「欧州3カ国の株式上場の現状」(PDF) - 日本郵政グループ労働組合

郵便事業体調査レポート
郵便事業体調査レポート
THE
NETHERLANDS
CANADA
UNITED
KINGDOM
UNITED STATES
BELGIUM
株式上場に向けて
欧州・北米郵便事業体調査の概要報告
今年 3月 JP 労組は欧州と北米に調査団を派遣し、郵便事業体調査
を実施した。これは来る日本郵政の株式上場に向けて、JP 労組の事
和、民営化の世界的潮流時代の中でも、民営
スメールは翌日配達を行っている。2013 年
化されないまま、政府保有の株式会社の形態
時点で、ロイヤルメールは、年間 181 億通の
を取っていた。当時、
「レーガノミクス、サッ
郵便を運び、全土に 11,780 の郵便局を持ち、
チャーリズム」の言葉で代表される公企業の
営業収入は 7,400 億円( 1 ユーロ= 130 円と
民営化が世界的風潮であったが、当時のマー
して)
、当期利益 880 億円に達している。従
ガレット・サッチャー首相でさえ「クイーン
業員は 17 万 5,000 人である。
ズヘッドを民営化したくない」と言って民営
化に反対した経緯がある。
(2)郵便サービス法 2011
しかし、欧州連合(EU)自体が、1990 年代
キャメロン政権は 2011 年郵便サービス法
から段階的な郵便事業の自由化の道を選択
を成立させた。この法律が現在のロイヤルメ
委員長・立原繁東海大学教授・伊藤栄一 UNI 東京事務所所長・福島美
し、欧州連合のすべての国において、
「郵便
ールの経営基盤の基本となっている。その様
佳職員、また、アメリカ・カナダを訪れた北米調査団には、増田光儀副
市場単一市場の形成」
、
「良質なユニバーサル
相は以下の通りである。
委員長・武井孝介 JP 総研客員研究員、学習院大学講師・栗原啓職員・
サービスの維持・提供」
、
「競争の導入」等を
①ロイヤルメールを完全民営化する。ロイヤ
本島靖子職員が参加した。
決定した。
業政策を確立する参考にするための調査として行われたものである。
イギリス・ベルギー・オランダを訪問した欧州調査団には、田中徳行副
今回本誌では、2つの調査団の概要報告を掲載するが、調査の詳細
な報告は、別途 JP 労組から発行する予定である。
東海大学 観光学部 教授
立原 繁
はじめに
これらを受け、ロイヤルメールは、2000
年 に 政 府 100 % 所 有 の 特 殊 会 社 と な り、
欧州 3 カ国の株式上場の現状
2002 年に
「公社」
の呼称からロイヤルメール・
グループ(Royal Mail Group)へと再変更し、
3 つの事業へと再編した。
ルメールに最大 90%までの民間資本の導
入を可能とする。
②ロイヤルメールの民営化の際には、10%
の株式を従業員に与える。
③ロイヤルメールの年金における負債およ
び資産はすべて政府に移管する。
●ロイヤルメール(郵便物を配達する)
④ポストオフィス(郵便局ネットワーク)は、
●パーセルフォース(小包を配達する)
政府が全株式を保有し国営のままとする。
として捉え、組合員の雇用と労働条件を守り
●ポスト・オフィス・リミテッド(全国的な
10 年間はポストオフィスにユニバーサル
より改善して行かなければならない。株式上
郵便局のネットワークを管理・運営するリ
場という新たな局面で、新たな郵政づくりを
テール向けの窓口会社)
成功させなければならない状況である。
この再編の前年に、イギリス政府は、民間
今回訪問調査を行った、イギリス、ベルギ
企業に郵便事業業務の許可を与える「郵便サ
サービス事業者であることを保証する。
⑤ポストオフィスは政府の管理下のもと、将
来、協同組合を目指す。
⑥新たな規制体として、監督官庁をポストコ
日本郵政の株式上場は 2015 年春以降を予
ー、オランダの 3 カ国の郵便事業体の動向に
ービス委員会」
(通称:ポストコム)を設立、
ムからオフコムへ変更する。ポストコムは
定し、現在、その準備が日本郵政グループ一
ついて「株式上場」のみについて以下報告す
また、イギリス の郵便サービスに対する消
廃止する。ユニバーサルサービスの提供に
丸となって進められているところである。そ
る。詳細は、日本郵政グループ労働組合が発
費者の意見を集めるために「郵便サービス消
関する許認可をオフコムが負うこととす
れを受ける形で、先日、事業の成長戦略を描
行する調査報告書を参照いただければ幸い
費者委員会」
(通称:ポストウオッチ)も設立
る。
く中期経営計画の策定も行われたところで
である。
し、郵便事業の運営体と規制体を明確に分離
この法律を受け、2012 年 3 月にオフコム
ある。
今回の「JP 労組国際郵便事業調査(欧州チ
ーム)
」は、すでに「株式上場」を果たしてい
る欧州 3 カ国
(イギリス、
ベルギー、
オランダ)
について、その現状調査を行った。
わが国は、日本郵政の株式上場を成功させ
26
株式上場に向けて
・北米郵便事業体調査の概要報告
欧州
1. イギリス・ロイヤルメール
(1)ロイヤルメールの概要
ロイヤルメール(Royal Mail)は、イギリ
ス(連合王国)で郵便事業を営む企業であり、
なければならない。そして今後、日本郵政の
設立は西暦 1516 年に遡る。ロイヤルメール
株式上場と事業の持続的発展を一体のもの
