「彩の子ネットワーク」における取組……(P8~12)[PDF:448KB]

◆児童虐待の防止に向けて ケース2
母親たちが「ネットワーク」
をつくり、
児童虐待を予防する
埼玉県
母親たちがNPO法人を設立し、地域で母親たちのネットワークを構築しながら、虐待
発生の予防となる活動をしている。
子どもとの関係、親や夫との関係、
自分自身の生き方などについて、母親たちは、
さ
まざまな思いを抱えているが、共に話せる仲間がいれば、
自分なりの道を探していける。
埼玉県で、母親たちの出会いの場を作り、地域と親がかかわる多様な活動を実施す
ることで、
虐待予防を実現している
「NPO法人彩の子ネットワーク」
の取組を紹介する。
す ずき
れ い こ
「NPO法人彩の子ネットワーク」の副理事長で、
さまざまな活動の企画・運営をされてきた鈴木玲子さんと、
「 彩の子ネッ
きりはら
ようこ
トワーク」理事で、
「 上尾市つどいの広場あそぼうよ」施設長の桐原陽子さんにお話を伺いました。
(左から)
副理事長 鈴木玲子さん、
理事 桐原陽子さん
NPO法人彩の子ネットワーク
対象としています。
アンケート分析中の母親たち
活動には、例えば、
「子育てサロン」
――「NPO法人彩の子ネットワーク」
しています。
や、
「 子育て支援センター」、
「 赤ちゃ
は、虐待問題のある親子だけではなく、
このため活動は、虐待問題のある
んサロン」、
「 横並び型アクションリサ
すべての親子を対象として活動して
親子だけではなく、すべての親子を
ーチ
(アンケート調査)」
などがあります。
いるそうですが、
それはどのような活
動かお聞かせください。
「NPO法人彩の子ネットワーク
(以
下「彩の子ネット」
という)」
は、子育て
中の母親からの呼びかけで、
さまざま
な人とネットワーク化し、子育てから
一生にわたり
「お互いを支えあう地域
NPO法人彩の子ネットワーク
(彩の子ネット)
●NPO法人彩の子ネットワーク設立経緯
・1995年:子育て中の母親が集まり、子育てや、
やりたいことに関する勉強会を開始
・1999年:
「任意団体 彩の国さいたま子育てネットワーク」
を発足
・2002年:
「NPO法人彩の子ネットワーク」
を設立
●人員体制:理事14名、運営委員26人で企画運営。活動によって、別途スタッフ有り
●会員数(2009年1月現在)
個人146名、団体24(参加社総数約2400名)
社会」
をつくることを目標として活動
8
――「子育てサロン」
とはどのような
「彩の子ネットワーク」の活動概要
活動ですか。
母親たちが、子育ての喜びや
葛藤を語り合う
「子育てサロン」
では、母親が集まり、
子育てサロン
さいたま市子育て支援
センター「さいのこ」
子育ての中で感じたうれしいこと、楽
しいこと、悲しいこと、つらいことなど
上尾市つどいの広場
「あそぼうよ」
について、語り合います。 「お互いの話は尊重する」、
「 話を
したくない時は、聞いているだけでも
いい」、
「ここで話したこと、聞いたこと
は外に持ち出さない」の3つをルール
・ 母親たちが子育ての喜びや葛藤を語る
・「さいのこ」、
「あそぼうよ」
などで実施
・さいたま市の補助事業で、
「彩の子ネット」
が運営
・ 親子が仲間づくりをできる施設
・ 上尾市委託事業で、
「彩の子ネット」
が運営
・ 親子が仲間づくりをできる施設。
「とーくるーむ
『どんぐ
り』
」
を2009年から開始
・ 埼玉トヨペット
(株)の地域活動で、
「彩の子ネット」が運営
赤ちゃんのための
赤ちゃんサロン
「ベビコミ」 ・ 赤ちゃん親子が仲間づくりをする場
横並び型アクション
リサーチ
(アンケート)
・「虐待防止」、
「子育ての意識」
などに関するアンケート
調査を実施
とし、
自己紹介として各自が自分のこ
とを話します。
「子育てサロン」
で話をしたり聞くこ
セミナー、
イベントの開催、 ・ 5,000人を集客するイベントや、高校生の保育体験
高校生の保育体験 等
等を企画・運営
とで、
自分だけが思っていることでは
