東京医科歯科大学大学院医療政策情報学分野にて実施する研究についての開示 ○実施責任者氏名 医療政策情報学分野・教授 伏見 清秀 ○研究題目 診断群分類の精緻化とそれを用いた医療評価の方法論開発に関する研究 ○研究実施場所 東京医科歯科大学医療政策情報学分野研究室等 ○研究の意義と目的: DPC 包括評価において、DPC 調査データの分析に基づいて平成 22 年度から暫定的に医 療機関機能評価係数Ⅱが導入されたが、それらの指標の妥当性の評価とその他の指標に関 する検討が必要である。そこで本研究では、1)診断群分類の精緻化、2)診断群分類を 用いた医療評価の方法論機能評価係数の精緻化、3)診診断群分類を活用するための標準 的医療情報システムの確立、の3つの検討を行うことで、DPC に基づく包括評価制度の円 滑な運営に資するための基礎資料を作成することを目的とする。 ○研究方法: 本研究では厚生労働省の DPC 調査に参加している病院が厚生労働省に提出している連結 可能匿名化患者情報(傷病要約、レセプト情報)を、厚生労働省調査とは別に本研究への 参加を同意した医療施設と個人情報の守秘義務契約を結んだ上で収集する。データは機密 性、安全性の確保されたサーバーに保管する。DPC 調査データは、DPC を用いた医療費支 払い制度の対象となる医療機関が、厚労省に提出するデータと同一のもので、患者の年齢、 性別、診断名、治療内容、医療費等の情報を含む。本研究では診療録情報等の対象患者の 個人情報を用いることは無い。 研究遂行者は、各自の分析に必要なデータを匿名化された状況で切り出し、各研究者の 施設内で解析を行う。データは各研究者の施設内に保管し外部への持ち出しを禁止する。 なお、この際、各分担研究者は責任者(伏見)と守秘義務契約を結ぶ。 データを用いて診断群分類の精緻化、機能評価係数の決定方法の検討を行う。具体的に は厚生労働省の DPC 調査に参加している施設から、DPC 関連データ(様式 1、様式 3、D/E/F ファイル)を収集し、DPC の精緻化、診断群分類を用いた医療評価の方法論と機能評価係 数の精緻化、診断群分類を活用するための標準的医療情報システムの確立に関する分析を 行う。 ○平成 24 年度厚生労働科学研究費補助金(政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)) 研究計画についての開示 1.研究課題名:「診断群分類を用いた急性期医療、亜急性期医療、外来医療の評価手法開 発に関する研究」 2.研究期間:平成24年4月1日から平成25年3月31日まで 3.研究組織: 伏見清秀 東京医科歯科大学大学院(研究代表者) 石川ベンジャミン光一 国立がん研究センター(研究分担者) 今中雄一 京都大学医学研究科(研究分担者) 阿南 国立病院機構九州医療センター(研究分担者) 誠 康永秀生 東京大学大学院医学系研究科(研究分担者) 桑原一彰 九州大学大学院医学研究院(研究分担者) 藤森研司 北海道大学病院(研究分担者) 池田俊也 国際医療福祉大学(研究分担者) 松田晋哉 産業医科大学(研究分担者) 河口洋行 成城大学(研究分担者) 4.研究の概要: 診断群分類に基づく1日あたり定額報酬算定制度(DPC/PDPS)は、閣議決定 に基づき平成 15 年度から導入された急性期入院医療を対象とした診療報酬の包 括評価制度である。DPC/PDPS の対象病院は、平成 23 年 4 月 1 日現在で 1,459 病 院となり、全一般病床(約 91 万床)の過半数(約 47 万床)を占め、年間 3 兆円 を超える額が DPC/PDPS によって支払われるようになっており、本研究結果の医 療費に与える影響は非常に大きい。 診療報酬改定は 2 年毎に実施しており、改定時に導入された項目の評価や新た な調査項目の解析結果等を次期改定に反映する為には迅速な研究の遂行が求めら れる。そこで、本研究の目的を以下の3つとする。 ① 外来診療も含めた急性期入院医療機関における診療報酬評価手法の開発 ② DPC/PDPS(診断群分類に基づく1日あたり定額報酬算定制度)を前提とし た亜急性期入院医療に係る診療報酬評価手法の開発 ③ 地域医療計画策定に資する DPC/PDPS データセットのあり方と活用方策の開 発 ①については、これまで外来診療実績等を含めた診療機能の評価・診療報酬設定 手法は検討されておらず、早急な研究・開発の実施が求められている。