は、1980 年代から 1990 年代の所謂、規制緩
している。
が新しい規制の枠組みを導入した。これによ
これらの準備期間を経て、2006 年 1 月 1
り、ロイヤルメールが持続的なユニバーサル
日にロイヤルメールは 350 年間にわたる郵
サービスが出来るように、郵便料金の価格設
便事業の独占権を失い、郵便事業は完全自由
定に際して、ロイヤルメールに価格決定(イ
化された。
ンフレや需要動向の指数による決定方法)の
ロイヤルメールはイギリス国内における
柔軟性を与えるに至った。
ユニバーサルサービスを提供しており、配達
新しいオフコムの規制の結果、ロイヤルメ
は日曜日と祝日を除く毎日、ファーストクラ
ールの信書便の価格は 2012 年に引き上げら
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27
郵便事業体調査レポート
株式上場に向けて
・北米郵便事業体調査の概要報告
欧州
ヤルメールの株式売却計画を下院に報告し、
%を売り出すことに決定、③売却額は 19 億
ンスになり、2014 年 3 月末にはさらに 2 ペ
2013 年 10 月 15 日にロンドン証券取引所へ
80 百万ポンドの見込み、④売出株数の 67%
ロイヤルメールの 15 万人のフルタイム又
の上場が決定した。
を機関投資家、33%を個人投資家に割当、と
はパートタイムの従業員が株式を受け取る
した。
資格があったが、受け取りを拒否した従業員
ンス値上げされる予定である。36 ペンスで
あった第二種郵便は 50 ペンスに引き上げら
ロイヤルメールは、この IPO に関する「投
れ、さらに 2014 年 3 月末に 53 ペンスとな
資家への訴求ポイント」として、①ユニーク
機関投資家の申込倍率は 20 倍以上、個人
は 372 人で全従業員の 0.5%であった。2013
る予定である。
なネットワーク、強いブランド、優位な市場
投資家の申込倍率は約 7 倍であった。個人投
年度、受け取る資格のある従業員に対してそ
地位、②明快な成長戦略(小包、イーコマー
資家の 95%(69 万人)に株式を割当(1 人あ
れぞれ 613 株( 3,000 ポンド相当)づつが無
ス)
、③オペレーションの改革による利益率
たり 227 株、749.1 ポンド)た。この IPO は、
償提供された。元々の計画では従業員 1 人あ
の向上、④ユニバーサルサービスの持続可能
2013 年の世界の IPO の中で 3 番目に大きな
たり 725 株を提供する予定であったが、株
ユニバーサルサービスの確保を競争促進に
な規制の枠組み、⑤社員との協力的な関係、
規模であった。欧州の IPO としては最大規
価の上昇のため税務局が許容している 1 会
優先することに決定した。同時にオフコムは
⑥顧客重視のビジネス戦略とオペレーショ
模で、英国の個人投資家向け販売では 1996
計年度 に与えられる許容を超えたため、残
ロイヤルメールに対して規制緩和(料金、業
ン、⑦現経営陣による重点的でコミットした
年以来最大規模であった。
りの 112 株は 2014 年度に提供される予定で
務等)を実施し、規制対象サービスはセカン
経営、を表明した。
(3)ロイヤルメール株式上場
2011 年の郵便サービス法の改正により、
ド書状(営業日 3 日以内の遅い配達)と小包
2013 年 10 月 15 日、ロイヤルメールはロ
ある。
ンドン証券取引所に株式を上場した。上場
無償提供された株式は、
「ロイヤルメール・
するブックビルディング(期間 9 月 27 日~
初日の終値は「4.8900 ポンド」であった。こ
シェア・インセンティブプラン」で信託され
10 月 8 日)は、①仮条件レンジは、2.6 ~ 3.3
の価格での時価総額は 48.9 億ポンド(約 77
ている。その他に、一般公開された株式を優
の法律により、英国政府によるロイヤルメー
ポンド、②売出時の株主資本の 40.1 ~ 52.2
百億円)で、売出価格「 3.3000 ポンド」
(時価
先的に購入する権利も与えられており、1 人
ルの株式の売却が可能となった。2013 年 5
%に相当する 4 億 1 百万~ 5 億 22 百万株を
総額 33 億ポンド)を大きく上回るものであ
当たり 1 万ポンドまでこの権利を行使して
月に、ロイヤルメールは 2013 年 3 月期決算
売出、③売出株数の 15%までがオーバーア
った。その後、現時点( 2014 年 3 月 7 日)の
購入可能である。
を発表
(営業利益率 1.7%→ 4.4%)
時に、
モヤ・
ロットメントの対象、④総株数の 10%を従
終値が「 5.9000 ポンド」であり、株価は上昇
グリーン最高経営責任者(CEO)は「信書の
業員に無償交付、とした。
を続けている。
郵便のみ(収益ベースでは規制対象サービス
が従来の 80%から 5%に)とした。また、こ
上場による新規公開の具体的内容を決定
量が減少する中、ネット販売に支えられた小
ブックビルディング終了後の 10 月 10 日
包事業に経営資源を再配分するため、外部か
これらの株式には当然のことであるが配
当金を受け取る権利があり、ロイヤルメール
今回の IPO に際して、特徴的な現象は「従
は前会計年度の配当として 1 億 3,300 万ポン
に IPO の条件が決定(政府発表)し、①売出
