地域における雇用の創出 - ほくとう総研|一般財団法人 北海道東北地域

North East Think Tank of Japan
No.
67
2009
Autumn
特集
地域における雇用の創出
CONTENTS
■羅針盤
・地方都市のまちなか再考
(大阪市立大学大学院創造都市研究科 教授 矢作 弘)
■特集対談
North East Think Tank of Japan
・地域における雇用創出を考える
∼業種を越えた複業と連携が自立的産業と雇用を生み出す∼
(慶應義塾大学理工学部 教授 米田 雅子 氏)
■特集寄稿
・地域における雇用の現状
∼雇用構造の変化と雇用創出の新たな方向性∼
・外国人・長期滞在観光客向け人材育成による雇用創出
∼富良野広域圏経済活性化協議会∼
・
「しごと感動・創造都市」∼地域資源を生かした観光振興
による雇用の創出 ∼十和田市雇用創造推進協議会∼
・地域と共に歩む
∼社会的利益と企業利益の一致を目指して∼
・社会の問題点を解決する∼農業分野における雇用創造
の取り組み∼ ∼パソナグループ∼
財団
法人
北海道東北地域経済総合研究所
■地域トピックス
・水と土の芸術祭 ∼新潟市を世界に向けて発信する∼
・函館開港150周年記念事業
∼「みなとまち函館」にとって記念すべき開港150周年∼
■地域調査研究
・「人口減少地域における地域・社会資本マネジメント
に関する研究」について
■歴史浪漫シリーズ
北海
(室
道室
蘭港
・古代蝦夷を考える
福島大学 名誉教授 工藤 雅樹 氏
蘭市
をま
たぐ
白鳥
大橋
)
Aut
umn
■東京事務所発 自治体のシティセールス
・室蘭市東京事務所「∼環境産業拠点都市を目指して∼」
■地域アングル
・県人意識を探る ∼県人意識の地域差∼
ほくとう総研
CONTENTS
平成21年7月∼9月
No.67 2009 Autumn
ほくとう総研のおもな出来事、活動内容についてご紹介します。
特集:地域における雇用の創出
「NETT(North East Think Tank)」のバンクナンバー
■羅針盤
59号 特集『大学による地域振興』
・地方都市のまちなか再考
大阪市立大学大学院創造都市研究科 教授 矢作 弘 ............................................................................................
1
■特集対談
・地域における雇用創出を考える ∼業種を越えた複業と連携が自立的産業と雇用を生み出す∼
慶應義塾大学理工学部 教授 米田 雅子 氏
聞き手 ほくとう総研 専務理事 桑山 渉 ..............................................................................................................
2
11
・外国人・長期滞在観光客向け人材育成による雇用創出 ∼富良野広域圏経済活性化協議会∼
15
・「しごと感動・創造都市」∼地域資源を生かした観光振興による雇用の創出
∼十和田市雇用創造推進協議会∼
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
63号 特集『「食」と「農」のブランド化と地域振興』
64号 特集『地域のグローバル戦略』
・地域における雇用の現状 ∼雇用構造の変化と雇用創出の新たな方向性∼
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
61号 特集『北海道・東北地域のグローバルな自動車産業集積』
62号 特集『観光の新潮流∼地域資源を活かした取組∼』
■特集寄稿
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
60号 特集『北海道洞爺湖サミット特集∼地球環境とエネルギー問題を考える∼』
65号 特集『地域活性化戦略』
66号 特集『地域のデザインする力』
直近のバックナンバーは、ほくとう総研ホームページ(http://www.nett.or.jp)で御覧いただけます。
18
・地域と共に歩む ∼社会的利益と企業利益の一致を目指して∼
北日本精機株式会社 取締役総務部長 新屋敷 聡 .................................................................................................
21
・社会の問題点を解決する∼農業分野における雇用創造の取り組み∼
∼パソナグループ∼
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
24
■地域トピックス
・水と土の芸術祭 ∼新潟市を世界に向けて発信する∼
新潟市文化観光・スポーツ部 交流推進課 課長補佐 五十嵐政人 ......................................................................
世界同時不況に対する世界的な景気対策が功を奏し、生産面では明るい兆しも見え
27
・函館開港150周年記念事業 ∼「みなとまち函館」にとって記念すべき開港150周年∼
函館開港150周年記念事業実行委員会事務局 ...............................................................................................................
30
■地域調査研究
始めている。しかし、雇用情勢は非常に厳しく、有効求人倍率(季節調整値)は過去
最低を記録している。地方は雇用構造の変化もあってさらに厳しく、世界同時不況に
突入する以前の好景気下でも「実感のない好景気」といわれたことがうなずける。こ
のような厳しい雇用情勢下において、各地域は本号に掲載したように雇用創出に向け
・「人口減少地域における地域・社会資本マネジメントに関する研究」について
国土交通政策研究所 前研究調整官 松野 栄明
研究調整官 七澤 利明
研究官 貴田勝太郎 .....................................................................................................
編集
後記
た各種の取り組みを行っている。これらの取り組みに共通してみられることは「人への投資」である。
いままでの景気対策では「モノへの投資」
(公共工事等のインフラ)による雇用創出が一般的であった。
32
地域資源を活用した雇用創出への取り組みでは、
「地域に住んでいる人」も地域資源として活用し、「人
■歴史浪漫シリーズ
へ投資」を通した雇用創出が目指されている。地域活性化や地域づくりの基本は「人づくり」にあるこ
・古代蝦夷を考える
とを改めて認識した。
福島大学 名誉教授(前東北歴史博物館館長)
工藤 雅樹 ...................................................................................
36
■東京事務所発 自治体のシティセールス
◆本誌へのご意見、ご要望、ご寄稿をお待ちしております。
・室蘭市東京事務所
「∼環境産業拠点都市を目指して∼」
室蘭市東京事務所 所長 佐賀 孝志 ........................................................................................................................
40
■地域アングル
・県人意識を探る ∼県人意識の地域差∼
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
HOKUTOU DIARY/編集後記
(R. T.)
42
本誌に関するお問い合わせ、ご意見ご要望がございまし
たら、下記までお気軽にお寄せ下さい。
また、ご寄稿も歓迎いたします。内容は地域経済社会に
関するテーマであれば、何でも結構です。詳細につきまし
てはお問い合わせ下さい(採用の場合、当財団の規定に基
づき薄謝進呈)。
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3丁目3番地4 駿河台セントビル
ほくとう総研総務部 NETT編集部
TEL.03-5217-2441 FAX.03-5217-2443
財団法人 北海道東北地域経済総合研究所機関誌
NETT
No.67 2009 Autumn
編集・発行人◆桑山 渉
発行
(財)北海道東北地域経済総合研究所
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3丁目3番地4 駿河台セントビル
TEL.03-5217-2441 FAX.03-5217-2443
Home Page http://www.nett.or.jp/
禁無断転載
N
W
羅針盤
地方都市のまちなか再考
E
大阪市立大学大学院創造都市研究科 教授
S
矢 作 弘
夏の日に、JR会津若松駅(福島県)で乗り換え隣駅の七日町駅で下車した。修復された小さ
な駅舎のカフェで珈琲をいただきながら改めて駅名を読み直した。
「なぬかまち」。その幾分か
訛りのある響きに、東北人の心のぬくもりを感じた。駅から七日町通りを抜けて野口英世青春
通りまで、所々、町家を修復したり大正ロマン風に改築したりした風情のある店に立ち寄りな
がら、ゆっくり歩いた。それで気が付いたのだが、昔に比べて空き店舗がめっきり少ない。商
店街のひとの話では、七日町通り再生運動でこれまでに27店舗を誘致したという。
会津若松も御多分に漏れず、郊外やロードサイドに大型店や専門店が出店し、まちなかの空
洞化が叫ばれて久しい。商店街の空き店舗が埋まり、働く場が生まれ、そして通行量が戻って
きたというのは嬉しい話である。ある地域で衰退が起きると、衰退が連鎖して悪循環がはじまる。
逆に、地域を再生するためには、小さな改善が次の小さな改善を呼び起こすよい循環を創出す
ることが大切である。再生の発芽があると、民間資本が動きはじめて再生の動きが加速する。
七日町通りから500mほどのところに生協系スーパーマーケットが開店し、まずまずの販売
実績を上げているらしい。以前、別の店舗が開店し、業績がよかったことから新店舗を開発す
ることになった。働く場も新たに生まれた。2008年秋、公衆温泉や総合病院、商店街を経由し
てこの生協2店舗の間を循環するミニバスの運行がはじまった。スーパーマーケットもミニバ
スも生活インフラの強化であり、高齢者に喜ばれている。
アメリカの衰退したインナーシティを表現するのに、「食料砂漠(food desert)
」という言葉
がある。貧困層が多い、したがって購買力が乏しい。また、治安が悪い。そうした理由でイン
ナーシティに出店するスーパーマーケットや一般食料品店が圧倒的に少ない。そこに暮らすひ
とびとは、鮮度の良い生鮮食品を買うのが難しくなっている。そうした状況を表す言葉である。
しかし、
「実際は、インナーシティにスーパーマーケット経営を成立させるのに充分な消費需要
がある」という研究が産業のクラスター論研究者として有名なマイケル・ポーター教授らによっ
て行われている。インナーシティにはそれなりの人口集積がある。郊外に比べて人口密度も高い。
小売商店が立地すれば新規雇用が生まれ、雇用と域内消費の好循環も起きると考えられている。
会津若松の場合、市役所を基点におよそ半径1km圏に2万人強(9,000世帯強)が暮らして
いる。1km2当たり6,800人(3,000世帯)である。スーパーマーケットや最寄り品商売の小売
商店が改めて注目すべき人口数と同時に、人口密度の高さである。それに対して会津若松市全
体の人口密度は、1km2当たり336人(130世帯)である。日本でも地方都市のまちなかでは商
業機能が空洞化し「食料砂漠」が心配されることがある。まちなかの消費購買力を再評価し、
まちなか商業機能を再構築して新たな雇用機会の創造につなげることを考えることは、必ずし
も的外れではない。
1
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀対 談▶
地域における雇用創出を考える
∼業種を越えた複業と連携が自立的産業と雇用を生み出す∼
インタビュー:米田 雅子 氏(慶應義塾大学理工学部教授)
聞き手:桑山 渉(ほくとう総研専務理事)
日時:2009年8月19日(水)
これまで地域を支えてきた社会構造がここ何年かで大きく転換してきている。少子
化によって人口減少時代に入った人口構造、正規雇用が減少し非正規雇用の増加に象
徴される就業構造、製造拠点の海外移転と輸入増大による農林水産業の衰退が進行す
る産業構造、さらに行財政改革の名の下に多くの地域が依存してきた公共事業の縮小
が図られた財政構造である。また、アメリカでのサブプライムローン問題に端を発し
た金融危機が世界的な景気後退をもたらし、構造転換の下で疲弊しているわが国の地
域経済にも深刻な打撃を与え、さらに大都市圏と地方圏、とりわけ過疎化の進む中山
間地域との地域格差を一層拡大させている。
今回はかかる現状を踏まえ、地域活性化にとって最大の課題の一つである雇用創出
について、建設業や農林水産業の再生による自立型産業起こし支援に取り組まれてい
る慶應義塾大学の米田雅子教授にお話を伺った。
2
North East Think Tank of Japan No.67
(桑山)
地域の雇用を取り巻く環境は非常に
ベースにしながら、そこからどうやって自立
厳しい状況が続いています。地域別の有効求
型産業を起こしていくかというところにすべ
人倍率をみても、今年6月時点で北海道が
ての解決の鍵があるわけです。そういうすご
0.31、東北が0.33、全国でも0.43といった数字
く難しい中で自立を図らなければならないと
になっています。直近の原因としては昨年後
いうことが、今、地域に突きつけられている
半からのアメリカ発の金融不況もあるでしょ
現実なのだと私は見ています。
うが、わが国経済社会の抱える構造的な問題
がもたらしている面もあるかと思います。こ
(桑山)
地域活性化とは結局、雇用の場をつ
のような現状をどのようにみておられますか。
くることが最終的な目的だと思います。先生
はこれまで、地域活性化の現場でフィールド
縮小する地域の雇用
(米田)
昨年9月のリーマンショックでさら
ワークをこなされ、また様々な場で発言され
ていますが、特に地域で雇用を創出していく
うえでのポイントは何でしょうか。
に景気が悪化しています。都会の方は結構薄
日が差してきて、回復が見られるようですが。
これまでだったら、都会の景気が回復すると、
時間を経て地方も復活するというのが普通で
「複業化」
、
「農商工連携」、「林建共働」に
よる雇用創出
した。しかし今、地方はまだ復活の兆しが見
(米田) まず、方向性をお話します。結局、
えないです。なぜかというと、結局、過疎の
地方と都会の違いは何かというと、端的にい
進む地域がどういう産業で成立しているかと
えば地方のマーケットが小さいということで
