業 務 報 告 書 平成23年3月 「戦略的食クラスター先導的モデル事業」受託コンソーシアム (コンソーシアム代表者) 株式会社 のりとも朝倉商店 代表取締役 朝倉 奉文 目 1. 業務概要 2. サケ節について 3. 次 1 2-1 背景および現状 2 2-2 サケ節の開発および特長 4 2-3 サケ節の将来性や市場性 10 「戦略的食クラスター先導的モデル事業委託業務 (低未利用水産資源高付加価値化モデル)」 3-1 処理体制および業務分担 3-2 実施内容 12 1.サケ節の普及促進とニーズ把握 4. 1)サケ節のレシピ開発および小冊子作成 14 2)サケ節のパンフレット作成 19 3)パネル作成 20 4)展示会への出展 23 5)技術普及ミーティングの開催 32 6)メディア等によるサケ節の紹介 34 2.サケ節の製造施設および事業性の紹介 37 今後の展開 44 1.業務概要 株式会社のりとも朝倉商店は北海道立総合研究機構食品加工研究センターとともに平 成19年よりサケ節の共同開発を行い、平成22年春に販売に至った。展示会での出品や 発表会での普及活動によって大きな反響を呼び、サケ節は潜在的に大きな需要があるこ とを確認した。のりとも朝倉商店のサケ節の年間生産量は最大16トンであり、今後「サ ケ節」を北海道の特産品としての地位を固めるためには、地元地域や道内大消費地での 普及活動や、各地域でのサケ節製造による供給量の増加が必要である。 本業務ではサケ節の需要喚起と潜在ニーズを把握するため、市場調査や試食会、利用 方法の開発、及び普及活動を行なう。更に道内各地でのサケ節企業の起業化を推進する ため、サケが漁獲される地域でサケ節製造の事業紹介を行う。 -1- 2.サケ節について 2-1 背景および現状 北海道羅臼地域は道内でも有数のシロサケの水揚げ量 羅臼での秋サケ漁獲高 があり、その漁獲量は年間約2万トン(北海道全体では 19万トン:H16)にのぼる。一方で、漁期終盤に多 く捕獲される対策魚(低品質シロサケ)や、孵化放流事 業により発生する採卵後のシロサケは年間約2千トンに 達し、一部が非常に安価で出荷されている他はミール原 料、または産業廃棄物として処理されている。 H15年度 単位:t 19,451 H16年度 22,114 H17年度 19,549 H18年度 17,552 H19年度 16,552 (羅臼町HPより) 対策魚とは成熟が進んだ低品質のシロサケであり、羅 臼地域で漁獲される約2万トンのうち、約1割が対策魚として隔離されている。この対 策魚においてもランクがあり、身の赤いもの(レッド魚)、ピンクのもの(ピンク魚)、 白いもの(ホワイト魚)となっている。このうち、ピンク魚とホワイト魚の対策が難題 となっている。ホワイト魚は、脂が抜けてしまっており、ほとんど商品としての価値が ない。近年では中国等に極めて安値で引き取られているのが現状であり、ピンク・ホワ イトが混在することで、一定の価格で販売できるレッド魚の価格を引き下げる要因にも なっている。各漁協の定置部会では、長年の間、その高付加価値化が課題となっている。 また、シロサケは孵化放流事業によって、その資源量を維持している。北海道内に は孵化放流事業を行っている河川が9ヶ所あり、北海道庁から許可を受けた各地域のさ -2- け・ます増殖事業協会が、周辺の漁協 との調整を図った上で一定量のシロサ 羅臼産鮭の流通の仕組み ケを河川に遡上させ、増殖事業を行っ ている。採卵後のサケ(川ブナ)の処 高ランク鮭 市場でブランド鮭として販売 (約9割) 分は市場を通して処分しているが、外 観が非常に悪く、脂やうま味成分が抜 本事業の原料 け切っており、フレークやミール等の 低ランク鮭(対策魚として隔離)(約1割) 原料にしかならないため、非常に安い ドレス加工(対策魚のうち約8割) 価格で処分するか、産業廃棄物として レッド (約2割) 処理しているのが現状である。(社)根 価値あり そこそこの 値段で 販売可能 室管内さけ・ます増殖事業協会では年 間15万尾(約500トン)の採卵後 ピンク (約5割) やや価値あり 安価で販売可能 ホワイト (約1割) 価値なし 販売困難 原魚販売 (対策魚のうち 約2割) ドレス加工していな いため色不明 →価値不明 安値で販売 ※ドレス加工とは、頭と内臓を取り除く加工のこと ※本資料に用いた数値は平成19年度実績値に基づく概算値である のシロサケが発生しており、その利用については有効な対策がないのが現状である。 