業員株式保有制度」が実施された点である。
ドを支払うこととなっている。ロイヤルメー
らの資本の調達は必要不可欠である」との表
価格は 3.3 ポンドに決定(売出価格ベースの
その様相は以下の通りである。
ルとしてはプログレッシブな配当性向を目
明を行った。その後、7 月に英国政府はロイ
時価総額は 33 億ポンド)
、②発行株数の 52.2
①発行済株式数の 10%を従業員に無償で
割り当てる。役職や給与水準にかかわらず均
等に割り当てる。パートタイム勤務者には勤
ベルギー郵便労組(ACOD Post、ACV-Transcom)からのヒアリング
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ち、同等の配当を受領できる。
れ、40 ペンスであった第一種郵便は 60 ペ
指していることから、今後この配当性向が上
昇する事が見込まれている。
ロンドン證券取引所では、民間もしくは機
務時間に比例した配分を行う。
関投資家がその対象企業の発行済株式の 4%
②この割当を受けるのは、英国内のユニバー
以上を取得した場合には、それを開示しなけ
サルサービス提供企業の従業員 15 万人が
ればならないことになっている。ロイヤルメ
対象である。物流子会社 GLS(本社アム
ールの場合、その域を超えた投資家は 2 つの
ステルダム)の従業員は対象外とする。
機関である。
③上場時の時価総額は 48.9 億ポンドで単純
一つが「チルドレン・インベスト・ファン
計算すると 1 人当たり 3.2 千ポンド(約 51
ド」
(英国)で、現在 4.85%の株式を所有して
万円)相当である。
いる。最大 5.8%まで所有していたが、2014
④上場時から 3 年間は売却不可とする。5 年
年 1 月に 4.85%まで減らしている。
「物言う
以上の保有者又は適格な退職者には課税
投資家」としてロンドンではその名が知られ
上の優遇措置がある。
ており、
「今後、効率性を上げたり、事業の一
⑤対象株式は、他の株式と同様の議決権を持
部の売却するように圧力がかけられる可能
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29
郵便事業体調査レポート
性がある」と、ロイヤルメールの会長のドナ
ルド・オブライアンがインタビューで答えて
いる。
bPost は、2013 年 6 月 21 日、ブリュッセ
ル証券取引所に上場した。bPost の株式上
対するもので、売出価格の
16.67%割引で株式の購入が
出来るものであった。
もう一つは「GIC プライベート・リミテッ
場は、ベルギーにおいて 2007 年以来最大規
英国のロイヤルメールで
ド」で、シンガポール政府投資会社である。
模の上場であり、2011 年以降で、ブリュッ
は従業員に対して無償提供
現段階で 4.1%の株式を所有している。
セル証券取引所で最初の上場でもあった。
分があったが、ベルギーで
上場前の bPost の株式の株主構成は、ベ
は、すでに「プロフィット・
ルギー政府が 50%+ 1 株、CVC ファンド
シェアリング」と言う制度が
が 50%- 1 株であった。これは、法的に「ベ
確立されており、1 会計期間
ルギー政府は、直接的又は間接的に 50%+
の利益の 5%を従業員に還元
1 株の保有割合の維持義務」があるからであ
することになっており、無償
2011 年 1 月にベルギー郵便市場の完全自由
る。したがって、今回の IPO は、CVC ファ
の提供は実施されなかった。
化を実施した。同国最大の郵便事業者である
ンドの持ち分のうちの 32.20%を市場におい
この割引購入の制度は、会
ベルギーポストは社名を「bPost」に変更し、
て公開する形で行われたものである。 上場
社の職位によって購入額を
ユニバーサルサービス提供者の位置付けで
後の株主構成は、ベルギー政府 50%+ 1 株
制限した。上級経営者層が
(SFPI・ベルギー政府投資会社 25.87%、ベ
購入出来る最高限度額は 10
2. ベルギー・bPost
(1)IPO の背景
欧 州 郵 便 指 令 を 基 に ベ ル ギ ー 政 府 は、
ある。
2000 年 に 公 法 上 の 有 限 責 任 会 社 化 し、
2006 年にベルギー政府がベルギーポストの
ルギー政府 24.13%)
、一般投資家 32.20%、
万ユーロ、中堅の経営者が 2
CVC ファンド 17.80%となっている。
万 5,000 ユーロ、一般社員が
イギリスCWU本部にて
段階的・部分的民営化を決めた。その際の株
この上場に際して、2010 年には IPO プロ
式の所有者となったのが、CVC と言うプラ
セスが開始されている。グローバルコーディ
株式の配当金に関しては、2006 年~ 2013
た。2006 年にはオランダ政府が残りの保有
イベート・エクイティの会社と、当時欧州で
ネーターの選出などが行われ、投資家への
年までの間は利益の 100%を配当金として
株式を売却、2009 年オランダ郵便事業は完
最優良郵便事業体と言われていたデンマー
訴求ポイントとしては、①手紙と小包事業
いた。持ち株の割合に応じてそれぞれベルギ
全自由化となった。2011 年に TNT が分離、
クポストとのコンソーシアム(共同)であり、
への重点化による利益成長(特に 2009 年か