なかったという共感を得たり、違う考
常連の方がなって、子育てサロンの
も申し込めば参加できます。
え方にも触れることで、本当はどうし
場を支えます。
子どもは、
ボランティアが行っている
保育サービスを受けることもできますし、
たらいいのかを考えるようになります。
「子育てサロン」は、月1回、2時間
――「子育てサロン」への参加の呼
/回で開催していますが、
1回当たり
びかけは、
どのようにしていますか。
約12人が参加しています。
「彩の子ネット」のスタッフも参加し、
参加の呼びかけは「チラシ」と
「口コミ」で
常連と新規の方が混ざって話をしま
すが、
ファシリテーター(進行役)
には
サロンの部屋にいることもできます。
――年齢の異なるお子さんの母親
同士では、話しにくいということはあ
りませんか。
「開催日」
や
「子育てサロンの概要」
を書いたチラシを作成し、
「 上尾市つ
どいの広場あそぼうよ
(以下「あそぼ
「子どもとの関係」
「
、夫との関係」、
「親との関係」、
「自分の生き方」
は、母親共通の関心事
うよ」
という)」や、
「さいたま市子育て
支援センターさいのこ
(以下
「さいのこ」
「子育てサロン」での話は、大きく
という)」
を運営している施設内や、
分けると、
「 赤ちゃんの育て方ノウハ
公民館、子育てサークルなどで配布
ウ
(例えば離乳食の作り方)」、
「 子ど
しています。
もとの関係」、
「 夫や親との関係」、
「自
また、
母親たちの
「口コミ」
分自身の生き方」
です。
で
「子育てサロン」
を知り、
「赤ちゃんの育て方ノウハウ」
以外は、
参加してくる方も少なくあ
子どもが大きくなっても、無くなること
りません。
はない話なので、
子どもの年齢によって、
参加者は、小さい子の
話がしにくいということはありません。
母親に限らず、高校生や
「子育てサロン」の参加者には、一
大学生の母親など、誰で
度来なくなっても、子どもが高校生ぐ
「子育てサロン」風景と参加者の感想
9
◆児童虐待の防止に向けて ケース2
らいになって再度参加している方も
――
「あそぼうよ」
では、
2009年から
「と
います。
そういった方は、例えば、子ど
ーくるーむ
『どんぐり』」
も始めたそう
もが育った時の自分の生き方などに
ですが、
どのような活動ですか。
ついて、話をしています。
――「あそぼうよ」や「さいのこ」
は、
ど
のような活動ですか。
親子が仲間をつくり、子育ての
疑問・不安を解消する
「子育てサロン」では話しきれ
ないこと語る場
「とーくるーむ『どんぐり』
( 以下「ど
んぐり」
という)」は、談話相談室のこ
とですが、
「子育てサロン」
の個人版で、
「あそぼうよ」や「彩の子ネット」のスタ
「あそぼうよ」は、母親がスタッフと
ッフが、利用者の母親の相談を受け
なり運営していますが、0歳から2歳
ます。
程度までの小さなお子さんのいる親
「子育てサロン」
は、一人だけが話
子が、仲間づくりができる場所とする
をする場ではないので、ゆっくり話し
ことを目指して運営しています。
たいことがある人に、
「どんぐり」
を紹
母親たちは、子どもを遊ばせながら、
介しています。
そこに来ている母親と
「子育て」
につ
相談を受けるスタッフも母親です
――活 動 や 運 営に当たり、他 の 機
いて話したり、他の親の育て方を見
ので、一緒に考えようという姿勢での
関などとの協力や連携はありますか。
たりしています。
これは、子育ての疑
談話相談室です。
問や不安の解消につながると思います。
また、
「あそぼうよ」
や
「さいのこ」
では、
「子育てサロン」
の他に、
「セミナー」
や、
虐待を抱える親子も参加し地
域で仲間をつくる
「妊娠中のお母さん向けのサロン」
な
ども開催しています。
「さいのこ」での母子の活動風景
「福祉医療機構」からの助成を
得て「子育てサロン」を埼玉県
全域に広げる
「彩の子ネット」
では、
1999年から
「子
児童虐待があると、児童相談所な
育てサロン」
を行っていますが、2000
