株式の引受事業、②増資新株の引受事業、③
新株予約権の引受事業、④新株予約権付社債の引受事業、⑤投資先企業のコンサルテーション
事業等である。
(6)中小企業関連税制
中小企業者に対する税制対策は、個人事業者に対する措置(所得税ににおける基礎控除、配偶
者控除、青色申告特別控除等)や法人事業者に対する措置(法人税の軽減税率の適用、同族会社
における留保金課税の留保控除等)の他、特定の法律に基づく各種の特例措置が講じられてい
る。
①エンジェル(個人投資家)税制
一定要件を満たすベンチャー企業(設立10年以内の創業期にある中小企業)で、試験研究費
が売上高の3%以上であること(設立後5~10年以内の場合は5%以上)、未登録・未上場の
株式会社の株式を取得した個人投資家(エンジェル)が、その投資を行った結果生じた一定の株
式譲渡損について、その年の申告分離課税の他の株式譲渡益との通算が認められる。
②中小企業投資促進税制
機械設備等の近代化や合理化を促進することを目的とするもので、中小企業者等が機械設備
等を取得またはリースする場合に、その取得価額の30%の初年度における特別償却または
7%の税額控除の選択適用が認められる(リースの場合は、
リース費用の総額の60%相当額に
対して7%の初年度における税額控除)。資本金3,000万円を超える法人は特別償却のみ。
③中小企業等基盤強化税制
卸売業、小売業、サービス業の中小企業者、また中小企業経営革新支援法や中小企業創造活
動促進法などの適用を受けた特定の中小企業者が、機械・装置等を取得あるいはリースする場
合に、その取得価額の30%の初年度における特別償却または7%の税額控除の選択適用が認
められる(リースの場合は、
リース費用の総額の60%相当額に対して7%の初年度における税
額控除)。
④IT(情報通信機器等)投資促進税制
中小企業者等が一定のIT関連設備等を取得して、事業年度において、その取得価額の合計
額が600万円以上(個人事業者または資本金3億円以下の法人は設備が140万円以上、
ソフ
トウエアが70万円以上)の場合に、その取得価額の10%の税額控除または50%の初年度
における特別償却の選択適用が認められる。
⑤中小企業技術基盤強化税制
当期の所得に係わる税額の20%を限度として、中小企業者が支出した試験研究費の15%
相当の税額控除が認められる。
6.小規模企業対策
経営資源の確保が特に困難な小規模企業者の事情を踏まえ、小規模企業の経営の発達・改善
に努めるとともに、金融・税制等について、小規模企業の経営の状況に応じ、必要な施策を講
じている。
小規模企業対策
商工会による支援
6(1),8
小企業経営改善資金融資(マル経)制度
小規模企業設備資金制度
6(2),8
6(3),8
(1)商工会等による支援
県内の商工会、商工会議所等が、「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関す
る法律」に基づく経営改善普及事業の他、基盤施設事業(商工業に関する施設の設置・運営)、
商工業に関する調査研究、講習会・講演会・展示会等の開催、地域経済活性のための事業を行
っている。
(2)小企業等経営改善資金融資(マル経)制度
商工会・商工会議所の経営指導員による経営指導を原則6か月以上受けている小規模企業者
等に対する貸付制度で、小規模企業者等が設備資金または運転資金が必要な場合に、商工会等
の貸付の推薦、国民生活金融公庫の金融審査を経て貸付が受けられる。
①貸付対象-最近1年以上、同一の商工会等の地区内で事業を行い、経営指導員の経営指導を
原則6か月以上受けている小規模企業者等
②貸付限度額-設備・運転資金あわせて1,000万円
③貸付金利-普通貸付の利率を下回る基準を設定
④貸付期間-設備資金6年以内(運転資金4年以内)
⑤担保等-無担保・無保証人
(3)小規模企業設備資金制度
小規模企業者等設備導入資金助成法に基づき実施されているもので、滋賀県産業支援プラザ
が、創業および経営基盤の強化に必要な設備を導入する小規模企業者に対して、その設備資金
を無利子で貸し付けたり、担保に乏しい者には必要な設備を購入し、割賦販売またはリースす
るものである。
①貸付対象-創業者を含む小規模企業者等
②貸付対象設備-創業および経営基盤の強化に必要な設備
③償還期間-設備資金貸付事業および設備貸与事業とも原則7年以内(設備資金貸付の場合は
据置期間1年以内)
④貸付金利等-設備資金貸付は無利子。設備貸与事業の場合は、割賦損料等が必要
⑤貸付限度額-設備資金貸付事業、4,000万円(創業1年以上5年未満の者は6,000万
円)、所要資金の2分の1以内(産業活力再生特別措置法に基づく認定中小企業者については3
分の2以内の特例措置)。設備貸与事業は6,000万円(創業後1年未満の者は3,000万円)
7.雇用関係の支援
(1)地域雇用受皿事業特別奨励金
厳しい雇用情勢に加え、不良債権処理の加速化に伴う雇用面への影響も懸念され、雇用の場
の確保が重要な課題となっている。
このため、雇用の受皿として、新たに設立された法人が、再就職を希望する者を3人以上雇
い入れて、地域に貢献する事業(地域貢献事業)を実施した場合に、支援措置を講じる。
問い合わせ先
(財)産業雇用安定センター滋賀事務所
TEL.(077)527-9211
(2)中小企業基盤人材確保助成金
新たな事業に必要な基盤人材又は基盤人材の雇入れに伴い基盤人材以外の労働者(「一般労
働者」という)の賃金が対象となる。1年分の費用が対象となる。対象となる労働者は基盤人
材について1企業あたり5人を上限とし、一般労働者については、基盤人材の雇入れ数と同数
までを上限とする。基盤人材については一人当たり 140 万円、一般労働者については一人当た
り 30 万円が助成される。
問い合わせ先
雇用・能力開発機構滋賀センター 〒520-0047 大津市浜大津1-2-22
大津商中日生ビル5階
TEL.(077)525-9291 FAX.077-525-9294 http://www.ehdo.go.jp/shiga/
(3)中小企業雇用管理改善助成金
労働者の職場定着を図るために、労働者に対し職業に関する相談を行うための設備・施設の
設置・整備・配置のいずれかに該当する雇用管理改善事業を行おうとしていることと併せて労
働者の雇入れを考えている事業者に助成される。(→雇用・能力開発機構滋賀センター)
(4)中小企業人材確保推進事業助成金
認定された改善計画に基づき事業協同組合等が実施する改善事業を実施した場合、その実施
に要した費用の額の2/3が助成される。(→雇用・能力開発機構滋賀センター)
(5)中小企業労働力確保推進事業助成金
中小企業労働力確保法の認定を受けた改善計画〔経営管理者等の高度な人材の確保・育成を
図るための計画又は新分野進出(創業又は異業種進出)等に伴って実施することにより、良好
な雇用の機会の創出に資するための計画に限る〕に従って改善事業を実施する中小企業の改善
事業の円滑な実施に必要な、調査・分析、企業PR等の事業について、その経費の一部が助成
される。(→雇用・能力開発機構滋賀センター)
(6)中小企業雇用創出等能力開発助成金
年間職業能力開発計画に基づき従業員に職業訓練を受けさせる場合又は従業員に教育訓練を
受けるための職業能力開発休暇を与える場合の派遣費、運営費の1/2及び賃金の1/2を助成
される。(→雇用・能力開発機構滋賀センター)
(7)雇用調整助成金
業種を問わず、個々の事業主が経済上の理由により急激な事業活動の縮小を余儀なくされた
事業主が助成対象となる。助成内容は対象期間に行った休業等(休業・教育訓練)に助成、助
成期間は1年間で 100 日まで、助成額は休業手当相当額の1/2(中小企業2/3) (教育訓練
を行う場合+訓練費 1,200 円/人日)である。
問い合わせ先
大津公共職業安定所 520-0043 大津市中央4-6-52 TEL.(077)522-3773(代)
彦根公共職業安定所 522-0054彦根市西今町58-3 TEL.(077)0749-22-2500(代)
(8)キャリア形成促進助成金
企業内における労働者のキャリア形成の効果的な促進のため、
その雇用する労働者(雇用保険
の被保険者に限る)を対象として、目標が明確化された職業訓練の実施、職業能力開発休暇の付
与、長期教育訓練休暇制度の導入、職業能力評価の実施又はキャリア・コンサルティングの機
会の確保を行う事業主に対して助成される。(→雇用・能力開発機構滋賀センター)
8.県内の支援体系
創業・経営に関する相談
中核的支援機関・プラットホーム 3(1)②
窓口相談、専門家相談、専門家派遣、事業可能性評価委員会「めきき・しが」事業
地域中小企業支援センター
事業資金の調達
3(1)①
中小企業向け融資 Ⅴ章5
若手ベンチャー支援資金
投資制度
CLO(collaterralized loan obligation=ローン担保証券)の展開等
雇用・人材の充実
雇用の安定・促進
技術者研修
3(1)③、3(1)④、3(1)③5)
人材育成(職業訓練)
新技術・新商品開発強化
3(7)
3(1)③
創造的中小企業創出支援事業
2(1)
経営革新支援事業
2(2)
商品化・事業化可能性調査事業
具現化されずにいる商品プラン、事業プラン、研究成果に対して、商品化や事業化の
可能性について具体的な調査をすることにより、新事業創造の加速化を支援する
滋賀県健康福祉ビジネス産業化セッション事業
新たな健康福祉ビジネスに取り組む企業、団体、個人から様々なプランの提案を求め、
審査選定の上産業化に向けた活動について提案者に委託する(委託費50万円以上)
滋賀県健康福祉産業創出支援事業
健康福祉ビジネスに取り組む県内企業等から新たな財・サービスの提案を求め、審査
選定の上活動費の一部を助成する(5百万円<サービスは3百万円>~1千万円)
滋賀県提案公募型産学官新技術開発事業
産学官提携による新技術の研究開発の促進のため、県内理工系大学等の先端技術に関
する知的資源を利用し、事業化を目指す産学官共同研究体に研究開発を委託する
研究費は1件当たり4千万円以内、研究期間は最長3年で1年につき2千万円が限度
技術アドバイザー事業
県内企業の諸問題解決のため技術アドバイザーを派遣し適切なアドバイスを行う
地域中小企業知的財産戦略支援事業(予定)
特許情報の提供
2(2)6)
滋賀県工業技術総合センター技術開発室
レンタルラボ(研究スペースの賃貸)により企業の独自技術の育成支援を行う
販路の拡大
海外との取引支援(ジェトロ)
3(1)⑦
下請取引の斡旋
受注希望企業の設備や技術水準等を登録し、見合った発注企業を探し紹介する
(財)滋賀県産業支援プラザによる専門家派遣事業
事業の強化
ISO9000、14000認証取得支援
3
(社)滋賀経済産業協会の内部監査院養成講座、支援プラザのセミナー実施および相談
受付と専門家派遣により認証取得を支援する
経営革新ビジネスプラン作成講座
滋賀SOHO型ビジネス支援事業
滋賀県SOHOビジネスオフィス入居者に対する支援、県内事業者への情報提供など
9.照会先
1.(財)滋賀県産業支援プラザ<資金面・技術面・人材面での総合的な支援>
520-0806 大津市打出浜2-1 コラボしが21 ℡77-511-1418
2.滋賀県工業技術総合センター<中小企業が抱える技術的課題の解決>
520-3004 栗東市上砥山232 ℡077-558-1500
滋賀県東北部工業技術センター
526-0024 長浜市三ツ矢元町27-39
℡0749-62-1492
3.雇用・能力開発機構滋賀センター<雇用円滑化のための人材再教育>
520-0047 大津市浜大津1-2-22大津商中日生ビル ℡077-525-9291
ポリテクカレッジ滋賀 523-8510 近江八幡市古川町1414 ℡0748-31-2250
ポリテクセンター滋賀 520-0856 大津市光が丘町3-13 ℡077-537-1164
4.滋賀県中小企業団体中央会<事業の共同化など中小企業組合制度に対する総合的な支援>
520-0806 大津市打出浜2-1 コラボしが21 ℡077-511-1430
5.地域中小企業支援センター<経営課題を有する地域中小企業の支援拠点>
大津地域中小企業支援センター 大津商工会議所内 ℡077-522-4185
湖南地域中小企業支援センター 草津商工会議所内 ℡077-564-5201
甲賀地域中小企業支援センター 水口商工会内
℡0748-62-1676
東近江地域中小企業支援センター 近江八幡商工会議所内 ℡0748-31-3266
湖東地域中小企業支援センター 彦根商工会議所内 ℡0749-22-4551
湖北地域中小企業支援センター 虎姫町商工会館内 ℡0749-73-8282
湖西地域中小企業支援センター 新旭町商工会内
℡0740-25-4970
6.政府系中小企業金融機関<制度融資による資金供給の円滑化>
中小企業金融公庫大津支店(設備投資や運転資金の融資) ℡077-524-3825
国民生活金融公庫大津支店(小口の事業資金の貸付)
国民生活金融公庫彦根支店
℡077-524-1654
℡0749-24-0201
商工組合中央金庫大津支店(主として組合等への金融の円滑化)℡077-522-6791
商工組合中央金庫彦根支店
℡0749-24-3831
7.滋賀県信用保証協会<中小企業者の借入債務の保証>
520-0806 大津市打出浜2-1 コラボしが21 ℡077-511-1300
8.滋賀県商工観光労働部<県民の商工・観光・労働に関する経営環境変化への支援>
520-8577 大津市京町4-1-1
商工観光政策課
℡077-528-3714
労政能力開発課
℡077-528-3751
新産業振興課
℡077-528-3791
中小企業振興課
℡077-528-3730
9.滋賀労働局<労働基準法関係、雇用管理改善対策>
職業基準部監督課 520-0057 大津市御幸町6-6 ℡077-522-6649
職業安定部職業対策課 520-0051 大津市梅林1-3-10滋賀ビル ℡077-526-8686
10.労働基準監督署<労働基準法関係、労災保険管轄>
大津労働基準監督署 520-0802 大津市馬場3-1-37 ℡077-522-6641
彦根労働基準監督署 522-0054 彦根市西今町58-3 ℡0749-22-0654
長浜労働基準監督署 526-0052 長浜市神前町6-21 ℡0749-62-3171
八日市労働基準監督署 527-8554
東近江市緑町8-14 ℡0748-22-0394
11.公共職業安定所(ハローワーク)<円滑な雇用の斡旋、雇用保険の管轄>
大津公共職業安定所 520-0043 大津市中央4-6-52 ℡077-522-3773
安曇川出張所 520-1214 高島市安曇川町末広4-37 ℡0740-32-0047
長浜公共職業安定所 526-0032 長浜市南高田町辻村110 ℡0749-62-2030
彦根公共職業安定所 522-0054 彦根市西今町58-3 ℡0749-22-2500
八日市公共職業安定所 527-0023 東近江市緑町11-19 ℡0748-22-1020
水口公共職業安定所 528-0031 甲賀市水口町本町3-1-16 ℡0748-62-0651
草津公共職業安定所 525-0027 草津市野村5-17-1 ℡077-562-3720
12.(財)産業雇用安定センター滋賀事務所<雇用の安定・促進>
520-0051 大津市梅林1-3-10滋賀ビル ℡077-526-2761
13.(社)滋賀県雇用対策協会<労働力の確保と安定、高年齢者雇用の推進>
520-0044 大津市京町4-4-23明治安田生命ビル ℡077-526-4853
ジョブステーション草津創業支援室
520-0032 草津市大路1-1-1エルティ草津 ℡077-567-0122
滋賀高齢期雇用就業支援コーナー
520-0051 大津市梅林1-3-10滋賀ビル ℡077-527-2201
14.(財)21世紀職業財団滋賀事務所<雇用関係の確立と福祉の増進>
520-0043 大津市中央3-1-8第一生命ビル ℡077-523-5249
15.税務署<中小企業関連税制>
大津税務署 520-8510 大津市中央4-6-55 ℡077-524-1111
草津税務署 525-8510 草津市大路2-3-45 ℡077-562-1315
水口税務署 528-8555 甲賀市水口町水口5587-3 ℡0748-62-0314
近江八幡税務署 523-8502 近江八幡市桜宮町243-2 ℡0748-33-3141
彦根税務署 522-0062 彦根市立花町5-20 ℡0749-22-7640
長浜税務署 526-0037
長浜市高田町9-3 ℡0749-62-6144
今津税務署 520-1623
今津町今津住吉1-5-10 ℡0740-22-2561
16.滋賀県知的所有権センター<特許・産業財産権情報の発信>
(社)発明協会滋賀県支部内 ℡077-558-4040
→ (特許庁ホームページ http://www.jpo.go.jp/index.htm)
17.日本貿易振興機構(ジェトロ)<海外の経済・貿易動向・商品等の情報収集・提供>
大阪本部 ℡06-6203-3601
18.近畿経済産業局<中小企業の創業・経営支援>
創業・経営支援課 540-8535 大阪市中央区大手前1-5-1 ℡06-6966-6014
技術課 540-8535 大阪市中央区大手前1-5-1 ℡06-6966-6017
19.(独)中小企業基盤整備機構<創業・事業拡大、共済制度、人材育成の円滑化>
新事業支援課 105-8453 東京都港区虎ノ門3-5-1 ℡03-5470-1534
連携集積企画課 105-8453 東京都港区虎ノ門3-5-1 ℡03-5470-1528
近畿支部中小企業・ベンチャー総合支援センター
540-6591 大阪市中央区大手前1-7-31 ℡06-6910-3866
20.大阪中小企業投資育成株式会社<長期的・継続的な安定資金を株式資本で提供>
530-0004 大阪市北区堂島浜1-2-6 ℡06-6341-5476
21.(財)中小企業ベンチャー振興基金<ベンチャー企業への資金的支援>
150-0002 東京都渋谷区渋谷3-29-22 ℡03-5466-2109
22.滋賀大学産業共同研究センター<産・学・官提携の推進>
522-0069 彦根市馬場1-1-1 ℡0749-27-1141
23.滋賀県立大学地域産学連携センター<産・学・官提携の推進>
522-8533 彦根市八坂町2500 ℡0749-28-8610
24.立命館大学BKCリエゾンオフィス<産・学・官提携の推進>
525-8577 草津市野路東1-1-1 ℡077-561-2802
25.龍谷大学REC<産・学・官提携の推進>
520-2194 大津市瀬田大江町横谷1-5 ℡077-543-7743
26.中小企業診断協会滋賀県支部<企業支援の専門家集団として中小企業診断士を派遣>
520-0806 大津市打出浜2-1 コラボしが21 ℡077-511-1370
Ⅳ章 経営指導の手順
〈第Ⅳ章のポイント〉
1.経営指導の背景と目的
経営指導は企業に対して第三者の専門家が将来を見据えた企業経営のあり方や企業活動の実
態を調査・分析し、その結果に基づいて経営の合理的な発展や改善策・改革策を提案し、経営
支援を行うものである。
2.経営指導プロセス
指導申込
企業概況分析 経営のアウトラインつかむ
第 1 プロセス
指導予備調査書作成
業界の動向把握 現地下見調査
調査 経営面・環境面の概念把握
第 2 プロセス 外部環境(経営環境)分析
規制、金融、公共投資、環境保全、企業倫理、雇用、グローバル化、市場・顧客競合、立地、客層
第 3 プロセス 内部環境(経営資源)分析
経営者ヒアリング 指導目的明確化
財務比率 直近 3 期の資料求める(経営指標との比較・分析)
現場実地調査(商品構成、施設位置、組織、ノウハウ、顧客管理など)
指導・調整 分析・研究、調整
第 4 プロセス 経営課題の抽出
経営成果の把握手順
総合成果の分析
資本活動効率の測定
能力育成の成果
経営課題の把握
第 5 プロセス 経営改善・改革案 モデル企業調査、ベンチマーキング(目標基準設定)
第 6 プロセス 全体最適調整
部門調整
提案事項の決定 顧客は誰か、顧客のニーズは何か、競争優位性を明確に
第 7 プロセス 経営指導報告実施
3.企業が持つ特質と経営指導
経営管理の方法は必ずしも同一ではない。例えば経営合理化を進める場合、理論を画一的に
当てはめることは必ずしも妥当ではない。今日のように環境変化が激しい時代にはそれぞれの
企業の性格に適した経営管理の方法を取り入れることが必要である。そのためには第一に企業
の実態、特に業種・業態の特質を的確に捉えていくことが重要である。
4.経営者指導
経営者指導はその経営システムの中のトップ機能つまり経営目標を設定し、それを達成する
ためにヒト・モノ・カネを活用しての組織化を通じて自らの責任で遂行することといえる。
特に中小企業においては「企業即経営者」の性格があることから、この指導の重要性がある
といえる。この点から職能遂行の背後にある人間性や理念を含めて検討すべきである。
経営者指導では常に計画と実践のバランスをとっていくリーダーとしての役割と自覚をうな
がすことに留意しなければならない。
1.経営指導の背景と目的
(1)経営環境の変化
わが国の景気にもやっと明るいきざしが見えはじめたが、日本経済を取り巻く環境はバブル
経済崩壊後、依然として企業倒産やデフレの進行など厳しいものがある。また、現在銀行の不
良債権問題も最終段階にさしかかりつつある。
一方、広範な分野での国際化・業際化、ナノテクノロジー(超微細技術)
・バイオなどの高度
先端技術の進展、IT (情報技術)・情報通信技術など情報化の一段の進展がある。例えば、イン
ターネットの普及によってオープンなネットワーク化や情報通信コストの低減から電子商取引
が急速に拡大しつつある。さらに、製品の生産・物流などの面でコスト削減を目指して、従来
の系列化や企業間の垣根を越えて連携するケースも現れている。また、本格的な高齢社会の到
来・地球環境問題の本格化、消費者の価値観の多様化、サービス経済化の進展など経営環境の
変化が企業経営を大きく揺るがしているといえる。こうした中で、日本の経済を支えてきた中
小企業の多くが、厳しい状況に置かれ、業績の低迷に苦しんでいる。日本経済が立ち直るため
には、中小企業の創業と再生が不可欠といえる。
そこで、中小企業がこの苦境を打開し、将来に向かって発展していくためには経営環境の変
化を見極めて、それらを折り込んだ戦略的な経営を志向していくことが求められている。
(2)企業経営を取り巻く環境変化
企業経営に大きな影響を与えている主要な環境変化は次のように整理することができる。
①通信、情報、輸送技術などの革新的発展によって、経営資源の流れが時間や空間を越えて瞬
時に、しかもグローバルに展開するようになった。特に中小企業においては限定された地域を
越えて、あるいは他企業の流通チャネルなどに依存しないで、自らグローバルでオープンなマ
ーケットの中で企業規模の制約のない事業展開も可能になった。
しかし一方、大企業も地域の市場へ進出し、新たな競争状態が起こっている。このため企業
規模を越えて経営の意思決定、それに基づく商品供給の迅速化などが企業活動の優劣の大きな
決め手になっている。
消極的な中小企業にとっては脅威であるが、成長意欲の高い中小企業にとっては大きな成長
の機会と考えられる。
②資本の論理や自由競争原理が通用する経済体制のもとでは,経済的に豊かな社会を生み出す
ことができた。しかし一方、地球規模で天然・自然資源の過剰な採掘や採取、消費が進み、深
刻な自然資源枯渇問題や汚染、環境破壊問題が露呈した。その結果、企業はこれまで意識して
こなかった費用の内部化という問題を背負うことになり、中小企業といえどもこの問題に無関
心では済まされなくなってきている。
③循環型経済社会や少子・高齢化社会などへの課題対応のため、福祉や医療、環境衛生、社会
教育、食材供給、職業紹介などの新しい生活者向けサービス部門の台頭が注目される。これら
新しい部門では行政サービスの民営化(民間の資金やノウハウを活用する PF1 の導入を含む)
や規制改革が推進されている。地域性が強い中小企業はこれら新しい部門の担い手として大い
に期待され、その有利性を生かした経営戦略を構築すべきである。
一方、地域性や社会性を基盤として民間の公益を意識した NP0、まちの経営に民の活力を利
用した TM0 などの新しい団体・組織が各地で生まれている。中小企業は,これら団体・組織が
行う事業と一部競合する面もあるが、むしろ連携することによって、その役割を支援していく
べきであり、中小企業自身の機能強化を目指すことが求められる。
④わが国は世界一の長寿国であり、さらに少子化が進んでいるため、経済・社会構造が大きく
変化している。そこにアジア諸国の経済・産業発展が加わり、日本の国際競争力が相対的に低
下している。わが国はその発展の場を海外に求めるだけではなく、国内でも人材や技術、情報
などの各種経営資源を最大限に有効活用して循環再生産できる仕組みを構築しなければならな
い。
(3)企業の社会的責任
企業の社会的責任ということが、近年よくいわれる。社会的責任がしばしば問題とされるの
は、それだけ企業の社会に与える影響力が大きくなっているからといえる。
「社会的責任」の一
般的な意味は社会を構成している人々が安心して生活していけるよう努めていくことと考えら
れる。
公害、環境問題、品質、価格、財務会計、人材などどれ一つをとっても、社会に対する影響
は大きいものがある。
そうした環境の中で企業が果たすべき役割は、
顧客の求める製品・サービスを適正な価格で、
適正な利潤を得て「必要な量を必要な場所で提供し続けていくことである。
企業が社会の中で、その役割を正しく認識して責任を果たしていくことこそ、企業の社会的責
任であり、それを通じて企業が半永久的存在として公共的な存在であるという自覚を持つ必要
がある。このことをゴーイング・コンサーン(継続企業)という。社会的責任を遂行するために
は、経済的目的(利潤目的、成長目的)を達成するための経済的戦略を探求するだけでなく、メ
セナ活動(文化の擁護)など、企業が地域社会文化活動支援などを通じてより積極的に社会貢献
を果たしていくことが求められている。
(4)経営指導の目的
経営は企業の目的を実現するための活動であって、経営指導はその企業のあり方を指導する
ものである。また、経営は中堅以上の規模であれば、一般に専門的知識を持った経営者や管理
者などによって運営されている。しかし中小企業では自社内の各部門に経営の専門家を置くこ
とが難しいのが現実である。また、作れば売れた時代の経営のあり方と、成熟化した時代にお
いて消費者の求めているモノやサービスについて全社を挙げて真剣に創り出していく経営のあ
り方ではおのずから違っており、業績にも違いが現れてきている。例えば、過去の成功が邪魔
して新しい時代の流れに対応できず「衰退の要因」になっている事例も多い。
経営指導はこのような企業に対して第三者の専門家が将来を見据えた企業経営のあり方や企
業活動の実態を調査・分析し、その結果に基づいて経営の合理的な発展や改善策・改革策を提
案し、経営支援を行うものである。
特に成熟化時代の現在、経営を維持、成長、発展させていくためには、顧客満足、競合他社
との差別的優位性、需要創造型の革新性などが企業指導の尺度として重要になってきている。
健康診断は専門家(医者)が人間の身体を診察して健康上の問題点や病気の正体を知り、病名
を決定することである。問題があれば診断に基づいて病気の治療を行う。
それと同様に経営指導は企業が持っている経営上の問題点、特に経営戦略の策定や管理技術
について第三者の専門家が企業の要請に応じて調査・分析し、企業が堅実な発展をしていくた
めに必要な支援をする経営改善・改革の技法である。経営指導の発展を考える際には近代的な
経営管理を採用する先進諸国の科学的管理法についても知っておく必要がある。
2.経営指導プロセス
一般的に総合経営指導プロセスとして企業概況分析、経営環境(外部環境)分析、経営資源(内
部環境)分析、経営課題抽出、経営改善・改革案、全体最適調整、経営指導報告の実施がある。
経営指導のフレームワーク
予備調査・業界動向
企 業 概 況
現地下見・指導実施計画
内部環境
外部環境
調
査
改善・改革案
全体最適調整
経営指導事項の決定
指導・調整
課題の抽出
指導提案書の作成
経営指導プロセスのポイント
指導申込
企業概況分析 経営のアウトラインつかむ
第 1 プロセス
指導予備調査書作成
業界の動向把握
現地下見調査
調査 経営面・環境面の概念把握
第 2 プロセス 外部環境(経営環境)分析
規制、金融、公共投資、環境保全、企業倫理、雇用、グローバル化、市場・顧客
競合、立地、客層
第 3 プロセス 内部環境(経営資源)分析
経営者ヒアリング
指導目的明確化
財務比率 直近 3 期の資料求める(経営指標との比較・分析)
現場実地調査(商品構成、施設位置、組織、ノウハウ、顧客管理など)
指導・調整 分析・研究、調整
第 4 プロセス 経営課題の抽出
経営成果の把握手順
総合成果の分析
資本活動効率の測定
能力育成の成果
経営課題の把握
第 5 プロセス 経営改善・改革案 モデル企業調査、ベンチマーキング(目標基準設定)
第 6 プロセス 全体最適調整
部門調整
提案事項の決定 顧客は誰か、顧客のニーズは何か、競争優位性を明確に
第 7 プロセス 経営指導報告実施
(1)第 1 プロセス:企業概況分析
受診企業の大まかな概況把握からスタートし、指導希望事項の確認や企業特性の把握が主な
内容である。企業特性については、業種業態、主要製品、資本金、従業員数など基本的な事項
から売上高推移、経常利益推移などの業績、経営者年齢、後継者の有無など様々である。また、
このときに経営者の経営姿勢や人柄などに触れることも重要である。
企業概況分析は予備調査として企業のアウトラインを把握するものである。あらかじめ指導
予備調査書などを準備し企業側に記入してもらい、できる限り問題点を把握しておくことが必
要である。企業概況分析では指導ニーズ確認、指導企業特性把握を行う。指導二―ズ確認では
企業側が事前にどのような指導希望があるのかを指導予備調査書に要点を記入してもらい、確
認を行う。製造業では概況分析の予備調査項目として一般的に以下のものがある。
①企業概要
企業概要予備調査項目
予備調査項目
調査内容
企業名
所在地、電話番号、事業所・その他施設各所在地、電話番号
創業年月日
代表者名
氏名、年齢
企業形態
株式、有限、合資、合名
資本金
企業経歴
業種
主な取扱品目、兼業の種類など、経営理念、経営方針
社長年齢
後継者の有無
役員構成
常用従業員数、経営組織
②経営概要
予備調査項目
生産状況、販売状況
決済方法
生産形態
生産状況
設備状況
原材料状況
外注利用状況
年次別使用状況
労務状況、正規従業者
パートタイマー・臨時工
賃金形態
就業時間
枝術者数
従業員の移動
福利厚生施設
経営概要予備調査項目
調査内容
主要製品名、年間販売高、販売先、販売地域
現金、手形、売掛別比率、手形期間など
自社独自製品、OEM(相手先商標製品)
、下請け生産(製品生産、
工程分担下請け、技術補完下請け)など
主要製品別年別生産高、月別生産高
土地建物、自社所有・賃貸別、機械等設備名・台数・経過年数
主要原材料名・年間使用高、仕入先・方法・決済方法
主要外注品名、年間外注高、外注先、決済方法
電力・用水・燃料など
事務員、技術員、工員別、男女別人員数、平均年齢、平均勤続
年数、平均給与など
男女別人員数 平均年齢,平均勤続年数、平均給与
月給、日給、時間給、歩合給別人数
勤務体制、始業・終業、休憩時間、 1 人 1 カ月平均残業時間
学歴別・専門別人数、平均年齢
離職率、入職率
寄宿舎、社宅、浴場・更衣室、食堂、娯楽設備、社内貸付制度
の有無など
③工場所在地略図、土地建物配置図、設備配置図
④経営者から見た企業の管理状態と問題点。必要事項を抜粋し、経営者の判断を記入する。
(2)第 2 プロセス:経営環境(外部環境)分析
経営環境は企業を取り巻いている経済的・社会的環境としてのマクロ環境とミクロ環境に分
けることができる。マクロ環境は、例えば景気の動向、金融動向、労働需給、技術・情報、政
府の政策・規制などが該当する。これらは既存の統計資料や書籍、雑誌などの刊行物から収集
することができる。
また、ミクロ環境は企業の属する業界動向、商圏、ユーザーなどの市場動向、競合企業動向
などが該当する。これらは必要に応じてアンケート調査や競合店調査などの実地調査を行い、
より正確な現状把握に努める必要がある。
①経営環境(外部環境)分析の重要性
経営環境(外部環境)分析における企業の経営活動は企業自身の持つ活動力に加えて、一般経
済の景況、国際環境、社会環境(環境保全、政府規制環境)、市場環境、技術環境、情報化環境、
労働環境、流通環境、さらには当該企業の業界の環境などによっても影響を受ける。対象企業
に与える経営環境変革要因を明確にすることが重要である。
外部環境の把握の必要性は大きく分けて 2 つの要因が考えられる。一つは企業の実績と外部
環境との関係の把握である。
例えば対象企業の売上の伸びが業界の売上の伸びと同じであれば、
その企業の業績は現状維持とも考えられる。しかし、他業界からの参入が激しければ健闘して
いるといえる。もう一つは外部環境およびその変化に対象企業が適切に対応できているか、対
応しようとしているかの判断が必要なことである。例えば、EDI(電子データ交換)化、インタ
ーネットの普及など情報化の進展が与える影響に対して、その企業が適切に対応できているか
どうかなどの判断である。また、対象企業へ直接影響を及ぼす環境を把握するために、競争業
者や新規参入業者などの競合状況の変化、チャネルの変化、供給業者の変化、買い手である顧
客のニーズの変化、さらには代替品や新技術などを環境変革要因として的確に捉える必要があ
る。
企業に影響を与える社会的要因として一般的に以下のものが考えられる。
影響を与える社会的要因
影響要因
内容
規制要因
規制緩和
金融要因
ビッグバン、金融システムの崩壊、金融機関の不安定化、貸し
渋り、直接金融による資金調達
公共投資
公共投資の限界・減少
環境保全
資源リサイクル、ゼロエミッション(廃棄物ゼロ化)
企業倫理
コンプライアンス(法令遵守)
、不法監視・世論の厳しさ増加
雇用要因
リストラクション、終身雇用崩壊、人事制度・給与制度の変化
グローバル化
世界が一つの経済システムへ(金融,生産,流通,ロジスティッ
クス)
市場・顧客の変化 人口統計学的変化(高齢化など)、価値観、ライフスタイル・行
動様式の変化
②経営環境(外部環境)情報の収集
外部環境の諸要素を把握するための諸資料は当然外部から収集しなければならない。予備調
査の結果に基づき、その企業が影響を受けやすく重要と考えられる外部の諸条件をあらかじめ
設定し、それに必要な外部資料を整備していく。諸条件の設定においては全般的環境(マクロ要
因)と対象企業の環境 (ミクロ要因)に整理することが必要である。外部からの情報収集に際して、
かなりの情報がインターネットから入手できることを理解して、効果的に活用することが必要
である。
収集されたこれらの外部要因資料は種々の角度から分析していかなければならないが、計数
的な手法としては時系列分析と相関分析がある。
一般に需要予測などに使われる時系列分析で、長期的変動、循環的変動、季節的変動、不規
則変動などを捉えた上で、両分平均法、移動平均法、最小二乗法などで傾向を把握していく。
相関分析は、例えば価格が高騰すれば需要が落ちる、あるいは気候の状況と特定商品の売れ
行きなどの関係を捉える分析である。多変量解析手法などが使われる。
1)政府や業界団体などの既存調査・収集資料を活用する場合、以下の資料やデータがある。
代表的既存調査・収集資料の種類
内容
人口、年齢、所得、家計調査
名称、所在地及び電話番号、経営組織、開設
時期、事業の種類、従業者数、本所又は支所
の別
商業統計データ
小売・卸売業の店舗数、売上高、従業員数、
店舗面積
工業統計データ
事業所数、従業者数、製造品出荷額等、付加
価値額、有形固定資産、在庫額、原材料使用
額
貿易統計データ
国際収支統計、輪出入統計
法人企業統計調査デ 業種別、資本金別会社分布、資産構成、損益
ータ
特定サービス産業動 対事業所サービス業、対個人サービス業
態データ
経営分析経営諸指標 資金の使途・源泉、総合財務諸表
データ
中小企業の経営指標 業種別経営指標
データ
中小企業の原価指標 業種別原価指標
データ
労働統計データ
労働費用、生計費、貸金制度、賃金水準、手
当、一時金、退職金
資料・データの種類
行政データ
事業所・企業統計調
査データ
作成機関
市町村
総務庁統計局
経済産業省
経済産業省
財務省関税局
財務省
経済産業省経済産業政
策局調査統計部
日本銀行
中小企業庁
中小企業庁
日本商工会議所など
上記以外にも中小企業白書、経済白書、厚生労働白書などの白書関係や各業界団体から出さ
れている業界の諸データの活用を行うことができる。
2)対象企業と直接関係の深い業界内部、競争企業の傾向や実態把握のための調査する場合、以
下の資料やデータを収集する必要がある。
a.業界団体が収集・統計化している各種の資料(例えば製品別売上高など)
b.独自に調査した競合企業の実態(販売価格調査など)
c.市場調査などからの収集
d.マーケットリサーチ、アンケート調査やパネル分析(選ばれた人の継続的な調査分析)など
e.市販データの購入(POS 情報など)
f.取引先などからの収集(新製品情報、売れ筋情報など)
3)インターネットを活用して以下の資料やデータなどの収集が可能である。
a.官公庁・公共団体が出している各種の資料
b.株式公開企業などの財務情報・経営情報・アニュアル(年次)レポート
c.商品情報・店舗情報など
d.海外の経済情報・市場情報・企業情報
(3)第 3 プロセス:経営資源(内部環境)分析
経営資源は以前から「ヒト、モノ、カネ」の 3 つが該当するといわれてきた。しかし、
「ヒ
ト」以外の資源は「ヒト」の知恵が活用されてはじめて意味を持つ経営資源である。
最近はナレッジマネジメント(知識から新しい価値を創造)の重要性がいわれており、知的
経営資源として「ヒト」が中心となるべきものとして位置づけられている。
ソフトな経営資源としてはヒトの能力および意識があり、
その背景には企業文化が存在する。
もう一つのソフトな経営資源として情報やノウハウが挙げられる。必要な情報が的確に収集さ
れ、活用できるように蓄積されているか、価値あるノウハウが明確にされ、共有化されている
かがポイントとなる。ノウハウや特殊能力は企業のコア・コンピタンス(中核的な能力)とな
りうるものである。
また、経営部門別の経営資源として、第 1 のプロセスで把握した企業概況の他にマーケティ
ング、企画・開発、仕入、製造、店舗、物流、労務、経理・財務などの各部門の状況を分析す
る必要がある。
最近では専門の知識、技術を社外から導入するアウトソーシング(業務の外部委託)が行われ
るようになっている。したがって、これらの外部経営資源をも組み込んだ新たな視点からの分
析が必要である。
経営環境の変化に迅速に対応するために経営資源を部門別に分析し、重要な資源を強化する
手法が導入されてきており、プロセスにおいても部門別に経営資源を分析し、強化すべき経営
資源を明確にしていくことが重要なポイントとなってきている。
①経営指標分析
経営指標による比較分析は受診企業の財務諸表から経営指標を算出して経営実態を把握する
調査で、いわゆる財務分析である。経営指標は決算資料などから経営の損益の状態、資本・資
産のバランスなどの概況を少なくとも 3 期の決算資料に基づいて調査する。そのため予備調査
表の付表として次の 3 つの提出を依頼する。
1)過去 3 年間の損益計算書・貸借対照表、経営分析の基礎となる資料
2)費用明細書(製造原価報告書など) 原価分析、損益分岐点分析のための資料
3)最近一年間の月別営業成績表 生産、販売、購買などの業績把握のための資料、加えて資金
繰り状況の調査のため、売掛金残高、買掛金残高の把握を行う。
財務状況の把握は、企業活動の成果の把握であり、単に数値の良し悪しではなく、なぜそう
なったのかを経営全体との関連で分析していくことが必要である。
各種経営比率は必要項目について過去 3 年間の比率の把握を行い、製造業では過去 3 年間の
総費用に占める材料費、外注加工費、労務費、製造経費など製造原価計算書により製造原価の
把握を行う。
②製造業の経営指標
1) 総合指標
a. 経営資本対営業利益率=営業利益÷経営資本×100
企業が、本来の目的である経営活動に使用している投下財産、すなわち営業用の純資本投資
がその活動によってどれだけの利益をあげたかをみる。比率が大きいほどよい。
b.経営資本回転率=純売上高÷経営資本×100
事業に投下された資本の回転速度を表すものである。この回転率が高いのは、資本の利用度
が高いことを意味している。比率が大きいほどよい。
c.売上高対営業利益率=営業利益÷純売上高×100
企業の収益性、経営能率の良否を示す重要な比率で、利幅の程度を表すものである。比率が
大きいほどよい。
d.自己資本対経常利益率=経常利益÷自己資本×100
企業の総資本のうち、自己資本が経営活動の結果、どれだけの純利益をあげたかをみるもの
である。比率大きい場合、自己資本が少ないか、経常利益(純利益)が多いかによる。又営業外
の利益が多いか、営業外の損失が少ないかにもよる。中小企業においては、経営者すなわち企
業の持ち主であるという場合が多いので、経営資本対営業利益率とをあわせその是非を判断す
ることが必要である。
2)財務指標
e.自己資本対固定資産比率=固定資産÷自己資本×100
設備などの固定資産が、どの程度自己資本でまかなわれているかを測る基準で、この判定は
100%以内であることが望ましい。
f.固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+長期借入金)×100
長期資本(自己資本と長期借入金の合計)が、どの程度、固定資産に投下されているかという
こと、つまり長期資本の固定化の程度を表わすものである。比率が小さい場合、自己資本・長
期借入金が多いか、固定資産が少ない。比率が小さいほどよい。
g.流動比率=流動資産÷流動負債×100
短期(1 年以内)の借入金と、これを返済するのに必要な財源を比較する比率でこの比率が大き
いほど返済能力があり経営の安全が保たれていることを示す。いわば企業の信用度を示すもの
で、150%以上を確保することが望ましい。
h.当座比率=(現金・預金+受取手形+売掛金)÷流動負債×100
当座比率は、流動資産のうち、さらに流動性の強い現金、売掛金などと流動負債の割合をみ
ようとするものである。比率が大きい場合、当座資産が多いか、流動負債が少ない。比率が小
さいのは当座資産が少ないか、流動負債が多い。比率が大きいほどよい。
i.総資本対自己資本比率=自己資本÷総資本×100
企業が借り入れている資本と自己調達している資本の割合を示す。比率が大きいのは期末における
j.売上高対支払利息比率=(支払利息・割引料-受取利息)÷純売上高×100
支払利息の負担が売上高に対しどの程度であるかを示すもので、この比率の大、小は営業利益
に影響がある。この比率小さいのは売上高が多いか、支払利息割引料が少ないか受取利息が多
いかによる。比率が大きいのは売上高が少ないか、支払利息割引料が多いか受取利息、が少な
いかによる。この比率は小さいほど望ましい。
k.固定資産回転率=純売上高÷固定資産
固定資産の利用度を示すもので高いほど設備資産が十分に活用されていることになる。比率が
大きい場合は固定資産が少ないか、売上高が多いかによる。比率が小さいときは固定資産が多いか
l.受取勘定回転率(A)=純売上高÷(受取手形+売掛金)
受取勘定回転率(B)=純売上高÷(受取手形+売掛金+受取手形割引高)
一年間における売上代金の回収速度を表す。この回転率が高いのは、売上代金の回収が早いこ
とを意味し、低いのは代金の回収が遅いことを意味する。回転率が大きい場合、売掛金、受取手形
m.支払勘定回転率=(当期直接材料仕入高+当期直買入部品仕入高+外注工賃+間接材料費+
当期製品仕入原価)÷(支払手形+買掛金)
企業の支払状況を検討するために用いられ、比率の大きいほど健全な仕入条件にあることを
意味する。受取勘定回転率とあわせて検討することにより、資金繰り状況を知ることができる。
回転率の高低について一概に良否はいえない。
3)生産指標
n.加工高比率=加工高÷生産高×100
生産額のうちに占める加工高を示す。生産高-(直接材料費、買入部品費、外注工賃、補助材
料費)の割合を知るものである。比率は大きいほど望ましい。
o.加工高対人件費比率=(事務員・販売員給料手当+直接労務費+間接労務費+福利厚生費)÷
加工高×100
加工高に対する人件費の割合を示すもので、賃金と生産能率の可否を検討する場合に参考と
なるものである。比率比率は小さいほど望ましい。
p.機械投資効率=加工高÷設備資産
設備資産(土地、建物を除く)が加工高に占める割合を示すもので、資本の生産性をみる。回
転率が大きいほど望ましい。
q.原材料回転率= 純売上高÷原材料
企業の生産能率の可否をみる一つの比率で、期末の材料の在高を増せば、この比率は低下し、
反対に減少すれば多くなるわけで、その場合にこの回転率はどの程度がよいかといえば、手特
高が過大にならず、しかも生産が円滑に行われるように保有することが大切である。一般的に
回転率は大きいほど望ましい。
r.仕掛品回転率=純売上高÷仕掛品
製品回転率=純売上高÷製品
仕掛品、製品の在高は前期末と当期末の平均により、仕掛期間及び製品の手持期間を知ること
ができる。すなわち、販売能率及び資本利用の経済性の良否を判断する基本的な比率の一つで
ある。回転率が大きい場合、期末製品が少ないか、売上高が多いかによる。回転率が小さいと
きは売上高が少ないか、製品の手持ち高が多いかによる。回転率は大きいほど望ましい。
4)販売指標
s.売上高対総利益率=総利益÷純売上高×100
この比率は売上高に対する利益の割合を示すもので、とくに利益をどれだけあげえたかは経
営の最終的な関心事であり、収益性を判断するための基本的な一つの比率である。比率が大きいときは
t.売上高対経常利益率=経常利益÷純売上高×100
経営活動の結果の純利益状況を示すものである。この比率は営業外損益が多いか少ないかに
よって変化する。比率大きい場合、営業利益と営案外利益が大きいことによる。比率が小さい
のは営業利益が少なく、営業外の支出が多いことによる。比率は大きいほど望ましい。
u.販売・管理費比率=(販売費+管理費)÷純売上高×100
一単位の売上げに対する費用がどれだけかかったかを示すもので、これが少ないほど販売コ
ストや経費効率がよいことを示す。比率が小さい場合、営業費が少ないか、売上高が多いかに
よる。比率が大きいのは売上高の割合に営業経費が多くかかっていることによる。比率は小さ
いほど望ましい。
5) 収益性、生産性、成長性、安全性分折
上記の経営指標では総合指標、財務指標、生産指標、販売指標からの分析の視点を述べたが、
それらとは異なり、収益性、生産性、成長性、安全性の視点からも分析を行うことが可能であ
る。
a. 収益性分析
株主であれば、配当収入について考えるとき、配当可能な利益がどれくらい確保されている
のかに関心を持つ。なぜなら配当の前提となる利益を効率よく確保している方が配当に期待が
持てるからである。また株式の売却で投下資金の回収を期待する場合、株価上昇は企業の収益
性が高いほど期待が持てる。
また銀行をはじめとする債権者は、利払いの安定性を考えるとき、営業上の収益性が高けれ
ば安心する。従業員は、収益性が高ければ給料の安定性や、昇給、賞与の期待を大きくする。
このような収益性という切り口で分析ができる。
そもそも「収益性」とは、どういう意味を持つのか。単純に考えれば、儲かっているかどう
かということであるから利益の大きさを意味する。一般に企業は、株主や銀行なとかう集めた
資金を事業に投下しそれを上回る収益を獲得することで利益を生み出し、これを従業員などの
給与にあて、税金を払い、株主に分配し、あるいは一部を今後の事業活動のために内部留保す
る。したがって、収益性分析における「収益性」とは、会社が投下した資本をいかに効率よく
使って利益を上げたかということを意味する。少ない投資でより多くの利益を上げれば「収益
性がよい」ことになり、反対に多くの投資をしたにもかかわらずそれほど利益があがらなけれ
ば収益性が悪いということになる。
b. 生産性分析
投資家が出資を考えるときや、すでに株主として出資をしている場合、企業が付加価値の高
い事業を展開していれば、
配当による高い分配や企業価値の上昇による株価の上昇を期待する。
また、従業員も生産性が上がれば労働への分配が増えることを期待できる。その際には、生産
性という切り口で分析できる。会社では、上司が部下に対して「もつと生産性を高めよう」な
どということがある。なんとなく叱咤激励するという意味もあるが、この「生産性を高める」
ということがどういうことなのか、きちんと説明できる人は多くはない。まして、
「生産性」が
財務諸表のどの数値を使って示されるのかまで詳しく説明できる人は、
さらに少ないであろう。
生産性とは、投入量(input)と産出量(output)の関係をいう。つまり、投入量に対してどれだけ
の産出量があったかを示すものである。したがって「生産性を高める」とは、より少ない投入
量でより多くの産出量を獲得するということである。生産性を分析する場合に重要となること
は、投入や産出をいったいどのようなものだと考えるかということである。たとえば、お店を
開いて商品を販売するという商売を考えてみると、この場合、仕入を投入、売上を産出と考え
そうなものであるが、これは生産性分析の考え方とはまったく異なる。生産性分析では、売上
高そのものを、
産出すなわち経営成果とは考えない。
なぜならば、
600 円で仕入れた商品を 1,000
円で売ったとすれば、1,000 円のうち 600 円は経営努力で産み出された部分ではなく、単に外
部からの仕入金額を転嫁しているに過ぎないからである。生産性分析における産出とは、売上
高から、このような「外部購入価額」を差し引いた部分のことをいう。
c. 成長性分析
株主が株式を売却して投下資金の回収を期待する場合、企業の利益規模が膨らんで、株式の
価値が高まることを期待する。また投資家が企業に出資を考える場合、将来的に有望な企業な
のか否かに関心を持つ。
社債権者は、
社債への投下資金の回収や利払いの安定度を考えるとき、
元利金の安全度が向上することを期待する。その際に分析の切り口となるのが成長性である。
会社の成長は、よく人間の成長にたとえられる。人間が生まれ、幼年期から少年期、青年期、
壮年期といった過程を経て成長していくのと同様に、会社も設立から成長期、成熟期、衰退期
といった過程を経ていくこととなる。途中、取引先の倒産であるとか、資金繰りの悪化のよう
なケガや病気に見舞われることもある。また、何をやってもうまくいく「絶頂期」もある。し
かし、忘れてはならないことは、あくまでも企業の究極の目的は資本の増殖であるということ
である。したがって、企業の成長性を分析する場合には、この資本の増殖度合いこそが、中心
テーマとなってくる。成長性を分析する上で重要なのは「前期との比較」である。われわれも
子供のころ学校で身体測定をやって、背が何センチ伸びたか、体重はどのくらい増えたかを測
った。成長とは、この「伸びた」
「増えた」ということであるから単年度のデータだけで分析で
きるものではない。会社も年次比較によって資本の増殖度合いを分析することとなり、前期と
比較して「売上はどのくらい増えたか」
「会社の資本はどのぐらい増えたか」といった分析を行
い、それらの比較データによって会社の成長を捉えていくわけである。
d. 安全性分析
企業は借入金などの返済が滞り、債務の支払がストップすると倒産してしまう。銀行や取引
業者、社債権者などの債権者はそのような事態に陥る可能性に関心がある。また従業員も、給
料の安定的支払や職場を失うことの可能性について関心があり、会社の債務返済能力をチェッ
クする。このような安全性という切り口で分析ができる。これまで説明してきた経営分析は、
主に損益計算書を利用した分析であったが、貸借対照表を使った経営分析もあり、その代表が
「安全性分析」である。安全性分析とは、簡単にいってしまえば「その会社が倒産しないか」
ということの分析であるが、このことを分析するためには、そもそも企業の倒産とは、いった
いどういうものかということを説明しておかなければならない。単刀直入にいえば、企業の倒
産とは支払不能という状態によって起こる。企業は、仕入代金や経費、借入金の利息や返済な
どさまざまな支払義務を抱えているが、資金不足によって、この支払ができなくなると企業は
倒産する。そして、企業の倒産と利益とは、直接的には関係なく、いくら赤字会社でも資金さ
えあれば倒産しない。
しかし、
いくら多額の利益を計上していても資金がなくなれば倒産する。
したがって、
安全性分析のテーマは資金が足りているかどうかということになる。
ところで、
もしも企業がすべての取引を現金で行い、金融機関などの第三者からの借入もしないというの
であれば、安全性分析などと物々しくいうほどのことはない。資金が足りるかどうかは、手持
ち現金を数えればそれで終わりである。ところが、信用取引が発達した現代企業では、得意先
に対する掛売りもあれば、仕入先からの掛買いもある、銀行借入や手形取引も頻繁である。こ
のような状態では、資金の過不足を一目で知るというわけにはいかない。たとえば、いくら支
払いが多くて、それに対する資金がなかったとしても、支払期限の直前に売掛金の回収入金が
あれば、支払不能ということにはならない。逆にどれだけ多額の入金予定があったとしても、
支払期限が先に到来してしまえば、支払不能となってしまう。このように、資金の過不定はタ
イミングの問題であるため、現金や預金以外の資産の資金化も含めた資金量を考えなければな
らず、安全性分析は重要な分析であるということになってくる。企業にとっては「儲かってい
るか」だけでなく、
「倒産しないか」ということも同じく、重要なテーマであり、収益性分析と
安全性分析は、会社の経営分析の両輪であるといってもよいであろう。
③経営システム調査・分析の着眼点
今日の経営環境の変化に機敏に対応していくには経営部門分析に加えて、経営全体をシステ
ム化する「経営システム」についても分析していく必要性が高まっている。
経営システム調査・分析の着眼点
経営システム分野
経営システム
内容
1)経営戦略
経営者の職能
リーダーシップと意思決定、合意の仕組み
経営戦略
顧客・市場の理解、事業ドメイン(本業)と戦略の策定・展開
経営計画
戦略の具体的展開・行動計画としての中期事業計画、戦略的情報化企画、年
度計画
2)経営組織
3)経営管理
4)業務プロセス
組織能力
意思決定とエンパワーメント(権限委譲)
、能力開発、能力活用
企業文化
企業理念、企業文化形成、社員満足
管理会計
諸目標と活動
原価管理
原価管理の形態・内容・適合性
基幹プロセス
マーケティング、研究開発、マーチャンダイジング・製品開発、生産、ロジ
スティックス(物流)
、販売
5)情報化
支援プロセス
経営企画、人事・労務、経理・財務、法務、環境保全
ビジネスパートナー
戦略的提携、SCM 連携
情報化レベル
情報化計画、情報化機能と情報活用レベル、情報共有レベル
1)経営戦略関連の経営システムには次のものがある。
a.経営者の職能としてのリーダーシップと意思決定、合意の仕組み
b.経営戦略としての顧客・市場の理解、事業ドメイン(本業)と戦略の策定・展開
c.経営計画としての戦略の具体的展開・行動計画としての中期事業計画、戦略的情報化企画、
年度計画
2)経営組織関連の経営システムには次のものがある。
a.組織能力としての意思決定とエンパワーメント(権限委譲)
、能力開発、能力活用
b.企業文化としての企業理念、企業文化形成、社員満足
3)経営管理関連の経営システムには次のものがある。
a.管理会計における諸目標と活動
b.原価管理の形態・内容・適合性
4)業務プロセス関連の経営システムには次のものがある。
a.基幹プロセスとしてのマーケティング、研究開発、マーチャンダイジング・製品開発、生産、
ロジスティックス(物流)
、販売
b.支援プロセスとしての経営企画、人事・労務、経理・財務、法務、環境保全
c.ビジネスパートナーとの関係では戦略的提携、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント:
情報の一括管理による企業活動支援)連携
5)情報化の推進関連の経営システムには次のものがある。
a.情報化レベルとしての情報化計画、情報化機能と情報活用レベル、情報共有のレベル
組織における経営管理や活動の諸機能はすべて経営システムとして有機的な連携のもとに行
われている。経営システムの調査は本調査の段階である。調査の視点は激しく変化する経営環
境へ効果的に対応していくために、どのように経営システムを強化すべきかというところにあ
る。また他社に抜きん出て優れたプロセスが構築されているか、それがその企業のコア・コン
ピタンス(中核的な能力)となっているかなどである。本調査では今まで行ってきた調査で捉
えた間題点を中心に、実際に表に記載する項目について、経営者や従業員へのヒアリングによ
り現場での実態調査を行う。
(4)第 4 プロセス:経営課題抽出
経営課題は経営環境分析や経営資源分析で明らかになった事実をもとに、本当に改善すべき
課題は何かを明確にする段階である。
なかでもそのための分析手法として SWOT 分析がある。
SWOT 分析は経営資源分析において自社の強み(Strength)と自社の弱み(Weakness)
、経営環
境分析において将来の機会(Opportunity)と将来の脅威(Threat)のクロス分析によって課
題を抽出するものである。
また、その分析によって、企業のとるべき戦略シナリオを描くための手法でもある。課題の
抽出についてはいくつも出てくることが考えられるが、それらの課題がすぐ改善すべき重大な
課題となるかは別問題である。企業の規模や組織や管理能力などの諸要素を十分に勘案して見
極めることが重要である。その上で具体的な改善案を検討していく。
調査・分析により企業の概要と経営実態を把握すると、課題が見えてくる。しかし、実際に
今までの企業活動の結果がどう表れているか活動の成果を検討し、見えてきた課題が実際に経
営成果に影響を及ぼしているかを確認する。経営活動では種々の機能を有機的に結びつけて企
業目的を達成していく。経営指標が一般的標準あるいはその業種における標準を上回っていれ
ば、その企業は競争優位に立っているということができるが、この機能の一部に問題があれば
経営成果は十分なものとならない。逆に経営成果が十分でない場合、何らかの機能が十分に発
揮できていないということになる。成果は単に財務的な数値だけでなく、財務の視点、顧客の
視点、業務プロセスの視点、組織自身の学習と成長の視点という 4 つの視点から見ていくこと
が必要である。例えば顧客満足度はどのくらい上がったか、納品までのリードタイムは何日程
度短縮されたか、特許はどのくらい取得されたかなども成果である。その結果が財務の視点で
ある売上や利益の向上につながっている。
そのような成果の指標を捉えていけば、より明確に課題が見えてくる。課題は当然将来に対
しても設定していかなければならない。環境の変化や競争条件の変化などを予測し、準備を進
めていくことも重要な課題となる。いずれの場合もよりエクセレント(卓越)な企業となるた
めに、どのような改善・改革課題があるかを調査したデータおよび情報を分析して的確につか
んでいくことが必要である。
①経営成果の把握手順
経営成果はまず販売部門、生産部門、購買部門、労務部門、財務部門などの部門別に活動実
態を計数から把握する。計数分析には、例えば 3 期分の変化など期間による計数分析と、原価
の実態、納期の実態や生産性、顧客数あるいは顧客シェアのような対象別の計数分析がある。
原価の分析、生産性の分析は主として業務プロセスの視点からの分析対象であり、顧客シェア
は顧客の視点からの分析対象である。実際には、対象別と期間を組み合わせた計数分析が一般
的である。分析対象の組み合わせで部門の経営成果が出てくる。
次いで部門別に分析した計数をもとに統合的に検討していく。ここでは、収益性、安全性、
生産性などの観点から分析する。部門別の計数が統合的にどのような効果を持っているのか、
例えば新製品の開発市場投入が売上増にどの程度貢献しているのか、原価率低減の成果が全体
の収益性においてどの程度貢献しているのかといった分析を行う。ここでは外部の諸条件によ
って影響を受けている計数についても総合的な検討が必要である。例えば為替レートの変動が
収益にどのように影響しているかなどである。
②総合成果の分析
総合成果の分析における財務の視点は投入した資本と収益にある。企業の経営成果を総合的
に確認する指標は経営に投下した資本とこれを運用して得た利益との比、経営資本利益率であ
る。
資本の区分には自己資本と他人資本という区別、
経営資本と経営外資本という区別があり、
経営資本は直接経営目的にのみ使用されている資本である。
利益の第一段階は売上高と売上原価の差である売上総利益である。第二段階は売上総利益か
ら販売費・一般管理費が引かれた営業利益である。第三段階は営業利益から営業外収益・費用
が加減算された経常利益である。通常の経営活動での成果はこの経常利益で判断される。
製造業であれば生産コストを低減した成果は売上原価の低減、すなわち売上総利益の向上と
いう成果で表れてくる。一方、販売活動の効率や販売物流の効率向上は販管費の減少、すなわ
ち営業利益の向上が成果である。在庫や売掛金の低減は資本効率の向上につながり、一般には
使用する経営資本の中の借入金という負債資本が減少し、営業外収支が改善される。
今日、キャッシュフロー(金銭の流れ・授受)からの評価も重要である。過去の事業価値の
実績がキャッシュフローとして結実しているわけであり、また将来にわたり得られるであろう
キャッシュフロー合計が事業価値である。
③資本活動効率の測定
もう一つの財務の視点が資本活動効率である。企業活動の成果を判断する収益力が経営資本
対営業利益率によって確認されても、それだけで経営成果が十分に上がっているとは判断でき
ない。そのような成果がなぜ生まれたのか理由を的確に把握しなければならない。ましてや成
果が十分でない場合には、成果が十分でない原因を把握しなければ改善につながらない。
資本は固定資産、流動資産に投資され、製品仕入や生産などを行い、それを販売して回収す
る、あるいは設備投資の結果、減価償却を行うことによって循環する。この循環がいかに速い
かが経営資本回転率、つまり売上高を経営資本で割った数値で表される。業種・業態によって
標準となる経営資本回転率の値は違うが、対象とする企業がどのような成果を上げているかを
把握するための第一の指標である。
売上に対する費用の効率を測定するには収益がどのように獲得されているかを把握すること
が必要である。これは売上高対営業利益率によって測定できる。営業利益率をいかに向上させ
ているかを見ることがもう一つの成果の把握である。仕入原価の引き下げ、販売費・一般管理
費の削減、いずれもが営業利益率を向上させる要因となる。この経営資本回転率と売上高営業
利益率を掛けた数値が経営資本営業利益率となる。
さらに、企業が経営目標としている重要な指標として、経営資本対営業利益率の他に総資本
利益率(ROI)、自己資本利益率または株主資本利益率(ROE)、営業利益から税金、配当金、金利
などの資本コストを差し引いた残余利益である経済付加価値(EVA)などがある。このような指
標を企業活動の成果として捉えている企業も多く出てきている。
④能力育成の成果
企業における人的能力の向上は従来にも増して重要な経営課題となっている。中長期計画で
必要な能力と人数を明確に把握し、その育成や人材確保の努力の度合いがその企業の将来を占
う重要な判断基準となる。そこで学習と成長の視点が重要となる。
中期人員計画達成のために第一に考慮すべきことは現状の従業員に関する的確な能力把握と
育成の計画である。次いで社内での要員育成だけでは不足する能力を持った要員を外部から何
人、どのように確保するかの計画を立案する。どのような計画であれ、人の確保なくしては計
画の完遂は不可能である。しかしながらコストの面を考えればすぐ雇用することも難しく、中
期的な能力アップのアプローチが重要であろう。
成果の把握も調査した過程でどの程度人が育ってきているか、人材が確保できているかが重
要な観点である。短期の診断では的確な把握が非常に難しいが、できる限り人的能力開発およ
び確保の成果の把握を行うことが後の指導提案において重要な要素となる。
⑤経営課題の把握
企業概況分析、経営環境分析、経営資源分析、経営システム分析の経営活動調査・分析のス
テップを通じて把握してきた経営課題は、成果の分析・把握によりその妥当性が裏づけられ、
その課題解決のための改革・改善へと結びつけられる。
経営課題は弱みを克服し脅威を取り除くことに加えて、自社の強みをより一層強化して事業
機会を高度に活かしていく具体的施策が求められる。例えば、強みを事業機会に活かすために
は製品やチャネルの競争優位をさらに高め、参入障壁を高くすることが課題として挙げられ、
そのための技術開発や製品開発を強化することなどが必要となる。また、現在においてはマー
ケットそのものが常に変化し、従来の市場が大幅に小さくなったり、消滅したりすることもあ
る。マーケットが要求するスピードが高まり、新たな業態が出現して競合状況が新たに生まれ
てコストへの要求が一層厳しくなったりすることも頻繁に発生している。そのような状況への
対応も重要な課題として的確に把握しなければならない。
課題を捉える際に観点となる事項には今まで述べてきたように、経営者のリーダーシップと
組織の意思決定のあり方、市場・顧客の理解と関係づくり、技術・商品開発力、価値を創造す
るプロセス、組織および人の能力、有効な情報システムなどである。
(5)第 5 プロセス:経営改善・改革案
本プロセスでは第 4 プロセスで抽出された経営課題を解決するための改善策や、場合によっ
ては変化の激しい経営環境の中で業態転換、部門縮小などの思い切った改革プランを提案する
こともある。
特に、経済のグローバル化、ボーダーレス化(境界がなくなる)により規制改革が進み、IT
の発達によるネットワーク社会の到来により、従来の経営改善を超えた「経営改革」にチャレ
ンジする必要が出てきた。
経営改革に寄与する経営指導は既存の市場の衰退または従来の経営手法の機能低下を予知し、
それに対応してリスクある経営行動を取るよう提案するものであり、将来を見通したもので高
度な計画力を備えたものでなければならない。
そのためには、SWOT 分析などで当該企業のコア・コンピタンス(中核的な能力)を十分に把
握した上で新たな機会が見込める方向を選択するよう提案することも重要である。
企業は成長するだけでなく、停滞し、倒産する。指導にあたってはどのような要因があるか
を明確に把握しておくことも必要である。
①成長企業要因の把握
企業成長の一般的要因
成長要因
1)前向きな姿勢
2)強いリーダーシップ
3)長期的視野を持った経営
4)顧客満足
5)強い業務プロセス
6)情報管理の徹底
7)人材の確保・育成
8)積極的な研究開発投資
9)信用力の確保
これまで成長してきた企業は経済の成長に伴う需要拡大という外部要因に支えられた面もあ
るが、その環境を効果的に自社の成長につなげることができた要因を企業内部に持っていた。
