2

Moduli space of Del Pezzo surfaces of degree
2
名古屋大学大学院多元数理科学研究科
曽根寿久
平成 20 年 7 月 31 日
目次
1
Introduction
i
2
ガウスの整数環上の Hodge 構造
ii
3
周期写像の構成
iv
概要
次数が 2 の Del Pezzo 曲面のモジュライ空間が 6 次元の複素双
曲空間の商の構造を持つことが周期写像を使って証明される. この
報告書では周期写像の構成方法のみを説明する.
1
Introduction
この報告書の目的は周期写像を通して, 次数 2 の Del Pezzo 曲面のモ
ジュライ空間が 6 次元の複素双曲空間の商と同型であることを説明する
ことである. Del Pezzo 曲面の Hodge 構造は自明であるから通常の周期
写像は定数写像である. それにもかかわらず 重み付き射影空間の巡回被
覆を考え, その Hodge 構造を使用することでモジュライ空間の研究の強
力な道具をつくり出せる. この報告書では周期写像の構成方法のみを説
明するが, 構成しただけではその価値がわからないので以下に主要な結果
を述べる.
i
次数 2 の Del Pezzo 曲面のモジュライ空間は非特異平面 4 次曲線のモ
ジュライ空間と同型である. 一方, Mumford は [4] において平面 4 次曲線
のモジュライ空間を構成している. Mss を半安定な平面 4 次曲線のモジュ
ライ空間, Mss を double conic (XY − Z 2 )2 = 0 に対応する点における
Mss のブローアップとする. Ms を安定な平面 4 次曲線のモジュライ空
間とし, Mss から Mss − Ms の強変換を引いたものを Ms とする. M0
を非特異平面 4 次曲線のモジュライ空間とする. 次の定理が主要な結果で
ある.
Theorem 1 周期写像
℘ : Ms → B 6 /P Γ
は双正則同型写像である. そして, この写像は Ms と (B 6 − Hn )/P Γ を
同一視し, M0 と (B 6 − (Hn ∪ Hh ))/P Γ を同一視する. ここで, Hn と Hh
はある種の超平面の和集合である. さらに, 周期写像は Mss から佐武コ
ンパクト化 B 6 /P Γ への同型射に拡張される.
また, 金銅 [3] では全く別の方法で次数が 2 の Del Pezzo 曲面のモジュ
ライ空間から 6 次元の複素双曲空間の商への周期写像が作られている. こ
の報告書で構成されている周期写像は金銅先生が提案されたアイディアを
もとに, Allcock, Carlson, Toledo が [1] ,[2] において使用した道具を使っ
て構成した物であるが二つの周期写像の間の関係はまだ完全にはわかっ
ていない.
2
ガウスの整数環上の Hodge 構造
非特異有理曲面 X は −KX が豊富なとき del Pezzo 曲面と呼ばれる. こ
2
こで, KX は X の標準因子とする. 標準因子の自己交点数 KX
を del Pezzo
2
曲面 X の次数と呼ぶ. 次数が 2 の時, | − KX | : X → P は X を非特異平面
4 次曲線で分岐する P2 の二重被覆として実現する. 逆に, このような二重
被覆は全て次数 2 の del Pezzo 曲面である. したがって, 次数 2 の Del Pezzo
曲面は重み付き射影空間 P(1, 1, 1, 2) において f (x1 , x2 , x3 ) + y 2 = 0 とか
ける. ここで f (x1 , x2 , x3 ) は斉次 4 次式であって, 次数 2 の Del Pezzo 曲
面の同型類と, 対応する非特異平面 4 次曲線の同型類は 1 対 1 に対応する.
したがって, 非特異平面 4 次曲線のモジュライ空間を次数 2 の Del Pezzo
曲面と同一視しても良い.
ii
del Pezzo 曲面の Hodge 構造は自明であるから別の代数多様体の Hodge
構造を考える必要がある. X を次数 2 の Del Pezzo 曲面 f (x1 , x2 , x3 )+y 2 =
0 に対して, P(1, 1, 1, 2) の X で分岐する 4 次の巡回被覆 V を対応させ
る. V は P(1, 1, 1, 2, 1) において, f (x1 , x2 , x3 ) + y 2 + z 4 = 0 で定義され
る超曲面である. V の Hodge 数は
hi,j i = 0 i = 1 i = 2 i = 3
j=0
1
0
0
0
j=1
0
1
10
0
j=2
0
10
1
0
j=3
0
0
0
1
(1)
√
自己同型射 g : V → V を (x1 , x2 , x3 , y, z) → (x1 , x2 , x3 , y, −1z) によ
り定義する. g は cohomology H 3 (V, Z) の自己準同型 σ = H(g) を誘導す
る. σ 4 = id が成り立つ.
3
3
H3(1) (V, Z) = Ker(σ − 1), H(2)
(V, Z) = Ker(σ + 1), H(4)
(V, Z) = Ker(σ 2 + 1)
と定義する. このとき次の式が成り立つ,
H ⊗ Q = H(1) ⊗ Q ⊕ H(2) ⊗ Q ⊕ H(4) ⊗ Q.
√
3
H(4)
(V, Z) の各元に対して −1 の作用を σ で定義することにより,
√
3
H(4)
(V, Z) にガウスの整数環 Z[ −1] 上の加群の構造をいれることがで
√
きる. この Z[ −1]- 加群を Λ(V ) と書く. Λ(V ) 上の Hermitian form を,
√
h(x, y) := −H(g ∗ (x), y) − −1H(x, y), x, y ∈ Λ(V )
と定義する.
√
Theorem 2 Λ(V ) は以下のような行列で表わされる Z[ −1]-格子と同型
である :