ー政府と個人株主が受け取っていた。2013
PostNL が誕生した。現時点で、PostNL の
ベルギーポストの援助者的存在であったと
らの営業収益は毎年二桁成長を達成)
、②適
年の IPO の直前に例外的にベルギー政府と
株式は政府保有はゼロである。これは 2006
言われている。
切な規制の下で安定した郵便市場での主要
CVC に配当金が支払われ、bPost は株式公
年に政府による特別優先株式の保有が違法
その過程で、ベルギー政府と投資家の間で
な地位、③優れた経営実績を誇る経営陣、④
開に際して、毎年純利益の 85%を配当金と
であるとされたことから、政府が全株式を放
の合意として、一つは個人投資家と政府、両
継続的なコスト削減の余地( 2003 年社員数
して株主に還元することを約束している。
出したからである。
方の取締役が取締役会のメンバーになると
40,024 人→ 2012 年社員数 25,705 人へ)
、⑤
3. オランダ・PostNL
円( 1 ユーロ= 130 円)
、営業利益は 169 億
いう明確なガバナンス体制と、もう一つは、
潤沢なキャッシュフロー、等であった。
5,000 ユーロまでであった。
PostNL の 2012 年の連結収益は 5,558 億
当時としては最善の選択肢と考えられた個
bPost の上場時の売出価格は 1 株当たり
オランダ郵政は、1989 年に当時の逓信省
円で前年比 40.9%の減益である。郵便部門の
人投資家のエジェクト、IPO という選択肢
14.50 ユーロ(約 2,030 円)で、IPO 時の募集
が「KPN」として民営化したことから、郵政
収益は 2996 億円(5.1%減)
、営業利益は 111
であった。
総額は 812 万ユーロ(約 1,136 億円)
、IPO
の自由化路線を歩むことになる。1994 年に
億円( 63%減)で、減収の主因は郵便物数の
時予想時価総額 2900 万ユーロ
(約 4,060 億円)
第 1 回目の株式上場が行われ、30%の株式
急激な減少である。
であった。
を売却し上場が行われた。続いて 1995 年に
オランダの郵便市場占有率は、宛名郵便の
第 2 回株式上場スケジュールが挙行され、加
約 90%弱のシェアを PostNL、残りの 10%
実際に IPO は 2013 年に実施されること
になるが、それはすでに 2006 年に決定され
た合意を実施したものであった。そのため、
30
(2)bPost、株式上場
株式上場に向けて
・北米郵便事業体調査の概要報告
欧州
この IPO において、特徴的だったことは、
bPost の上場の際にはベルギー政府の持株
「従業員向け株式割当購入制度」
(総株式の
えて 25%の株式が売却された。この資金を
弱を「サンド」
、残りの 2%程を中小で分け合
は売却されず個人投資家の持ち分のみが公
0.5%分を限定。売出人が割引額の費用を負
基 に、1996 年 に TNT を 買 収 し、1998 年
っている。PostNL とサンドは両社との全国
開されたものであった。
担。購入株式は 2 年間の譲渡制限。
)があっ
には郵便事業が TNT グループから TGP と
ネットワークを持ち、そのネットワークを使
た点である。これは、bPost の全従業員に
して KPN から分離(政府保有約 44%)され
って PostNL は週 5 日配達、サンドはダイレ
26
31
郵便事業体調査レポート
提供する PostNL は、ユニバーサルサービス
全体の価格として、最大前年度比 11.1%まで
の利益を得られるように価格の上限が認め
られている。そしてまたこれは、インフレ率
や郵便物数の減少、利益が多大の場合などに
よって毎年調整されることになっている。
郵便市場の自由化および郵便物数の減少
の中、雇用条件が急激に悪化している。2005
年にフルタイムの従業員が約 20,000 人いた
オランダ・スキポール空港内に設置されたオレンジ色のポスト
達を主に週 2 日の配達を行っている。サンド
が 2015 年には 25,000 人にまで達すると言
の郵便市場への参入は、所謂「クリームスキ
われている。2012 年 4 月には会社側から全
ミング」的参入である。
従業員の完全パートタイム化まで提案され
「自由化と郵便物数の減少」からの教訓は、
ラストワンマイルに配達に関しては労働条
週間 6 日配達しなければならない義務があ
件などが等しいということが担保されない
る。また、サービスの質の義務もあり、全郵
限り競争モデルを導入してはいけないと言
便物のうち平均 95%の信書は翌日に配達さ
うことである。そうしないと底辺での競争を
れなければならないことになっている。ま
し続けることになってしまうと言うことで
た、サービスポイント、ポストとしては最低
ある。
ている。
また、事業者同士の相互的義務も負ってい
性の低下と国民のさらなる「郵便離れ」を
JP 労組 企画局 職員
引き起こすことが懸念されている。また、
栗原 啓
郵政事業の現場で働く職員のモチベーシ
ョンの低下や、サービス水準の縮小による
雇用環境の悪化も同時にもたらす危険性
も内包している。
周知の通り、広大な国土を有するアメリ
はじめに
カとカナダは都市部と非都市部での人口
近年、北米の郵便事業体では、社会経済
格差、高齢化があり、北米の郵政事業を取
環境の変化から郵便需要が大幅に減少し