いうところを見たときに、やはり農林水産業
す。その上、少子高齢化、人口減少による過
と公共事業をおもにする建設業、それから役
疎化も進めばますます小さくなります。経済
所や学校という公的部門、さらに北海道など
の原則として、産業が発展していくと専門分
では部分的に観光がもちろんあるのですが、
化していくものだと言われます。今、地方の
一般的に農林水産業と建設業、それから公的
そういった過疎地に焦点を当てると、逆に
部門が過疎化の進む地方の主要産業です。農
マーケットがどんどん縮小して、昔だったら
林水産業は高齢化で担い手不足のうえ海外か
専門分化すればよかったものが、一つの専門
らの安い農産物の輸入で低迷しています。公
の業で経済が成り立つのがとても難しい状況
共事業はピーク時の半分以下です。特に中山
にあるわけです。
間地域などにいくと7割減などという地域す
らあるわけです。公的部門では、小泉構造改
革路線もありましたが、市町村合併や小さな
政府の中で雇用の場が失われています。この
ように、3つの雇用の柱が全部縮小に向かっ
ているというところが、地域、特に過疎の進
む地域の大問題ではないかと思います。
そういった中で、また昔のように公共事業
を大々的にやって下さいと言われても、国家
財政をみればそれは難しいという現実がある
わけです。そうすると、まだまだ足りないと
はいえ、ある程度できあがった社会基盤を
聞き手 桑 山 渉(ほくとう総研専務理事)
3
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀対 談▶
だから、むしろ昔の日本はそうだったかも
を使っていろいろな地域産業を起こしていく
しれないですが、
「複業化」といって、その
こともできるようになるのです。そういった
地域が高齢化している農業地域であれば農業
意味で、今まで林業と建設業は別々の業種
の担い手がいないわけですから、建設業をし
だったのですが、それが一緒に働くことに
ながらもう一本の本業として農業を持つとい
よって、新しい価値を生み出すことができる
うように、複数の本業を持つ複業会社となる
わけです。業種を越えた複業化と言っていま
ことを考えるのです。それから今までは農協
す。
と商工会と建設業協会と観光協会は別々に存
結局、専門分化していかに効率アップさせ
在できたのですが、業種の垣根を取っ払っ
るかという今までの経済学のロジックでは地
て、その町の建設業協会、農協、商工会の方
方の雇用は生まれないわけです。逆に、農業
が一緒になって、観光協会の支援も得ながら
だけで生計を立てようとすると、結局補助金
地域ブランドを作るという業種の垣根を越え
が要るわけです。また、建設業だけで通年雇
た連携を行うのです。その一つが「農商工連
用にすると、社会基盤としての必要性よりも
携」といわれるものだと思います。
公共事業を実施すること自体が優先して、結
さらにもう一つ、私が「林建共働」とよく
局不要不急のものを作って税金の無駄遣いの
言っているのですが、林業と建設業がお互い
問題になります。両方とも1年中忙しい産業
得意なところを持ち寄って、新しい森林を再
ではないのです。それを上手にマッチングさ
生する林業システムを作るというものです。
せることに今、経営者はすごく苦労していま
具体的には、今の日本の森林は作業道が整備
すが、それをやることによって雇用を生むと
されていないために、せっかく間伐しても木
いう複業化の方向が具体的に地域に雇用を生
材を搬出できないのです。何と切った木の
む有効な手段となり得ると思います。
7、8割を切り捨てています。
(桑山)
今までも仕事に繁閑があるというの
(桑山)
切り捨てているというのは、利用し
は建設業も農業も分かっていたわけです。で
ないでそのまま放置するということですか。
すから、農業では兼業農家が圧倒的に多いで
すし、それで収入を確保してこられたわけ
(米田)
ええ、そのまま放置しているのです。
で、そういった考え方とは違うのですか。
山の中に入ったら、切った木がごろごろして
います。2、3割しか搬出していません。林業
は生産基盤があまり整備されていないのです。
個人による兼業から企業の複業へ
だから、きちんと生産基盤を作って産業を
(米田)
いえ、同じなのです。結局、今まで
自立させることが何より必要です。基盤整備
だって複業はやっていたわけです。個人によ
にはある程度公共のお金を使い、あとは自立
る複業ではなくて、企業による複業をやろう
してやっていくというのが産業政策の根本で
ということです。個人だと零細ですが、企業
すが、それがまだできていません。例えば建
だったら規模を拡大して、生産性向上のため
設業の方が山間地で仕事がなくて大変困って
に設備投資もできるでしょう。「個人による
おられるので、そういう方々の土木技術と機
兼業から、企業の複業へ」というのがキャッ
械力を活かし作業道や中間土場を共に作りな
チコピーです。農家だって、零細農家で月曜
がら、林業に活かしていくと、日本の山で間
から金曜まで建設会社に勤めている人が土日
伐したものを全部表に出すことができます。
に農業をやることによる生産性と、一つの企
それが価値になるわけで、それを売った資源
業が農業も建設業も両方やって、例えば土地
4
North East Think Tank of Japan No.67
も集約化し、機械化してやる農業では生産性
うか。
が違います。逆に言うと、兼業農家から建設
業農業複業会社になっていくのが一つの方向
ではないでしょうか。
「建設帰農」による地方建設業の復興
経済原則の逆転の発想で、複業化であれも
(米田)
私はもともと公共事業が減る中で何
これもやることによって自立しましょうとい
とか地方の雇用を新たに生み出そうというこ
うことですね。それも、山村にいる人は山の
とを研究しています。これまで、企業が多角
仕事、農村地帯は農村、漁村は漁村というよ
化して、その地域その地域でいろいろな雇用
うにそれぞれの地域によって全部パターンや
を生んでいる例がたくさんありますので、い
やり方は違います。
くつかご紹介します。
例えば、農家にしても農業だけではないの
まず、素晴らしいなと思っているのが、愛
です。岩手県遠野市のどぶろく特区はMILK-
媛県の愛亀(あいき)さんという建設業農業
INN江川さんがやっておられるのですが、農
環境ビジネス複業会社です。農作業受託(農
業もやりながらどぶろくも作って、民宿もや
業コントラクター)という仕事があります
るということであれば自立
していけます。農業以外に
いろい ろ な 仕 事 を 一 緒 に
やっていくことが大事なの
で は な い で し ょ う か。 ま
た、工務店の方などで、住
宅のリフォームをやりなが
ら介護もやって、暮らしの
お世話 も す る と い う こ と
で、住まいだけではなく暮
らし全体のお世話をすると
いう複業化を図っている方
もいらっしゃるのです。そ
ういう業種の壁を越えてい
ろいろ自由に産業を起こし
ていくなかに地域活性化の
キーワードがあるのではな
いかと思います。
(桑山)
これまでのお話に
もありましたが先生は建設
業に注目されています。公
共事業削減によって苦境に
立っている地方の建設業者
がどのように復興し、雇用
を生み出し、地域活性化に
結びつけていけるのでしょ
5
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀対 談▶
が、これは建設業と相性がいいのです。愛亀
直販なので途中でマージンをとられませんの
さんは道路舗装の会社でありながら、500枚
で、結構ビジネスに乗ります。近隣の方も一
の田んぼの農作業を引き受けておられ、道路
緒に豊かになるわけでしょう。これは一つの地
舗装の現場と圃場とを同じチャートにして管
域ブランドづくりの原点のようだと思います。
理されています。農業と建設業で多能工化を
また、鹿児島県では十何社かでラッキョウ
図っているのです。つまり、社員は全員両方
を作っています。なぜかというと、ラッキョ
の機械に習熟していて、道路舗装も田んぼの
ウはどうも鹿児島では暇なときに植えて暇な
仕事もできないといけないのです。今日は現
ときに取り入れる作物らしいのです。つまり、
場の仕事が少ないから農場に多く、反対に現
工閑期と農業の繁忙期を合わせる作物の選び
場の仕事が多い日は農場に少なくということ
方をするということです。農業といっても北
で雇用の平準化を図っていらっしゃるのです。
海道の農業と鹿児島のそれでは全然違います
北海道標茶町の日野組さんも、2,870haの草
ので、それぞれの場所で何とかマッチングを
地を1社で整備しています。複数の草地に対
図ろうと皆さん努力をしていらっしゃいます。
して工程管理を持ちこむのです。チャートを
作って、人と機材をどうやって回していけば一
(桑山)
それだけの仕事をすると、やはり雇
番生産効率がアップするかを実践しています。
用の場を創出し、失業者を生まないでうまく
特に北海道は農業土木をやっている人が多
回していけるという仕組みになってきている
く、暗渠排水などもやっていらっしゃるので
わけでしょうか。
農場が仕事場なのです。機械が少し違うぐら
いでそれほど抵抗感がないのです。
(桑山)
そうすると、割と建設業は、農業と
親和性があるというか、なじむところがある
わけですね。
雇用マッチングの工夫と地域ニーズに応
える企業になること
(米田)
美幌町の芙蓉建設さんなどの農業コ
ントラクターを見るとそうですが、周りが高
齢化しているので本当に担い手がいないので
(米田) ええそうです。新潟県の頸城建設さ
す。そこに、担い手が余っている建設業を入
んは、平成15年に農業特区の認定を受け農業
れるわけですから雇用のマッチングになって
に参入されました。建設会社は農場整備も仕
います。地方は、農業もこのまま廃れさせ
事ですから、耕作放棄地よりももっとひどい
て、建設業も人を余らせてどうやって復活す
廃村をもう一度開墾して米を作っていらっ
るのでしょうか。そこにいる方々が協力し
しゃるのです。無農薬でやっておられて、大
合って一緒にやるしかないです。
手デパートに直送しています。ただ、デパー
その地域でどんどん耕作放棄地が出て、田
トと直接取引しようとすると、今度は安定供
んぼが荒れて、それがいいことなのでしょう
給という非常に高いハードルができるので、
か。地域の人はその地域に必要な企業には
自分のところで作った有機肥料を近隣の農家
残ってほしいと思っています。その時、あまり
に配って、自分と同じように作ってもらって、
儲からないけれども、小さい棚田まで耕作放
頸城建設特別栽培米の会ということで定量的
棄地にしてはいけないと一生懸命耕作してく
に安定供給体制を整えて出荷しておられます。
れる会社と、ただただ公共工事が来るのを待っ
もともと新潟の棚田の米ですから美味しい
ている会社と、どちらがその地域にとってウエ
こだわりの米でもあります。それで売上が伸
ルカムですか。地域の人が残ってほしいと思
びて、ついでに近隣も巻き込んでいるのです。
う企業には、いろいろなお仕事も来るようにな
6
North East Think Tank of Japan No.67
るし、やはり町の方に愛され、行政にも愛され
る会社になるということが大事なのです。
農業はとにかく高齢化で担い手不足だか
(桑山)
先ほどおっしゃった間伐材の7、8
割が放置されているので、その利用につな
がっていきますね。
ら、重労働のところだけでも機械で代行して
あげると、やはり地域の人に喜ばれるわけで
す。その副次効果を軽く見ないでほしいと思
います。
間伐材利用による森林と林業の再生
(米田)
そうです。建設業も農業も林業もみ
んなで力を合わせて復活させないと駄目なの
(桑山)
介護分野にもかなり建設業は進出し
ていらっしゃるのですね。
です。それで「林建共働」をやっているので
す。私が関わっている「JAPIC(日本プロ
ジェクト産業協議会)森林再生事業化研究
(米田)
施設系はそうですが、訪問介護系に
会」でやろうとしているのは全木集材です。
は住宅系の会社が進出しておられます。住宅
全部搬出して、枝も葉っぱも全部バイオマス
系の方はよその家に上がっていろいろな修理
で使おうというものです。山の中腹に造成し
をされます。そういう方がいかがですかと
た中間土場まで木を持ってきて、そこで全部
言って訪問入浴や訪問介護を行います。それ
枝払いをして、枝や葉っぱもバンドラーマシ
から結構やっていらっしゃるのが生活サービ
ンなどで巻きます。枝だけではなく、草も
スです。雪下ろし、家の前の草取り、重いも
葉っぱもバイオマスになりえます。今、それ
の の 移 動 と い う こ と を 頼 む の に、 住 宅 リ
を目指しています。
フォーム系の人はこまごました仕事をよく受
けられるので頼みやすいのです。そういう人
に訪問介護や訪問入浴をやっていただけば信
(桑山)
間伐材の利用率を上げることが、多
くの問題を解決することになりますね。
用性が高い事業になります。
(米田)
そうです。日本の木材自給率はわず
(桑山)
農林業の復活には雇用創出が期待さ
か2割です。山にこんなに木があって、8割
れます。最近は農業法人化や大手企業の参入
は外材を輸入しているのです。現在輸入の主
等で注目される動きもみられます。農林業の
力はロシアと北欧ですが、ロシアが伐採制限
現状を踏まえた雇用創出の処方箋はありますか。
をかけようとしているので、いよいよ日本の
森林に目がいくわけです。日本には十分な森
農林業復活への期待
(米田)
企業による進出としては、あとでも
お話ししますが、野菜工場が有望です。天候
林蓄積量があるのです。日本の森林蓄積量は
44億㎥あり、国土の67%が森林です。森林占
有率は、フィンランドに次ぐ第2位の森の国
なのです。
に左右されないですから。ただ問題は燃料コ
何しろこのところずっと使っていなかった
ストです。一昨年は原油が上がって、野菜工
ので、山には木がたくさんあります。毎年育
場は赤字になりました。それから森林バイオ
つ量が8,000万㎥で、日本国内で消費される
マスです。もう一度林業を復活させて、製材
木材が8,600万㎥です。本来日本は育ってい
した残りの屑を木屑ボイラーやペレットにし
るものを切ってもそれほど減らないのです。
て燃やしてもらうのがどうも中山間地域には
それなのに木材自給率は2割です。
一番いいなと思います。
それなら、ちゃんと道を付けて木を切り出
してきましょうということです。その時一番
7
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀対 談▶
大事なのは作業道です。そういった道がない
からこんな状態になっているので、道を付け
地域ぐるみの企業支援
てきちんと森林整備をすることによって、
(米田)
建設業の場合は受注産業ですから、
CO2を吸収できるし、水源涵養もできるし、
自分で物を作って売るということをやったこ
国土保全もできるのです。光のささない藪と
とがありません。また、農業もマーケットイ
化した森林に道をいれると、太陽の光もは
ンしていかなければならないわけで、それに
いってきます。作業道は舗装しませんので自