どで、子どもの一時保護を行う場合
年に、埼玉県全域に「子育てサロン」
がありますが、
その子が家庭にもどっ
を広げる活動を行いました。
た時に、親子で上手く暮らすための
これは、独立行政法人福祉医療
支援が、
日本では遅れているそうです。
機構
(当時は
「社会福祉・医療事業団」
)
児童相談所の児童福祉司や、保
に提案し、助成を得て実施した「母
健センターの保健師などが、
そうした
親発・子ども虐待防止キャンペーン」
親子を見守ってはいますが、地域で
の一環で行いました。
暮らしていくためには、親子が仲間
「彩の子ネット」が、
それまで築いて
をつくれるようにすることも必要です。
いた埼玉県内の「子育てサークル」
「あそぼうよ」や「さいのこ」
では、仲
のネットワークを通じて、
埼玉各地で
「子
間をつくったり、周りの母親の子ども
育てサロン」
の開設を呼びかけました。
との接し方を見たりできますし、
「どん
希望する母親が3人いたら、町の
ぐり」や「子育てサロン」で話をするこ
事情などを考えながら、
「子育てサロン」
とで、
自分を振り返り、子どもとの関係
を立ち上げるお手伝いをしました。
を見直していけるようになってもらえ
母親と一緒に
「あそぼうよ」
に来て遊ぶ子どもたち
「あそぼうよ」
で遊ぶ子どもたち
たらと思っています。
10
「子育てサロン」の運営者が集
い 、悩 み や ストレ スにつ い て
語り合う
ぼうよ」や「さいのこ」
に行くように、紹
親を追いつめ、虐待につながることも
介してくることもあります。
少なくありません。
しかし、
アンケートの結果を通じて
――「彩の子ネット」が、
「 虐待防止」
社会の価値観を知れば、例えば、子
現在は、埼玉県内の「子育てサロ
や「子育て意識」
に関するアンケート
育てを妻に押し付けるような夫の発
ン運営者」
のための「子育てサロン研
調査を実施しているのはなぜですか。
言も、その言葉の社会的な背景を理
究会」
を開催しています。
こうした地域活動をすることに対
して、
「なぜそんなことを一生懸命や
るのか」
と家族とトラブルになったりす
解できるようになり、
ストレスを緩和す
母親の声を社会に伝えるとと
も に 、どのような 社 会 で 子 育
てをしているかを認識する
ることもできます。
「虐待防止」
に関するアンケートは、
主任児童委員、保健師、児童相談所
ることもあります。
アンケート調査は、子育て当事者
の職員などの専門家と一緒に作成し
「子育てサロン研究会」では、
この
の声を社会に伝えるのが目的ですが、
ましたので、家の中にいただけでは
ような「子育てサロン運営者」に起こ
「横並び型アクションリサーチ」
という
りがちな悩みやストレスについて、運
手法により、調査項目を、乳幼児を育
できました。
営者同士が語り合っています。
てている母親たちがお互いの気持ち
虐待は孤立した子育ての中で、生
を話し合うことにより作成しています。
まれる可能性が高いため、
こうした活
母親たちは、
アンケート調査を通じ
動が、虐待の予防につながると思い
て自分の気持ちを言葉にし、仲間を
ます。
――行政との連携はありますか。
活動は行政からの補助や委託
を受けて実施
出会うことがない方たちと話すことも
つくることもできますし、
自分はどのよ
うな社会の中で、子育てをしているか
――「虐待予防マニュアル」を作成
「彩の子ネット」
では、
自分たちが必
を認識することもできます。
したそうですが、
それはどのようなも
要だと思うことを行政などに企画・提
男性と女性、世代間に、子育てに
のですか。
案し、実施してきていますので、活動
関する意識のずれがあり、
これが母
を通じて行政と連携していると言えます。
母親の悩みや戸惑い
などの「生の声」をま
とめたもの
「あそぼうよ」
や
「さいのこ」
も行政から
の補助や委託を受けて実施しています。
2006年に「母親発−私
たちの虐待予防マニュアル」
「上尾市要保護対策連絡協議会」
に入り、保 健 師 や 児 童 相 談 所
と情報交換