り巻く経営環境も日本と共通している部
ている中で、中長期的に安定した利益を確
分が多い。従って、アメリカやカナダにお
保すべく
「土曜日配達の休止」
や
「戸別配達
けるこれまでの経験や様々な取り組みは、
の全面廃止」など、主に短期的視点での経
今後の日本郵政グループのサービス展開
費の削減を中心とした経営改革案が次々
や事業運営のあり方を考える上で、多くの
と提起・検討されている。しかし、こうし
示唆を与えるものと考えられる。
た郵便のユニバーサルサービスの縮小を
そこで本稿では、近年の北米における郵
伴う単純なコストカットは、利用者の利便
便政策の動向とその特徴について分析・検
価なポストや郵便局などのインフラを抱え
ていることが出来なくなって来ている。 A
CMの見解によると、このままの状態では、
提供しなければならない。郵便番号や宛名の
近々にサービスポイントを半減しなければ
データ、郵便受けなどにアクセスを許容しな
ならず、現在 2,000 のサービスポントはこの
ければならないことにもなっている。
先 1,000 くらいにまで減らされるであろう
オランダの郵便市場で最重要課題は、郵便
し、ポストは現在 16,000 ~ 17,000 あるが、
物数の急激な減少である。一般的な予想では
半分の 8,000 位まで減らされる予定である。
毎年 10%~ 20%づつ減少していくと言われ
また、週 5 日の配達義務が、この先はおそら
ている。
く 3 日になるだろうと考えられている。ユニ
きくとられている。ユニバーサルサービスを
武井 孝介
郵便物数が減少している中、人件費や高
る。週 5 日配達のネットワークにアクセスを
そのため、郵便価格についての許容幅が大
32
ている。
1 週間 5 日、例えば弔電や医療的な記録は 1
でも 2,000 ならなければならないことになっ
JP 総合研究所 客員研究員
学習院大学 経済学部 講師
予想されている。それに反して、パートタイ
ムの従業員数が 2005 年に 6,000 人だったの
のみが負っている。郵便物の取り集めは最低
北米の郵便サービスの現状
のが、2015 年には 3,000 人まで減少すると
クトメール専門業者として、定期刊行物の配
ユニバーサルサービスの義務は、PostNL
株式上場に向けて
欧州・北米郵便事業体調査の概要報告
バーサルサービスの定義が今よりも低いも
のになろうとしている。
カナダ郵便労組本部で意見交換
26
33
郵便事業体調査レポート
討を行いながら、国営を堅持するアメリ
USPS の経営は年々苦しさを増している。
量が伸びている小包については、今後も
カ・カナダ両国の郵便事業の現状について
さらに 2007 年度以降、USPS には巨額の
成長が見込まれることから、引き続き、
整理する。その上で、郵便事業体の経営サ
「退職者医療保険基金」への払い込みが義
イドが志向する「縮小再生産」主体の経営
務化された影響もあり、2012 年には 6 期
戦略に対し、ユニバーサルサービスの維持
連続の赤字決算となるなど、アメリカの郵
と職員の雇用確保を掲げる労働組合では、
便事業はその中長期的な維持・存続が懸念
これまでどのような対応や取り組みを行
される状況に陥っている。
っているのかという点について現況をレ
ポートする。
1. アメリカの郵便事業の
現状と経営効率化の動き
アメリカでは 1792 年の「郵便庁」発足以
来、長らく政府による直営事業として郵便
土曜日配達を継続する。
2. USPS の経営効率化案に
対する労働組合の取り組み
これら一連の大規模な郵便事業のリス
このようなアメリカの郵便事業を取り
トラ案には各方面からの反対も根強く、サ
巻く経営環境の変化と USPS の財政悪化
ービス水準の低下によって影響を受ける
を受けて、近年、USPS は数度にわたって
地域住民をはじめ、民主党を中心とする連
郵便のユニバーサルサービスの水準に関
邦議会議員、政府の規制機関である「郵便
わるドラスティックな経営効率化案を提
規制委員会」
、さらには一部のマスコミな
ができないサービスを補っていくことが、
示してきている。その代表的なものは以下
どからも、USPS が発表する郵便事業のコ
今後の USPS の成長を支える大きなカギ
のとおりである。
スト削減案に反対、もしくはこれを疑問視
である」との認識の下、テレコム・プロバ
する意見が多数出された。一方、労働組合
イダーや広告事業者、銀行など、多くの業
制度が運営されてきた。ところが 1960 年
USPSの配達車
代に入ると、郵便事業の財政赤字は年々深
< 2011 年>
サイドでも、経営サイドが提案する郵便施
種・業態との広範な連携が必要との見解が
刻化の一途を辿ると同時に、現場では労
・アメリカ全土にある約 32,000 の郵便
設の統廃合や土曜日配達カット案は、郵便
示されている。その上で「収入の増加」に
使関係の不安定さや政治介入、さらには
局のうち、農村地帯の小規模な不採算
のサービススタンダードの変更を引き起
つながる新たなサービスとして、全国を毎
慢性的な遅配など、様々な問題が発生す
の 3,654 局はこれを廃止した上で、うち
こし、地域社会に深刻な影響をもたらす懸
日走り回る郵便車両を活用した気象デー
るようになった。こうしたことから、経営
2,500 局については最低限の窓口業務を