企業内部の経営体制がしっかりしていたからこそ外部要因を追い風にできたわけである。それ
らの企業に共通していることは経営環境の変化を迅速かつ的確に捉えて、機敏に対応してきた
経営の仕組みと積極的な経営態度である。長期的観点に立って将来の自社のあり方を的確に捉
え、それを実現するために現状の経営をどのように進めていくべきかということを考えて体
制・仕組みを作ってきており、適切な戦略を立案し、経営管理体制・業務プロセスを整備して
きた結果といえる。
企業が成長していく要因には一般的には次のようなものがある。
1)前向きな姿勢
経営環境や市場状況を客観的に捉えて、積極的な姿勢をとっていること。
2)強いリーダーシップ
強いリーダーシップで的確かつ迅速な意思決定が行われていること。
3)長期的視野を持った経営
長期的視点を持ちつつ、短期的な具体策を実行していること。特に自社の独自性や特徴を打
ち出すための技術力の強化や製品開発の強力な推進、販売力の強化などを図っていること。
4)顧客満足
顧客第一主義で顧客満足の追求をあらゆる面で実行していること。
5)強い業務プロセス
他社に比べて効率よくスピードのある業務プロセスを構築できていること。
6)情報管理の徹底
市場情報や技術情報、製品情報など戦略の実現に必要な情報、日常活動の中で経営管理や業
務を効果的に行うために必要とする情報を明確に認識し、それらの情報を収集・蓄積・共有し、
分析・活用する体制を作っていること。
7)人材の確保・育成
人材を重視し、計画的に確保・育成を十分に行っていること。特に新たな分野へ進出するた
めの技術獲得や営業活動のためには積極的に外部より人材を確保するとともに養成に努めてい
ること。
8)積極的な研究開発投資
新製品の開発など研究開発に相応の投資を行っていること。
9)信用力の確保
経営者および企業としての信用力を培養し、資金調達などをよりスムーズに行えるよう努力
していること。
②企業倒産要因の把握
企業倒産の一般的要因
倒産要因
内容
1)販売減少・利益減少 減少の理由、対策が不明確
2)負債増大
3)資本効率の悪化
4)経営組織の問題
5)経営管理の問題
6)業務プロセス
7)従業員の雰囲気
負債のレベル、負担の状況
在庫投資増大、設備投資過剰
意思決定の遅さ、変革されない風土
放漫経営、場当たり的、管理不在
改善されない非効率な業務プロセス
無気力な雰囲気
経済の低成長化に伴って、売上の低迷などから倒産する企業も増えている。しかし、倒産の
原因、内容を検討してみると必ずしも外部要因だけによるものではない。むしろ企業内部に原
因があることが多いといえる。
倒産企業の多くは過去の成長期に無計画な経営、場当たり的・直感的な経営によって事業を
拡大してきたため、その企業内部に大きな矛盾を抱え込んでいた。この矛盾が市場の変化に伴
う売上の減少とともに表面化したケースが少なくない。
先に挙げた需給構造の変化、市場の変化、循環要因の変化などの外部要閃は確かに倒産の大
きな引き金となっている。しかし、倒産企業の多くには以下の内部要因が存在している。
倒産企業の一般的な内部要因
1)放漫経営
2)過去の経験に偏向した経営能力の不足
3)計画性や管理能力の不足
4)核となる技術がない
5)技術水準が低い
これらが販売力の弱体化と売上の減少、コスト増大となって表れ、結果として負債の増大に
よる財務体質の悪化をもたらし、設備投資過剰や在庫投資過剰などの不適切な投資、売掛金の
回収不能などをきっかけに倒産に至っている。
このように成長要因と倒産要因はちょうど表裏の関係にあり、総合的な経営に対する提案・
改革案の提示が求められる。
(6)第 6 プロセス:全体最適調整
改善・改革提案が複数案ある場合にはその緊急度や重要度、実行可能性などから優先順位を
つける必要がある。
例えば、今すぐにでも取り組むべき課題と中長期的に取り組むべき課題を分けて整理して提
案する。
また、複数人で指導を担当した場合には各担当者間の調整の問題も出てくる。特定の部門の
改善・改革案として最適と判断しても、他部門と相容れないケースもあるので調整が必要とな
る。
いずれにしても、複数で指導を行う場合には相互のチームワークが重要であり、部分最適で
はなく全体最適を図る改善・改革提案を実施することが求められる。
(7)第 7 プロセス:経営指導報告の実施
指導報告にあたっては一般的に報告書にまとめた形で報告される場合が多い。内容的には、
相手にできるだけ分かり易く、グラフや表・図を入れてビジュアル化したものが求められる。
また、いくら提案内容が優れていても報告の仕方が稚拙では内容が相手に伝わらない。
さらに、報告にあたっては「プレゼンテーション・スキル(技術)
」が重要になってくる。プ
レゼンテーションの効果を高めるためには相手がよく理解できるよう、話し方に工夫する必要
がある。話のスピード、歯切れのよさ、声の大きさ、話の間などが重要である。
3.企業が持つ特質と経営指導
経営管理の方法は必ずしも同一ではない。例えば経営合理化を進める場合、理論を画一的に
当てはめることは必ずしも妥当ではない。今日のように環境変化が激しい時代にはそれぞれの
企業の性格に通した経営管理の方法を取り入れることが必要である。そのためには第一に企業
の実態、特に業種・業態の特質を的確に捉えていくことが重要である。
業種による特質は以下のようにまとめることができる。
(1) 製造業の企業特質
製造業の特質を捉える場合、次のような数多くの要素がある。企業の自主独立性の問題から
販売する製品と販売先、受注形態の違い、生産方式・体制も異なっている。また、同じような
製品を生産していても、その経営者の考え方で企業の特質は大きく変わってくる。当然必要と
1)業種
2)経営の形態
3)受注と生産の形態
4)販売するもの
5)製品形態
6)最終ユーザー
7)生産の工程
8)生産形態
9)製造の特質
製造業の企業特質
食品、繊維、化学、金属、機械、輸送機械、電気機器など
自主型、従属(下請け)型
継続受注生産、個別受注生産、見込み生産
プロダクト(製品)の販売、試作・開発など技術・技能の提供
最終消費製品、生産用機器、素材・部品など
法人向け製品、個人向け製品
一貫生産型、外注依存型、ファブレス(工場を持たない)型
多種少量生産型、少種多量生産型
組立型、プロセス型
する資本の額、資本効率、利益率、組織、人員体制など一つの枠にあてはめることはできな
い。企業の特質を捉えた上で企業の実態を調査することが重要となる。
製造業の経営システムには一般的に経営戦略、研究・開発・技術、販売・営業・顧客、購買・
外注、生産、サービス、財務・会計・原価、情報、人事・労務の各システムがある。
(2) 卸売業の企業特質
卸売業の企業特質
業種
食品、繊維、日用品雑貨、医薬品、文房具、その他
1)対象顧客 小売業向け卸、業務卸など
による分類
2)販売形態 ベンダー(納入)型、ラックジョバー型、キャッシュ・アンド・キ
ャリー型、ボランタリー・チェーン(VC)型、小売業兼業型など
卸売業においても自主的に商品を企画開発し、プライベート・ブランド(PB)製品の提供を積
極的に行っている企業、物流機能やリテールサポート(小売業支援)を強化している企業など、
経営の方向性によってその特質はかなり異なっている。卸の経営システムには一般的には経営
戦略、商品企画・開発・仕入、販売・営業・顧客・販売促進、物流、小売業支援、財務・会計・
原価、情報、人事・労務の各システムがある。
(3) 小売業の企業特質
1)業種
2)業態
3)立地
小売業の企業特質
繊維や食料品などの生活消費品小売業、家庭耐久品や文化品などの生活耐久
品小売業、自動車や機械、建築資材、農機具などの販売業
一般小売店、専門店、百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンス・スト
ア、ホームセンター、ディスカウント・ストア、アウトレット、フランチャ
イズ・チェーン (FC)など
商店街、ステーションビル・駅前店、郊外店、
・ショッピング・センター(ア
ウトレット・センター、スーパーセンター)、インターネットショップ・モ
ールなど
小売業では大型の商業集積が建設され、
新しい業態が次々と生まれている。
業種だけでなく、
業態や立地など、その特徴をしっかりと見極める必要がある。逆に企業の側からいえば、何を
売るかという業種からの発想だけでなく、どこで、どのような顧客を対象として、どのような
価値を、どのような価格で、どのような方法で売るかを明確にしなければならない。販売する
商品、販売ルート、販売方法に境界はないと考えるべきである。小売業経営システムに一般的
には経営戦略、商品企画・開発・仕入、販売・営業・顧客・販売促進、店舗施設、物流、財務・
会計・原価、情報、人事・労務の各システムがある。
(4) サービス業の企業特質
サービス業の企業特質
1) 対 事 業
情報・広告
情報サービス、調査・広告業
所サービ
関連部門
ス
その他事業
物品賃貸業、その他の事業サービス業(建物サービス、職業紹介業、人材派遣業、警備業などの専
所関連部門
門サービス業
2) 対 個 人
日常生活関
洗濯・理容・浴場業、その他の個人サービス業(写真業、衣服裁縫修理業、葬儀・火葬業など)、
サービス
連部門
自動車整備業、駐車場業、その他の修理業など
業
余暇・教養
旅館その他の宿泊所、映画業、娯楽業、専門サービス業(個人教授所、著述家・芸術家業)など
関連部門
3)ニューサー
日常生活関
ビス業
連部門
余暇・教育
家事支援、高齢者支援(ケアサービス)、育児支援など
スポーツ・娯楽、新しい教育など
関連
情報・広告
テレマーケティング、インターネットマーケティング、インターネット取引市場(e マーケットプ
関連
レイス)、インターネット商店街、記事タイトル情報のFAX・インターネット送信サービス、イ
ンターネットサービスプロバイダー、アプリケーションサービスプロバイダー、インターネット
銀行、販促イベント出張サービス、企業 C I(コーポレート・アイデンティティ:企業シンボルな
どの統一)・社歌作成代行など
その他事業
イベント用品レンタル、絵画レンタル、POS(販売時点情報管理システム)情報の加工・分析、コン
所関連
ベンションサービスなど
サービス業では新しい業態が次々と生まれている。特にインターネットを活用したサービス
が大きくクローズアップされている。それぞれの業態に特徴がある。やはり個々にその特質を
捉えなければならない。多くのサービス業に共通する特徴には人に依存する要素が非常に大き
いことがある。人の育成なしには、企業が成り立たない。サービス業の経営システムには一般
的に経営戦略、サービス商品企画販売・営業、財務・会計、情報、人事・労務の各システムが
ある。
(5)企業特質を理解した経営指導
経営の実態を捉えるための基本的アプローチにおいては、まず企業が実績として残した財務
状況を現す主要経営比率をしっかりと捉えることが必要であるが、その諸経営比率で標準とな
る数値も当然業種・業態で違ってくる。経営成果を捉える場合に参考となる標準的な数値はど
のレベルか一義的には決められないのが普通である。例えば、小売業、卸売業、製造業、ある
いはサービス業の売上総利益率は、それぞれ 25~35%、10~20%、25~45%、50~95%の範
囲にあるのが普通である。また経営方針によっても異なる。
最終的には、企業ごとに妥当性を判断すべきである。成長性があり、資本効率がよく、安定
した経営が行われているかがポイントである。その観点から捉えれば、数値の違いに意味があ
るかないかが判断できるであろう。業種別比率は中小企業庁編『中小企業の経営指標』などが
参考になる。
(6)成長市場ヘアプローチしている企業の特質
今日、製造業、流通業、サービス業というような分類の範囲を超えて、新しい技術を活用し
た通信や情報処理事業、ニューメディアを活用した事業、インターネットなど消費者に直接開
かれたネットワークを活用して販売する事業が伸びている。フランチャイズ事業、あるいは企
業環境を捉えた法人向けのアウトソーシング事業、老人向けケアサービスなどシルバー世代を
対象に展開する事業も続々と現れ、各企業の内容は非常に変化に富んでいる。業種・業態はも
とより、企業の特質を個別に捉えていくことが必要となる。
(7)環境の変化と経営指導
企業の特質を考えるとき、その企業が置かれている環境も含めて捉えなければならない。従
来はよい方向に働いていた特質も環境が変化すれば、経営状況を悪化させる方向に働くかもし
ない。例えば、従来はじっくりと時間をかけて意思決定を行うことが結果としてよかったとい
うようなことが今日では致命的な遅れとなることもある。
また、変化する環境へ迅速に対応するためにスピードある意思決定、短期間での商品開発、
短納期要求への対応など、スピードある企業活動が求められている。顧客の要求をフルに満た
すために在庫を大量に持ち、在庫は財産であるといったような従来の考え方は今日では通用し
なくなっている。店頭での販売状況へ迅速に対応可能な生産体制の構築や装置メーカーへの迅
速な部品・ユニット納入を可能とするサプライヤー(供給者)としての体制づくりなどが重要
な要素となっている。環境を十分に見極めた指導が求められる。
4.経営者指導
経営者指導は経営活動の柱となる経営者の経営戦略と管理活動の機能をチェックし、これに
併せて職能活動の背景条件となっている経営者個人のリーダーシップ、それを支えている人間
性、人間的魅力などについて、統合的、定性的な分析評価を行い、経営者に期待される方向を
提示しようとするものである。
企業は人なり、といわれるとおり中小企業は経営者の人間的魅力で人材を集め、組織力を強化
して成長を期するべき性格をもっている。中小企業経営の成否は、トップで決まるといっても
過言ではない。
(1)経営者機能の指導
経営者指導の特殊性は経営指導員が時には経営者やその側近のプライバシーの領域まで助言
や指導するケースが存在する。
例えば、経営者個人の生活が乱れているために従業員の意欲が低下し生産性が著しく低い場
合などである。個人的な生活態度について反省を求めるような指導を行う場合、最も問題とな
ることは経営指導員自身が信頼される人格識見をもち、人生経験も豊かでなければ相手に通じ
ない。したがって、経営者指導のできる条件としてある程度の人生経験が必要であり、ここに
他の経営指導などと比較して定量分析が困難であるという特殊性がある。
若くして優秀な能力をもつ経営指導員は少なくないが、相手と人生を語り、相手の心を変え
ようとすることは通常難しい。
企業成長の裏には必ず経営者個人の優れた人格、識見、行動力、情熱などがある。また、倒
産や経営不振の背景にも経営者個人の考え方の甘さや不徹底さ、曖昧さがあることを思えば、
経営指導の中でこの経営者指導の重要さが推察できる。言い換えれば、企業の業績は経営者の
経営に対する姿勢の投影であるともいえよう。同時に現業部門の問題点もすべて経営者自身の
問題点に帰するといってよい。
(2)経営者指導のあり方
中小企業の経営成果は経営者に権限と責任が集中化しているために経営者個人負うところが
圧倒的に多い。
そこで問われる問題は経営者の能力と意欲である。規模を拡大する場合は権限と責任を部下
(社員)に委ねていくことも経営能力の大きい要素となる。
時によっては、環境変化に対応するために経営者の意識自体を 180 度改めるか、経営者を交替
しなければならない場合もあろう。
経営成果のあがらない経営者タイプには次の傾向を示す場合が多い。
①能力、知識はあるが意欲がない経営者
②意欲(ヤル気)は十分だが、知識・技術的な能力に欠ける経営者
③企業を私物化している経営者
そこで、①の場合の指導方法としてはいかにやる気を出させるか、経営者のモチベーション
が問題となる。後継者に経営権を委譲することも有効であり、これを促すことが必要な場合も
あろう。企業が生き抜くために現在何が重要かを従業員とともに考えることが経営者に求めら
れる。
②の意欲はあるが能力的に未成熟な経営者については研修に参加させるなど、学習のしかた
を教えてグループ化して能力をつけさせるような場づくりをすることも効果がある。
一方、経営者の能力の限界をつかむことも重要である。企業は経営者の能力以上に大きくは
なれず、レベルに応じた段階的な指導や教育訓練も望まれる。指導の狙いの一つは,経営者に
対して現状を正しく認識させて問題意識をもたせることである。本人の自覚をどう促すか、こ
れはまさしく経営指導員の能力による。
③については従来員のモラルや定着率に大きく影響する問題であり、労働の対価が賃金・給
与であって、人格は平等であるという意識革新を促すことである。企業の私物化意識からの脱
却を指導する必要がある。
(3)経営者の位置づけと指導テーマの理解
経営指導の目的は企業の長所を伸ばし、問題点を是正することにある。指導手続には予備調
査と現地調査等があり、いずれも経営指導の核機能である。
経営者指導では指導申込み時点の予備調査で指導の動機や経営に関する問題意識(何を問題
点として認識しているか)、社歴、企業規模や業績の推移、主要扱商品などの概要をつかむ。
この申込書と受付時点の面接とデータの収集によって、予め指導の重点がどこにあるかをつ
かむことが重要である(仮設問題点の設定)。
特に経営者指導の位置づけを「全体を動かす核的な部門」としてとらえ、人生体験の深い指
導員が担当するのが原則である。
経営者指導はその経営システムの中のトップ機能つまり経営目標を設定し、それを達成する
ためにヒト・モノ・カネを活用しての組織化を通じて自らの責任で遂行することといえる。
特に中小企業においては「企業即経営者」の性格があることから、この部門の重要性があると
いえる。この点から職能遂行の背後にある人間性や理念を含めて検討すべきである。
(4)各部門診断からみた経営者機能
経営指導は経営者指導に始まり、各部門の指導、関係機関などの調査を通して再び経営者の
評価と今後のあり方について検討することが適切である。
単に経営者サイドとの面談や一方的な意見聴取のみで結論を出すべきものではない。
例えば、
販売計画ができていないという場合、経営者の能力や意識が不足していることから生ずるケー
スも多い。
販売計画が作成されていても実績とのズレが是正できないという場合、その原因は販売計画
が販売現場の意志を無視した経営者の押しつけ計画であることによるケースも多い。
例えば、中小企業でありながら経営者のキャリアが大企業総務畑出身であると往々にして諸
規程及び経営計画や販売計画については極めて優秀であるが、営業現場との連動性が乏しく、
現場サイドの具体的目標としてのブレークダウンがされていない。その時には経営者の姿勢と
ボトムアップによる現場意見の吸収策を指導することが求められる。
(5)指導の重点事項
経営者診断のチェック項目として以下の点を確認しておく必要がある。
①経営者がもつ職能を経営者自身がよく理解し、現状において本来の戦略的計画機能を重視し
てさらに積極的に実践するためのリーダーシップを発揮しているか、
日常の業務分析、
専従度、
モラールサーベイ(士気調査)等。
②権限委譲についての努力
③組織化について適切な方針と成果
④経営内外における人間的信頼性
(6)中小企業が伸びるために解決すべき事項
中小企業は成長し規模を拡大するだけが重要であるとはいえない。しかし少なくとも成長志
向をしている中小企業が容易に成長できない以下のハードルが存在している。
①権限委譲の困難性
中小企業の経営者は多くの場合現場で自らをきたえ、現場作業に自信を持っている(ワンマン
経営になる要因)。
従業員を増やし一応組織を作っても形だけのものとなり、責任と権限を明確にして委譲する
という決断が容易にできない。他の人がすることは見ていられない心情である。
従業員を育てるためには一時的に失敗してもこれを見守り、
本人の努力で問題を解決させる
という忍耐が必要である。
中小企業が成長するためには教育投資とともに権限委譲については己れにうちかつことが最
大の課題であるといってよい。
②同族支配のデメリット
従業員に芽を与える企業は伸びるが、努力しても将来性が見込めない企業は従業員にヤル気
を出させる要素に欠ける。同族支配の企業はその代表的なタイプである。一般従業員は経営者
とその同族のために働かされるという見方が定着すると相互に不幸な結果がでることは明らか
である。
同族企業ではどんなに無気力でも能力がなくとも、社長の子息であるが故に経営の後継者と
なる場合が多い。この場合同族外の有能な人材は企業を去っていくことになる。近親者のみが
要職に付きトップ'になれるという経営体質は一般従業員にとって希望がない職場に違いない。
そのような企業が活力を失い顧客に対してサービスの悪いイメージを与えることはいうまで
もない。近代的な労使関係を創りあげ人事の公平性をもつことが求められる。同族支配は株式
の所有形態にも明らかに現れる。従業員が経営参加できない企業はモラルが上らないのは当然
である。
近年、成長企業においてみられる現象の一つに持株制の採用、従業員の経営参加が挙げられ
るが、これは経営者のよきリーダーシップの現れである。
②経営者専従度の低さ
経営者の肩書が多く、1 日のうちほとんどの時間が企業活動以外で費やされているケースな
どは放任経営そのものであり、経営者不在の企業といえる。片手間経営では企業は伸びないこ
とは論をまたない。
③管理体制の低次元性
計数管理が不十分であることは中小企業の共通的問題点である。従業員に権限を委ねること
は決して放任を意味するものでなく、科学的・合理的な基準に基づいて売上高のノルマ、利益
のノルマを与え、一方では報告制度を採用し計数管理を十分行うことである。いつ、どれたけ
売るべきかを設定することは企業の目標管理につながる。
したがって、
計数管理レベルの評価は規模拡大の必要条件のポイント事項である。
年間計画、
商品・部門別計画がその中身である。
④社内のコミュニケーションの不足
モラールサーベイ(士気調査)をすればこの点かなり明らかになる。社員同志は仲がよいが
上下の意志疎通が悪い企業は少なくない。この要因を分析して経営者の姿勢を正すことは極め
て重要である。
(7)経営理念指導
経営理念は企業という組織が何のために存在するのかを述べたもので、従業員が思考や行動
の拠り所とするものである。今日、経営理念はよい企業文化を創出するためにも重要な役割を
果たしているといわれており、企業にとって重要な価値を持つ。したがって、企業の指導に先
立ってどのような経営理念が示されているか、どのような企業文化を持っているかを理解する
ことが非常に重要となる。企業文化はその構成員によって共有された価値、理念、規範であり、
ものの考え方や思考様式、行動規範を意味する。顧客第一、行動重視、企業家精神、創造的な
積極性を尊ぶ価値観、厳しさと穏やかさなどが優良企業の特性として挙げられている。
①行動の原点としての理念
成功した経営者にはそれを支えた経営理念が必ず存在する。経営理念とは経営に取り組む考
え方、信念、信条をいう。行動の原点であり経営哲学という人もある。指導する場合、企業活
動は創業の精神や信条があって現在があるとみなければならない。
経営者が 2 世、3 世あるいは老舗であれば、暖簾を守るための家訓、社是などの商い哲学が
伝承され、先代のしつけや親の指導を受けて育つなかでその人の人生観が形作られ、経営体験
のなかで経営理念が生まれる。経営者のパーソナリティの背後を探る領域である。
したがって、ある程度人生経験をもち、失敗や挫折をしないと確立されない。単に知識や机
上の理論から生まれる性格のものでない。
体験から生まれた信条や信念であればこそ経営者としての個性となりリーダーシップにもな
り、社会的な信頼にまで延長されるのである。
②理念の社会性
現在のように企業の社会的責任が高まると、経営者のもつ理念のあり方、その中身が社会性
を認識したものか否かが問題となる。企業の社会性は経営規模が拡大するに伴って影響力を増
してくる。広範な市場を対象として多数の株主や従業員を抱えることになるからである。しか
し、中小企業といえども地域の中でその地域に市場をもっている場合も多く、地域性はより深
くなる。この点から経営者は社会的倫理観をもつことが重要な条件となる。
商品の安全性、価格の適正化、生活を向上させる情報活動など経営活動を通しての地域への
貢献度を高めることが企業の安定成長を可能にする条件となる。
③理念のマーケット志向性
激動の現在、顧客志向の経営姿勢をもっているかが問題となる。企業の販売する商品(製品)
はマーケットの支持があってこそ売れるのである。変化する市場のニーズにあった商品をつく
り、あるいは仕入れることが企業の基本的機能であり、消費者の支持が得られることになる。
経営者が顧客第一主義、あるいはマーケット志向する重要性がここに存在する。
経営者が買手の立場から経営の方向づけをする姿勢、マーケティングマインドをもって経営
活動に当たっているかを評価し、適切なアドバイスをすることは重要な問題である。
④社是・社訓・家訓
経営指導のなかで家訓や社是の領域を重視するのは近代や合理化経営を志向すべき現在にお
いては妥当でないという見方があるかもしれない。
しかし、必ずしも科学的管理と暖簾を守る商方法は矛盾するものではない。むしろ経営は心
と手法の両極をもって初めて安定していくものと解すべきである。
これらは社会環境がどう激変しても企業を維持し、存続させるためのノウハウを生活の知恵
として守る企業が合理化にも徹し、内部を革新し明日に向かって現在を大切に生き抜く考え方
である。また、これは社歴の重みも示すものである。
老舗の要件は先祖代々の業を守り継ぎ、常に繁昌していることであり、顧客の信用という無
形財産を何よりも大切にする商法といえるであろう。まさに暖簾は顧客や社会がその企業によ
せる信用を指すものである。したがって、老舗といわれる企業の経営者は伝統の心を守り、い
つの時代かには思い切った発想のもとに内部の改革もしてきたのである。
常に時代の要請に対応する努力を続けたからこそ老舗といわれるようになったのである。老
舗は暖簾を職人的な根性と先祖から受けつがれた心と信用を喜んで引き受け、さらに前進させ
ようとする後継者があって成り立つ。そこには家訓・社是があり、その背後に人生の哲学があ
る。さらに生活の信条がある。
経営指導に当たり応接間に社訓などの額をよく見る。これが現実の経営活動の精神的基盤と
なっているか否か、さらに幹部、一般従業員に浸透しているかをモラールサーベイ(士気調査)
や面接を従業員に実施することなどにより確認する必要がある。
(8)経営者職能の指導
①経営者職能の理解度
業績不振のある経営者が言う。
「私は 1 人で仕入から販売さらに仕入から経営まですべてや
らねばならない。従業員は 5 人いるが任せきれず、本当に 1 日が忙しい。だから研修会にも出
席できない。
」
この経営者は非常に努力はしているが、その努力の中味が果たして有効であるか否かが問題
となる。この場合、経営者本来の職能を理解していないといわざるを得ない。
②経営者の本来職能
経営権とは経営者の基本的には他人には譲れない職能であり、組織化と執行責任をいう。経
営者が自己の責任権限において、ヒト・モノ・カネの経営資源を運用し、利益を得て資本を増
殖する一方、社会の欲求に対応して物を生産、販売する。組織化はそのために絶えず企業組織
全体を活力あるものとしていくリーダーシップが求められる。
さらに執行するルールとしては具体的な経営活動の目標を設定し(従業員に認識させ)、管理
し、結果を評価する機能をどう指導するかをテーマとする。
経営者が木は見みるが森を見ないのは失格であり、森を見て木を見る、木の育て方を考える
余裕と戦略が欲しい。
③計画と実践のバランスを図る
経営者は常にこの予算表を中心に目を各部門の活動状況に配りつつ、スムーズに計画が達成
できるよう指導し、統制していくのである。
ソロバン片手に現場に顔を出して、常に計画と実践のバランスをとっていくリーダーの役割
を自覚していなければならない。
経営指導において留意すべきことはバランスである。経営者の本来機能が部分に入り込むと
全体バランスは崩れる。
中小企業の経営計画がコンピューターを導入して微細に作成されても、
独り経営者のデスクに止まり、現場の管理者は一切計画にはタッチせず、バラバラな作業が行
われているケースが少なくない。
逆に経営者が大局的な計画化を不得手として、自ら現場に入りすぎて木を見て森を見ずの企
業もある。この場合、各部門間の均衡化とコミュニケーションを特に重点的にチェックするこ
とが必要である。
第Ⅴ章 金融
〈第Ⅴ章のポイント〉
1.経営指導員と金融相談における留意点
経営指導員は最新の金融情勢を把握するとともに、真に適切な金融相談・指導を実施し、会
員事業者の資金繰り安全化に寄与していくことが望まれる。
2.経営指導におけるチェックポイント
(1)資金が本来の事業運営に必要なものであるかどうかのチェック
(2)資金の申込み金額が返済可能な額であるかどうかのチェック
(3)借入金以外に資金調達の方法が取られるかどうかのチェック
(4)最も妥当な資金の調達はどの方法かのチェック
(5)資金の借入に当たって、家族等の関係者の同意はとっているかのチェック
3.金融機関の分類
金融機関を選ぶ場合のポイントとしては、会員事業所の各々のニーズや、使途に応じて最も
妥当と思われるところを選択することであり、有効に組合せた協調融資等の指導が必要な場合
もある。
4.金融手順の概要
経営指導員は、借入れする側と、貸手側の双方からの手順及び手続きを理解しておくことで、
円滑な資金導入の指導が可能となる。
5.経営改善貸付(小企業等経営改善資金貸付)
小企業者等の経営の改善を図るために行われる、商工会にとっての金融の中心的な業務であ
る。審査のポイントとして以下の流れと融資推薦書及び推薦付属書の記入要領を理解しておか
なければならない。
(1)借入意思の確認
(4)推薦事務
(2)審査会
(5)融資の決定及び通知
(3)事前検討
6.信用保証制度の理解
金融相談や指導を行う経営指導者にとって、信用保証制度の理解は不可欠な要件である。指
導員、
金融機関及び信用保証協会が緊密に連携をとりながら手続きを進めていかねばならない。
制度資金の利用の場合にはこの制度が特に重要である。
7.資金繰り計画
資金繰りとは、現金預金の収支の均衡を図るためにできるだけの方策を講じて収支の差額、
過不足をどのように処理するかということである。
8.金融用語の解説
金融に関する主な用語は、専門的な言葉や特有の言い回しになっている場合も多く、意味や
内容が理解しづらい場合も少なくないため、確認をしておく必要がある。
9.滋賀県中小企業制度資金の概要
1.経営指導員と金融相談における留意点
商工会業務における金融相談及び指導業務は、会員の期待するニーズの主な業務のひとつで
ある。
特に、バブル崩壊以降の急速な景気低迷と、資産デフレの影響で、中小企業の資金繰りは急
速に悪化し、長期低利の資金需要が大幅に増加する傾向となった。このような状況下において
国、県等の制度資金や、政府系金融機関の融資制度もその対応のために、頻繁に改正等される
ところとなっている。
経営指導員として最新の金融情勢を把握するとともに、
真に適切な金融相談・指導を実施し、
会員事業者の資金繰り安全化に寄与しなければならない。なお、事業所が資金の借入を希望す
る場合の具体的な例示として次のような場合が想定される。
(1)運転資金
① 商品の仕入資金
○ 店舗を広げたので商品の品数を増やす。
○ 在庫の補充をする。
○ 取扱商品を新しい商品に切り替える。
② 資金繰り資金・決済資金
○ 買掛金や手形の決済をする。
○ ボーナスの支払い資金を手当する。
③ 設備未払資金
④ 経費の支払資金
○ 外注費の支払をする。
(2)設備資金
① 工場・店舗などの建設資金
○ 工場・店舗の新築、増築、改築や改装をする。
○ 従業員宿舎や厚生施設を新築する。
② 機械・車両などの購入資金
○ 経営合理化のために高性能の機械を購入する。
○ 機動力を増すために車両を購入する。
○ 什器・備品を更新する。
2.経営指導におけるチェックポイント
経営指導員が会員に対して行う、
金融指導のチェックポイントを列挙すると次の通りである。
(1)資金が本来の事業運営に必要なものであるかどうかのチェック
会員の資金の申込みについて、指導員が相談に乗り、指導を行えるのは、基本的には事業運
営に必要な資金の需要に対してである。会員の事業に関係しない生活資金である場合や、時に
は、個人的な資金を事業資金と仮装して申込みが行われる場合もある。指導員は決算書や資金
繰り表、見積書等を十分に考査し、当該資金の需要が会員の事業運営に真に必要なものである
かどうかを判断しなければならない。
(2)資金の申込み金額が返済可能な額であるかどうかのチェック
会員の資金の申込み金額が、当該会員の事業規模等から見て、適正であるかどうかの判断を
しなければならない。運転資金の場合であれば、概ね、一年以内に返済資金が確保できなけれ
ばいけない訳であるから、
試算表等から推定するとともに、
返済資金の確保の方法についても、
会員に対して確認しておかなければならない。
また、設備投資等の長期資金についても償還計画表等の作成を通じて、事業者に一カ月(又
は一年)当たりの必要な償還原資の額を明らかにしておかなければならない。
(3)借入金以外に資金調達の方法が取られるかどうかのチェック
会員は、事業運営における資金の不足を、借入金により対応しようとする傾向が強いもので
ある。しかしながら、借入金による資金調達は支払利息という新たなコストの増加を伴うもの
であり、場合によっては、第三者に対しての保証依頼や、担保不動産の提供という事にもつな
がってくるものである。
従って、借入金という資金調達以外の方法についてまず検討し、その対応を検討した上での
申込みでなければならない訳である。具体的には、次のような方法を講じる事により、結果的
には借入金導入と同じ効果を生む事になる。
<借入金以外の資金調達の方法(実質的に同じ効果を生む方法も含む)>
1. 定期性預金の取り崩しによる資金化
2. 売掛金(未収金等)の早期回収による資金化
3. 保険契約等の長期性掛金の積立額の全部又は一部解約による資金化
4. 借入金や買掛金及び未払金等の返済(又は支払い)条件の変更による資金
負担の軽減化
5. 在庫や貯蔵品の処分による資金化
6. 増資(又は元入金の増加)による資金の調達
7. 所有不動産の処分による資金化
8. 借入金からリース契約への調達変更
(4)最も妥当な資金の調達はどの方法かのチェック
借入金による資金導入を図る場合、金融機関が独自の資金で融資を行う場合と、県や市町村
が直接的又は間接的に資金供給する制度資金を利用する場合とに分かれる。
滋賀県における主な制度資金については本章末に記載の通りであるが、経営指導員としては
基本的に長期低利である制度資金の利用を会員に勧め、どの資金が要件に該当するかを検討す
る必要がある。
(5)資金の借入に当たって、家族等の関係者の同意はとっているかのチェック
借入金の導入に当たっては、当該会員が配偶者等の親族の同意を取っていない場合もよく見
受けられるところである。保証人等の徴求が行われる以外には、法律上の要件として必要とさ
れるところではないが、後日返済が延滞となった場合に、円滑な指導に支障をきたすこともあ
る。会員からの申込み時において総合的に判断し、必要な場合は、家族や関係者も含めて指導
を実施することである。
3.金融機関の分類
金融機関の種類については、次のような分類をすることができる。
民間金融機関
普通銀行
都市銀行
地方銀行
第二地方銀行
信託銀行
信託銀行
その他
信用金庫
金融機関
信用組合
ノンバンク
信販会社
リース会社
消費者金融会社
保険
生命保険会社
損害保険会社
政府系金融機関
公庫
国民生活金融公庫
中小企業金融公庫
商工組合中央金庫
独立行政法人
中小企業基盤整備機構
金融機関を選ぶ場合のポイントとしては、事業者の各々のニーズや、使途に応じて最も妥
当と思われるところを選択することであり、有効に組合せた協調融資等の指導が必要な場合
もある。
尚、滋賀県などにより設立された公益法人として、財団法人滋賀県産業支援プラザがあり、
ベンチャー企業に対する支援事業や小規模企業者の設備資金導入等の幅広い支援を行って
いる。
4.金融手順の概要
金融手順については、金融機関独自の手続きもあるが、基本的な要件等は概ね同様と考えて
もよい。
借入れする側と、
貸手側からの手順をまとめると次のようなものであるが、
指導員としては、
双方の手順及び手続きを理解しておくことで、円滑な資金導入の指導が可能となる。
手順
借入申込者
金融機関
*事前相談
◎ 借入打診
◎ 事情聴取
◆借入希望金額
◆企業の希望に適した融資商
◆資金要因
品の選択・提示
:資金が必要になった理由
◆借入関係一件書類の交付
◆借入希望時期
◆審査資料の明細交付
◆ 調達計画
:法人登記簿謄本または
:自己資金の有無
履歴事項全部証明書
:他金融機関借入併用の場合は
(3 ヶ月以内)
その内容
:確定申告書控
◆返済計画
(最近 2 期分)
:長期・短期返済等、返済期間
<法人>
の希望
決算書(勘定科目明細書を含む)
:元利均等・元金均等など返済
<個人>
方法の希望
・青色申告書および青色申告決算書
:据置期間の希望の有無
・白色申告書および収支明細書
◆担保提供の可否
:試算表:見積書
:担保物件の概要
:事業計画書
◆保証人の有無
:不動産登記簿謄本・公図
:保証人の概要(氏名・続柄等)
:他の金融機関借入内訳書
:営業許可証・認可証
・資格、免許を証明するもの
:その他、指定の資料
*借入申込
◎ 借入用一件書類の提出
◎ 審査資料の提出
*融資実行手 ◎ 金銭消費貸借契約の締結
◎ 担保設定手続き
続き
*返済
◎ 返済開始
:銀行口座自動振替
:銀行振込・郵便為替
:持参振込み
◎ 審査着手
:面接審査
:実地審査
◎ 融資の諾否決定
◎ 貸出決定通知書の発送
:融資金額・返済条件
・金利・担保条件等
◎ 融資資金の交付
:銀行振込・店頭交付
◎ 事後チェック
:融資金の使途確認
:返済履行状況
5.経営改善貸付(小企業等経営改善資金貸付)
(1)目的
小企業者等の経営の改善を図るものである。
(2)融資対象者
◆経営指導による推薦
①商工会又は都道府県商工会連合会(以下「商工会等」という。
)
、商工会議所の実施する
経営指導を受けている者で、会議所等の長の推薦を受けた者に限る。
推薦を受けるには、次の条件をすべて満たしていることが必要である。
1)原則として 6 ヶ月以上、会議所等の経営指導を受けていること
2)最近 1 年以上、同一会議所等の地区内で事業を営んでいること(ただし、移転の場合は
移転前の地区において 1 年以上事業を営んでいること)
。
3)所得税、法人税、事業税又は都道府県民税や市町村民税(均等割を含む。
)をすべて完納
していること。
4)商工業者であり、かつ国民生活金融公庫の非対象業者でないこと。
◆事業規模
②個人又は法人で、次のいずれかの事業規模の者
1)常時使用する従業員が 5 人以下(商業・サービス業の場合 2 人以下)の個人又は法人
2)常時使用する従業員が 6 人以上 20 人以下(商業・サービス業の場合は 3 人以上 5 人以
下の者であって、その経営内容が上記 1)の者と同様の実態にある個人又は法人
(3)資金使途
◆運転資金・設備資金
経営改善に必要な事業資金(運転資金又は設備資金)であること。
〈参照〉生活衛生関係の業種(飲食店、喫茶店、食肉・食鳥肉販売、氷雪販売、理容、美容、
興行場、旅館、浴場、クリーニングの 10 業種)の者は、この貸付では運転資金に限
られる。設備資金については、生活衛生改善貸付で取り扱っている。
(4)融資限度
◆550 万円のほか、別枠 450 万円
(注)1)別枠の融資の取扱期間は、平成 18 年 3 月 31 日までである。
2)本貸付と生活衛生改善貸付との貸付残高の合計は 550 万円以内(本貸付及び生活衛
生改善貸付の別枠 450 万円を除く。
)であることが必要。
3)本貸付と生活衛生改善貸付及び流通業整備貸付等の無担保・無保証人による貸付(生
活衛生整備貸付のうち無担保・無保証人による貸付を含む。
)の貸付残高の合計は、
合わせて 1,050 万円以内(本貸付及び生活衛生改善貸付の別枠 450 万円を除く)で
あことが必要。
(5)融資条件
①利率
特利F
②融資期間
1)運転資金 5 年以内
2)設備資金 7 年以内
(注)平成 18 年 4 月 1 日からは、運転資金 4 年以内、設備資金 6 年以内となる。
3)据置期間 6 ヶ月以内
4)返済方法 元金均等の割賦払い(毎月払い)
5)保証人・担保
必要なし(無担保・無保証人)
(6) 審査のポイント
①借入意思の確認
新規申込・再申込は必ず面談により確認する。借替申込・重複申込は原則として面談により
確認する。面談ができない事情がある場合は、電話により確認する。その場合には、来電では
なく、商工会議所等から電話を行い、必ず確認を行った日時、連絡先、確認内容について推薦
付属書に記載する。
法人で代表取締役が複数いる場合は代表取締役全員に確認する必要がある。
②審査会
◆審査会への付議
1)金融課(または係)は、経営指導員から提出された案件をとりまとめ、
「推薦依頼者一覧表」を
作成し、審査会へ付議するものとする。
2)次の全てを満たす案件については、審査会での決定にかえて、審査会の委員長の判断で推薦
を決定し、審査会への付議を省略(以下「審査会の簡略化」という)できる。ただし、貸付残高
金額が 550 万円超になる案件については、審査会の簡略化はできない。
a.商工会等の記帳指導を現に受けている者又は記帳機械化システムの利用者、その他伝票等
帳票類から経営指導員が経理内容を確実に把握している者であること。
b.マル経、変経、国経、緊経、消費税導入円滑化貸付、中小企業経営基盤強化特別貸付、中
小流通業活性化特別貸付及び中小流通業発展基盤整備貸付についての貸付残高を有する者又は
完済後 3 年未満の者であること。
c.公庫取引について、貸付残高を有する者については、原則として払込回数に占める延滞の
割合が 10%以下であって、かつ、最近 6 ケ月以内の返済に遅延がないこと。
また、完済者にあっては、直近の完済債権について原則として払込回数に占める延滞の割合が
10%以下であること。
d.実際経営者、主たる事業所(店舗・工場)、業種、主力商(製)品、売上高、借入金、営業成果
としての所得金額等企業の維持継続上重大な影響を及ぼす事項に著しい変化がないこと。
3)審査会の簡略化をした案件に係る「融資推薦書・推薦付属書」は様式の適宜の箇所に○
略の
表示をする。
4)審査会の簡略化をした案件(否決、取消を含む)については、直後の審査会へに報告するとと
もに、
「審査会への報告について」により国民生活金融公庫へ報告する。
◆審査会の開催
1)審査会は随時開催し、審査委員の過半数の出席をもって成立するものとする。(例えば、審査
委員が 4 名の場合には 3 名以上、6 名の場合には 4 名以上の出席が必要)
2)審査会は金融課(または係)から付議された案件について、本制度による融資に適するか否か
及び推薦金額を審査し、推薦可否の最終判断を行うものとする。
3)審査会が推薦の最終判断を行う場合には、出席者の全会一致で行うものとする。
4)審査会は、必要により金融課(または係)に再調査をさせることができるものとする。
5)持ち回り決済を行うことにより、審査会の全会一致とすることは、認められていないので、
必ず審査会を開催すること。
③事前検討
1)次の要件を満たす案件については、審査会又は審査会の委員長が推薦の判断をする(審査会の
簡略化)前に商工会議所等から国民生活金融公庫に対し、事前に当該案件の検討を依頼すること
ができる。
a. 融資後の返済について懸念がないこと。
b.資金の緊要性、妥当性が認められること。
2)事前検討を依頼する案件には「融資推薦書・推薦付属書」
、
「推薦書送付書」及び「推薦審査
結果について」には、それそれの適宜の箇所に○
前 の表示をする。
④推薦事務
1)審査会の審査の結果、推薦すべきものと判断された案件については、会頭又は会長の認証を
得て「小企業等経営改善資金融資推薦書」(以下「融資推薦書」)により、会頭名又は会長名を
もって国民生活金融公庫に推薦するものとする。
2)「融資推薦書」は、
「推薦書送付書」により国民生活金融公庫あて送付するものとする。送付
にあたっては、当該推薦案件に係る審査会に出席した審査委員全員が署名捺印した審査結果の
書面「推薦審査結果について」を添付するとともに、当該企業にかかる「推薦付属書」
、
「借入
申込書」
、
「設備の見積書」
、法人の場合は「会社の登記簿謄本」
、
「小企業者に準ずる者」であっ
て必要と認める場合及び前期の売上が対前々期比で 1 割以上低下又は借入金回転期間が 4 ケ月
以上の場合並びに残高金額 550 万円を超える推薦を行う場合は「補助票」を添付する。
⑤融資の決定及び通知
1)融資の可否は、国民生活金融公庫が決定する。
2)貸付決定の場合
商工会等に対しては、
「融資決定状況通知書」を送付するとともに、電話等により速やかに連
絡する。商工会等は、この結果に基づき、遅滞なくその旨を「融資決定のおしらせ」により、
当該企業に通知する。
また、国民生活金融公庫から、貸付が決定次第、借入申込人に対しては、
「ご融資のお知らせ」
と「借用証書」等を送付し、決定状況を通知する。
3)否決等の場合
事前に国民生活金融公庫から商工会等に対し、連絡する。この後に、国民生活金融公庫から
当該企業に通知を行うが、商工会等においても適宜に方法により通知する。
(7) 融資推薦書及び推薦付属書の記入ポイント
① 融資推薦書
◆申込人
1)商号
業種、氏名等から見て不自然さはないか。法人の場合、複代表、共同代表ではないか。
2)代表者の生年月日
高齢の場合、後継者の有無を確認したか。
◆推薦金額
借替金は運転資金としたか。貸付限度を超えていないか。衛経の残高がある場合は、これを
含めて貸付限度を超えていないか。(マル経+衛経≦550 万円、変経+変衛経≦450 万円)
◆返済回数
返済回数一覧表を確認したか。同一覧表の返済回数は最長の貸付期間に対応している。据置
期間を含めて貸付期間を超えていないか。
「据置 6 カ月」の場合は、据置期間が 5 カ月超 6 カ
月以内として取扱う。
② 推薦付属書
◆面接
申込人本人(代表者本人)以外の場合は、申込人との関係を記入したか。申込人本人(代表者本
人)に対し借入意思の確認を行ったか。
◆業種
非融資対象業種を併業していないか。また、業種及び取扱品は具体的に記入しているか。複
数の業種を営んでいる場合、全ての業種を記入し、主たる業種に○を付す。
許認可業種の場合、許認可証で許認可番号についても確認する。営業名義人と実際経営者が
異なる場合に両者の関係を記入する。
◆常時使用する従業員
継続して 3 カ月以上雇用されている従業員か。法人の役員、個人の事業主と生計を一にする
3 親等内以内の家族従業員は除いたか。法人代表者の家族従業員は含んだか。技術者及び有資
格者数、キーマン、定着性は確認したか。
◆業歴
管内での営業年数が 1 年末満の場合、直前地区での営業年数が 1 年以上か。
◆申込人略歴
経営者の経営能力の判断基準となるものを記述したか。
1)特殊技術、各種資格等が必要な業種の場合、それらを有しているか。
2)業歴が浅い場合等、開業時の資金調達をどのように行ったか。
3)経営者が斯業経験を有するか。また、健康であるか。 後継者は育っているか。
4)倒産歴や金融事故歴はないか。転廃業歴がある場合には潜在負債がないか。
5)経営者のイメージが把握できるように客観的かつ具体的に記述したか。
◆取引関係
具体的に記入したか。立地の影響を受けやすい業種はとくに具体的に記入する。
取引基盤に安定性が見込まれるか。業界の商慣習と比較してどうか検討したか。財務内容と矛
盾していないか。代金回収・支払条件はバランスがとれているか。
◆店舗工場等
業歴からみて不自然さはないか。財務内容及び資金使途との関係はどうか。設備の精鋭度合
はどうか。老朽設備ではないか。遊休設備はないか。
◆納税状況
税額がない場合は 0 と記入する。納税期限到来分を完納しているか。
◆最近の営業概況
1)売上高
過去 2 期間の業績と比較してどうか。売上のトレンドは把握したか。変動のある場合(季節変
動含む)は理由等を調査結果欄に記載する。決算後 6 カ月以上経過している場合は、試算表等で
売上高を確認したか。粗利益率は、業界水準と比較してどうか。
2)その他収入
具体的に表示しているか。
3)過去 2 期間の実績
前で売上高を把握した期間を除く、過去 2 期間分の記入する。欠損の場合は、その理由、対
応状況、今後の見通し等の検討を調査結果欄に記載しているか。
4)資産、負債
販売・仕入条件と矛盾していないか。資産と負債とのバランスはどうか。また、
「資産及び負
債」欄の資産及び負債状況+自己資本の合計額は一致するか。前期との増減に異常値はないか。
高額の雑勘定科目はないか。在庫は過大ではないか。
5)売上増減
売上高の増加又は減少がある場合は、要因を調査結果欄に記載したか。売上が 10%以上減少
している場合は、補助票による返済計画の検討を行ったか。
6)借入金回転率
借入金回転期間が 4 カ月以上の場合は、補助票による返済計画の検討を行ったか。個人事業
者の場合は、借入金に非事業性の借入金(住宅及び教育にかかる借入金等)を含めたか。なお、
資産状況には、個人所有の不動産(自宅)も含める。法人の事業者の場合は、代表者及び役員か
らの借入金は、借入状況等を確認し、返済負担を伴わない場合は、算出する借入金から除外し
たか。なお、この場合は、
「最近の営業概況」欄の借入金に含めず「その他」欄に区分するか、
借入金から除いた旨を記入する。
◆不動産
初回利用者は不動産登記簿の閲覧又は直近の不動産登記簿謄本の徴求により調査を実施した
か。業種・業歴からみて不自然さはないか。
◆借入金の内訳
長期借入金が 4,000 万円を超える場合、例外として取扱う理由を検討したか。
◆資金計画
1)資金使途
資金使途は適格か(生活衛生業種の設備は不可)。運転資金の場合、財務内容及び資金繰りか
らみて妥当か。設備資金の場合、売上規模等からみて過大ではないか、また、当該設備は設置
可能か。
2)資金調達
返済計画、資金調達に無理はないか。また、不足分の調達先及び自己資金の裏付けはとった
か。設備資金に伴う運転資金の調達を念頭においているか。
◆経営指導員による調査結果
1)事業概要及び本資金による経営改善の内容とその効果
企業の維持力、将来性、問題点等について検討した結果、その事業所のイメージが把握でき
るよう簡潔に記載したか。資金の必要性(効果)を具体的に検討したか。
2)事業所の状況
各状況等について事業所のイメージが把握できるよう客観的かつ具体的に記述したか。過去
の状況と比較して大きな変化はないか。
3)特記事項
欠損の理由、対応状況、今後の見通し等の検討を行ったか。必要に応じて金融機関、同業者
の評価等を記載する。各項目で検討を行った結果について必要に応じて検討結果を記載する(遊
休設備及び老朽設備の有無、従業員の仕事振り及び定着性等)。現在マル経の取引がなく過去に
取引があった場合は、
「○年○月○万円利用あり」等の文言を記載したか。長期借入金が 4,000
万円を超える場合、例外として取扱う理由を記載したか。
6.信用保証制度の理解
金融相談や指導を行う指導者にとって、信用保証制度の理解は不可欠な要件である。経営
指導員、金融機関及び信用保証協会が緊密に連携をとりながら手続きを進めていかねばなら
ない。制度資金の利用の場合には特に重要となってくる。
(1)信用保証協会の保証手続
①金融機関経由保証の場合
〔融資・保証申込み〕中小企業者は融資申込書と同時に信用保証委託申込書等を金融機関に
↓
提出
〔金融機関審査〕
金融機関は申込み中小企業者を審査
↓
〔保証依頼〕
金融機関は協会に保証を依頼
↓
〔審査・保証承諾〕 協会は中小企業者の要件、事業の内容等を審査の上、保証承諾
↓
〔信用保証書交付〕 協会は金融機関に信用保証書を交付
↓
〔貸付実行〕
金融機関は信用保証書に基づき貸付けを実行
②協会あっせんの保証の場合
〔保証申込み〕
中小企業者は信用保証委託申込書及び信用保証貸付依頼書等を協会に
↓
提出
〔審 査〕
協会は中小企業者の要件、事業の内容を審査
↓
〔融資依頼〕
協会は金融機関に融資を依頼
↓
〔金融機関審査〕
金融機関は申込み中小企業者を審査の上、融資を決定したときは、協
↓
会にその旨を通知
〔信用保証書交付〕 協会は金融機関に信用保証書を交付
↓
〔貸付実行〕
金融機関は信用保証書に基づき貸付けを実行
(2)代位弁済と回収
信用保証協会の保証付きで金融機関から貸付けを受けた中小企業者がその債務を履行できな
くなったときは、信用保証協会は、金融機関からの請求により中小企業者に代わって保証債務
を履行(代位弁済)する。信用保証協会が金融機関への代位弁済を行った後は、信用保証協会
に求償権が発生し、信用保証協会が中小企業者から債権の回収を行う。
なお、信用保証協会は債権の一部について債権回収会社(サービサー)に委託して回収を行
っている。
7.資金繰り計画
(1)資金繰り管理
資金繰りとは、現金預金の収支の均衡を図るためにできるだけの方策を講じて収支の差額、
すなわち過不足をどのように処理するかということである。
したがって、資金繰り管理とは現金預金の収支適合化の管理である。そのための用具として
資金繰り表を作成することが効果的である。資金繰り計画のためには資金繰り予算表(予定表)
を作成する。そして資金繰り統制のために資金繰り実績表を作成し、予算と実績の差異分析を
行うことが必要である。
期中管理については資金日報などを作成し、日々管理していく。また、事前管理としては資
金管理組織として内部牽制組織の確立が前提となる。それは、現金預金出納担当者と会計担当
者は責任を異にする別の人によって担当されることが望ましい。
資金繰り表とは資金の動きを、あらゆる収支項目のうえから総合的に明らかにするものであ
る。資金の動きは貸借対照表の比較分析を前提として作成されるために、資金の本当の動きを
示していない。資金繰り表はその欠陥を補うものである。
(2)資金繰りにおける留意事項
①資金と利益の関係の理解
現代の企業会計は、発生主義を基礎にしている。発生主義では現金や預金の出入りとは別に
売上と費用をつかみ、損益計算を行う。これに対し資金繰りは、現金や預金の収支であるため、
現金主義そのものである。
したがって、資金と利益とは関係なくそれぞれ計算が可能であり、利益に現金の裏付けはな
い。売上が多く上がっても現金がそれに伴って入ってこなければ、支払にあてるお金がないた
めに、資金繰りが苦しくなる。
②資金繰りのチェックポイント
ビジネスでは通常、売上が計画よりも少なく、入金は遅れ、支払いは計画より多く、早く出
金されるというのが現実である。資金繰りは、油断すると待った無しに危機が訪れるという性
格を持っている。むかしから「入金は少なく、支出は多めに読む」ことが資金繰りのコツとい
われている。これは資金繰りの先行きが非常に不確実なものだということを物語っている。
1)収入時のチェック
a.売上は予定通り確保できているか
b.売上代金の回収は予定通り進んでいるか
c.手形の回収状況はとうか
d.貸付金や未収金の回収状況はどうか
2)支出時のチェック
a.在庫が増えていないか
b.仕入代金の決済が遅れていないか
c.外注費は増加していないか
d.経費は予算オーバーしていないか
e.預貯金の残高はあるか
f.借入金の返済状況はどうか
g.予定外の貸付金が発生していないか
(3)資金繰りの注意事項
売掛金の増加は資金を減らすことになる。したがって、売上債権の回収期間を短縮すること
は資金の増加につながる。
また、受取手形の増加も資金を減らす。同時に製品、原材料なとの在庫の増加は資金を減らす。
したがって、棚卸資産の在庫期間を短縮することは資金の増加につながる。
買掛金の増加は資金を増やす。したがって、買入債務の支払期間を延長することは資金の増
加につながる。
資金繰りが苦しいとなれば、まず資金不足の原因を追求して、改善しなければならない。資
金計画を立て実行するには、経理部門の努力だけでなく、経営者の協力が必要となってくる。
資金計画をまとめるのは経理部門であることは当然だが、利益や資金を生み出すのは営業や製
造部門などの努力による部分が大半を占める。
また、資金のやりくりも経理の仕事であるが、経営者の協力がなければ、やりくりにも限界
がある。経営者および営業や製造部門などの人たちの協力を得るためには、資金や資金繰りに
ついての知識を持ってもらう必要がある。また以下の資金不足になる原因に注意しなければな
らない。
a.利益が少ないか赤字
b.自己資本が過小
c.売上代金の回収が悪い
d.在庫過剰
e.固定資産が過大か有効活用されていない
f.借入金の元金と利息の返済が過大
g.貸付金や有価証券が過大
h.資金計画を立てず、なり行きまかせ
i.銀行との関係がうまくいっていない
j.納税対策をしていない
8.金融用語の解説
金融に関する主な用語は、専門的な言葉や特有の言い回しになっている場合も多く、意味
や内容が理解しづらい場合も少なくない。この項では、特に必要と思われる用語について簡
単に解説を加えてあるので、確認をしておいて頂きたい。
○ アド・オン方式
意義―必要資金に支払最終期限までの利息を加えたものを借入金額とし、これを均等分
割して返済する方式をいう。利息金額は前払いとなる。
説明―貸付形式の定型化を必要とする消費者金融に利用されている方式である。利率は
借入期間によって異なる。例えば、年 5%から 8%である場合、実効金利は日歩 2
銭 6 厘(年利 9.5%)ないし 2 銭 8 厘(年利 10.2%)程度となる。
○ 期限の利益の喪失
意義―期限の利益を有するものが、法律の規定又は当事者の特約によって、期限の利益
主張をすることができなくなることをいう。
○ 求償権
意義―他人のために財産上の利益を与えた者が、その他人に対して返還を求める権利で
ある。
説明―求償権が生じるのは①保証人、物上保証人(担保提供者)が債務を弁済した場合
に主たる債務者に、②抵当不動産の第三取得者が抵当権者に弁済した場合に債務
者に、③連帯債務者の一人が債務を弁済した場合に他の連帯債務者に各々求償す
るのが主要なケースである。このほか他人の行為によって賠償義務を負担させら
れた者、他人のために損失を受けた者、弁済によって他人に不当利得を生じた場
合等の返還請求についても求償権と呼ばれている。
○ 資格証明
意義―取引の相手方が法人である場合にはその法人を代表する権限の者が、その代表権
に制限がないかどうかを確認することが重要である。これを確認するための資料
を資格証明または、資格抄本と呼んでいる。
○ 質権設定
意義―質権とは、債権者がその債権の担保として、債務者または第三者から受け取った
物を、債務が弁済されるまで留意し、弁済されない場合にはその物から優先弁済
を受ける担保物権であり、指名債権に質権を設定することを質権設定という。
○ 消費貸借契約
意義―当事者の一方が相手方から金銭その他の代替物を受け取り、これと同種・同等・
同量の物を返還する契約をいう。金銭貸借がその適例である。
説明―賃貸借および使用貸借は、目的物自体を返還するものであるが、消費貸借は、借
主が目的物の所有権を取得してそれを消費した後に同種・同等・同量の別な物を
返還する点において、賃貸借・使用貸借と異なる。消費貸借契約は借主のみが義
務を負う片務契約で、法律上は無利息の無償契約が原則であるが、実際には利息
付の有償契約が多い。また消費貸借契約は目的物の引渡しによって成立する要物
契約である。
○ 根抵当権
意義―銀行と借主との間の継続的取引から、現在および将来において生じる債権を一定
の限度まで担保するために設定された抵当権をいう。
○ 破産宣告
意義―破産手続きを開始する旨を宣言する裁判所の決定をいう。
説明―裁判所は破産申立が適法であり、かつ、破産原因を具備すると認めた場合は、決
定をもって破産を宣言する。破産宣告は決定書を作成したときに成立し、同時に
管財人が選任され、一定事項を公告、あわせて知れたる債権者や検察官に送達通
知される。
破産宣告があると債権者は、その財産の管理処分権を喪失し、これによって破産
財団が成立し、その全財産関係はこれに切り替えられる。一方債権者は、破産者
に対してその権利を実行できなくなり、破産手続に参加しなければ配当を受けら
れない。
○ 物上保証
意義―他人の債務のために自己の所有物を提供し、その上に質権・抵当権などの担保権
を設定することをいう。
○ 物上保証人
意義―物上保証をした者のことをいう。
説明―①物上保証人は、自ら債務を負担するものではない。しかし、提供した担保物に
つき、担保した範囲内で債権者に対し責任を負うから、主たる債務者が債務不履
行の場合は、担保権の実行によって財産を失うことになる。②債務者に対する関
係で保証人に近似するから、保証債務に関する民法の規定が準用される。③物上
保証人は、債務者に対して求償権を行使することができる。
○ 連帯債務
意義―連帯債務とは、数人の債務者が同一内容の給付につき各々独立して全部の給付を
なすべき債務を負担し、しかも、そのうちの一人の給付があれば他の債務者も
債務を免れる多数当事者の債務である。
説明―連帯債務においては各自に負担部分があるので、債権者が連帯債務者の一人に対
してその債務を免除すると、その債権者の負担部分について他の債務者も債務を
免れるなどの特色がある。
○ 連帯保証人
意義―本人(債務者)と連帯して債務を保証した人をいう。
説明―連帯保証人は催告と検索の抗弁権を有せず、数名いても分別の利益を有しない。
なお、商事保証の場合は特約がなくとも連帯保証となる(商法 511 条 2 項)ので、
銀行取引における保証は商事保証であるから、原則として連帯保証である。
9.滋賀県中小企業制度資金の概要
①資金使途、②融資対象者、③融資限度額、④融資利率(保証なし)、⑤信用保証料率(年)、⑥融資
期間(据置)、⑦申込先、滋賀県中小企業
団体中央会=中央会、各商工会議所=会議所、各商工会=商工会、滋賀県産業支援プラザ=プラ
ザ
1.経営合理化資金
①経営の合理化、体質改善に必要な資金、②最近2年間の平均純利益が1,500万円以下のもの、③
設備所要資金の70%以内で3,000万円、運転2,000万円、④年1.8%(2.2%)、⑤0.92
%、⑥:設備7年(1年)、運転5年(6か月)、⑦会議所、商工会
2.短期事業資金
①仕入、代金決済に必要な運転資金、②最近2年間の平均純利益が1,500万円以下のもの、③1,
500万円、④年1.55%(1.95%)、⑤0.92%、⑥1年、⑦中央会、会議所、商工会
3.下請企業振興資金
①下請代金として受け取った手形の割引資金、②滋賀県産業支援プラザに受注企業として登録して
いる下請中小企業者、③1,500万円、④年1.55%(1.95%)、⑤0.92%、⑥割引期間150
日、⑦取扱金融機関
4.小規模企業者経営安定資金(小規模事業資金)
①経営の安定、合理化等を図るために必要な資金、②従業員20人(商業、サービス業は5人)以下で
、最近2年間の平均純利益が700万円以下のもの、③設備資金、運転資金あわせて1, 500万円
、④年1.75%(2.15%)、⑤0.92%、⑥設備7年(1年)、運転5年(6か月)、⑦会議所、商工会
5.開業資金(通常枠)
①県内で新たに事業をはじめるため(開業前、開業後1年未満を含む)に必要な資金、②同一企業に3
年以上勤務し、その経験を活かして県内で同一事業を開始する者、(県内に1年以上の居住者 )や資格
などを活かして事業を開始する者、③(開業後6か月以上1年未満の者)設備所要資金の70%以内で
3,000万円、運転2,000万円、(開業前後6か月未満の者)所要資金の70%以内で設備・運転の
合計1,000万円、運転は500万円、④年1.75%(保証必須)、⑤0.92%、⑥設備7年(1年)
、運転5年(6か月)、⑦会議所、商工会
5.開業資金(新事業創出枠)
①通常枠と同じ、②個人・会社で1か月以内に新たに開業しようとする者または開業後1年未満の
もの等、③自己資金相当額の範囲内で1,500万円、④通常枠と同じ、⑤年0.65%、⑥設備7年(
1年)、運転5年(1年)、⑦会議所、商工会、プラザ
6.組織強化育成資金
①組合の強化育成を推進、また所属組合員の経営の安定を図るために必要な資金、②(設備・運転)
協同組合等および中小企業者の組織する会社、(転貸長期・転貸短期)協同組合等であって、最近2年
間の平均純利益が1,500万円以下であるもの、③(設備・運転・転貸長期)2億円、1組合員2,00
0万円、(設備資金にあっては所要資金の70%以内)(転貸短期)3,000万円、1組合員1,500
万円、④(設備・運転)年1.75%(2.15%)、(転貸長期)年1.75%(2.15%)、(転貸短期)年1.5
5%(1.95%)、⑤年0.92%、⑥設備1,000万円未満7年(1年)、1,000万円以上10年(1
年)、運転5年(6か月)、(転貸長期)設備7年(1年)、運転5年(6か月)、(転貸短期)1年、⑦中央会
7.経済変動対策資金
①不況による売上等の減少、取引先の再生手続開始等に対処して経営の安定を図るための資金、②中
小企業信用保険第2条3項5号の規定に基づく業種を営む者で融資申込前概ね3か月の売上が前年
同期より減少しているものや、再生手続開始申立等事業者に対して50万円以上の債権、請求権を有
しているもの等、③中小企業者8,000万円、協同組合等8,000万円、転貸の場合1億円、④年
1.3%(保証必須)、⑤年0.65%、⑥設備10年(2年)、運転7年(1年)、⑦中央会、会議所、商工
会
8.経営安定借換資金
①既往借入金の返済負担を軽減する資金、②セーフティネット保証利用者等、③2億円(増額分を含
む)
、④年1.8%(保証必須)は、⑤年0.85%、⑥7年(1年)、⑦中央会、会議所、商工会
9.若手ベンチャー支援資金
①県内で大学等の研究成果・アイデアを事業化するための必要資金、②35歳未満の者で、大学や公
設研究機関との共同研究・開発、また技術移転をもとに事業を行うもの、事業可能性評価委員会でA
ランク、また創造法の認定を受けた者等、③設備・運転の合計1,500万円、⑦プラザ
10.特定産業振興資金(環境産業振興資金、観光産業振興資金、健康福祉産業振興資金)
①環境、観光、健康福祉産業に取り組むものの経営の合理化、体質改善を図るために必要な資金、②
県内で新たな事業を開始しようとする者(開業後1年を経過していない者を含む)他に要件有り、 ③設
備・運転の合計が所要資金の80%以内で1億円、(観光産業は2億円)運転のみは2,000万円、開
業枠は設備・運転の合計が所要資金の80%以内で2,000万円、運転のみは1,000万円、④年
1.55%、開業枠は保証必須)、⑤年0.92%、⑥(設備)10年(2年)(運転)5年 (1年)、開業枠は
設備7年(1年)運転5年(1年)、⑦中央会、会議所、商工会
11.経営革新支援資金
①中小企業経営革新法に基づく計画によりその経営の相当程度の向上を図るに際して必要な資金、
②経営革新に関する計画の認定を受けてその計画を実施する中小企業者等、③所要資金の80%以内
で中小企業者2億円、協同組合等4億円、④年1.55%(保証あり・なしとも)、⑤年0.65%、⑥1
0年(2年)、⑦会議所、商工会、中央会
12.中心市街地活性化対策資金
①中心市街地の衰退や大型店等により影響を受けるものの経営の安定を図るために必要な資金、②
中心市街地活性化法の規定に基づき、市町村が作成する基本計画により活性化が期待されるもの、③
設備、所要資金の70%以内で2,000万円、運転1,000万円、④年1.75%、⑤年0.92%、
⑥設備7年(1年)、運転5年(6か月)、⑦中央会、会議所、商工会
13.市町村小規模企業者小口簡易資金(市町村制度)
①事業運営に必要な小口の資金、②中小企業者、協同組合等、③750万円、④年1.8%、⑤年0.