一方、全国における節類の生産規模は年間107,332トンとなっており、非常に 大きな市場である。kg 当たりの価格を1,00 0円と仮定すると、1千億円以上の市場規模と なる。しかし、カツオ節業界は、資源変動や乱 高下する原油価格、さらには生産国の政情不安 を背景とした供給不安定および価格高騰があり、 安定供給可能でかつ、安価な代替素材を求めて いる。さらに節業界は伝統産業であることから、 慢性的な新製品不足に陥っており、新たな製品 の登場が望まれている。 ・北海道内の食関連の業界からの要望 「オール北海道産の料理・加工食品」は北海道内の飲食店や食品メーカーにとって絶 好のアピールポイントである。しかし、ソバや味噌汁などの料理や加工食品を作る際、 だしをとるためにはカツオ節を使わざるを得なかったため、「オール北海道産」を達成 することは困難であった。サケ節の製造によって、「オール北海道産」が達成できるだ けでなく、製品や商品に新たな風味を加えることや新製品の開発も可能となってくるが、 -3- これまでは流通量がわずかであったことで風味を含めてサケ節の認知度はほとんどなく、 また、これまでのサケ節は高価格であったということが利用する側の汎用性をせばめて いた。 図1 2-2 サケ節開発における社会的背景 サケ節の開発および特長 ・最も品質の悪いブナサケから最高級の品質のサケ節ができる 節類を製造する上では原料の脂質含量が最終製品の品質を左右する。カツオ節にする ための原料カツオは脂質含量が 1 ~ 3%が好ましいとされ、この脂質含量以上では「だ し汁が油臭い」、「しらたになりやすい」などの問題を起こすことがわかっている。シロ サケは産卵が近づくと婚姻色の発現とともに筋肉中の脂質が卵巣や精巣に移行するため に、筋肉中の脂質含量は減少する。脂質の減少は通常であれば風味の悪化につながると ころであるが、サケ節製造という目的では脂質の減少は好都合であり、実際に様々なラ -4- ンクのブナサケで試作を行ってみたところ、採卵後のメスから製造したサケ節の品質が 最も良いという結果となった。これらの結果は製品価格を抑制できるだけでなく、原料 調達にも支障が少ないことが予想される。北海道内の沿岸地域からの水産加工会社や漁 協からのサケ節製造の関心が高いのは、ブナサケ対策や雇用対策だけでなく、サケ節の 事業収益性も鑑みた結果と考えている。 図2 サケ節の製造工程 ・北海道におけるサケ節製造施設の導入と雇用 節類加工は主に温暖な地域で行われており、カツオ節を対象として製造条件が決めら れている。シロサケはカツオと筋肉構造が異なり、従来の製造方法では身崩れが起きる ことが明らかになった。そのため、これまでの研究開発の過程において様々な製造工程 の改良(ノウハウ部分のため未掲載)を行い、さらに北海道の冷涼・低湿度の気候を利 用して加熱後に冷却工程などを導入するなどの創意工夫を施すことで、身崩れの問題点 は解消することができ、写真のようなサケ節を安定して製造することができるようにな った。 -5- 弊社のサケ節製造の技術はカツオ節老舗メーカーの(株)にんべんの技術協力も得て おり、品質については高い評価を得るに至っている。 現在、カツオ節製造では最北端が千葉県ということであるが、今後、北海道でサケ節 をはじめとした北海道独自の節製造が広まっていくことは北海道に新たな産業が生まれ ることが想定される。 加えて、サケ節製造は完成まで一ヶ月程度を要する非常に労働集約性の高い製造工程 である。サケ節は一次産品出荷型の漁村などで雇用の減少する冬期間の雇用対策にも有 効であり、しかも高度な技術を要しないことから高齢者などの雇用拡大にも寄与すると 考えられる。 図3 導入したサケ節製造実証プラント ・カツオ節との比較(風味) 美味しさの比較においては、カツオ節とサケ節の遊離アミノ酸総量は約 4500mg/100g と大差ない。しかし、その組成は大きく異なっており、風味に関わるアミノ酸はカツオ 節よりサケ節は多く含まれていた。例えば、うま味を呈するアミノ酸の代表であるグル -6- タミン酸やアスパラギン酸は 2 倍以上多く、エビやホタテの甘味を構成するグリシンや アラニンなどのアミノ酸は各々 4 倍、2 倍と多く含まれていた。