念があると同時に、郵便の現場で働く職員
タ収集や携帯電話の中継局、花粉レベル情
の自律性と独立性を発揮させることを目
地域の商店などに業務委託する(=「小
の雇用カットにつながるおそれがあると
報やガス漏れ情報等の提供、そして民間の
的に、アメリカの郵便事業は 1971 年に連
売アクセス最適化戦略」
)
。
の認識から、地域住民や地方自治体、各界
金融機関の店舗がない地域での金融サー
のオピニオンリーダーを巻き込んだ大掛
ビスの提供など、既存の郵便ならびに郵便
邦政府の行政部門(郵政省)から分離され、
・全国に 487 局ある集配処理センターの
これ以降、今日に至るまで独立機関であ
うち、半数以上の 252 局を統廃合で閉鎖
かりな「アメリカの郵便サービスを守れ」
局ネットワークを活用したビジネスモデ
る「米国郵便庁:The United States Postal
する。
キャンペーンを全国展開している。その結
ルの可能性を模索している。
Service」
( 以下、USPS と称す)によって
・郵便の土曜日配達を全面的に中止する。
果、USPS が提案するこれらの経営効率化
その一方で、USPS との競合を避けたい
郵便の業務運営がなされるようになった。
< 2012 年>
施策は、いずれも現時点においては実現の
民間企業からの圧力もあり、
「 2006 年郵便
目処が立っていない。
改革法」では USPS が提供できるサービス
USPS は現在、年間約 1,600 億通、世界
・2011 年の「小売アクセス最適化戦略」を
全体の郵便物の約 40%を取り扱う世界最
事実上撤回する代わりに、郵便局ネット
ただ、USPS の経営側が主張する「費用
を大幅に制限している。このため金融事業
大の郵便事業体である。同時に、従業員数
ワークを維持するため、2014 年 9 月ま
の削減」を目的としたユニバーサルサービ
はもちろんのこと、インターネットカフェ
も約 49 万人( 2013 年:正社員のみ)を擁
でにルーラル地域の利用率の低い郵便
スの「質」の見直しは、今後もたびたび議
や運転免許証の交付、公証サービス、公共
するなど、USPS はアメリカ国防総省や
局約 17,700 局(郵便局全体の約 4 割に相
論の俎上に上ってくることが予想される。
料金支払い等のサービスも法的に扱うこ
ウォルマートに次ぐ職員数を誇る、アメ
当)の営業時間を、現行の 8 時間から利
このため労働組合では「費用の削減」ばか
とが困難である。現時点で USPS が非郵便
リカ国内でも最大規模の事業組織となっ
用実態に応じて 6 時間、4 時間、2 時間
りに頼らない、長期的視点に立った USPS
分野において提供可能なサービスは、自動
ている。しかし、近年では社会経済の ICT
へと短縮する。
の成長戦略の必要性を訴えるとともに、地
車のパーキングサービス・オフィススペー
・郵便区分拠点約 230 ヵ所を統廃合する。
域社会や社会的弱者を重視した事業運営
スの貸出やパスポート申請等にとどまっ
物数は大幅に減少し収入は大きく落ち込
< 2013 年>
のあり方について調査・研究を進めてい
ており、USPS は収入アップにつながる
む一方、費用はほぼ一貫して増加傾向にあ
・郵便の土曜日配達を同年 8 月から中止
る。
様々な有効打をなかなか打ち出せないの
(情報通信技術)化に伴って、郵便の取扱
ることから減収減益の状態が続いており、
34
株式上場に向けて
欧州・北米郵便事業体調査の概要報告
し、週 5 日配達に移行する。但し、取扱
ここでは「物理的にデジタル化すること
が実情である。
26
35
郵便事業体調査レポート
3. 今後のアメリカにおける
郵便事業の課題
かは極めて未知数である。
はどうしても高くならざるを得ない。
こうしたことから、国有企業の公社によ
って郵便事業の運営がなされているカナ
転換を図ると同時に、小売ネットワーク
の強化を目的とする。
関といえども、一般会計から切り離され
4. カナダの郵便事業の現状と
経営効率化の動き
た独立採算制が厳しく要請される事業体
カナダでは建国翌年の 1868 年に「郵便
り下げ」を検討するという動きがすでに顕
である。しかし他方で、郵便のサービス水
省」
が発足して以来、
政府の直営事業
(現業)
在化している。カナダ・ポストでは 2013
カナダ・ポストは政府全額出資の「クラ
準などに関しては、法律や議会、あるいは
として郵便事業が運営されてきた。だが、
年 12 月 11 日、今後 5 年間の行動計画を定
ウンコーポレーション」であることから、
USPS の規制・監督機関である「郵便規制
1980 年に「カナダ郵便公社法」が成立した
めた「カナダ・ポスト 5 ポイント計画」を
一般の民間企業が提供しているサービス
委員会」などから大きな制約を受けてお
ことに伴い、翌 1981 年に郵便事業は連邦
公表しているが、同計画でもアメリカの
とは異なり、警察や消防のような行政サー
り、経営の自由度は大幅に制限されてい
政府組織から分離され、その業務は政府が
USPS 同様、郵便のユニバーサルサービス
ビスの側面も持っている。いうまでもな
る。こうした事情を考慮すれば、USPS の
全額出資して新たに設立された公共企業
の水準に関わるドラスティックな経営効
く、今回の「カナダ・ポスト 5 ポイント計
経営陣が「収入の増加」策をほとんど示さ
体(公社)