慣れていません。
「商」の部分、つまりどう
然に優しく、森の手入れが進めば森の実りも
やって物を売るかという能力は本来素晴らし
増えます。生物多様性の保全にもつながりま
いノウハウなのでそんな簡単に身に付くもの
す。それが「林建共働」です。
ではありません。建設業は、確かに機械力が
だから、森林を再生させて、その山の恵み
あって、物をつくる能力はすごくあるのです
を農業にもエネルギーにも使っていただくと
が、売る能力がないのです。それは商工会な
いうのが、日本の中山間地域を復活させる切
どと一緒になって、この地域のブランドは何
り札になるのではないでしょうか。
にしようかと地域ぐるみで売っていかないと
結局、林業のノウハウと建設業の機械化と
道路を合体させる話です。むしろ林業がメイ
軌道に乗らないです。
例えば、島根県隠岐の島の飯古(はんこ)
ンで、建設業は一緒に基盤を整備しながらそ
建設さんは隠岐牛を最初につくり始めたので
の一部の人は林業も行うという形で、お互い
すが、町長さんがトップセールスマンとなっ
ウインウインになるのです。
て隠岐の島の海士町を挙げて販路開拓に出て
います。町役場から商工会まで、町ぐるみで
(桑山)
実際に、建設業の方も林業をするよ
うになるわけですか。
隠岐牛を売り出しています。この会社は実は
定置網漁業もやっています。やはり離島のよ
うな地域で有力な企業というと建設業なの
(米田)
ええ、一部の方はそうです。建設業
で、そういう余力のあるところが定置網漁や
の就業者は昭和30年代に180万人になって、
牛の飼育に進出されて、それを売るのは町ぐ
ピーク時が1990年代半ばで680万人、500万人
るみということになります。
増えたわけです。今は550万人に減っていま
すが、まだまだ供給過剰です。片や林業は今
(桑山)
私どもも農商工連携については調査
5万人しかいないのです。その人数で切り捨
に関わったことがあります。東北地方などで
て間伐状態です。搬出間伐にはさらに人手が
は地域活性化に向けて大いに話題になってい
かかります。また、山を育てるノウハウは、
ます。
林業の方が長年手塩にかけて育ててきたもの
です。だから、ポイントは林業、つまり山の
ノウハウを尊重しながら行うことで、それ抜
きでやっては駄目だということなのです。
農商工連携の事例1∼りんごの海外販売、
飼料米による豚飼育∼
(米田) 私がよくお話をするのは、青森県の
(桑山)
地方の建設業あるいは農林水産業に
片山りんごさんで、今ではすごく有名になられ
おいて実際に雇用創出に成功された事例をお
ました。その売り方がたいしたものです。きめ
聞かせ下さい。
細かいマーケットリサーチを行い相手国の嗜
好に合わせて、中国には大玉を、イギリスには
小玉を輸出しています。やはりそういう実務に
8
North East Think Tank of Japan No.67
たけた方、例えばJETROなどと一緒にやって、
元の目玉にして、それで30万人の集客を実現
ノウハウを取り込まないと難しいですね。
するというのは素晴らしいですね。
それから山形県の平田牧場さんの「こめ育
ち豚」です。穀物飼料が高騰しているなか
で、国内産の飼料として飼料米が注目されて
(桑山)
地産して地消、食べる人は域外から
来るので地元が潤うということですね。
います。生産調整の対象は主食米ですが、主
食米以外は生産調整外なので、水田をフル活
(米田)
そうです。旅館がレストランになっ
用して飼料米を生産しようということで、地
て、結婚式場になって、地元の農業漁業の
元の農協等と連携して取り組んでこられまし
方々と共に有機の自然食のレシピを開発され
た。もちろん輸入穀物飼料より高いのです
て、来るお客さんを待つのではなくて自らが
が、東北農業研究センターや山形大学と品種
観光地を作り上げる旅館業です。これも一つ
開発で連携して品質の高い「こめ育ち豚」と
の複業ではないでしょうか。
いうブランドにして売っておられます。加工
などにも、いろいろなところのノウハウが
(桑山)
雇用を生み出す事業を立ち上げるに
入っており、生協などもマーケットインで協
は様々な課題もあると思います。その関連で特
力しています。
に先生は規制改革に注力されておられますね。
農商工連携の事例2∼精密農業、農家レ
ストラン∼
地域雇用を生み出す規制改革
(米田)
一番大きいのが制度のバリアです。
(米田)
北海道北見市のイソップアグリシス
例えば、農家でないと農地が買えないという
テムさんも良い例です。こちらは、IT企業
ことがあります。これは、農地法が改正され
と連携して科学的農業を展開されており、
てやっと企業が借りることができるようにな
IT農業あるいは精密農業と言われるもので
りました。また、植物工場を例にとると、あ
す。土壌分析から生育状況をリアルタイムで
れが農業施設か非農業施設か、工業団地に農
センシングして、一律に肥料をまくよりは足
業施設を作っていいか、水が農業用水か工業
りないところにちゃんとまく方が生産コスト
用水か、農業施設なら固定資産税が安いが工
削減などになります。新しい科学的農業がス
場は高いなど、といった問題です。そこはや
タートしたのだと思います。
はり業種の垣根を越えて誰でも自由に産業を
また、規格外品を使って農家レストランを
起こせるように制度を直すのです。業種の垣
やっていらっしゃる福岡県岡垣町のグラノ
根を越えた制度改革を進めてもらうことが地
24Kもいいですよ。有機農業はどうしても規
方にとってすごく大事なことです。
格外品がたくさん出ます。ここは昔、旅館
だったのですが、有機農業をやっている人か
(桑山)
地方にとって事業機会や雇用の拡大
ら規格外品をもらって地産地消にこだわる自
につながる規制改革が何よりも必要ですね。
然食レストランを始めたら人気が出て評判に
なりビジネスとして安定するようになりまし
(米田)
そうです。そのほか、酒税関連です
た。今は結婚式場も整備されて、観光客も受
が、地域限定で規制緩和する構造改革特区
け入れておられるようです。年間30万人の集
「どぶろく特区」に加え果実酒やリキュール
客があります。地元で有機農業をやっている
を製造販売できる「果実酒特区」が設立され
方が売れなくて困っているものを活用して地
ましたが、特区では年間の最低製造基準6kl
9
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀対 談▶
を緩和し果実酒が2kl、リキュールが1klに
マスを利用した野菜工場の展開ではないで
引き下げられました。やはりお酒は地域ごと
しょうか。先ほども申し上げましたが、空い
の文化なので、そこの土地に来てもらって飲
た工業団地に野菜工場を立地させて、そこに
んでもらって楽しめることでお土産も売れて
森林バイオマスの施設を併設して、木材から
観光振興になりますね。そういうことは、地
製材や集成材やチップをとった残りの木屑な
方が声を上げていけば改正になるのですが、
どを、工場の燃料として活用していくので
そういった派手ではないけれども、すごく大
す。山の幸の復活です。わが国の食料自給率
事なことに対して、これまであまり目が向い
が4割ということですね。だから、国策の基
ていなかったのではないかと思います。
本としては、いろいろな意味でのリスク管理
の観点からみても、自分の食べ物は自分で作
(桑山)
北海道東北地域は、もちろん内発型
るというのが大事なことです。野菜工場で地
地域振興策も講じてきましたが、やはり企業
元の農家があまり作っていないようなもので
誘致による産業振興を主体に雇用をつくりだ
且つ外国に依存しているようなものを手がけ
そうと頑張ってきたところです。これは即効
ていくなら農家の方と十分共存できます。ま
性があるので、首尾良くいけば良いのです
た、野菜工場というのは、1日に2∼3回摘
が、常に成功するわけではありません。やは
み取ることが多いのですが、短時間労働です
り農林水産業や公共事業への依存度が高く、
し、作業台が上下するような便利な設備を備
1次産業と建設業に従事している方のウエイ
えていますので、割と年配の人でも作業が楽
トが合計で20%ぐらいになるので、そういっ
なのです。時間を区切れば新たな雇用も生み
た産業の復活への期待が大きい地域でもあり
出せるわけです。是非、農林水産業を工場
ます。最後に、この地域での地域振興の将来
に、作る産業にも目を向けていただければと
性についてお聞かせ下さい。
思います。山の幸、海の幸、里の幸に着目を
して、ぜひもう一回そちらで工業立地、企業
立地を図っていただけたらいいなと思います。
期待されるビジネスモデル
(米田)
広大な中山間地域を抱える地域に理
(文責:ほくとう総研)
想的なビジネスモデルの一つは、森林バイオ
プロフィール
米田 雅子 氏 慶應義塾大学理工学部教授
〈専門分野〉
建設産業、建設産業の新分野進出(農林業を含む)
、地方活性化、森林再生、規制改革に関わる研究支援活動
〈略 歴〉
山口県柳井市出身 1978年お茶の水女子大学理学部数学科卒業
〈主な公職〉
建設トップランナー倶楽部代表、内閣府規制改革会議委員、内閣官房構造改革特区評価・調査員、農商工連
携88選審査委員長、JAPIC森林再生事業化研究会主査ほか
〈主な著書〉
「建設業 残された選択肢―ホンモノの経営してますか」
(同友館 2007年)
「建設業からはじまる地域ビジネス」(ぎょうせい 2006年)
「日本には建設業が必要です」(建通新聞社 2005年)
「NPO法人をつくろう」(第3版)(東洋経済新報社 2003年)
ほか
10
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
地域における雇用の現状
∼雇用構造の変化と雇用創出の新たな方向性∼
ほくとう総研
1.地域における厳しい雇用の現状
平成19年(2007年)8月のサブプライム
回の好景気(※1)は69ヶ月(暫定)となり、い
ざなぎ景気57ヶ月、バブル景気51ヶ月を超
え、戦後最長の好景気を記録した。しかし、
ショック及び平成20年(2008年)9月のリー
その長期間の好景気にもかかわらず、バブル
マンショックに端を発した世界同時不況は我
景気と比較すると地方への雇用創出の広がり
が国経済にも厳しい影響を与えている。リー
は低迷し、まさに今回の好景気が「実感のな
マンショックを境に生産活動は急激に低下
い好景気」とも言われ、「地域格差」が叫ば
し、雇用環境、消費活動も大幅に悪化してい
れた背景の一要因にも挙げられる。このよう
る。世界的な景気対策の実施により生産活動
な厳しい地方の雇用情勢の背景には就業構造
は底入れの兆しもみられるが、雇用情勢は引
の変化が指摘されており、その中でも厳しい
き続き厳しく、有効求人倍率(季節調整値)
財政事情に伴う公共事業の削減による建設業
は過去最低を更新し、地方の雇用情勢も非常
の低迷と経済のグローバル化に伴うコスト競
に厳しい状況にある。
争の激化の2点が言われている。
一方、地方の雇用環境は世界同時不況へ突
入する以前から厳しい状況が続いていた。今
※1:今回の好景気(拡張期間):平成14年2月∼平
成19年10月(暫定)
0.5以上
0.4∼0.5未満
0.3∼0.4未満
0.3未満
図表1 有効求人倍率・完全失業者数の全国推移
(2007年7月∼2009年8月)
図表2 各地の有効求人倍率(2009年8月現在)
(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」、総務省「労働力調査」よりほくとう総研作成
11
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
30以上
15∼30未満
1∼15未満
0
ⅰ)今回の好景気(69ヶ月(暫定))
30以上
15∼30未満
1∼15未満
0
ⅱ)バブル景気(51ヶ月)
図表3 好景気期間中に有効求人倍率が1を越えた月数
(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」よりほくとう総研作成
2.建設業の低迷∼地方における雇用の
受皿機能の低下∼
上述のように今回の好景気において地方へ
の雇用創出の広がりがみられなかったことは
を背景に財政再建を目指して公共事業の削減
を図ってきた。そのため、公共事業の依存度
が高い地方圏の建設業は非常に厳しい経営環
境に陥り、雇用創出の広がりに寄与できず、
雇用者数減少の要因となっている。
同期間の就業構造の変化を捉えた総務省「平
大都市圏では既述のように都市型サービス
成14年、平成19年就業構造基本調査」からも
産業(情報通信等のサービス産業)が雇用創
わかる。平成14∼19年の5年間で我が国全体
出の役割を果たしたが、地方圏では建設業に
(※2)
は増加したが、大都市圏、地
替わって雇用を創出する力強い産業が現れな
方圏で区分すると地方圏は減少し、大都市圏
かった。このような産業構造の変化に伴う雇
の増加が大きいことがわかる。
用創出力の地域差が量的観点から「地域格
の有業者数
この要因として、好景気を牽引した輸出型
差」を実感させてきたとみられる。
産業、特に自動車産業の集積が一部地域、主
地方圏では、今後、建設業に替わって新た
に大都市圏及びその周辺地域に集中していた
に雇用の受皿となる産業を育成することとと
こと、また、産業構造の変化を背景に情報通
もに、建設業の新たな事業分野への展開等が
信、教育・学習支援等の都市型サービス産業
喫緊の課題であることを示唆している。
の雇用増加が地方圏よりも大都市圏で顕著で
あったことを挙げることができる。
一方、地方圏からみた要因としては主要産
業である建設業の低迷が挙げられる。今回の
好景気下においても、政府は厳しい財政事情
12
North East Think Tank of Japan No.67
※2:有業者数の定義については総務省「就業構造
基本調査」の「用語の解説」を参照
ⅰ)有業者数の増減率
ⅱ)有業者数の増減率に対する産業別寄与度
図表4 全国、大都市圏、地方圏別にみた有業者数の変化(平成14年∼平成19年の変化)
(出所)総務省「平成14年、平成19年就業構造基本調査」よりほくとう総研作成
(注)大都市圏:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和
歌山県、それ以外の道県は地方圏
3.経済のグローバル化の影響∼雇用条
件の変化∼
また、雇用の量的観点からの「地域格差」
ている中でその上昇率の差で格差が生じるよ
りも実感として「地域格差」を感じる状況に
あると言えよう。
この背景には経済のグローバル化を挙げる
のみならず、質的観点からの「地域格差」も
ことができる。中国を始めとするアジア諸国
今回の好景気下で拡大している。
等は低廉な労働コストによる価格競争力を
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によ
もって世界市場を席巻した。我が国も価格競
ると、男性に「きまって支給する現金給与額」
争力を高めるべく労働コストの抑制が経営課
(6月)
(以下、賃金と言う)は平成9年(1997
題として求められ、この結果、正規雇用者の