92%、⑥設備7年、運転5年、⑦各市町商工担当課、会議所、商工会
その他の融資制度
14.滋賀の新しい産業づくり促進資金.
①新規性を有する技術・ノウハウの研究開発および事業化に要する資金、②融資対象者:創造法に
基づく認定を受けたもの、③所要資金の80%以内で中小企業者2億円、協同組合等4億円、⑦プラ
ザ
15.滋賀県産業立地促進資金
①県内で新たに土地を取得し、工場、研究所を建設することに要する資金、②融資対象者:対象地
域内に1,000㎡以上の土地を取得し、工場等を建設する中小企業者、協同組合)、③融資限度額:
2億円(対象経費の60%以内)、④年1.65%、⑤年0.95%、⑦滋賀県新産業振興課
16.ゆとり創造資金
①従業員のための保健衛生、福利厚生施設の整備改善資金、②県内で1年以上事業を営んでいる者
、③所要資金の80%以内で3,000万円、④年2.2%、⑦県労政能力開発課、取扱金融機関
17.淡海環境創造資金
①各種公害防止施設、ISO14001認証取得に必要な資金等、②県内に工場、事業所等を有し
貸付対象事業を県内で行うもの、③所要資金の80%以内3,000万円、⑦各地域振興局環境課、県
県境政策課
18.公益的施設等整備資金
①滋賀県住みよい福祉のまちづくり条例に基づく整備改善に必要な資金、②公益的施設等の回収を
行う民間事業者、③1施設当たり4,000万円、⑦県健康福祉課
19.小規模企業者等設備資金貸付
①小規模企業者等が必要とする機械等設備資金貸付、②県内所在の従業員20人以下(商業サービ
ス業者は5人以下)創業前を含む、③50万円~4,000万円(申込設備金額の1/2以内) ⑦プラザ
20.小規模企業者等設備貸与
①滋賀県産業支援プラザが企業者等に代わって、設備を購入し所有権留保付き割賦販売の方法で貸
与する、②県内所在の従業員20人以下(商業サービス業者は5人以下)創業前を含む、③100万
円~6,000万円、⑦プラザ
21.中小企業高度化資金
①同業種、関連業種が共同して工場・店舗等の集団化等を推進する所要資金を貸し付ける、②中小企
業者を構成員とする組合等、新しく設立された共同出資会社等、③所要資金の80%~90%、⑦県
中小企業振興課
第Ⅵ章 税務
〈第Ⅵ章のポイント〉
1.法人及び個人事業者が負担する税
税の負担について、憲法では租税法律主義をとっていて、各税法により法人、個人事業者
が負担する税は定められている。法人及び個人事業者にとって、自ら税額を算出して自ら申告納
付する国税として、直接税でありかつ所得課税である法人税、所得税と、間接税であり
かつ消費課税である消費税がある。地方税である個人住民税、個人事業税は課税当局が、これら
の資料等から税額を算出して賦課課税する。
2.法人及び個人の事業者の会計帳簿
法人税法では課税所得を決算書の損益計算書の当期利益をもととして計算し、所得税では
所得を10種類に分類しているが、このうち恒常的な所得として不動産所得、事業所得があ
り、その年に収入すべきことの確定した総収入金額からその年に支払いが確定した必要経費
を控除して求めることになつている。このように申告納税の前提として、正確な会計帳簿の
作成とこれらの記載に使用した記録類の保存が必要である。
会計帳簿として個人事業者については簡易簿記も認められているが、正確な決算は税務か
らのみ要求されるものでなく、事業者自身のためのものであることを理解して、複式簿記の
導入が必要である。
3.会計処理の留意点
公正なる会計慣行として、会計処理の方法として多数の方法がある場合があり、この場合は事
業者は、事業の特色などから継続性を前提として選択する必要がある。ここでは売上原価計算の
前提となる棚卸の評価方法及び固定資産の減価償却について述べている。
販売費及び一般管理費(個人事業者の場合は経費)の勘定科目について、それぞれの内容を理
解して継続的に仕訳を行う必要がある。
4.所得税計算の留意点
法人は、行う事業の種別に関係なく法人所得であるが、個人の場合は、所得を10種に分類し
ている点から、事業所得、不動産所得、譲渡所得の分類に留意する必要があるる。また個人の場
合は、所得の帰属、同一生計の親族間の費用負担、その例外としての専従者給与を理解する必要
がある。
5.所得税の申告書作成
所得税の申告書は、①自筆による作成 ②インターネツトを利用して国税庁のホームページの
確定申告書作成コーナーを利用して作成の二つの方法があるが、まず①によって、確定申告書を
作成してみると、確定申告書の構造をよく理解することが可能である。ついで②によってパソコ
ン上で確定申告書を作成し、さらにe-Taxを活用することも可能である。
6.消費税
法人税、所得税ともその課税期間の所得によって納税義務の有無が生じるが、消費税は課税期
間の2期前(個人は2年前)を基準期間として、その期間の課税売上高により、課税義務の有無
、課税方法としての簡易課税の選択を定めている点の理解が必要である。
7.決算書を使う
決算書はその企業の成績表といわれているが、事業者として全項目を理解する必要はなく、
その企業にとって1番から3番目程度の重要な項目の推移を見守る必要がある。
経営分析もすべての比率に一喜一憂するのでなく、必要とする比率を定めて、これについては
、推移的に把握する必要がある。
損益分岐点分析も、変動費、固定費をどのように考えるよりも、まず(1-変動比率)を粗利
益率に置き換えた損益分岐点売上高に対し、現在の売上がどうかの把握が必要である。
1.法人及び個人事業者が負担する税
(1) 税の種類
憲法は、第30条に「国民は、法律の定めるところによって納税の義務を負う」として、国
民に税金を納める義務があることを定めている。さらに第84条に「あらたに租税を課し又は
現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」として、ど
のような税金も法律によらなければ課税できない(租税法律主義)と定めている。
①国税と地方税
国民が負担した税は、
国民がよりよい社会を築くための費用として支出されるわけであるが、
国の財政に必要な費用として国が課税する国税と、国民が居住する地域の費用として県や市町
村が課税する地方税(県民税と市町村民税)とがある。
②直接税と間接税
税は、これを負担する者と、納付する者との関係から、所得税のように税金を納める義務の
ある人と、実質的に負担する人が同一である税を直接税、消費税のように税金を納める義務の
ある人と、実質的に負担する人が異なっている税を間接税という。
③所得課税、消費課税、資産課税
また、どのようなもの、行為を対象として課税するかにより、給与や事業の利益などの所得
を得るという行為に対して課税する所得課税、物品、サービス等の購入代金に含むことにより
消費に対して課税する消費課税、資産を取得又は移転したとき、資産を保有している場合に課
税する資産課税がある。
④普通税と目的税
税は、納付時点では特にその使い道が定められていなくて、国税は国、地方税は地方公共団
体がその一般経費にあてるものが大部分であって、このような税を普通税という。これに対し、
法律で税を定める時点でその使い道が特に定められている税を目的税という。
(2) 法人及び個人事業者に関係のある税
法人及び個人事業者が、法律により納める義務がある税は多くあるが、そのうち主な税を、
上記の税の種類により表にすると下記のようになる。
課税対象
国
税
地方税(県民税、市町村民税
法 人
法人税
個 人
所得税
法 人
法人住民税
法人事業税
個 人
個人住民税
個人事業税
消費課税
消費税
酒税
たばこ税
揮発油税
自動車重量税
消費税
酒税
たばこ税
揮発油税
自動車重量税
地方消費税
地方たばこ税
軽油引取税
自動車取得税
自動車税、
軽自動車税
ゴルフ場利用税
地方消費税
地方たばこ税
軽油引取税
自動車取得税
自動車税、
軽自動車税
ゴルフ場利用税
入湯税
資産課税
登録免許税
印紙税
登録免許税
印紙税
相続税
贈与税
不動産取得税
固定資産税
都市計画税
不動産取得税
固定資産税
都市計画税
所得課税
2.法人及び個人事業者の会計帳簿
(1)会計帳簿
事業は、その目的に期間が定められているものを除いて、一般的には継続事業として永続的
に行うものであるが、そのためにはある期間を定めて、その期間の初日の事業資金(元手)が、
その期間を経過したときに、その期間の利益(儲け)だけ増加している必要がある。
資本金(元入金)→資本金(元入金)+利益(儲け)
この場合の利益は、粗利益、営業利益ではなく、純粋に期間利益として資金が増加した額で
あって、通常その期間の純利益(当期利益)といわれるものである。
このように事業は、その損益計算の期間を定める必要があるが、法人では任意に定めた1年
間(例えば4月1日から翌年3月31日の1年間)、個人では所得税法の定めにしたがって通
常は暦年(1月1日から12月31日)である。
その期間の利益を求めるには、その事業の資金の用途と、資金の出所とを左右に列記した 貸
借対照表から算出する方法と、その期間の収益と費用の差額として算出する損益計算書の二つ
の方法がある。これらを作成するには会計帳簿が必要であり、これらの必要性については種
々の法律で定められている。
商法(総則)
商法(会社)
法人税法
所得税法
会計帳簿
○
○
○
○
貸借対照表
○
○
○
※ ○
○
○
○
損益計算書
注1:会計帳簿の作成は、商法では公正なる会計慣行とされている。
注2:所得税法では青色申告者にのみ貸借対照表を求めている。
(2)青色申告と白色申告
① 記帳義務
税法の申告には青色申告と白色申告(法人税では申告書の用紙の色で区別されているが、所
得税では、平成12年分までの申告書は申告書の用紙の色で区別されていた。平成13年分申
告以降は申告書Bによって共通化されたので、現在は申告書の色の区別ではない)の二つの方
法がある。
青色申告制度は、納税者自身の手で納税する金額を確定するものであり、そのために複式簿
記による記帳と、貸借対照表と損益計算書の作成が求められている。申告を行うには、一般的
には各自が作成した損益計算書記載の、法人では当期利益であり、個人では暦年の所得を基礎
として税額を算出するものである。
法人では、複式簿記による会計帳簿の作成が公正な会計慣行となっているが、個人では記帳
能力に差があるため、白色申告者(所得金額300万円超の者)には、総収入金額及び必要経
費に関する事項を記載した帳簿から作成した収支計算書の作成を、青色申告者には複式簿記に
より作成した会計帳簿から、青色申告決算書及び貸借対照表の作成と簡易帳簿による青色決算
書の作成を求めている。
注1:簡易簿記
現金出納帳、預金帳、売上帳、仕入帳及び経費帳を1枚のシートにした簡易式帳
簿によるものまたは現金出納帳、預金帳、売上帳、仕入帳及び経費帳に、掛けで取
引
がある場合は売掛帳及び買掛帳に、受取又は支払に手形を使う場合は手形帳によ
る
もの。
注2:複式簿記
仕訳帳(仕訳伝票)、現金出納帳(入出金伝票)、総勘定元帳、補助簿(預金帳、
売掛帳、買掛帳、手形帳等)によるもの。
②帳簿及び記録類の保存
上記①で作成した記帳義務に基づく帳簿類は、法人では決算日以後7年間、個人ではその作
成した年分の翌年3月15日の翌日から、7年間保存しなければならない。
また、その業務において受領した請求書等(自己の作成したこれらの書類の写し、控え)、
年度または年の決算に関して作成した棚卸表その他の書類は5年又は7年間保存しなければ
ならない。
③青色申告に対する特典
①、②のように、青色申告は白色申告に比較して複式簿記による記帳を義務づけているので、
いろいろな優遇措置(特典)を受けることが出来る。(以下主なもの)
●法人税(法人)
1)
措 置 法 の 規 定 に よ る 準 備 金 の 設 定
2) 減価償却費における各種特別償却
3) 税額控除における各種特別控除
4) 繰越欠損金の7年間(平成13年4月1日以後に開始した事業年度において生じた欠
損金、同日前に開始した事業年度は5年間)の繰越控除
5) 更正の制限(更正の場合更正通知書にその更正理由の付記)
6) 中小企業者の取得価額30万円未満である少額減価償却資産の損金算入(平成15年
4月1日から平成18年3月31日までの間の取得)
●所得税(個人)
1) 青色専従者給与の必要経費算入(青色事業専従者給与に関する届出の範囲内)
2) 青色申告特別控除(平成16年分までは複式簿記55万円、簡易な簿記45万円又は
10万円、平成17年分以後複式簿記65万円、その他10万円)
3) 貸倒引当金の計上(一定額)
4) 棚卸資産評価(低価法の選択)
5)
減 価 償 却 費 に お け る 各 種 特 別 償 却
6) 税額控除における各種特別控除
7)
純 損 失 の 3 年 間 の 繰 越 控 除 又 は 前 年 へ の 繰 り 戻 し
8) 更正の制限(税務署は原則として帳簿や書類を調査した上でなければ更正できない)
9) 中小企業者の取得価額30万円未満である少額減価償却資産の必要経費算入(平成
15年4月1日から平成18年3月31日までの間の取得)
(3)複式簿記のすすめ
単なる損益であれば、大福帳で可能であるが、大福帳では勘定あって銭足らずになり、資金
繰りが事業よりも一番の仕事ととなる危険性がある。そのためにはその事業の収支の状態とあ
わせて、事業に投入している資産、負債の状態を正確に把握しておくことが必要である。この
点、複式簿記は、ある取引を資産、負債の増減、利益損失の発生として、二重に複記するもの
であり、損益と資産、負債の状況を同時に把握する道具として、江戸時代の近江商人がすでに
使っていたものである。過去において複式簿記には、仕訳と転記の二つのハードルがあったが、
現在はパソコンソフトの利用により、
転記ミスなく容易に必要な帳簿を作成することが出来る。
特に個人の場合、複式簿記によって青色申告を行えば、青色申告特別控除65万円の控除がで
き
節
税
す
る
こ
と
に
も
な
る
。
勘定科目の設定も、法人の場合はその事業の内容に応じた科目を自由に選択使用すればよく、
個人事業者の場合は青色申告決算書一頁の科目を、資産負債科目については四頁の貸借対照表
(資産負債調)を使用すればよい。従来から個人事業者である者は、ほとんどの科目は簡易帳
簿で見慣れているものであるが、元入金は初めて見る人もあると思われる。元入金は、青色申
告決算書に(資産負債調)とあるようにその事業に使っている資産と負債の差額ともいえるも
ので、事業主個人が事業に対し出資している金額と考えることができる。
(4)記帳の基本
①仕訳(借方と貸方)
決算書(貸借対照表、損益計算書)の左側を借方、右側を貸方といい、資産、費用は借方に、
負債、元入金、収益は貸方に記載すると決まっていると覚え、その上で通常の取引は下の科目
の増減の組み合わせと考えて仕訳を行う。
資産の増加
資産の減少
負債の減少
負債の増加
仕入、経費の発生
収益(売上、雑収入)の増加
②現金出納帳と入出金伝票
複数の人が経理(記帳)する場合は伝票による仕訳が便利であるが、一人の場合は現金出納
帳を仕訳帳と考えて、現金の増加(入金欄)の相手科目は資産の減少、負債の増加、収益の増
加であり、現金の減少(出金欄)の相手科目は資産の増加、負債の減少、仕入、経費の発生と
して記入する。現金出納帳は毎日記入することを習慣化することが必要であるが、銭函に小口
現金を例えば一定額用意して、その中の現金プラス領収書の計は必ずその一定額になるように
出金する事により、記帳を毎週一定日にすることは可能である。また記帳日の出金額の合計を
銀行より引き出すことにより、その日の残高が一定額と一致する事により、記帳の間違いを防
ぐことが可能である。(残高の記載のない現金出納帳は、現金出納帳でないとの認識が必要で
ある。)
③預金通帳と銀行帳
預金通帳を仕訳帳(拡大コピーして摘要を記入)として記帳することも出来るが、預金通帳
の左欄が引出(預金減少)、右欄が預入(預金増加)と、簿記の勘定と左右が反対になっいる
ことに注意する必要がある。
(5)決算
①決算準備
法人は自社の決算日、個人事業主は12月31日に、次の決算整理が必要である。
注(
)は個人事業者決算整理
1)売掛金:前期(前年)年の売掛金の入金の確認、年末の未回収の売上を当期(当年)分に計
上
2)買掛金:前期(前年)の買掛金の支払の確認、年末の未払いの仕入を当期(当年)分に計上
3)未払金:前期(前年)の未払金の支払の確認、年末の未払いの経費を当期(当年)分に計上
4)前払金:前期(前年)の前払金の経費計上の確認、翌期分以降の経費の当期(当年)分から
の繰延
5)棚卸しの実施:(3.会計処理の留意点に記載)
6)減価償却費の計上(3.会計処理の留意点に記載)
7)各種引当金の繰戻し及び繰入れ
8)繰延資産の計上
9)貸倒金の計上
②決算書作成
試算表の作成 → 精算表の作成 → 決算書(青色決算書)の作成
3.会計処理の留意点
法人の場合は、勘定科目の設定はそれぞれの事業内容により設定する事になるが、個人事業
者の場合は、事業所得の種類(一般用、農業所得用、不動産所得用)によって青色決算書の形
式が異なっているので、ここでは商工業を営む法人に近いと考えられる青色決算書(一般用)
の科目に関連する留意点について述べる。
(これからは、個人事業者の申告用の青色決算書一頁の損益計算書の科目数字①②③・・・・を、
(1)(2)(3)・・・・で表し、4頁の貸借対照表(資産負債調)の資産勘定科目(事業主貸を除く)に
(51)(52)(53)・・・・を、負債の勘定科目(事業主借、元入金を除く)に(71)(72)(73)・・・・を、元
入金、事業主貸及び事業主借に(91)(92)(93)を付番している。)
1.売上原価
売上原価は次式で計算する。
期首商品(製品)棚卸高(2)+仕入金額(3)=小計(4)
小計(4)-期末商品(製品)棚卸高(5)=差引原価(6)
期首商品(製品)棚卸高はその年の1月1日現在(前年分の12月31日現在)の棚卸資産
の価額、仕入金額はその年中に仕入れた(取得した)棚卸資産の取得価額の合計額、期末商品
(製品)棚卸高はその年の12月31日現在の棚卸資産の価額である。棚卸資産は商業、製造
業などによって異なるが、行っている事業に関する次に掲げる資産(有価証券及び山林を除く)
をいう。
1)商品又は製品(副産物及び作業屑を含む)
2)半製品
3)仕掛品(半成工事を含む)
4)主要原材料
5)補助原材料
6)消耗品で貯蔵中のもの
7)1)から 6)までの資産に準ずるもの
棚卸高は(数量×単価)であって、数量は原則的に実地棚卸によるが、単価についてどのよ
うに評価するかの評価方法としては原価法と低価法がある。期末の棚卸高を低く評価すれば売
上原価は多くなり、反対に高く評価すれば売上原価は少なくなるので、原則として一定の評価
方法を継続使用しなければならない。
評価方法は、事業の種類ごとに、かつ、上記 1)~6)についてはその区分ごとに選定すること
になっている。評価方法として、次のものがある。
a. 原価法(いずれかの取得価額を使用)
・ 個別法(個々の取得価額で評価)
・ 先入先出法(年末の在庫は最も後から仕入れたものから順に残っていると仮定して
評価)
・ 後入先出法(年初の在庫品、次に年初に仕入れたものから順に残っていると仮定して
評価)
・ 総平均法(種類毎に一年間の平均単価で評価)
・ 移動平均法(仕入毎に平均単価算出、その年最後の平均単価で評価)
・ 単純平均法(異なる仕入れ単価を単純平均したもので評価)
・ 最終仕入原価法(年末に最も近い時期に仕入れたものの仕入単価で評価)
・ 売価還元法(種類等又は通常の差益の率のことなる毎に区別し、年末在庫の販売価
額の総額に原価の率を乗じて評価)
b. 低価法
a.の原価法によって評価した価額とその年の12月31日におけるこれらの取得のた
めに通常要する価額のうち、いずれか低い価額で評価する方法
採用しようとする評価方法については、法人の場合次の区分に応じてそれぞれの日を含む
事業年度の確定申告書の提出期限までにその方法を税務署長に届け出なければならない。
イ)新設法人……設立の日
ロ)新たに他の事業を開始し、または事業の種類を変更した法人
……その事業開始の日または事業の種類の変更の日
法人がその評価方法を変更する場合には、その理由を記載した申請書を変更しようとする
事業年度開始の日の前日までに所轄税務署長宛提出し、承認を受ける必要がある。
個人の場合は、次の区分に応じて、それぞれの日の属する年分の確定申告書の提出期限ま
でにその採用とする評価方法を税務署長に届け出なければならない。
イ)新規開業……開業した日
イ)異なる事業を開始又は事業の種類を変更
……種類の異なる事業を開始又は事業の種類を変更した日
尚、現在採用している評価の方法を変更しようとする場合には、新たな評価方法を採用しよ
うとする年の3月15日までに、納税地の所轄税務署長に承認の申請をしなければならない
2.販売費及び一般管理費(経費)
法人の場合は、損金計上として販売費及び一般管理費で計上し、個人事業の場合は収入金
額を得る経費として計上する。
法人の場合は必要に応じて勘定科目を設定することができるので、ここでは個人事業者の
青色決算書(一般用)損益計算書の経費科目について内容及び留意事項を列挙する。
◎ 経費科目 表
科 目
内
容
留 意 事 項
租 税 公 課
(8)
事業税、印紙税、事業用固定資産に対する 所得税、住民税、延滞税、利子税
固定資産税、業務用車両の自動車諸税
、加算税等は含まない。
荷 造 運 賃
( 9)
商品等を発送するための梱包費用と運
送業者に支払った運賃
小包、宅配便も含む
水道光熱費
(10)
事業用の電気代、ガス代及び水道料金
メーターが一つのものは 一定の
比率で、家事使用分を除外
旅費交通費
(11)
事業活動にかかった運賃、タクシー代
等の交通費と駐車料、出張宿泊費
領収書がとれないものは出張報告
書又は精算書で記録を保存
通 信 費
(12)
事業用のはがき代、切手代及び電話代
家事用との共用電話は一定の比率
で家事使用分を除外
広告宣伝費
(13)
新聞等への広告料、折り込みチラシの
作成費及び配布料金、景品代など
看板などで10万円以下は広告宣
伝費として計上
接待交際費
(14)
事業活動を円滑に進めるための贈答品
代、慶弔金、接待等の飲食費、旅行代
慶弔費で領収書ないものは案内状
又は会葬礼状等の記録を保存
損害保険料
(15)
事業用建物、機械設備等棚卸資産にか
ける火災保険及び事業用車両類の保険
料
建物又は自動車等が自家用と共用
の場合は一定比率で、家事・自家
用部分を除外
修 繕 費
(16)
店舗、事務所、工場等の建物及び機械、
器具、備品等の修繕にかかった費用
資本的支出(固定資産の価値増加
分)は固定資産計上。
消 耗 品 費
(17)
金額が10万円未満または使用可能期間 10万円以上のものは固定資産、
が1年未満の固定資産(パソコン、工具、 期末に大量の未使用分があれば棚
机等)及び事務用品等
卸資産として資産に計上
減価償却費
(18)
福利厚生費
(19)
科 目
下記3.参照
社会保険の事業主負担の保険料及び従業
員の慰安、保健などのための費用
中退金、特退金などの退職金共済に関する
制度に基づいて支払った掛け金等
内
容
従業員5人以上は社会保険加入
慰安旅行は、日程、従業員の参加
割合などに条件あり
慰安会等は毎年定期に実施必要
留 意 事 項
給 料 賃 金
(20)
専従者以外の従業員に支払う給料、賃金、 家事上の使用人、主として家事に
退職手当または賄い費などの現物給与
従事する使用人は含まない
外 注 工 賃
(21)
請負契約に基づく経費、人材派遣を受け入
れる経費
利子割引料
(22)
事業用資金として借り入れた負債の利子
及び受取手形を銀行で割り引いたときの
割引料
店舗併用住宅などの資金を借り入
れた場合は、一定比率で事業用、
家事用に按分必要
地 代 家 賃
(23)
事業用の土地建物の賃借料
建物が店舗と住宅に併用されてい
る場合には、一定比率で事業用、
家事用に按分必要
貸 倒 金
(24)
取引先や貸付先の倒産などにより、売掛金 債務者の債務超過が相当期間継続
や貸付金が回収不能になったとき、回収不 の後、その債務者に債務免除額を
能額を貸倒金とする。
書面により通知した額
一定期間取引停止後弁済のない場合は備
忘価額を差し引いた残額を貸倒金とする
3.減価償却費
建物、機械、装置、器具備品、車両などの減価償却資産は、その使用している間、毎年の収
益(売上)に貢献しているわけであって、この点から、減価償却資産を取得するために支出し
た金額は、その支出した年だけの経費としないで、その減価償却資産がその業務の用に供され
る期間に配分することを減価償却という。
減価償却資産とは、法人の場合は法人の行っている事業の用に、個人事業者の場合は不動産
所得、事業所得を生ずべき業務の用に供している次の資産をいう。
a. 建物及び付属設備(電気設備、給排水設備など建物に付属する設備)
b. 構築物(緑化施設、舗装路面、へいなど土地に定着する土木設備又は工作物)
c. 機械及び装置
d. 船舶並びに航空機
e. 車両及び運搬具
f. 工具、器具及び備品
g. 鉱業権、漁業権、ダム使用権、水利権、特許権など
f. 次に掲げる生物
イ)牛、馬、豚、綿羊、やぎ
ロ)かんきつ樹、りんご樹、ぶどう樹、なし樹など
ハ)茶樹、オリーブ樹、つばき樹、桑樹など
減価償却資産であっても、使用可能期間1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のもの
(少額減価償却資産)は、減価償却資産にしないでその取得価額の全額をその業務の用に供し
た日の属する年分の必要経費に算入する。
また減価償却資産でその取得価額が20万円未満であるもの(少額減価償却資産の適用があ
るものは除く)については、事業者の選択により、その減価償却資産の全部又は一部を一括し、
その一括した減価償却資産(一括償却資産)の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額を、
その業務の用に供した日の属する年分の必要経費に算入することができる。
減価償却資産償却方法には、定額法、定率法、生産高比例法、リース期間定額法、取替法等
があるが、その区分に応じて、届出により選定できる償却の方法または届出による選定をしな
かった場合に適用される償却の方法、もしくは承認を受けることによって採用することができ
る償却の方法とがある。
有形固定資産(鉱業用減価償却資産を除く)の減価償却の方法として、届出により選定でき
る償却の方法として定額法、定率法がある。ただし平成10年4月1日以後に取得した建物は
定額法と定められていて選択することは出来ない。また届けでなかった場合には、法人におい
ては定率法、個人事業の場合は定額法とされている。
●定額法:毎年の償却額が同額となるように次の算式による。
その年分の償却費の額=〔(取得価額)-(残存価額)〕×定額法による償却
率
●定率法:初期の償却費をおおくし、年がたつに従って償却費が一定の割合で逓減するよ
うに次の算式による。
その年分の償却費の額=(前年末の未償却残高)×定率法による償却率
採用しようとする償却方法については、法人の場合次の区分に応じて、それぞれの日を含む
事業年度の確定申告書の提出期限までにその方法を税務署長に届け出なければならない。
a 新設法人は設立の日
b 新たに取得した減価償却資産でそのよるべき償却方法が選定できるものを取得した法人
はその資産の取得の日
c 新たに事業所を設けた法人でその事業所に属する減価償却資産についてすでに選定して
いる償却方法と異なる償却方法を選定しようとする法人またはすでに事業所毎に異なっ
た償却方法を選定している法人は新たに事業所を設けた日
法人がその償却方法を変更する場合には、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに
変更申請書を所轄税務署長宛提出する必要がある。(変更は3年継続が必要)
個人の場合は、次の区分に応じて、それぞれの日の属する年分の確定申告書の提出期限まで
にその採用しようとする評価方法を税務署長に届け出なければならない。
a 新らたに業務を開始した場合は新たに業務を開始した日
b 現に採用している方法以外の償却方法によることとなる減価償却資産を取得した場合は
その減価償却資産を取得した日
c 新たに事業所を設けた場合で、その事業所に属する減価償却資産について従来と異なる
償却方法を選定しようとするとき、もしくはすでに事業所毎に異なる償却の方法を選定
しているときは新たに事業所を設けた日
尚、現に採用している償却の方法を変更しようとする場合には、その変更しようとする年の
3月15日までに、その旨及び変更しようとする理由を記載した申請書を納税地の所轄税務署
長に提出し、その承認を受けなければならない。
4. 所得税計算の留意点
(1)所得税の特徴
所得税は、個人の所得に対して課せられる税金で、その人の1年間(1月1日より12月3
1日まで)のすべての所得(法律に定めている非課税所得を除く)を①利子所得②配当所得③
不動産所得④事業所得⑤給与所得⑥譲渡所得⑦一時所得⑧雑所得⑨山林所得⑩退職所得の10
種類の所得に分類し、これらを総合した所得から各種の所得控除を控除した課税所得に、所得
に応じた税率を乗じて税額を計算する。
所得税は、所得が多い人は税の負担力が高いとして、所得の金額が増加するにしたがって高
くなる税率(超過累進税率)をとっている。また各種の控除方式をとることにより、所得の一
定額以下の人に対しては課税しないようになっている。
所得税は、1年間(暦年:1月1日~12月31日)の所得があって、一定の計算方式(各
所得控除、各税額控除等)により税額があった人は、翌年の3月15日に所轄税務署に確定申
告し、納税することになっている。(申告納税制度)
これに対し、預貯金等の利息及び給与、報酬等については、これらを支払うときに所定の税
額を源泉徴収して支払い、その支払者が源泉徴収した税額を納税する方式をとっている。(源
泉徴収方式)
(2)所得の帰属
資産又は事業からに生ずる収益は、
その資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみ
られる人が単なる名義人であって、実際にその人以外の人が収益を享受している場合は、実際
に享受している人に所得税が課される。(生計を一にする親族間 ex.夫と妻、親と子)では、そ
の事業の経営方針の決定について支配的影響力を有する人を、その事業の事業主と推定する)
(3)不動産所得、事業所得の計算方法
不動産所得、事業所得とも、その事業の(総収入金額)-(必要経費)で計算する。
収入金額は、その年において収入すべきことの確定した金額によって計算する。(未収金額に
ついては、年末に売掛金、未収入金等に計上して収入金額に含める。)
①総収入金額
1)不動産所得
不動産所得とは、不動産、不動産の上に損する権利等の貸付(地上権又は永小作権の
設定その他他人に不動産、不動産の上に損する権利などを使用させることを含む)による
所得を云う。不動産の貸付による所得は、それらの貸付が事業的規模(例えば5棟10
室
以上)であっても事業所得ではなく、不動産所得となる。
不動産の賃貸料、土地を賃貸する場合の権利金(その土地の価額の2分の1を超え
る場合は譲渡所得、
ただし継続的に行われるときは事業所得又は雑所得)
、
借地権等の
更
新料、建物を賃貸する場合の権利金、不動産の一部(広告のための屋上、壁面など)
の
賃貸料、アパート・下宿等の賃貸(食事を供しない場合、食事を供する下宿などは事
業
所得又は雑所得)があり、これらの収入金額の合計が総収入金額になる。
2)事業所得
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から
生ずる所得をいい、これらの事業における収入金額の合計が総収入金額となる。
また農事組合法人、漁業生産組合から支払を受ける従事分量配当及び協同組合等から
支
払を受ける事業分量配当も事業所得となる。
棚卸資産等を家事のために消費(自家消費)した場合には、その消費したときにおけ
るこれらの資産の価額(販売価額)に相当する金額を、その消費した年分の事業所得の
金
額の計算上収入金額に算入する。
また棚卸資産等を贈与等又は低額譲渡した場合には、実質的に贈与したと認められる
金額
(通常他に販売する価額のおおむね70%に相当する金額からその対価の額を差し
引
いた金額)を収入金額に算入する。
②所得税法上の必要経費
1)専従者控除
申告者と生計を一にする配偶者その他の親族に給料、家賃、借入金の利子などを支払
っても、その支払った金額を必要経費に算入することは出来ないことになっている。
この例外として青色事業専従者と白色事業専従者の制度がある。
a. 青色事業専従者
不動産所得、事業所得または山林所得を生ずべき事業を営む青色申告者が青色専従
者給与に関する届出書に記載した方法に従ってその記載されている金額の範囲内で、
青色事業専従者に給与の支払いをした場合には、
その労務に従事した期間、
労務の性
質
及びその提供の程度などからみてその労務の対価として相当である金額を、その青色
申
告者の事業から生じた不動産所得の金額、事業所得の金額または山林所得の金額の
計
算上、必要経費に算入する。
b. 事業専従者控除額
白色申告者の営む不動産所得、事業所得または山林所得を生ずべき事業に従事する
事業専従者がいるときは、各事業者について次のイ) ロ)の金額のうちいずれか低い方の
金額を、それらの所得の金額の計算上、事業専従者給与として必要経費とみなされる。
イ)次に掲げる事業専従者の区分に応じそれぞれ次に掲げる金額
・ その申告者の配偶者である事業専従者
860,000円
・ その申告者の配偶者以外の事業専従者
500,000円
ロ)(不動産所得の金額、事業所得の金額、または山林所得の金額)
÷{(事業専従者の数)+1}
青色事業専従者は「給与の支払いをした場合には、必要経費に算入します」とし、これ
に対し、事業専従者は「事業専従者がいるときは必要経費とみなされます」としている。
ま
た前者は専従者の給与所得の収入金額とされるのに対し後者は給与所得とみなすとし
て
いる。従って青色専従者給与の場合は、給与台帳、源泉所得税の徴収などについて、
他
人に給与を支払ったときと同様な取扱が必要である。
(事業専従者給与の場合は源泉所
得
税の控除の必要がない額になっている)
(4)所得税の主な届出
届出の種類
届出の内容
提出期限
開廃業の届出
事業の開始または事業所等の開設・移転 開廃業等の事実があった
もしくは廃止があったとき
日から1月以内
青色申告の承認
青色申告書を提出するため
青色事業専従者給与に関 新たな青色事業専従者の給与の届出ま
する届出
たは、届出の変更
その年の3月15日ただ
しその年の1月16日以
後新たに業務を開始した
場合はその業務を開始し
た日から2月以内
(変更の届出は遅滞なく)
給与支払事務所等の開設 給与支払事務所等の開設移転もしくは
届出
廃止があったことの届出
開設等の事実があった日
から1月以内
源泉所得税の納期の特例 給与の支払を受ける人が常時10人未
の承認に関する申請
満の源泉徴収義務者が年2回納付
(申請後に法定納期限が
到来するものから適用)
棚卸資産の評価方法の選 新たに事業を開始した場合等において
定の届出または減価償却 棚卸資産の評価の方法の選定または減
資産の償却方法の届出
価償却資産の償却方法を選定したこと
5. 所得税の確定申告書作成
(1)確定申告書の種類
①確定申告書A
申告する所得が給与所得(年末調整未済または複数先からの給与所得)や雑所得(厚生
年金と厚生年金基金など複数の公的年金、または私的年金)、配当所得、一時所得だけの
方
で、予定納税額のない人が使用
●第一表:イ.収入金額等、ロ.所得金額、ハ.所得から差し引かれる金額、ニ.税金の計算、ホ.そ
の他、ヘ.延納の届出
●第二表:イ.源泉徴収税額のある所得の内訳、ロ.公的年金等以外の雑所得・配当所得・一
時所得に関する事項、ハ所得から差し引かれる金額に関する事項、ニ.住民税に
関
する事項.
②確定申告書B
所得の種類に係わらず、確定申告書Aを使用しないすべての人が使用
●第一表:イ.収入金額等、ロ.所得金額、ハ.所得から差し引かれる金額、ニ.税金の計算、ホ.そ
の他、ヘ.延納の届出
●第二表:イ.源泉徴収税額のある所得の内訳、ロ事業専従者に関する事項、ハ公的年金等以
外の雑所得・配当所得・総合課税の譲渡所得・一時所得に関する事項、ニ.所得
か
ら差し引かれる金額に関する事項、ニ.住民税・事業税に関する事項.
