コテングコウモリの採集記録 A record of Ussuri tube-nosed bat

石川県立自然史資料館研究報告 第1号
Bulletin of the Ishikawa Museum of Natural History, 1: 35-36 (2011)
コテングコウモリの採集記録
水野昭憲・作本達也
A record of Ussuri tube-nosed bat, Murina ussuriensis, from Ishikawa Prefecture
Akinori MIZUNO and Tatsuya SAKUMOTO
キーワード:コテングコウモリ 石川県 記録
Keywords: Murina ussuriensis, Ishikawa Prefecture, record
間で飛翔し,葉上に静止する昆虫類も捕食する(阿
2010 年 8 月 28 日の夜間に,石川県白山市桑島の
部 , 2005).今回発見した個体は,街灯に集まる昆
集落内(標高 470m)で,地上に落下しているコテ
虫を求めて家屋に近づき,事故にあったものと見ら
ングコウモリ Murina ussuriensis Ognev(コウモリ
れる.
目ヒナコウモリ科)を採集した.衰弱して飛べない
採集したコテングコウモリの計測値は以下のとお
状態であり,その後死亡した.
りであった.
一般にこの種は,昼間は樹洞,樹皮の間隙,落葉
性別
♂
の下,洞穴内,家屋内で見つかっていて,夜間に樹
前腕長(右)
29.4mm
尾長
32.4mm
耳介長(右)
12.7mm
耳珠長
7.8mm
体重
5.6g
A
採集の状況
S
E
コテングコウモリは液浸標本として,石川県立自
WAJIMA
JA
P
A
N
然史資料館に保存する.
考察
NANAO
コテングコウモリは,シベリア東部から東北部,
サハリン,千島列島,朝鮮半島,日本では北海道か
TOYAMA
ら屋久島まで分布するが,西日本での記録は少な
い.(阿部 , 2005; コウモリの会 , 2005).日本産を
KANAZAWA
別種とすることもある(Yoshiyuki, 1989).
これまでに石川県では,白山で休眠中の個体と,
Kuwajima
中宮温泉で網にかかった個体が観察されていた(佐
TAKAYAMA
図 1 コテングコウモリ採集地
区画と地名は国土地理院発行 1/200000 地形図名
野・上馬 , 1981; 山本 , 1990; 石川県哺乳類研究会 ,
1999; 山本ほか , 2005).石川県での明確な記録とし
ては 3 例目であり,初の標本になると思われる.
コテングコウモリは,「日本産の絶滅のおそれ
石 川 県 立 自 然 史 資 料 館, 〒 920-1147 石 川 県 金 沢 市 銚 子 町 リ 441 Ishikawa Museum of Natural History, Ri-441, Choshi-machi,
Kanazawa, Ishikawa 920-1147, Japan
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水野昭憲・作本達也
図 2 開翼全身
図 3 頭部
のある野生生物」(環境省自然保護局野生生物課,
れのある野生生物(いしかわレッドデータブッ
1991) で は, 日 本 産 の も の を 固 有 の 亜 種, ニ ホ
ク)<動物編> 2009. 石川県環境部自然保護課 ,
ンコテングコウモリ(Murina ussuriensis silvatica
金沢 .(CD-ROM)
Yoshiyuki)として絶滅危惧 II 類(VU)に挙げられ
石川県哺乳類研究会(編)
(1999)
.石川県の哺乳
ていたが,生息確認情報が集まり , その分布域も広
類 . 石川県環境安全部自然保護課 , 金沢 , 141 pp.
いことから,2007 年の改訂で除外された(環境省
環境省自然保護局野生生物課(1991).日本の絶滅
自然環境局野生生物課 , 2010).石川県では,初回
のおそれのある野生生物(脊椎動物).自然環
の「いしかわレッドデータブック<動物編>」(石
境研究センター , 東京 , 340 pp.
川県 , 2000)で選出されて以来,準絶滅危惧種とさ
れている.
いしかわレッドデータブック<動物編>(改訂
版)(石川県 , 2009)では,絶滅危惧 I 類に 4 種,絶
環境省自然環境局野生生物課(2010).改訂レッド
リスト付属説明資料 哺乳類 . 環境省 , 14 pp.
コウモリの会(編)(2005).コウモリ識別ハンド
ブック.文一総合出版 , 東京,68 pp.
滅危惧 II 類にコテングコウモリ等 7 種のコウモリ類
佐野明・上馬康生(1981).白山地域に生息する翼
が挙げられているが,いずれも石川県では記録がき
手類について . 石川県白山自然保護センター研
わめて少ないものばかりであり,今後とも哺乳類相
究報告 7: 23-29.
の重要な要素として,注目する必要がある .
山本輝正(1990).石川県のコウモリ . 石川の生物
編集委員会(編),石川の生物 , pp. 137-142, 石
引用文献
阿部永(編)(2005).日本の哺乳類 . 東海大学出版
会 , 秦野市 , 206 pp.
石川県(編)(2000).石川県の絶滅のおそれのあ
る野生生物(いしかわレッドデータブック)<
動物編> . 石川県環境部自然保護課 , 金沢 , 155
pp.
石川県(編)(2009).改訂・石川県の絶滅のおそ
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川県高等学校教育研究会生物部会 , 金沢 .
山本輝正・上馬康生・野崎英吉(2005).石川県白
山地域のコウモリ相調査- 1998 年~ 2005 年の
調査結果より . 石川県白山自然保護センター研
究報告 32: 25-30.
Yoshiyuki, M. (1989). A systematic study of the
Japanese Chiroptera. National Science Museum
Monographs 7: 1-242.