高度急性 期入院医療にける診療形態が、入院前後の外来も含めた一連の診療提供に変化し つつあり、より一層の入院機能を重点的に評価する観点も含めた外来診療との一 体的な診療機能の評価手法の開発を行う。収集 DPC データに基づき、構造、プロ セス、アウトカムの視点からの医療評価手法の開発と外来機能の評価手法の開発 を行う。 ②については、急性期と慢性期をつなぐ亜急性期入院医療は、施設全体を評価す る体系が確立していない。それぞれの入院医療を施設単位で連携して体系化する 為に必要な施設類型毎の評価体系を構築するために、亜急性期病床等からのデー タ収集と諸外国の調査データに基づいて、急性期入院医療・慢性期入院医療との 接点も考慮した診療報酬設定手法の研究・開発を行う。 ③については、患者居住地情報を含む DPC データを活用することで、実態と地域 ニーズに即した地域医療計画の策定と医療体制の構築が求められており、具体的 な活用方策とともに、より効率的効果的な応用を可能とするような DPC/PDPS デ ータセットの在り方について評価・研究を行う。併せて、地理情報システム(GIS) を活用した地域医療の評価手法の開発を行う。 5.研究の目的 診断群分類に基づく1日あたり定額報酬算定制度(DPC/PDPS)は、閣議決定 に基づき平成 15 年度に 82 の特定機能病院導入された、急性期入院医療を対象と した診療報酬の包括評価制度である。以降、DPC/PDPS の対象病院は段階的に拡 大され、平成 23 年 4 月 1 日現在で 1,459 病院となり、全一般病床(約 91 万床) の過半数(約 47 万床)を占めるに至っており、医療費規模としても年間 3 兆円を 超える額が DPC/PDPS によって支払われるようになっており、本研究結果の医療 費に与える影響は非常に大きい。 診療報酬改定は 2 年毎に実施しており、改定時に導入された項目の評価や新た に初めた調査項目の解析結果等を次期改定に反映する為には迅速な研究の遂行が 求められる。そこで、本研究の目的を以下の3つとする。 ① 外来診療も含めた急性期入院医療機関における診療報酬評価手法の開発 ② DPC/PDPS(診断群分類に基づく1日あたり定額報酬算定制度)を前提とし た亜急性期入院医療に係る診療報酬評価手法の開発 ③ 地域医療計画策定に資する DPC/PDPS データセットのあり方と活用方策の開 発 本研究で提示する研究目的は、いずれも平成 26 年診療報酬改定に向けて検討を進 めなければならない喫緊の課題であり、緊急性は高い。 本研究の目的の①及び③は平成 24 年診療報酬改定に向けた中医協の議論の中で、 今後の検討課題とされているものである。②は、平成 15 年からの急性期及び慢性 期入院医療の報酬体系が安定してきたことから、保険局医療課として新たに中長 期戦略として取り組まねばならない課題となっている。 ①については、入院機能を重点的に評価する観点も含めた外来診療との一体的な 診療機能の評価が必要とされているが、外来診療実績等を含めた診療機能の評 価・診療報酬設定手法はこれまで検討されていない。 ②については、亜急性期入院医療は、出来高報酬体系と包括報酬体系が複数並立 する状態で、代表する評価体系が確立していない。 ③については、平成 22 年度調査より、DPC データに患者居住地情報が整備され たことにより、より詳細な地域医療の実態把握(診療行動と受療行動といった定 量的な診療動態の分析)が可能となりつつあり、これらのデータを踏まえた地域 医療計画策定への具体的な活用方策とともに、より効率的効果的な応用を可能と するような DPC/PDPS データセットを開発する必要がある。 6.期待される成果 当該研究は平成 24 年度単年度研究であり、研究結果の一部は平成 26 年診療報 酬改定における DPC 制度の改定に反映される。また、DPC データは平成 25 年度 より試験的に利活用を進めていくことが内閣府 IT 戦略本部の新たな情報通信技術 戦略工程表に位置づけられており、特に③における方法論の開発は、将来的に都 道府県のデータに基づく医療計画策定を促進し、民間研究者による診療実態の調 査研究を進展させるなど周辺への波及効果が望まれる。