●第三表:分離課税用(土地建物及び申告分離課税の株式等の譲渡所得並びに申告分離課
税の先物取引の雑所得及び山林所得及び退職所得がある人)
●第四表:損失申告用
事業所得または不動産所得の人は、第一表及び第二表のみ、分離課税または損失申告の
人は第一表及び第二表に第三表または第四表をあわせて使用する。
(2)確定申告書記入の際の共通注意事項
①申告書はそれぞれいずれも三枚複写になっていて、一、二枚目が提出用、三枚目が控え
になっているので、記入に当たり筆圧を強くすること。
三枚目の控えは毎年綴れば、翌年の申告の参考になり、また税務署の受付印が捺印され
ている控えは申告の証拠となる。
(申告書郵送の場合、ペン書きした控えを同封して、
切
手を貼った返信用封筒を添付すれば返送される)
②確定申告書A及び確定申告書Bの第一表は機械処理(OCR読み取り)されるので
1)申告書のマイナス表示は(-)でなく必ず(△)を記載する。(第3期分の税額
の還付される税額の欄は△がプレプリントされている。)
2)ホッチキスの使用はしない。(青色決算書等の添付書類は申告書に挟むか、クリ
ツプ留めをすること)
③前年に申告した人に対しては、下記がプレプリントされた確定申告書用紙が送付されて
くる。
第一表:整理番号、年分及び確定、申告書種類(青色、分離、損失、修正及び特農)、
予定納税額、振替納税の利用金融機関
第二表:住所、氏名、整理番号
国税庁のホームページの確定申告書作成コーナーを利用する場合及びプレプリントされ
た申告用紙の記入ミス等により、
新規の申告書を利用する場合は、
上記プレプリントのう
ち
「年分及び確定」「整理番号」「申告書種類」「予定納税額」「振替納税の利用金融機関」
を
転記する必要があり、注意が必要である。
(3)確定申告書の記入手順
所得税の確定申告に関する手引き、説明書、記載例及び書き方など30種類ほど用意さ
れ、一部は国税庁ホームページ(http://www.nta.go.jp)からダウンロードすることも可
能
である。申告書の書き方としては次のものがある。
所得税確定申告の手引き~確定申告A~
所得税確定申告の手引き~確定申告B~
所得税確定申告の手引き~損失申告用~
譲渡所得の申告のしかた(記載例)(土地や建物を売却した場合)
山林所得の申告のしかた(記載例)
株式等の譲渡所得等の申告のしかた(記載例)
本節では、一般用の確定申告書の記入を中心に解説を行う。また、「所得税確定申告の
手引き~確定申告B~」を参考にできるように一部分参照ページを記載する。
①準備するもの
1)事業所得または不動産所得の人
青色決算書(一般用)または青色決算書(不動産所得用)
収支内訳書(一般用)または収支内訳書(不動産所得用)
事業収入から差し引かれた源泉所得税がある場合は支払調書等
2)事業所得または不動産所得とあわせて下記の所得がある人
雑所得: 公的年金等の源泉徴収票(公的年金受給者)
収入金額、必要経費及び源泉徴収金額記載のもの
(生命保険契約または損害保険契約等に基づく年金受給者等)
据置保険金残高、今期(繰入)利息(保険金を据置いている人)
一時所得:収入金額、必要経費記載の支払通知書
(生命保険契約に基づく一時金、損害保険契約に基づく満期返戻金などの所得)
②記入順序
1)住所、氏名等:第一表ならびに第二表
所轄税務署:「○○○税務署長」、
提出年月日:「××年××月××日」
住所:住所地で申告する人は住所地の郵便番号及び住所
住所地に替えて事業所等の所在地を納税地とする「納税地の変更に関する届出」
を提出している人は住所下欄の( )の当てはまる文字を○で囲み、郵便番号
欄
には納税地の郵便番号を、上段に納税地を、下段に住所地を二段書きする。
氏名のフリガナ欄:姓と名は一字分空欄に、濁点及び半濁点は一字としてに欄記入。
職業欄:事業の内容を具体的に、また兼業の場合はすべて併記する。
生年月日:最初の一欄は年号で、大正は2、昭和は3、平成は4で、年月日は二欄記
入で、一桁数字は頭に0をつけて二桁記入を行う。
税務署から送付された申告書にプレプリントされている箇所は記入する必要はない
が、第二表の住所欄に誤りがあれば訂正を行う。
2)収入金額等〔緑色の欄〕、所得金額〔ブルー色の欄〕、その他〔ピンク色の欄〕
●青色申告者
事業所得(営庶業):
青色決算書の売上(収入)金額①及び所得金額 45 を申告書第一表の収入金額の事
業・営業等ア欄及び所得金額の事業・営業等①欄に転記する。
青色決算書の青色申告特別控除額 44 を申告書第一表のその他の青色申告特別控除
額 44 欄に転記する。
事業所得(農業):
青色決算書の収入金額計④及び所得金額 48 を申告書第一表の収入金額の事業・農
業イ欄及び所得金額の事業・農業②欄に転記する。
青色決算書の青色申告特別控除額 47 を申告書第一表のその他の青色申告特別控除
額 44 欄に転記する。
不動産所得:
青色決算書の収入金額計④及び所得金額 23 を申告書第一表の収入金額の不動産ウ
欄及び所得金額の不動産③欄に転記する。
青色決算書の青色申告特別控除額 22 を申告書第一表のその他の青色申告特別控除
額 44 に転記する。
事業所得(営庶業、農業)及び不動産所得いずれも、第二表の事業専従者に関する
事項欄に、事業専従者の氏名、生年月日、続柄及び専従者給与額を記入して、その合
計
額 43(青色決算書の専従者給与額と一致)を第一表の専従者給与(控除)額の合
計額
43 欄に転記する。
●白色申告者
事業所得(営庶業):
収支内訳書の収入金額計④及び所得金額 21 を申告書第一表の収入金額の事業・営
業等ア欄及び所得金額の事業・営業等欄①欄に転記する。
事業所得(農業):
収支内訳書の収入金額計⑦及び所得金額⑰を申告書第一表の収入金額の事業・農業
イ欄及び所得金額の事業・農業②欄に転記する。
不動産所得:
収支内訳書の収入金額計⑤及び所得金額⑮を申告書第一表の収入金額の不動産ウ欄
及び所得金額の不動産③欄に転記する。
事業所得(営庶業、農業)及び不動産所得いずれも、第二表の事業専従者に関する
事項欄に、事業専従者の氏名、生年月日、続柄、従事月数・程度、仕事の内容及び専
従
者給与額を記入して、その合計額 43(収支内訳書の専従者控除額と一致)を第一
表の
専従者控除額の合計額 43 欄に転記する。
配当所得を申告する場合、公的年金等以外の雑所得・総合課税の譲渡所得・一時所
得がある場合は、第二表の○配当所得・雑所得(公的年金等以外)・総合課税の譲渡
所
得・一時所得の欄に、所得の種類、所得の生ずる場所、収入金額、必要経費等、差
引
金額(収入金額-必要亜経費等)を記入し、それぞれ該当する収入金額を、第一表
の
収入金額等の配当オ欄、雑その他ク欄、総合譲渡短期ケ欄、長期コ欄、一時サ欄に
記
入する。次にそれぞれの差引金額を第一表の所得金額の配当⑤欄、雑⑦欄、総合譲
渡・
一時⑧欄に記入する。
注 総合譲渡・一時=総合譲渡短期+(総合譲渡長期+一時)×1/2
3)所得から差し引かれる金額
第二表○所得から差し引かれる金額に関する事項に必要事項を記入し、手引きに記載
されている各控除の計算式を使って控除額を求め、計算した控除額を第一表の所得から
差し引かれる金額〔赤色の欄〕の同一番号欄に転記する。
雑損控除⑩:
申告者と総所得金額が38万円以下の同一生計の人の災害や盗難、横領による住宅や
家財などの損害額及びそれらに関連してやむを得ず支出した金額
医療費控除⑪:
申告者または申告者と同一生計の配偶者その他の親族が支出した医療費(医療費の明
細書の添付及び領収書の添付または提示が必要なので、医療費の明細及び控除額の計算
式を記載した医療費控除用の封筒を利用)
社会保険料控除⑫:
申告者と同一生計の配偶者その他の親族が支出した国民健康保険料、
国民年金保険料、
介護保険料、国民年金基金の掛金などおよび申告者の給与等から差し引かれた社会保険
料の金額は、
第二表の社会保険料控除欄に、
それぞれの社会保険の種類と支払保険料を
記
入する。ただし年末調整により社会保険料控除を受けている場合は、社会険の種類欄
に
源泉徴収票のとおりと記入して、その記載金額(上段に内書きがある場合はその金額
を
控除した額)を支払保険料欄に記入する
小規模企業共済等掛金控除⑬:
申告者が小規模企業共済の掛金、確定拠出年金法の個人型年金加入者掛金および心身
障害者扶養共済制度に係わる契約の掛金を支払った場合に、第二表の小規模企業共済等
掛金控除欄⑬に、
それぞれの掛金の種類と支払掛金を記入する。
ただし年末調整により
小
規模企業共済等掛金控除を受けている場合は、掛金の種類欄に源泉徴収票のとおりと
記
入して、
社会保険料等の金額の上段に内書きされている金額を支払掛金の欄に記入す
る。
支払掛金の合計を第一表の小規模企業共済等掛金控除欄⑬に転記する。
生命保険料控除⑭:
申告者が保険金、年金、共済金または一時金の受取人を申告者や配偶者その他の親族
とする生命保険料または掛金の計を第二表の生命保険料控除⑭の一般の保険料の計の欄
に、年金の受取人を申告者または配偶者のいずれかとする個人年金保険契約等に基づい
て支払った個人年金保険料または掛金の額の計を同個人年金保険料の計欄に記入する。
それぞれの計から計算した控除額を第一表の生命保険料控除欄に転記する。
損害保険料控除⑮:
申告者や申告者と同一生計の配偶者その他の親族にかかわる火災保険や傷害保険など
の保険料がある場合に保険(共済)期間が10年以上で、満期返戻金の支払特約のある
保
険の保険料を長期保険料の計の欄に、それ以外の保険料を短期保険料の計の欄に記入
す
る。それぞれの計から計算した控除額を第一表の損害保険料控除⑮欄に転記する。
寄付金控除⑯:
特定寄付金を寄付した場合は、その寄付した先の所在地および寄付した金額を第二表
の寄付金控除⑯に記入する。特定寄付金または総所得金額等の合計額25%相当額との
いずれか少ない方の金額から1万円を控除した金額を第一表の寄付金控除⑯欄に記入す
る。
老年者控除⑰:
申告者が昭和15年1月1日以前に生まれた方で、申告年分の合計所得金額が1,0
00万円以下であれば第二表の本人該当事項の老年者控除欄にマークし、第一表の老年
者、寡婦、寡夫控除⑰⑱欄に500,000と記入する。
寡婦、寡夫控除⑱:
申告者が寡婦または寡夫である場合、第二表の本人該当事項の寡婦(寡夫)控除欄に
マークし、第一表の老年者、寡婦、寡夫控除⑰⑱欄に270,000と記入する。
こ
の控除は老年者控除を受けることができる人は受けられない。
勤労学生控除⑲:
申告者が勤労学生である場合、
第二表の本人該当事項の勤労学生控除欄にマークして、
学校名を記載し、第一表の勤労学生、障害者控除⑲⑳欄に270,000と記入する。
こ
の控除は合計所得金額が65万円より多い人や自己の勤労以外の所得が10万円より
多
い人は受けられない。
障害者控除⑳:
申告者やその配偶者控除や扶養控除を受けられる人が、その年の12月31日の現況
において、障害者や特別障害者である場合は、第二表の障害者控除⑳欄に氏名を記載し
て、障害者一人について27万円、特別障害者で40万円の金額を第一表の勤労学生、
障
害者控除⑲⑳欄に記入する。
配偶者控除 21:
申告者の配偶者が控除対象配偶者である場合に、第二表の配偶者(特別)控除、扶養
控除欄に配偶者氏名、
生年月日を記入し配偶者控除欄をマークする。
配偶者が下記のい
ず
れに該当するかによって定まる控除額を第一表の配偶者控除 21 欄に記入する。
同居特別障害者
左記以外の人
一般の控除対象配偶者
73万円
38万円
老人控除対象配偶者
83万円
48万円
配偶者特別控除 22:
申告者の合計所得金額が1千万円以下で、申告者と生計を一にする配偶者が控除対象
配偶者でなくて、
その合計所得金額が38万円を超え76万円未満の場合には、
第二表
の
配偶者特別控除欄にマークし、配偶者の合計所得金額に応じた所定の金額を第一表の
配
偶者特別控除 22 欄に記入する。
扶養控除 23:
申告者に扶養親族(配偶種を除く)がある場合は、第二表の配偶者(特別)控除、扶
養控除欄に扶養親族の氏名、続柄、生年月日を記入し、扶養親族が下記のいずれに該当
す
るかによって定まる控除額を記載する。その合計額を第一表の扶養控除 22 欄に記入
す
る。
同居特別障害者
左記以外の人
一般の扶養親族
73万円
38万円
特定扶養親族
98万円
63万円
同居老親である老人扶養親族
93万円
58万円
同居老親でない老人扶養親族
83万円
48万円
基礎控除 24:
38万円で、税務署から送付された申告書の第一表 24 にはプレプリントされている。
4)税金の計算
ここでは分離課税(第三表)の所得、変動所得・臨時所得はないものとして説明する。
課税される所得金額 26=所得金額合計⑨-所得から差し引かれる金額合計 25
(千円未満切り捨て、百拾一の桁は0がプレプリント済)
課税される所得金額に対する税額 27=A×B-C(下記の所得税額の速算表による。)
課税される所得金額に対する税額 A
税率 B
控除額 C
1,000 円 ~ 3,299,000 円以下
0.1
-
3,300,000 円 ~ 8,999,000 円以下
0.2
330,000 円
9,000,000 円 ~ 17,999,000 円以下
0.3
1,230,000 円
18,000,000 円 ~
0.37
2,490,000 円
配当控除 28=配当控除の額を転記(源泉分離で申告しない場合は空欄)
「29」欄=租税特別措置法第10条から第10条の6に規定する税額控除の適用を受け
る場合に記入
住宅借入金等特別控除 30=「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」で計算した住宅
借入金等特別控除(100円未満切り捨て)
政党等寄付金特別控除 31=「政党等寄付金特別控除額の計算明細書」の⑫の金額
差 引 所 得 金 額 32 = 税 額 27 - 配 当 控 除 28 - 「 29 」 - 住 宅 借 入 金 等 特 別 控 除 30
-政党等寄付金特別控除 31
災害減免額 33=災害による住宅や家財の損害を受け、住宅や家財の価格の1/2以上
の損害の場合に、雑損控除とどちらかを選択して適用される。
外国税額控除 34=「外国税額控除に関する明細書」の⑨の金額
再差引所得税額 35=差引所得税額 32-災害減免額 33-外国税額控除 34
定率減税額 36=再差引所得税額 35×0.2(最高25万円)
源泉徴収税額 37=第二表の 37 源泉徴収税額の合計額
〔第二表の○所得の内訳(源泉徴収税額)に源泉徴収票または支払調書から所得の種
類、種目、所得の生ずる場所または給与などの支払者の氏名・名称、収入金額、源泉
徴
収税額を記入し、源泉徴収税額の合計を計算して合計欄に記入、源泉徴収票また
は
支払調書は第二表の裏面に貼って提出または「所得の内訳書」を添付する場合は、
「所
得の内訳書」の裏面に貼って、第二表の○所得の内訳(源泉徴収税額)に所得の
種類
ごとに源泉徴収税額の合計額のみを記入する。また申告書第三表(分離課税用)
に退
職所得や株式等の譲渡所得に係わる源泉徴収税額がある場合は加算する〕
予定納税額=第1期または第1期・第2期の合計額(プレプリント済)
第3期分の税額
申告納税額 38>0で申告納税額 38>予定納税額 39 の場合
納める税金=申告納税額 38-予定納税額 39(100円未満切り捨て)
申告納税額 38>0で申告納税額 38<予定納税額 39 の場合
還付される税金=予定納税額 39-申告納税額 38
申告納税額 38<0(再所得税額 35-定率減税額 36<源泉徴収税額)で
予定納税額 39>0の場合
還付される税金=-申告納税額 38+予定納税額 39
5)その他
配偶者の合計所得金額 42(配偶者控除または配偶者特別控除の額算出のため、従っ
て配偶者が事業専従者の場合は記入不要)
専従者給与(控除)額の合計額 43(記述済)
青色申告特別控除額 44(記述済)
雑所得・一時所得の源泉徴収税額の合計額
(第二表の○所得の内訳(源泉徴収税額)または「所得の内訳書」の雑所得・一時
所得の金額に対する源泉徴収税額および申告書第三表
(分離課税用)
に退職所得
や
株式等の譲渡所得に係わる源泉徴収税額がある場合は合計額を記入する。)
未納付の源泉徴収税額 46、本年分で差し引く繰越損失額 47、平均課税対象金額 48 お
よび変動・臨時所得金額 49 については25ページの説明を参照。
6)延納
第3期分の税額の2分の1以上の金額を納期限(平成16年分については納付書によ
る納付は平成17年3月15日、
振替納税の場合は4月19日振替納付)
までに納付す
れ
ば、その残額については5月31日まで延納することができる延納制度があります。
延納を希望する場合は延納の届出欄の申告期限までに納付する金額 50 に申告期限まで
に納付する金額を延納届出額(1,000円未満切り捨て)51 欄に記入する。
7)1)~6)以外の事項
還付される税金の受取場所:申告者本人名義の預貯金口座
銀行口座の場合:銀行名、本支店名、預金種類、口座番号(左詰め)
貯金口座の場合:郵便貯金総合通帳「ぱるる」の記号番号のみ(左詰め)
振替納税の手続きをしている場合
還付される税金の受取場所の下の空欄に振替金融機関名のみプレプリント済み
第二表の住民税・事業税に関する事項欄(所得税確定申告の手引き~確定申告B~2
6~27ページ)、振替納税の申し込み(同、28ページ)および申告書の提出時に添
付
または提示が必要な書類(同、29ページ)を参照。
(4)確定申告書等作成コーナー
国税庁はホームページ(http://www.nta.go.jp/)に確定申告書等作成コーナーを設けて、申
告者の利便を図っている。現在作成できる申告書等は
◆ 所得税の確定申告書
~確定申告A~ 、~確定申告B~および 退職所得、株式等の譲渡および先物
取引に係わる所得がある場合に使用する確定申告書第三表
◆ 青色申告決算書等
青色申告決算書(一般用)、(農業所得用)および(不動産所得用)
収支内訳書(一般用)、(農業所得用)および(不動産所得用)
◆ 消費税の確定申告書
個人事業者の一般用および簡易課税用
現在提出された申告書はOCR処理により入力されているので、印刷する用紙はA4サ
イズ
(PPC用紙またはOA共用紙)
、
カラープリンター使用でプリンターの設定の確認が 必
要である。入力の途中での中断にも対応(一時保存機能)していて、画面の説明に従って 収
入金額などの必要項目を入力するようになっている。
(5)自動申告書作成機
税務署に自動申告書作成機(タッチパネル方式)が設置されている。下記の申告書を作
成することが可能である。
◆ 所得税の確定申告書
~確定申告A~、~確定申告B~および退職所得、株式等の譲渡および先物
取引に係わる所得がある場合に使用する確定申告書第三表
◆ 贈与税申告書
自力で青色申告決算書または収支内訳書の作成することができた人は、税務署に行く手間
はかかるが、申告書をタッチパネル方式で作成することができます。
(6)電子申告
国税電子申告 e-Tax(イータックス)で、次のことができる。
①所得税および消費税の申告
②青色申告の承認申請、納税地の異動届出等の申請・届出
③すべての税目の納税
利用する前に次の手続きが必要である。
①開始届出書と本人確認書類(住民票の写し等)の税務署への送付または提出。
②電子証明書の取得
③税務署より「利用者識別番号」、仮「暗証番号」、e-Tax ソフトの送付
④e-Tax ソフトのインストール、暗証番号の変更、電子証明書等の登録
電子証明書は本人であることを、電子的に証明するもので、電子証明書がICカードで発
行される場合は、インターネット機能を備えたパソコン以外にICカードリーダーが必要で
ある。
1)市区町村が住民基本カードに電子証明書を付加したもの
2)各種公的機関が発行する電子証明書
6. 消費税
(1)消費税のあらまし
税を納める義務のある人と、実質的に負担する人が異なっている税を間接税という。これ
らには、酒税、たばこ税、石油税などのように、生産者が納めた税を流通段階では負担しな い
で消費者が負担するもの(蔵出税)と、ゴルフ場利用税、入湯税のように利用者が負担し た
税を、ゴルフ場または旅館などが納税するもの(売上税)がある。
これらに対し平成元年4月1日から施行された消費税は、
付加価値税といわれてるもので、
国内で消費される財貨・サービスに対してかかる税金である。つまり、製造・流通・小売り と
いった各段階すべてで課税され、各事業者は顧客から預かった消費税から、仕入れ先など に
支払った消費税を控除した金額を納めることによって、最終的には最終消費者が負担する 間
接税である。
①消費税と地方消費税
1)消費税
事業者が行う商品の販売及び貸付、その他サービスの提供(法律に定める非課税取
引を除く)を課税対象として、取引の各段階毎に4%の税率で課税される税である。
し
かし納税者としての事業者は、売上により預かった消費税から、事業者自身が仕入等
に
より負担した消費税を控除した額を納税する(前段階税額控除方式)をとっている。
し
たがって、原則的には最終消費者が負担した消費税を、事業者がそれぞれ預り金とし
て
納税する間接税であり、事業者の損益に対して中立的な税である。
2)地方消費税
地方消費税は、消費税額を課税標準とする税率25%の県民税(最終的に県1/2、
市町村1/2に配分)である。したがって地方消費税は消費税の課税対象の4%に2
5
/100を乗じることになって、消費税の課税対象の1%に相当し、消費税と地方
消費
税をあわせた税率は5%である。
②消費税及び地方消費税の流れ
製造業者 仕入(輸入)20,000
輸入時 納付消費税
1,000
- 1
↓
売上
50,000
売上時 預り消費税
2,500
納付税額
1,500
- 2
卸売業者 仕入
50,000
仕入
仮払消費税
2,500
↓
売上
70,000
売上時 預り消費税
3,500
納付税額
1,000
- 3
小売業者 仕入
70,000
仕入
仮払消費税
3,500
↓
売上
100,000
売上時 預り消費税
5,000
納付税額
1,500
- 4
消費者
購入
100,000
負担した消費税
5,000
- 5
消費者が負担した額(5,000)
=各段階の事業者が納付した額(製造業者(1+2)+卸売業者3+小売業者4=合計 5,000)
このように、消費税は本来各段階の事業者が売上時に受け取った消費税を預り金として、
自己が支払った消費税を仮払消費税として控除した額を、
全事業者が納税した場合に、
最
終
消費者が負担した消費税が国及び地方(都道府県1/2、市町村1/2)に納められる
も
のである。
③消費税の申告納付
基準期間の課税売上高1,000万円以上の事業者は、課税期間(法人の場合は基準期
間の翌々年度、
個人事業者の場合は基準期間の翌々年の1月1日~12月31日)
中の課
税
売上に係わる消費税額から課税仕入等に係わる消費税額を控除した税額及び地方消費税
額
を記載した申告書を法人にあっては課税期間の末日の2ヶ月以内に、個人事業者は課税
年
の翌年3月末日までに所轄税務署に提出し、納税することになる。
(2)納税義務者
消費税の性格から、(1)で述べたように国内事業者が全員納税義務者になることが当然で
あるが、
消費税を預り金として処理して納付する事務的手続きの負担の点から、
小規模事業 者
を免税事業者として納税義務を免除する(売上に対する消費税を徴収しない事業者)こと に
している。
小規模事業者として、売上高の規模を用いる場合、売上金額の規模の確定時を法人税また
は所得税の確定申告時としてその年度または年の納税、
免税の判断をするとすると、
その時 点
ですでに法人では2ヶ月、個人では約3ヶ月 経過しており、課税事業者としての事務に 支障
が生じると考えられる。そのため、
売上判定時の翌期または翌年ではなく翌々期または 翌々年
を課税期間と定めたものである。言い換えれば、課税期間(法人;M期、個人:M年) の課
税、免税の判断は基準期間(法人:前々期、M期-2期、個人:前々年、M年-2年)におけ
る課税売上高(初めて課税事業者になる免税事業者の場合は売上高そのもの)が1,000万
円を超える事業者が、消費税の納税義務者となる。
(1)②の製造業者が原材料を輸入していた場合のように、課税対象となる外国貨物を保税地
域から引き取る者は、
取引金額の大小に関係なく、
また事業者に限らず消費者である個人が 輸
入する場合にも納税義務者となる。
●基準期間と課税期間(個人の例)
平成15年
平成16年
平成17年
平成18年
1/1
3/31
M期-2期
1/1
3/15
1/1
M期
(基準期間)
↑
↑
(課税期間)
基準期間売上確定
消費税課税開始
(消費税準備期間)
1/1
↑
消費税
申告
納付
(3)消費税の税額の計算
①課税対象
消費税は、国内における資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供が課税の対象である。
なお次の取引には消費税が課税されないことになっている。
1)非課税取引
消費税の性格になじまない土地の譲渡や、居住用住宅の貸付などと社会政策的な配慮
に基づく社会保険医療、介護保険サービスなどの取引が定められている。
2)免税取引
輸出として行う資産の譲渡など
3)不課税取引
国外での取引、事業者以外が行う取引、資産の譲渡に該当しない取引
注 (2)の課税事業者の判定に用いる基準期間の課税売上高の計算は次式の金額である。
課税売上高=課税取引の売上高+免税取引の売上高
②納付税額の計算
課税事業者が納付する消費税額は(1)で説明した消費税の性格から、原則として課税期間
の売上に対する消費税額から仕入などに含まれる消費税額を控除した金額となる。
消費税の納付税額=売上に係わる消費税額〔(課税期間の課税売上高)×4%〕
-仕入に含まれる消費税額〔(課税期間の課税仕入高)×4%〕
地方消費税の納付税額=消費税×25%
消費税額等の納付税額=消費税の納付税額+地方消費税の納付税額
③仕入控除税額の計算
②の納付税額の計算で控除する仕入に含まれる消費税額の計算方法には、原則による方
法と簡易な方法とがある。
1)原則計算
売上に係わる消費税から控除出来る仕入に含まれる消費税は、消費税の課税売上に対
応したものに限られ、
売上の中に課税売上と非課税売上の両方がある事業者は、
仕入に
含
まれる消費税を、課税対応と非課税対応に分類する必要があります。しかし、全科目
を分
類することは事務的な限度もあり、課税売上割合を元に次の方法をとることになっ
てい
る。
課税売上割合={課税売上高(税抜き)+免税売上高}÷
[{課税売上高(税抜き)+免税売上高}+非課税売上高]
a. 課税売上割合が95%以上の場合
課税仕入れに係わる消費税額は全額控除対象となる。
b. 課税売上割合が95%未満の場合
課税仕入れ等に係わる消費税額のうち、課税資産の譲渡等に対応する部分のみが控
除対象となる。
具体的な控除方式として次の2方式がある。
イ)個別対応方式
その課税期間中の課税仕入れ等に係わる消費税額を次の3つに区分する。
課税資産の譲渡等にのみ要するもの(A)‥‥‥‥‥全額控除対象
非課税資産の譲渡等にのみ要するもの(B)‥‥‥‥全額控除対象外
課税資産の譲渡と非課税資産の譲渡等の
双方に共通して要するもの(C) ‥‥‥‥‥‥‥‥ 課税売上割合で按分する
◎ 仕入控除税額=(A)+(C)×課税売上割合
ロ)一括比例配分方式
上記イ. のような区分をしないで、全額を課税資産の譲渡と非課税資産の譲渡等の
双方に共通 して要するものとして 、その譲渡期間中の課 税仕入れ等に係わる消 費税
額を課税売上割合で按分する。
◎ 仕入控除税額={(A)+(B)+(C)}×課税売上割合
原則計算は、課税仕入れ等に係わる消費税額の明細が必要であるため、「記載しなけ
ればならない項目を定めた帳簿」と「請求書等」の両方の保存が必要である。
この「記載しなければならない項目を定めた帳簿」とは、消費税のためだけの帳簿
を求めているものでなく、複式簿記における帳簿に、仕入関係については補助簿(仕入
帳)を使用し摘要欄に仕入内容を、または総勘定元帳(仕入勘定)の摘要欄に仕入れ
先
と仕入内容を記載することとし、販売費及び一般管理費(個人の経費)については、
摘
要欄に購入先及び主要購入内容を記載するようにすれば十分である。
2)簡易計算
仕入控除税額の計算を上記 1)の課税仕入れに係わる消費税額によるのではなく、課税
標準(課税売上高)に係わる消費税額に対して、業種別の一定の率を乗じて計算する方
式
である。この方式の適用するためには次の2つの要件が必要である。
a. 「消費税簡易課税制度適用届出書」の提出
b. その課税期間の基準期間の課税売上高が5,000万円以下
みなし仕入率は下記のように事業者を業種別に5段階に区分して、その事業者ごとに
同一の仕入率を定めたものである。
業種区分で2種以上の業種を行っている場合には、原則的には、それぞれの事業ごと
にみなし仕入率を適用することになっている。また売上高の区分が明らかでない場合に
は、行っている事業の中でみなし仕入率の最も低いみなし仕入率を適用しなければなら
ない。特例として、営んでいる複数事業の売上高で、一業種の売上高が75%以上を占
め
る事業者は、その主たる業種のみなし仕入率をその事業全体のみなし仕入率とするこ
と
ができる。
原則計算のように仕入関係について帳簿に所要の記載は求められないが、2業種以上
の事業を営む事業者は、納品書、請求書をもとにして、総勘定元帳または売上帳の摘要
欄
に、主たる業種以外の業種区分をマークすることなどによって、決算時に業種別売上
を
区分集計できるようにする必要がある。
●業種分類及びみなし仕入率
業種区分
みなし 概算納税額
仕入率 (×売上高)
業 種 の 概 要
第1種事業 90%
0.5 %
卸売業(他の者から購入した商品をその性質及び形状を
変更しないで他の事業者に対して販売する事業)
第2種事業 80%
1.0 %
小売業(他の者から購入した商品をその性質及び形状を
変更しないで消費者に販売する事業)
第3種事業 70%
1.5 %
農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造小売業
を含む)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業
第1,2種事業及び加工賃等の料金を対価とする役務の
提供の事業を除く
第4種事業 60%
2.0 %
第1,2,3及び5種事業以外の事業
第5種事業 50%
2.5 %
不動産業、運輸通信業、サービス業(飲食店業を除く)
第1,2,3種事業に該当する事業を除く
(4)消費税の主な届出
届出の種類
届出が必要な場合
提出期限
消費税課税事業者届出書 基準期間の課税売上高が1千万円を超
えることとなったとき
速やかに
消費税の納税義務者でな 基準期間の課税売上高が1千万円以下
くなった旨の届出書
になったとき
速やかに
消費税課税事業者選択
届出書
免税事業者が課税事業者になることを
選択するとき
選択しようとする課税期
間の初日の前日
消費税課税事業者選択
不適用届出書
課税事業者を選択していた者が免税事
業者に戻ろうとするとき
選択をやめようとする課
税期間の初日の前日
消費税簡易課税制度選択 簡易課税を選択しようとするとき
届出書
選択を受けようとする課
税期間の初日の前日
消費税簡易課税制度選択 簡易課税の選択をやめようとするとき
不適用届出書
選択をやめようとする課
税期間の初日の前日
消費税課税期間特例選択 課税期間の短縮を選択しようとすると
届出書
き
短縮に係わる課税期間の
初日の前日
消費税課税期間特例選択 課税期間の短縮の適用をやめようとす
不適用届出書
るとき
適用をやめようとする課
税期間の初日の前日
事業廃止届
課税事業者が事業を廃止したとき
個人事業者の死亡届出書 個人事業者が死亡したとき
速やかに
相続人が速やかに
(5)納税資金の手当て
消費税は、源泉所得税と同様事業者にとって預り金であるが、金に区分がないため一般の
資金として流用し、納税時期になって納税資金のために新たに借入をするなどは論外であっ
て、原則課税、簡易課税どの方法によるとも、毎月税額を引き当て、積立方式で納税資金を 確
保する必要がある。(売上300万円/月の小売業者で簡易課税を選択している場合、月 額
3万円の積立を行う必要がある。)
7. 決算書を使う
(1)貸借対照表と損益計算書の基本の理解
通常すべての商売が現金で行われると、儲けとお金は一致する。しかし、すべて現金で販売
して、
支払いは掛のまま残す(買掛金)と儲け以上にお金がある場合や販売しても全て未回収(売
掛金)、
支払うことができないので、
銀行に頭を下げて借金してから支払う場合が存在する。
「儲
け=利益」と「お金=資金」は必ず一致するとは限らない。むしろ「儲け=利益>お金=資金」
となる場合の方が多い。これを勘定合って銭足らずという。この事実を知ることが一番大切で
ある。
貸借対照表は儲けるために使う道具(資産)をどのように準備(調達)したのかの一覧表で
あるといえる。道具(資産)は自分で買ったほうがよい。もし借金して道具(資産)を備えると、
道具を使って利益がでる前に借金の返済に迫られる。高金利の市中金融業者から借りたら、さ
らに大変になる。
販売しても全て未回収(売掛金)の構造だと翌年、商売は続けられない。取立てに追われてオ
チオチ商売もできない。すべて現金で販売して、支払いは掛のまま残す(買掛金)構造であると、
お金がたくさんある。いつでも、買掛金を一括で支払える。いい商品があれば、すかさず購入
できるチャンスをものにできる。すべての商売を現金で行い、儲けとお金が一致する構造であ
ると、儲かった分だけキッチリお金が企業に残る。着実に商売が続けられる。しかし、大きい
チャンスを逃してしまう可能性も存在する。
損益計算書は会社の一会計期間における経営成績を示す決算書である。経営成績を収益(か
せぎ)と費用(コスト)を対比し、その差額としての利益(もうけ)を示すものである。損益
計算書をみると、どのように儲けたかがよくわかる。粗利益率が大きく、売上が多い場合、売
上総利益に反映される。給与を上手に使っていたり、接待交際が上手いと営業利益に反映され
る。また、借金をしないで商売ができている場合は経常利益に反映してくる。
このようなことがすぐわかるのが決算書である。決算書は「決算」手続きによって作られる
が、1 年 1 回より、月 1 回のほうがベターである。早くわかれば、早く手を打てるからである。
貸借対照表と損益計算書を経営者が理解し、経営改善に役立てるのが第一であるがメインバ
ンクに月次決算の結果をこまめに報告し、来期の羅針盤である経営計画・利益計画の方回性に
ついて、今後の協力を依頼できるコミュニケーションを図ることで資金調達が円滑にすすむの
である。
(2)決算書の期間推移
経営には絶えず計画(PLAN)実行(DO)検討(CHECK)改善(ACTION)が必要である。
決算書の作成の目的が、銀行借り入れと税務申告のためだけとする経営者が多くいるが、経営
の検討資料として、決算書はその企業の過去及び現在の経営成績(儲かっているか)と財務状
態(資金は回転しているか、倒産の危険性はないか)を明らかにして、その企業の将来の改善
及び計画に反映させるためのものである。
単年度の決算書のうち、損益計算書はこの1年間の実績であり、法人では収益を売上高、 営
業外収益及び特別利益とし、これに対する費用として売上原価、販売費及び一般管理費、 営
業外費用、特別損失及び法人税等として把握して、売上総利益(粗利益)、営業利益、経 常
利益、税引前当期純利益及び当期純利益の5つの利益概念を理解する必要がある。個人で は
青色申告特別控除前の所得金額(42)を税引前当期利益と考えて、経費計(32)と専従者給与
(38)を検討する必要がある。
貸借対照表は、決算日当日の資金の調達状態(他人資本:負債、自己資本:資本金または
元入金)とその資金の運用状態(流動資産、固定資産、繰延資産)を示しているが、少なく と
も前年の貸借対照表と比較することにより、特に自己資本(元入金)のこの1年間の変化 の
状態を把握する事が重要である。
事業を行うものとして、特に経営にとって関心のある項目だけを抜き出して、5期(5年
間)の推移及び5年間の平均値を把握することが必要である。
比較決算書重要項目表(法人の場合は決算書の数値、個人の場合は青色決算書)
◎貸借対照表
資産の部 現預金=現金(51)+当座預金(52)+定期預金(53)+その他の預金(54)
売上債権=売掛金(56)+受取手形(55)
棚卸資産(58)=(商品+貯蔵品)または(製品+半製品+仕掛品+貯蔵品)
固定資産=建物(62)+構築物+建物付属設備(63)+機械装置(64)
+車両運搬具(65)+工具器具備品(66)+土地(67)
総資産=法人は資産合計、個人は(資産合計(67)-事業主貸(91))
負債の部 買入債務=買掛金(72)+支払手形(71)
借入金(73)=短期借入金+長期借入金
資本の部 法人は資本金+剰余金
個人は元入金(93)+青色申告控除前の所得金額(43)+事業主借(92)-事業主貸(91)
◎損益計算書
売上(1)
仕入(3)
人件費=法人は役員報酬+給料賃金+雑給+退職金
個人は給料賃金(20)+専従者給与(38)
減価償却費(18)
経費計(32)
経常利益(法人)または青色申告控除前の所得金額(個人事業者)
上記の絶対額の推移をみるとともに、現預金と借入金、固定資産と借入金、売上債権と買
入債務、売上げと仕入れ、売上げと人件費のように両者の推移の傾向を比較する必要がある。
(3)経営分析(比率分析)
法人は決算書の数字を、個人事業者は青色決算書の((1)(2)(3)……は損益計算書、(51)(52)
(53)……は貸借対照表科目欄)として計算。
① 収益性
売上高総利益率
総利益(7)/売上(1)
売上高営業利益率 営業利益{(33)-(22)}/売上(1)
売上高純利益率
純利益(43)/売上(1)
売上高経費率
経費(32)/売上(1)
売上高人件費比率 人件費{(19)+(20)+(38)}/売上(1)
注 純利益=青色申告特別控除前の所得金額
② 生産性
総資本回転率
売上(1)/(資産合計(67)-事業主貸(91))
営業資産回転率
売上(1)/
(受取手形(55)+売掛金(56)+棚卸資産(58))
棚卸資産回転率
売上(1)/棚卸資産(58)
③ 安全性
当座比率
当座資産(50)/流動負債(70)
流動比率
流動資産(60)/流動負債(70)
固定比率
固定資産(80)/純元入金(100)
注:法人では貸借対照表に流動資産、固定資産、流動負債の項目があり、当座資産のみ計
算する必要があるが、個人では当座資産以外も下記の算式による。
当座資産(50)=現金(51)+当座預金(52)+定期預金(53)+その他の預金(54)
+受取手形(55)+売掛金(56)
流動資産(60)=当座資産(50)+有価証券(57)+棚卸資産(58)
+前払金(59)+貸付金(61)
流動負債(70)=支払手形(71)+買掛金(72)+短期借入金(73)
+未払金(74)+前受金(75)
固定資産(80)=建物(62)+建物付属設備(63)+機械装置(64)+車両運搬具(65)
+工具器具備品(66)+土地(67)
純元入金(100)=元入金(93)+事業主借(92)+青色申告特別控除前の所得金額(43)
-事業主貸(91)
(4)損益分岐点(限界利益)
事業の収益から経常総費用を控除したものが経常利益(個人の場合は青色申告特別控除前
の所得金額)であるが、費用を売上げの変動に比例する費用(変動費)と、売上げの変動に 無
関係の固定的な費用(固定費)とに分け、売上高から変動費を差し引いたものを限界利益 と
いい、通常利益が計上されている状態では、限界利益=固定費+利益となる。
損失も利益もでない売上高を損益分岐点(損益分岐点売上高)といい、次の算式で求める
ことができる。
損益分点売上高=固定費/限界利益率
=固定費/(1-変動費率)
しかし変動費、固定費は、決算書に計上されておらず、また定義通りに区分することは相
当に困難である。だから利用しないよりも、変動費を卸・小売業では仕入原価または売上原 価
を、製造業では原材料費+外注費を変動費と割り切って、その他の費用を固定費とするこ と
で計算することが、とくに継続性を持って定期的に算出すれば、経営の参考資料としては 十
分である。
損益分岐点売上高=固定費/(1-変動比率)
=固定費/(1-原価率)
=固定費/粗利益率
したがって、目標利益を上げるために必要な売上高は次式で計算できる。
必要売上高=(販売費・一般管理費+営業外費用+目標利益)/粗利益率
また損益分岐点売上高と現在の売上高の比を損益分岐点比率といい、この比率の低い企業
ほど売上げの変動に対して、赤字転落の確率が低い企業といえる。
損益分岐点比率=損益分岐点売上高/売上高
第Ⅶ章 労務
<第Ⅶ章のポイント>
│1.社会保険の概要 │
│ 日本の社会保障のうちとりわけ社会保険は、個人では対応できない場合におけるセーフ│
│ティネットとしての役割を公的システムによって保障する制度である。 │
│2.社会保険料負担と企業経営│
│ 事業主の社会保険料負担をコスト高の要因と受け止める企業が増えている。保険料負担│
│を企業の社会的責任とみる自覚と、付加価値の高い財・サービスを供給するなどの生産性│
│向上に向けた企業の一層の努力が期待されている。│
│3.国民年金保険と国民健康保険│
│ 第1号被保険者が加入する国民年金保険と国民健康保険について仕組みを示した。とく│
│に国民健康保険は社会保険というより税としての性格が強い。│
│4.会社が取り扱う社会保険│
│ 会社が取り扱う社会保険には、狭義の社会保険としての健康保険・厚生年金保険、労│
│働保険としての労災保険・雇用保険がある。これらの社会保険は、一定の要件を満たした│
│労働者の加入が、義務づけられ、会社はこれらの保険事務(届出・計算・徴収)を義務づけ│
│られている。保険料は、保険料率により各労働者の徴収額が決められる。労災保険は労働│
│者すべてが対象者となり事業所が全額を、それ以外の保険料は、事業所が保険料の半分以│
│上を負担する。認可を受けた商工会議所・商工会等が「労働保険事務組合」を設置し、事│
│業主の委託を受け、労働保険の煩わしい手続等の事務代行を行っている。│
│5.労働者を雇用する際の手続き│
│ 労働者を新しく雇用した場合は、被保険者としての資格について、労働形態・年齢・報│
│酬・被扶養者の有無を確認し、社会保険事務所に「健康保険・厚生年金被保険者資格取得│
│届」
、被扶養者に変動があれば「被扶養者(異動)届」を、ハローワークに「雇用保険被保│
│険者資格取得届」を提出する。│
│6.労務管理│
│ 労働者採用にともなう主な法律の理解をしなければならない。また、常時 10 人以上の│
│労働者がいれば就業規則作成の義務がある。│
│7.事業所が新たに社会保険に加入する手続き│
│8.被保険者の保険料の算定方法│
│ 健康保険・厚生年金保険は、労働者の個々の報酬に基づいて、標準月額である「標準報│
│酬月額」を決め、これに定められた保険料率を乗じ、各人の保険料を算定する。労災保険│
│・雇用保険は、あらかじめ年度の労働者の賃金総額を見込み、これに保険料率を乗じ概算│
│保険料を算定し、次年度に、確定保険料と次の概算保険料を相殺する。│
│9.徴収・納付事務│
│ 健康保険・厚生年金保険では、7月1日現在の「被保険者報酬月額算定基礎届」を社会│
│保険事務所に提出すると、
「標準報酬決定通知書」が送られてくる。この請求に基づき、│
│労働者の10月支給の賃金から徴収し納付する。労災保険・雇用保険では、労働基準監督│
│署から送られてくる用紙に、4月1日~翌年3月末までの概算保険料と前の保険年度の確│
│定保険料を記入相殺し、
「労働保険概算・確定保険料申告書」と保険料を添えて納付する。│
│10.該当事由が生じたときの各保険の主な手続き│
│11.各保険の給付の概要│
1.社会保険の概要
日本の社会保障制度(社会保険、公的扶助、児童福祉、社会福祉、保健衛生)の中で社会保険
は中核的存在となっている。社会保険は、一定の事故の対する保険給付で、経済的保障という
機能を果たしている。つまり、保険給付に必要な資金をあらかじめ制度加入者の拠出(保険料
など)によって準備しておき、病気、けが、身体障害、死亡、老齢、失業などの保険事故が発
生した場合、保険給付を行うことにより、制度加入者やその家族の生活を保障しようとするも
のである。すなわち、個人では対処できない場合におけるセーフティネットとしての役割を明
確に打ち出し、公的なシステムによって給付やサービスを保障する制度である。
今後、急速な少子・高齢化社会の進展により、国民負担率の増大、とりわけ現役世代の負担
増は避けられず、経済活力の低下が危惧されている。このため、
、社会保障負担の担い手を確
保することが最も抜本的な方策であり、能力が十分活用されていると言い切れない高年齢者や
女性の就労の促進や、障害者の社会参加が期待されている。高年齢者の雇用対策として、平成
16年6月に成立した「高年齢者等雇用安定法」の改正において、少なくとも年金支給開始年
齢(65歳)まで働き続けることができるよう、定年延長や継続雇用の導入等による65歳まで
の雇用機会の確保、高年齢者等の再就職援助の強化等が義務づけられた。
社会保険制度には、被保険者となる者の態様または給付の対象となる保険事故によって多く
の制度がある。社会保険の中心は医療保険と年金保険といえる。老人保健制度や介護保険制度
は医療保険と密接に関連する社会保険である。
健康保険、厚生年金保険、労災保険(労働者災害補償保険)および雇用保険は、原則的に企業
に雇用される労働者を対象にすることから「一般職域保険」と呼ばれ、共済組合等は公務員や
私立学校の教職員、団体職員などを対象とすることから「特殊職域保険」と呼ばれる。
年金保険については、国民年金保険者が全国民を対象として保険料の徴収と給付を行い、会
社員・公務員などに対しては、厚生年金保険者・共済組合などが国民年金に上乗せして給付を
行うという「2階建て」の仕組みとなっている。
2.社会保険料負担と企業経営
現在、社会保険料については、原則として労使折半となっている。社会保険料の事業主負担
については、事業主が実質的に負担しているという考え方、価格に転嫁され消費者が実質的に
負担しているという考え方、賃金として受け取れないため労働者が実質的に負担しているとい
う考え方などで説明されている。
事業主が社会保険料を負担することについての認識を見ると、
中小企業庁の「経営環境実態調査」平成8年12月において、
「負担は当然」とする企業が中
小企業で31%、大企業で42%、
「やむを得ない」とする企業を加えるとそれぞれ75%、
90%と大部分を占めており、負担について肯定的な見解をもつ企業の割合が多かった。
社会保険料の負担は厚生年金保険料、健康保険料等の法定福利費の増加として現れるが、労
働費用に占める法定福利費の割合の推移を見ると、
「経営環境実態調査」以降の保険料負担の
増加により、すべての企業においてその割合が増加しており、とくに企業規模が小さいほどそ
の割合は高く、規模間格差も拡大されつつある。これらは、創業期の企業や労働集約的企業に
とって、今後の企業収益に影響を及ぼす可能性をはらんでいる。
今後、事業主に望まれることは、社会保障制度の利益も有しているという意味で保険料負担
の責任を企業の社会的責任と明確に自覚することである。大企業では負担増に対して「合理化
・省力化」
「事業拡大」といった積極的対応を行っている。中小企業・小規模企業においても、
経済活力維持の観点から、企業における付加価値の高い財・サービスを供給するなどの生産性
向上に向けた努力の一層の強化が期待されている。
3.国民年金と国民健康保険
第1号被保険者の加入する保険は国民年金保険と国民健康保険(介護保険を含む)の2種類で
あり、労災保険等には加入できない。
(1)国民年金保険
国内に住所がある人は、20歳から60歳まで国民年金に加入し、保険料を納付することが
義務づけられている(国民皆保険制度)。
①国民年金に加入する人
│ 第1号被保険者│ 20歳以上60歳未満の自営業・自由業・学生・無職の人│
│ 第2号被保険者│ 厚生年金・共済組合の加入者│
│ 第3号被保険者│ 第2号被保険者の被扶養配偶者で20歳以上60歳未満の人│
第3号被保険者とは、第2号被保険者の配偶者で、健康保険の被扶養者にあたる20歳以
上60歳
未満の人である。国民年金保険料は配偶者が加入している厚生年金・共済組合がまとめて
拠出して
おり、本人の負担はない。
②保険料
保険料は、定額制で月額13,300円である。月額400円の付加保険料を納めることに
より、将来より多くの年金を受けることができる。
③保険料の免除制度
病気、失業、営業不振などで保険料の納付が困難な人は、国保年金課の窓口で社会保険庁長
官に申請して承認を受ければ保険料が免除される。平成14年度から半額免除制度が導入され
た。保険料の全額免除を受けると、その免除期間の老齢基礎年金が3分の1に減額され、半額
免除は3分の2に減額される。ただし、将来、10年以内に保険料を納めることができるよう
になったとき追納ができる。また、学生は、平成12年4月より「国民年金保険料学生納付特
例」の導入により、本人の所得が68万円以下の場合に申請することにより保険料の納付が猶
予されることになった。将来10年以内に追納すれば老齢基礎年金に反映され、追納しない場
合でもカラ期間扱いになる。
④支給される年金等
1)老齢基礎年金
保険料を納めた期間と免除を受けた期間を合わせ25年以上ある人は、65歳から老齢基礎
年金を受けることができる。
満額=794,500円(月額66,208円)
老齢基礎年金額の計算式
794,500円×(納付月数÷<加入可能年数×12月>)=年金額
例示:昭和16年4月2日生まれの人で25年(300月)納付がある場合の年金額
794,500円×(300月÷480月<40年×12月>)=496,600円
(加入可能年数は生年月日によって変わる)
2)障害基礎年金
国民年金加入中に病気やけがで障害者になったとき、また、被保険者であった人(60歳~
65歳未満)が日本国内に居住しているときに障害者になったとき、一定の保険納付要件を満
たしている場合に支給される。
年金額:障害等級1級 993,100円(月額82,758円)
障害等級2級 794,500円(月額66,208円)
3)遺族基礎年金
国民年金加入中の人が死亡したとき、または老齢基礎年金を受ける資格期間(25年)を満た
している人が死亡したとき、その人によって生計を維持されていた子のある妻または子に、子
が18歳到達年度末まで支給される。
4)寡婦年金
老齢基礎年金を受ける資格(第1号被保険者として死亡月の前月までに保険料を25年以上
納付した期間)のある夫が年金を受けずに死亡したとき、妻(婚姻期間10年以上)に60歳か
ら65歳になるまで寡婦年金が支給される(夫の年金額の4分の3)。
5)死亡一時金
死亡日までに、3年以上保険料を納付した人が老齢基礎年金あるいは障害基礎年金のいずれ
も受けないまま死亡したとき、その遺族で遺族基礎年金を受けられない場合に支給される。
6)老齢福祉年金
国民年金制度ができたときに、すでに高齢で加入できなかった人(明治44年4月1日以前
に生まれた人)に支給される。ただし、本人、配偶者、扶養義務者の所得制限がある。
⑤届出先
各市・町役場窓口
(2)国民健康保険(社会保険というより税の性格が強い)
①国民健康保険に加入する人
勤務先の医療保険(健康保険、共済組合、船員保険)に加入しているか、生活保護を受けてい
る人以外は、すべて国民健康保険に加入しなければならない(国民皆保険制度)。医療費の一部
を支払うだけで診療を受けられる国民健康保険は国民の生活を支える重要な制度であり、納付
された保険料(税)に国や県からの補助金を加え、市・町が運営を行っている。国民健康保険の
被保険者(加入者)は、世帯主やその家族の区別なく、一人一人が被保険者である。ただし、加
入は世帯毎になるため、届出や保険料(税)の納付は世帯主が行うことになっている。
②被保険者になるとき、なくなるとき
被保険者になるときは、
1)他の市区町村から転入したとき、2)他の健康保険の被保険者でなくなったとき、3)他の健
康保険の扶養家族から外れたとき、4)子供が生まれたとき、5)生活保護を受けなくなったとき
被保険者でなくなるときは、
1)他の市区町村に転出するとき、2)他の健康保険の被保険者になったとき、3)他の健康保険
の扶養家族になったとき、4)死亡したとき、5)生活保護を受けるようになったときである。
③保険料(税)
1年間の保険料(税)は、医療保険分と介護保険第2号被保険者(40歳から64歳までの医
療保険加入者のことをいう)分を合計した額である。医療保険分および介護保険第2号被保険
者分は、次のような項目から算出している。
・所得割(加入者の所得に応じて計算)
・資産割(加入者の資産に応じて計算)→固定資産税の内土地・家屋にかかわる一定額)
・被保険者均等割(世帯の加入者数に応じて計算)
・世帯別平等割(1世帯あたりいくらと計算)
ただし、所得割の計算については、所得合計額から33万円(基礎控除額)を引いた額が課税
対象額となる。また、算出した額が決められた課税限度額を超えた場合は、その課税限度額が
1年間の保険料(税)となる。
④国民健康保険料(税)の軽減制度・減免制度
低所得世帯の保険料(税)の負担を図るため、世帯の総所得金額に基づき、2割、5割、7割
の減額措置がある。また、災害、失業、所得の低下などによって納付することが困難な場合は、
申請によって減免できる場合がある。
⑤主な給付
「7」の主な給付の概要を参照
⑥届出先
各市・町役場窓口
4.会社が取り扱う社会保険
(1)会社が取り扱う4つの保険と介護保険
会社が扱う社会保険は、目的によって健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の4つ
に区分される。これらの社会保険は、一定の要件を満たした労働者に対し、強制的に加入する
ことが義務づけられている。
加えて介護が必要となった被保険者や、家族の介護負担を軽減するため新たに設けられた介
護保険の保険料徴収がある。
社会保険の管轄
│厚生労働省│
┌─────────┴─────────┐
│滋賀社会保険事務局││滋賀労働局│
│┌───┴────┐
│社会保険事務所││労働基準監督署││ハローワーク│
┌───┴──┐││
│健康保険││厚生年金保険││労災保険││雇用保険│
││││
狭い意味での社会保険
労働保険
社会保険の適用範囲
│健康保険││厚生年金保険││労災保険││雇用保険│
│││
│││
│ 業務、通勤と関係ない病気、││老齢、障害、死亡││ 業務上や通勤途 ││ 失業など
│
│ 老齢、障害、死亡、けが、休業、││ 上の病気、障害、│
│ 死亡など、分娩=健康保険││ 死亡など│
①健康保険
健康保険は、被保険者が業務上や通勤途上以外の事由による病気、けが、死亡、または出産、
およびその被扶養者の病気、けが、死亡、または出産に関して保険給付を行い、これによって
国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを図っている。医療保険ともいう。
一定の条件に該当する事業所では、健康保険組合をつくり、組合が保険者になることもでき
る。保険者が国であるものを政府管掌健康保険、組合が保険者となるものを組合管掌保険とい
う。
②厚生年金保険
厚生年金保険は、労働者が老年となり働けなくなったり、病気やけがで障害が残ったり、ま
た、不幸にして死亡した場合などに年金や一時金を支給し、労働者や家族の生活の安定と福祉
の向上に寄与することを図っている。
③労災保険
労災保険は、正式名称を「労働者災害補償保険」といい、労働者の業務上の病気やけがなど
に対し、必要な治療費を給付するほか、休業補償給付を行う。また、障害が残った場合は、そ
の程度に応じて年金または一時金が受けられ、不幸にして死亡した場合は、遺族に年金などが
支給される。これらを通して、労働者の社会復帰の促進、労働者およびその遺族の援護、ある
いは適正な労働条件の確保によって、労働者福祉の増進に寄与することを図っている。
なお、通勤途上の事故による病気やけがまたは死亡については、労災保険から保険給付がな
され、健康保険の給付は受けられない。
④雇用保険
雇用保険は、労働者が失業した場合、または労働者への雇用の継続が困難となる事由が生じ
た場合に、生活安定に必要な給付を行うが、他に、労働者の求職活動の支援、雇用機会の増進、
能力開発・向上など、労働者の福祉の増進を図っている。
⑤介護保険
介護保険は、介護が必要になった被保険者が自立した生活が送れるように支援し、また、家
族の負担を軽減すること目的に新しく設けられた制度である。運営は市町村が行い、40歳に
達すると自動的に被保険者となり、保険給付は、被保険者が住んでいる市町村に申請する仕組
みである。介護保険による会社の役割は保険料徴収のみである。
(2)強制適用事業所と任意適用事業所
社会保険の適用を受ける事業所が本社、工場、支店、営業所など距離的に離れている場合は、
それぞれが別個の事業所として扱われる。適用事業所には、法律によって加入が強制的に義務
づけられている強制適用事業所と、事業の形態により事業主の意思に委ねられている任意適用
事業所に区分される。
①健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所
1)加入が義務づけられている事業所
以下の事業所(事務所を含む)は、法律により、事業主や労働者の意思に関係なく、健康保険
・厚生年金保険への加入が義務づけられている。
常時5人以上の労働者を雇用する製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃
業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介斡旋業、集金案内広告業、教育研究調査業、
医療保険業、通信報道業などの事業所。
法人の事業所では、たとえ1人の代表取締役であっても「法人に使用される者」として健康保
険・厚生年金保険の被保険者となる。
2)健康保険と厚生年金保険の任意適用事業所
強制適用事業所とならない事業所が、社会保険事務所長の認可を受け、健康保険・厚生年金
保険の適用事業所となる事業所をいう。この場合、事業所で働く半数以上の労働者が適用事業
所になることに同意することが条件となり、雇用者の全員が加入することとなる。適用事業所
になると、強制事業所と同じ扱いになり、脱退は、被保険者の4分の3以上の脱退同意者が生
じた時、事業主が社会保険事務所長に申請して任意適用取消を受けることができる。
健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所と任意適用事業所
│業 種│労働者数│事 業 形 態│
│││法 人│個 人│
│適用業種│5人以上│強 制│強 制│
││5人未満│強 制│任 意│
│任意適用事業│5人以上│強 制│任 意│
││5人未満│強 制│任 意│
②労災保険の対象者
労災保険は、適用事業所に働く労働者が原則的に対象となり、法人・個人経営を問わず労働
者を1人でも雇用する事業所はすべて(個人経営の農林水産業の一部を除いて)適用事業所とな
る。他の社会保険制度では「被保険者」となる就労時間や就労日数などに一定の条件が設定さ
れているが、労災保険は、賃金を支払われる労働者はすべて保険の適用を受ける。したがって、
一般社員、パートタイマーや学生アルバイトなど呼称や雇用形態に関係なく労災保険の適用対
象となり、けがや病気をした場合、保険給付が行われる。
保険料は、本来、労働者の業務上災害は事業主が負担すべきもの(労働基準法)という意味か
ら、労働保険が事業主の補償義務を担保することから、全額事業主の負担となっている。
③雇用保険の被保険者
雇用保険は、適用事業所に働くすべての労働者が原則的に対象になることは労災保険と同じ
である。
④労働保険事務組合(労働保険事務の代行)
厚生労働大臣の認可を受けた商工会議所、商工会等では、
「労働保険事務組合」を設置し、
事業主の委託を受け、煩わしい労働保険の事務代行を行っている。事業内容は、労働保険の加
入届出・計算・申告・納付等で、委託できるのは労働者数が300人以下(小売・サービス業
は50人以下、卸売業は100人以下)の商工会議所・商工会の会員である。事務委託のメリ
ットは、労災保険の対象とならない法人役員、個人事業主とその家族についても加入でき、ま
た、保険料の額にかかわらず分割納付が可能で、賃金台帳の提供等がある。ただし、労災保険
および雇用保険の保険給付に関する請求等の事務は除かれる。
.