一方、イソロイシン、 ロイシン、アルギニンなどの苦味を呈するアミノ酸も約 2 倍多く含まれていた。また、 サケ科魚類にはアンセリンというジペプチドが多く含まれていることが知られているが、 風味やコクを強化するとの報告もある。アンセリンはサケ節では 2,674mg/100g とカツ オ節の 8 倍以上も含まれており、アミノ酸組成の上でサケ節の特長の 1 つになると思わ れた。アミノ酸組成の結果をまとめると、サケ節はカツオ節と比較して甘味、うま味、 苦味が強い特長が示されている。 また、興味深い点として、風味に関与するアミノ酸について他の天然調味料との比較 を行った見たところ(表中の黄色は同じ成分の中で上位3位以内の含有量、赤文字は最 も含有量)、サケ節は風味に関するアミノ酸が極端に多く、他の魚介系調味料と比較し て2倍~5倍が含まれていることがわかった。下の表を見てもサケ節は赤文字が他の調 味料と比べても多いことが歴然としており、サケ節は特色のある風味を有していること がわかる。 -7- また、味覚センサーによるプロファイリングでは興味深い結果が得られた。図4に示 す通り、カツオ節を中心として味覚の比較を行った場合、煮干し、サバ節、うるめ節な どの少し生臭い香りを持っている試料では、うま味がそこそこ強くてコクが強いといっ た結果であったのに対し、サケ節はうま味が強くてスッキリした風味という結果が得ら れた。味覚センサーによる結果ではサケ節は椎茸に風味特性が近い結果となったが、検 証や適性については今後もつづけていく必要がある。 図4 味覚センサーによるサケ節の風味プロファィル さらにサケ節を用いただし汁を調整し、官能評価を行ったところ(図5)、サケ節は カツオ節のだし汁より有意に甘い香り(醤油の香り=DMF:フランノン)が強いこと が明らかとなった。その後のサケ節の言葉だし試験(図6)においても、醤油の香り、 甘い香りを連想したパネラーが多く、ついで甘い、旨い、苦味、渋味などの評価が多い 結果となった。 -8- 図5 図6 だし汁での評価 サケ節から連想される言葉 -9- ・カツオ節との比較(価格) サケ節の価格はカツオ節より少し高い価格である。これは、サケ節を高価な土産品と して扱うのではなく、北海道内の飲食店・ホテル・食品企業が日常的に安心してサケ節 を使用できるようにするためである。現在のところ、サケ節は業務用の節で 1,800 円/kg、 削り節で 3,000 円/kg であり、小売り用のソフト削りパック(5g × 6)は 450 円である。 カツオ節の荒節が 1500 円/kg、カビ付けをした本枯れ節が 2,500 円/g 程度であることか ら、価格競争力は十分である。 図7 2-3 サケ節と削り節 サケ節の将来性や市場性 全国における節類の生産規模は年間 10 万トンとなっており、非常に大きな市場であ る。キロ当たりの価格を 1,000 円と仮定すると、1 千億円以上の市場規模となる。その うちの半分がカツオ節である。サケ節に関しては利用できる原料が最大でも 1 万トン程 - 10 - 度と推測できるため、サケ節では 1,000 トンが最大生産量である。それ故、市場規模は 20 億円、全国の節類のシェアは 1 %に満たないものであるが、サケ節が非常に汎用性の高 い食材であり、かつ、北海道の新たな特産品となり、料理や加工食品に新たな風味と付 加価値を付与するものであれば、最終的な経済効果は何倍にもなると考えられる。 現在のところ、サケ節の利用に関しては、ソバ、ラーメンなどのだし汁や、豆腐や玉子 にふりかけて食べるという基本的な利用方法から、おにぎりやふりかけの主原料、ピザ やパスタのトッピング、明太子や漬け物の調味付け、日本料理や洋風料理、加工食品の 新たな調味料としての利用方法が続々と報告されてきており、その汎用性の広さが明ら かになりつつあるところである。 サケ節の将来性や市場性は以下の項目があげられる。 ・カツオ節より少し高い程度なので利用しやすい(価格は安くなると思われる) ・既存の製品に新たな風味(甘味、うま味など)が付与できる ・オール北海道産の料理や加工食品ができるようになる ・「北海道産」(知床羅臼産など)のネームバリューが高級感を出す ・トレーサビリティーの可能なので安心安全である - 11 -
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