年)の金融危機を迎えるまで毎年アップして
賃金アップ抑制の他、非正規雇用者比率を高
きたが、それ以降はほぼ横這いで推移し、ま
めることで労働コスト全体の抑制を図ること
さに賃金の据え置きと言えるような状況にあ
も企図され、正規雇用者比率が約2/3にま
る。
で低下している。
この間、最も高い賃金を支払う都道府県
このような賃金水準の抑制及び非正規雇用
(最大値)と最も低い賃金を支払う都道府県
者比率の増加といった雇用条件の変化による
(最小値)の地域間格差倍率は今回の好景気
質的観点からの「地域格差」の拡大は、既述
下で1.68倍(平成19年)にまで拡大し、バブ
のように経済のグローバル化といった要因が
ル景気時の1.56倍(平成元年)を超えている。
背景にある。大都市圏では情報通信等の都市
全国平均が概ね横這いにある状況下で格差が
型サービス産業や東京都のように世界都市と
拡大したことは、賃金が上昇している都道府
してグローバル企業の中枢機能・本社機能を
県と低下している都道府県に2極化してきて
担う地域では、多様な専門サービス等への
いることがわかる。全都道府県が賃金上昇し
ニーズも大きく、好条件の就業機会にも多く
13
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
図表5 賃金水準及び地域間格差の推移
(昭和61年∼平成19年)
図表6 非正規雇用者数と正規雇用者比率の推移
(昭和61年∼平成20年)
(出所)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、総務省「労働力調査」、「平成19年就業構造基本調査」よりほくとう総研作成
恵まれる可能性もある。一方、地方圏では経
その方向性として地域資源を活かした産業
済のグローバル化によって生産機能をコスト
振興による雇用創出の取り組みが期待されて
面から国外の他地域と激しく競争しているた
いる。地域独自の資源はグローバル競争下に
め、賃金水準の抑制や非正規雇用の増大を引
おいても差別化要因として十分な競争力が期
き起こしている地域もあり、地方経済を停滞
待でき、また、公共事業のように他からの資
させる一要因となっていることも否めない。
源分配に依存することもないので自律性も強
これからの地方圏における雇用創出にはグ
く、地方の雇用創出のための有力な産業のリ
ローバル経済下においてもコスト競争に依存
しない差別力のある強い産業を振興すること
が求められる。
ソースとなり得よう。
現在、政府、地方自治体は地域において地
域資源を活用した雇用創出の取り組みについ
て、各種施策により支援しているところであ
4.地域資源を活かした産業振興による
雇用創出
る。厚生労働省の「ふるさと雇用再生特別交
付金」
、
「緊急雇用創出事業」
、
「地域雇用創造
推進事業(パッケージ事業)
」
、
「地域雇用創
以上のように地方圏では非常に厳しい雇用
造実現事業」
、
「雇用創造先導的創業等奨励
情勢が続いており、その要因も不況による労
金」等の取り組みや、農林水産省と経済産業
働需要の減退に止まるものでなく、構造的な
省が連携して取り組んでいる「農商工連携」
問題を抱えていることがわかる。これらの問
の取り組み等が挙げられる。今後、これらの
題の解決には公共事業等の官需依存から脱却
取り組みによって地方圏において地域資源を
し、グローバル経済下においてコスト競争に
活かした強い産業を振興し、雇用を創出する
巻き込まれない他地域と差別力のある強い産
ことが期待される。
業を振興し、雇用創出することが必要である。
14
North East Think Tank of Japan No.67
外国人・長期滞在観光客向け人材育成による雇用創出
∼富良野広域圏経済活性化協議会∼
ほくとう総研
富良野広域圏(富良野市、上富良野町、中
富良野町、南富良野町、占冠村の5市町村)
○雇用の課題と観光動向の変化
は北海道のほぼ中央に位置し、面積2,183㎢
富良野広域圏は以上のように地域資源を生
(5市町村合計)と東京都とほぼ同じ面積
かした農業、観光産業を基幹産業として発展
(2,187㎢)の中に約5万人(5市町村合計)
してきた地域であるが、同産業は季節繁閑が
の人口を有している。当地域は東に十勝岳連
大きいといった業種特性等から季節労働者が
峰、西に夕張山系に挟まれるように富良野盆
多く、雇用の安定・定着や特に観光産業にお
地が形成され、同盆地を空知川や富良野川が
ける高質なサービス提供のためのスキルの習
貫流している他、夕張山系から日高山脈に至
熟を図る観点等からも通年雇用化による雇用
る南部には沙流川水系や空知川上流のかなや
創出が当地域の課題となっていた。
ま湖があり、豊かな自然環境に恵まれてい
一方、基幹産業である観光産業は、平成20
る。気候は気温の日較差、年較差が大きい
年度の観光入込客数が約500万人、宿泊延客
が、このことは野菜栽培に好影響を与えてお
数が約107万人となっている。近年の傾向と
り、北海道内でも多様な農作物の栽培が行わ
しては団体ツアー客やスキー客が減少してい
れている地域である。また、当地域は豊かな
る反面、外国人観光客、特に国内客よりも平
自然環境に加え、TVドラマ「北の国から」、
均滞在日数が長い滞在型外国人観光客の増加
「風のガーデン」の舞台として全国的知名度
が顕著である。また、観光の質も「見る」だ
も高く、北海道内有数の観光地でもある。
けの通過型観光から「体験する」滞在型観光
図表1 富良野広域圏宿泊人数・宿泊客延数・平均泊数推移(平成16∼20年)
ⅰ)全体
ⅱ)訪日外国人
(出所)北海道「北海道観光入込統計」よりほくとう総研作成
15
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
へ転換することが求められている。
ソフト、つまりは質の高いサービスを提供で
きる人材育成が急務である。長期滞在の外国
○国際化・長期滞在型観光地による雇用
創出の動き
人観光客へのもてなし、体験型アクティビ
ティ(スキー、ラフティング、登山等)のイ
ンストラクター、ネイチャーガイド等、高い
このように観光動向が変化する中、今後も
語学力やスキル、ホスピタリティを備えた人
外国人観光客からの北海道人気等の効果も考
材が当地域では非常に少ない。富良野広域圏
えると、富良野広域圏への外国人観光客の増
経済活性化協議会は以上の課題を踏まえ、外
加が期待でき、特に国内客より平均滞在日数
国人観光客向けの観光ガイド、アウトドアガ
が長い特徴を捉え、観光の国際化と長期滞在
イドの人材育成事業、観光産業就職促進、観
型を目指すことで地域経済を活性化し、雇用
光産業人材確保推進の事業に取り組んでい
創出を図ることとした。平成19年5月に同地
る。スキーインストラクター研修ではニュー
域の行政、経済団体等で構成される富良野広
ジーランドスキー連盟から講師を招き研修を
域圏経済活性化協議会を設立し、平成20年11
実施した。その結果、研修者が全国から集ま
月に「富良野広域圏地域雇用創造計画」を策
り、当地域に優秀な人材が集まる契機にも
定、同時に地域再生計画「外国人観光客・長
なったことに加え、ニュージーランドにおけ
期滞在型観光推進計画」の認定を受け、平成
る当地域のPR効果も今後は期待される。
20年12月から厚生労働省の地域雇用創造推進
また、豊富な農産物を活用した新商品・新
事業(新パッケージ事業)の採択地域として
メニュー開発を行う特産品開発振興事業にも
各種事業に取り組むこととなった。
取り組んでいる。平成21年1月には地域資源
による新特産品振興事業が厚生労働省の地域
○雇用創出に向けた取り組み
当地域が国際化・長期滞在型に対応した観
光地を目指すためにはハード整備のみならず
雇用創造推進事業に採択され、かみふらの
ポーク(ラベンダー豚)廃棄部位や地元農産
品による新特産品開発、滞在型観光商品開発
も実施している。
エコツアーガイド研修(写真:富良野広域圏経済活性化協議会)
16
North East Think Tank of Japan No.67
○地域事業者の意識改革
ラクターやガイドに止まらず、外国人観光客
が長期滞在する期間全般において観光を演出
スキルの高い人材の定着を図るには雇用の
できる質の高いスキルとホスピタリティを備
安定が重要であり、そのためには観光産業に
えた「コンシェルジュ」的ガイド(総合ガイ
多い季節労働者の課題を解決する必要があ
ド)育成を目指している。また、このように
る。求職者、在職者のスキル向上のための能
質の高い「観光コンシェルジュサービス」を
力開発だけでなく、地域事業者がスキルの高
提供できるビジネスの創業支援にも取り組ん
い人材を通年雇用することによって雇用の安
でおり、平成21年1月には厚生労働省の雇用
定が図られ、スキルの習熟及びサービス向上
創造先導的創業等奨励金にも採択され、今後
が図られることで長期滞在の外国人観光客の
1年以内の創業を目指している。
満足度を高めることができる。このことは結
果として地域イメージの向上、リピータ客の
確保、客単価の向上にもつながる。そのた
○地域ブランドによる雇用創出
め、富良野広域圏経済活性化協議会は、地域
雇用創出への取り組みは始まったばかりで
事業者を対象に雇用創造事業、新規事業創造
ある。今後はマーケットニーズを踏まえた人
事業のセミナーを通して長期滞在型国際観光
材育成の重点分野について検討中である。富
地の成功事例等を学び、そのためにスキルの
良野広域圏は以上のような人材育成の取り組
高い人材の育成、通年雇用が重要であると
みによって他の観光地にはないハイレベルな
いった意識改革にも取り組んでいる。
サービスを提供し、当地域が目指す「長期滞
在」
、
「ゆとり」
、
「高級」といったブランド構
○観光コンシェルジュサービスの創業
築につながることを期待している。また、地
域ブランド構築は当地域が目指す国際的滞在
人材育成にあたっては以前のようなスキー
型観光地に必要な人材の安定確保につながる
インストラクターはスキーだけ、登山ガイド
とともに、その好循環によって地域雇用のさ
は登山だけ等の専門分野に特化したインスト
らなる創出が期待されている。
スノーボード研修(写真:富良野広域圏経済活性化協議会)
17
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
「しごと感動・創造都市」∼地域資源を生かした観光振興による雇用の創出
∼十和田市雇用創造推進協議会∼
ほくとう総研
十和田市は平成17年1月に旧十和田市と旧
十和田湖町が合併した人口約6万7千人の青
森県南内陸部の中核都市である。当市の西部
には日本でも有数の観光地である十和田湖・
奥入瀬渓流があり、年間約230万人(平成20
年:速報値)の観光客が青森県内外から訪れ
ている。また、当市はにんにく、長いも、ご
ぼう、ねぎ等の生産が盛んであることに加
え、古くから馬産地としても有名で、現在で
は十和田湖和牛、奥入瀬ガーリックポーク等
のブランド牛、ブランド豚も生産し、農業、
畜産業が盛んな地域としても有名である。
○厳しい経済状況
十和田市は以上のように農業、畜産業、観
図表1 十和田八幡平地区観光入込数推移(平成9∼20年)
(出所)青森県「観光レクリエーション客入込客数調査結果
概要」よりほくとう総研作成
光産業を基幹産業として発展してきた地域で
あるが、近年は基幹産業の一つである観光産
業が観光客数の減少もあり不振となってい
る。
当市の観光産業を支える十和田湖・奥入瀬
○雇用創出に向けた動き
非常に厳しい雇用情勢の中、十和田市は基
幹産業である観光産業と農業を始めとする地
渓流の観光客数は、東北新幹線八戸駅開業初
域産業の連携によって地域経済を活性化し、
年にあたる平成15年には年間約334万人訪れ
雇用創出を図ることが喫緊の課題であると認
たものの、その後は低迷し、平成20年(速報
識し、当市の各種団体(現在19団体)から構
値)には世界同時不況に加え、岩手・宮城内
成される十和田市雇用創造推進協議会を平成
陸地震の影響もあって年間約230万人と5年
18年10月に設立した。その後、地域再生計画
間で約100万 人 も の 観 光 客 数 が 減 少するに
「十和田雇用創出プラン「しごと感動・創造
至っている。この結果、当市の基幹産業であ
都市」∼観光産業の振興による雇用の創出
る観光産業も宿泊業を始めとして非常に厳し
∼」を策定し、平成19年9月に認定され、厚
い経営環境に陥り、雇用情勢も厳しい状況に
生労働省の地域雇用創造推進事業を支援措置
ある。
として活用し、十和田市雇用創造推進協議会
が実施主体として雇用創出に向けて各種事業
に取り組むことになった。
18
North East Think Tank of Japan No.67
○雇用創出に向けた取り組み
まず雇用創出の要となる観光産業は、中核
○「気づき」による地域活性化の契機
観光産業は非常に裾野が広い産業であるこ
的役割を果たすリーダーとなる人材の不足、
とに加え、雇用創出に繋がる人材育成、能力
ホスピタリティ(おもてなし)の向上、外国
開発のメニューならば考えられ得るメニュー
人観光客の受入体制及び体験型観光における
はありとあらゆるものを実施することとした
インストラクター等の不足、農業を始めとし
ため、非常に多岐に亘る内容となった。具体
た地域産業との連携構築等の課題を有し、こ
的には事業者、求職者、在職者向けのセミ
れらの課題を克服するための人材育成が求め
ナー、研修を中心に観光カリスマを始め各分
られていた。
野の専門家を講師として招聘し実施してい
十和田市雇用創造推進協議会は、十和田市
る。ソフト事業中心であるが、各分野の専門
のマスタープランである「十和田市観光基本
的な話や外からみた目線での当地域の話を聞
計画」、十和田湖観光の魅力向上を図る「十
くことは参加者に「気づき」を与えることと
和田湖観光再生計画」
、東北新幹線の八戸以
なり、この「気づき」が地域の活性化につな
北の開業効果を見据えた「アクションプラン
がることを期待した。事業実施にあたって当
十和田」及び市街地における「野外芸術文化
初は不安もあったが、積極的なPR等が功を
ゾーン整備事業」など、観光振興を機軸とし
奏し、現在では事業者、求職者のみならず在
た各種施策等と連携しつつ、雇用創出のため
職者も積極的にスキルアップのために参加し
の課題を克服するために観光を担う中核的人
ており、新たな就職にもつながる等、まさに
材育成事業、観光PRを担う人材育成事業、
地域に「気づき」を与え、地域を元気にする
地域の農産物が生きる観光を担う人材育成事
契機になっている。
業、情報提供事業、さらに創業支援事業に取
り組むこととした。
乗馬の研修(写真:十和田市雇用創造推進協議会)
19
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
○「おもてなし」による地域魅力アップ
し」マニュアルといった性格も有している。
また、同書の中にはいわゆる「地元ネタ」を
具体的実施メニューの中では地域のホスピ
掲載した「十和田市民情報局」が随所に記載
タリティに対する意識の向上を促すため「お
されているのが特長で、市民による市民のた