亜急性期の報酬体系(②) については、研究結果を踏まえ中長期的に導入することを想定しての研究である。 「診断群分類の精緻化とそれを用いた医療評価の方法論開発に関する研究」(H22 −政策―指定 031)において既に研究班が組織されており、従来の課題(①診断群 分類の精緻化、②診断群分類を用いた医療評価の方法論機能評価係数の精緻化、 ③診断群分類を活用するための標準的医療情報システムの確立)の延長線上にあ る設定であることから単年度研究であっても十分に遂行可能と考えられる。しか し、本課題研究について取り組むためには、過去から蓄積されたデータや検証ノ ウハウが必要であり、新規の研究者では、迅速かつ的確な研究を行うことが不可 能である。 7.研究計画 以下の 3 種類のデータを用いて、研究を進める。 1. 厚生労働省 DPC 調査データ:各施設が厚生労働省に提出する DPC 関連 データ(様式 1、様式 3、D/E/F ファイル)について、個別に守秘義務契約を結ん だ上で収集し、分析資料とする。外来についても E/F ファイルを提出できる施設 については、それらも収集し分析対象とする。 2. 回復期リハビリテーション病棟入院患者、亜急性期病床入院患者につい ては、調査対象施設の関係者と協議のうえ上記調査に準ずる形で調査票及びレセ コン情報ファイルの仕様を定め、それを収集し、分析資料とする。 3. 臨床データ: 救急、周産期、医療計画に定める 4 疾病 5 事業への対応 状況などについては厚生労働省 DPC 調査データのみでは分析に必要な情報が足り ないため、個別に調査票を作成し、データを収集する。 分析方法 ① 外来診療も含めた急性期入院医療機関における診療報酬評価手法の開発 急性期入院医療を担う病院の中で、特に高度な入院医療を担う高度急性期病院 を別の施設体系として設定・評価することが内閣府・社会保障検討会議の集中検 討会議において示されている。これらの高度急性期入院医療にける診療形態が、 実態として、入院前後の外来も含めた一連の診療提供に変化しつつあり、入院機 能を重点的に評価する観点も含めた外来診療との一体的な診療機能の評価手法の 開発を行う。 収集された DPC データを用いて、平成 24 年度から設定される新たな病院評価係 数、基礎係数の妥当性を検証するとともに、構造、プロセス、アウトプット、ア ウトカム、人員基準などに基づく、他の評価手法の導入についても検討を加え、 将来的な機能評価係数拡充に向けた基礎資料を作成する(伏見、今中、康永、桑 原、池田)。また、収集する外来 EF ファイルを用いて、各病院の機能と外来での パフォーマンスの関連性の分析(石川、桑原、藤森)、入院 DPC ファイルと EF ファイルの連結分析による入院前後の外来診療の分析、外来化学療法の分析、外 来手術の分析を行う(桑原、石川) 。併せて、適正な診療報酬評価に必要となる様 式 1、DEF ファイル等のデータの正確性と信頼性を向上させるためのコーディン グのあり方を検討する(阿南)。 ② DPC/PDPS(診断群分類に基づく1日あたり定額報酬算定制度)を前提とし た亜急性期入院医療に係る診療報酬評価手法の開発 急性期入院医療と慢性期入院医療をつなぐ亜急性期入院医療は、施設全体を評 価する体系が確立していないため、急性期入院医療・慢性期入院医療との接点も 考慮した診療報酬設定手法の研究・開発を行う。 急性期以後の入院医療の適切な評価のための診断群分類の開発を、回復期リハビ リテーション病棟から収集するデータに基づき試行する(松田)。また、諸外国の 亜急性期を含めた医療の評価手法を調査し、分類および包括評価の方法論を検討 する(松田、伏見)。 ③ 地域医療計画策定に資する DPC/PDPS データセットのあり方と活用方策の開 発 患者居住地情報が整備され、詳細な地域医療の実態把握(診療行動と受療行動 といった定量的な診療動態の分析)が可能となっている DPC データを活用した、 地域ニーズに即した地域医療計画の策定とその実現による医療提供体制の構築に 向けて、より効率的効果的な活用を可能とするような DPC/PDPS データセットの 在り方について評価・研究を行う(松田、藤森)。 