5.労働者を雇用する際の手続き
労働者を雇用する際、雇用する労働者が各社会保険の被保険者に該当するかどうか、被扶養
者が居るかどうかの判断を行い、また、実際の標準報酬月額の算出が必要である。
(1)各保険の除外者
①健康保険と厚生年金
適用事業所に雇用される労働者は、国籍・性別・年齢・賃金の額などに関係なく、すべて被
保険者となるが、以下の者は被保険者から除外される。
1)臨時に2か月以内の期間を定めて雇用され、その期間を超えない者、2)臨時に日々雇用され
る労働者で1か月を超えない者、3)季節的業務に4か月を超えない期間雇用される予定の者、
4)臨時的事業の事業所に6か月を超えない期間雇用される予定の者、5)所在地が一定しない事
業所に雇用される者
ただし、健康保険では、1)~4)は別の規定(第3条第2項)による被保険者となり、5)は日
雇特例被保険者または国民健康保険に加入することになる。
また、厚生年金保険では、70歳を超える者は原則として除外され、健康保険のみに加入す
ることになる。
②労災保険
代表取締役や個人事業者など、事実上業務執行権を有すると認められる者は、労働者として
認められないため、労災保険の対象とはならない。兼務役員などのように、役員に労働者性が
あれば原則として「労働者」として対象になる。
③雇用保険
以下の者は被保険者から除外される。
1)65歳に達した日以後新たに雇用される者、2)短時間労働者であって季節的に雇用される者
3)季節的業務に4か月を超えない期間雇用される者
(2)パートタイマーの各保険の考え方
パートタイマーは、フルタイマーの労働者と対比して呼称されるものであるが、勤務形態に
よってそれぞれ異なる場合がある。 健康保険・厚生年金保険の被保険者となるかどうかは、
実態に応じて常用的関係があるかどうかで判断する。
健康保険・厚生年金保険では、一般労働者に対して、1日または1週間の所定労働時間が概
ね4分の3以上であり、さらに1か月の所定労働時間が概ね4分の3以上を満たす場合、パー
トタイマーも被保険者となれる。
労災保険は、当然保険の適用を受ける。
雇用保険は、1週間の所定労働時間が30時間以上であるときは、被保険者となれる。
また、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満であり、さらに1年以上引き続き雇
用されることが見込まれる場合、短時間被保険者となる。ただし、1週間の所定労働時間が3
0時間以上のパートタイマーは一般被保険者として取り扱われる。
(3)被扶養者の範囲
健康保険では、被保険者に対して給付に必要な事由が生じた場合保険給付が行われるが、被
保険者の扶養家族についても給付に必要な事由が生じた場合、保険給付が行われる。この扶養
家族のことを被扶養者と呼ぶ。
被扶養者の範囲は、次の通りである。
①被保険者の父母、祖父母などの直系尊属と、配偶者(内縁を含む)、および子、孫、弟、妹で、
主として被保険者の収入によって生計を維持している者(同居の必要はない)
②被保険者と同一世帯に属し、兄、姉、伯叔父母、甥、姪とその配偶者および孫と弟、妹の配
被扶養者の範囲
│曾祖父母││曾祖父母│
│││配偶者│
┌──┤祖父母├──┤祖父母├───────────┐ │
│伯叔父母├┼────┤├─────────────┼┤ 伯叔父母│
│┌┤ 父母├───┤父母├──────┐│兄姉├┐│
│兄弟姉妹├──┤ ├───────┼──┤├┼─┤ 甥姪│
│││ 配偶者├─┤被保険者││││配偶者││
│甥姪││││
1親等│││││配偶者│
│┴┤ 子├───┤子├─┤配偶者┼┘│弟妹││
││
2親等│├──┼┤甥姪│
└──┤ 孫├───┤孫├─┤配偶者├─┤配偶者├┘│
│
3親等││配偶者│
│曾孫││曾孫├─┤配偶者│
│○○│生計維持の関係が必要│○○│生計維持関係と同一世帯が必要
偶者、または被保険者の配偶者の父母および連れ子、または被保険者の3親等以内で①以外の
親族で、主として被保険者の収入によって生計を維持している者
<主として被保険者の収入によって生計が維持される者>とは、被扶養者となる者の年収が1
30万円未満(60歳以上の者、あるいは障害厚生年金を受けられる程度の障害者は年収18
0万円未満)で、その額(援助額を含む)が被保険者の年収の半分未満の者は原則として被扶養
者になれる
ただし、16歳から60歳までは労働年齢であり、被扶養者になるためには、それを証明す
る書類などの添付が必要である。
1)高校生、専門学校生、大学生などの学生は在学証明書、2)無職の人は、市町村が発行する非
課税証明書および無職証明書(民生委員が証明)、3)老齢年金、障害年金などの受給者は、年金
証書の写しまたは年金額決定通知書、4)内縁の妻は、住民票謄本および両人の戸籍謄本
(4)資格取得時の標準報酬
社会保険において、被保険者が労働の対価として事業主から受けるとる報酬は基本的にすべ
て対象となる。
被保険者の資格取得届は、資格取得日から5日以内に 標準報酬月額を決め、提出しなけれ
ばならない。しかし、基本給などの固定的部分は決まっていても、非固定的部分(残業手当な
ど)が、実際に賃金が支払われていないため特定できない場合は、見積額を届けることになる。
その後、実際の標準報酬月額と異なる場合は、取得時にさかのぼって資格取得時訂正届を提出
する。
報酬となるもの、ならないもの
││金銭で支給されるもの│現物で支給されるもの│
│標│基本給(月給、週休、日給など)、賞与・決算手当、│通勤定期券、回数券(1 か月換算)
│
│準│家族手当、住宅手当、通勤手当、食事手当、役職│食事、食券、社宅などの住宅(滋
賀県の│
│報│手当、職階手当、早出手当、残業手当、精・皆勤│現物給与標準価額は、朝食130
円,昼│
│酬│手当、能率手当、生産手当、休業手当、資格手当、│食200円,夕食230円、住宅
は1畳│
│の│育児休業手当、介護休業手当、各種技術手当、特│当たり900円)│
│対│別勤務手当、宿日直手当、勤務地手当、│給与としての自社製品など、│
│象│││
│除│解雇予告手当、退職金、│事務服、作業服などの衣服、│
│外│結婚祝金、災害見舞金、病気見舞金、死亡弔慰金、│本人からの徴収金額が標準価額
の 3分│
│さ│年金,恩給,健康保険の傷病手当金、労災保険の休│の2以上の食事代、│
│れ│業補償給付など、│本人からの徴収金額が標準価額を超えた│
│る│大入袋など│住宅費、│
│も│出張旅費など、││
│の│││
(5)高年齢者雇用の注意事項
①70歳以上の者
厚生年金は、被保険者にならないため加入しない。
健康保険は、年齢の制限がないため、取得手続きを行う。この場合「健康保険高齢受給者証」
が交付される。
②65歳以上の者
介護保険は、年金から保険料が控除されるため、保険料の徴収を行わない。
雇用保険は、被保険者にならないため加入しない。
③60歳以上65歳未満の者
雇用保険では、新しい事業所の賃金が前職60歳時の賃金の75%以下の場合、一定の割合
で雇用保険から給付を受ける制度がある。この確認のため、ハローワークに「高年齢雇用継続
給付受給資格確認票」を資格取得時に提出する。60歳到達時の賃金登録を受けていない場合
は、
「雇用保険被保険者離職票」または「雇用保険受給資格者証」を年齢が確認できる書類と
ともに提出する。
定年退職後、嘱託などで引き続き中断なく再雇用される者は、被保険者として資格は継続さ
れるが、賃金が大幅に減額されるケースが多いため、標準報酬月額の改定が必要になる。しか
し随時改定では4か月後の変更となるため、定年後再雇用される場合は、特例で一旦被保険者
資格を喪失し、新賃金で同日に資格を取得することによって標準報酬月額を変更することにな
る。
(6)社会保険の資格取得日
健康保険・厚生年金保険の被保険者の資格取得日は、雇用されることとなった日、つまり使
用関係が発生した日である。具体的には、賃金の支払いの対象となる初日を指し、適用事業所
などでは、入社日、給料計算の起算日などが多いが、日割計算で賃金が支払われる場合は、採
用日が前であっても、働き始めた日が資格取得日となる。
またこのほか、資格取得日には事業所が適用事業所になった日や日雇いから常用労働者にな
った日などがある。
雇用保険では、被保険者を被保険番号によって特定しており、事業主が変わっても二重加入
の心配がないが、健康保険・厚生年金保険では、以前に国民健康保険や国民年金などの資格喪
失などの手続きを確認しておかないと、二重加入になる場合があるので注意が必要である。
6.労務管理
労働者採用にともなう主な法律には以下のものがある。
(1)労働者保護法
①労働条件の基準関係
1)労働基準法、2)最低賃金法、3)家内労働法、4)労働安全衛生法、5)賃金の支払いの確保等に
関する法律、6)パートタイム労働法
②雇用の確保・安定関係
1)雇用対策法、2)職業安定法、3)障害者の雇用の促進等に関する法律、4)職業能力開発促進法、
5)高年齢者雇用安定法、6)労働者派遣法
②労働・社会保険関係
1)労働者災害補償保険法、2)雇用保険法、3)健康保険法、4)厚生年金保険法、5)介護保険法
③労働者の福祉の増進関係
1)中小企業退職金共済法、2)勤労者財産形成促進法、3)男女雇用機会均等法、4)育児・介護休
業法
(2)労働団体法
1)労働組合法、2)労働関係調整法
現在人事労務に関する法律は大幅な改正が続いている。労働時間の短縮、男女雇用機会の均
等、高齢者雇用、人材派遣など国際的にも社会的にも環境が、急速に大きく変わってきている。
これからも、新しい法律・通達・指針なとが出てくることが予測され、知らずに法律違反を犯
さないようにしなければならない。
(3)労働条件の基準に関する法制度
①法定労働時間の原則は労働時間は週 40 時間以内、
、一日 8 時間以内である。常時、10 人未
満の労働者を使用する商業等では、週 44 時間以内の小規模商業等の特例がある。
②法定休日は 4 週 4 日以上である。
③時間外・深夜労働に対しては 25%以上の割増賃金の支払い、休日労働には 35%以上の割増
賃金の支払いが必要である。
④年次有給休暇は 6 カ月継続勤務かつ 8 割以上出勤者には付与義務がある。以降 1 年ことに 1
日増、3 年 6 力月以降は 2 日ずつ増加する。最高 20 日(前年度分を繰り越すと最高 40 日)にな
る。
⑤育児休業・介護休業は一律に事業主の義務であり、
「休業をすることができない一定の労働
者」がある場合、労使協定で定めなければならない。
⑥就業規則は常時 10 人以上の労働者がいれば作成の義務がある。
│就業規則(製造業用)の内容例│
│(前 文)│
│第1章 総
則│
│第1条(目 的)
、第2条(社員の定義・適用範囲)
、第3条(規則順守義務・誠実勤務義務)
、
│
│第4条(法令への準拠)│
│第2章 人
事│
│第5条(採用者の選考)
、第6条(入社希望者の提出書類)
、第7条(入社時の提出書類)
、│
│第8条(労働条件の明示)
、第9条(試用期間と本採用)
、第 10 条(雇入れ時の教育)
、第 11
│
│条(身上異動の届出)
、第 12 条(転勤・出向・職種等の変更)
、第 13 条(休 職)
、第 14 条
(休│
│職期間)
、第 15 条(休職期間の取扱い)
、第 16 条(復 職)
、第 17 条(退 職)
、第 18 条(定
│
│ 年)
、第 19 条(退職手続)
、第 20 条(解 雇)
、第 21 条(解雇手続)
、第 22 条(解雇の制
限)│
│第3章 服
務│
│第 23 条(出退勤)
、第 24 条(欠勤・欠勤手続)
、第 25 条(服務規律)
、第 26 条(入場不許
可・│
│退場命令)│
│第4章 勤務条件│
│第 27 条(就業時間・休憩時間)
、第 28 条(1年以内の変形労働時間制)
、第 29 条(休憩時
間の│
│付与・利用)
、第 30 条(休 日)
、第 31 条(時間外労働・休日労働)
、第 32 条(年少者及び
妊│
│産婦に対する労働時間の制限)
、第 33 条(適用除外)
、第 34 条(非常災害時等の適用除外)
、
│
│第 35 条(時間外勤務手当・休日出勤手当)
、第 36 条(休日の振替)
、第 37 条(年次有給休
暇)
、│
│第 38 条(年次有給休暇の計画的付与)
、第 39 条(年次有給休暇の請求手続)
、第 40 条(産
前産│
│後の休暇)
、│
│第 41 条(生理休暇)
、第 42 条(育児時間)
、第 43 条(特別休暇)│
│第5章 賃
金│
│第 44 条(賃 金)│
│第6章 出
張│
│第 45 条(出張時の取扱い)│
│第7章 賞
罰│
│第 46 条(賞罰の目的)
、第 47 条(表 彰)
、第 48 条(表彰の方法)
、第 49 条(懲戒の種類
と情│
│状酌量)
、第 50 条(けん責・減給・出勤停止及び降格・降職)
、第 51 条(懲戒解雇)
、第 52
条│
│(損害賠償義務)
、第 53 条(始末書及び関係書類の提出)│
│第8章 安全衛生│
│第 54 条(安全衛生総則)
、第 55 条(火元・戸締りの点検及び非常時の措置)
、第 56 条(安
全義│
│務)│
│第 57 条(衛生義務)
、第 58 条(健康診断)
、第 59 条(就業制限・作業転換)
、第 60 条(妊
産婦│
│の健康診査)
、第 61 条(就業禁止の場合)
、第 62 条(防疫措置)│
│第9章 業務上災害補償│
│第 63 条(業務上災害補償)│
│第 10 章 福利厚生│
│第 64 条(慶弔金)
、第 65 条(育児・介護休業等)
、第 66 条(福利厚生施設)
、│
│第 11 章 雑
則│
│第 67 条(発明考案特許の取扱)│
│第 12 章 付
則│
│第 68 条(施 行)
、第 69 条(改 廃)
、第 70 条(改 正)│
7.事業所が社会保険に加入する手続き
事業所が強制適用事業所に該当することになった場合、あるいは個人事業所(労働者5人未
満や飲食店などのサービス業)が任意適用事業所の認可申請を行う場合は、次の手続きを行う。
(1)準備書類
①提出書類
1)新規適用届、2)健康保険任意包括被保険者認可申請書(任意適用事業所の場合)、3)厚生年
金保険任意適用申請書(任意適用事業所の場合)、4)適用事業所記録票、5)被保険者資格取得届
6)健康保険被扶養者(異動)届(添付書類:所得証明書、在学証明書等)、7)保険口座振替納付(変
更)申出書、8)法人登記謄本(個人事業所の場合は、事業主の住民票記載事項証明)=・発行後
3か月以内の原本、
・事業所の所在地が法人登記謄本または住民票記載事項証明に記載されて
いる住所と異なるときは、その理由ならびに所在地を確認できる書類を添付(賃貸借契約書の
写し等)
、9)年金手帳および基礎年金番号通知書、10)過半数労働者の同意書の写し(任意適用
事業所の場合)
②提示書類
1)賃金台帳(賃金明細がわかるもの)、2)出勤簿またはタイムカード、3)労働者名簿、4)源泉徴
収高計算書およびその領収書、5)金銭出納簿、6)雇用保険関係書類(雇用保険と労災保険成立
届等)
、7)就業規則、給与規定
(2)審査日の予約(任意適用事業所の場合)
(3)審査
審査日時に当該地社会保険事務所で、被保険者の資格や報酬の確認のため、書面による審査
が行われる。この審査には、事業主本人または責任者が出席することになる。
(4)社会保険への加入
加入は原則として、審査が行われた翌月1日が加入年月日となる。
(5)社会保険事務説明会
今後の事務処理などの説明が行われる。健康保険証、年金手帳の交付があわせて行われる。
8.被保険者の保険料の算定方法
(1)標準報酬月額の決定
社会保険では必要な保険給付を行うため、
事業者や被保険者から保険料を徴収する。
納付は、
社会保険が、事業所負担分と被保険者負担分を合算した金額を事業所に請求し、事業所が毎月
の賃金や賞与から被保険者分の保険料を徴収し、納付する仕組みになっている。健康保険・厚
生年金保険では入社時や毎年1回、
被保険者の報酬を決めるが、
個人毎の支給額はまちまちで、
事業主にとっても保険者にとっても大変煩雑にならざるをを得ない。このため、報酬の額を一
定の範囲内の報酬に当てはめ、
等級を決めている。
保険料はこれに保険料率を乗じて決定する。
残業などでこの額が増減しても、原則的に毎月同じ金額の保険料を徴収し翌月末日までに納付
する。この固定された金額を標準報酬月額という。
標準報酬月額は、健康保険では月額98,000円から980,000円までの39等級、厚
生年金保険では98,000円から620,000円までの30等級に区分している。
労災保険・雇用保険では毎月の賃金や賞与時に支給された金額に保険料率をかけて徴収し納
付する。つまり、報酬に増減があれば毎月変わることになり、毎年1回あるいは3回に分納す
ることになる。
賞与の保険料は、各保険ともそのつど、実支給額によって決まる。ただ、健康保険・厚生年
金保険では、支給額の1,000円未満を切り捨て保険料を決めることと、それぞれ保険料の
対象となる金額に上限額があることが異なっている。
社会保険の標準報酬と健康保険料月額早見表(一部)
│││健康保険料│
│標準報酬│報酬月額│介護保険に該当しな│介護保険に該当する│
│││い被保険者│被保険者│
│等級│月額│日額││全額│折半額│全額│折半額│
│ ・│・│・│・│・│・│・│・│
│ ・ │・│・│・│・│・│・│・│
│ 8│150,000│ 5,000│ 146,000~155,000│ 12,300│ 6,150│ 13,965│ 6,982.5
│
│ 9│160,000│ 5,330│ 155,000~165,000│ 13,120│ 6,560│ 14,896│ 7,448.0
│
│ 10│170,000│ 5,670│ 165,000~175,000│ 13,940│ 6,970│ 15,827│ 7,913.5
│
│ 11│180,000│ 6,000│ 175,000~185,000│ 14,760│ 7,380│ 16,758│ 8,379.0
│
│ 12│190,000│ 6,330│ 185,000~195,000│ 15,580│ 7,790│ 17,689│ 8,844.5
│
│ 13│200,000│ 6,670│ 195,000~210,000│ 16,400│ 8,200│ 18,620│ 9,310.0
│
│ 14│220,000│ 7,330│ 210,000~230,000│ 18,040│ 9,020│ 20,482│ 10,241.0
│
│ 15│240,000│ 8,000│ 230,000~250,000│ 19,680│ 9,840│ 22,344│ 11,172.5
│
│ 16 │ 260,000 │ 8,670 │ 250,000 ~ 270,000 │ 21,320 │ 10,660 │ 24,206 │
12,103.0│
│ 17│280,000│ 9,330│ 270,000~290,000│ 22,960│ 11,480│ 26,068│ 13,034.0
│
│ 18 │ 300,000 │ 10,000 │ 290,000 ~ 310,000 │ 24,600 │ 12,300 │ 27,930 │
13,965.0│
│ 19│320,000│10,670│ 310,000~330,000│ 26,240│ 13,120│ 29,792│ 13,896.0
│
│ 20│340,000│11,330│ 330,000~350,000│ 27,880│ 13,940│ 31,654│ 15,827.0
│
│ 21│360,000│12,000│ 350,000~370,000│ 29,520│ 14,760│ 33,516│ 16,758.0
│
│ 22│380,000│12,670│ 370,000~395,000│ 31,160│ 15,580│ 35,378│ 17,689.0
│
│ 23│410,000│13,670│ 395,000~425,000│ 33,620│ 16,810│ 38,171│ 19,085.5
│
│ 24│440,000│14,670│ 425,000~455,000│ 36,080│ 18,040│ 40,964│ 20,482.0
│
│ 25│470,000│15,670│ 455,000~485,000│ 38,540│ 19,270│ 43,757│ 21,878.5
│
│ 26│500,000│16,670│ 485,000~515,000│ 41,000│ 20,500│ 46,550│ 23,275.0
│
│ 27│530,000│17,670│ 515,000~545,000│ 43,460│ 21,730│ 49,343│ 24,671.5
│
│ 28│560,000│18,670│ 545,000~575,000│ 45,920│ 22,960│ 52,136│ 26,068.0
│
│ ・│ ・│ ・│・│・│・│・│・│
│ ・│ ・│ ・│・│・│・│・│・│
(例示:ある40歳に達しない労働者<介護保険への加入は必要ない>の報酬月額が、223,
000円であった場合、報
酬金額の210,000~230,000円の範囲に該当するため、等級は14等級、標準報酬
月額は220,000円となる。
本人からは9,020円の保険料を徴収し、これに事業主が同額を合算し、18,040円を保
険者に納付することになる)
(2)標準報酬月額は、次の方法により決定される。
①資格取得時の決定
労働者を雇用したときなど、
「被保険者資格取得届」を提出する際に決める。この場合、基
本給、通勤手当、家族手当などのように毎月決まった額が支給されるときはその額となる。時
間外手当のように毎月支給額が変わるときは、同じような報酬を受ける者が受けた額の平均額
を記入することになる。有効期間は、1~5月に決定したときはその年の8月まで、また、6
~12月に決定したときは翌年の8月までである。
②定時決定
毎年7月1日現在の被保険者全員について、4月、5月、6月の3か月間の報酬の平均額を
算出し、
「標準報酬月額算定基礎届」を提出し決定される。
、有効期間は、9月~翌年8月まで
である。ただし、6月1日から7月1日までの間に被保険者になった者、また、7月から9月
までのいずれかの月に随時改定が行われる者については、定時決定は行わない。
③随時改定
被保険者の 標準報酬月額は、原則として次の定時決定まで変更されない。しかし、固定的
な賃金などが昇給・降給などにより労働者が受ける報酬が大幅に変わった場合、その後継続し
た3か月の平均月額の標準報酬月額にあてはめ、現在の等級と比べて2等級以上の差が生じた
ときに、次回の基礎届による決定をまたず、標準報酬月額の改定が行われる。改定は、4か月
目から行われる。残業手当などの増減は、固定的でないため随時決定の対象外となる。提出書
類は「報酬月額変更届」である。有効期間は、1~6月に改定のときはその年の8月まで、7
~12月に改定のときは翌年の8月までである。
(3)保険料の算定
①保険料は、次のとおり決定される。
1) 健康保険・厚生年金保険の保険料
月払いの保険料=標準報酬月額×保険料率
賞与の保険料=標準賞与額×保険料率
(健康保険の標準賞与額の上限は2,000,000円)
(厚生年金保険の標準賞与額の上限は1,500,000円)
標準賞与額とは被保険者毎に支払われた賞与額から額の1,000円未満を切り捨
てたもの
2) 労災保険の保険料
確定保険料=今年度の賃金総額×保険料率
概算保険料=来年度の支払賃金見込額×保険料率
3) 雇用保険の保険料
確定保険料=(今年度の賃金総額-高年齢労働者分)× 保険料率
概算保険料=(来年度の支払賃金見込額-高年齢労働者分)×保険料率
確定保険料での高年齢者労働者分とは、4月1日現在の満64歳以上の保険免除者
概算保険料での高年齢者労働者分とは、通常前年実績をいう
4) (児童手当拠出金)
②保険料率と負担率は、次のとおりである。
1) 健康保険は、8.2%(事業主と被保険者の折半)
2) 厚生年金保険は、13.934%(事業主と被保険者の折半)
上記の保険料率は平成16年10月から17年8月までのものである。
以後の保険料率は、保険料水準固定方式が導入され、最終保険料率は18.30%(平成29
年9月以降)にまで毎年0.354%ずつ引き上げられる。
平成29年9月までの厚生年金保険料の引き上げ
│年 月│保険料率│ 年 月│保険料率│
│現 行│13.934%│ 平23年9月~│16.412%│
│平 17 年9月~│14.288%│
24年9月~│16.766%│
│ 18年9月~│14.642%│
25年9月~│17.120%│
│ 19年9月~│14.996%│
26年9月~│17.474%│
│ 20年9月~│15.350%│
27年9月~│17.828%│
│ 21年9月~│15.704%│
28年9月~│18.182%│
│ 22年9月~│16.058%│ 29年9月以降│ 18.30%│
3) 介護保険は、1.11%(事業主と被保険者の折半)
4) 労災保険は、危険の度合、災害の発生率などから事業の種類ごとに定められて
いる。保険料率の最高は、水力発電施設、ずい道等新設事業の12.9%である。
(食品製造業 0.7%、電気機械器具製造業 0.5%、金属製品製造業 1.4%)
(事業主が全額負担する)
5) 雇用保険は、一般の事業 1.75%(事業主1.05%、被保険者0.7%)
農林水産業、清酒製造業 1.95%(事業主1.15%、被保険者0.8%)
建設事業 2.05%(事業主1.25%、被保険者0.8%)
雇用保険被保険者負担一般保険料額表
││賃
額│被保険者負担一般保険料額│
│等級│以
上│未
満│A│B│
│││92,000円│賃金額×0.7%│賃金額×0.8%│
│1│92,000円│96,000円│658円│752円│
│2│96,000円│100,000円│686円│784円│
│3│100,000円│104,000円│714円│816円│
│4│104,000円│108,000円│742円│848円│
│ ・│
・│
・│
・│
・│
│ ・│
・│
・ │
・│
・│
│26│210,000円│216,000円│1,491円│1,704円│
│27│216,000円│223,000円│1,537円│1,756円│
│28│223,000円│230,000円│1,586円│1,812円│
│29│230,000円│238,000円│1,638円│1,872円│
│30│238,000円│246,000円│1,694円│1,936円│
│31│246,000円│255,000円│1,754円│2,000円│
│32│255,000円│264,000円│1,817円│2,076円│
│33│264,000円│274,000円│1,883円│2,152円│
│34│274,000円│284,000円│1,953円│2,232円│
│・│
・│
・│
・ │
・│
│・│
・│
・│
・│
・│
│46│430,000円│447,000円│3,070円│3,508円│
│47│447,000円│465,000円│3,192円│3,648円│
│48│465,000円│484,000円│3,322円│3,796円│
││484,000円││賃金額×0.7%│賃金額×0.8%│
A=一般事業、B=農林水産業、建設業
したがって、賃金または賞与の支払額が92,200円未満484,000円以上の場合には、
支払賃金総額に被保険者負担分の保険料率0.7%(一般事業)、0.8%(農林水産業、建設業)
を乗じて保険料額を算出する。
6) (児童手当拠出金は、0.09%<事業主が全額負担する>)
9.徴収事務
①健康保険・厚生年金保険
新しく雇用された者の資格取得時に決められた標準報酬月額、随時改定で決められた標準報
酬月額を別にして、通常の標準報酬月額は、7月1日現在で在籍している被保険者について、
4月、5月、6月の3か月に支払われた賃金総額を3で除して得た報酬月額を、標準報酬月額
票表にあてはめて決定する。
この場合、賃金の支払基礎日数(賃金計算の対象となる日数)が20日以上ある月のみが対象
となる。つまり、3か月のうち20日に満たない月が1か月あったときは、この月を除く2か
月分を合算し、2で除して標準報酬月額を決める。
「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届」を社会保険事務所に提出すると、
新しい標準報酬月額が確定され「標準報酬決定通知書」が送付されてくる。この額がその年の
9月1日から翌年の8月31日まで適用される。実際の保険料の徴収は社会保険事務所からの
請求に基づき、10月支給の賃金からということになる。
保険料は、個々の被保険者から徴収し、事業者負担分をあわせ、その前月分を社会保険事務
所に納入の告知を行い、毎月月末までに口座振込で納付する。
月単位の保険料の計算は、被保険者の資格取得が4月1日でも4月31日でも、日割り計算
はせず、同じ1か月として計算され保険料を徴収する。一方、被保険者の退職や死亡した翌日
に属する月(資格喪失月)の保険料は徴収されない。
賞与を支払った場合には、5日以内に「被保険者賞与支払届」を社会保険事務所に提出する。
また、賞与支払届には「被保険者賞与支払届総括表」を添付する。
資格喪失月の賞与は保険料徴収の対象とはならない。
ただし12月10日に賞与が支払われ、
12月20日に退職した場合は、資格喪失月が12月になるので徴収はしないが12月31日
に退職した場合は資格喪失月が1月になるため徴収される。
② 労災保険・雇用保険
適用事業所における労災保険・雇用保険の保険料の納付事務は、毎年1回、保険年度(4月
1日~翌年3月31日)の当初に、その年度年間の賃金総額に保険料率を乗じた概算の保険料
を申告、納付する。翌年、保険年度が終了した時点で、実際に支払った賃金総額による確定保
険料と概算保険料を相殺し、次年度の概算保険料を納付する。この手続きを、労働保険の年度
更新事務という。
年度更新手続きは、3月下旬から4月上旬頃に、労働保険番号・事業所の所在地・名称・保
険料率などが記載された「労働保険概算・確定保険料申告書」の用紙が事業所に労働基準監督
署から送付される。この「労働保険概算・確定保険料申告書」を作成し、申告書に保険料を添
えて毎年4月1日から5月20日までに提出する。申告と納付は労働基準監督署の他、銀行や
郵便局からでもできる。
概算保険料は、一括前払いが原則であるが、3回に分割して納付することもできる。これを
「延納」という。延納の期限は、第1期が5月20日(4月~7月分)、第2期が8月31日(8
月から1月分)、第3期が11月30日(12月~3月分)である。延納ができるのは概算保険
料が40万円以上の場合である(労災保険か雇用保険の一方のみが成立しているときは20万
円)。
雇用保険料は賃金、賞与の支払のつど被保険者から徴収する。しかし毎月の報酬に保険料率
を乗じて計算するのは手間がかかるため、雇用保険料額表を使うことが多い。ただこの雇用保
険料額表は、支払われる賃金が92,000円以上484,000円未満の場合である。
10.該当事由が生じたときの各保険の主な手続き
各保険の手続きが必要な事由、提出書類、提出先、期限は次のとおりである。
各保険の主な手続き
│手続が必要な事由│提出書類│提出先│期限│
│労働者を採用したとき│被保険者資格取得届│ 社会保険事務所│5日以内│
│
│雇用保険被保険者資格取得届│ ハローワーク│翌10日│
│被保険者が退職したとき│被保険者資格喪失届被保険者│ 社会保険事務所│5日以内│
││資格喪失届・離職証明書│ ハローワーク│10日以内│
│被扶養者の異動や新たな被扶養者が生じた│被扶養者(異動)届 │ 社会保険事務所│5日
以内│
│とき(事業主経由)││││
│標準報酬月額に2等級以上の増減が生じた│被保険者報酬月額変更届│ 社会保険事務所│
そのつど│
│とき││││
│標準報酬月額の定時決定│被保険者報酬月額算定基礎届│ 社会保険事務所│7月10日│
│標準報酬月額の随時改定│被保険者報酬月額変更届│ 社会保険事務所│すみやかに│
│賞与を支給したとき│被保険者賞与支払届│ 社会保険事務所│5日以内│
│被保険者の氏名が変わったとき│被保険者氏名変更届│ 社会保険事務所│すみやかに│
││雇用保険被保険者氏名変更届│ ハローワーク│すみやかに│
│被保険者の住所が変わったとき│被保険者住所変更届│ 社会保険事務所│すみやかに│
│被保険者証を紛失・破損したとき(経由)│被保険者証再交付申請書│ 社会保険事務所│す
みやかに│
│被保険者が転勤したとき│雇用保険被保険者転勤届│ ハローワーク│10日以内│
││被保険者資格喪失届/転出地で│ 社会保険事務所│5日以内│
││被保険者資格取得届/転入地で│ 社会保険事務所│5日以内│
│被保険者が60歳に達したとき│雇用保険被保険者六十歳到達│ ハローワーク│すみやか
に│
││時賃金月額証明書、高年齢雇│││
││用継続給付受給資格確認票│││
│被保険者が70歳に達したとき│厚生年金保険被保険者資格喪│ 社会保険事務所│5日以
内│
││失届│││
│事業主が変わったとき│事業主変更届│ 社会保険事務所│5日以内│
│事業所の名称、所在地、事業主氏名、住所│事業所関係変更届│ 社会保険事務所│5日以内
│
│が変わったとき│事業所所在地・名称変更届│││
│事業所が強制適用事業所に該当したとき│新規適用届│ 社会保険事務所│5日以内│
│任意適用事業所の認可申請をするとき│健康保険任意包括被保険者認│ 社会保険事務所│
随意│
││可申請書│││
││厚生年金保険任意適用適用申│││
││請書│││
│被保険者が死亡したとき│被保険者資格喪失届│ 社会保険事務所│5日以内│
│ 業務上死亡 埋葬したとき│葬祭料(給付)請求書│ 労働基準監督署│すみやかに│
│
遺族給付│遺族(補償)年金支給請求書│ 労働基準監督署│すみやかに│
│
遺族年金(業務外も)│遺族給付裁定請求書│ 社会保険事務所│すみやかに│
│被保険者・被扶養者が死亡したとき(業務│埋葬料(費)
・家族埋葬料請求│ 社会保険事務
所│すみやかに│
│外)│書│││
│業務上のけがや病気で病院にかかったとき│療養(補償)給付たる療養の│ 労働基準監督署
│すみやかに│
│(労災指定病院の場合提出書類が違う)│給付請求書│││
│業務上のけがや病気で会社を休みその間、│休業補償(給付)支給請求書│ 労働基準監督署
│すみやかに│
│賃金が支払われないとき││││
│業務外にけがや病気で会社を休み、
その間│傷病手当金請求書│ 社会保険事務所│すみやか
に│
│賃金が支払われないとき││││
│やむを得ない理由で、
健康保険証をもたず│療養費支給申請書│ 社会保険事務所│すみやか
に│
│診療を受け、立て替え払いをしたときや治││││
│療用装具を購入した場合││││
│医療費の自己負担が高額になったとき│高額療養費支給申請書│ 社会保険事務所│すみや
かに│
│被保険者または被扶養者が出産したとき│出産育児一時金請求書│ 社会保険事務所│すみ
やかに│
│出産のため会社を休み、
賃金が支払われな│出産手当金請求書│ 社会保険事務所│すみやか
に│
│いとき││││
│育児のため、
または介護のため会社を休業│育児休業取得者申出書│ 社会保険事務所│すみ
やかに│
│し、
賃金が支払われないとき│育児休業給付受給資格確認票│ ハローワーク│すみやかに│
││育児休業基本給付金支給申請│││
││書│││
││休業開始時賃金月額証明書│││
││介護休業給付金支給申請書│││
11.各保険の給付の概要
(1)健康保険の給付(本人=被保険者)
①療養の給付
かかった費用の3割の負担で、必要な医療を直るまで受けられる。70歳以上は1割負担(一
定以上の所得者は2割負担)。入院時の食事療養の標準負担額は別途負担。
②特定療養費
特定の医療サービスや高度医療を受けるとき、保険診療部分との差額を負担すれば、保険扱
いで医療を受けられる。
③療養費
やむを得ず保険医でない医師にかかったとき、保険証を使えなかったとき等、請求すれば、
後でその費用が保険の範囲で支給される。
④入院時食事療養費
入院1日につき780円(低所得者等は650円以下)を超えた額が支給される。
⑤高額療養費
1か月1件の自己負担分が高額療養費算定基準額を超えたとき、その分が支給される。世帯
合算時等の負担軽減措置がある。
⑥訪問看護療養費
定められた全費用の3割負担で、訪問看護を受けることができる。ただし、70歳以上の人
は1割負担(一定以上の所得者は2割負担)
。
⑦傷病手当金
病気やけがのため休業して賃金が支払われなかったとき、標準報酬日額の60%が支給され
る。また、傷病手当金を受けている人が退職した場合、療養のため引き続き働けないときは、
傷病手当金の支給が始まった日から18か月間、引き続き支給が受けられる。
⑧移送費
病気やけがで移動が著しく困難な人を移送する場合、社会保険事務所が認めた場合に限り支
給される。
⑨出産手当金
出産のため休業して賃金が支払われなかったとき、標準報酬日額の60%が支給される。
また、出産手当金を受けている人が退職した場合、または退職6か月以内に出産したときも出
産手当金が支給される。
⑩出産育児一時金
出産のとき、1児につき300,000円が支給される。退職後6か月以内に出産したとき
も出産育児一時金が支給される。
⑪埋葬料
被保険者が死亡したときは、標準報酬月額の1か月分が支給される(最低保障100,000
円)。退職後3か月以内の人、また、傷病手当金・出産手当金を受けている間、また、これら
の給付打ち切り後3か月以内に死亡したときも埋葬料が支給される。
(2)健康保険の給付(家族=被扶養者)
①家族療養費(療養費・入院時食事療養費・特定療養費)
かかった費用の3割負担で必要な医療を治るまで受けられる。入院時の食事療養の標準負担
額は別途負担。3歳未満の乳幼児は2割負担、70歳以上の人は1割負担(一定以上の所得者
は2割負担)。
②高額療養費
1か月1件の自己負担分が高額療養費算定基準額を超えたとき、その分が支給される。世帯
合算等の負担軽減措置がある。
③家族訪問看護療養費
定められた全費用の3割負担で訪問看護を受けることができる。ただし、3歳未満の乳幼児
は2割負担、70歳以上の人は1割負担(一定以上の所得者は2割負担)
。
④家族移送費
病気やけがで移動が著しく困難な人を移送する場合、社会保険事務所が認めた場合に限り支
給される。
⑤家族出産育児一時金
出産のとき、1児につき300,000円が支給される。
⑥家族埋葬料
被扶養者が死亡したとき、100,000円が支給される。
(3)年金の給付
年金支給開始年齢
▼60歳 ▼61歳 ▼62歳 ▼63歳 ▼64歳 ▼65歳
│(男子)
~S16.4.1│
特別支給の老齢厚生年金│老齢厚生年金
│(女子)
~S21.4.1││老齢基礎年金
│(男子)S164.2~18.4.1│ 部分 │
特別支給│老齢厚生年金
│(女子)S21.4.2~23.4.1││老齢基礎年金
│(男子)S18.4.2~20.4.1 │ 部分年金│
特別支給│老齢厚生年金
│(女子)S23.4.2~25.4.1││老齢基礎年金
│(男子)S20.4.2~22.4.1│
部分年金 │ 特別支給│老齢厚生年金
│(女子)S25.4.2~27.4.1││老齢基礎年金
│(男子)S22.4.2~24.4.1│
部分年金│特別│老齢厚生年金
│(女子)S27.4.2~29.4.2│支給│老齢基礎年金
│(男子)S24.4.2~28.4.1│
部分年金(報酬比例部分相当の年金)│老齢厚生年金
│(女子)S29.4.2~33.4.2│老齢基礎年金
│(男子)S28.4.2~30.4.1│ なし│
部分年金│老齢厚生年金
│(女子)S33.4.2~35.4.1│老齢基礎年金
│(男子)S30.4.2~32.4.1│
年金なし│
部分年金│老齢厚生年金
│(女子)S35.4.2~37.4.1│老齢基礎年金
│(男子)S32.4.2~34.4.1│
年金なし│ 部分年金│老齢厚生年金
│(女子)S37.4.2~39.4.2│老齢基礎年金
│(男子)S34.4.2~36.4.2│
年金なし│ 部分│老齢厚生年金
│(女子)S39.4.2~41.4.2│老齢基礎年金
│(男子)S36.4.2~│
年金なし│老齢厚生年金
│(女子)S41.4.2~│老齢基礎年金
①特別支給の老齢厚生年金あるいは部分年金
老齢厚生年金は、原則として65歳から国民年金の老齢基礎年金とあわせて支給されるが、
保険加入期間が25年以上あり、うち厚生年金保険に1年以上加入していた人は、60歳から
65歳になるまで、経過措置として「特別支給の老齢厚生年金」が支給される。
「特別支給の
老齢厚生年金」は定額部分と報酬比例部分からなっている。
加給は、厚生年金保険に20年以上加入していた人に生計維持関係にある65歳未満の配偶
者や、18歳に達した日以後最初の3月31日までにある子(どちらも年収850万円未満)
がいる場合、定額部分の支給開始と同時に支給される。②部分年金( 特別支給の老齢厚生年金
の報酬比例部分相当 また、
「特別支給の老齢厚生年金」の支給が停止された65歳未満の人
には、報酬比例部分のみが支給される。これを「部分年金」という。これも男子は昭和28年
4月2日生まれの人、女子は昭和33年4月2日生まれの人から61歳からの支給になる。こ
れも段階的に支給開始年齢が高くなり、男子は昭和36年4月2日生まれの人、女子は昭和4
1年4月2日生まれの人から、65歳までの年金が全くなくなる。
特別支給の老齢厚生年金額=定額部分+報酬比例部分+加給、定額部分=生年月日によ
る定額単価
(3,143~1,676 円)×報酬比例部分×スライド率、報酬比例部分=(①平成 15 年 3 月以
前の期間分+②
平成 15 年 4 月以降の期間分)×スライド率、①は、平均標準報酬月額×(0.95~0.7125%)
×平成15
年3月以前の被保険者期間月数、②は、平均標準報酬月額×(0.7308~0.548%)×平成1
5年4月以降
被保険者期間月数
②老齢基礎年金
老後の生活保障のため、65歳に達するまでに25年以上の受給資格期間を満たす人に、国
民年金から原則として65歳以降支給される。老齢基礎年金の額は、794,500円(平成1
6年度 価格)
老齢基礎年金=794,500円×<保険料納付済月数+保険料全額免除月数×2/3+保険料
半額免
除月数×2/3>÷480(月)
昭和16年4月1日以前生まれの人は、加入可能月数(25年~39年)すべてに加入すれば
満額になるよう、経過措置が設けられている。
特例の老齢基礎年金=795,500円×<保険料納付月数+保険料全額免除月数×1/
3+保険料半
額免除月数×2/3>÷(加入可能年数×12(月))
③老齢厚生年金
厚生年金保険の被保険者期間があり(1か月以上)、老齢基礎年金の受給資格を満たしている
人が、65歳になったとき支給される。なお、65歳になる前から特別支給の老齢厚生年金や
部分年金を受けていた人は、65歳から老齢厚生年金と老齢基礎年金に切り替わる。
老齢厚生年金額=報酬比例年金+加給年金
報酬比例部分・加給年金は、特別支給の
老齢厚生年金
の条件と同じである。
④障害基礎年金
病気・けがで心身に障害を残したとき、生活能力が回復するまで、国民年金から支給される
基礎年金である。
⑤障害厚生年金
原則として、障害基礎年金の対象となる障害が、厚生年金保険の被保険者期間中の病気やけ
がにより生じたときに、障害基礎年金に上積みして支給される。
⑥遺族基礎年金
一家の働き手が死亡したときに、遺族のため国民年金から支給される基礎年金である。
⑦遺族厚生年金
厚生年金保険の被保険者である一家の働き手が死亡したとき、遺族のため厚生年金保険から
支給される報酬比例の年金である。
⑧在職老齢厚生年金
65歳以上70歳未満の在職者について、厚生年金保険の被保険者となり、保険料を負担す
るとともに、収入に応じて減額される在職老齢厚生年金を受ける。標準報酬月額および標準賞
与額により、老齢厚生年金は一部または全額支給停止される場合があるが、老齢基礎年金は全
額受けられる。
⑨児童手当
小学校第3学年終了前(9歳到達後最初の年度末まで)の児童を養育している場合支給され
る。受給者には所得制限がある。
⑩介護保険
65歳以上の高齢者(第1号被保険者)で介護が必要になったとき、市町村の認定を受ければ、
原因を問わず介護サービスが受けられる。
40~64歳の健康保険加入者(第2号被保険者)で老化に起因する特定の疾病によって介護
が必要になった場合のみ、市町村の認定を受ければ、介護サービスを受けられる。
(4)労災保険の給付
①療養補償給付(業務災害)・療養給付(業務外災害)
業務災害または通勤災害による病気やけがにより労災病院や労災指定医療機関で療養を受け
るときは必要な療養の給付を受ける。なお、これら以外の院所で療養を受けるときは必要な療
養費の全額の給付を受ける。
②休業補償給付(業務災害)・休業給付(業務外災害)
業務災害または通勤災害による病気やけがにより働くことができず、賃金が支払われなかっ
たとき、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当が給付される。
③障害補償年金(業務災害)・障害年金(業務外災害)
業務災害または通勤災害による病気やけがが治った後に、障害等第1級~第7級に該当する
障害が残ったとき、障害の程度に応じ、342万円から59万円の一時金、または給付基礎日
額の313日~131日分の年金が支給される。
④障害補償一時金(業務災害)・障害一時金(業務外災害)
業務災害または通勤災害による病気やけがが治った後、障害等第8級~第14級に該当する
障害が残ったとき、障害の程度に応じ、65万円~8万円の一時金、または給付基礎日額の5
03日分~56日分の一時金が支給される。
⑤遺族補償年金(業務災害)・遺族年金(業務外)
業務災害または通勤災害により死亡したとき、遺族の数等に応じ、一律300万円、または
給付基礎日数の245日分~153日分の年金が支給される。
⑥遺族補償一時金(業務災害)・遺族一時金(業務外災害)
遺族(補償)年金を受け得る遺族がないときなどは、一律300万円の一時金、または100
0日分の一時金(すでに支給した年金の合計額を引いた額)が支給される。
⑦葬祭料(業務災害)・葬祭給付(業務外)
業務災害または通勤災害により死亡した方の葬祭を行うとき、315,000円に給付基礎
日額の30日分を加えた額が支給される。
⑧傷病補償年金(業務災害)・傷病年金(業務外災害)
業務災害または通勤災害による病気やけがによる療養開始後18か月を経過した日または同
日後において、
傷病が治っていないこと、
傷病による障害の程度が傷病等級に該当したときは、
傷病の程度により114万円~100万円までの一時金、または給付基礎日額の313日分~
245日分の年金が支給される。
⑨介護補償給付(業務災害)・介護給付(業務外災害)
障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち、第1級の者または第2級の者(精神神
経の障害・胸腹部臓器の障害の者)であって現に介護を受けているときは次の支給を受ける。
常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(上限106,100円)、ただし、親族等に
より介護を受けており介護費用を支出していないか、支出額が57,580円以下の場合は5
7,580円が支給される。随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(上限53,050
円)、ただし、親族等により介護を受けており介護費用を支出していないか、支出額が28,7
90円以下の場合は28,790円が支給される。
(5)雇用保険の給付
①雇用継続給付
雇用継続給付の中心は「高年齢雇用継続給付」である。60歳台前半(60歳以上65歳未
満)の人が、60歳時点の賃金額と比べて、その後に継続雇用されたときの賃金額が、60歳
時点の賃金額の25%を超えて低下する場合に、15%~0%の範囲内で支給される。
他に、雇用継続給付として、
「育児休業給付」
「介護休業給付」がある。
②失業給付
65歳未満で退職した一定期間、失業中に雇用保険から受ける給付を基本手当という。1日
当たりの基本手当日額は退職時の年齢によって賃金日額の45~80%である。賃金日額は賃
金支払基礎日数が14日以上ある月を1か月とし、退職に近い6か月分を180日で除し算出
する。
○一般の受給資格者(退職や自己都合で退職した人)
│
被保険者であった期間│1年未満│1年以上│10年以上│20年以上│
│離職時等の年齢││10年未満│20年未満││
│
全年齢とも
│90日│120日│150日│
│障害者等の│45歳未満
│150日│300日│
│就職困難者│45歳以上65歳未満││360日│
○特定受給資格者(倒産、解雇等により離職を余儀なくされた人)
│
被保険者であった期間│1年│1年~│5年~│10年~│20年│
│離職時等の年齢│未満│5年│10年│20年│以上│
│ 30歳未満│90日│ 90日│120日│180日│───│
│
30歳以上35歳未満│││180日│210日│240日│
│
35歳以上45歳未満││││240日│270日│
│
45歳以上60歳未満││180日│240日│270日│330日│
│
60歳以上65歳未満││150日│180日│210日│240日│
│障害者等の│45歳未満
│150│300日│
│就職困難者│45歳以上65歳未満│日│360日│
○65歳以上で離職した人(退職理由を問わない)
│被保険者であった期間│1年未満│1年以上│
│高年者求職者給付│30日分│50日分│
③就職促進給付
失業者が再就職するのを援助・促進することを目的に、
「再就職手当」
「常用就職支度金」
「移
転費」
「広域求職活動費」がある。
④教育訓練給付
企業の業務内容の高度化・複雑化に対応するため、職業に関する教育訓練を受けた場合に必
要な給付が行われる。
Ⅷ章 電子商取引
<第Ⅷ章のポイント>
1.ITの有効な活用
(1)ITによる経営環境の変化
安価な投資で商圏の拡大や潜在的な顧客へPRが可能となる。
滋賀県商工会連合会には、対消費者むけのショッピングモール「におモール」と、県内の製造
業者を紹介するためのサイトとして「SHIPSnet」がある。
2.電子商取引の概要
(1)電子商取引の定義
電子商取引(Electronic Commerce)は、電子的に決済情報を交換し、商品取引を行う経済
活動のことである。E・コマースまたは単にECとも呼ばれる(以後、ECと表記)
。
(2)ECの現状
2003 年度のわが国のインターネットを利用したEC市場規模は、
BtoB が 77 兆 4,320 億円、
BtoC が 4 兆 4,240 億円。インターネットを利用しない取引を含めた 2003 年度の広義のEC市
場は 157 兆 1,030 億円と推計。
(3)ECの特徴とメリット
ECのメリットは、①商圏の拡大や新規顧客獲得機会の創出、②取引に伴う間接コストの削
減、③流通コストや原価削減、④個別注文生産や大幅な在庫削減、である。
(4)ECの普及にともなう危険性・脆弱性
①盗聴、②改ざん、③なりすまし、④否認の4つがECにおいて問題になっている。
(5)ECを支えるインフラ
インターネットで安全な取引を行うためには、盗聴・改ざん・なりすまし・否認といった不
正を防ぐ手段が必要であり、公開鍵基盤(PKI:Public Key Infrastructure)に基づく仕組み
が広く利用されている。
(6)取引の安全性を高める法律と制度
「電子契約法」
、
「特定商取引に関する法律」
、
「電子商取引等に関する準則」などが定められて
いる。その他、オンラインマーク制度やプライバシーマーク制度が運用されている。
(7)情報源まとめ
3.ホームページの活用
(1)ホームページの開設・運用
ホームページを開設する際には、目的を明確にしてコンセプトを固めることが大事である。
(2)検索エンジン対策
①基礎知識
検索エンジンは、ディレクトリ型とロボット型に大別され、ディレクトリ型の検索エンジン
の代表が Yahoo!であり、ロボット型の検索エンジンの代表が Google である。
②検索エンジンへの登録
各種検索エンジンへの登録方法を解説。
③SEO(検索エンジン最適化)
特にロボット型の検索エンジンの評価ロジックに合わせて Web サイトを最適化すること。
④アクセス解析
(3)その他のマーケティング手段
①Google のアドワーズ広告
②アフィリエイトの利用
1.ITの有効な活用
(1)ITによる経営環境の変化
売上高は以下の式で表すことができる。
売上高 = 客単価 × のべ客数
= 平均単価 × 平均販売個数 × 平均来店頻度 × 商圏内顧客数
この式から、売上高を増やす(利益を伸ばす)ための方策は次の4項目となる。
・単価の高い(利幅の大きい)ものを扱う
・お客にたくさんモノを買ってもらう
・得意客になってもらって繰り返し買ってもらう
・広い地域のお客と商売する
つまり、いかにお客さんにたくさん買ってもらうか、得意客をいかに増やすかが売上を増や
すカギとなる。
量販店などの事業モデルは、平均単価を下げることによる減収を、品揃えの豊富さと広域の
商圏を設定することによる来店顧客と販売数量の増加でカバーするものである。量販による増
収効果を重視したモデルといえる。このモデルを維持するためには、広い店舗や在庫を維持す
るための多額の資金や、広域の顧客への広告宣伝が欠かせない。
同じ商圏で勝負する限り、同じモノを扱っていては価格競争という体力勝負になり、資金の
乏しい地域の中小企業や個人事業主にとって不利である。といって差別化を図って独自商品を
取り扱っても、それをPRするための広告宣伝に資金がかけられず顧客を増やせない。先の売
上高の式にもどれば、独自性の強いモノは需要も少ないから一人当たりの平均販売個数も少な
く、商圏の拡大や購買頻度を高めることで数量を確保しなくては商売が成り立たない。
よいモノを提供していても、それを顧客に周知できなければ商売として継続できない。その
ためにマーケティングが重要となるのだが、中小企業や個人事業主が利用できるマーケティン
グ媒体は資金面で制約が多く、地域へのチラシなどに頼っていたのがこれまでであった。
インターネットや携帯電話の普及より、情報発信にかかるコストは劇的に下がっている。こ
の効果は無視できない。中小企業や個人事業主が、やり方次第で、資金力のある大手企業と同
じ土俵で勝負できるためである。
たとえば、ホームページを利用すれば極めて安価な投資(あらたに販売店網を構築すること
を考えれば)で日本全国の顧客を相手に商売をすることが可能になる。また、携帯のメール機
能を利用すれば即時性の情報を顧客に流すこともできる。これにより、商圏を拡大して潜在的
な顧客へPRすることが可能になり、顧客とのコミュニケーションも密にすることができる。
インターネットや携帯電話を活用する利点は、前述したとおり、広域の潜在顧客にPRでき
ること、顧客それぞれに応じたコミュニケーションを図ることが可能であることである。つま
り、先の式の 平均来店頻度 × 商圏内顧客数 を高める効果を追求するのが望ましい。
ただし、通常の宣伝媒体が人の目につくように目立つところに設置されるように、ホームペ
ージも顧客の目にふれなければ効果が無い。インターネットなどでは、自分で自身のホームペ
ージを目立たせる努力をしないと他のホームページの情報と一緒に埋もれてしまう。現実での
一等地にあたる環境は自分で作らないといけない点に留意する。具体的な方策は、
「3.ホーム
ページの活用」を参照のこと。
滋賀県商工会連合会は以下のサイトを運営している。
「におモール」は対消費者むけのショッ
ピングモールであり、
「SHIPSnet」は県内の製造業者を紹介しているサイトである。
2.電子商取引の概要
(1)電子商取引の定義
電子商取引(Electronic Commerce)は、電子的に決済情報を交換し、商品取引を行う経済
活動のことである。E・コマースまたは単にECとも呼ばれる(以後、ECと表記する)
。
以前は専用線を用いた独自規格による情報の交換形式が主流であり、大企業間やその取引企
業を中心に利用されていたが、インターネット上でのオープンな規格に基づく情報の交換形式
が普及したことによりECが一般化した。ECは広義には前者のインターネット技術に限定し
ない「コンピュータネットワークを介した商取引」を含むが、今日一般に注目されるのは、
「イ
ンターネット技術を用いたコンピュータネットワークを介した商取引」が中心である。
ECの取引形態
企業間取引
個人間取引
BtoC
個人A
企業対個人取引
企業A
CtoC
BtoB
個人B
企業B
上記に掲げた図のとおり、ECは取引形態によって企業間取引「B to B(Business to
Business)
」
、企業対消費者取引「B to C(Business to Consumer)
」
、消費者間取引「C to C
(Consumer to Consumer)
」の3つに分類される。それぞれ、B2B、B2C、C2C と表記さ
れることもある。
(2)ECの現状
インターネットの普及に伴い、EC市場もまた拡大している。経済産業省・電子商取引推進
協議会・NTT データ経営研究所が行った「平成 15 年度電子商取引に関する実態・市場規模調
査」によれば、2003 年度のわが国のインターネットを利用したEC市場規模は、企業間(BtoB)
が 77 兆 4,320 億円、企業対消費者(BtoC)が 4 兆 4,240 億円であった。5 年前の 1998 年の
同データは BtoB が 8 兆 6,000 億円、BtoC は 650 億円であり、急速に市場が拡大したことが
見て取れる。
ただし、同調査ではインターネットを利用しない取引を含めた 2003 年度の広義のEC市場
は 157 兆 1,030 億円と推計している。全体のEC市場を俯瞰するとVAN・専用線を利用する
独自プロトコルによるクローズドなEC取引が過半を占めている。
BtoB においてECの効果を享受するためには、取引のほとんどがデータでやり取りされ、
シームレス(滞ることなく)に処理される必要がある。つまり、企業のECの取り組みについ
ては、コスト削減や取引機会の拡大といったプラス面だけでなく、ECへの対応能力によって
取引先から選別されるというマイナス面も考慮して進めることが重要である。
ECのいっそうの普及には中小企業への導入が欠かせず、ビジネスプロトコル等の標準化と
導入コストの引き下げが求められる。
①BtoB(B2B)
企業間取引の分野であり、主に部品や原材料の調達業務を中心に利用されている。さまざま
な形態が混在しているのが実態だが、もっとも一般的なものはEDI(Electronic Data
Interchange:電子データ交換)による取引とホームページによるネット販売である。
EDIは、
「異なる企業間で商取引のためのデータを通信回線を介して、標準的な規約(プロ
トコル)を用いて、コンピュータ(端末を含む)間で交換すること」である。導入コストや通
信の信頼性および秘匿性を勘案してサービスの使い分けがなされている。たとえば、セキュリ
ティ対策が重要な銀行のオンラインシステムは専用線を利用した独自プロトコルによるEDI
が使われている。
ネット販売については、取引先を対象とした1対多の取引を前提とするもの、インターネッ
ト上に設けられた「企業間取引所」というべき多対多の取引を仲介するものがある。後者の例
はeマーケットプレイスと呼ばれ、今後 BtoB の取引の主流になると考えられる。
2003 年度の企業間 EC 市場のセグメント別データでは「自動車」分野が 36%、
「電子・情報
関連機器」分野が 31%を占める。続いて「食品」
、
「鉄・非鉄・原材料」
、
「建設」
、
「保健サービ
ス」などが伸びている有力な分野である。
広義のEC
企業間EC
EDI
専用線・VPN・VAN
インターネット技術を利用しないもの
によるEDI
(従来型 EDI:EIAJ 手順、全銀手順等)
公衆インターネット上の EDI
(インターネット EDI)
インターネット技術を利用するもの
(TCP/IP プロトコル)
自社または取引先企業の Web サイト
eマーケットプレイス
インターネット技術に基づくEC
資料:情報化白書 2004 掲載図より
②BtoC(B2C)
企業対消費者取引はショッピングモールや独自の Web サイトによる直接販売が中心である。
取引規模は BtoB よりも小さいものの、インターネット技術の普及による市場の拡大が一番著
しい分野である。
楽天に代表されるショッピングモールサイトや Web サイトの各種構築支援サ
ービスを行う業者が増え、BtoC サイトの開設は容易になっている。ただし、ホームページの
開設が容易になったということは参入する企業が増えているということであり、消費者側の選
択肢が広がっていることからサイト間の競争は激しい。
国内の代表的なサイトを挙げておく。
http://www.amazon.co.jp/
http://www.rakuten.co.jp/
http://www.shipsnet.jp/
http://www.nc-net.or.jp/
アマゾン
楽天
SHIPSnet
NCネットワーク
③CtoC(C2C)
消費者間取引はネットオークションやフリーマーケットのサイトが代表例である。事業者が
運営する仲介サイトに会員登録を行い、会員が出品したものを会員間で売買するものである。
主なサイトを挙げておく。
Yahoo!オークション
ビッダーズ
楽天オークション
におモール
http://auctions.yahoo.co.jp/
http://www.bidders.co.jp/
http://auction.rakuten.co.jp/
http://www.niomall.com/
(3)ECの特徴とメリット
インターネットを活用するビジネスは、情報の伝達・提供にかかわる「インターネットビジ
ネス」とネットワーク上で商取引を行う「電子商取引」に区分できる。さらに「インターネッ
トビジネス」は、サービスの階層(レイヤー)で、端末・システム層、ネットワーク層、プラ
ットフォーム層、コンテンツ・アプリケーション層に分類することができる。
インターネットを活用したビジネス
コンテンツ・アプリケーション層
ネットワークを活用し、サービスを提供する
ビジネス等
電子商取引
ネットワーク上で財・サービス
の受発注を行う商取引
プラットフォーム層
~ネットワーク上でサービスを提供する際に基盤となるネットワークサービス等~
ディストリビューション、暗号、PKI、認証・課金・決済、保守・運用管理等
ネットワーク層
~ネットワークインフラ及びネットワーク接続サービス等~
ISP、CATV、xDSL、FTTH、VoIP、無線 LAN、IP-VAN、広域イーサネット等
端末・システム層
~端末機器及びネットワークを構築するサービス等~
情報家電、パソコン、携帯端末、サーバ、ルータ、IC チップ、システムインテグレータ等
資料:平成 15 年版情報通信白書P56の図を修正
「電子商取引」はこれらのインターネットビジネスで提供されるサービスやインフラの上に
成り立っている。つまり、今後開発されるインターネット上の新技術の動向によってビジネス
モデルが大きく変わることもありうる。特に、2005 年 4 月に個人情報保護法が施行されるこ
とからセキュリティ技術に関する動向は注意を要する。
一般的に、ECを利用することで得られるメリットとは以下のとおりである。
①商圏の拡大や新規顧客獲得機会の創出
②取引に伴う間接コストの削減
③流通コストや原価削減
④個別注文生産や大幅な在庫削減
一方で情報収集にかかる取引コストの低下は、スイッチングコスト(取引先変更コスト)の
低下にもつながる。発注側(消費者側)に立てば、インターネット上では複数のサイトで価格
の比較をしたり、相見積もりをとることが容易に行える。つまり、汎用品のようなどこでも手
に入るようなものは、価格競争に巻き込まれる傾向が強まる。取り扱う商材の特性にあわせた
販売戦略が必要になる。
(4)ECの普及にともなう危険性・脆弱性
直接、取引相手と対面せずに通信回線をとおして商取引を行うことから、以下のような危険
が存在する。
盗聴
改ざん
なりすまし
否認
:
:
:
:
ネットワーク上の情報の傍受、機密情報の不正入手
取引データの改ざん、偽りの発注取引
第三者による偽名取引、不正利用
発注や契約の否認
ECサイトの構築・運営の際には、これらの危険性につながる脆弱性がないか十分認識して
おく必要がある。また、発注側としてECを利用する際も同様であり、業務で使用するPCか
ら信頼の置けないサイトを閲覧することは論外である。
以下に主な脆弱性の例を挙げておく。
①Cookie(クッキー)の情報漏えい
Cookie は Web サイトの提供者が、サイトの訪問者の履歴情報などを Web ブラウザを通じて
訪問者のコンピュータに一時的に書き込んで保存させるしくみのことである。Cookie を利用す
ることでユーザーの識別が可能になるため、
認証システムや Web サイトにアクセスしてきたユ
ーザーごとに表示する情報をカスタマイズするための要素技術となっている。
Cookie はユーザーの利便性を高めるのに有効な手法であるが、書き込まれた情報が第三者に
漏洩すると大きな被害につながる。財団法人日本情報処理開発協会(JIPDEC)は、後述する