「カナダ・ポスト」へ全面的に移
率化策が含まれている。その主な内容は以
画」の中で経営側から提案された戸別配達
ず、短期的視点に基づく経営効率化策に
管されることとなった。これ以降、今日に
下のとおりである。
の全面廃止は、マイカー等の移動手段のな
「前のめり」になるということも、ある意
至るまでカナダの郵便事業の経営形態と
すでに述べた通り、USPS は国営の機
味、無理からぬことであると思われる。
いずれにしても、今後も引き続き、国や
36
たなビジネス展開の道が開かれるかどう
株式上場に向けて
欧州・北米郵便事業体調査の概要報告
して採用されている公社(公共企業体)と
は、同国では「クラウンコーポレーション」
ダにおいても、経営効率化とコスト削減の
観点から、現行の郵便サービス水準の「切
(1)戸別配達の廃止
5.カナダ・ポストの
経営効率化案に対する
労働組合の取り組み
い人や外出の困難な人、年配者、地方に住
む人々などにとっては、単純な配達場所の
・カナダでは、すでに地方・農村部を中心
変更ではなく社会からの孤立を意味して
議会などが USPS に対して郵便のユニバ
と呼ばれるものであり、カナダ・ポストに
とする 3 分の 2 の世帯において戸別配
いる。一方、金融機関の存在しない地域に
ーサルサービスの提供を義務づける一方
ついては「商業ベースで独立採算により物
達が廃止されており、これらの地域では
おいては、郵便局が小切手や郵便為替の発
で、それらのコストについては USPS 自身
品の製造・販売またはサービスを提供する
地域ごとに設置された「集合型メールボ
行、送金サービスなど、一連の決済を行う
の収益の中から捻出する、すなわち国がユ
国営企業」と位置づけられている。
ックス」
(=「コミュニティメールボック
「金融サービスの拠点」となっており、その
ニバーサルサービスコストを直接的に負
カナダでも他の先進諸国と同様、社会経
ス」
)へ郵便物が届けられ、住民が自ら出
フランチャイズ化や将来的な閉鎖は、いわ
担しないということであれば、USPS が
済全体の ICT 化の進展などに伴って、郵
向いて郵便物を取りに行く方式に変わ
ゆる「金融排除」の問題をはらんでいる。
独自に展開する新規事業ならびに他の事
便事業の経営は厳しい状況の下に置かれ
っている。今回のプランでは、現在も戸
このようにカナダ・ポストが提起する経
業者と連携した新たなビジネスについて
ている。インターネット通販の普及等で小
別配達が続けられている都市部におい
営効率化案は、カナダのローカルコミュニ
は、極端な「民業圧迫」にならない限り積
包の取扱数には一定の伸びがみられる反
ても、
地方部と同様に戸別配達を廃止し、
ティや地域経済に極めて大きな影響をも
極的にこれを認めていくという柔軟な姿
面、手紙やはがき等の取扱物数は右肩下
今後 5 年かけて「コミュニティメールボ
たらすことが懸念される。それにもかかわ
勢が政府ならびに規制・監督機関には必要
がりで減少しており、2008 年の時点で約
ックス」への配達へ全面移行する。
らず、
「カナダ・ポスト 5 ポイント計画」が
と考えられる。このためには「2006 年郵便
118 億通だった取扱数は、2012 年には 98
法」の改正をはじめとする所要の政策的措
億通と大幅に落ち込んでいる状況にある。
置が必要であるが、USPS は「縮小再生産」
このようにマクロの社会経済環境から、カ
・カナダ国内に郵送される 30 gまでの手
は全くなかった。このことから、特に戸別
の道が望ましいとの立場を取る共和党と、
ナダでも郵便市場は大きく縮小して郵便
紙について、2014 年 3 月末より 15 〜
配達の廃止とコミュニティーボックスへ
USPS は積極的に新規ビジネスを展開して
事業体の収入は頭打ちとなっている一方、
59%値上げする。
の配達場所の変更について、国民・利用者
「成長拡大」の道を探るべきとの立場を取
サービス提供のために必要となるコスト
(2)郵便料金の見直し
(3)町の商店等への郵便局業務の
委託拡大
発表された時、経営サイドから地方自治体
や地域住民、労働組合への事前説明や協議
や地方自治体、一部の政治家、労働組合な
る民主党との間に意見の隔たりは大きく、
は一貫して上昇傾向にある。もともとカナ
今後の郵便改革に関する法律案について
ダは世界第 2 位の国土面積を持つ国であ
も両党でほぼ正反対の内容となっている。
りながら、人口が密集しているエリアが相
・商店等と提携したフランチャイズを拡
郵便事業の「縮小再生産」につながるカ
従って、現在の上下院における共和党と民
対的に少ないため、
「規模の経済」や「範囲
充することにより、利便性(駐車場・営
ナダ・ポストの経営姿勢に対し、労働組合
主党の勢力関係を考慮すると、USPS に新
の経済」を発揮しにくく、郵便配達コスト
業時間・様々な品揃え)の高い店舗への
サイドでは現行の郵便サービス水準の維
どからは大きな怒りと反対の声が上がる
こととなった。
26
37
郵便事業体調査レポート
株式上場に向けて
欧州・北米郵便事業体調査の概要報告
持・存続、ならびに職員の雇用環境を守る
さらに労働組合では、外部の有識者への
新たなビジネスモデルが積極的に提案さ
任期中の業績向上を図るために、
「支出の
べく、
「カナダ・ポストを救え」キャンペー
委託研究も行っており、そこではポスト・