また、新しい機能係数では各病院の地域医療への貢献が評価されることから、そ の方法論の精緻化を、地図情報システム(GIS)を用いて行う(伏見、石川、桑原、 藤森)。 上記分析、検討について、平成 23 年度までの研究と同様に引き続き、保険局医療 課と定期的に1か月に1回程度の合同班会議を開催し、時期に応じた課題につい て意見交換・議論を行うと共に、進捗状況を確認しながら、研究を進める。 ○平成 24 年度∼平成 26 年度科学研究費基盤研究(C)研究計画についての開示 1.研究課題名:「大規模医療データベースを用いた国際比較可能な医療の質の評価指標の 開発と検証」 2.研究期間:平成24年4月1日から平成27年3月31日まで 3.研究組織: 伏見清秀 東京医科歯科大学大学院(研究代表者) 4.研究の目的 国民の医療の質への関心が高まり、医療の質の客観的な評価が求められている。 これに対して、急性期医療に関する医療業務データ(Administrative Data)を用い た臨床指標の分析などの医療評価の成功例が現れてきている。本研究では、我が 国の医療業務データを用いた医療の質の評価指標の開発と検証、我が国特有の疾 病構造に対応するための各種指標の改善、およびこれらを用いた医療評価の国際 比較の実現可能性の検証を目的とする。これらの研究により、医療業務データを 用いた医療評価が推進され、国際的に質の高い医療評価研究の発展と我が国の医 療の質の向上に結び付くことが期待される。 1.研究の学術的背景 医事訴訟の増加、インフォームド・コンセントやセカンド・オピニオンの普及な ど国民の医療の質に対する関心は増大している。一方、医療技術の進歩や人口構 造の高齢化による医療費増大を支えられない経済成長の停滞などにより医療の効 率化も強く求められている。このため医療の質と効率性を科学的に評価する研究 が社会的に必要とされている。 諸外国に比べて我が国でこのような医療研究があまり進展していない大きな原 因は、研究のソースとなるデータの欠如にあると考えられる。わが国では研究者 が利用できる大規模な医療データベースは存在しないため、医学会や研究者の関 係する医療施設から収集した比較的小規模なデータや厚生行政に関する限られた 分野のデータに基づく研究がほとんどであった。 一方、諸外国では患者登録、医療費支払い、厚生統計等のために収集されてい る Administrative Data(医療業務データ)を二次的用いた研究が盛んで、著しい 成果が挙げられている(Halfon et al. J Clin Epi 55:573,2002, Sundararajan et al. J Clin Epi 57:1288, 2004, Quan et al. Health Serv Res. 43:1424, 2008 等多数)。 医療業務データは、患者属性、診断名、診療内容、医療費等の限定された内容が 定型的に電子的に記録された比較的コンパクトなデータであるが、サンプル数が 非常に大きく、全国や各地域の代表性の高いデータである。また、研究者が独自 に収集するデータに比べて収集コストが低いことも特徴である。 このような状況のなか、わが国でも 2003 年からの急性期病院への DPC (Diagnosis Procedure Combination)診断群分類を用いた包括評価の導入によっ て、医療業務データとしての DPC 調査データを多くの病院が作成、登録するよう になっている。DPC 調査データは、患者属性、診断名、手術名等の基本データと 日々の診療明細がコード化されて電子的に記録された情報である。DPC 調査対象 病院は急性期病院の大部分を含んでいるため、我が国の急性期医療に関する診療 データが医療業務データとして網羅的に収集されるようになってきている。研究 代表者らは、約 1000 の急性期病院からこれらのデータを収集し、医療制度設計の ための分析を行うと共に、医療の質、大規模臨床研究等を進めている(Kuwabara, 2006; Kuwabara, 2007; Kuwabara,2008, Fushimi, BMC Health Services Research ,2007 など)。 近年は、これらのデータを用いた臨床指標に関する研究を進め、抗菌薬の使用 ガイドライン(Imai, 2011)、急性心筋梗塞の死亡率(Kuwabara, 2011)、リハビ リテーション(Takahashi, 2010)などに関する医療の質を進めてきている。