SSL を利用した場合でも Cookie を secure モードで使用しないと情報が漏洩する危険性につい
て指摘しており、Web サイト構築の際には注意を要する。
②クロスサイトスクリプティング
悪意を持ったユーザーが JavaScript などのスクリプトコードを攻撃対象サイトの HTML に
埋めこみ、Web サイトの訪問者にそれを実行させる攻撃である。このように HTML に埋め込
まれると、ブラウザ側では正規のスクリプトなのか悪意のあるスクリプトなのか判別できない
ため、スクリプトの利用を停止する以外にこの攻撃を回避する手段がない。
スクリプトの内容によっては、個人情報の読み取りやデータの消去・改ざんが可能であるた
め深刻な被害を受ける可能性がある。
③フィッシング(phishing)
実在する企業を装ったメールを無差別に送りつけ、
その企業の Web サイトに見せかけた偽サ
イトにユーザーを誘導し、
クレジットカード番号などの個人情報を入力させる詐欺行為のこと。
URL に使用される特殊な書式を利用して、本物の Web サイトにリンクしているように見せ
かけたり、ポップアップウィンドウのアドレスバーを非表示にするなどの巧妙な手口で偽装す
る。
④OS やブラウザが抱えている脆弱性
一般に利用されている OS はマイクロソフト社のウィンドウズであり、ブラウザはIE(イ
ンターネットエクスプローラー)であることが大半である。その結果、IE以外のブラウザで
は正しく表示されないECサイトも多い。しかし、一方でウィンドウズやIEはその利用者の
多さから攻撃のまとになりやすく、脆弱性に関する報告やセキュリティパッチの提供が頻繁に
行われている。セキュリティに関する情報に注意してこれらのパッチを適切に当てていくこと
が必要である。
<Web のセキュリティ対策に関する情報>
All About のセキュリティのページ
http://allabout.co.jp/computer/netsecurity/
Cookie を利用した Web の安全性
http://www.jipdec.jp/any_else/0308.htm
IT 用語辞典 e-Word
http://e-words.jp/
(5)ECを支えるインフラ
①認証技術
インターネットで安全な取引を行うためには、盗聴・改ざん・なりすまし・否認といった不正を防ぐ手段が必要になる。現
実の社会において、法務局へ会社の実印登録を行い、印鑑証明の交付を受けて正当性を証明することと同様の仕組みが求めら
れる。
これを実現する有効な手段が、電子文書を作成した者を示すための電子署名(デジタル署名)と、その電子署名を行ったも
のを証明する認証業務である。現在広く利用されているのは、公開鍵基盤(PKI:Public Key Infrastructure)に基づくもの
である。
電子署名認証制度の情報
http://www.jipdec.jp/esac/
②SSL/TSL
SSL/TSL は PKI に基づく暗号化機能と認証機能を業者側の Web サイトと訪問者側の Web
ブラウザ間で行われている通信に対して提供するものである。SSL/TSL を利用したサイトで
は、URL が“http://”ではなく“https://”で始まり、ブラウザに小さな鍵のマークが表示され
る。
SSL はネットスケープコミュニケーション社が開発した技術で、多くのブラウザが対応して
いるため事実上の業界標準となっている。TSL は SSL3.0 をもとに TSL1.0 として IETF
(Internet Engineering Task Force:インターネット上で利用される各種プロトコルの標準化
を行う団体)により標準化されたものである。
③SET
インターネット上で安全にクレジット決済を行うための技術。PKI の仕組みの利用が前提に
なっている。盗聴の防止だけでなく、Web サイトを運営する業者側でもクレジットカード番号
を知ることができないようにしながら、確実にクレジットカード利用者の認証ができる。店舗
側でのクレジットカードの不正使用や情報漏えいの防止に役立つ。
④電子決済
電子マネーもさまざまな企業が提供しているが、まだ十分に普及しているとは言いがたい。
コンビニエンスストアなどを決済拠点にする決済ビジネスモデルも登場しており、競争を通じ
た利便性の向上が期待される。
<各種電子マネー会社へのリンク>
電子商取引推進協議会
http://www.ecom.or.jp/link/linkindex.html
くらべて.com
http://www.kurabete.com/design/webshop/link/2.html
(6)取引の安全性を高める法律と制度
ネット通販での事故を防止し、消費者保護の観点から「電子契約法」
、
「特定商取引に関する
法律」などの法律が作られている。加えて、
「電子商取引等に関する準則」を定め、電子商取引
等に関する様々な法的問題点について、民法をはじめとする関係する法律がどのように適用さ
れるのか、その解釈を示している。ECサイトの開設にあたってはこれらの法律を遵守しなく
てはならない。
<ECに関する法律関係の情報サイト>
経済産業省ホームページ
http://www.meti.go.jp/policy/consumer/
電子商取引推進協議会の HP
http://www.ecom.or.jp/kaniya/index.html
社団法人日本通信販売協会
http://www.jadma.org/kisei/index.html
IT社会に役立つ法律知識
http://www.ejf.gr.jp/law/index.html
また、取引の信頼性をたもつために以下のような制度も運用されている。
①オンラインマーク制度
ネット通販での事故防止を目的に、2000 年 5 月に(社)日本通信販売協会と日本
商工会議所が作った制度である。ネット通販業者の申請を受け、以下の内容を審査し
てオンラインマークの使用を許可する。
1)申請している通信販売業者が実在すること確認できること
2)申請業者のホームページ上に書かれている販売条件や表示などの表記が「特定商取引に
関する法律」を順守していること
なお、Web サイト上のオンラインマークをクリックすると以下の情報が確認できる。
1)事業者の概要(事業者名、住所、電話番号、代表者名 等)
2)相談窓口の連絡先
3)認定 URL
4)認定番号
5)オンラインマーク認定機関名
<オンラインマークに関する情報>
(社)日本通信販売協会の HP
http://www.jadma.org/ost/index.html
日本商工会議所の HP
http://mark.cin.or.jp/
②プライバシーマーク制度
個人情報保護の規格である JISQ15001 に準拠しており、財団法人日本情報処理開発協会
(JIPDEC)が運用している。
個人情報の取扱いについて適切な保護措置を講ずる体制を整備している民間事業者等に対し、
その旨を示すマークとしてプライバシーマークを付与し、事業活動に関してプライバシーマー
クの使用を認める制度である。
プライバシーマーク制度は、個人情報の保護に関する個人の意識の向上を図ること、民間事
業者の個人情報の取扱いに関する適切性の判断の指標を個人に与えること、民間事業者に対し
て 個人情報保護措置(コンプライアンス・プログラム) へのインセンティブを与えることを目
的としている。
2005 年 4 月に個人情報保護法が施行されるため、普及が進みつつある。登録および更新に
必要な費用は以下のとおりである。
(2005年1月現在)
料金は 2 年間分
料金表
事業者規模
申請料
審査料
マーク使用料
計
小規模
5
20
5
30
新規
中規模
5
45
10
60
大規模
5
95
20
120
小規模
5
12
5
22
単位:万円(税込み)
更新
中規模
大規模
5
5
30
65
10
20
45
90
<事業者規模の基準>
大規模事業者:中規模事業者の規模を超える事業者
中規模事業者:下記のいずれかの条件をみたす事業者
資本金
従業員
製造業その他
卸売業
小売業
サービス業
3億円以下
1億円以下 5千万円以下 5千万円以下
300人以下 100人以下
50人以下
100人以下
小規模事業者:常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業に属する事業
を主たる事業として営むものについては5人)以下の事業者
制度開始
: 1998年~
認定事業者 : 2004年12月現在 966事業者
認定有効期間: 2年(更新審査)
<プライバシーマークに関する情報>
(財)日本情報処理開発協会の HP
http://privacymark.jp/
(7)情報源まとめ
<中小企業経営関連サイト>
経済産業省
http://www.meti.go.jp/
中小企業庁
http://www.chusho.meti.go.jp/
中小企業基盤整備機構
http://www.smrj.go.jp/
全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/
J-Net(中小企業ビジネス支援検索サイト)http://j-net21.smrj.go.jp/
ドリームゲート
http://www.dreamgate.gr.jp/
<団体>
電子商取引推進協議会(ECOM)
EDI推進協議会(JEDIC)
日本商工会議所の HP
(財)日本情報処理開発協会
(社)日本通信販売協会
IT 用語辞典 e-Word
<主な検索エンジン>
Yahoo!JAPAN
Google
http://www.ecom.or.jp/
http://www.ecom.jp/jedic/index.htm
http://mark.cin.or.jp/
http://www.jipdec.jp/
http://www.jadma.org/
http://e-words.jp/
http://www.yahoo.co.jp/
http://www.google.co.jp/
3.ホームページの活用
(1)ホームページの開設・運用
ホームページを開設する際には、目的を明確にしてコンセプトを固めることが大事
である。情報発信が目的なのか、自社が扱う商製品を売ることが目的なのかでコンテ
ンツの内容が変わるからである。これはホームページを自分で作成する場合であれ、
業者に依頼する場合であれ同じである。
ホームページの構成を図示したものをサイトマップと呼ぶ。
ホームページを作成する際には、
このサイトマップを描いて全体の構成を検討しておく。トップページは「何を目的としている
ホームページなのか」が明確にわかるように、そしてホームページのサイト内の各ページでは
「顧客が迷わないように誘導する」ことが重要になる。肝心の情報にたどり着くまでに何度も
クリックさせるようでは顧客が他のサイトに逃げていきかねない。さらに、Google に代表され
るロボット型のサーチエンジンの検索結果をもとに、サイト内の各ページに直接アクセスされ
る場合もあるため、各ページからトップページなどに戻れるようにしておく。
サイトマップの例
トップページ
会社概要
会員情報
販売
個人情報保護
お奨め品
商品情報
お問い合わせ
ホームページを公開するためには、HTML で書かれた情報を Web サーバー上に置く必要が
ある。Web サーバーの調達手段は大きく4種類に分類できるので、商売の規模や予定来店者数、
初期投資予算などを考慮して選択する。
①現在契約しているプロバイダのサービスを利用する
②ホスティングサービスを行っている業者のレンタルサーバーを借りる
③自社内でサーバーを構築する
④インターネットモールに出店する
ビジネスでの利用を考えると②~④の手段を中心に考えることになるが、最初のうちはホス
ティングサービス業者からサーバーをレンタルするかインターネットモールへの出店が現実的
な選択になると思われる。外部のサーバーを借りる場合には、自社の情報を預けることになる
ため、情報管理体制が十分な業者を選択して、顧客の個人情報や自社の営業秘密情報が漏洩し
ないように注意することが求められる。そのためには業者の選択の際に、契約内容だけでなく
情報セキュリティ体制を業者が構築していることを確認すべきである。その業者が(財)日本
情報処理開発協会(JIPDEC)運用しているプライバシーマークやISMS(情報セキュリテ
ィマネジメントシステム)認証を取得しているか否かは判断のひとつの目安となる。
Web サーバーの調達手段のメリット・デメリットについてまとめた表を次ページに掲げてお
く。
契約先
特徴
メリット
デメリット
①契約プロバイダの利用
貸サーバー
初期コストが安価
容量、機能、拡張性に制限あり
例)多数のISP業者(@nifty な
プロバイダのドメイ
手続きなどが簡単
商用利用ができない場合がある
ど)
ン
Web サイト構築のためのサポート無
し
自社名でのドメインが取れない
②インターネットモールの利用
貸しサーバー
比較的低コストで利用できる
システムの自由度は低い
例)楽天 他
モールのドメイン
ショップ運営のサポートサービスが
自社名でのドメインが取れない
ある
それなりのランニングコストが必要
モールのブランドイメージを利用で
きる
モールの集客力を利用できる
③レンタルサーバー業者の利
貸サーバー
自社のドメイン名が使える
システムの拡張性に限界あり
用
自社ドメイン
比較的低コストで利用できる
提供サービスは業者によって差が
高速な回線が利用できる
ある
自前サーバー
自社ドメインが使える
構築に時間とコストがかかる
自社ドメイン
システム構成が自由にできる
システム管理の要員が必要
自社で顧客情報が管理できる
初期コストやランニングコストが高
例)DION、アイル他
④自社サーバーの構築
い
多種多様な業者がサーバーをレンタルするホスティングサービスを行っている。自社のニー
ズにあった業者を選択する際には、以下の情報サイトなどを利用して検討されたい。
ホスティングナビ
比較.com
http://www.3navi.com/osn/rhn/rhn.htm
http://www.hikaku.com/server/
(2)検索エンジン対策
①基礎知識
どんなに立派なホームページを作っても、顧客がアクセスしてくれなければビジネスの役に
立たない。インターネットにはさまざまな情報が玉石混合で大量に存在しているため、ポータ
ルサイトや検索エンジンで上位に表示されないと顧客の目にとまらず、顧客にとっては存在し
ないことと同じになってしまう。現実のビジネスに置き換えれば、人の通らない裏通りに看板
も出さずに開店し、集客のための宣伝もしていない状態といえる。検索エンジンを意識するこ
とがインターネット上でのマーケティングの第一歩である。
検索エンジンは、
ディレクトリ型とロボット型に大別され、
その特徴は以下のとおりである。
1)ディレクトリ型の検索エンジン
あらかじめ定義したカテゴリーごとにホームページが分類・階層化されて登録してあり、
利用者はそのカテゴリーの階層をたどって目的のホームページを探すことになる。
検索エンジンの管理者が最適と判断するカテゴリーに Web サイトを登録するため、
その分
野で質の高い情報を持った Web サイトが見つけやすい利点がある。
逆に、カテゴリーへの登録が管理者の主観にゆだねられること、インターネット上の Web
サイトは膨大な数になっているため情報の更新がタイムリーにできないことがマイナス点と
いえる。
2)ロボット型の検索エンジン
一般的に 「ロボット」と言われるソフトウェアがインターネット上の Web サイトの情報
を収集し、検索エンジンの データベースに登録する。利用者は、特定のキーワードで登録
された Web サイトを検索することになる。
ロボットが自動的にインターネットの Web サイトの情報を集めるために大量の情報が蓄
積され定期的に更新されること、さらに Web ページ単位で登録されるために特定の検索キ
ーワードに確実にヒットする点が利点である。
マイナス点は、情報が多すぎて本当に有益な情報にたどり着けないことがありうること、
キーワードで検索するためヒットしたページに有益な情報がのっているかわからないこと
である。特に、内容と関係のないキーワードを Web サイトに埋め込むなどしてロボットを
欺いてキーワード検索時に上位表示を狙う手法は、ページスパムと呼ばれ問題とされている。
ディレクトリ型の検索エンジンの代表が Yahoo!であり、ロボット型の検索エンジンの代表が
Google である。
②検索エンジンへの登録
1)Yahoo!への登録
審査が無料の方法と有料の方法がある。有料の場合は通常の場合、2005年1月現在、利用1回当たり審査
料 5 万 2,500 円で申請後7日以内に合否の連絡を受け取れる。いずれも審査を通らないと登録されないため、か
なりハードルが高い。
登録申請のページ
http://add.yahoo.co.jp/bin/business
2)Google への登録
Google のトップページにある「Google について」をクリックする。メニューから「サイ
トの登録/削除」をクリックして自社の URL を入力して完了。登録は無料である。
登録申請のページ
http://www.google.co.jp/intl/ja/addurl.html
3)各種検索エンジンへの無料登録サービス
以下の Web サイトから各種検索エンジンへの登録をまとめて行うことができる。
一発太郎
http://ippatsu.net/TARO/
③SEO(検索エンジン最適化)
特にロボット型の検索エンジンの登録・評価ロジックに合わせて自社の Web サイトの内
容を最適化することを指す。インターネット上を巡回するロボットに理解されやすいページ
を作ることが重要である。ごく一般的な項目を取り上げておく。
1)リンクの多いページほど有利になる。
2)更新頻度を高める。
3)Web サイト内の各ページに「戻る」リンクをつけ内部リンクを増やす。
4)ページのタイトルに必ずキーワードを入れる。
5)BODY タグや P タグの後ろにキーワードを持ってくる。
6)ページへのリンク部分に記載するアンカーテキストに内容を示すキーワードを入れる
7)ロボットはテキストデータしか認識できないことに注意。
8)画像データを利用する場合には代替テキストに内容を示すキーワードを入れる。
Google が掲げているガイドラインの URL を掲げておくので一度参照されたい。また、本来
はクリック課金方式のアドワーズ広告のキーワードの選定に利用するためのツールなのだが、
どんなキーワードが検索上有利なのかを検討するためにも使えるため、キーワードアドバイス
ツールのページもあわせて掲げておく。
Google のガイドライン
http://www.google.co.jp/webmasters/guidelines.html
Google のキーワードアドバイスツールのページ
https://adwords.google.co.jp/select/main?cmd=KeywordSandbox
④アクセス解析
自社のホームページを対象に、どこからアクセスがあったのか、どこのページからリンクを
たどってきたのか、などの情報を提供してくれるサービス。どのようにSEOを行うかを決め
る基礎データを取ったり、行ったSEOが狙ったとおりの効果をあげているか検証するための
ツールとして利用できる。
いろいろな業者がサービスを提供しているが、無料サービスを提供している代表的な Web
サイトを紹介しておく。
Infoseek アクセス解析
忍者 TOOLS
FC2 アクセス解析
http://analyze.www.infoseek.co.jp/
http://www.shinobi.jp/
http://analyzer.fc2.com/
(3)その他のマーケティング手段
顧客の自社のホームページへの誘導法として利用できるその他の手段の例を挙げておく。た
だし、いずれも場合でも誘導先の自社のホームページの内容が悪ければ顧客は逃げてしまう。
これらの手法で現実の商売と同様に顧客に認知してもらい、来店した顧客をリピーターにする
仕組みを作ることが重要である。
(以後の内容は2005年1月現在の情報に基づく。
)
①Google のアドワーズ広告の利用
自社のホームページが Google の上位に表示されない場合でも、アドワーズ広告を効果的に
つかえば同じ効果が得られる。アドワーズ広告とは、広告主がいくつかのキーワードを設定し
て検索エンジンのユーザーが当該のキーワードを入力した場合に Google の検索結果ページの
右側にその広告を表示するものである。
クリック課金方式であり、1クリック 7 円~の値段設定で、1日単位で予算の上限が設定で
きる。
アドワーズ広告のページ
http://www.google.co.jp/intl/ja/ads/index.html
②アフィリエイトの利用
インターネット上の一種の代理店といえるアフィリエイトというサービスがある。
その仕組みは、次のとおりである。ネットショップなどのECサイトとアフィリエイト契約
をした個人が、自分のホームページなどにそのサイトや取り扱っている商品に特別なリンクを
張る。そのホームページやメールマガジンからリンクをたどって実際にものが売れれば報酬が
支払われるものである。
ただし、アフィリエイトに宣伝してもらうためには、自社のサービス・商品が実際に魅力的
でなければならないことはいうまでもない。
アフィリエイトサービスのリンク集
http://www.kurabete.com/design/site/dic_site/affiliate.html
インターネット上にはEC支援の情報もあふれている。参考までに All about の該当ページを
紹介しておく。
All About ビジネスへのネット活用-EC 支援関連サービス のページ
http://allabout.co.jp/career/net4biz/subject/msub_ecshien.htm
第Ⅸ章 経営革新
〈第Ⅸ章のポイント〉
1.中小企業経営革新支援法の目的と特徴
経営革新とは新たな取組みにより経営の向上を図ることである。経営を取り巻く環境は激
変しており、従来のままの経営体制や行動では、顧客などに対して十分な満足を与えること
もできずに衰退していく。新たな取組みに挑戦しようとする中小企業に対して多くの支援を
して、中小企業の向上を図り経済全体の発展に資することを目的としている。
2.経営革新の種類
新製品や新役務の開発、新たな販売方式の導入、新たな事業活動などの経営革新を実現す
るためには、顧客ニーズの把握が基本となる。顧客ニーズの把握のためには、営業活動によ
る顧客への接近が基本となる。顧客への訪問頻度を高め、顧客に関する情報収集を幅広く行
なうことが経営革新のスタートである。
下請企業から独立企業への脱皮のためには、自社製品を持つことである。そのためには、
異業種交流や試験研究機関、特許情報などの活用により、製品の企画・設計を実行できる技
術力を備えなければならない。
個々の中小企業にとって「新たなもの」であれば、既に他社において採用されている技術
や方式を活用する場合でも経営革新計画として、ふさわしいものとなる。ただし、業種毎に
同業の中小企業における当該技術の導入状況を判断し、その技術や方式などが相当程度普及
していれば対象外となる。
3.経営革新の進め方
アンゾフの「商品と市場分析」を使って、
「新たなもの」を見つけようとすると、市場深
耕、新市場開拓、新商品開発、多角化・事業転換の 4 分野が考えられる。市場深耕において
は、「新たなもの」を見つけようとするのは大変な努力が必要だが、他の分野では多くの経
営革新事例がある。経営戦略を考える場合には、ポートフォリオ(投資配分)戦略を活用し
て、複数の商品や事業の中で投資すべき分野や撤退分野などを決定し、人、もの、金などの
経営資源を効率的に配分しなければならない。
4.経営革新計画の作成方法
「経営革新計画に係わる承認申請書」の次に、別表を添付して申請をする。
経営革新計画の計画期間は 3 年間から 5 年間で、年率 3%以上の伸び率が目安となる。経
営目標の指標は、
「付加価値額」及び「一人当たりの付加価値額」を使用する。
経営者の経営革新計画のアイデアが素晴らしい内容であっても、申請書や別表に記載され
ないことには認められないのである。経営指導員としては、経営者を支援して経営計画の数
値化や文章化の支援をして、多くの優れた経営革新の芽を育てて欲しい。
1.中小企業経営革新支援法の目的と特徴
中小企業経営革新支援法は、経営革新を行う中小企業を支援する法律であり、経営革新とは
新たな取組みにより経営の向上を図ることである。その第 1 条において、
「この法律は、経済
的環境の変化に即応して中小企業が行う経営革新を支援するための措置を講じ、中小企業の将
来の経営革新に寄与する経営基盤の強化を支援するための措置を講ずることにより、中小企業
の創意ある向上発展を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
」とされ
ている。このため、本法は事業者が策定する経営革新計画を支援するために、以下のような特
徴を持った制度となっている。
(1)全業種で幅広く支援
今日的な経営課題にチャレンジする中小企業の経営革新を全業種にわたって幅広く支援する。
(2)柔軟な連携体制
経営資源や得意分野に限りある中小企業の経営革新には、他社との柔軟な連携関係を最大限
活用することが不可欠である。このため、中小企業単独だけでなく、異業種グループや組合な
どとの多様な形態による取組みを支援する。
(3)経営目標の設定
経営の向上に関する目標を設定することにより、その経営目標を達成するための努力を促す
制度である。このため、支援する行政側でも、計画を実施中に対応策へのアドバイスなどを行
い、フォローアップを実施する。
中小企業経営革新支援法の適用企業になることで、政府系金融機関の低利融資、公的融資、
補助金、税制優遇、その他の支援措置を受けられる。承認企業は、全国 620 万事業所の内、約
1 万 3 千事業所、承認件数比率 0.2%と未だ少ない。
中小企業経営革新支援法の適用企業になるには、経営革新計画とその他関連資料を作成し、
都道府県申請窓口に申請して、審査を受けなければならない。
2.事業システムと経営
理念と使命
外部環境(市場環境)
内部環境(経営資源)
機会と脅威
強みと弱み
規模・スケール・売上・ 無形財産・イメ
需要(市場・顧客)競争 (競合相手)
、
ージ・ ヒト、 モノ、 カネ、 ノウハウ、 情
報
流通(取引相手)
、技術(レベル)
経済環境、法規制、 社会文化
目標(シェア・利益)
市場の設定
ターゲット・マーケット
特徴的優位性(活動スタイル、市場
での位置付け)
具体策(商品・価格・販売促進、ル
ート・サービス・施設
受け入れ体制)
製品や役務を顧客の要求に合わせて企画・生産して提供する方法が事業システムである。そ
れは、事業概念、業務システム、組織システム、経営資源の 4 つから構成される。事業のあり
方をリードするものが、事業概念であり、顧客機能、形態、顧客層、差別化の方法に分けられ
る。製品に対して顧客が求める機能は事業の出発点となる。顧客が購入するのは、その製品に
よって提供される何らかの機能を求めているからである。形態は顧客の求める機能を製品とい
う形に具体化する技術である。どのような顧客を事業の対象とするのかが顧客層である。顧客
によって購買行動が異なり、製品に求められる機能や形態が異なるとき、企業は特定顧客層に
的を絞って事業を形成する。すなわち、市場細分化であり特定顧客層に的を絞ることにより、
同じ製品でも必要な機能や販売方法が変わる。さらに、競合他社を意識した差別化の方法によ
って事業システムは異なってくる。事業概念のもとに、具体的に事業を実行する手段が生産や
販売などの業務システムである。製造業であれば、製品の企画や研究開発、資材調達、加工、
組立、販売、物流までの業務の仕組みである。研究開発か販売業務かなど、どの業務に重点を
置くか、また見込み生産か受注生産を採用するかでも事業の仕組みが変わる。人材の能力と人
材を生かす組織の力により事業活動は異なってしまうので、事業概念に適合できる組織システ
ムが求められる。事業を支えて運営するのが経営資源であり、それは人材、資金、情報、ノウ
ハウである。事業システムを立案し、それを運営するのは人材であり、事業システムに合致し
た人材が獲得できなければ事業を維持し発展できない。設備の購入や販売経路の維持には資金
が必要であり、資金力以上の事業システムは形成できない。情報はハードな経営資源とは違っ
てコストと効果には比例的な関係はない。例えば、思いつき程度のアイデアや他人の気付かな
い小さな情報からでも新しい事業を創造できるからである。
(2)経営革新の種類
承認の対象となる経営革新の内容としては、新たな取組みによって当該企業の事業活動の向
上に大きく資するものであり、概ね以下の 4 種類に分類される。
①新製品の開発または生産
今後、期待される中小企業像は自立型中小企業といわれている。下請企業から独立企業への
脱皮のためには、自社製品を持つことである。そのためには、製品の企画・設計を実行できる
技術力を備えなければならない。当初は、親企業から技術指導を受けながら部品加工などから
始め、得意先の求める品質、コスト、納期を達成できる体制を築く。その後、教えられた製造
方法で製造し納入するだけではなく、製造方法に関する提案もできるようにする。そのために
は、部品の製造工程や設計能力を習得しなければならない。製造する物は、部品から部品の結
合であるユニット、さらには完成品になり、一方で設計の対象は部品から製品へと拡大する。
異業種交流によって、新製品の開発に成功した例は多い。製造業者は製品を作れるが製品の
価値を高めるノウハウをあまり知らない。流通業者はアイデアを出せるがそれの生産方法はわ
からない場合が多い。異業種交流によって製品開発が上手く行く理由は、製品開発には製造、
流通、運輸、小売などの多様な業種が必要であり、メンバーによる情報交換により考えをまと
めていくことができるからである。特に最近はインターネットにより、社内に居ながら異業種
と交流ができるので効果は大きい。
中小企業は基礎研究や先端技術の研究を行う余裕がない企業が多い。代表的機関として、①
公設試験研究機関、②農業試験場、③大学の研究室がある。公設試験研究機関は、原則として
各都道府県に配置されていて、一般的な工業生産技術に関する技術指導を行い、新製品などの
各種試験を依頼でき、先端技術に関してテーマを持ち込めば共同研究にも応じてくれる。食品
の流通には農業分野の技術や知識が必要で、農業試験場では有機栽培や土壌改良などの研究を
行っている。大企業では大学の研究室に研究費を支払い、新技術の供給を受けているところが
多いが、中小企業では多額の開発費を支払うことはできない。地方の大学では学生に企業とい
う現実を知らせるために、地元産業界との交流を持とうとしているので、テーマがあればアプ
ローチをすべきである。
早く商品化を実現する方法には、公開されている特許から得ることがある。登録されている
特許には商品化されていないものが多くあって、商品化するためのアイデアが豊富にある。特
許庁ではホームページを開設して特許情報を公開している。また、特許流通を目的にしたフェ
アも開催されているので、大いに活用すべきである。
②新役務の開発または提供
新役務の開発または提供については、
「新製品の開発または生産」
で述べたことが基本になる。
役務とは無形財を言い、一般的には理容業や旅館業のようなサービス業の扱う商品である。
③製品の新たな生産または販売の方式の導入
製品の新たな生産方式の例としては、次の例を挙げることができる。1980 年代後半には、旺
盛な需要に対応するために、自動化設備やロボットを導入し、生産性の向上や人手不足に対処
してきた。その後 90 年代では、バブル経済の崩壊に伴う不況に直面して、工場の関心は自動
化から人へ戻り、例えばセル生産方式が導入された。セル生産方式とは、パソコンなどの電子
機器製品の組立工場を中心に数人のグループにて製品を完成させるものである。
新たな販売の方式を考える場合には、顧客ニーズを把握しなければならない。顧客ニーズの
把握のためには、営業活動による顧客への接近が基本となる。営業活動では、製品の販売だけ
ではなく、顧客の要望などの情報収集が重要である。製品に対する品質や価格、使いやすさ、
不便さをはじめ、顧客が作業現場でどのような問題に直面しているか、また要望を聞いていて
も対応できていない問題は何かなど多種多様である。顧客への訪問頻度を高め、納品や集金業
務だけでなく、顧客に関する情報収集を幅広く行なうことが営業活動であることを社長や経営
者が率先垂範して社員に示すべきであり、このような活動から得た情報を十分分析すれば経営
革新につながる。
④役務の新たな提供の方式の導入、その他の新たな事業活動
役務の新たな提供の方式の導入とは、前述の「製品の新たな生産または販売の方式の導入」
で述べたことが基本になる。
新たな「取組み」については、多様なものが存在するが、個々の中小企業にとって「新たな
もの」であれば、既に他社において採用されている技術や方式を活用する場合についても経営
革新計画として、ふさわしいものとなる。ただし、業種毎に同業の中小企業における当該技術
の導入状況を判断し、その技術や方式などが相当程度普及していれば対象外となる。 また、
設備の高機能化や共同化が大きな経営課題となっている場合、設備の高機能化や共同化によっ
て新たな生産方式を導入し、生産やサービス供給効率を向上するための取組みも対象とする。
さらに、事業活動全体の活性化に大きく資する生産や在庫管理のほか、労務や財務管理など
経営管理の向上のための取組みについても、広い意味での商品の新たな生産方式、あるいは役
務の新たな提供方式などとして対象とする。
3.経営革新の進め方
まず、
「新たなもの」を何にするかを決めることがスタートになる。一般的に、売上高が大き
く増加すれば、
経営革新の成果は高くなるので、
売上高増加の方法を考えることが重要である。
今までに、商品をどの市場に売ってきて、今後はどうするかを決めることかが売上高を大きく
左右する。
アンゾフの「商品と市場分析」を使って考えると次のようになる。
(1) 市場深耕
市場深耕とは、
「今の商品を今の顧客に売る」という考え方で、今まで改善という発想で多く
のことを検討し、多くの改善を実施し大きな効果を得てきた。しかし、新しい改善も毎日の習
慣になると当たり前のことになり、一層の改善が必要になる。ほとんどの業界に、一応の改善
が行き渡ると、新しい改善が「新たなもの」にはならないようになってきた。例えば、固定客
つくりのために、一人ひとりに対応した顧客管理を実施することや笑顔の接客対応などが考え
られる。もし、今まで実施せず、新たに実施し始めたら顧客は喜び売上高は増えるであろう。
しかし、この内容は繁栄企業では実施していることなので、
「新たなもの」にはならない場合が
多い。市場深耕において、
「新たなもの」を見つけるのは大変な努力が必要である。
(2) 新市場開拓
新市場開拓とは、
「今の商品を新しい顧客に売る」という考え方で、主に営業や広告活動で
実施されてきた。営業や広告活動により、新しい顧客に商品を知って貰う。売上高について顧
客を細分化して、今までに売れていなかった人々に売れたとすると新しい顧客層に売れたこと
になる。
例えば、
従来は高年齢客にしか売れていなかった商品が若者に売れ出した場合である。
なぜ売れたか、どのような用途に使われているのかを調べて、他の地域でも売れないか、また、
部分的に改良をすれば売れるのかなどを研究する。その時、ある地域に限定して販売をするテ
スト・マーケティングをしてから本格的に全国販売をすべきである。失敗した場合のリスクを
最小限に抑えるためと、テストマーケティングによって仮説に対する検証をして本格販売のデ
商品と市場分析
商品・サービス
現在
現在
市
場
・
顧
客
新規
新規
Ⅰ 市場深耕
今の商品を今の顧客に売る。
→従来通りのやり方では効果
は現れない。
Ⅲ 新商品開発
新商品を開発し、今の顧客に売
る。
→顧客のニーズやウォンツに
対応した新商品開発。
Ⅱ 新市場開拓
今の商品を新しい顧客に売る
→営業や広告活動により、新市
場に商品を知って貰う。ま
た、新しい用途開発も必要。
Ⅳ 多角化・事業転換
新商品を新しい顧客に売る。
→業種や業態を転換し新事業
を開始
参考:H・I・アンゾフ「最新・戦略経営」
ータを揃えるためである。新しい市場としての若者に対して営業活動をするには、若者を相手
に営業のできる人材を採用しなければならない。また、新しい用途開発をすることにより新市
場が見つかる場合も多い。新しい用途開発をするには、商品に愛用者カードを添付したり、顧
客のモニター会議で意見を聞いたり、使い方コンテストをして意見を求める方法がある。
(3) 新商品開発
新商品開発とは、
「新しい商品を開発して今の顧客に売る」という考え方で、研究開発に重
点を置いて試作品を作って売れ行きを確認し改善すべき所を直して本格的発売をする場合であ
る。特に製造業において、新商品開発が経営革新の申請で多い理由は、新商品開発が経営革新
を実現できる可能性が高いことと、自社の製品や製造技術のノウハウがあり、他社よりも独自
性があるからである。しかし、開発した新商品に需要が無ければ売れないので、成功する確率
が低いことが多い。
新商品開発のスタートは、自社の商品の市場での位置付けがどのような物であるかを把握す
ることである。商品が買われるには購買動機が必ずある。
顧客は、
ニーズかウォンツの動機で商品を買う。
毎日の食事の米を買う時は必要だから買う。
米は必要なもの、すなわち生活必需品であり、ニーズの動機で買う。一方、ダイヤモンドの指
輪は高価で贅沢なものなので、必要なものではなく、欲しいものである。すなわち、ダイヤモ
ンドの指輪は欲しいものであり、生活向上品であり、ウォンツの動機で買う。ただし、婚約指
輪として花嫁にダイヤモンドの指輪を贈る場合はニーズの動機で買う。ウォンツにも色々な動
機があるが、ダイヤモンドの指輪が買われるのは、美、自然、ファッションのためと思われる。
ウォンツには、健康、美、自然、自己実現、遊、便利、創造、ファッション、安全のように、
いろいろなものがあり、同じ商品を買うにしても、同じウォンツで買うとは限らず、好みは多
種多様であり、
一般的にはウォンツと思っていてもニーズで買われる場合もある。
このように、
生産者だけの発想で商品開発をすると失敗する場合が多いので、
対象とする顧客を絞り込んで、
顧客のニーズとウォンツに合った新商品を開発しなければならない。
商品の購買動機
ニーズ
= 必要なもの = 生活必需品=例えば、米
ウォンツ = 欲しいもの = 生活向上品=例えば、ダイヤモンドの指輪
健康、美、自然、自己実現、遊、便利、創造、ファッション、安全、などがある。
顧客の商品についての苦情や要望に対しては、直ぐに対応をしないと企業にとって命取りに
なる。
顧客の苦情に対しては、
直ぐに解決して顧客の不満や不安を取り除かなければならない。
苦情とは、例えば「注文品と違うものを送ってきた。直ぐに、取り替えて注文した品に代えて
欲しい。
」というものであり、
「本来の姿に戻す」ことである。しかし、要望とはこの商品はこ
れでも良いが、欲を言えば「こう変えてほしい」というのが要望である。作り変えてみると、
以前の商品よりも良くなる場合がある。
その場合は、
新商品にならないかを検討すべきである。
苦情と要望
苦情
要望
⇒
注文品と違う
⇒
本来の姿に戻す
こう変えてほしい
作り変えた
=新商品になる?
(4) 多角化・事業転換
多角化・事業転換とは、
「新しい商品を開発して新しい顧客に売る」という考え方で、今まで
に経験したことのない事業を始める場合を言う。多角化・事業転換は、まさしく経営革新であ
るが、市場調査など時間と手間を掛けねばならず、多くの設備投資も必要である。失敗すれば
多大な損失を被るので、企業経営にとって危険性は非常に高い。しかし、経営状況が先行き不
安定で、現状の経営体制では将来性がない場合は経営の基本を見直して、多角化・事業転換に
着手しなければならない場合もある。
企業は、人、もの、金などの経営資源に限りがあるので、商品や事業に効率的に配分しなけ
ればならない。商品や事業の組合せを最適化させる戦略をポートフォリオ(投資配分)戦略と
言う。複数の事業や商品の中で投資すべき分野と撤退分野などを決定する。ポートフォリオ戦
略を実行する方法として、ボストン・コンサルティング・グループの開発したPPMがある。
PPMとは、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの略で、製品(プロダクト)の組合
せ(ポートフォリオ)を経営(マネジメント)的観点から検討することを意味する。
PPMでは、横軸に売上高をとり、縦軸に市場成長率をとる。これにより、商品や事業の市
場ポジションを 4 種類に分類する。原則としては横軸の売上高は、相対的マーケットシェア(そ
の商品の市場における自社の競争上の地位)を使うべきであるが市場全体の需要の把握が困難
な場合が多いため、実務上は売上高を使う。
① 花形商品
売上高が高いので収入は大きいが、市場成長率が高いため急成長に追いつくための投資も大
きい。市場成長率が鈍ってくれば、金のなる木になり大きな資金源になる。
② 金のなる木
売上高が高いため収入は大きく市場成長率が低いため大きな投資も不要なため支出も少ない。
収益の柱となり、他の問題児などへ投資をする。
③ 問題児
売上高が低く、市場成長率が高いため投資が必要で支出が大きく、資金繰りが厳しい。問題
児を花形商品や金のなる木に育てるか、撤退して資金繰りを楽にするか、などの決断をしなけ
ればならない。
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント) マトリックス
売上高 
高い
高い
市
場
成
長
率
低い
Ⅰ 花形商品
Ⅲ 問題児
Ⅱ 金のなる木
Ⅳ 負け犬
低い
参考:ボストン・コンサルティング・グループの開発したPPM
④ 負け犬
市場成長率が低いため投資は不用で支出が小さいが売上高も低い。大きな資金源に育つ可能
性はほとんどない。
四つのタイプの関係を表すと上記のようになる。花形商品は資金をつぎ込んで伸ばし、金の
なる木は出来るだけ資金を使わず利益を確保し、その資金を花形商品や問題児へと回す。問題
児は、現在赤字だが成長性のある分野であり、資金をつぎ込み育成をする。負け犬は、現在赤
字で将来も見込みがない分野であり、早急に撤退すべきであろう。
4.経営革新計画の作成方法
(1)経営目標
承認の対象となる経営革新計画の計画期間は、3 年間から 5 年間である。
経営目標の指標としては、
「付加価値額」及び「一人当たりの付加価値額」を使用する。
付加価値額の定義は、営業利益、人件費及び減価償却費の合計とする。
付加価値額などの定義
付加価値額 = 営業利益+人件費+減価償却費
一人当たりの付加価値額 = 付加価値額 ÷ 従業員数
①人件費は、以下の各項目の全てを含んだ総額とする。
ただし、これらの算出ができない場合には平均給与に従業員数を掛けて算出してもよい。
1)売上原価に含まれる労務費(福利厚生費、退職金なども含む)
2)一般管理費に含まれる役員給与、従業員給与、賞与及び賞与引当金繰入れ、福利厚生費、
退職金及び退職給与引当金繰入れ
3)派遣労働者、短時間労働者の給与を外注費で処理した場合の当該費用
②減価償却費は、以下の各項目の全てを含んだ総額とする。
ただし、各費用項目について把握できない場合は、当該項目については省いてもよい。
1)減価償却費(繰延資産の償却額も含む)
2)リース、レンタル費用(損金参入されるもの)
③一人当たりの付加価値額
1)従業員数については、勤務時間によって人数を調整すること。例えば、1 日の勤務時間が、
従業員 7 時間、アルバイト 4 時間で、従業員が 10 人、アルバイト 10 人いれば従業員数は
次の通り。
アルバイトを含んだ従業員数=(従業員 7 時間×10 人+アルバイト 4 時間×10 人)÷7
時間(従業員の勤務時間)=15.7 人
2)従業員数については、付加価値額と整合性のとれるものとすること。例えば、派遣労働者
や短時間労働者の経費を人件費に算入した場合は、分母の従業員数にも人数を加えなけれ
ばならない。
④目標伸び率
経営革新計画として承認されるためには、付加価値額または一人当たりの付加価値額につい
て、3 年間の計画の場合、計画期間である 3 年後までの目標伸び率が 9%以上の必要がある。
付加価値額または一人当たりの付加価値額の目標伸び率
115%以上
112%以上
109%以上
100%
N年
(N+3)年
(N+4)年
(N+5)年
また、計画期間が4年間の場合は 12%以上、5 年間の場合は 15%以上の目標である。
すなわち、年率 3%以上の伸び率が目安となる。
なお、グループによる申請については、承認の判断にあたって、グループ全体を合算した指
標を用いることができる。
(2)申請書の書き方
申請者は、経営革新に関する計画を設計し、
「経営革新計画に係わる承認申請書」の次に、別
表 1 から別表 7 を作成し添付する。ただし、別表 5 については、
「組合等の負担金の賦課の基
準の計算表」のため、単独企業には関係ないので添付していない。
提出先は、滋賀県の場合は商工観光労働部中小企業振興課であるが、申請にあたっては地域
中小企業支援センターが相談機関となっていて、申請の手続きや申請書の書き方等を支援して
くれる。
この別表に直接書き始めると、なかなか書けないものである。そこで、直ぐに書けることは、
自動的に書いていって、考えなければならない内容については、後で十分考えてから書くよう
にすれば早くできる。そのような願望を叶えてくれる申請書作成を補助するための無料のソフ
トがある。「経営革新計画作成ソフト」を(財)中小企業総合研究機構のホームページ
(http://www.jsbri.or.jp)に掲載しているので、是非活用すべきである。
様式第1
経営革新計画に係る承認申請書
16年 12月 1日
滋賀県知事 国松善次 殿
住
所
名 称 及 び
代表者の氏名
大津市京町4-1-1
㈱T社
山田太郎 ㊞
中小企業経営革新支援法第4条第1項の規定に基づき、別紙の計画について承認を受け
たいので申請します。
様式第 1 は、
「経営革新計画に係る承認申請書」であり、書類一式の表紙である。ここで、
社印や代表者の押印をする。
別表1は、この申請書の集約であり、経営革新計画のテーマ、目標、既存事業との関係、計
画数値などの概要をまとめている。特に、文章で表現する箇所が多いため、多大な時間を要す
る人もいる。経営者の中には、話術には長けているが文章化を嫌う人も多く、このページで断
念する人も多い。折角の優れた経営革新の芽を摘み取ってしまうのは残念である。支援センタ
ーのコーディネーターや商工会などの経営指導員は、文章化の支援をして申請書を完成してほ
しい。経営者の考えを十分聞いて文章にして、本人に確認して正しければ完了である。支援を
する人は、すべての経営者は自分と同じように文章化ができると思って申請書を待っていても
出てこないのは、このページで中断している場合が多いので必ずフォローすべきである。
経営革新計画
(別表1)
申請者名・資本金・業種
実施体制(大学・公設試験場・企業連携先があれば記載)
現在は特になし。将来協力して頂ける大学や企業があれ
ば、連携を図りたい。
㈱T社
資本金 1,000万円
印刷業
経営革新計画の基本類型
経営革新の目標(計画のポイントを記載)
経営革新計画のテーマ:〇〇を使った手帳
① 商品の開発又は生産
当社は、受注受身型体質から提案型印刷会社への変革に
2.新役務の開発又は提供
取り組んでいる。昨年までの 3 年間、外部の専門家の協
3.商品の新たな生産又は販売の方式の導 力のもと、商品開発を積極的に行なった結果、昨年「〇
入
〇を使った手帳」といった特徴を持つ商品を開発し、特
4.役務の新たな提供の方式の導入その他 許申請し発売した。本商品は従来の商品に比較して利便
新たな事業活動
性に優れ、製造コストが非常に安く済むことが特徴であ
る。今年になって、一部地域にて試験的に本商品を販売
したところ、非常に売れ行きがよく、今回販売地域を拡
大して積極的な販売戦略を立てた。このような新たな取
組みにより、売上の大幅な向上を目指し、当社の経営革
新を進めていくこととしている。
経営革新の概要及び既存事業との関係
昭和40年設立の印刷会社。印刷事業だけではなく、これまでも利便性の高いメモ帳等を開発
し、積極的に販売するなど、印刷事業で培ったノウハウと、外部の専門家との共同研究の成果を
結びつけ、商品開発と積極的な販売を行ってきた。今回の新商品も既存事業におけるこれまでの
当社の経験を十分に生かし開発した商品であり、これによって経営革新を図ろうとするものであ
る。
経営の向上の程度
を示す指標
1
付加価値額
2
一人あたりの
付加価値額
補助的指標
名
1
2
称
現
状(円)
計画終了時の目標伸び率(計画期間)
(%)
73,515,000 円
35 %
H16 年 1 月~18 年 12 月(3 年計画)
24 %
6,126,000 円
計 算 式
現
計画終了時の
目標伸び率(%)
状
円
(別表2)
実施計画と実績(実績欄は申請段階では記載する必要はない。
)
計
番号
実 施 項 目
実
画
評価基準
1
安全で効率的な生産方式の開発
1-1
〇〇部分の安全な転写方法の開発
評価
頻度
安 全 委 員 毎月
会の評価
製造原価
1年
1-2
効率的な製本装置の開発
製造原価
1年
2-1
2
〇〇商品の新規開拓営業体制の確立
〇 〇 商 品 毎週
の売上
2-2
2-1
マネージャーと担当営業の2名専任体
制の確立
○○商品を切り口に新規開拓した顧客 新 規 顧 客 毎月
に対する他の印刷物提案営業活動
の売上
次期バージョンの新〇〇商品の開発
新商品の
売上
工程短縮化の製版装置の開発
製造原価
1年
2-2
3
3-1
3-2
工程短縮化の製版装置を利用した○× ○ × 商 品 毎週
商品の新規開拓営業体制の確立
の売上
実施
時期
1-1
実施
状況
績
効果
対策
1-3
2-4
3-1
3-2
3-3
別表 2 は、
実施計画と実績を記入する表である。
実績欄は申請段階では記載する必要はない。
番号 1、2、1-1、1-2、1-1-1、1-1-2 というように、実施項目を関連付けて記載する
こと。
実施項目 具体的な実施内容を記載すること。
評価基準 定量化できるものは定量化した基準を設定することとするが定性的な基準でも可
とする。
評価頻度 自社で計画の進捗状況を評価する頻度または時期を、毎日、毎週、毎月、隔月、
半年、1 年、半年後、1 年後などと記載すること。
実施時期 実施項目を開始する時期を 4 半期単位で記載すること。例えば、1-1 は初年の最
初の四半期に開始、3-4 は 3 年目第 4 四半期開始を示す。
(別表3)
経営計画及び資金計画
参加中小企業者名 ㈱T社
付加価値額
一人あたりの
付加価値額
(単位 千円)
2年前
1 年前
直近期末
1 年後
2年後
3 年後
(H13 年 12
(H14 年 12
(H15 年 12
(H16 年 12
(H17 年 12
(H18 年 12
月)
月)
月)
月)
月)
月)
73,148
77,633
73,515
73,500
89,900
98,900
5,627
6,469
6,126
6,125
6,915
7,608
245,130
258,984
239,857
270,000
320,000
370,000
180,163
189,332
176,460
209,000
240,000
276,000
47,856
45,918
41,553
42,,000
50,000
55,000
営業利益
17,111
23,734
21,844
19,000
30,000
39,000
人件費
49,994
48,138
46,795
47,000
53,000
53,000
13
12
12
12
13
13
売上高
売上原価
一般管理費
従業員数
4年後
うち新たに雇い
入れる従業員数
設備投資額
3,765
2,711
413
15,000
5,000
0
減価償却費
6,043
5,761
4,876
7,500
6,900
6,100
2,000
資
政府系金融
機関借入
10,000
金
民間系金融
関借入
4,000
調
自己資金
1,000
3,000
達
その他
額
合 計
15,000
5,000
(付加価値額等の算出方式)
売上高―売上原価-一般管理費=営業利益、営業利益+人件費+減価償却費=付加価値額
付加価値額÷従業員数=一人あたりの付加価値額
人数、人件費に短時間労働者、派遣労働者に対する費用を算出しましたか。
(○はい・いいえ)
減価償却費にリース費用を算出しましたか。
(○はい・いいえ)
従業員数について就業時間による調整を行いましたか。
(○はい・いいえ)
5年後
別表 3 は、経営計画及び資金計画の表である。この表は、経営計画を数値化しなけ
ればならないために、数値化の不得手な経営者もおられるので、コーディネーターや
経営指導員は必要ならば支援をしてほしい。直近 3 年間の決算書から記入すること。
創業 3 年未満の場合は、記入できる範囲を記載すること。また、資金調達額について
は、計画期間の間のみ記載すること。
なお、設備投資を予定している者は、併せて別表 4 を記載すること。
(別表4)
設備投資計画
参加中小企業者名 ㈱T社
機械装置名称
(導入年度)
(単位:円)
単
価
数 量
合 計 金 額
1
○○商品用天糊機 平成16年度
15,000,000
1
15,000,000
2
〇〇商品用裁断機 平成17年度
5,000,000
1
5,000,000
3
4
5
6
7
8
9
10
合計
20,000,000
別表 5 については、
「組合等の負担金の賦課の基準の計算表」のため、単独企業には関係ないので
添付していない。
別表 6 には関係機関への連絡希望について、別表 7 には経営革新事例集等への公表承認について
記載すること。
Ⅹ章 経営革新事例の紹介
事例1 新製品織布開発生産事例
企業名
創業
資本金
(元入金)
C 織布株式会社
昭和 58 年
3,000万円
所在府県名
事業概要
織布製造・販売業
売上高
(希望により省略) 従業者
滋賀県
12人
経営革新の クレープ生地の新製品開発及び生産による消費者・生活者への新しいライフスタ
テーマ
イルの提案
主見出し
新素材をクレープ糸に加え、消費者の健康志向や環境志向に対応する
経営革新の 利益率の低下、多くの同業者が中国へ生産拠点を移転という環境下、物産展やホ
きっかけ
テル土産物コーナーでの消費者ニーズの収集と実験販売
成功要因
備長炭、竹、和紙、とうもろこし、光触媒等を加えた糸のクレープを新たに開発
して、従来は商社だけに販売していた製品をアパレルメーカー、寝具メーカーに
新規参入、アウター部門の売上高構成比を高めることに成功した
外部資源の 地元商工会経営指導員の支援を受けて申請書を作成した。中小企業診断士のアド
活用
バイスを受けて計画を達成できるように具体的な方針を決めて実施していく
事例2 通所介護における新サービス導入事例
企業名
創業
資本金
(元入金)
G建設 株式会社
昭和 12年 事業概要
4,000万円
売上高
所在府県名
滋賀県
建設資材製造・販売・施工
(希望により省略) 従業者
25人
経営革新の 小規模多機能介護施設の設置によるきめ細かいサービスの提供
テーマ
主見出し
デイサービスにおけるきめ細かいサービスの提供と満足度の高い新たなサービ
スの開発
経営革新の 大手介護事業者の提供するサービス内容に満足していない多くの介護対象者が
きっかけ
存在している。従来のデイサービス(通所介護)では入浴と食事のみが重視され、
老人の満足度が低い
成功要因
事業所ごとに対応地域を設定し、地域密着を図る。デイサービスの利用者定員を
少人数に限定し、年代別などのグループ分けを行い、ゲーム要素や家庭菜園の要
素を入れたサービスを開発
外部資源の 中小企業診断士の支援を受けて申請書を作成し、認定後国民生活金融公庫よりの
活用
融資を受けることができた
事例3 新種米販売及び米穀の流通革新事例
1.企業概要と経営革新のポイント
企業名
創業
資本金
(元入金)
N農機 株式会社
昭和 4年
1,000万円
所在府県名
事業概要
農機具販売・整備業
売上高
(希望により省略) 従業者
滋賀県
15人
経営革新の 農機具商における、お米の新品種販売及び米穀の流通革新による生産者・消費
テーマ
生活者の満足の向上
主見出し
生まれ育ちのはっきりしたお米を作り、お米の安全と安心を実現する
経営革新の 米という消費財を扱うことにより、農家を顧客の立場から、米の仕入先にして、
きっかけ
米の消費者を最終顧客とした。すなわち、農家、当社、販売店を一つのビジネス・
チームと位置付けて、最終顧客に対応することにした
成功要因
民間銘柄新品種のライセンスを買い受け、主米生産地で直接契約栽培を行い、集
荷から販売に至る体制づくりをして、新たな流通革新に挑戦する。ライスセンタ
ーを設立し、生産毎の個別乾燥化に取組み農家別の最終段階までの品質証明や生
産履歴にも対応できるよう改善した
外部資源の 地域中小企業支援センターの支援を受けて申請書を作成し、中小企業診断士のア
活用
ドバイスを受けて計画を達成できるように具体的な方針を決めて実施していく
当社は、昭和4年に農機具販売業として発足、昭和26年に法人化した。昭和58年に整備
センターを開設、平成元年には建設機械の販売・レンタルを開始し、地域に根ざした業者とし
て発展してきた。
本社の社屋
整備センター
2.経営革新に至った背景・経緯・動機
今般、食糧法の一部が改正され、これまでの計画流通制度が廃止されたことから、米穀取扱
事業に新規参入する(米穀の出荷または販売の事業の開始届出書は平成16年8月5日付け届
出済み)
。
お米の安心、
安全が揺らいでいる今日、
既存の流通が巨大なものになり過ぎたために、
どこで、誰が、どのように生産し、どのように加工したのかというお米の生産履歴について、
知ることができない。しかし、地元や近隣の生産者なら実際に会って話を聞いて生活者自らが
判断することができる。信頼を生むのは、このような生きた交流である。
昨今の農業を取り巻く環境は非常に厳しく、当社も地域の農家への農機具販売整備を主事業
として展開してきたが、販売整備だけでは生き残りが非常に厳しく、地域の農家との永年にわ
たるつながりをより一層生かすため農業ビジネスの多様化に進む必要がある。
新たに米穀販売事業を開始するのはその一環であるが、平成15年秋より、小松作業所ミニ
ライスセンターを設置し、生産ごとの個別乾燥化に取り組み、農家別の最終段階までの品質証
明と生産履歴にも対応できるよう改善した。従って、消費者へは生産現場も分かる良質のお米
を安全に提供できるので、信頼と安心をより高めることが可能となる。
3.経営革新の概要
経営革新計画のテーマは、
「農機具商における、お米の新品種販売及び米穀流通革新による生
産者・消費生活者の満足の向上」である。
ライスセンターの正面
本年からは新たに民間銘柄新品種「夢みらい」のライセンスを買い受け主米生産地での直接
契約栽培を行い、集荷から販売に至る一気通貫した体制作りと新たな流通革新に挑戦する。民
間育成新品種の米生産(優良農家との委託契約)に着手、当社の経営管理ノウハウと米穀取扱
いが行なえる利点を生かし、従来の米の流通革新を図るものである。当社のテリトリーは、高
島郡域(志賀町の一部あり)であり、地産地消を進める上でも米穀取扱いを行なうことが要求
され、
近くで生産された良質なお米を、
毎日食卓に提供することで地域社会全体のコスト削減、
ひいては環境への配慮も生まれると考えられる。生活者のニーズに適切に応えていく、このこ
とは、安定した農業経営の持続につながり、関係する各々の生活満足の向上と、当社の事業の
ライスセンター内部の多くの乾燥機
発展を目指すものである。
お米の安全と安心には生産から販売までの「完全なトレーサビリティー」
(生まれ育ちのはっ
きりしたお米)が必要になり、トレーサビリティーの確立できたお米が期待されている。完全
なトレーサビリティーが確立されれば、それだけで地域ブランド米が取り扱えるようになる。
4.経営革新プロセス
地域の農家へ農機具を販売したり整備するというのが主事業であり市場深耕の分野である。
しかし、この事業は農業の機械化と農業機械の普及が一巡したことにより、売上高の伸びは
低下した。従来は、ヤンマーから農業機械を仕入て農家に販売し整備をしていた。後には、建
設機械の販売整備もしているので、新商品を新市場に販売する多角化と考えられる。しかし、
仕入先は同じであることから大きな経営革新とは言えない。それに比べて、今回の「消費者へ
米穀を販売」は商品も顧客も従来とは大きく変化した。すなわち、従来は米穀を生産するため
の農業機械を農家に販売していたが、今回の経営革新では農家に良質の米穀を多く生産して貰
って、
当社が一層多く販売するというマーケティング機能の根幹を担うことにしたからである。
N農機㈱の今後の方向性確認
商品・サービス
現在
新規
現在
(1)市場深耕
(3)新商品開発
市
農家へ農機具を販売整備
場
・
新規
(2)新市場開拓
(4)多角化・事業転換
顧
建設業へ建設機械を販売・レン
客
タル
消費者へ米穀を販売
従来の販売経路との相違
経営革新
従来
農機具の
販売整備
ヤンマー
当社
農家
建設機械の
販売整備
米穀の
販売
ヤンマー
農家
当社
当社
建設業者
卸売業、
小売業
消費者
消費者
このことにより、消費者のニーズやウォンツを調査して、マーケティングミックスを展開し
なければならなくなったので、工夫次第で売上高の増加は可能になる。
5.経営革新目標達成のための経営管理
従来からの農業機械販売・整備業の立場であれば、農機具の仕入れ、販売と整備の発想しか
ないであろう。農家の立場から考えると、現在よりも美味しいお米を作って米の売上を増やせ
れば採算性は向上し、経営は楽になり、農業機械への再投資も可能になる。近くで生産された
良質なお米を、地元消費生活者の食卓に提供することで地域社会全体のコスト削減や環境への
配慮にもなると思われる。この事業の推進により、農家、消費生活者、地域社会の満足の向上
そして当社の事業に発展に貢献すると考えられるので、計画の実現性は高いと思われる。ただ
し、借入金の元金返済が多く資金計画が重要なため、毎月予算統制を実施し計画値の実現に努
力すべきである。
毎月予算統制の実施方法
(1) PLAN プラン(計画)
既に作成している5ヵ年経営計画の年間計画を月別計画に展開する。
管理すべき項目は、売上高、売上原価、一般管理費、営業利益、付加価値額である。
(2) DOドウ(実行)
計画通りに実行する。
(3) CHECKチェック(検討)
月別計画値と実績値とを比較し、未達成や達成の場合はその原因や問題点を考える。
(4)ACTIONアクション(対策)
問題点を改善すべき対策を決める。
(5)再 PLAN プラン(改善計画)
改善すべき対策を織り込んだ計画に展開する。以下、繰り返し。
計画を達成するためには、社長をはじめ全従業員が上のデミング・サークルを回し続け、
改善向上していかなければならない。全員が実行していくことにより全員の能力向上と企
業体質の強化が図れていき経営革新計画も達成できるようになる。
デミング・サークル(PDCAサークル)
(4)ACTIONアクション(対策)
(3)CHECKチェック(検討)
(1)Planプラン(計画)
(5) 再 PLAN プラン(改善計画)
(2)DOドウ(実行)
6.経営革新の成果
経営革新計画が平成16年11月11日に承認されたので、以下の内容で顧客にPRするこ
とができた。
この挨拶状は、
お米の生産者である農家に対して契約栽培を募集するものである。
「当社はこの度新しい取り組みを行おうとする<チャレンジする中小企業>とし
て国に認められました。
」と公表することにより、農家に信頼を抱いてもらい、当社の
ビジョンに賛同してもらって契約栽培農家を増やそうとするものである。
計画が承認された場合のメリットとして、各種補助金制度や低利融資制度などが挙
げられるが、上記のような活用方法も大きな成果である。大企業と違って中小企業の
知名度は低いので、国に認められたということは大きな勲章となる。特に、得意先に
対してPRに活用することにより、商品やサービスの販売の時に信用を与えることが
できる。また、承認を受けたということは、計画内容、計画の実現性、設備投資計画、
人員計画、資金計画などにおいて、妥当と認められたのであり、国が可能な限りの支
援をしようとするものである。経営革新計画に着手し
経営革新計画承認を上手く挨拶文に紹介
お得意先各位
当社はこの度新しい取り組みを行おうとする
<チャレンジする中小企業> として国に認められました。
日頃、何かとご愛顧賜りましたおかげであると有難く深く感謝致しております。また、今
後ともより一層のご支援、ご指導の程よろしくお願い申し上げます。
★中小企業経営革新支援法とは「・・・・・・」
★経営革新計画のテーマ「農機具商における、お米の新品種販売及び米穀流通革新による
生産者・消費生活者の満足の向上」
売れる米作りとおいしいご飯の為に!