もてなし」のエキスパート育成に力を入れて
めの手作りマニュアルといった性格もあり、
いる。観光地に対する観光客の印象は「人」
に大きく左右される。どんなにすばらしい名
「おもてなし」の気持ちが溢れたものとなっ
ている。
所・旧跡でも、お客様に対する「おもてなし」
に問題があれば、リピーター客も期待でき
ず、地域の魅力低下にもつながる。街中での
○さらなる雇用創出に向けて
外国人観光客へも語学研修で習得したちょっ
このような取り組みによって「気づき」か
とした日常会話で応対するだけで「おもてな
ら新規創業や新たな就職につながった例や、
し」の心が伝わり、地域全体のホスピタリ
「おもてなし」の向上からスキルアップにつ
ティの向上にもつながる。また、地域の人に
ながった例が多く出ている。また、市民の意
とってもちょっとした「おもてなし」が観光
識改革にもつながり、最近では、十和田市の
への「気づき」となり、観光産業への就職意
ご当地グルメ「バラ焼き」(主に牛バラ肉と
欲にも期待でき、地域全体の雇用創出にもつ
多めのたまねぎを甘辛いタレにつけ込んで鉄
ながると考えられる。このように地域全体で
板で焼いた料理)による地域振興を行う団体
の「おもてなし」の向上を図るため、十和田
「バラ焼きゼミナール」が生まれている。今
市雇用創造推進協議会は「おもてなし虎の巻
後も地域の「気づき」をもとに、観光地とし
十和田市を訪れるお客様のために」を作成
ての「おもてなし」の心を大切にして「人が
し、配布している。同書は「観光客のための
つくるまちおこし」によってさらなる雇用創
情報提供マニュアル」でもあり、「おもてな
出につながることが期待される。
観光テキスト「おもてなし虎の巻」(写真:十和田市雇用創造推進協議会)
20
North East Think Tank of Japan No.67
地域と共に歩む
∼社会的利益と企業利益の一致を目指して∼
北日本精機株式会社 取締役総務部長 新屋敷 聡
●芦別市と北日本精機
●地域の雇用
当社のある芦別市は北海道のほぼ中央部に
芦別市の工場数は平成10年から19年の10年
位置しています。かつては炭鉱街として栄え
間で60事業所から35事業所に、従業員数は
ていましたが昭和30年代後半から始まるエネ
1,351人から1,140人に、製造品出荷額は195億
ルギー転換政策により炭鉱の閉山が続き、坑
円から146億円に減少しています。この間、
内掘の最後の炭鉱であった三井芦別鉱業所も
当社の従業員数は289人から551人に、出荷額
平成4年に閉山となっています。こうした
は71億円から81億円へと増加し、雇用の維持
中、市内および同じく産炭地である周辺地域
に大きく寄与してきたと言えるのではないで
の雇用機会の減少を主因として、昭和34年に
しょうか。
は75,000人に達した人口も現在は18,000人と
ピークの4分の1にまで減少しています。
当社は企業の健全性の維持に努め、その業
績を伸長させることにより地元での就職を希
当社は、鉱山機械向けベアリング商社を経
望する新卒者の継続的な採用やUターン者等
営していた小林英一現社長が、炭鉱の衰退に
の中途採用により雇用者数を増加させてきた
伴う販売市場の縮小に対応して、世界に通用
一方、倒産会社等の雇用引受、障害者に対す
する小型ベアリングの製造を目指して創業し
たもので、現在では地元雇用を中心とした従
業員数600名、月産1,000万個のベアリングを
生産、世界35ヶ国に販路を確立しています。
創業に際しては鉱山の規模縮小に伴う雇用
の受け皿を模索していた三井鉱山による多面
的な協力を得る一方、設備投資に関して産炭
地域振興に関する各種助成金や北海道東北開
発公庫(現日本政策投資銀行)の融資を活用
できました。
三井鉱山の病院跡を活用した創業時代
現在の本社建物
入社式
21
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
る就業機会の提供なども行ってきました。
が自由に楽しめる150坪程度の宅地が低価格
さらに、65歳以上の方を短時間労働者とし
で購入可能です。芦別市による住宅建設助成
て採用し、退職した社員による技能継承や地
金を活用すれば、より低価格での住宅取得が
域に居住または居住予定者に対する雇用機会
可能です。
創造のため就業の場を提供しています。
第2に薪ストーブ等の利用による「暖房コ
この採用制度については芦別市からも定
ストの削減」です。当社では芦別市内の豊富
住・移住促進の一環として重要であると高い
な森林資源を活用した木質ペレットの製造を
評価をいただいています。
はじめ、自社技術によりペレットストーブや
薪ストーブの製作を行っています。
●生産コストと雇用の維持
「高品質は先進技術と質の高い労働力から。
質の高い労働力は地方都市の豊かな生活環境
第3に「整備された社会インフラ」があげ
られます。学校、公共施設、温泉・ホテル等
のレジャー施設など地方都市として十分に
整っています。
から」の考えの下に、当社は製品の限界コス
このことは、企業間競争の激しい経済の中
トを追求し、そのための生産性向上を重要な
で長期にわたって社員の精神的、肉体的健康
方策として、社員の生活設計、生涯計画に関
を考慮したときに非常に重要なことであり、
与することが重要なことと考えています。
事業を行う上で北海道の地方都市は理想的な
その基本となるのは「豊かな人生には、心
環境を備えているといえるでしょう。
の豊かさと適度にバランスのとれた地域性の
ある物質的豊かさが重要」との小林社長の考
えにあります。豊かな人生は社員の定着率を
高め、技能水準の向上や技能の継承を容易と
することで生産性を向上させ、生産コストを
低減させることができます。
それには、快適な生活条件を基本とした社
員の資産形成に道筋をつけ目標を持たせるこ
とです。賃金は実質的賃金を基本と考え、名
目賃金はそれほど大きな意味を持ちません。
具体的には第1に「快適な住環境」です。
芦別では恵まれた自然環境の中で園芸、農園
豊かな地域特性
●新たな雇用機会の創造
木質燃料による暖房は、灯油価格の高騰や
電力供給に左右されない究極のエコ燃料であ
り、当社で製作しているストーブは電気を全
く使用していません。
豊かな森林資源を持つ芦別にとって、ス
薪ストーブを前に語る林芦別市長と小林社長
22
North East Think Tank of Japan No.67
トーブをはじめ関連製品の製造やペレット、
ベアリングは、機械の中に組み込まれてい
るので、実際に目にする機会はほとんどあり
ませんが、日常生活から先端分野まで、見え
ないところで私たちの生活を支えています。
北日本精機㈱は、そのこころを大切にしな
がら地域を支え、人を支え、企業を支え、地
域と共に歩んでいきたいと思います。
地場産木材を使い、煙突が特徴的なモデル住宅
薪の流通、木質ストーブを主暖房とした住宅
建設(薪ストーブ暖房の社宅を建設し、モデ
ル住宅として公開中です)などは新たな産業
となる可能性を秘めています。当社のみなら
ず、地域全体で雇用の創出が実現できること
を期待しています。
北日本精機の製品
●ベアリングのこころ
Bearingは「 支 え る も の 」 と い う 意 味 を
持っています。回転する軸を支えるものとい
う意味ですが、ベアリングは、どんな機械に
も欠かせない部品のひとつで、家電製品から
ハイテク製品まで様々なところで利用されて
います。回転部分の摩擦を減らしてなめらか
北日本精機で製造する最小のベアリング
に動かすことによりエネルギー消費を減らす
地球環境にも優しい製品です。
会 社 概 要
●商 号:北日本精機株式会社
●従業員数:600名
●所在地:北海道芦別市上芦別町26-23
●敷地面積:165.2千㎡
●代表者:小林 英一
●工場面積:27.3千㎡
●資本金:207,500千円
●生産能力:1,460万セット
●設 立:昭和44年8月
23
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
社会の問題点を解決する∼農業分野における雇用創造の取り組み∼
∼パソナグループ∼
ほくとう総研
○パソナグループの雇用創造の歩み
○農業の可能性と就業意識の変化
パソナグループは、現グループ代表の南部
我が国の農業は高齢就業者が多く、離農によ
靖之氏が昭和51年(1976年)に主婦の再就職
る耕作放棄地の増加や食料自給率の低下等の課
を支援するために設立した株式会社テンポラ
題を抱えている。一方、農業を生産だけでなく
リーセンター(現株式会社パソナ)に始まる。
加工・流通まで含めた産業として捉え、そのビ
「育児を終えてもう一度働きたいと願う家庭
ジネスとしての広がりを考えると、非常に裾野
の主婦に、OL時代の能力や技能を活かすこ
の広い産業であり、新たに雇用を創出できる可
とのできる適切な仕事の場をつくりたい。」
能性が大きい。また、近年、若者の中では就業
という思いから「人材派遣」という現在では
意識の変化から農業への就業希望者が増えてい
なくてはならない雇用形態のひとつを生み出
るほか、社会人として経験・スキルを次のステッ
し、多くの主婦の再就職支援を行ってきた。
プへ活かし、キャリアアップを図るための新規
その後、「社会の問題点を解決する」という
就業先として農業を考えている人も増えている。
企業理念のもとに新しい雇用のあり方を提言
パソナグループはこのように農業の可能性
し、さまざまな雇用創造を行い、現在では人
と就業意識の変化を踏まえ、農業への就業を
材紹介、人材派遣等に止まらず、人材総合
希望しているが、どのように農業分野へ進出
サービス業として福利厚生施設のアウトソー
したらよいか課題を抱えている人々を支援す
シングサービス、保育サービス、さらに再就
べく農業プロジェクトを立ち上げるに至った。
職支援サービスと多岐に亘る事業展開を行っ
ている。
○農業プロジェクトに取り組む契機
○「農業インターンプロジェクト」
まずは農業にチャレンジする場所が必要な
ため、平成15年(2003年)に「農業インター
我が国は平成9年(1997年)のアジア通貨
ンプロジェクト」を秋田県大潟村で実施し
危 機 に 始 ま る 金 融 危 機 に よ っ て 平 成10年
た。同プロジェクトには農業従事者だけでな
(1998年)に実質マイナス成長を記録し、平
く民間企業経験者(中高年中心)にも参加し
成11年(1999年)には完全失業者数が初めて
てもらい、加工・流通、商品開発等の民間企
300万人(原数値)を超える非常に厳しい雇
業のスキルが農業分野に活かせることを知っ
用環境にあった。パソナグループはこのよう
てもらった。このプロジェクトが非常に好評
な厳しい雇用情勢を踏まえ、企業理念である
を博したことから、平成16年(2004年)以降
「社会の問題点を解決する」のもとに新たに
は秋田県、青森県、和歌山県において農業分
雇用創造できる分野を考える中、高いポテン
野で活躍したいと考えている若者を中心に実
シャルを有する農業への取り組みを考え始めた。
施した。この反響は大きく、農業に興味を有
する若い人から多くの問い合わせがあった。
24
North East Think Tank of Japan No.67
パソナグループの農業への取り組み(パソナグループホームページより作成)
○「Agri-MBA農業ビジネススクール“農
援隊”」
平成19年(2007年)からは、農業について
立就農のための入口としての役割が大きい。
次のステップとして実践を通して新規の独立
就農や農業分野での起業を目指す人材を育て
る制度として平成20年(2008年 )10月 か ら
基本的な知識があり、ビジネスとして成立さ
「パソナチャレンジファーム」を始めている。
せることができる人材、スキルを活かしリー
同制度は地方自治体と協力して参加者が最長
ダーとして地域振興に貢献できる人材を対象
3年間農業に従事しながら、事業計画作成、
にケーススタディーによる講座を開いた。講
作物の選定、生産販売方法の企画、栽培管
師には農業を経営として捉え、農業分野の第
理・収穫・出荷など農業経営を実践し、この
一線で活躍している人々を迎えた。当初30名
研修を通じて経営感覚を磨き、将来の独立就
の受講を予定していたが、非常に人気が高く
農を目指すものである。現在、6名が参加し
第1期生55名、第2期生75名、第3期生約90
て研修を行っているが、研修生独自の新たな
名が受講するなど、全国からも注目を集めた
ビジネス展開も始まっており、例えば新たな
ため、今年度からwebコースも開設している。
販路拡大の取り組みとして地産地消を考える
地元イタリアンレストランと連携し、参加者
○「パソナチャレンジファーム」(兵庫県
淡路島内の農場)
「農業インターンプロジェクト」
、
「Agri-
がパソナチャレンジファームで新鮮野菜を収
穫し、その新鮮野菜を使ったイタリア料理を
レストランで提供してもらうイベントの取り
組みなども行っている。
MBA農業ビジネススクール“農援隊”
」は独
25
North East Think Tank of Japan No.67
特集 ◀寄 稿▶
Agri-MBA農業ビジネススクール“農援隊”授業風景
パソナチャレンジファーム参加者
(写真:株式会社パソナグループ)
○「農林漁業ビジネス経営塾」
○パソナグループが支援できる分野
平成19年度(2007年度)からは農林漁業の
パソナグループが提供できる人材総合サー
生産法人等で実際に従事する人を支援するた
ビス分野は、農業及びその関連産業にも非常
めに全国各地で個別相談、研修、セミナーを
に多くあり、サービスの提供は新たな雇用創
開催している。講師には各種民間企業で働
造にもつながる。現在も規制緩和等によって
き、十分なスキル・経験を有する団塊世代を
異業種から農業への参入事業者が多く、パソ
始めとしたシニア層を迎え、そのノウハウ・
ナグループが支援できる分野は非常に多い。
経験を農林漁業の経営発展のために活用して
農業はポテンシャルが高い分野であり、パソ
もらうことを目的としている。今までに累計
ナグループの人材総合サービスを通して農業
約2,000回、受講生延べ4,000名の実績を有し、
及び関連産業を活性化し、新たな雇用創造に
現在はモバイル版での情報提供も実施してい
つなげていくことを目指している。
る。
株式会社パソナグループ 会社概要(2009年9月1日現在)
創 立 1976年
設 立 2007年
代 表 者 代表取締役グループ代表 南部 靖之
資 本 金 50億円
所 在 地 東京都千代田区丸の内一丁目5番1号 新丸の内ビルディング
売 上 高 連結2,187億円(2009年5月期実績)
従業員数 連結4,916名(2009年5月末現在)
事業内容 グループ経営戦略の策定と業務遂行支援/経営管理と経営資源の最適配分
/雇用創造に係わる新規事業開発等
U R L http://www.pasonagroup.co.jp/
26
North East Think Tank of Japan No.67
地域トピックス
水と土の芸術祭
∼新潟市を世界に向けて発信する∼
新潟市文化観光・スポーツ部 交流推進課 課長補佐 五十嵐 政 人
○はじめに 新潟市はどんなまち?