これら の研究の進展と相まって、平成 22 年度には、国立病院機構における医療の質の評 価・公表等推進事業を共同して進め、医療業務データに基づく複数の臨床評価指 標を定めて個別病院の測定結果を公表するに至り、この手法の実地応用が始まっ ている。 2.何をどこまで明らかにするか わが国では医療業務データを活用した臨床評価が急速に拡充、発展している段 階であり、今後さらに高度かつ有益で学術的にも質の高い医療評価研究が期待さ れるが、そのためには多く開発されてきている臨床指標の検証が求められる。ま た、研究代表者らは国際共同研究で、我が国の医療業務データの質が国際的に遜 色のないこと、患者リスク調整など医療の質の評価に応用可能であることを示し てきている(Sundararajan, 2007;Quan, 2011)。しかし、我が国特有の疾病構造 等が医療評価と指標の妥当性に与える影響は検証が不十分である。 そこで本研究では、これらの既存研究を発展させて、DPC データ等の医療業務 データを用いた各指標の妥当性の検証を行い、医療評価研究への応用手法を明ら かとするとともに、我が国特有の疾病構造を補正した指標を開発することを目的 とする。 指標の妥当性の検証では、診療内容に関するプロセス指標と診療の成果に関す るアウトカム指標等を複数組み合わせて、相互関係を分析し、それらの妥当性を 検証すると共に、必要に応じて診療記録等を参照してデータの正確性を確認する こととする。 疾病構造等の国際比較と補正に関しては、諸外国で研究に用いられているデー タを対照に、研究代表者らが報告した、傷病名を Charlson 係数としてスコア化し てその死亡予測力を比較する手法(Sundararajan, 2007; Quan, 2011)を用いて、 我が国特有の疾病構造が指標に与える影響を統計的に解析して明かとする。 3.本研究の特色及び独創的な点及び予想される結果と意義 本研究は、従来多大な資源を要した医療疫学研究などの医療評価に対して、入 手が容易で大規模な医療業務データの解析手法を応用しようとする点が独創的で ある。代表者の厚生統計、医療業務データの解析実績は豊富であり、充分なデー タの蓄積を持ち、それらを活用出来ることも特色の一つである。さらに国際的な 比較を含めて、多くの医療評価指標を検証しようとする点も大きな特色である。 本研究により、医療業務データを用いた比較的簡便、低コストで実施しやすい 医療評価手法が明らかとなるとともに、その限界点が示され、従来の医療疫学研 究との優劣が示されることが予想される。また、国際比較に耐える医療評価の手 法が確立され、今後の臨床疫学研究の基盤となると予想される。 医療業務データを用いた医療評価手法の応用により、わが国の医療の質の評価 が進展することにより、適切な医療提供体制の構築と医療の質の向上につながる ことが期待される。また、国際比較可能な医療業務データを用いた大規模な医療 評価を、従来の医療疫学研究による詳細な評価に付加することにより、わが国の 臨床疫学研究の進展に大きく貢献する基礎を築くことが期待される。 5.研究計画 1000 程度の急性期病院から収集される年間 400∼500 万例の退院患者データか ら解析用大規模データベースを構築した上で、近年開発が進んでいる医療業務デ ータを情報源とする各種のプロセス指標、アウトカム指標を計測し、プロセスー アウトカム関係の分析、医療機関等の外的条件の関連性の分析、アウトカムー治 療ボリューム関連の検証を進めるとともに、経年変化を解析して指標の意義と妥 当性を検証し、指標に基づく医療の質の評価が医療機関の行動に与える影響を分 析する。また、副傷病等我が国特有の疾病構造が指標計測に与える影響を考慮し、 国際比較可能な指標を開発するために、傷病名、年齢等の情報を組み合わせて、 分析対象患者群の重症度等のリスクを調整する手法を検討し、我が国の傷病構造 を反映するリスク調整手法を開発する。 ○平成 24 年度 研究代表者らは、1000 程度の急性期病院から退院患者および外来患者のデータ を収集する仕組みを構築し、数年間にわたりデータベースを構築する実績を積ん できているので、その仕組みとデータ収集体制を用いて、各年度 1 回医療業務デ ータを収集しデータベースを構築する。