*民間品種「夢みらい」の契約栽培
*米作りの完全トレーサビリティの必要性
(お米の安全・安心には生産から販売までの生まれ育ちのはっきりしたお米が必要です。)
平成15年秋、小松作業所ミニライスセンター設置により、生産ごとの個別乾燥化、農家
別の最終段階までの品質証明と生産履歴の対応もできるようになりました。
当社と共に新しい取り組みに賛同していただける皆様のご協力・応援をお願い申し上げます。
「夢みらい」の契約栽培をお申込みいただける方は、担当者より詳しくご説明申し上げますので、
○○までに当社までご連絡くださいますようお願い申し上げます。
N農機 株式会社 ℡○○(○○)○○○○
実行することは、経営者自身も企業も大きく成長できるようになる。旧い皮を脱皮し
て、
新しい時代に適合した経営体質で厳しい時代を乗り切っていかなければならない。
自分だけの努力ではできない所は国などが支援をしてくれるのである。各種補助金は
もらうのが難しいからとか、低利融資は必要ないからとかの理由で経営革新に挑戦し
ない経営者が多いが、国の支援措置以外の自助努力にも着目すべきである。
7.経営革新プロセスにおいて発生した問題点と解決策
かつては、農家は農業協同組合(農協、JA)へ米を販売していれば売上高収入を得られた
が、現在はより多くの収入を得るためには高く売れる卸売業や小売業へ売るか、自らが消費者
へ直接販売しなければならなくなった。農家としては、生産はできるが販売の経験が無いため
生産した米を買い取ってくれる当社と契約すれば売上高収入を得ることができる。そこで、契
約栽培をしてくれる農家の確保が基本となる。前述のような挨拶文を作成して、現在契約栽培
農家を募集中である。現在の問題点は、このような取り組みは全国でも初めてのため、十分な
説明をしないと納得して貰えないことである。
一方で、生産された米は、当社から卸売業・小売業の○○商店から消費者へ行くル
ートと当社から消費者へ行くルートがある。当然、前者は多く売れるので安定的であ
るが粗利益率は少ないが、後者は消費者への直売であるためコストは掛からないため
粗利益率は高い。直売方式の基本として、ライスセンターの敷地に店舗を構えて米や
野菜、果物を販売する。場所は、国道161号線沿いの広い敷地の好立地にある。
今から、生産者と消費者の開発のための両面作戦を考えて実行しつつある。これらの問題点
の解決策は、一つひとつ実行して成功事例や失敗事例を確認しながら、次の戦略に活かしてい
くことである。
8.今後の課題
農業機械メーカーのヤンマーに対して、この事業について説明をしている。例えば、この米
が「ヤンマーの農業機械から生まれたお米」になれば知名度が高まるであろう。そして、当地
域だけでなく、大津市、近江八幡市、彦根市、長浜市などの地域のヤンマー販売店もこの米を
扱うようになれば、普及率が高まっていく。
今後は最低年4回はミニコミ誌を発行して、消費者や生産者に対して、情報の収集と伝達を
しなければならない。情報の収集では、お米に愛用者カードを添付して意見を聞いたり、年に
数回は、消費者懇談会を設けて詳しく意見を聞く制度を作る。伝達内容は、
「夢みらい」の特性
など、催し物、新商品や新サービスなどの案内である。特に、重要なのは消費者の意見や要望
コーナーで、意見などに対して当社の回答を必ず記載することである。
事例4 新関連サービス開発事例
1.企業概要と経営革新のポイント
企業名
株式会社 H 企画
創 業
1990 年
事業概要
総合メンテナンス業
資本金
(元入金)
1,000 万円
売上高
4 億 1,700 万円
所在府県名
滋賀県
従業者
76 人
経営革新の
テーマ
主見出し
主な事業内
容
経営革新の
きっかけ
成功要因
これまでの業務経験を生かし、新しい関連サービスを開発して既存の取引先(病
院・老人保険施設など)へ提供を行う
医療現場で求められるメディカルセーフティサポートサービスの提供
カーテンなどのリネンサプライ、ブラインド類のリース、清掃業務の請け負い及
びビルメンテナンス全般
病院等においては、近年、院内感染の問題が発生しており、その対策の必要性が
唱えられるようになってきた
院内清掃実施時の使用薬品の共同開発、ホスピタルケア標準作業書の作成、医療
廃棄物処理マニュアルの完成
外部資源の 地方銀行より中小企業診断士を紹介され、アドバイスを受ける。経営革新支援法
活用
認定後、国民生活金融公庫よりの融資を受けることができた
当社は平成 2 年の設立以来、病院や老人保健施設を中心にカーテン、ブラインド類のリース
や清掃業務を請け負い、滋賀県を基点に全国展開を指向するメンテナンス事業者である。本社
は滋賀県守山市にあるが、営業所を京都・大阪・兵庫の近畿圏に置いている。
病院のカーテン洗い
会議室のブラインド洗浄
2.経営革新に至った背景・経緯・動機
当社が主要な顧客としている病院等においては、近年、院内感染の問題が発生しており、い
ままで洗濯等を実施していなかった入院患者が使用するマットレスにおいても、その必要性が
唱えられるようになってきた。当社は、この問題に早くから取り組み、洗浄、抗菌、消臭効果
の高い薬品の共同開発を行うとともに、病院等の協力を得ながら細菌拭き取り検査を実施して
いた。実験を重ねた後、いくつかの検査で高い評価を受け、ここに新たなサービスの提供とし
て、メディカルセーフティサポートシステムの確立を目指した。
具体的なサービス内容の要点は以下の通りである。
① 細菌拭き取り調査(厚生労働省指定検査機関による検査書発行)
② 当社標準作業所に基づく清掃及び抗菌・除菌剤の空中噴霧(共同開発商品の使用)
③ 作業後の細菌拭き取り調査の実施(検査機関による検査書発行)
④ 契約期間中②~③を繰り返し実施す。
メディカルセーフティサポートシステムにより効果を客観的に証明できるサービス体制が確
立する。
従来担当してきた一般区域(医局、会議室、廊下等)の業務範囲から清潔区域(手術室、ICU、
CCU、診察室等)へも業務範囲の拡大が可能になる。
3.経営革新の概要
当社の主たる顧客は病院や老人保険施設が中心である。今回取り組んだ経営革新の新役務の
開発は、当社の現在の主要な顧客をターゲットにしたものである。いわゆる規模の経済の拡大
を目指すのではなく範囲の経済の追求、既存顧客からのシェア率を高めることに取り組もうと
した。
一般的に医療分野のビジネスでは当該ターゲットへの営業面でのコンタクトは最も困難とさ
れている。しかし当社は顧客との関係構築によりこのハードルは既にクリアしていた。したが
って、
今回の新役務の提供による受注の確保が成功すれば、
既存事業との相乗効果も見込まれ 、
当社にとっては新たな事業の発展が見込まれるものであった。
4.経営革新プロセス
(1)当該プロジェクトテーマの明確化とチーム編成
(株)H 企画今後の方向性確認
製品
市場
既存
既存
市場浸透
新規
市場拡大
新規
メディカルセーフティ
サポートサービス
多角化
まず経営革新の方向性としての既存市場へ専門性の高いメディカルセーフティサポートサー
ビスを新たに提供していくことを確認したうえで当該チームの編成に着手した。
近年、抗生物質の多用により、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)など耐性菌の存在
による院内感染が大きな問題となっている。年間約 70 万人が院内感染し、4 万 4,000 人が死亡
していると推計され、当社の既存事業の顧客となっている病院等においてもこの問題への対策
に直面し、対応に苦慮していた。そこで院内感染防止対策プロジェクトチームを社内に発足さ
せて新たな事業と位置づけると共に、具体的な手法の開発の取り組みをスタートさせた。多く
の関係者の協力得て当システムの構築のためにトライアルを重ねた。
(2)メディカルセーフティサポートサービス提供の際の問題点整理と課題の抽出
サービス提供の際しての問題点と課題は以下のものであった。
①ビル清掃大手企業の独占的な業務受託
手術室、ICU、CCU、診察室などの清潔箇所の清掃や院内感染防止処置を行うには高度で専門
的な作業も必要であり、信用力のあるダスキンなどの大手ビル清掃企業の受託が一般的であっ
た。新規参入に困難性が伴っていた。
②作業標準化の難しさ
清掃箇所別に作業内容が変わるため、作業の標準化が難しいという問題点が存在していた。
③医療廃棄物の処理
医療関係の廃棄物には特別な管理を必要とする廃棄物が発生し、一般廃棄物や産業廃棄物と
は異なる処理方法が求められた。
(3)問題点と課題の克服
① 手術室、ICU、CCU、診察室などの清潔箇所への清掃や院内感染防止処置作業参入
(株)H 企画今後の業界ポジション
高価格
リースキン
専門サービス
H 企画
ダスキン
フルサービス
リーゾナブル価格
院内清掃実施時の使用薬品の共同開発により、大手ビル清掃企業との差別化を行った。清潔
区域及び汚染拡散防止区域に使用している抗菌剤はスティングカット(主原料は針葉樹・薬用
植物などの抽出物、社団法人京都微生物研究所において試験検査実施)
、スティングカットアル
コールガス、スキット-21 を使用。
現在のところ当該薬品を上回る効果を発揮する薬品は見あたらず(成果のある検査書発行に
至らない)。
②メディカルセーフティサポートシステム構築前にホスピタルケア標準作業書の作成
ホスピタルケア標準作業書を完成させた。同作業書の内容の要点は以下の通りである。
1)清掃作業は、標準作業書を基に実施する。
2)清掃対象区域を以下の 4 つのゾーンに分ける。
大手市立病院の天井拭き取り
手術ベッド下部の清掃
抗菌剤空中噴霧
床面清掃
a.清潔区域
手術室 ICU CCU 新生児室 未熱児室
特殊病室(免疫不全患者) 薬局無菌調剤室
b.準清潔区域 各種検査室 救急処置室 外来診湊室
外来手術室 調剤室 中央材料室 一般病室
分娩室 ナースステーション
c.一般区域
医局 待合室 会議室 ホール 廊下 食堂
d.汚染拡散防止区域 汚物処理室 感染症病室 浴室
3)ゾーンごとに清掃及び消毒の方法を定める。
4)ゾーン毎にカラー分け(色別管理)された清掃用具及び消毒用具を配置する。
5)清掃区域の清掃及び消毒作業を実施するときは、入退室時手指洗浄及び消毒を行い、指定の
手順でガウンテクニックを行う。作業は高性能フィルター付真空掃除機等の清掃用具及び噴霧
器等の消毒用具を用いる。
6)使用後の資機材は殺菌及び除菌洗浄を行い、清潔な場所に整理整頓しておく。
7)作業従事者は、定期健康診断を年 1 回必ず受診し、健康菅理と個人の衛生管理に留意する。
8)作業従事者は作業中も常に言葉使い動作に注意するとともに、自ら院内感染の伝播者になら
ないよう留意する。
9)作業従事者は、業務を通じて知り得た患者の秘密等を他に洩らさないよう留意する。
③医療廃棄物処理マニュアルの完成
医療廃棄物処理マニュアルを完成させた。同マニュアルの内容の要点を紹介する。
院内より発生する各種医療廃棄物の収集運搬にあたっては、一般廃棄物、産業廃棄物、特別
管理産業廃棄物、
特別管理一般廃棄物に区分けして汚染拡散が発生しないよう慎重に処理する。
1)一般廃棄物及び産業廃棄物の収集、運搬及び排出
a.院内各所に定位置配置された容器より、カートにて集積場へ運搬する。
b.可燃物と不燃物は分別して収集し、カートにて収集場へ運搬する。
c.容器、カートは定期的に洗浄・消毒し、清潔保持に努める。
d.収集場は洗浄、殺虫、消毒作業を励行し、常に清潔保持に留意する。
2)特別管理一般廃業物及び特別管理産業廃棄物、感染症廃棄物の収集、運搬及び排出
a.院内特定箇所に定位置配置された専用容器より梱包のまま取り出し、蓋付きの専用カートに
収納し、専用保管場所へ運搬する。
b.取り扱いは保護衣、保護手袋を着用し、注意を払う。
c.カート及び保管場所は定期的に洗浄・消毒し、清潔保持に努める。
5.経営革新の成果
(1)企業イメージの向上と専門的業務への進出によるモラルの高揚
典型的な労働集約型ビジネスであり、単純作業と思われていた当社の業務に高い専門性が求
められることになった。従業員のモラルアップが図られ当社の周辺分野への進出も企業イメー
ジの向上で容易になった。
(2)従業員のレベル向上と人材募集の容易化
社長のみならず核となる営業担当社員の専門知識の習得が行われレベルの向上があった。ま
た、以前より意欲ある有望な人材の応募がみられるようになった。
6.経営革新プロセスにおいて発生した問題点と解決策
(1)問題点
① ディカルセーフティサポートシステムの専門性の高さに起因する営業活動の困難性
② システム担当者の業務遂行レベル
③ 同システム実施記録の必要性
(2)解決策
①同システムの専門性の高さに起因する営業活動の困難性を解決するためにシステム構築の初
期段階より営業担当者を決めて、打合せ時への常時参加や社長による直接教育を継続的に実施
した。
②作業従事者の教育により感染の予防のための衛生管理を徹底した。そのために作業従業員に
対しての教育を定期的に実施するとともに作業従業者自身の健康管理ため定期的な健康診断を
通して作業従業者の健康状態を把握した。健康の自己管理の必要性を啓蒙した。
③作業記録の作成と保管のために年間作業実施計画表、月間作業実施計画表、日常作業実施計
画表などの作業の実施計画表、日常清掃作業実施記録、定期清掃作業実施記録、特別清掃、消
毒作業実施記録などの作業記録、従業員名簿、作業分担組織表、作業標準書、健康診断の受診
記録、作業従業者に対しての教育研修実施記録など帳票の整備と精度の向上を図った。
7.今後の課題
(1)メディカルセーフティサポートシステムの応用
メディカルセーフティサポートシステムは、他分野に幅広く応用利用され可能性がある。今
後は以下のケースで活用されていくことに取り組んでいく。
①病院、産婦人科、外科医院肉の手術室スペシャルクリーニング。(検査書類の発行)
②病院のペットマットレスの抗菌・除菌クリーニング。(検査書類の発行)
③病院の抗菌・除菌カーテンクリーニング。(検査書類の発行)
④病院のブラインドの抗薗・除菌クリーニング。(検査書類の発行)
⑤病院、産婦人科内ベビールームの抗菌・除菌スペシャルクリーニング。(検査書類、無菌証明
の発行)
⑥救急車の抗菌・除菌清掃。(検査書類の発行)
⑦在宅介護でのヘルパー保護や、家庭室内の抗薗・除菌。
⑧在宅介護用ベッドの抗菌・除菌クリーニング。
(2)全国展開に向けての社内整備
標準作業書やマニュアルの作成、管理システムの構築や院内清掃実施時の使用薬品の共同開
発を通して、全国展開を図るためのフランチャイズパッケージの開発に結びつけ、フランチャ
イジーを募集してのビジネスモデルを完成させる。
メディカルセーフティサポートFCシステム
商標・ノウハウ
(株)H 企画
システム・プログラム
加盟店
サービス開発・実験
ロイヤルティ
資金・人材負担
加盟金
(3)キッチンサニタリーサポートシステムによる新たなサービスの提供
メディカルセーフティサポートシステムにより、既存事業との相乗効果が発揮され、新た事
業展開が可能になった。標準作業書、マニュアル作成、使用薬品共同開発のノウハウを生かし、
厨房関係のサニタリーサポートシステムの構築と完成を目指す。
ⅩⅠ章 新規創業
〈第ⅩⅠ章のポイント〉
1.新規創業の環境
前例やかつての成功体験にこだわらない新たな起業家の登場が望まれる。市場や顧客を創造
する起業家による新事業の創出がわが国経済再生の鍵を握っており、新規企業の経済への参入
は雇用創出やイノベーション(革新)の源泉となる。
2.創業の背景
全般的な社会環境
マーケティングシステム(市場参入への仕組み)の変化
事業機会が生まれる外部環境の変化
一般的な消費行動
地域環境、競争構造
諸企業環境条件の変化
未来は誰にも予測できない。しかし、現在の流れの中に、未来に起こるかもしれないきっか
けや未来にそうなるであろう現実の存在に早く気づくことはできる。日常のビジネスプロセス
の中に、それらを常にキャッチできるシステムを作っておく必要がある。
3.創業への着眼点
(1)産業市場構造の変化
(2)人口構成の変化
(3)顧客の不満足
(4)成功事例と失敗事例
(5)価値観の変化
(6)新しい知識
4.新規創業時の検討事項
顧客はただ単に商品やサービスを購入して消費するのではなく、その効果への期待を買って
いるのである。したがって、市場設定では顧客が製品やサービスを通して何を要求しているの
かを理解していなければならない。
コンセプト(新たな価値の創造)作りでは自らがビジネスを通じて何を実現しようとしてい
るか、それをたえず確かめながら、最適な方向を見つけていくという構築プロセスが求められ
る。競争分析では事実を把握する際に主観的に判断するのではなく、事実をありのままに受け
入れて客観的に分析する必要がある。
マーケット志向の強い起業家は競争相手の情報を継続的に収集するシステムを設計して運用
している。マーケットの競合関係やその地位を把握できればより的確な攻めを行う事もできる
し、相手の攻撃に対してより強力な防御策を打つ事もできるのである。
5.新規開業計画書の作成方法
ビジネスプランの作成に当たっては「誰が」
「いつ」
「誰に」
「何を」
「どのように」という具
体的な内容が織り込まれている必要がある。このビジネスプランが周辺の利害関係者に起業家
がスタートする事業を支持するかどうかの影響力を持っていることを忘れてはいけない。
事業のアイデアから考えた基本計画(ビジネスプラン)は、きちんとした新規創業計画書とし
てまとめていくことが大切である。
特に、資金の調達を申し込む際には新規創業計画書の内容が大きな役割を担っている。作成
したそれぞれの項目について、そのバックグラウンドとしての客観的な理由や背景を明確に説
明できることが求められる。
6.新規創業の手続
許認可業種や創業形態の特徴、
新規創業にあたっての必要手続についての理解が必要である。
1.新規創業の環境
わが国経済の回復のきざしがみられる現在、デジタル関連の企業や自動車関連企業、ニッチ
市場を得意分野とする企業、アジア市場での販売を伸ばす企業などで業績を上げている企業も
少なくない。しかし未だ多くの企業は長引く不況の影響を受け、厳しい経営環境下におかれて
いる。
振り返ってみると、1945 年の第二次世界大戦の敗戦がわが国経済やビジネスのリセットボタ
ンを押したと考えられる。一からのスタートを余儀なくされたのである。やがて数多くの起業
家が現れ、戦後経済の基礎創りを行った。そしてその後、わが国企業の多くはひたすら欧米諸
国のキャッチアップを目指し、大量生産方式をベースに高度成長を遂げ、その後も日本人特有
の器用さで多品種少量生産方式をこなし、世界を舞台に活躍してきたのである。
勤勉で愛社精神に富んだ従業員を大量に採用して育成し、大企業を頂点とするピラミッド型
の産業構造は威力を発揮し続けた。
1980 年代末からの冷戦の終焉は共産圏や発展途上国を市場経済に参入させた。この結果低価
格製品がグローバル市場にあふれ出し、企業経営もこれまで体験したことのない変化にさらさ
れている。
モノ不足時代からモノ余り時代に移った現在、旧来型の経営システムが通用しなくなってき
ている。技術革新が激しく、市場では次々と新しいニーズが生まれ、多様化や細分化が進んで
いるのに多くの企業がそのスピードについてゆけていない。
前例やかつての成功体験にこだわらない新たな起業家の登場が望まれるゆえんである。市場
や顧客を創造する起業家による新事業の創出がわが国経済再生の鍵を握っているといっても過
言ではない。
新規企業の経済への参入は雇用創出やイノベーション(革新)の源泉となり、起業家は創業
により自らの自己実現を成し遂げることを可能にする。
(1)創業数及び廃業数の状況
滋賀県内における創業(開設)数は 1996 年~1999 年に 2,603 件と前回調査(1996 年)時と
の比較で大きく伸びを示したが、
1999 年~2001 年は 1,896 件と前回調査時の創業数レベルに戻
りやや伸び悩みの傾向である。全国の創業(開設)数についても同様の傾向で 1996 年~1999
年にやや大きく伸びその後は伸びが小さい。
滋賀県の廃業数については 1996 年~1999 年に 3,190 件と大きく増加し、滋賀県としては始
めて創業件数を上回る結果となり、
その以後の調査についても廃業数の増加傾向が認められる。
全国については廃業が創業を上回る傾向と廃業数の増加傾向が従前調査から継続している状態
である。
創業(開設)数及び廃業数、年度別比較表
1996 年
1999 年
2001 年
開設数(滋賀県)
1,833
2,603
1,896
廃業数(滋賀県)
1,446
3,190
2,168
開設数(全国)
227,900
269,434
232,403
廃業数(全国)
239,750
385,172
261,633
出所:
「2003 年版新規開業白書(非農林)
」
(2)開業率及び廃業率の状況
①開業率
開業率の推移をみると、70 年代は 6%を超えていたものが、80 年代に入って滋賀県は低下し
始め、近年は 3%前後の水準まで下がっている。滋賀県と全国とを対比するとやや低い(1996
~1999 年除く)開業率の傾向がつづいており、しかも滋賀県の場合も全国と同様に低下傾向が
続いている。
②廃業率
廃業率は 80 年代以降徐々に上昇する傾向にあり、全国では 90 年代には廃業率が開業率を上
回るようになっている。1996~2001 年になると滋賀県でも廃業率が開業率を上回るようになっ
た。しかし、全国に比べて廃業率は低い傾向が続いている。
開業率と廃業率の差についても、大きく広がる傾向にあったが、直近調査では滋賀県及び全
国ともやや縮小傾向が認められた。
開業率及び廃業率、年度別比較表
1991~ 94 年
1994~ 96 年
1996~ 99 年
1999~ 2001 年
開業率(滋賀県)
4.4
3.0
4.2
3.2
廃業率(滋賀県)
3.7
2.4
5.2
3.6
開業率(全国)
4.6
3.5
4.1
3.8
廃業率(全国)
4.7
3.7
5.9
4.2
7
6
5
4
3
2
1
0
4.4
3.7
5.2
4.2
3
2.4
1991~ 94 1994~ 96 1996~ 99
年
年
年
3.6
3.2
開業率(滋賀県)
廃業率(滋賀県)
開業率(全国)
廃業率(全国)
1999~
2001年
出所:
「2003 年版新規開業白書(非農林)
」
(2)事業所数状況
滋賀県の事業所数については、1996 年~1999 年に初めて減少値を示し、その後の調査につい
ても減少傾向は続いている。全国では 1986 年~1991 年調査時点から既に減少傾向を示し続け
ている。滋賀県の場合は事業所数の減少傾向が全国に比べ始まるのが遅く、かつ減少傾向が低
い状態であるといえる。
事業所数(滋賀県・全国)年度別比較表
1996 年
1999 年
2001 年
1.57
-2.63
-1.02
-0.44
-4.89
-1.08
61,320
59,706
59,095
6,502,924
6,184,829
6,118,061
前回比%(滋賀県)
前回比%(全国)
事業所数(滋賀県)
事業所数(全国)
出所:総務省「事業所・企業統計調査(民営・非農林漁業)
」
2.創業の背景
(1)背景としての 5 つの環境変化
事業機会が生まれる背景として 5 つの外部環境の変化がある。
事業機会が生まれる外部環境の変化
全般的な社会環境
マーケティングシステムの変化
一般的な消費行動
地域環境、競争構造
諸企業環境条件の変化
①全般的な社会環境
全般的な社会環境として国際関係、政治体制、経済動向、文化教育、社会意識、価値観の変
化がある。
②マーケティングシステム(市場参入への仕組み)の変化
マーケティングシステムの変化として製造段階での技術開発、技術革新、さらに地球環境問
題や規制緩和などがある。
③一般的な消費行動
一般的な消費行動としての経済活動は通常、消費者の生活改善意識の向上、幸福の増大を目
指している。
④地域環境、競争構造
地域環境、競争構造の変化として地域需要変化がある。
⑤諸企業環境条件の変化
諸企業環境条件の変化として金融サービス、情報サービス、物的流通サービス、労働市場の
変化からの影響がある。
ビジネスの方向性を確定するには、創業を取り巻く内外の環境を知る、つまり、己を知り相
手を知ることが必要になる。
外部環境における機会とは、企業にとって有利な環境、チャンスとなる環境のことを指し、
脅威とは、企業にとって不利な環境、経営を脅かす環境のことを指す。事業を取り巻く外部環
境には、経済環境、技術環境、政治環境、文化環境、自然環境などがあり、ある環境が変化す
ると他の環境も変化するといったように相互に影響を与え合う間係にある。このため、相互の
関係を考慮しながら機会および脅威の分析を行わなければならない。
内部環境における強みと弱みの分析とは、
戦略を決定し、
実施するための企業能力(経営資源)
を評価することを意味する。すなわち、他の企業よりも誇れる独自の能力である強みと、他の
企業よりも劣っている能力である弱みを明らかにすることである。これらによって、強みをさ
らに伸ばし、弱みを補強するといった今後の経営資源のあり方を検討することが可能になる。
創業時のSWOT分析
機
品揃え
会O
脅
威T
強みを持って機会を活かす策
脅威を逆手に又は回避して強みを活かす策
機会を活かすための弱みの補完策
脅威を回避するための弱みの補完策
チャネル(販路・立地)
販売促進
強
営業力
み
S
ノウハウ(技術力)
人材
財務力
品揃え
チャネル(販路・立地)
販売促進
弱
営業力
み
W
ノウハウ(技術力)
人材
財務力
(2)マーケティングシステム(市場参入への仕組み)の変化としての技術革新
変化は技術革新から生じる場合が多い。変化とはイノベーション(革新)であり、イノベー
ションは創業時の経営資源を新たに創造する力を待つ。過去の 20 年間を振り返ってみても、
エレクトロニクスの技術革新は生活様式を便利にし、一変する力を持つものであった。
事業を始めるに当たって、この技術革新の波に乗らなければは消えていってしまうこともあ
り得る。外部環境分析においては、この技術革新は創業者自らが変えられない要因である。し
かし、それはビジネスに大きな影響を及ぼす可能性がある。インターネットの普及は良い例で
あり、事業にとって市場機会と脅威のどちらにも該当するのである。
したがって、技術から新しいコンセプト(新たな価値の創造)を生み出す機能をプランに組
み込む必要出てくる。技術革新は生活に変化をもたらし、市場のあらゆる要素を変える可能性
が大きい。そこでは古いものが新しいものに置き換えられ、満たされない顧客ニーズの隙間を
発生させる。技術革新により、今まで経営資源とは捉えられていなかったものに新たな価値を
与える事ができる。その隙間にビジネスの新しいコンセプトをつなぎあわせる事によって、あ
らたなチャンスを見つける事ができるのである。
新しいコンセプトを見つけ出すことで、それを広げていく事も望まれる。その事により自ら
の事業の強みを更に強くして行くことが可能になる。弱みを補完する、あるいは弱点を強みに
変更することも可能となるかもしれない。さらに技術革新は市場の流れに対応する新しい手段
をも生むことができるであろう。
技術の進歩は新しい市場機会を提供する。現在のインターネットの普及を見てもそれはすぐ
に理解できるであろう。今までの自らの経営手段・経営資源をより効率的に活用し、顧客に製
品・サービスを提供する事を可能にする。今までと同じ製品・サービスであってもよりも安い
費用で早く生産する方法を生み出すことになる。
以上のことからも理解できるように作成されたビジネスプランはこれらの変化に対応して、
継続的にチェックする機能が含まれていなければない。技術革新は新しいビジネスのスタイル
を作り出してしまうのである。
コンピュータの発達によって、事業にスピードの要素が特に強調されるようになってきた。
例えば、競合他社についての情報収集の際に、今までよりも時間短縮ができるようになり、よ
り詳細なデータの収集に行う事が可能となる。ビジネススタイルの変化は、生産技術にも相乗
効果を生み出し、
生産技術が変化すればそのシステムを構築する際のニーズにも変化を生じる。
ニーズの変化は新たに隙間を作る事になり、顧客と企業との間に新たな接点を見出す事が可能
になる。
ビジネスプランは技術の変化や新しい現実に対して、継続的な見直しを行うとともに場合に
よってはプランそのものを作り替える事も必要になるかもしれない。
(3)顧客満足を目指す創業パターン
通常、既存のビジネスは自らの顧客の「顧客満足」を追求している。それらは役割意識を持
ち、世間に密着してその機能を発展させる。しかし、一つの機能しか持たないビジネスでは「顧
客満足」をすべてカバーすることはできない。以下が一般的な創業パターンである。
① 既存のビジネスと顧客を取り巻く経営環境変化の発生が両者の間に「満足」にズレが発生
する。
② 生活者と既存のビジネスとの「満足」のずれ、すなわち「不満足」の部分をそれらの機能か
ら切り離し、拡大することでそれをより明確にすることができる。
③ かつて顧客に対して用いられ、
提示されたコンセプトや経営手法を新しい時代のニーズや欲
求に重ね合わせる。
④ そして新しいコンセプトを生みだす。
⑤ その結果、その時代や生活に適合した機能やシーンの創造が可能となる。
⑥ 新たなコンセプトや新しい機能やシーンを持つ新ビジネスは他のものより競争優位性のあ
るポジションを確保することが可能である。
顧客満足を目指す創業パターン
①どこかの時点・部分で不満足発生
②不満足分化解
体、拡大
③過去において用いら
れたコンセプト
③過去において用いら
れた経営手法
③新時代のニーズ、
新時代の欲求
④新コンセプト
⑤時代に適合した
機能・シーン
⑥競争優位性確立
⑦既存ビジネス満足を追求
⑦ 以前と同様に新しいビジネスにより継続的に顧客満足の追求が行われる。
しかし、既存のビジネスはある時点から競争力を徐々に失う。そこではまた顧客を取り巻く
社会経済の環境変化の発生がビジネスとの間に「満足」のズレを発生させたのである。上記の
プロセスを経て、また新たなコンセプトや新しい機能・シーンを持つ新ビジネスが登場し、そ
れにとって代わるという創業パターンである。
(4)マーケティングシステム(市場参入への仕組み)の変化としてのビジネスルールの変更
外部環境分析においては、起業家自らが変えられない要因としてビジネスルールの変更も考
えなければならない。これも自らの力で変えられない要因であるがビジネスに大きな影響を及
ぼす可能性がある。
社会に対して、自らの事業の存続意義を問う事が求められる。なぜなら当該事業は社会の一
部を構成しており、ビジネスルールが変われば、社会体制に何らかの変化が起こり、それはビ
ジネスの妥当性に変化が生じる場合がある。
例えば現在進行中の規制の緩和は競合他社や業種を超えた新規参入を招き、脅威と捉えられ
るかもしれない。しかし、技術革新と同様に創業企業にとって新たな販売方法、他業種への参
入など、市場機会を生み出す事を可能にする。ストックしていた情報を今までとは異なった方
法で利用が可能になる。これは、自社の弱みを強みに変えるチャンスである。
また、研究開発段階においても、市場に生かされなかった技術や情報が、新たに市場へ投入
するチャンスを与えられるかもしれない。 ビジネスルールの変更は、大きく社会を変動させる
可能性を持っているだけに、ルールの大きな流れを的確につかみ、今後変更されるであろう内
容の予測をも必要とされるであろう。
ビジネスルールの変更が脅威となるならば、今までのシェアを維持する事は困難になってく
る。そのときはターゲットとしていた市場の設定を変化させなければならない。同時にマーケ
ティングアプローチの変更が必要になってくるのである。
市場背景分析とともにビジネスルールの変化を読み取りその変化へ対応できる機能をプラン
の中に組み込んでいく必要がある。
未来は誰にも予測できない。しかし、現在の流れの中に、未来に起こるかもしれないきっか
けや未来にそうなるであろう現実の存在に早く気づくことはできる。
日常のビジネスプロセスの中に、それらを常にキャッチできるシステムを作っておく必要が
あろう。外部環境変化を絶えずキャッチし、それに対応したビジネスプランの継続的な修正が
事業の成功へと導いてくれる。
3.創業への着眼点
起業家はビジネスのチャンス探す情報収集力を持っている。次の 6 つの領域について絶えず
アンテナを張り巡らせているのである。
着想プロセス
環境分析
アイデア創出
↓
資源と能力分析
↓
機会 Opportunities
強み Strengths
脅威 Threats
弱み Weaknesses
創業の着想
(1)産業市場構造の変化
ある産業が経済成長や人口増加を大幅に上回る勢いの早さで成長するとき、その産業の構造
は、ほぼ間違いなく大きく変化する。それまでの仕事のやり方でも成果があげられるため、多
くの人々はそのやり方を変えようとはしない。しかし旧来の仕事のすすめかたは陳腐化してい
るのである。
言い換えるとそれまでの市場の捉え方や市場への対応方法では市場に対して不適切な状態を
生み出す。業界のリーダー的存在である企業のスタイルは歴史を反映したものにすぎず、市場
の規定の方法や分類方法は現実と大きく乖離したものになってしまう。起業家は産業市場構造
の変化を読みとり対応するための情報収集を行う必要がある。
(2)人口構成の変化
人口構成の変化は急速であり、衝撃的である。多くの人々は自らの経営スタイルと相容れな
いような人口構成の変化を受け入れたがらない。または生理的に受け入れないのである。
しかし変化はすでに起こっている。現実のものとして受け入れる人は少なく、利用とする人
はごくわずかである。この変化をチャンスと捉える人はさらに少ないのである。意思決定を行
う立場にいる者はこの人口構成の変化をまず分析し、徹底的に検討を加えるべき必要がある。
起業家は人口構成の変化を読みとり対応するための情報収集を行うべきである。
(3)顧客の不満足
製品やサービスの内容によりその価格は決定されるが、顧客の総合的購買経験や使用経験を
通して顧客の要求する基準が高度化してきている。
製品やサービスの目的が顧客の満足にあることを理解して彼らの意見や声に耳を傾ける必要
がある。この不満足をチャンスと捉え大きな成果をあげることは可能である。起業家は顧客の
不満足を読みとり対応するための情報収集を行うべきである。
(4)成功事例と失敗事例
成功事例が入手できるようにその仕組みをつくる。外へ出て、よく見、よく聞くことも有効
な方法である。そして成功したビジネスの意味するところは何か、今後どのような展開をして
いくのか、それをチャンスとするためには何をすべきかを検討を加えていく必要がある。失敗
事例についても同様のプロセスを経ることが求められる。起業家は成功事例と失敗事例からの
チャンスに対応するための情報収集を行うべきである。
(5)価値観の変化
社会を特色づける価値観の基礎にはその時代に生きる人々の美意識と倫理観が存在し、作用
している。価値観やそれに基づく認識の変化は、それ自体が意味を持っている。量的には把握
できない場合の方が多く、むしろ、量的に把握できるようになったとき、気づくようでは遅す
ぎるのである。起業家は価値観の変化を読みとり対応するための情報収集を行うべきである。
(6)新しい知識
新しい知識に基づくビジネスを成功させるためには 2 つの注意点がある。まず一つがこのビ
ジネスに必要な要素をすべて分析する必要がある。必要な要素とは、社会環境、経済情勢、技
術革新、情報化の進展などの知識でまだ満たされていない要素は何かを明確にしていく。
例えば、新製品に必要な知識何か、そのうちどれだけの知識がすでに利用できる状態になっ
ており、まだ明らかになっていない知識は何かを分析する。次にあげられるのが知識に基づく
ビジネスを成功させるために、製品やサービスのポジショニング(位置付け)を明らかにさせ
ることである。
このポジショニング(位置付け)の方法には通常 3 つの戦略がある。
①新たなシステムを作り上げ、システムそのものをビジネスとする。
②今までにない製品やサービスにより市場を創造する。
③重要な機能を担うことに努力を集中する。
新しい知識に基づくビジネスを成功させようとするものは、明確に戦略の方向性を決める必
要がある。起業家は新しい知識を導入するための情報収集を行う。
4.新規創業時の検討事項
(1)市場の設定
「市場は、特定のニーズ(欠乏状態の欲求)やウォンツ(特定化された欲求)を持ち、それを
交換で満たす意志と能力を有するすべての顧客から成り立っている」(「マーケティング・マネ
ジメント」
フィリップ・コトラー)といわれるように、
市場はあらゆる切り口で構成されている。
どれだけ市場の認知をしたか。いかに顧客の期待にこたえられるかにより、ビジネスが成功
するか、失敗するか決まる。誰をターゲットにするのか、誰が見込み客であるのか、なぜ買う
のかを理解しなければならない。より多くの顧客を得るためにはどうすれば良いかを明らかに
していく必要がある。
顧客は製品やサービスに意味を見出せば購入してくれるであろう。顧客は製品を買っている
のではなく、製品やサービスから受ける恩恵を買っているのである。
新規創業フローモデル
きっかけ
となる要因
新規創業きっかけ=現状への不満足
既存商品・サービス
新しい商品・サービス
新しい方法で提供
着想
着
想
段
階
需要>供給
実現可能性のあるアイデア
資源と能力評価
強みは何か
人・モノ・金
技術・情報・ノウハウ
解決への動機付け
経営環境
市場性
ビジネスとして成り立つか
需要があるか
設
計
段
階
コンセプト
新しい価値
他人を感化できるか
主力ターゲット設定
どのポジションに位置するか
解決への動機付け
競争分析
どこと競合するか
開
発
段
階
参考事例
ベンチマーキング(目標基準)
・模倣
品揃え サービス 販売促進
解決への動機付け
収益プラン
シミュレーション(模擬)
・資金繰り
新規創業
顧客開拓、販売促進の実践
必要に応じ修正
顧客はただ単に商品やサービスを購入して消費するのではなく、その効果への期待を買って
いるのである。したがって、顧客が製品やサービスを通して何を要求しているのかを理解して
いなければならない。
顧客のニーズを探るうえで一番難しいのはターゲットとする市場を決定することである。誰
が自分の製品やサービスを買うのか。誰が自分の顧客になりそうなのか、顧客は何を欲してい
るのかを把握する必要がある。マーケティングは、顧客が出発点である。そのためには商品や
サービスは顧客の欲求に合致したリーズナブル(納得感のある)価格で提供されなければなら
ない。起業家は顧客のニーズを理解してマーケットに対する要望を的確に応えていかなければ
ならないのである。
(2)コンセプト構築
コンセプトとは概念とか考え方を意味している。ここでいう事業コンセプトとはまだ見えて
いない価値の体系を意味している。
なんらかの形で新たなビジネスの創造を意図しているなら、
「こうありたい」という夢や目標
は必ず抱いているはずであり、まずそれを明確な形で図示してみる中から、コンセプトづくり
はスタートする。まず自らがビジネスを通じて何を実現しようとしているか、それをたえず確
かめながら、最適な方向を見つけていくことが、コンセプトの構築に求められる。
事業コンセプトを構築するためには、前提としてまず現状認識をする姿勢が必要である。
現状を認識する方法に以下の 4 つがある。
①個々の現象ではなく、動いている流れに注意する。
②現在起こっている事象を全体の文脈のなかで捉える。
③傾向や流行を底流において捉える。
④最新の知識や情報をどん欲に吸収する。
起業家が対象とするビジネスのテーマは、そこになんらかの意味で現在を内包している。そ
の現在を引きずり出すことが、コンセプトの土台になるのである。
したがって起業家が時代に対してつねに前向きに対処しているならば、コンセプトのヒント
は必ずテーマに即して潜在している。
コンセプト構築には現在という時代をたえず真摯に見つめていると同時に、自分のやりたい
ことへの"こだわり"を持つことが求められる。自らの価値観を形成していくためには次の 4 つ
の方法がある。
①自分自身の人生の意味を考える。
②譲歩することのできない信条を持つ。
③つねに時代を正面から捉える。
④自分自身への正直さを心がける。
「自分はこうする」という自らのアプローチをもたない限り、他人を感化させるようなコンセ
プトを作り出すことはできない。
事業コンセプトは単なるプランニングではない。したがって、実現への執念を内在化した確
かな見通しをもった計画が織り込まれてなければならない。
そのためには状況を的確に見抜き、
それを突破するために、知識と情報を集約させて、一定の価値体系に昇華させる必要がある。
種々の知識やデータをある基準をもとに秩序化しながら、新しい意味の生成をさせていくこ
とが、この事業コンセプトづくりには欠かせないのである。
事業コンセプトの具体化にあたり 5W1H ということがいわれる。WHO、WHAT、WHEN、
WHERE、WHY、HOW の六つである。つまりだれが、何を、いつ、どこで、なぜ、どのよう
にしてやるか、これを明確にすることが、どんな場合にでも必要になる。とくに新しいビジネ
ス行動においては、5WIH を明確にすることが不可欠になるといってよいであろう。つまり、
5W1H を煮つめることがビジネス・プランだといえる。
さらに後にはこれに加えて HOW MUCH という要素も必要になってくる。成熟化社会にお
けるビジネス原理は、新たな環境を切り開き需要を創造していくことにある。そのとき要求さ
れるのは、革新的なビジネス発想であり、それを具体化していく方向である。つまり WHY に
基づき、WHAT と HOW を考案していく一連の作業が必要になってくるのである。
また HOW には「どのような」という要素と「どのように」という要素の 2 つが内包されて
いおり、この 2 つの HOW を発見し設定することも忘れてはならない。
(3)競争分析
市場機会は起業家がビジネスの力を発揮できる舞台である。競合他社が存在する分野におい
ては、マーケティングの準備をしっかりとしていなければ、市場機会や販売機会を逃してしま
う可能性がある。つまり、チャンスではなく脅威となってしまうのである。事実を把握する際
に主観的に判断するのではなく、
事実をありのままに受け入れて客観的に分析する必要がある。
競争対抗戦略を考えるとき、最初に市場シェアを前提にして事業の地位においてリーダーな
のか、フォロワー(追随者)なのかを分類し、各地位にあった戦略を立てることが必要である。
各地位の特徴は以下の通りである。
①リーダー
マーケットにおいて最大のシェアを保有している。その戦略は全市場対応のオーソドックス
なものである。市場での目標は最大シェア、最大利潤、名声イメージである。市場ターゲット
はフルカバレッジ(全方位)であり、競争上の定石は「周辺需要拡大化政策」
、
「同質化政策」
、
「非価格対応」である。
②チャレンジャー
マーケットにおいて市場のシェア拡大を狙う。その戦略はセミフルカバレッジ(やや全方位)
であり、リーダーとの差別化である。競争上の定石はリーダーが同質化できない「革新的差別
化策」である。
③ニッチャー
直接競合しない棲み分けの思想を持ち、特殊市場に自らの圧倒的な地位を築く。市場での目
標は利潤、名声イメージである。市場ターゲットはセグメント(区分け)した特定市場であり、
競争上の定石は「疑似独占」
、
「ミニ市場でのリーダー戦略」である。
④フォロワー
市場目標は名を捨てて実をとる、生存利潤である。市場ターゲットは経済性のあるセグメン
ト(区分け)であり、競争上の定石は模倣による節約分を価格に反映させた低価格戦略である。
競合他社の分析ではそれらの規模、成長性、技術的将来性、強み・弱みなど総合的に行わな
ければならない。これらの情報を使い競合他社の予測される反応、マーケティング環境の変化
の予測、いかに顧客を掴んでいるのか、対応のパターンを評価する。評価とは、自らの事業よ
りうまくやっている事は何か、と言う事である。発表されている情報源やインタビューなどか
ら競合相手のマーケティング戦略・戦術・マネジメントスタイルを知ることができる。
競合相手を把握するために行う情報収集活動は不可欠の行為である。自らの事業と競合する
相手の顧客や見込み客を知らない限り「なぜ人々は自分の会社から買うのか」
「なぜ人々は自分
から買って、競合他社からは買わないのか」という質問に対しては答えられないであろう。
マーケット志向の強い起業家は競争相手の情報を継続的に収集するシステムを設計して運用
している。マーケットの競合関係やその地位を把握できればより的確な攻めを行う事もできる
し、相手の攻撃に対してより強力な防御策を打つ事もできるのである。
5.新規開業計画書の作成方法
ビジネスプランの作成に当たっては「誰が」
「いつ」
「誰に」
「何を」
「どのように」という具
体的な内容が織り込まれている必要がある。
このビジネスプランが周辺の利害関係者に起業家がスタートする事業を支持するかどうかの
影響力を持っていることを忘れてはいけない。
(1)新規創業計画書作成のポイント
事業のアイデアから考えた基本計画(ビジネスプラン)は、きちんとした新規創業計画書と
してまとめていくことが大切である。
詳細で具体的な事業計画書を作成することにより、自分の事業における機会・脅威、強み・
弱みが自分なりに明確になり、さらに調査すべきこと、準備すべきことがはっきりとわかって
くる。一般に、新規創業計画書が現実に即したものであるほど、開業した後の成功確率は高く
なる。
また、事業は一人だけでは、始められない。共同経営者や従業員、資材購入先、協力工場、
仕入れ先、提携先、資金の調達先、見込み客など、事業を成功に導くためには周辺の人や団体
とのつながりが重要になる。新規創業計画書はそうした自分の周辺の人々に自分の事業への思
いや背景を伝えるという役割を担う。
特に、資金の調達を申し込む際には、新規創業計画書の内容が大きな役割を担っている。し
たがって、新規創業計画書の作成においては、以下のようなポイントに留意することが必要に
なってくる。
① 新規創業の目的や必要性を簡潔に記述する(優位性は何か)
。
② 具体的な数字で説明する(裏づけとなる調査やデータが必要)
。
③ 熱い思いが伝わるように書く(図やチャートも活用)
。
④ 全体が論理につながっていること(ストーリーが伝わる)
。
一般的な新規創業計画書の内容として次の作成項目がある。
① 新規創業の概要
② 新規創業のねらいとその背景
③ 市場環境と競合(事業の位置付け)
④ 製品(商品)
・サービスとそのコンセプト
⑤ 事業のターゲットと優位性
⑥ 市場調査結果
⑦ 経営陣と採用計画
⑨ 資金調達計画
⑨ 収支計画・利益計画
⑩ 資金繰り計画
⑪ 事業の将来像
⑫ まとめ
付録資料として創業者の履歴書、調査資料詳細など
(2)新規創業計画書の作成方法
簡単な新規創業計画書の作成例として、国民生活金融公庫への融資申込みの際に提出を求め
られる新規創業開業計画書の作成がある。
融資決定においては、この開業計画書の作成と面談で、次のような融資の審査ポイントをク
リアできることが条件となる。
① 起業したい事業の目的や動機がしっかりしているか。
② はじめる事業の経験があるか、または、十分な準備がされているか。
③ 事業のセールスポイントがしっかりしているか。
④ 必要資金の試算や調達などの資金計画ははっきりしているか。
⑤ 開業後の見通し(販売・仕入れ先、売上予測、利益予測)は具体的で適切か。
国民生活金融公庫の新規創業計画書は簡単なフォーマットであるが、作成したそれぞれの項
目について、そのバックグラウンドとしての客観的な理由や背景を明確に説明できることが求
められる。
(3)新規創業計画書(詳細)の作成方法
新規創業計画書(詳細)は、大きな事業になるほど、ページ数も多く、詳細に記述すること
になる。しかし、事業の規模にかかわらず、記述する内容が大きく変わるわけではない。新規
創業計画書(詳細)には、事業の目的と背景、事業の内容、開業計画、事業収支計画(中長期)
を簡潔にわかりやすく、かつ、具体的な裏づけをもって、記述する。表紙や目次もつけて、体
裁の良いものを作成しておき、それをもとに提出先に応じて修正することが求められる。
新規創業計画書(詳細)の内容として次の事項を箇条書きで簡潔に作成する必要がある。先
ず当社の社名と社名の由来について述べた上で作成していかなければならない。
① 5 期分の事業計画数値概算
売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、当期利益、減価償却、キャッシュフロー(金
銭の流れ・授受)
、借入金、借入金残高推移、自己資本など
② 創業企業の業務内容
代表者、住所、出資者・額、設立日、決算日、経営理念、経営方針、事業内容、事業目的、
当事業の特徴など
③ 事業数値計画
オープン当初 3 ヶ月の売上高、4 ヶ月~6 ヶ月の売上高、年間売上高(初年度、2 期目)
④ スタッフ等人員計画
経営陣及び従業員は誰か、業務運営上どんな人が必要か
⑤ 入居物件
なぜその立地を選んだのか
⑥ 内装設備
⑦ 資金計画
⑧ サポート体制
⑨ 創業企業経営を取り巻く環境
市場機会、消費者ニーズとその根拠、顧客の特徴、業界の展望、マーケットの現状と見通
し、採算性、競合先の状況(当社関連業界での相手の強み・弱み)
、類似の製品サービス
競合先、競合との差別化、他社との協力関係など
⑩ 創業企業経営資源の強み
人、モノ、金、技術、情報など
⑪ 創業企業の勝ち残る戦略
⑫ 勝ち残りへの具体策
事業が必要とされる社会的背景、将来の展望
⑬ 事業計画についての説明
売上高、原価、経費などの根拠
⑭ その他上記以外の取り組み
⑮ 5 期分の事業計画数値詳細
売上高、売上原価、売上総利益、役員報酬、従業員給料、福利厚生費、水道光熱費、消耗
品費、広告宣伝費、賃借料、修理費、営業利益、営業外損益、経常利益、租税公課、当期
利益、減価償却、キャッシュフロー(金銭の流れ・授受)など
6.新規創業の手続
(1)許認可が必要な業種
事業の内容によっては、操業を始める前に許認可を受ける必要のある業種がある。次の表で
許認可が必要な業種の代表的な例を示す。
また、業種にかかわらず届出が必要なものとして、水質特定施設・煤煙発生施設 (いずれも
各地域振興局環境課または県環境政策課)や騒音・振動特定施設(各市町村) などがある。
許認可が必要な業種(製造業)例
営業の種類
許可・登録等
提出・問い合わせ先
食品製造業
許可・届出
管轄の健康福祉センター(保健所)
酒類・酒母・もろみ製造業
免 許
管轄の税務署
菓子・パン製造業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
アイスクリーム製造業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
惣菜製造業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
木材及び製材業
登 録
県林務緑政課
医薬品.医薬部外品.化粧品
許 可
県医務薬務課
医療用具製造業
飼料・飼料添加物製造業
届 出
県畜産課
農薬製造業
登 録
農林水産省
毒物・劇物製造業
登 録
県医務薬務課
肥料製造業
許可・届出
県農産流通課
危険物製造業
許 可
管轄の消防署
高圧ガス製造業
許可・届出
県消防防災課
(高圧ガス用)容器等製造業
登録・届出
近畿経済産業局
計量器製造業
届 出
計量検定所
液化石油ガス器具等製造業
登録・届出
近畿経済産業局
許認可が必要な業種(商業・サービス業)例
営業の種類
許可・登録等
提出・問い合わせ先
食品販売業(下記 4 業種を除く)
届 出
管轄の健康福祉センター(保健所)
食肉販売業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
魚介類販売業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
乳類販売業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
氷雪販売業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
酒類販売業
免 許
管轄の税務署
米穀販売業
登 録
県農産流通課
飲食店
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
喫茶店
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
薬局・医薬品販売業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
医療用具販売業
許 可
管轄の健康福祉センター(保健所)
農薬販売業
届 出
県病害虫防除所
液化石油ガス販売業
登 録
近畿経済産業局、県消防防災課
古 物 商
許 可
県警生活安全企画課、各警察署生活
安全課
宅地建物取引業
免 許
県住宅課
建 設 業
許 可
県監理課
電気工事業
登録・届出
県消防防災課
自動車運送業
免 許
近畿運輸局・滋賀陸運支局
自動車賃貸業
許 可
近畿運輸局、滋賀陸運支局
倉庫業
許 可
近畿運輸局
医 業
許可・届出
療 術 業
地方卸売市場
防除業
クリーニング業
理容業、美容業
公衆浴場
旅館業
屋外広告業
貸金業
届
許
届
許
許
許
許
届
登
出
可
出
可
可
可
可
出
録
法律事務所
産業廃棄物処理業
登 録
許 可
旅行業
損害保険代理業
有料老人ホーム業
登 録
登 録
届 出
管轄の健康福祉センター(保健所)
県医務薬務課
管轄の健康福祉センター(保健所)
県農産流通課
農林水産省、県病害虫防除所
管轄の健康福祉センター(保健所)
管轄の健康福祉センター(保健所)
管轄の健康福祉センター(保健所)
管轄の健康福祉センター(保健所)
県都市計画課
県商工観光政策課、
近畿財務局金融会社室
滋賀弁護士会
県廃棄物対策課、
各他域振興局環境課
近畿運輸局、県商工観光政策課
財務省
県レイカディア推進課
[許可、免許、登録、届出]
いずれも、営業者が所定の窓口に申請書を提出し、営業所が定められた基準に合致していれ
ば認められる。許可書等の交付を受けるまでは、営業はできない。
[届出]
営業者が所定の窓口に届出書を提出し、
記載事項や添付書類に不備がなければ、
受付される。
受付されれば、すぐに営業できる。
(2) 事業形態の決定(個人事業か法人事業か)
起業する際には、個人事業にするのか法人事業(会社)にするのかを、決める必要がある。個
人事業形態の場合は、開業や税務処理にともなう手続きが簡単だというメリットがあるので、
小さな店を開業する場合などには適している。一方、法人事業の場合には、資金調達や税制で
のメリットもある。そのため、将来的に事業を大きくすることを考えて最初から法人にしてお
く方法や、最初は個人事業としてスタートし事業規模の成長につれて法人に移行するという方
法が考えられる。
個人事業と法人事業の比較
個人事業
法人事業
小資本で手軽に開業できる
社会的信用が高い
開業手続き、経理や税務処理などが簡単
倒産した場合でも責任範囲が限定される
特 小規模な事業に向いている開業費用は小さい
徴 事業所得が多くなると法人より税金が高くなる
開業のためにまとまった資金が必要
開業手続は複雑
利益を分配する必要がない
複式帳簿による記載が必要
会社の責任はすべて個人で負う
必要経費が認められ、節税対策も立てやすい
[株式会社設立の手順]
①設立準備
会社名・事業目的・本店所在地・役員(代表者)などを決める
②類似商号の確認
③代表者印の作成
本社の管轄登記所に出向き、よく似た商号がないことを確認する
届出用の代表者印を作成するとともに、出資者と役員になる人全員の印鑑
証明を取る
④定款の作成と認証
会社の憲法に相当する定款(商号・本店所在地・目的などの会社の活動内
容を記入したもの)を作成し、公証人役場で認証を受ける
⑤出資金の払い込み
出資金を預け入れ、銀行から「出資払込金保管証明書」を発行してもらう
⑥設立登記申請書類の作成
提出する設立登記申請書類を作成する
⑦登記申請
設立登記申請書、定款、出資払込金保管証明書などを、登記所に提出する
⑧登記簿謄本や印鑑証明書の交付
登記簿謄本と代表者印の印鑑証明書の交付を受ける
⑨諸官庁への届出
税務署・市町村役場・都道府県税事務所などに、必要書類を提出する
(3)新規創業にあたっての必要手続
[個人事業の新規創業手続]
個人事業を始める場合の手続として「個人事業の開業届出書」を所轄の税務署と県税事務所
にそれぞれ提出する必要がある。また、必要に応じて「所得税の青色申告申請書」
、
「青色専従
者給与に関する届出書」
、
「源泉所得税の納期の特例に関する申請書」
、
「棚卸資産の評価方法届
出書」を税務署に提出する。
[法人事業の新規創業手続]
①税務署提出書類(国税)
1)法人設立届は会社設立後 2 ケ月以内に届出を出さなければならない。
a.定款(写)、b.登記簿謄本、c.社員名簿、d.設立時の貸借対照表、e.設立趣意書、f.法人設立時の
事業概況書、g.現物出資がある場合は、その出資者名簿
2)給与支払事務所の開設届出は会社設立から 1 ケ月以内に届出を出さなければならない。社会
保険、労働保険の加入手続きに、この写しが必要となる。
3)所得税の特例に関する申請は給料を支払う従業員が常時 10 人以下の事務所は、毎月納める
べき所得税を 6 ケ月分まとめて納付できるが、申請しなければならない。
4)青色申告の承認申請書は設立の日から 3 ケ月を経過した日、または最初の事業年度末日の早
い方の日までに出さなければならない。
5)棚卸資産の評価方法の届出書は最初の事業年度確定申告書の提出期限までに届出を済ませな
ければならない。
6)減価償却資産の償却方法の届出書は棚卸資産の評価方法の届出書である。最初の事業年度の
確定申告書提出期限までに届出を済ませなければならない。
②都道府県税務事務所提出書類(他方税)
1)事業開始等申告書は、各市町村が定める期間内(15 日が目途)に提出する。a.定款(写)、b.登記
簿謄本
2)法人設立届は各都道府県の税務事務所と市町村役場にそれぞれ同書類を提出する。会社を設
立して従業員を雇い入れるなら、健康保険と厚生年金保険の加入手続きをとる。
③健康保険・厚生年金保険
1)提出期限は事業開始日から 5 日以内である。
2)届け先は管轄の社会保険事務所である。
④雇用保険
1)提出期限は労働者を雇い入れてから 10 日以内である。
2)加入義務・対象者としては一人でも労働者を雇っている事業所は強制加入になる。
3)届け先は管轄の公共職業安定所(ハローワーク)である。
⑤労災保険
1)提出期限は労働者を雇い入れてから 10 日以内に提出する。
2)加入義務・対象者として、1 人でも労働者を雇っている事業所は強制加入である。雇用形態、
名称にかかわらず、労働の対価として賃金を受ける労働者が対象になる。