というタイトルの本を発刊し
ました。
この本は、
「子育てサロン」
「上尾市要保護対策連絡協議会」
での会話を中心としてまと
のメンバーにも入っていますので、保
めたもので、
「 子育てはこう
健師や、児童相談所などとの情報交
するといい」
というマニュア
換を行っています。
ルではありません。
このマニ
「あそぼうよ」や「さいのこ」
に、気に
ュアルを読んで、
自分はどう
なる方がいる場合は、保健センターな
したらよいかを考えてもらう
どに相談することもあります。
きっかけとするために作成
反対に、保健センターなどが、友達
しました。
づくりが必要と考えた親子を、
「あそ
母親の悩みや戸惑いの
母親たちが作成したアンケート票の一部
11
◆児童虐待の防止に向けて ケース2
生の声をまとめていますので、子育て
――「赤ちゃんサロン」や「高校生の
行政の委託事業等もありますが、
に悩む母親から、多くの反響をいた
保育体験」を企画・運営されている
この活動が 必要だと支持する会員
だきました。
のも、虐待防止に関係していますか。
からの会費(1口1,500円)
を活動の
赤ちゃんにも
「意志があること」
を知ることが虐待予防になる
ベースとしており、多くの人々のボラ
ンティアの働きがあって成り立ってい
ます。
「赤ちゃんサロン」
は、
1歳未満の赤
ちゃん親子と、
1歳以上の赤ちゃん親
――今後、活動を行う上での課題は
子に分けて開催していますが、赤ち
ありますか。
ゃんにも
「意志があること」や、
「コミュ
母親発−私たちの
虐待予防マニュアル
ニケーション力があること」
を、母親が
多くの母親に、社会との接点を
持てる場を提供していきたい
発見していくことを目指しています。
その子自身がどうしたいかを知る
新聞記事や折込広告で、
アンケー
――虐待に関する多くの活動をされ
ことにより、赤ちゃんが泣いても、母親
トの分析者を募集したところ、20人近
ているのはなぜですか。
は落ち着いて対応することができ、虐
くの希望があり、あらためて、いろい
待予防になると思います。
ろな活動に関心を持っている母親が
虐 待 は 特 別 なことで は なく、
誰もが行う危険性があると考
えているため
多いと感じました。
「彩の子ネット」では、地域や企業
などを巻き込んだイベントなども行っ
多くの虐待は、母親が行っており、
ており、
こうした活動に参加することで、
誰もが虐待をしてしまう危険性があ
普通の母親でも、いろいろな人と出
ると考えているためです。
会い、社会とのつながりが持てると思
「彩の子ネット」が任意団体として
います。
発足する前に、埼玉県に提案して開
「赤ちゃんサロン」開催企業の社員と母子
催した「子育てシンポジウム」で、パネ
リストとなった母親が、
「 赤ちゃんが泣
きやまなかった時に、ベランダで子ど
高校の時の保育体験が、将来
の虐待予防になる
もを抱いている手を放してしまえばど
んなに楽かと思ったことがある」
とい
「高校生の保育体験」では、高校
う話をしました。
生に、
日ごろ接することがない小さな
パネリストの発言は、当時は母親
子どもとマンツーマンで接してもらうこ
失格と思われかねない時代でしたので、
ともありますが、
そうすることで、将来、
今後は、
さらに、
いろいろな活動の
公の場でそのようなことを発言する
親になった時の虐待の予防にもなる
場があることを、多くの母親に知らせ
のは初めてでしたが、多くの母親が
と思います。
ていきたいと思います。
感じました。
――このような活動の資金は、
どの
(本文に掲載の写真及び資料等は、
「NPO法人彩の子ネットワーク」提供)
このため、活動を虐待防止に特化
ようにして得ていますか。
共感し、虐待は特別なことではないと
することはしていませんが、虐待防止
は活動の大きな軸となっています。
地域で開催しているイベント風景
―平成21年1月取材―
問合せ先
多くの人々のボランティアの
意志により運営
12
◆NPO法人彩の子ネットワーク
http://www.sainoko.net/