収集するデータは、厚生労働省が定める DPC 診断群分類を用いた包括評価のための調査データの退院情報に関する様式 1 ファイル、診療明細情報に関する EF ファイルとする。これらのデータは連結不可 能匿名化されていて個人情報は含まれていない。 第一に、大規模医療業務データベースから各種評価指標を算出する手法を確立 する。既存研究(Takahashi, 2011; Imai-Kamata, 2011; Kuwabara, 2009)など により DPC 調査データから各種評価指標の導出可能性が示され、平成 22 年度に 研究代表者らが国立病院機構で実施した「医療の質・評価等公表推進事業」にお いて、同様に DPC 調査データから有効な評価指標が作成できることが示されてい る。これらの指標とともに複数の診療領域について指標を設計し、計算手法を検 討する。 対象患者は、様式 1 診療情報データより診断名、副傷病名、主たる手術等から 設定し、対象除外条件を様式 1 データおよび EF ファイルの個別診療行為より設定 する。ケースミックス補正に関しては、副傷病情報を中心に重症度に関連する人 工呼吸、中心静脈栄養、各種手術手技等を用いて手法を検討する。 プロセス指標については、主に EF ファイル等の診療行為明細データを用いる。具 体的には、選択された薬剤と投与時期、投与期間、実施された診療行為の実施時 期、実施期間等から既存の新郎ガイドライン等を参考に作成する。評価の有効性 が示された指標としては、術後の抗菌薬の選択と投与期間、術後のリハビリテー ションの開始時期、肺梗塞、褥瘡等の予防処置の実施などがあり、これらを参考 に指標作成範囲の拡大を行う。 アウトカム指標については、様式 1 傷病名情報と EF ファイル診療行為情報に基づ く合併症の検出、院内死亡、退院後再入院等を候補とする。さらに術後 30 日、90 日等の死亡率に関しては、外来患者 EF ファイルデータを用いて、再入院と外来受 診を生存シグナルとする生存曲線解析を行う。 ついで、これらの指標の相互関係と外的医療機関情報等との関連性を解析し、 指標の妥当性を検証する。同一病態に関するプロセス指標とアウトカム指標の関 連を分析することにより、アウトカムに影響を与えるプロセスを抽出し、有用性 実用性の高いプロセス指標を作成していく。病院規模、職員数、手術手技集積状 況等の外的条件と各種指標の関連性の分析から、医療の質に影響を与える条件を 検討するとともに、医療の質の差異を的確に高感度で反映する評価指標の候補を 検出していく。 さらに、研究代表者らの国際共同研究で報告した方法(Sundararajan,2007; Quan, 2011)に準じて、傷病名情報と診療プロセス情報のアウトカム予測力を、 多重ロジスティック解析とC統計値を用いて検討する。諸外国とわが国の傷病構 造の違いを考慮して、分析に用いるデータと統計的予測力の視点から、我が国の 医療評価に適したケースミックス補正手法とアウトカム予測方法を明らかとする。 ○平成 25 年度以降 初年度に作成した各種評価指標を次年度以降あらたに収集したデータを用いて、 その再現可能性、検出感度を検証するとともに、指標の改善と新たな指標の開発 を進める。 さらに、これらの評価指標の分析結果の公表が医療の質に与える影響を、疑似 介入モデルとして検討する。平成 22 年度以降、国立病院機構等多くの医療機関が 独自に各種医療評価指標を計測し、個別病院の計測結果を公表している。これは、 擬似的に各種病院が医療評価指標の結果を公表する介入をされていると捉えるこ とができるので、レトロスペクティブ・コホートを構築して、評価結果公表の「介 入群」と「非介入群」における診療行動の変化を、本研究で開発したプロセス指 標、アウトカム指標の変化として捉えられるかを検討する。 研究体制としては、研究代表者が研究の立案、分析、進捗管理、総括を行い、 研究代表者の研究室の大学院生 3 名がそれぞれ、データベースの構築と管理作業、 および診療水準の視点からの詳細データベースを用いた解析の作業を担当する。
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