3)届け先は管轄の労働基準監督署である。
第ⅩⅡ章 廃業、事業清算
〈第ⅩⅡ章のポイント〉
1.廃業における考え方
事業の継続について相談を受けた場合のチェックポイントとして以下の事項がある。
(1)事業者に後継者がいるかどうかのチェック
(2)事業に収益性があるかどうかのチェック
(3)資金繰りに問題はないかのチェック
(4)事業の継続に対する熱意があるかどうかのチェック
2.廃業に関する指導上の留意点
経営指導員として行える事は、あくまでも会員に対しての客観的な状況の説明である。意思
決定の決断に関する指導員の意見等には十分に配慮する必要がある。
3.廃業・事業清算手続きについて
当該事業所が事業運営に必要な許認可等に係る諸官庁への届出関係を除けば、主に、次の 3
つの官庁への届出である。
(1)税務関係の届出、申告書提出
(2)法務局への登記申請書類の提出
(3)裁判所への解散の届出書の提出
4.財務整理の諸方法について
会社更生、民事再生、会社整理、破産、特別清算においては適用される法律ごとに、適用さ
れる者や目的、条件等についてそれぞれの適用要件が異なっているので、比較参照しながら、
その特徴を理解することが重要である。
5.自己破産について
事業者から自己破産についての相談を受けたときは、制度の概要及び考え方についての説明
に止める事に留意すべきである。
当該事業者が必要なすべての情報を開示しているとは限らないことも予測され、事業者が自
主的に判断する問題であり、制度の詳細な説明についても専門家である弁護士、司法書士等に
委ねるべきであると考えられる。
連絡先
* 滋賀県弁護士会
連絡先-滋賀県大津市梅林 1-3-3 TEL077-522-2013
受付時間-月曜日~金曜日(平日)
午前 9 時 30 分~12 時 00 分
* 滋賀県司法書士連絡会 連絡先-滋賀県大津市末広町 7 番 5 号 TEL077-525-1093
無料相談の実施-大津市役所 (市民相談室)
毎月第2木曜日 午後1時 00 分~4時 00 分
6. 経営安定特別相談事業について
経営安定(倒産防止)特別相談室では、当該地域経済において信望を得、経営事情、中小企
業政策などについて精通している者で、商工会連合会会長または商工会議所会頭の選任の協議
を受けた都道府県知事等が適任と認める者を商工調停士として委嘱し、これに公認会計士、税
理士等の専門的知識を有する者を加え、
倒産の危機に直面した中小企業者の相談に応じている。
1.廃業における考え方
経営指導員が会員から事業の継続について相談を受けた場合のチェックポイントを以下に挙
げる。
(1)事業者に後継者がいるかどうかのチェック
会員の事業所に後継者がいるかどうかは最も重要なチェック項目である。もし、後継者が居
ない場合は、廃業も含めて何らかの形で当該会員は事業経営からリタイヤしなければならない
からである。後継者が存在する場合には基本的には存続の方向で話ができ、逆にいない場合は
他のチェック項目の内容次第では、廃業の方向への指導が必要となってくる。
(2)事業に収益性があるかどうかのチェック
会員の行う現在の事業に収益性があるかどうかのチェックである。これは経営指導員として
会員の決算書の作成に関する指導や相談を行っているので、これらの資料を基にして当該事業
の収益性について検討を行う。収益性を検討する場合のポイントは、法人の場合においては、
営業利益段階での黒字計上を基準として判定してゆくことになる。金融収支や特別損益を加味
しない状態での事業の経営成績を基にして、当該事業そのものの収益性を判断する訳である。
この場合において、留意しなければならないのは、販売費及び一般管理費の項目である。経
営の状況が厳しくなっている場合には、役員報酬の極端な引き下げや減価償却費を計上しない
場合があるからである。従って、特にこれらの項目についての計上の妥当性について考慮した
うえで事業の収益性について判断する必要がある。
また、個人事業の場合においては、いわゆる青色決算書における特前所得(専従者給与等を
控除する前の所得金額)の計上額を基にして当該事業の収益性について判断するのがより正確
であろう。この場合における留意点は、法人における場合の営業利益と特前所得との税務会計
上の性格の違いである。特前所得を基準にして、収益性を判断する場合には、
① 金融費用が特前所得に既に織り込まれている事
② 専従者給与を控除する前の額である事
③ 事業主の報酬である役員報酬は反映されていない事等である。
従って、これらの事項を勘案しながら、総合的に判断する。
(3)資金繰りに問題はないかのチェック
事業における収益性の判定と関連性のある問題であるが、事業の継続性の検討という視点に
おいては、資金繰りの問題を検討する事がより重要なチェックポイントである。最近ではキャ
ッシュフローと呼ばれる事が多くなっているが、この現金収支を表した財務諸表のことをキャ
ッシュフロー計算書という。特に近年においては、企業の倒産や廃業が増加するようになって
注目されるようになってきており、損益計算書が企業の利益を表示するのに対して、より、現
金収支で企業実態が把握できるわけである。
キャッシュフロー計算書は、営業活動による現金収支、投資活動による現金収支及び財務活
動による現金収支から構成されるものであるが、指導員として可能ならば、現金収支を整理す
るための当該計算書を作成するべきである。
会員が用意できる資料が十分でない場合等もあり、作成が難しいことも考えられる。このよ
うな状況下においては、簡便的に営業活動のキャッシュフローを把握(税引後利益に減価償却
費を加えて、売掛債権や棚卸資産の増減を加算または減算する)したうえで、それ以外の資産
の売却額や借入金等の増減を調整して、会員企業の現金収支の状況を掴むのである。
積極的な投資がないにも関わらず、現金が支出超過になっている場合は、借入金の返済や、
未払費用の清算、棚卸資産の増加等による資金流出の超過が考えられ、資金繰りが厳しい状況
であることを示す場合が多い。
特に、営業活動によるキャッシュフローのマイナスを他の投資活動や財務活動で埋め合わせ
ることができないのは、基本的には事業の継続が難しいという事である。
(4)事業の継続に対する熱意があるかどうかのチェック
事業を継続していく強い意欲があるかどうかが、最も重要なチェック項目といえる。何とし
てでも事業を続けていきたいという意欲があれば、債権者も返済期日や返済金額の変更等によ
る条件の緩和に応じてくれる場合もある。また、熱意のある経営者なら現状の厳しい経営環境
を乗り越えられる可能性も高いからである。
逆に、当該会員に、事業継続に意欲が感じられない状況では他のチェック項目も勘案した上
で、廃業、事業清算の方法を選択せざるを得ない場合もある。
2.廃業に関する指導上の留意点
経営指導員が事業者から相談を受け指導等を行う場合において、廃業や清算に関する事は、
当該会員の事業に関しての生死を決定する訳であるから、最も重要な事項である。従って、経
営指導員として行える事は、あくまでも会員に対しての客観的な状況の説明であり、意思決定
の決断に関する意見等にも十分に配慮する必要がある。廃業等に関する意思決定に積極的に関
与した場合において、廃業後における法的な手続きに関する経営指導員の業務範囲を超えた指
導の必要性が起こる可能性がある。また、利害関係者等からの予期しない訴訟等のトラブルに
巻き込まれる可能性も考えられ、指導に関しては十分に留意する必要がある。
3.廃業・事業清算手続きについて
(1)法人の場合の事業清算手続きについて
①概要
法人は、総会の決議によって解散することができる。事業所が法人の場合は、ほとんどが有
限会社である場合が多いので、その場合の解散から、結了までの法的手続きをフローチャート
にして、別表 1 に示す。
法的手続きにおいては、当該事業所が事業運営に必要な許認可等に係る諸官庁への届出関係
を除けば、主に、次の 3 つの官庁への届出等となってくる。
1)税務関係の届出、申告書提出
2)法務局への登記申請書類の提出
3)裁判所への解散の届出書の提出
上記の中で経営指導員として、最も相談を受けるのが、1)の税務関係の提出書類であると
思われるので、解散から清算までの実務的な問題点を中心に指導していく必要がある。
②具体的な手続き
社員総会(有限会社の場合)の決議により、解散する日を定め、同時に、清算人を選任し、
清算活動に入ることになる。この場合の事業年度の考え方は、下記の通りである。
事業年度開始の日
解散の日
解散最後事業年度
各事業年度の所得に対する
法人税が課税される。
残余財産確定の日
清算中の事業年度
清算所得に対する
法人税が課税される。
例えば、事業年度が4月 1 日~3 月 31 日の法人において、2005 年 9 月 30 日を解散の日と
定めた場合は、2005 年 4 月 1 日~2005 年 9 月 30 日が解散最後の事業年度となり、通常の事
業年度と同様の所得計算、課税計算を行い、所轄税務署等へ申告書を届け出ることになる。
また、残余財産確定の日が、2006 年 2 月 28 日であった場合には、2005 年 10 月 1 日~2006
年 2 月 28 日が清算事業年度となり、清算所得に対する法人税が課税されるわけであるが、こ
の場合の清算所得の金額は、その残余財産の価額から解散のときにおける資本等の金額(資本
金額及び資本積立金額の合計額)と利益積立金額等との合計額を控除した金額である。これを
算式で示すと次の通りである。
清算所得の金額=
残余財産の価額-(解散時の資本金額+解散時の資本積立金額+利益積立金額等)
尚、上記清算所得に対する法人税額を算出する場合の税率は 27.1%である。また、解散の場
合の清算所得に対する法人税の申告及び納付は、残余財産確定の日の翌日から、一カ月以内で
あるから、留意する必要がある。
③清算手続きを進める場合の留意点
解散した法人は、資産を処分して債務を弁済し、残余財産を出資者に分配した後に消滅する
ことになる。この手続きが清算であり、清算中においても、その目的の範囲において存続する
という事である。しかしながら、解散を決議した以上、できるだけ早い結了が望ましいわけで
あるから、手続きを円滑に進める上での留意点を列挙しておく。
1)事前に関係者の同意をとっておく
利害関係者の事前の同意は、円滑な手続き進行のためには必要な措置である。可能な場合に
は種々の条件がつくものの、前提条件の一つである。
2)資産、負債の処分、整理を進めた上での解散
実務的には、資産処分や負債の整理はある程度進めてから、解散日を決める場合が多いので
ある。特に負債については、債権者への催告の手続きもあり、可能であるならば、事前に整理
しておくことが望まれる。
3)専門家の指導を利用すること
法人の解散及び清算は、設立するよりも煩雑であり、時間もかかるものである。前述した 1)、
2)については、専門家である司法書士等に依頼する方が円滑に進む事を説明する必要がある。
(2)個人の場合の廃業・清算手続きについて
①概要
事業所が個人である場合の廃業清算は、法人の場合のような手続きは、必要としていない。
ただし、個人の事業用と家事用など、明確に区分されていない場合が多いので、ここでは、債
務の整理を個人資産で清算できる事を前提に事業の廃業の手続きを説明しておく。
②具体的な手続き
法人の場合は、総会の決議により、解散の日を決定するが、個人事業の場合は、事業主が任
意で廃業する日を決定することになっている。そして、その後は、資産及び負債の整理を行う
こととなる。当該事業を実施するために必要な許認可に伴う廃業手続きを行う訳であるが、経
営指導員が最も多く相談を受けると思われる税務上の手続き処理の概要を解説しておく。
1)廃業に伴って、所轄税務署長に対して、別紙の「個人事業の開廃業等届出書」を提出する。
2)財産及び債務の清算をする
a.廃業日における貸借対照表を作成する
複式簿記で記帳している場合は、その時点での財産状態に基づいて作成できるが、こ
の処理ができていない場合は、財産棚卸を実施し、財産・債務の確定をしなければな
らない。留意点としては、特に、負債については、見積もりよりも多く発生する場合
も考えられるので、詳細に計上するように指導しなければならない。
b.資産・債務を清算する
個人事業の場合、資産を整理・処分する法的義務は発生しないので、処分するかどう
かは事業主の判断となる。負債の整理についても原則的には、すべての返済というこ
とになるが、債権者との話し合いにより返済期日を延長することも可能である。
③個人事業の廃業・清算手続きの留意点
1)事業用資産の売却については、譲渡所得が発生する事に留意する。事業用資産の売却につい
ては、原則として、譲渡所得として確定申告を行うことになる。
2)事業用資産の売却は消費税法上、課税資産の譲渡等の対価の額となり、売却収入を課税標準
として、売上高に追加して対比しなければならない事に留意する。
3)消費税届出書の提出も併せて行うことに留意する。課税事業者が事業を廃止したときは、
「事
業廃止届出書」を速やかに提出する必要がある事に留意する。
(別表 1)解散から清算結了までの手続の順序図解
2週間内
解散の決議
社員総会
2ヶ月内
清算人の選任
解散・清算人
の登記申請
債権者に対し
債権申出の
催告
官報に
公告通知
2ヶ月以上
(清算事務)
現務の結了
裁判所に
解散届
諸官庁に
解散届
債権の取立
債務の弁済
残余財産の分配
社員総会
財産目録等
の承認
清算事務
報告書の承認
社員総会
清算結了の
登記申請
裁判所に財産
目録等提出
諸官庁に
清算結了届
裁判所に
書類保存者
選任申請
重要書類
10 年間保存
(別表2)
(別表税務署受付印
2)
個人事業の開廃業等届出書
麹町
税務署長 殿
○○年 1 月 10 日提出
住 所 東京都千代田区霞ヶ関 3-1-1
フリガナ オオクラ タロウ
氏 名
大 蔵
太 郎
㊞
職 業
医薬品小売
屋 号 大蔵商店
電話番号(581)4164
個人事業の開廃業等について次の通り届けます。
1
2
3
届出の区分(該当する文字を○で囲んでください。
)
開業、事務所・事業所の(新設・増設・移転・廃止)
、廃業
開廃業や事務所・事業所の新増設等のあった日(○○年 1 月 10 日)
事業の概要(できるだけ具体的に書いてください。
)
医薬品小売
4 事務所等の所在地
(1)新増設、移転後の所在地
東京都千代田区霞ヶ関 3-1-1
(2)移転、廃止前の所在地
5 給与等の支払の状況
給与の支給人員 2 名
支払給与月額
300,000 円
源泉徴収
要
電話番号(581)4164
6「青色申告承認申請書」又は「青色申告の取りやめ届出書」の提出の有無 (○
有 ・無)
7 その他参考事項
4.財務整理の諸方法について
会員事業所の廃業、清算については、1~3 において、その手続きに概要を述べた訳であるが、
会員事業所の財政状態が悪化し、資産処分を実施するとともに、債権者からの協力を得て、一
定の額の免除あるいは、期限の延長を決定する場合もある。その結果として、自主的な廃業や
破産又は、再生へと展開していく。
これらの場合の企業資産整理をまとめたものが下記の表である。
民事再生への移行
会社再生
私的整理(内整理)へ移行
破産へ移行
民事再生
私的整理(内整理)へ移行
破産へ移行
再建型
民事再生へ移行
私的整理へ移行
破産へ移行
商法上の整理
企業の資産整理
私的整理(内整理)
私的整理(内整理)
清算型
清算
通常の清算
特別清算へ移行
破産へ移行
特別清算
破産へ移行
破産
また、適用される法律ごとに適用される者や目的、条件等について分類したものが別表であ
る。それぞれの適用要件が異なっているので、比較参照しながらその特徴を理解することが重
要である。
会社更生、民事更生、会社整理、破産、特別清算の比較
会社更生
民事更生
会社整理
破産
特別清算
適用される法律
会社更生法
民事再生法
商法 381 条以下
破産法
商法 431 条以下
適用される者
株式会社
会社・法人・個人
株式会社
会社・法人・個人
株式会社
目的
債務者の企業の維持・更生・再
経営破綻が深刻化す
債務者の企業の維持・更生・再建
清算をし、債務者の財産を債権者に
①
清算をすること
建
る以前の早期再建
公平に配当すること
②
迅速かつ公正な手続きを行
うこと
申立ての理由
事業の継続は可能だが、資金繰
近い将来に支払不能
支払不能、または債務超過に陥る
①
債務者が支払不能
債務者が解散して清算会社となっ
りのつかなくなった会社に対し
や債務超過になる可
恐れがあると認められ、倒産必至
②
事業継続の見込みがなく債
ていることが前提。債権者への迅
て、債権者にとっても更生させ
能性があるが、現在で
ではあるが、事業の継続が見込め
務者が倒産状態
速かつ公正な配当が困難とされる
たほうがメリットがある場合
あれば再建が可能な
る場合
一部債権者にのみ有利な弁
場合
③
済・担保提供があり、著しく
場合
公正さを欠く場合
④
債務者が債務を弁済する誠
実さが認められない場合
申立てできる者
①
債務者
・債務者
①
債権者会社の取締役監査役
債権者・債務者・取締役、理事など
②
債務者資本の 10%以上
・債権者
②
資本金の 10%以上を有す
(債務者が法人の場合)
に当たる債権を有する債
る債権者
権者
③
清算人・債権者・株主・監査役
③
発行済株式総数の 10%
6 ヶ月前より発行済株式総
数の 3%を有する株主
以上を有する株主
管轄裁判所
債務者の本店所在地を管轄する
債務者の主たる営業
債務者の本店所在地を管轄する地
債務者の主たる営業所を管轄する地
債務者の本店所在地を管轄する地
地方裁判所
所を管轄する地方裁
方裁判所
方裁判所
方裁判所
①
債務者会社の代表者
管財人
清算人
②
管理人(整理手続終了まで)
判所
債務者の代表
①
更生申立て後、決定まで
債務者
は保全管理人
②
更生手続きの開始決定後
は管財人
計画の決議・認可など
更生計画は関係人集会の決議
弁済計画などの方法
整理案に対して、債権者全員の同
管財人が配当表作成、裁判所認可に
清算人が協定案作成、出席債権者
(更生債権額の2/3以上、か
を定めた倒産処理計
意が必要。そのうえで裁判所より
基づき公告・配当債権者の同意が必
の過半数、かつ総債権額の3/4
つ更生担保債権の3/4以上の
画案を作成、債権者の
実行命令発令
要
以上の同意により裁判所が認可
同意)ならびに裁判所の認可に
過半数、かつ総債権額
よる
の過半数の同意によ
2000 年 4 月より民事
破産手続に関係なく担保権の実行が
担保権者は協定外で権利行使でき
再生法施行
可能
る
る承認
その他
5.自己破産について
(1)自己破産の相談を経営指導員が受けた場合の留意点について
事業者から自己破産についての相談を受けたときは、制度の概要及び考え方についての説明
に止める事に留意すべきである。
制度の詳細な説明についても専門家である弁護士、司法書士等に委ねるべきである。その理
由は次のような事である。
①法律が複雑であり、経営指導員はその分野の専門家ではない。
②当該事業者が、必要なすべての情報を開示しているとは限らない。
③当該事業者が自主的に判断する問題であり、経営指導員の意見で左右されない方がよいであ
ろう。
④経営指導員の本来の指導、相談業務の範囲を超えてしまう可能性がある。
(2)自己破産の意義と考え方
①意義
自己破産(個人破産)とは、
「債務者が債務の支払い不能に陥ったため、自らの意思で裁判所
に破産の申し立てたの受けて、裁判所が破産宣告をすること」をいう。
破産を宣告された債務者は、クレジット会社への支払いを免除してもらうための「免責の申
し立て」を行うことが多く、それが裁判所から認められると、
「支払いや返済の責任を免れる」
ことになる。なお、破産宣告を受けた場合、破産者は、弁護士・公認会計士・宅地建物取引主
任者(宅建主任)
・生命保険募集人・損害保険代理店・証券取引外務員などの職業に就けなくな
るなど、種々の制約がある。ただし「免責」が認められれば、これらの制約からも解放される。
②考え方
経営指導員が相談及び指導を行う場合の考え方としては、事業者が自らの事業において負債
がある場合において、その債務を自己破産の手続きを行わずに当該事業を整理できる場合を廃
業・清算として捉えるものとする。債務を自らの資産によって清算できないか、また、その見
込みが立たない場合に自己破産を申し立てる訳であるから、事業者にとっては最終の手段とい
う事になる。
一般的には、自己破産以外に、任意整理等があるが、個人事業者(法人含む)には、難しい
問題が多く、自己破産以外の選択肢は現実的には難しいものと思われる。しかしながら、この
ような整理方法も含めて、
専門家の相談を受けてから判断するべきであるのは言うまでもない。
1)任意整理による債務整理
任意整理は専門家が間に入って債権者と債務者が話し合いによって借金の整理を行っていく
方法である。任意整理では利息制限法を超えて支払った利息は元金に充当するとして元金を減
額し、その減額した元金に対し利息をカットした形で返済していくことになる。
任意整理は自己破産とは異なり一部の借金のみを整理することができるので、保証人が付い
ている借金を除いて手続きをしたい場合や住宅ローンの分を除いて手続きをしたい場合などで
も使うことができ、財産を処分する必要がないので、不動産などの財産を所有していて、どう
しても手放したくない場合には有効な債務整理の方法である。
しかし、自己破産のように借金自体がなくなるわけではなく、元金については返済していか
なければならないため、債務の総額が大きい場合だと月々の返済は難しくなる可能性がある。
2)特定調停による債務整理
特定調停は裁判所が間に入って債権者と債務者が話し合いによって借金の整理を行っていく
方法である。
わかりやすくいうと裁判所における任意整理と考えればいい。
なお、特定調停は自己破産と違って一部の借金のみを整理することができるので、保証人が
付いている借金を除いて手続きをしたい場合や住宅ローンの分を除いて手続きをしたい場合な
どでも使うことができ、財産を処分する必要がないので、不動産などの財産を所有していて、
どうしても手放したくない場合には有効な債務整理の方法である。
しかし、自己破産のように借金自体がなくなるわけではなく、元金については返済していか
なければならないため、債務の総額が大きい場合だと月々の返済は難しくなる可能性がある。
なお、特定調停は専門家に依頼しなくても不利になることはなく、手続きの費用を節約できる
メリットがある。しかし、その場合には自分で手続きを進めていく必要があり、裁判所に何度
か足を運ぶ手間がかかるなどのデメリットもある。
3)民事再生による債務整理
民事再生は住宅ローンを含めた多重債務に苦しむ個人に対して、マイホームを維持しながら
経済的に立ち直るための法的な債務整理の方法として平成12年11月に施行された新しい法
律である。
任意整理と特定調停は、原則として借金の元金は分割で返済していかなければならず、自己
破産はまったく借金はなくなるが、財産もすべて失うことになってしまう。財産をまったく持
っていなければ自己破産を選択すればよいのだが、マイホームを持っていて、どうしても手放
したくない場合には、他の方法を考えなくてはならない。任意整理と特定調停では、借金の元
金は返済していかなければならないので、住宅ローンを含めて返済をしていくことは実際には
難しい。
しかし、民事再生を選択できれば、住宅ローン以外の借金はかなりの額を圧縮(例えば50
0万円の借金であれば100万円に圧縮可能。)することができるので、充分に住宅ローンを
返済しながら残った借金を返済していくことが可能だということになる。
ただ、民事再生は他の債務整理と比較すると手続きが複雑で期間もかかるので、住宅ローン
がありマイホームを維持していきたい場合などを除いて、他の債務整理(自己破産、任意整理、
特定調停)の方法も考慮に入れて判断していく必要がある。
(3)自己破産にかかる費用
①自己破産の申し立てを自分でする場合(破産管財人の選任がない場合)
→約5万円の実費
内訳:予納金2万円、収入印紙 600 円、郵便切手 5000 円~2 万円
※詳しい費用は裁判所によって異なるため、裁判所に問い合わせが必要。
②自己破産の申し立てを専門家(弁護士・司法書士)に依頼する場合
1)弁護士の場合
→実費+着手金 20 万~50 万円+報酬額 20~50 万円
※着手金・報酬額は各事務所によって異なる。
(あくまでも一般的料金)
2)司法書士の場合
→実費+報酬額 15~30 万円
※ 着手金・報酬額は各事務所によって異なる。
(あくまでも一般的料金)
(4)自己破産の大まかな手続きの流れ
~自己破産の申し立てから免責の決定がおりるまでトータルで4~6ヶ月程かかる~
《自己破産の手続き開始の準備》
●債権関係(借金の残高など)の情報収集
●自己破産申立書の作成
●申立書に添付する必要書類の収集
《裁判所に申し立て以後の手続きの流れ》
① 破産の申し立て・・・申立人の住所地を管轄する地方裁判所に申立書を提出する。
(出頭 1 回目)
この時点で、裁判所書記官から書類に不備がないか、自己破産
の要件は満たしているか、免責不許可事由はないかなど、細か
くチェックされ、問題がなければ申し立ては受け付けられる。
約 1 ヶ月 ↓
② 破産の審尋
・・・申し立て内容について裁判官から支払不能になった状況などに
(出頭 2 回目)
ついての質問を受ける。
↓
③ 破産宣告決定 ・・・審尋の数日後に破産宣告がなされる。
同時廃止決定 ・・・破産者にめぼしい財産がない場合は同時廃止の決定がなされる。
約 2 週間 ↓
(裁判所から各債権者に通知がされる。
)
④ 官報に公告
2 週間 ↓
⑤ 破産の確定
↓
⑥ 免責の申し立て・・・裁判所によって破産の申し立て時に免責の申し立ても同時にさ
れる場合もある。その場合は免責の申し立ては省略される。
↓
⑦ 免責の審尋
・・・裁判官から免責不許可事由について質問を受ける。
(出頭 3 回目)
1 ヶ月以上↓(債権者の異議申し立て期間)
⑧ 免責の決定
約 2 週間 ↓
⑨ 官報に公告
2 週間 ↓
⑩ 免責の確定・復権・・・これで借金が帳消しになり、また、公私の資格制限など破産
者の不利益がなくなる。
財産の有無(同時廃止事件と破産管財人事件)による手続きの流れの違い
**申立人にめぼしい財産がない場合**
(同時廃止事件)
①自己破産の申し立て
↓
②破産の審尋
↓
③破産宣告決定
同時廃止決定
↓
④免責の申し立て
↓
⑤免責の審尋
↓
⑥免責の決定
**申立人に財産がある場合**
(破産管財人事件)
①自己破産の申し立て
↓
②破産の審尋
↓
③破産宣告決定
|
↓
④破産管財人の選任
↓
⑤債権者集会
↓
⑥債権の確定と配当
↓
⑦破産手続き終了
↓
⑧免責の申し立て
↓
⑨免責の審尋
↓
⑩免責の決定
(5)連絡先
* 滋賀県弁護士会
連絡先-滋賀県大津市梅林 1-3-3 TEL077-522-2013
受付時間-月曜日~金曜日(平日)
午前 9 時 30 分~12 時 00 分
* 滋賀県司法書士連絡会 連絡先-滋賀県大津市末広町 7 番 5 号 TEL077-525-1093
無料相談の実施-大津市役所 (市民相談室)
毎月第2木曜日 午後1時~4時
(6)その他
*自己破産の不利益は?
破産宣告されると、官報(政府が、一般国民に知らせるために発行する国家の公告文書)に
公布されるほか、裁判所から本人の本籍地の市区町村 役場に通知が行き、自動的に名簿に記載
される。(免責が決定されると、その旨も市区町村役場に通知される。)個人信用情報機関に
も、破産者であるという情報が、5~7年間登録さる。 その間は、例えばクレジットカードの
発行や、ローンの実行を拒否されると考えてよい。自己破産を申告することは、個人では何か
と面倒であるから、司法書士、弁護士に頼ることになる。その場合、司法書士、弁護士費用が
かかることになる。
*破産すると、本当に借金がなくなるのか?
破産宣告を受けた後、「免責」の申し立てをして裁判所に認められると、それまでの債務の
返済の義務が無くなる。ただし一部除外される債務(税金など)が有る。また、一部の裁判所
では免責不許可事由が有る場合などに債務の一部(1~2割)を各債権者に分配することによ
って裁量的に免責(一部免責)を認めているようだ。
*勤務する会社など誰にも分からないように破産することは可能か?
基本的には可能である。破産者本人が言わない限りは通常の場合、誰にも分からない。ただ
し、破産法によると破産の情報は原則公開で、破産宣告の事実が官報に掲載されることは覚え
ておくこと。給料の差し押さえが予想される場合には会社に対しても事実を話しておくのが良
い。
*破産すると家族にも影響があるのか?
基本的にはないが、業者の違法な取り立て行為による精神的苦痛や、給与などの差し押さえ
による生活困難などが多少あるかもしれない。しかしながら、家族が保証人になっている場合
には、家族には破産の効力が及ばないため、当然に請求がくる。この場合は保証人が債務の支
払いをするか、一緒に自己破産の申し立てをすることになる。
6.経営安定特別相談事業について
(1)経営安定特別相談室の設置
中小企業の多くは経営の悪化、不渡手形等により倒産寸前の事態に直面した場合、経営的あ
るいは資金的能力が乏しいため被害を深めて倒産する事例が多く見られる。
このような倒産は、従業員はもとより債権者にも多大な影響を及ぼすなどの社会的混乱は極
めて大きいものがある。
このため、都道府県商工会連合会と全国の主要商工会議所に「経営安定(倒産防止)特別相
談室」
(平成 15 年度においては総数 279 ヵ所)を設置して中小企業からの相談に応ずる体制を
整備している。経営安定(倒産防止)特別相談室では、当該地域経済において信望を得、経営
事情、中小企業政策などについて精通している者で、商工会連合会会長又は商工会議所会頭の
選任の協議を受けた都道府県知事等が適任と認める者を商工調停士として委嘱することを認め、
これに弁護士、公認会計士、税理士等の専門的知識を有する者を加え、倒産の危機に直面した
中小企業者の相談に応じ、次のような内容の業務を行う。
①破産のおそれのある中小企業者からの相談・指導
1)当該中小企業者の財務内容等の把握
2)当面決済すべき手形の処理方法
3)倒産関係法令(民事再生法等)を活用して再建を図ろうとする中小企業者への
相談・指導
4)債権者・銀行等への協力依頼
5)その他(受注あっせん、事業転換等)
②破産情報(月別倒産件数、企業名、関連企業、要因等)の入手
③地域内中小企業を主たる対象として行う倒産防止事業の啓蒙・普及のための懇談会の開催
④大型倒産の発生等に伴い倒産のおそれのある中小企業を対象とした緊急対策会の開催
⑤経済環境の変化のために、特に問題を抱える業種のしにせ企業を対象とした懇談会の開催
倒産防止対策の体系図
倒産防止
相談・指導
倒産防止特別相談事業
金融
緊急経営安定対応貸付
(セーフティネット貸付)
中小企業倒産対策資金
中小企業運転資金円滑化資金
中小企業経営支援資金
金融環境変化対応資金
信用保証
経営安定関連保証制度
(セーフティネット保証)
中小企業倒産防止共済制度
共済貸付
主要商工会議所
各都道府県商工会連合会
中小企業金融公庫
国民生活金融公庫
商工組合中央金庫
信用保証協会
独立行政法人
中小企業基盤整備機構
(2)中小企業の倒産防止のための施策
中小企業の倒産防止のための施策としては、全国の都道府県商工会連合会・主要商工会議所
等に「経営安定(倒産防止)特別相談室」を設置して商工調停士・弁護士・公認会計士等の専
門スタッフが相談、指導等を行う倒産防止特別相談事業を始め、取引先企業の倒産により経営
の安定に支障を生じ、自らも倒産に陥ることを未然に防止するための経営安定関連保証制度、
緊急経営安定対応貸付制度、中小企業倒産防止共済制度といった連鎖倒産防止対策がある。
第ⅩⅢ章 製造業基本用語と業界別情報
<第ⅩⅢ章のポイント>
1.製造業基本用語
(1)製造業の特徴
製造業では「投入した資材になんらかの処理をほどこして付加価値の高いものに変換する」
という加工プロセスがある。加工プロセスを効率的に行うことが製造業共通の課題である。
(2)生産管理分野
①生産管理の基礎用語
1)生産の3要素(3M) → ヒト(man)
・設備(machine)
・材料(material)
2)需要の3要素(Q・C・D)→品質(Quality)
、価格(Cost)
、納期(Delivery)
3)第1次管理 Q・C・Dを維持するための管理活動をさして第1次管理と呼ぶ。
4)第2次管理 生産の3要素を最適化して維持するための管理活動を第2次管理と呼ぶ。
5)生産性の管理指標 生産資源(人・機械・材料)の有効活用の度合いを示す指標。
②生産方式とその特徴
1)受注方式による分類
a.見込生産/b.受注生産
2)生産数量と品種による分類 a.多品種少量生産/b.少品種少量生産
3)流し方による分類
a.連続生産/b.ロット生産/c.個別生産
4)配置による分類
a.固定式配置/b.機能別配置/c.製品別配置
5)分類まとめ
③生産計画と生産統制
工程管理は生産計画と生産統制によって機能している。計画と実績のギャップを常に把握
して、遅れには即対応策を打てる仕組みが生産計画と生産統制である。
④品質管理
1)品質の種類
a.使用品質/b.設計品質/c.製造品質
2)QC・TQC
3)管理サイクル
⑤工程改善の技法
1)5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)
2)段取り改善
3)目で見る管理
(3)資材管理分野
①資材標準化:品質・数量・時間・金額のメリットを享受できる。
②発注方式 :定期発注方式、定量発注方式、簡易な在庫管理法などがある。
③部品表
:ストラクチャー方式、サマリー方式がある。
2.収益改善のための着眼点
(1)生産工程での留意事項
①在庫や仕掛品が溜まっていないか
②生産工程の能力は把握できているか
③生産性を管理しているか
④管理体制はどうなっているのか
(2)外部との関係の留意事項
①生産計画に必要な情報のやり取りは
②外注先との関係
3.業界知識
1.製造業基本用語
(1)製造業の特徴
ヒト
仕入先
加工プロセス
材料
設備
インプット
変換
得意先
製品
在庫
在庫
アウトプット
製造業では上記の図のとおり、
「投入した資材になんらかの処理をほどこして付加価値の高い
ものに変換する」という加工のプロセスが必ずある。投入する資材は複数あることが普通であ
り、一つの資材が複数の製品に使われていることが多い。すなわち、資材の欠品は生産停止に
結びつく。
加工プロセスには一定の時間が必要であり、資材を投入しても製品が出来上がるまでにタイ
ムラグがでることは避けられない。その上、資材の調達にも一定の時間(リードタイム)が必
要になる。生産ラインを止めないためには、内外的な変動要因をいかに吸収するかというリス
クマネジメントが必要であり、その対応の一つが一定の在庫をもつことである。ただし、過剰
な在庫は資材や資金の滞留を意味し、逆に効率をダウンさせる結果になることにも留意してお
く。インプットに対するアウトプットの効率が生産性であり、この変換の加工プロセスをどう
効率的に行うのかが製造業共通の課題である。
(2)生産管理分野
①生産管理の基礎用語
1)生産の3要素(3M)
生産に必要な、ヒト(man)
・設備(machine)
・材料(material)を生産の3要素と呼び、
3Mという。これに方法(method)を加えて4M、さらに資金(money)を加えて5Mとい
うこともある。
2)需要の3要素
アウトプットである製品は顧客の要求を満足することが要求される。つまり、望ましい品質
(Quality)
、適正な価格(Cost)
、納期(Delivery)
、を満たさなければならない。この3つを
需要の3要素といい、それぞれQ・C・Dと略称するのが一般的である。
3)第1次管理
需要の3要素であるQ・C・Dを維持するために、それぞれに対応する管理を行わなければ
ならない。この管理活動をさして第1次管理と呼ぶ。具体的な管理内容は以下のとおり。
a.工程管理
生産計画と生産統制の機能からなり、納期を確実に守ることと生産の迅速
化を目的とする。
b.品質管理
c.原価管理
顧客の求める品質を維持することを目的とする管理活動の総称。
生産コストの低減と目標原価の維持を目的とする管理活動の総称。
4)第2次管理
第 1 次管理のそれぞれの管理を実現するために、生産の3要素を最適化して維持管理しなく
てはならない。そのための管理活動を第2次管理と呼ぶ。具体的には、労務管理・人事管理・
設備管理・工場計画およびレイアウト・資材管理・外注管理・在庫管理・運搬管理・作業管理
などがある。
5)生産性の管理指標
生産資源(人・機械・材料)の有効活用の度合いを示す指標であり、
「生産性=産出量/投入
量」で表される。主な指標は以下のとおりである。
ただし、原単位だけはアウトプット 1 単位当りの指標のため「投入量/産出量」となる。
指標
①労働生産性
指標の内容
算出方法
産出された生産量と投入された労働量と
生産量(金額)/投入工数
の比率をみたもので、工数当りの生産量を
生産量(金額)/投入人員数
いう。
②作業能率
③資本生産性
④設備生産性
投入工数当りの効率を意味し、与えられた
出来高工数/投入工数
時間内での作業者の貢献度を示す指標。
計画工数/正味実績工数
資本の有効利用を示す指標で、投下資本あ
生産量(金額)/投下資本
たりの生産量(金額)で表す。
生産量(金額)/有形固定資産
生産設備の有効利用の度合いを示す指標
生産量(金額)/設備実稼働時間
で、設備能力に対する生産量の比率。
生産量(金額)/機械台数
一定期間内での工場生産設備の利用程度
⑤操業度
を表す指標で、標準生産能力に対する実際
実際生産量/標準生産量
(計画)生産量の比率
⑥稼働率
特定の設備あるいは職場の機械や個人、グ
有効作業時間/総実働時間
ループが平均してどの程度稼動している
=(実働時間―非生産時間)
かを示す尺度。
/総実働時間
原材料の有効消費の割合で、製品に実際に
⑦歩留率
使用された量に対する原材料使用量で表
実際(正味)使用量/原材料使用量
す
生産量当りに換算した原材料使用量をい
⑧原単位
う。これによって設備の原材料生産性を表
すことができる。
⑨良品率
投入量/生産量
*投入量=原材料使用量
検査数に対する良品個数の割合
良品数/検査数
流れ作業において各工程の負荷のバラン
⑩ライン編成効率
スの程度を表す指標。ラインを構成する作
業者一人当たりの生産性と比例するので、
各工程の総作業時間
/工程数×ピッチタイム
流れ作業の生産性を表す指標でもある。
(出所:
「演習生産管理の基礎」藤山修巳著 同友館)
②生産方式とその特徴
生産方式に以下のような分類がある。ただし、いずれも評価軸の取り方による違いであり、
実際の生産ラインはこれらの分類を組み合わせたマトリックス(行列)で捉えられる。
1)受注方式による分類
a.見込生産
注文を受ける前に顧客のニーズを予測して製品開発・設計・製造を行い、製
品在庫を持って受注に対応する方式。市場の需要予測を行い必要な在庫を決
定するが、予測誤差により品切れや過剰在庫が発生する。また、生産者が仕
様を決めるため、市場のニーズに合わないと陳腐化のリスクがある。
b.受注生産
顧客からの注文にあわせて製品設計し、生産・出荷する方式。一般的に受注
してから手配を開始するため、生産期間は長くなる。生産者側で生産を平準
化することが難しく、受注量と生産能力の差を吸収するための納期管理と負
荷管理が重要になる。
2)生産数量と品種による分類
a.多品種少量生産
同一の生産施設で類似性のない多品種の製品を少量ずつ生産する方
式。部品の共通化による品種の整理、工程間の能力バランスの配慮が
管理ポイントとなる。
b.少品種多量生産
同一の生産施設で製造する製品を類似性の高い品目に絞込み、多量に
生産する方式。生産設備や工法の共通化などによる生産性向上などが
管理ポイントになる。
3)流し方による分類
a.連続生産
標準化された単品種の製品を専用の設備を用いて継続して反復的に行う方
式
b.ロット生産 標準化された多品種の製品を生産する際に、一定の数量にまとめたロットご
とに生産する方式
c.個別生産
顧客別仕様の特殊製品を一品一様で汎用設備を使って生産する方式。
4)配置による分類
a.固定式配置 主な材料や部品を固定した場所に置き、設備や人が動いて生産する方式。
b.機能別配置 同種機能ごとに設備をグループ化して配置する方式。品種が多く、数量が少
ない場合に利用される。
c.製品別配置
製品別に工程の順序に従って設備を配置する方式。設備を直線に並べるだけ
でなく、U 字ライン、セル形式といった配置方法をとることも可能である。
機能別配置
製品別配置
A
B
A
B
C
5)分類まとめ
これまでの分類と特徴をマトリックスにまとめた一例が下記の表である。
見込生産
少量連続生産
生産の流し方
作業方法と機械
設備
○流れ作業
○専用機械で
自動化設備
○専用組立ラ
インを設置
多品種ロット生産
○ロット生産ではあ
受注生産
多品種少量個別
多品種少量ロット生
生産
産
○個別生産
○ロット生産ではあ
るが極力流れ作業
るが極力流れ作業
を採用
を採用
○汎用性のある専用
機械
○自動化と多工程持
ち、多台持ちの推進
○汎用機械で段
取替えが容易
にできるよう
にする
○組立の少人化フレ
○汎用組立作業
キシブル作業方式
ラインの設置
一品個別生産
○個別生産
○汎用機械
○汎用機械
○多台持ち、多工程持
○汎用組立作業
ちの推進
の設置
○組立の少人化フレ
○NC、マシニ
キシブル作業方式
ングセンタの
と1人作業方式
導入
○金型、冶具の汎用
と1人作業方式
化、簡易化と段取時
○金型、冶具の汎用
間の短縮化を図る
化、簡易化と段取時
○NC、マシニングセ
間の短縮化を図る
ンタの導入
○NC、マシニングセ
ンタの導入
運搬方法と運搬
設備
レイアウト
○台車、クレー
○基本的には多品種
○台車、クレー
○コンベアな
○コンベア、台車、フ
どによって
ォークリフトなど
ン、ホイスト、
ロット見込生産タ
ン、ホイスト、
連続的に運
の組み合わせによ
フォークリフ
イプと同じ
フォークリフ
搬できるよ
り、無駄、潜在運搬
トの採用
うにする
をなくす
○製品別ライ
トの採用
○部品加工は極力物
○機種別配置、
○配置については基
○基本的に多品
の流れにそった機
スペースの空
本的に多品種ロッ
種少量個別生
○機械設備、運
種別配置、類似工程
間を多くとっ
ト見込生産タイプ
産と同じ
搬設備の固
別配置、また多工程
た融通性のあ
と同じ
定化
持ち、多台持ちので
るレイアウト
きる機械配置を取
とする
ン配置
○材料、製品倉
庫の設置
り入れる
○組付・組立加工は、
製品グループ別ラ
イン配置
○部品、製品倉庫の設
○材料、部品、中間仕
掛品置き場の設置
○共通材料、部
○特殊大型機械設備
品置き場の設
を除いて機械設備、
置
運搬設備の固定化
をさけ融通性のあ
るレイアウトとす
る
置
○機械設備、運搬設備
の固定化を極力さ
ける
出所:
「多品種少量生産の生産管理改善第 3 版」五十嵐 瞭著 日刊工業新聞社
③生産計画と生産統制
納期を遵守するためには、工程管理が機能しなくてはならない。工程管理は生産計画と生産
統制によって機能している。計画と実績のギャップを常に把握して、遅れには即対応策を打て
る仕組みがなければ成り行き管理になってしまう。生産計画と生産統制の手法は以下の通り対
応する。
生産計画
手順計画
生産統制
設計仕様から製品をどのよう
手順管理
定められた作業標準に従って
に生産するのか具体的に示
(作業指導)
製品が作られているかチェッ
クする。
す。
余力管理
生産能力と実績の生産ライン
工数計画
人や機械の仕事量の基準値
負荷計画
(基準工数)をベースに、述
への負荷量をチェックして余
べ作業時間を見積もり、資源
力を確認し対処する
の過不足を判断して調整す
る。
日程計画
材料・外注計画
具体的な生産品目の生産順序
進度管理
計画値と日々の実績値の差異
や生産ラインへの投入日を決
をチェックして原因を突き止
める。
め、遅れを調整する。
必要な資材の手配や外作する
品目を決める。
現品管理
日々の在庫や仕掛品の数量を
チェックして計画との差異を
追求する。
④品質管理
1)品質の種類
a.使用品質
b.設計品質
c.製造品質
使用したときに顧客が期待する性能を備えているための品質
企業が製品を設計したときに狙っている品質
製造工程で作りこむ品質
2)QC・TQC
統計的品質管理の手法を用いて、社員のチームを組織して品質問題に取り組む活動をQC
サークル活動という。社員全体に拡大し、全社的な取り組みを行う場合には特にTQCと呼
ばれる。
3)管理サイクル
計画(plan)
、実施(do)
、評価(check)
、対策(action)の繰り返しを管理サイクル(デ
ミングサイクル)と呼ぶ。管理レベルを向上するにはこのサイクルをまわしていくことが重
要である。
⑤工程改善の技法
1)5S
「5S」とは整理・整頓・清掃・清潔・躾を意味し、改善活動の基礎となる。具体的な意
味は以下の通り。
a.整理
b.整頓
c.清掃
d.清潔
e.躾
いるものといらないものを明確に分けて、いらないものを捨てること。
置き場所を決めて、いつでも誰でもわかるように明示すること
常に清掃してきれいにすること
整理・整頓・清掃の3Sを維持すること
決められたことを守ること
2)段取り改善
品種や工程作業の変更に伴う作業を段取り替えという。具体的には、型の取替え・機械の
調整・部材の切り替えといった一連の事前作業をいう。
多品種少量化と短納期化によって、この段取り替えの回数が増加して生産効率を下げてし
まう。これを避けるためには、段取り替えの作業時間を短縮しなくてはならない。段取り時
間を短縮するには以下の手順で進めることが効果的である。
a. 機械を止めて行う内段取りとあらかじめ機械の外で行う外段取りの作業を切り分け
る。
b. 内段取りの外段取り化に取り組む。
c. 冶(鋳物)工具や取り外し作業を見直し、作業の標準化・簡素化・冶工具の改善を
おこなって内段りの時間短縮を行う。
d. 5Sの徹底や作業標準の見直しで外段取り時間を短縮する。
e. 効果を数値化して評価し、効果があれば他工程に展開する。
3)目で見る管理
工程内の異常を目で見て誰でもわかるようにする手法の総称。主なツールには、赤札・看
板・あんどん・かんばん・生産管理版などがある。
(3)資材管理分野
①資材標準化
製造業において材料費は主要なコストを占める。標準化を進めることで、品質・数量・時間・
金額についてメリットを享受できる。主なメリットは以下の通りである。
品質
○資材に関して必要な技術的データが明確になるため、目標や基準が策定できる
○購買先に基準を提示できるため、購入先が対応する基準があることで品質の良い資材
が継続して納入できる
○部品の互換性が高まる
数量
○資材の品種を少なくできるため1品目ごとの購買数量を増え、規模の利益を享受でき
る。また、全体では在庫量を削減できる。
○品質の基準が明確になることで、材料歩留まりの向上が見込める
時間
○標準品を購買することで調達期間を短縮できる。
○購買計画の精度が高まる。
金額
○標準品を継続的に購入することで購買価格を安くできる。
○全体の在庫量が減少するため、管理コストや調達コストを削減できる。
②発注方式
1)定期発注方式
2)定量発注方式
Q =
発注する時期を決めておき、その時期がきたら対象資材の調達リード
タイム、需要予測量、発注済量、手元在庫量などから必要な発注量を
都度計算して発注する方法。一般に、比較的高価な資材に対して採用
される発注方式である。メリットは需要の変化に対応しやすいために、
在庫の水準を維持しやすいことである。デメリットとして、管理する
ための事務コストが平準化しにくいことがあげられる。
発注点方式ともよび、発注点というあらかじめ設定した在庫水準より
も在庫量が下回ったときに経済的発注量(EOQ)を発注する方法。
比較的に安価で消費が安定している資材に対して用いられる管理方
式である。メリットには管理業務が簡素化できること、在庫管理に担
当の主観が入りにくいことがある。デメリットには需要の変化に追随
しにくいこと、運用が形式的になると非効率になる危険があることが
あげられる。経済的発注量とは以下の算式で計算される。
2DS
CI
Q:経済的発注量 D:年間総所要量
S:1回当たりの発注費用
C:単価 I:年間在庫維持比率
3)簡易な在庫管理法 より簡易な方法として、発注点に相当する量を袋に詰めて残りをバ
ラしておき、バラした資材がなくなり袋を開封した時点で発注する
包装法(バルク法)
、2つの容器または棚を用意しておき、片方に入
っている資材が無くなったら補充する複棚法(ダブルビン法)など
がある。
③部品表
ある製品を生産するために使われる資材は複数あるのが一般的である。加えて、資材は1品
目でも欠品すると生産ラインが停止する。従って、各資材品目ごとに全体の必要量を把握しな
くてはならない。
生産製品の品目と必要数から、
資材の所要量を算出するために用いられるのが部品表である。
部品表は以下の二種類の方式がある。
1)ストラクチャー方式
2)サマリー方式
製品の部品構造を段階的にあらわす表示方式。
製品を構成する部品を列挙して表す表示方式。
同一製品の部品表を、ストラクチャー方式とサマリー方式で表示した例である。ストラクチャ
ー方式では部品aが中間部品として表示されることに注意する。
サマリー方式
ストラクチャー方式
製品A
製品A
部品 a ×2
部品 c ×2
部品b ×3
部品 d ×2
部品b ×3
部品 c ×2
部品 d ×2
2.収益改善のための着眼点
ヒト
加工プロセス
発注
材料
仕入先
変換
設備
調達リードタイム
在庫
生産リードタイム
発注
得意先
製品
在庫
納入リードタイム
製造業の基本的なプロセスを再掲する。
得意先や仕入先との間の受発注という情報の流れと、材料仕入→生産→販売というモノの流
れが存在している。これらの流れが滞ることなくスムーズに流れているかを確認することが重
要な視点となる。また、一般に生産する製品は多品種少量になっており、生産ラインを流れる
品種を切り替えることに伴うロスを少なくすることも求められる。
《収益改善の留意事項》
(1)生産工程での留意事項
①在庫や仕掛品が溜まっていないか
モノの流れがスムーズでなければ、必ず意図していない在庫や仕掛品が発生する。そんな場
合には、在庫の中に売れない死蔵品や滞留品が紛れ込んでいる場合が多い。在庫期間が長いと
品質の低下や陳腐化によって価値が著しく損なわれるし、資金が有効に活用されない。これら
の不良在庫を明確にして処分することがムダをあぶりだす第一歩である。
②生産工程の能力は把握できているか
生産ラインが遊んでいる場合は、いかに仕事をとってくるかというマーケティングの範疇に
なるのでここではふれない。
工程の進捗遅れや納期遅れが常態化している場合には、生産品目の生産数量と工程配置があ
っているか、工程毎の生産能力設定が妥当かどうかを確認しなくてはならない。生産工程で一
番能力が低い工程のことをボトルネック(隘路)工程という。このボトルネック工程がどこな
のかを把握して、その改善を行うことが重要である。具体的には、生産数量の多いものは専用
ラインで生産する、生産数量が少ないものは汎用の設備でフレキシブル(柔軟)に対応すると
いう振り分けが適正にできているかをチェックする。その上で、ボトルネック工程の実際の加
工時間を増やすために段取り替えの改善などに取り組むことが必要になる。
③生産性を管理しているか
生産性 = 産出量 / 投入量 である。生産性の向上には投入する資材や作業の質が揃
って加工条件が常に一定に管理されていることが望ましい。従って、標準化がどの程度進んで
いるかが一つの目安になる。
例として、
1)資材の標準化
2)加工作業の標準化(マニュアル化)
3)設備保守の標準化
などが挙げられる。こうした標準化がどの程度すすんでいるかを確認した上で、個別の生産性
指標を管理することが重要である。
④管理体制はどうなっているのか
生産計画の立て方はどうなっているのかを確認する。特にその精度や計画の見直しのタイミ
ングや飛び込みの督促依頼に対する対応などを確認して、計画をかく乱している要因が何なの
か把握することが必要である。
(2)外部との関係の留意事項
①生産計画に必要な情報のやり取りは
通常、得意先からは先方の生産計画に基づく予定情報を、仕入先からは資材の納期情報など
手に入れているものである。これらのリードタイムをきちんと把握して、生産計画に反映して
いるか確認する。
②外注先との関係
外注するか内製するかを判断する基準を持っているか、外注先の工程管理はどうしているの
かを確認する。
3.業界知識
(1)滋賀県の製造業種
「平成 15 年度滋賀県の商工業」によれば滋賀県内の主な製造業種別の出荷額は、電気機械
7,702 億円(構成比 13.3%)
、一般機械 7,220 億円(同比 12.5%)
、輸送機械 6,701 億円(同比
11.6%)
、化学工業 5,435 億円(同比 9.4%)
、プラスチック 4,613 億円(同比 8.0%)である。
中でも電気機械の分野ではエアコンなどの民生用機器の製造が多く、化学工業分野の約 5 割を
医薬品が占める点に特徴がある。
その他、地場産業として以下の産地がある。
※県内の主な地場産業
業種
ちりめん産地
繊維工業
バルブ産業
バルブ製造業
仏壇産地
宗教用具製造業
ファンデーション 補正着製造業
産地
主な地域
長浜市
浅井町 他
彦根市
犬上郡
愛知郡 他
彦根市
坂田郡
愛知郡
彦根市
麻織物産地
麻織物製造業
能登川町
愛知川町
五個荘町
甲賀町
日野町 他
薬産地
医薬品製剤製造業
陶器産地
陶磁器・同関連製品
製造業
綿織物産地
綿・スフ・合繊織物業 新旭町
安曇川町
高島町
信楽町
主な製品
ちりめん
つむぎ
水道用弁
産業用弁
船用弁
彦根仏壇
(産地奨励品・伝統工芸品)
仏具
ブラジャー
ガードル
ショーツ
服地
不織布・芯地
縫製
循環器官用薬
外皮用薬
アレルギー用薬
外装タイル陶板
庭園用品類
食卓用品類
綿クレープ
厚織(ゴム資材、その他資材)
組合名
浜縮緬工業協
同組合
滋賀バルブ協
同組合
彦根仏壇事業
協同組合
彦根市縫製工
業協同組合
湖東繊維工業
協同組合
滋賀県製薬工
業協同組合
信楽陶器工業
協同組合
高島織物工業
協同組合
(出典:平成15年版滋賀県の商工業より)
(2)業種別の特徴
「第 10 次業種別貸出審査事典」
(
(社)金融財政事情研究会)を参考に、いくつかの業種の
特徴をまとめた。
「業種別貸出審査事典」は滋賀県産業支援プラザのインフォメーションコーナ
ー(コラボしが21、1階)で閲覧が可能である。ここで取り上げなかった業種は必要に応じ
て閲覧し、業界知識を補充してもらいたい。
①電気機械分野
<家庭電器機器製造業>
成熟市場であり、家電製品の普及率は90%を超えるものが多い。海外生産が進展してい
るため、生産高や輸出額は減少傾向で輸入が拡大している。基本機能に特化した低価格品が
アジア諸国から輸入されており、国内メーカー各社は高付加価値製品にシフトしている。ネ
ット家電など期待される新市場の動向には注意したい。
国内大手メーカーはスピーディな製品開発と市場投入を進めている。在庫削減やローコス
トオペレーションを目指し、生産管理体制の強化のためにSCM(サプライ・チェーン・マ
ネジメント)構築に取り組む企業も増えている。また、環境対策として3R(リデュース・
リユース・リサイクル)の推進やグリーン調達が始まっている。
中小企業においてはこれら大手メーカー各社の要求への対応力が課題となる。
②プラスチック分野
<プラスチック射出成型加工業>
プラスチック製品は容量が大きいわりに収益性が低い。運搬コストの軽減のため、需要の
ある地域に立地している。滋賀県のほかに愛知県や首都圏・近畿圏に集積がみられる。また、
中小企業性が高いこともこの業界の特徴である。
石油製品・石油化学製品が原料であるため、その価格変動が直接原料コストに反映する。
加えて、原料を供給する石油化学業界は企業合併などで寡占化が進み、原料の価格決定力が
強まってきていることからコストアップの圧力が強まっている。
工業用プラスチック製品の需要は、IT関連産業や自動車産業の好調により平成8~13
年では1.6%の増加である。ただし、耐熱性・耐摩耗性に優れるエンジニアプラスチック
(高性能樹脂)の生産は高度な加工技術が必要なため、規模の小さな中小企業では対応が遅
れている。日用雑貨を中心とする低価格品については、海外品に押され国内生産は減少して
いる。
③化学工業分野
<医薬品製造業>
製薬企業の大半は中小・零細企業であるが、生産高は大手企業に集中している。平成13
年のデータでは月間生産額10億円以上の企業は、製造所数のシェアは6.9%に対して生
産額シェアは81.3%である。
医療品需要が伸びないことや外資系企業との競争激化から、業界の企業再編が活発化して
いる。健康保険制度が医療費抑制を目的に制度改正され、新薬開発のコストおよびリスクも
増大している。単独での生き残りが困難な企業は、販売面・技術面での提携、資本提携、企
業合併などを進めていくと考えられる。
中小企業にとっては、これら同業大手の動向以外にも新規参入企業との競合も注視する必
要がある。医療品との競合関係を強めているサプリメントなどの市場がその例である。
④地場産業分野
<陶磁器製造業>
茶碗、皿などの家庭用品市場と建築用品、工業用品などの産業用品市場がある。家庭用品
市場は低価格なアジア製品の流入や消費者の嗜好の多様化から需要低迷が続く。成熟市場で
あるため、市場拡大は難しい。デザイン力・優れた機能性の強化や販路の開拓によって収益
を改善することが課題である。産業用市場も建築業界の需要減少をうけて低迷している。
<バルブ製造業>
バルブは建築設備をはじめ、多くの分野で使用されている。そのため、典型的な多品種少
量生産の業種である。滋賀県彦根市には、30社前後のブランドメーカーと70~80の関
連企業が集積しており、県内最大の地場産業を形成している。
景気低迷による設備投資抑制や公共工事の減少、海外製品との価格競争激化により生産高
の減少が続いている。低賃金によるコスト競争力に加え、アジア地域の技術力向上はめざま
しく、国内の市場に与える影響は大きい。コストダウン、技術開発の強化、短納期対応、人
材育成を通じた競争力向上が課題である。
執 筆 者
鐘井 輝
北川 昇
松田智之
中村 弘
島次文彦
山本善通
中小企業診断士、帝塚山大学非常勤講師
1章 経営指導員の心構え
2章 面談技法
4章 経営指導の手順
10 章 経営革新事例
11 章 新規創業
中小企業診断士、税理士
6章 税務
中小企業診断士
3章 支援制度・支援先
7章 労務
中小企業診断士
9章 経営革新
10 章 経営革新事例
中小企業診断士
8章 情報化
13 章 製造業の業界別情報
中小企業診断士、税理士
5章 金融
12 章 廃業・事業清算