現在も市域の25%は海抜0メートル地帯で、
数十の排水機場が人工的に排水することに
平成17年、15市町村の広域合併を経て人口
よって、生産、生活が営まれている。日本一
81万人、本州日本海側初の政令指定都市に
の大河・信濃川、日本一の穀倉・蒲原、新潟
なった新潟市。開港五港の一つである。ある
市が絶対ほかに負けないもの、それが「水と
調査によると都市ブランド力は全国1,000市
土」だ。
区町村中158位。ほかの四港は函館1位、横
しかし、行政にも市民にそういう意識は薄
浜4位、神戸5位、長崎13位。イメージだけ
い、対外的にはどうアピールしていくのか。
でなく例えば宿泊数は、150万人ほど。ライ
アートがその役割を果たせるのではないか。
バル?仙台は300万人台、金沢は200万人台で
風土や歴史を再発見し、市民が参加でき、市
ある。新潟県と印象がダブり、2度の地震の
内外から見に来てもらえるもの。水と土を
風評被害は大きかった。某官僚いわく、
「新
テーマにした芸術祭を開催することを篠田昭
潟市って、伝わってこないんだよね」
。
市 長 が 発 表 し た の は 平 成19年11月 で あ る。
○歴史 水と土との長く激しい闘い
新潟の地は、信濃川と阿賀野川によって生
まれた。大河は出口を求めさまよい、氾濫
し、土砂を運んだ。この地に人が暮らすこと
は、水と土との闘いを意味した。江戸時代、
新田開発が進み、人口は急増、明治21年の新
潟 県 の 人 口 は166万 人 で 日 本 一。 腰 ま で つ
かって田植えをし、舟で稲を運ぶ農作業、地
図にない湖といわれた亀田郷を司馬遼太郎は
「食を得るというただ一つの目的のためにこ
れほどはげしく肉体をいじめる作業というの
は、さらにはそれを生涯繰り返すという生産
は、世界でも類がないのではないか」と『街
道をゆく』の中で記述している。
○発見 ほかに負けないもの
先人の気の遠くなる努力により蒲原(新潟
平野)が乾田化したのは昭和20年代である。
ポンプ場跡に海の水位と新潟の水位−2.5mを示す
磯辺行久作品:栗ノ木排水機場は近代農業土木の原点となった。
27
North East Think Tank of Japan No.67
地域トピックス
新潟市中心部を流れる信濃川のほとりに建つ
王文志(台湾)作品:Water Front─在水一方
ディレクターはアートディレクターの北川フ
ラム氏が就いた。北川氏は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」をはじめ
数々のアートプロジェクトを成功させている。
○事業 アートをつくって人を呼ぶ
主催は、新潟市を中心にした実行委員会と
し、新潟市交流推進課に水と土の芸術祭推進
室 を 事 務 局 と し て 置 い た。 総 予 算 は 4 億
○目的 新しいアイデンティティ
水と土の芸術祭の目的は四つである。一つ
6,920万 円 で、 収 入 は 新 潟 市 負 担 金 が 3 億
6,920万円のほか入場料を8,000万円と見込ん
でいる。本格的に事業がスタートしたのは今
目は、政令市新潟のアイデンティティづく
年になってから。世界13カ国から61人(組)
り。合併し広がった市域と81万市民を包含で
のアーティストが、市内全域(8区726㎢)
きるものを「水と土」に求められないか。二
に71のアートを制作した。市民と協働で取り
つ目は、新潟再発見。アートを見ながら市内
組んだ作品も多く、2,000点余のタカラモノ
各地を廻ったり、歴史を掘り起こしたり、伝
や5,000枚の写し絵、1万個の陶磁器などを
統芸能を復活させたりできないか。三つ目
集めたものもある。市民サポーターは700人
は、 新 潟 市 へ の 外 客 誘 致。 平 成21年 は、
集まった。展示は屋外が水辺や海岸、潟、水
NHKの大河ドラマ「天地人」の放送、国体、
田、ポンプ場跡地などに40ほどで無料。博物
デスティネーションキャンペーンなどがあ
館、美術館、米倉庫、民家など有料が14施設
り、大観光交流年と銘打っている。さらに誘
である。入場料はすべて入場できるパスポー
客をしたい。四つ目が文化創造都市へのキッ
トが一般2,500円で、単館チケットは美術館
クオフ。今年1月に姉妹都市になったフラン
が1,000円、他が300円から500円である。
スのナント市のような文化や芸術による産業
おこし、都市づくりにつなげたい。
28
North East Think Tank of Japan No.67
芸術祭は7月18日に開幕し12月27日まで
163日間続く。途中中断があり、新潟市美術
2,000人の市民が1年かけて5,000枚のフロッタージュ(写し絵)を制作し、廃校に展示。
酒百(サカオ)宏一作品:水の記憶プロジェクト
館は11月28日に再開し1月31日まで、新津美
二つの美術館が18,794人。パスポートは2万
術館は10月20日に再開し1月11日まで開催す
枚ほど売れている。9月は、15日までで新潟
る。アートとともに重要な事業として、地域
市 美 術 館 が3,971人 で、 夏 休 み 期 間 に 比 べ
の魅力の再発見と発信がある。神楽や踊り、
20%の減少にとどまっている。このまま推移
唄などの伝統芸能からビデオやコンテンポラ
すれば、5万人は達成できそうだ。屋外アー
リーダンス、食、花、おもてなしまで、市民
トとイベントは調査中であるが、おおむねよ
や地域が実施する70余の催しを助成する。教
い 数 字 で あ る。 市 外 か ら の 来 客 は、 県 外
育プロジェクト、フネプロジェクトなどの主
20 %、 県 内15 % で あ る。10、11、12月 はJR
催イベントもある。アートとイベントで大い
のデスティネーションキャンペーンが開催さ
に賑わい、人を呼ぶのだ。
れるので、県外からの来客が期待できる。
土日に実施したアートバスツアーが好評
○途中報告 来客順調で好評
来場者は35万人(屋外アート25万人 美術
館5万人 イベント5万人)、開催効果を約
で、9月からは金曜、月曜も走らせている。
アートは市民に大変評判がいい。特に子供が
面白がっている。小中学生には無料でパス
ポートを用意している。大人になったら、
27億円(屋外アート25万人×18.3%(新潟市
「あの変てこなの何だったんだろう」とでも
観光客県外比率)×県外観光客の消費額
思いだしてくれたら個人的に嬉しい。当たり
30,089円=13億7,657万円 屋外アート25万人
前だがアートの出来が一番肝心なことであ
×81.7%×県内観光客の消費額6,807円=13億
る。専門家の評価も高いようだ。アートの評
9,032万円)と見込んでいる。
判が新潟市の評判を高めてくれることを願っ
さて、実績だが、8月31日までの45日間で、
ている。
29
North East Think Tank of Japan No.67
地域トピックス
函館開港150周年記念事業
∼「みなとまち函館」にとって記念すべき開港150周年∼
函館開港150周年記念事業実行委員会事務局
函館真景(函館中央図書館所蔵)
の下部組織である「函館開港150周年記念事
はじめに
業ワーキンググループ」に多くの市民の方々
函館は、今年、1859年(安
の参画を得ながら、先人たちが築いてきた歴
政6年)に横浜・長崎ととも
史や文化に触れ、まちのもつ資源や歴史を生
に我が国初の国際貿易港とし
か し な が ら、
て開港以来、150周年という節
目の年を迎えました。
「みなとまち
函館」を改め
この開港は、それまで鎖国
て世界や未来
政策によって海外との往来を制限してきた我
に向け、発信
が国に、人・物などのさまざまな交流をもた
する契機とし
らし、函館のみならず、現在の日本の礎を築
たいという基
くうえで大きな契機になりました。
本理念のも
また、開港150周年は、海を中心としてみ
と、記念事業
なととともに歩みを進めてきた函館にとって
の取り組みを
記念すべき年となります。
進めてきまし
た。
全市を挙げた取り組み
開港150周年を迎えるにあたり、平成19年
11月に市内の各界各層からなる「函館開港
150周年記念事業実行委員会」を設立し、そ
30
North East Think Tank of Japan No.67
記念事業の展開
記念事業として、前年の2008年(平成20年)
には、記念すべき年に向けて機運の向上を図
るため、シンボルマークやイメージポスター
水産のまち函館ならではの「HAKODATE
の制作、ウェブサイトの開設のほか、開港都
国際フィシャーマンズマーケット」や海と触
市(横浜・長崎・新潟・神戸)と連携し、プ
れ合うマリンスポーツ体験のほか、音楽団体
レイベント開港5都市「麺フェスタ」などを
などによるステージイベント、開港の歴史を
開催しました。
学ぶコーナーなど、函館の特性を生かした、
また、今年に入ってからは、記念すべき年
さまざまなイベントやアトラクションが展開
を迎えた市内各所に懸垂幕やフラッグなどを
され、夏休み期間中の親子づれやお盆で帰省
掲出し、まち全体の雰囲気づくりにも努めて
していた方など13万人を超えるみなさまにご
きました。
来場いただき、盛況のうちにフィナーレを迎
開港記念日の7月1日には、記念式典を挙
行し、函館の未来を考えるという内容の市民
えることができました。
このメイン事業を通じて、市民をはじめ、
劇のほか、多くの方々から寄せられた函館に
多くの方々に函館の魅力を再認識、再確認し
対する想いなどの「詞(ことば)
」を紡いで
ていただけたのではないかと考えています。
つくられた「アニバーサリー・ソング」の披
露などによって、ご来賓の方々をはじめ、多
くのみなさまのご臨席のもと、開港150周年
をお祝いさせていただきました。
緑の島を夢のある島に
函館が最もにぎわいをみせる「港まつり」
終了後の8月8日から8月16日の間、函館港
のシンボル的な存在で、港内を一望できる
「緑の島」において、会場を「夢のたくさん
詰まった箱にしようという想い」と「夢のあ
るハコダテにしたい」という願いが込められ
おわりに
たメイン事業「DREAM BOX 150」(ドリー
本年中は、函館開港150周年記念の冠を付
ム ボックス イチ・ゴー・マル)を「食」
、
「音
したさまざまな事業が展開されますが、この
楽」、「スポーツ」の3つのキーワードをもと
記念事業を推進するにあたっては、多くの市
に開催しました。
民の方々に事業の企画・運営に携わっていた
だいたほか、市民や団体、企業から多大なご
支援をいただきました。
このように、市民と行政が一丸となって記
念事業を実現できたことで、「市民協働」の
ひとつの型の提案に繋がりました。この実践
例がこれからの函館にとって、貴重な財産に
なっていくことでしょう。
また、記念事業の基本理念である、まちのも
つ資源や特性を生かしながら、
「みなとまち函
館」を改めて世界や未来に向け、発信するひと
つの契機になったのではないかと感じています。
31
North East Think Tank of Japan No.67
地域調査研究
「人口減少地域における地域・
社会資本マネジメントに関する研究」について
国土交通政策研究所 前研究調整官 松 野 栄 明
研究調整官 七 澤 利 明
研究官 貴 田 勝太郎
1.はじめに
空知旧産炭地域は、明治時代より、国内有数
の産炭地域としてわが国のエネルギー供給に大
現在、わが国は本格的な人口減少局面を迎
きく貢献し、わが国の近代化や高度経済成長を
えている。2005年には戦後初の人口減少を経
支えてきた。しかし、わが国のエネルギー源の
験した。同年の国勢調査では、2000年に比べ
石油燃料への転換や安い海外炭との競争など
僅かに人口増加だったが、全国2,217市町村
を理由に、1960年後半から多くの炭鉱が閉山を
の7割強で人口が減少した。2010年国勢調査
余儀なくされた。こうした中、石炭産業に代わ
時にはこの傾向はさらに増すものと予想され
る産業の育成が進まなかったことなどにより、
る。すでに人口減少が進行している地域にお
人口流出や税収減が進んでいる(図1)
。臨時
いては、社会資本・公共サービスの水準の維
石炭鉱害復旧法が2001年度末に失効するなど、
持や住民の生活、特に買い物や通院に関する
石炭政策に係る財政支援が削減されたことも
利便性など、QOL(生活の質)の維持が困
財政悪化に影響した。地域の衰退は深刻度を
難となってきている。
増しており、いわゆる「限界集落」や無住化地
本研究では、居住地域の再編など人口減少
域、鉄道、道路の廃止が生じている(図2)
。
に対応した合理的な地域・社会資本マネジメ
ント方策について、その進め方や効果、課題
等に関する調査を行った。ここでは、急激に
(1)社会資本の維持管理上の課題に関する
自治体ヒアリング
人口が減少している北海道の空知地方を対象
空知旧産炭地域では、近年の財政悪化や人
に行った、①地域・社会資本の再編に係る課
口減少を受けて、社会資本の維持管理のあり
題と効果に関する調査、②居住者の転居意向
方について見直しが検討され、サービスを受
に関する調査の結果を中心に紹介する。
ける側の住民ともサービス水準や維持管理水
準のあり方について話し合いが行われてい
2.わ が 国 の 人 口 減 少 地 域 に お け る 地
域・社会資本再編の課題と効果分析
人口減少や産業の衰退、財政の悪化といっ
る。こうした取り組みの状況と課題につい
て、自治体へのヒアリングを行った。把握し
た主な点を以下に示す。
・道路や住宅の維持、修繕業務については、
た地域の問題や、社会資本の維持管理に関す
優先順位を決め重点的に実施するなどの取
る問題が他の人口減少地域よりも比較的早く、
り組みが行われている。また、住民ボラン
明確に表出してきた北海道の空知地方の旧産
ティア等も活用し維持管理を行うケースも
炭地域(夕張市、芦別市、赤平市、三笠市、
多くみられる。
歌志内市、上砂川町の5市1町。以下、「空
知旧産炭地域」と呼ぶ。
)を対象に調査を行った。
32
North East Think Tank of Japan No.67
・行政サービスの水準を見直すことについ
て、住民との合意形成が難航するケースも
図1 北海道空知地方旧産炭地域の人口推移(国勢調査より作成)
図2 夕張市大夕張炭鉱付近の状況(1968年、1992年)
※大夕張炭山までの三菱石炭鉱業大夕張鉄道線が消滅している(1987年廃線)
多く生じている。人口規模が小さく市域の
流出が加速するおそれもある。
狭い自治体で比較的合意形成が円滑に行わ
・社会資本の長寿命化は、長期的な視点から
れている例もみられるが、市町村合併が進
行政コストの縮減に寄与すると考えられる
められ広域化された自治体において、行政
が、財政状況が厳しい中、予防保全という
と住民との密接な関係をいかに維持してい
先行投資に対して財政部局の理解を得るこ
くかが課題である。
とが困難との意見が多くみられた。また、
・人口の中心市街地への誘導・集約は、行政
サービスの効率化に寄与するが、集落・団
長寿命化に関する専門知識を持つ技術者が
不足していることも実施を困難にしている。
地の移転を進める際に、他の地域への人口
33
North East Think Tank of Japan No.67
地域調査研究
(2)地域再編による社会資本の維持管理費
等の比較
が必要になった場合」
、
「現在住んでいる地
区の道路の除排雪サービスが十分に行われ
人口減少に対応して居住地域をコンパクト
なくなった場合」で7割前後となるなど、
に再編した場合、将来、自治体が管理する社
条件によっては転居の意向が高い(図4)。
会資本の維持管理費がどの程度縮減できるか
・世帯タイプ別では、高齢者のみの世帯の方