れているにもかかわらず、カナダ・ポスト
削減」すなわちコストカットによって利益
ンを展開することでこれに対抗している。
バンク事業が今後のカナダ・ポストにおけ
の経営陣からは国民・利用者の利便性低下
を生み出すことに焦点を当てている。その
その一つとして、労働組合では、①公正な
る有効な新規ビジネスの一つであるとさ
につながる経費削減策や経営合理化案ば
一方で、労働組合側は郵便ネットワークを
郵便料金、②アクセスしやすい配達、③農
れた。この理由として、カナダでは金融機
かりが提起され、
「収入の増加」すなわち郵
活用した「収入の増加」策を積極的に打ち
村及び都市の配達を維持する、④銀行サー
関の店舗数が大幅に減少しているのと同
便局ネットワークを活用して新しいビジ
出しており、特に郵便・郵便局と金融サー
ビスを再導入、⑤透明性と説明責任性、⑥
時に、銀行手数料は世界的に見ても高額で
ネスを展開するという考えは一向に聞こ
ビスの相乗効果を目指した新たなビジネ
よりよい郵便サービス、⑦労働者に対する
あるため、3%~ 5%の人口は銀行口座を
えてこない。この背景には、新自由主義的
スモデルの研究を行っている。
尊敬とまともな労働条件、などを「カナダ・
持たない状態に置かれていることが挙げ
な政策を取るハーパー保守党政権が「公共
郵便のネットワークを活用した金融サ
ポストのための7プラン」として提示して
られている。
サービスの縮小」を指向しており、国有企
ービスは新たなネットワーク構築の必要
業であるカナダ・ポストの経営にも「縛り」
がないため低コストでその実現が可能と
をかけたいという意図があるからとも言
なり、地域コミュニティや自治体の財政負
われている。
担も最小限に抑えることができる。他方、
おり、郵便ならびに郵便局サービスの更な
る拡充策や革新的なアイディアの導入な
ど、収入の増加をメインとする「前向き」
6. 今後のカナダにおける
郵便事業の課題
カナダ国内の郵便局ネットワークを中
いずれにしても、カナダ全土にきめ細や
郵便局においても金融サービスの取り扱
長期にわたって維持するには、直営の郵便
かな有人店舗ネットワークを持つカナダ・
いを通じて新たな収入を確保できること
「カナダ・ポストを救え!」キャンペーンの
局を一店舗でも多く存続させることが必
ポストは、他の民間企業や自治体などと連
から、郵便局ネットワークを維持するため
その他の内容としては、連邦議会議員への
要不可欠である。そのためには、郵便局で
携しながら新しいビジネスモデルを展開
の有効なサービスの一つと捉えることが
ロビー活動や組合による地域住民のため
本業以外に様々な商品やサービスを取り
することで、成長できる可能性がまだまだ
できる。以上のことから、かつて両国で存
のタウンホールミーティング、戸別訪問、
扱えるようにするなど、カナダ・ポスト自
多く残されている。こうした「未来志向」
在したポスト・バンクを再スタートさせる
請願活動等を実施している。これらの取り
身が新たな事業戦略を積極的に利用者な
の経営なしに、ひたすら現状のようにコス
べきであると考えられているのである
組みの結果、約 30 の地方自治体で戸別配
らびに現場で働く社員に打ち出していく
トカットばかりに邁進すれば、やがてカナ
わが国では日本郵政グループが郵便・銀
達カットに反対する決議案が可決されて
ことが重要と考えられる。
ダ・ポストは国民・利用者からの支持を失
行・保険の三事業一体で事業運営を行って
って、その経営は将来的に先細りとなるこ
おり、北米の郵便関係者から見ると、日本
とが懸念される。この現状を打破するため
は非常にバランスの整ったビジネスモデ
には、国民・住民、自治体、労働組合、そし
ルで運営されている郵政事業体であると
てカナダ・ポストが一体となって、既存の
見られている。ただ、2015 年秋にも予定
郵便ならびに郵便局ネットワークの持つ
されている日本郵政グループの株式公開
「価値」をこれまで以上に高められるよう
に伴い、今後はわが国でも金融二社のあり
な新たなビジネスモデルを積極的に議論・
方が大きな焦点となってくる。郵便局にお
検討していくことが必要と思われる。
ける収入の 8 割以上を金融二社からの手
な経営改善策を積極的に打ち出すよう、カ
ナダ・ポストの経営サイドに求めている。
いる。
すでに述べたように、労働組合側からは
おわりに
以上、北米での調査から判明したこと
アメリカ郵便規制委員会にて
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数料で占めている現状を鑑みると、日本郵
便が単独で現行のネットワーク水準を維
持・担保することは相当の困難さを伴う。
は、国営の郵便事業体は政府の規制等によ
従って、JP 労組としても日本郵便と金融
り経営の自由度が大幅に制限されている
二社ならびに他社とのパートナーシップ
ため、
「収入の増加」を図るべく郵政事業体
の構築のあり方など、
「三事業一体経営」が
が何か新しいビジネスを展開しようにも、
可能となるような株式売却のスキームを、
それがなかなか叶わないという厳しい現
政府ならびに経営側へ働きかけていくこ
実である。そのため経営側は経営トップの
とが重要であると思われる。
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