について試算した。空知旧産炭地域のモデル
が「転居したいと思わない」との回答が多
自治体(夕張市、芦別市および歌志内市)を
い。一方で、条件の変化に伴う転居可能性
対象とし、下水道認可区域を集約化地区の
については、高齢者のみの世帯の方が転居
ベースとして仮定して、2039年を対象年とした。
意向が高い項目もある。特に、健康状態が
居住人口は、1kmメッシュのコーホート
悪化した場合には、高齢者のみの世帯の8
推計により試算した結果、現在より約6割の
割近くが転居の意向を示した。
減少となった。居住地は、下水道認可区域を
・バス停の有無との関係では、現時点での転
ベースとした極端な集約化を想定し、約6割
居の意向が「バス停あり」で6割弱、「バ
減少させている。一方で、公共施設、道路、
ス停なし」で3割強と、大きな差を示して
上下水道等の社会資本の維持管理費の縮減率
いる。公共交通の廃止等に伴い転居意向が
は現状の2∼3割程度にとどまり、社会資本
増加する可能性が示唆される(図3)。
維持管理費の縮減効果は人口減少の割合ほど
にはならない結果となった。
このことから、将来の人口減少を見据えた
4.まとめ
行政コストの縮減方策として、居住地区を限
本研究では、人口減少地域における地域・
定する地域再編により維持管理費等を縮減さ
社会資本再編のあり方について調査を行った。
せる取り組みだけでなく、地域の活性化や自
地域が抱える課題を抜本的に解決する策は見
治体の財政基盤の強化のための施策を同時に
当たらないものの、地域の実情に応じた適切な
行うことの必要性が示唆される。
マネジメントが重要であり、地域再編はその鍵
となる可能性がある。本研究で居住環境の悪
3.人口減少・高齢化が著しい地区住民
の居住選好調査
化が移転を促すことが明らかとなったが、地域
再編は単に行政効率の向上だけでなく、地域
のQOLを維持し住民の生活を守ること、また
居住地域の再編に際しては、住民の住み替
それにより地域からの人口流出を抑止するとい
え意志が大きなポイントとなる。ここでは、
う観点からの選択肢として考える必要がある。
空知旧産炭地域の公的住宅および民間住宅の
こうした地域再編を進める際には、住民と
居住者を対象に、住み替えを考える契機とな
行政側が一体となって検討し、地区の意向が
る地域の状況と住み替え後の望ましい地域の
醸成されることが望ましい。また、規模の小
姿等に関するアンケート調査を実施した。配
さな自治体では人員や予算に制約があるため、
布数は1,200世帯、回収率は23.3%である。
技術的な支援等について配慮する必要がある。
調査結果の例を以下に示す。なお、ここで
最後に、本研究の実施に際し多くの貴重な
は60歳以上を高齢者としている。
ご助言、資料の提供等をいただいた瀬戸口剛
・現時点では「転居したいと思わない」との
北海道大学大学院工学研究科准教授、高野伸
回答が全体の6割近くを占めた(図3)
。
栄北海道大学大学院工学研究科准教授、北海
・将来の転居可能性については、「健康状態
道および関係市町のみなさまに、心より感謝
が悪くなったり、身体能力が低下して介護
34
North East Think Tank of Japan No.67
の意を表します。
図3 現在の転居の予定・希望
図4 条件の変化に伴う転居の可能性
※本稿で紹介した調査研究の報告書については、国土交通政策研究所ホームページからダウンロードできますので、併
せてご参照ください。(http://www.mlit.go.jp/pri/)
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North East Think Tank of Japan No.67
歴史浪漫シリーズ
古代蝦夷を考える
福島大学 名誉教授(前東北歴史博物館館長) 工 藤 雅 樹
蝦夷アイヌ説と蝦夷日本人説
のである。戦後もある時期までは、東北地
方、とくに東北北部の稲作のはじまりは平安
学界では古代蝦夷について、蝦夷アイヌ説
時代以後だとされていた。平安時代初期に坂
と蝦夷辺民説というふたつの考えが並び立っ
上田村麻呂や文室綿麻呂による征夷が行われ
ている。蝦夷アイヌ説は、文字通りに蝦夷は
た結果、東北北部まで朝廷の支配が及ぶよう
アイヌにほかならないという考えで、明治・
になり、日本人の移民が東北北部まで入り込
大正時代以来の伝統ある学説である。これに
み、彼等が稲作を東北北部にもたらしたとい
対して蝦夷辺民説は、第二次大戦以後の考古
う考えからである。しかし戦後の考古学研究
学・人類学や歴史学などの発達にともなって
は、西暦紀元以前の弥生時代に相当する時期
唱えられるようになった新しい考えで、『日
に、東北北部でも水田稲作が行われていたこ
本書紀』などの古文献では、蝦夷は未開な異
とを明らかにした。また奈良・平安時代の古
民族のように記されているが、蝦夷といえど
代蝦夷の集落の発掘調査の結果でも、彼等が
も農耕民であり、その実態は辺境に住む日本
稲作を行っていたことは実証されている。水
人(辺民)にほかならないという。したがっ
田稲作は日本文化の基礎であるから、稲作を
て、蝦夷辺民説はその内容に即して蝦夷日本
行っていた古代蝦夷は日本人にほかならない
人説と言いかえることができる。
ということになる。
蝦夷日本人説の主要な根拠は次のようなも
一方、蝦夷アイヌ説は次のようなもので
青森県南津軽郡田舎館村垂柳遺跡調査時(昭和33年)の伊東信雄氏
津軽平野の南部に位置する垂柳遺跡では、昭和33年の発掘調査で多数の炭化米が発掘され、昭和
57・58年の発掘調査で西暦紀元前の水田跡が発見され、東北北部でも早くから水田稲作が行われ
ていたことが確認され、伊東信雄氏はこれを蝦夷日本人説の重要な証拠とした。
36
North East Think Tank of Japan No.67
あった。太古の石器時代には日本列島の住民
はアイヌだったが、日本人の先祖が大陸から
日本列島に渡来して先住の民を追い、アイヌ
は徐々に北に退き、ついには北海道とその周
辺のみに住むようになった。アイヌが北進す
る過程で、全国各地にその足跡を残した。そ
れが、縄文土器などである。このように、蝦
夷アイヌ説は石器時代人アイヌ説にほかなら
ない。この説は、大正から昭和初期に喜田貞
吉や鳥居 龍 蔵によって力説され、ある時期
には国民的常識でさえあった。
ただしこの説は、天 孫 降 臨・神 武 東 征・
日 本 武 尊の話などの神話や物語を、日本人
の祖先が大陸から渡来して先住の人々を征服
した歴史を語ったものであるという解釈や、
縄文文化をアイヌの文化とみなすなど、現在
青森市久栗坂遺跡の甕棺を調査する喜田貞吉氏(昭和8年)
喜田貞吉氏は蝦夷アイヌ説を堅持した。
の学界ではほとんど支持されることがない考
えを前提としており、少なくとも明治・大正
いることであった。北海道のアイヌ語にもと
時代のままの形での成立は困難である。これ
づく地名の過半をしめるのが、語尾にナイ
に対して蝦夷日本人説は、確実な考古学上の
(沢)またはベッ(川)という語がつくもの
証拠をふまえているとみなされ、多くの専門
で、稚内や幌別はその好例であり、ワッカは
家によって支持されてきたのである。
アイヌ語では水という意味なので、日本語訳
では、ワッカ・ナイは「水沢」、ホロは大き
アイヌ語地名とマタギ言葉
いという意味であるからホロ・ベツは「大
川」ということになる。
とはいうものの、蝦夷アイヌ説があげてい
東北地方、とくに東北北部にはこれと同形
る根拠がすべて否定されているわけではな
の地名が数多く存在する。かつて金田一京助
い。蝦夷アイヌ説の主要な根拠のひとつが、
は、地名に関して津軽海峡は異なる世界の境
東北地方にも北海道のアイヌ語にもとづく地
界線ではないという趣旨のことを述べている
名と同じタイプの地名が色濃く存在すること
が、東北北部の青森県・岩手県・秋田県を旅
や、マタギ言葉のなかにアイヌ語が含まれて
していると、少なくとも地名に関しては、北
アイヌ語地名について話す山田秀三氏と『東北と北海道のアイヌ語地名考』(昭和32年)
37
North East Think Tank of Japan No.67
歴史浪漫シリーズ
海道を歩いているのとまったくかわらない。
そして東北地方南部にも、量的には東北北部
「エミシ」という語の本来の意味
ほどではないにしても、北海道のアイヌ語地
そこで視点を切り替え、
「蝦夷」という語
名と同形の地名が点在し、わずかではあるが
そのものの歴史を考えてみる。蝦夷という語
北関東や新潟県にも同じような地名が分布し
はふつう「エゾ」と読むが、古代には「蝦夷」
ているようである。
は「エミシ」と読んだ。
「エゾ」という読み
また、青森県から新潟県にいたる奥羽山脈
の出現は平安時代後期である。「エミシ」と
の山間で狩猟を営むマタギの人々が山に入っ
いう語は、もともと日本語の古語であり、こ
た際に用いるマタギ言葉(山言葉)のなかに
れに「蝦夷」という漢字をあてるようになっ
は、セタ(犬)
、サンベ(心臓)
、ワッカ(水)
たのは大化の改新のころで、それはエミシを
のように、アイヌ語と共通する単語が生きて
中国でいう「東夷」になぞらえるためであっ
いる。東北地方における北海道のアイヌ語地
た。
名と同形の地名の存在や、マタギ言葉の問題
「エミシ」という語のもっとも古い用例は
は、かつて東北地方にアイヌ語と同系の言語
『日本書紀』の神武天皇の条で、天皇が大和
が行われていたことを示す重要な証拠だと
の橿原で即位するに先立って磯城(大和の地
いってさしつかえなかろう。蝦夷日本人説の
名)の族長たちと戦った時、天皇の軍が歌っ
出現により、蝦夷アイヌ説の根拠が完全にく
たとされる歌のなかに見える。「エミシ」と
つがえされたわけではないのである。
は一人でも百人を相手にするほど強い人たち
だというが、実際に戦ってみるとそれほどで
蝦夷アイヌ説と蝦夷日本人説の対立と
は何であったか
はなかったという意味の歌で、自軍の強さと
その勝利を讃える内容である(
「えみしを 一 人 百 な 人 人 は 云 へ ど も 抵 抗 も せ
蝦夷アイヌ説と蝦夷日本人説の根拠に、そ
ず」
)
。この歌は『万葉集』に収められている
れぞれ否定できない事実がある以上、蝦夷ア
最古段階の歌よりも古い様式だといわれ、五
イヌ説と蝦夷日本人説は二者択一の学説だと
世紀から六世紀のもので、これが「神武紀」
見なすことはできないことになる。したがっ
に挿入されたのは、出陣や凱旋の雰囲気がよ
て、蝦夷アイヌ説または蝦夷日本人説のいず
くでているからであろう。この歌のなかの
れかの立場にたって、他方の説を論破すると
「エミシ」は、天皇に服従しない大和の豪族
いう方向では、蝦夷とは何かという問題に答
えることはできないのである。
をさしている。
景行天皇の皇子・日本武尊の物語では、天
現在の目でいえば、蝦夷日本人説は東北地
皇に服従しない蝦夷を討つ話が主要なテーマ
方の古代文化のなかの西日本的な要素を強調
となっているが、日本武尊の遠征先は主とし
した考えであり、東北地方の古代文化におけ
て中部・関東地方である。この段階の「エミ
る北日本的な部分を評価した説が蝦夷アイヌ
シ」は時には大和から派遣された軍と戦うこ
説であった、と評価することができそうであ
ともあった東国人をひろく意味していたこと
る。実際には、東北地方の古代文化には、西
がわかる。「エミシ」という語には、強い人
日本的な要素と北日本的な部分が共存してい
たち、恐るべき人々、それ故にいささか敬意
るのであるから、蝦夷はアイヌなのか、日本
をはらうべき人たちというニュアンスもこめ
人なのかという問いかけ自体が、現代的には
られていた。蘇我毛人など中央豪族に「エミ
意味を失いつつあるといっても過言ではない
シ」という名前の人物がいるのはそのためで
であろう。
ある。
38
North East Think Tank of Japan No.67
中尊寺落慶供養願文
藤原清衡が中尊寺内の主要な伽藍の落成に際し、造営の趣旨などを述べたもの。文中で清衡は自分を「俘囚の上頭」、「東夷の遠
囚」、すなわち蝦夷の大族長と位置づけている。
これらの用例から、
「エミシ」という語の
滅ぼすと、東北地方は鎌倉幕府の支配下に入
本来の意味は、天皇(朝廷)に従わない東方
ることになった。幕府は朝廷の委任を受けて
の人々、すなわち「まつろ(服)はぬ」人々
地域の支配を行うものであるから、この点を
ということであることがわかる。
「エミシ」
重視すれば、鎌倉時代になると本州北端まで
に「蝦夷」という漢字をあてるようになると、
が朝廷の支配に入ることになったと表現して
蔑視の意味が加わってくるが、それでも「ま
も誤りではない。しかしながらなお、津軽海
つろ(服)はぬ」人々という本来の意味が失
峡以北の地域は朝廷・幕府の支配の外にあり
われたわけではない。
続け、大局的にいえばこのような状態は、江
平泉藤原氏の初代・清衡は、実父・藤原経
戸時代までかわることはなかった。これを朝
清の姓を襲って藤原を名乗り、京都の藤原氏
廷や幕府の立場からすると、津軽海峡以北の
もそれを承認した。ところが清衡は、一方で
地域は「まつろ(服)わぬ民」の世界であり
は自ら「俘囚の上頭」「東夷の遠囚」
(中尊寺
続けたということになる。
落慶供養願文)と称し、北海道をも含む北の
古くは東国の「服わぬ民」を意味した「エ
世界の王であると自らを位置づけた。京都の
ミシ」「エゾ」が、平安時代後期から鎌倉時
貴族たちも、平泉藤原氏が藤原氏一門である
代になると、北海道方面のアイヌ民族または
ことを認めながらも、平泉藤原氏を蝦夷とみ
その祖先のみをさす語となるのは、このよう
なしている。平泉藤原氏が自他共に認める蝦
な理由による。したがって、この面から言っ
夷だったのは、平泉藤原氏が東北を支配下に
ても、
「エミシ」
「エゾ」はアイヌなのか日本
おさめ、京都の朝廷からなかば自立した存在
人なのかという議論は、あまり意味がなかっ
であり、京都の中央政権から見た時に、ある
たということになる。論点を絞りこんで言え
意味で「まつろ(服)わぬ」勢力であること
ば、
「エミシ」
「エゾ」は、人種あるいは文化
を平泉藤原氏自身も、京都の貴族たちも認め
の問題ではなく、帰属の問題だということに
ていたからにほかならない。
なるだろう。
津軽海峡以北の地域だけが蝦夷の地域
とされた理由
文治五(1189)年に源頼朝が平泉藤原氏を
〈参考文献〉
工藤雅樹『古代蝦夷』吉川弘文館、2000年
工藤雅樹『平泉藤原氏』無明舎出版、2009
年
39
North East Think Tank of Japan No.67
東京事務所発
自治体のシティセールス
室蘭市東京事務所
∼環境産業拠点都市を目指して∼
室蘭市東京事務所 所長 佐 賀 孝 志
室蘭のものづくりを支えてきた企業群
人口約96,000人の室蘭市は、北海道南西部
を受け、大規模な合理化を実施するなど、幾
の噴火湾に面し、市の南側は太平洋に突き出
多の困難にも直面してきました。しかし、企
た半島から形成されています。鉄のイメージ
業努力により産業構造の転換期を乗り越え
が強いまちですが、市内には、地球岬や白鳥
て、一昨年、日本製鋼所が、そして今年は、
大橋などの観光スポットがあり、また、室蘭
新日本製鐵室蘭製鐵所が、それぞれ操業から
を囲む海ではイルカ鯨ウオッチングが体験で
100年を迎えました。この間、各企業の発展
き、外海側に連なる断崖は、ハヤブサの生息
とともに、ものづくりの技術も100年に亘り
地となっています。さらに、市の北東には道
しっかりと継承され、本市はものづくりのま
内有数の観光地である登別温泉、そして北西
ちとしての基盤を築き上げました。
には昨年北海道洞爺湖サミットが開催された
洞爺湖温泉が近接するなど、豊かな自然に囲
まれています。
○ものづくり100年のあゆみ
本市の産業は、明治25年に天然の良港「室
○環境産業・新分野への展開
本市はいま、この集積された技術力や人材
をベースに、産学官民一体となり、環境産業
や新エネルギー分野の研究開発を進め、環境
貢献や地域活性化を目指しています。特に、
蘭港」から、石炭が積み出され飛躍を遂げま
室蘭工業大学や室蘭テクノセンターが中心と
す。明治後期には、日本製鋼所と現在の新日
なり、水素エネルギーの研究開発を行い、今
本製鐵室蘭製鐵所が操業を開始し、室蘭に工
秋、市内では、東京都市大学との連携により、
業の火が灯されました。昭和に入り、重厚長
排ガスを出さない水素燃料バスの走行試験を
大型の産業が形成されるなか、各企業は、高
実施します。また、安全性や環境汚染に課題
度経済成長期を経て発展を遂げましたが、一
のある廃船解体試験(シップリサイクル)も
方では、石油ショックや構造不況などの影響
市内埠頭で実施を予定するなど、まさに、造
40
North East Think Tank of Japan No.67
船や鉄鋼業が盛んな本市の特徴を生かした事
くと」が生産・販売している鉄のまちならで
業を展開しています。その他にも、風力発電
はのお土産です。室蘭にお越しの際は、ぜひ
や太陽光発電、燃料電池などの研究開発も進
お買い求めください。
められ、環境に優しい社会の構築を目指して
います。さらに、国家プロジェクトである
○東京事務所について
PCB廃棄物処理事業も全国で5番目の処理施
昭和47年に開設した東京事務所は、省庁や
設として、昨年から操業を開始するなど、環
関係国会議員からの情報収集、各種要望活動
境貢献に資する事業を展開していますが、こ
や企業誘致活動などの拠点として、その役割
うしたさまざまな取り組みは、まさにものづ
を果たしています。また、他の道内事務所と
くり100年の歴史に育まれた人材や技術力に
連携を図り、観光や地元物産のPRにも努めて
支えられているのです。
います。さらに、会員数約1,000名にのぼる
ふるさと会「東京室蘭会」とは、相互の情報
○室蘭の食文化
交換や応援・協力体制を確立させ、室蘭をふ
工業都市として発展し続けてきた室蘭市で
るさとに持つ首都圏在住者の心のよりどころ
すが、最近、マスコミでよく取り上げられる
ともなっています。現在、通信機器の発達や
のが、食の話題です。道内のみならず、全国
交通機能の利便性向上により、時代とともに
的にもすっかり知られるようになったのが
事務所の役割も変化していますが、今後も、
「室蘭やきとり」で、豚肉と玉ねぎを使用し、
フェイス・トゥ・フェイスによるネットワーク
洋がらしをつけて食べるのが特徴です。「や
形成や情報収集を財産に、首都圏における室
きとん」ではなく、地元ではもちろん「やき
蘭の総合窓口としての役割を担っていきます。
とり」と呼び、鉄のまちの労働者のエネル
ギー源として地域に根ざし、愛されてきた食
室蘭市東京事務所
べ物です。また、室蘭カレーラーメンは、市
内のラーメン店が結束し、室蘭カレーラーメ
ンの会を発足させ、札幌のみそ、旭川の醤油、
函館の塩に続く、北海道第4の味を目指し
PR活動を展開しています。
○鉄のまちのお土産「ボルタ」と「ナッティ」
ボルトとナットなどを組み合わせ、はんだ
付けした手作り人形がボルタとナッティ(女の
住所:〒102-0093 東京都千代田区平河町2-4-2
全国都市会館 7F
電話:03-3263-5484 FAX:03-3221-6725
子版ボルタ)です。5センチほどの小さな体
ですが、ユーモアたっぷりの表情や、しぐさ
が人気を呼んでいま
新宿通り
麹町駅
室蘭市東京事務所
す。 現 在100種 類 の
(全国都市会館7階)
ポーズをとるボルタ
ルポール麹町
ホテル
ニューオータニ
に加え、ナッティと
のカップルボルタが
日本都市センター会館
グランドプリンスホテル赤坂
赤坂見附駅
販売されています。
都道府県会館
永田町駅
赤坂エクセルホテル東急
まちづくり団体「て
つのまち・ぷろじぇ
半蔵門駅
全国町村会館
ダンスをするボルタとナッティ
41
North East Think Tank of Japan No.67
地域アングル
県人意識を探る
∼県人意識の地域差∼
ほくとう総研
1.県人意識
「おまえは○○県人だなぁー」と何気なく話題にする県人気質であるが、各都道府県でどれ
ほどの人が「県人意識」を抱いているのだろうか? NHK放送文化研究所「現代の県民気質─
全国県民意識調査」(1997年)の中に、1996年調査において「あなたは○○{都民・道民・府
民・県民}だという気持をおもちですか。
〔○○は住んでいる県〕
」という県人意識度を聞いた
調査結果がある。「はい」と回答した人は全国で68.7%と多くの人が県人意識を抱いているこ
とがわかる。
2.県人意識が高い都道府県は?
統計的手法※で各都道府県と全国平均の回答率の差をみると(図表1参照)、北海道、東北、
北陸、山陰、南四国、南九州といった地域で県人意識が高い傾向が現れている。地方圏におけ
る県人意識の高さは地域アイデンティティの強さの現れとみられる。一方、東京都、大阪府と
いった大都市圏においても高い意識を有していることがわかる。地方圏だけではなく、人口流
動性の高い大都市圏でも県人意識が高いことは意外に感じられよう。
※統計的手法はNHK放送文化研究所「現代の県民気質─全国県民意識調査」
(1997年)参照。
3.県人意識の地域差はどうなるのか?
県人意識の地域差の要因には経済動向の変化に伴う人口移動率の高さ等が挙げられる。人口
移動率が低下する中、今後、大都市圏の県人意識が高まり、地方圏との地域差が縮まるのだろ
うか?我が国の経済動向の変化が地域の意識に変化をもたらす点で興味ある調査結果である。
全国平均より高い
全国平均と差なし
全国平均より低い
(出所)NHK放送文化研究所「現代の県民気
質─全国県民意識調査」(1997年)
よりほくとう総研作成
(注)NHK放送文化研究所「現代の県民気
質─全国県民意識調査」(1997年)
に掲載している「全国平均よりかな
り高い」
、「全国平均より高い」をま
とめて「全国平均より高い」、「全国
平均よりかなり低い」
、「全国平均よ
り低い」を「全国平均より低い」に
まとめて3区分で表示
図表1 各都道府県の全国平均との回答率の差
42
North East Think Tank of Japan No.67
CONTENTS
平成21年7月∼9月
No.67 2009 Autumn
ほくとう総研のおもな出来事、活動内容についてご紹介します。
特集:地域における雇用の創出
「NETT(North East Think Tank)」のバンクナンバー
■羅針盤
59号 特集『大学による地域振興』
・地方都市のまちなか再考
大阪市立大学大学院創造都市研究科 教授 矢作 弘 ............................................................................................
1
■特集対談
・地域における雇用創出を考える ∼業種を越えた複業と連携が自立的産業と雇用を生み出す∼
慶應義塾大学理工学部 教授 米田 雅子 氏
聞き手 ほくとう総研 専務理事 桑山 渉 ..............................................................................................................
2
11
・外国人・長期滞在観光客向け人材育成による雇用創出 ∼富良野広域圏経済活性化協議会∼
15
・「しごと感動・創造都市」∼地域資源を生かした観光振興による雇用の創出
∼十和田市雇用創造推進協議会∼
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
63号 特集『「食」と「農」のブランド化と地域振興』
64号 特集『地域のグローバル戦略』
・地域における雇用の現状 ∼雇用構造の変化と雇用創出の新たな方向性∼
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
61号 特集『北海道・東北地域のグローバルな自動車産業集積』
62号 特集『観光の新潮流∼地域資源を活かした取組∼』
■特集寄稿
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
60号 特集『北海道洞爺湖サミット特集∼地球環境とエネルギー問題を考える∼』
65号 特集『地域活性化戦略』
66号 特集『地域のデザインする力』
直近のバックナンバーは、ほくとう総研ホームページ(http://www.nett.or.jp)で御覧いただけます。
18
・地域と共に歩む ∼社会的利益と企業利益の一致を目指して∼
北日本精機株式会社 取締役総務部長 新屋敷 聡 .................................................................................................
21
・社会の問題点を解決する∼農業分野における雇用創造の取り組み∼
∼パソナグループ∼
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
24
■地域トピックス
・水と土の芸術祭 ∼新潟市を世界に向けて発信する∼
新潟市文化観光・スポーツ部 交流推進課 課長補佐 五十嵐政人 ......................................................................
世界同時不況に対する世界的な景気対策が功を奏し、生産面では明るい兆しも見え
27
・函館開港150周年記念事業 ∼「みなとまち函館」にとって記念すべき開港150周年∼
函館開港150周年記念事業実行委員会事務局 ...............................................................................................................
30
■地域調査研究
始めている。しかし、雇用情勢は非常に厳しく、有効求人倍率(季節調整値)は過去
最低を記録している。地方は雇用構造の変化もあってさらに厳しく、世界同時不況に
突入する以前の好景気下でも「実感のない好景気」といわれたことがうなずける。こ
のような厳しい雇用情勢下において、各地域は本号に掲載したように雇用創出に向け
・「人口減少地域における地域・社会資本マネジメントに関する研究」について
国土交通政策研究所 前研究調整官 松野 栄明
研究調整官 七澤 利明
研究官 貴田勝太郎 .....................................................................................................
編集
後記
た各種の取り組みを行っている。これらの取り組みに共通してみられることは「人への投資」である。
いままでの景気対策では「モノへの投資」
(公共工事等のインフラ)による雇用創出が一般的であった。
32
地域資源を活用した雇用創出への取り組みでは、
「地域に住んでいる人」も地域資源として活用し、「人
■歴史浪漫シリーズ
へ投資」を通した雇用創出が目指されている。地域活性化や地域づくりの基本は「人づくり」にあるこ
・古代蝦夷を考える
とを改めて認識した。
福島大学 名誉教授(前東北歴史博物館館長)
工藤 雅樹 ...................................................................................
36
■東京事務所発 自治体のシティセールス
◆本誌へのご意見、ご要望、ご寄稿をお待ちしております。
・室蘭市東京事務所
「∼環境産業拠点都市を目指して∼」
室蘭市東京事務所 所長 佐賀 孝志 ........................................................................................................................
40
■地域アングル
・県人意識を探る ∼県人意識の地域差∼
ほくとう総研 ......................................................................................................................................................................
HOKUTOU DIARY/編集後記
(R. T.)
42
本誌に関するお問い合わせ、ご意見ご要望がございまし
たら、下記までお気軽にお寄せ下さい。
また、ご寄稿も歓迎いたします。内容は地域経済社会に
関するテーマであれば、何でも結構です。詳細につきまし
てはお問い合わせ下さい(採用の場合、当財団の規定に基
づき薄謝進呈)。
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3丁目3番地4 駿河台セントビル
ほくとう総研総務部 NETT編集部
TEL.03-5217-2441 FAX.03-5217-2443
財団法人 北海道東北地域経済総合研究所機関誌
NETT
No.67 2009 Autumn
編集・発行人◆桑山 渉
発行
(財)北海道東北地域経済総合研究所
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3丁目3番地4 駿河台セントビル
TEL.03-5217-2441 FAX.03-5217-2443
Home Page http://www.nett.or.jp/
禁無断転載
North East Think Tank of Japan
No.
67
2009
Autumn
特集
地域における雇用の創出
CONTENTS
■羅針盤
・地方都市のまちなか再考
(大阪市立大学大学院創造都市研究科 教授 矢作 弘)
■特集対談
North East Think Tank of Japan
・地域における雇用創出を考える
∼業種を越えた複業と連携が自立的産業と雇用を生み出す∼
(慶應義塾大学理工学部 教授 米田 雅子 氏)
■特集寄稿
・地域における雇用の現状
∼雇用構造の変化と雇用創出の新たな方向性∼
・外国人・長期滞在観光客向け人材育成による雇用創出
∼富良野広域圏経済活性化協議会∼
・
「しごと感動・創造都市」∼地域資源を生かした観光振興
による雇用の創出 ∼十和田市雇用創造推進協議会∼
・地域と共に歩む
∼社会的利益と企業利益の一致を目指して∼
・社会の問題点を解決する∼農業分野における雇用創造
の取り組み∼ ∼パソナグループ∼
財団
法人
北海道東北地域経済総合研究所
■地域トピックス
・水と土の芸術祭 ∼新潟市を世界に向けて発信する∼
・函館開港150周年記念事業
∼「みなとまち函館」にとって記念すべき開港150周年∼
■地域調査研究
・「人口減少地域における地域・社会資本マネジメント
に関する研究」について
■歴史浪漫シリーズ
北海
(室
道室
蘭港
・古代蝦夷を考える
福島大学 名誉教授 工藤 雅樹 氏
蘭市
をま
たぐ
白鳥
大橋
)
Aut
umn
■東京事務所発 自治体のシティセールス
・室蘭市東京事務所「∼環境産業拠点都市を目指して∼」
■地域アングル
・県人意識を探る ∼県人意識の地域差∼
ほくとう総研