Λ := 




√
−2
1 + −1
0
0
0
0
√
√
1 − −1
−2
1 + −1
0
0
0
√
√
−2
1 + −1
0
0
0
1 − −1
√
√
0
0
1 − −1
−2
1 + −1
0
√
√
0
0
0
1 − −1
−2
1 + −1
√
0
0
0
0
1 − −1
−2
iii





⊕[−2]




この定理は複素モース理論 (Picard-Lefschetz 理論) を使って証明するこ
とができる. この定理から (Λ(V ), h) の符号は (1, 6) である.
3
周期写像の構成
Definition 1 X を次数 2 の del Pezzo 曲面, V を P(1, 1, 1, 2) の X で分
√
岐する 4 次の巡回被覆とする. この時, Z[ −1]-linear isometry
λ : Λ → Λ(V )
を X の framing と呼ぶ. ここで, Λ は直前の定理で定義した Hermitian
√
form である. Z[ −1] の unit の積の差しかない時, 2 つの framing は同一
視する.
次数 2 の del pezzo 曲面の isomorphism
u : X → X′
は対応する 巡回被覆 の isomorphism
v :V →V′
により引き起こされる. v に g ±1 をかけても, 同じ u が得られる. v は
√
isometry Z[ −1]-linear
v ∗ : Λ(V ) → Λ(V ′ )
√
を引き起こす (well-defined modulo multiplication by Z[ −1]).
X の framing λ に対して、λ := v ∗ ◦ λ は X ′ の well-defined な framing で
ある. そしてこの時, 次数 2 の framed del Pezzo 曲面 (X, λ), (X ′ , λ′ ) は同
型であると言う.
˜ 0 :=the isomorphism classes of framed del pezzo surfaces of degree
M
2
√
Γ := P U (Λ) = U (Λ)/Z[ −1]∗
˙ λ) = (S, λ ◦ γ −1 ) と定義する.
˜ への作用を γ (X,
γのM
3√
3
ι : Λ(V ) → Λ(V ) ⊗Z C ∼
= H√
−1 ⊕ H− −1
iv
を自然な包含写像とする.
3
3√
3
√
π : H√
−1 ⊕ H− −1 → H −1
を自然な射影とする.
3
Z := π ◦ ι : Λ(V ) → H√
−1
と定義する. この時 Z は isometric embedding である.
˜ 0 /Γ である. framed del
次数 2 の del pezzo 曲面の moduli 空間 M0 は M
pezzo (X, λ) が与えられたとき, isometric isomorphism
1,2
2,1
τ := Z ◦ λC : Λ⊗Z[√−1] C → Λ(V )⊗Z[√−1] C → H√
(V ) ⊕ H√
(V )
−1
−1
2,1
により, Λ⊗Z[√−1] C の超平面 τ −1 (H√
) が与えられる. 周期写像
−1
˜ 0 → B6
℘˜ : M
2,1
(V )) を対応させる写像として定義する. こ
を (S, λ) に対して, τ −1 (H√
−1
√
こで, B6 := {U ⊂ Λ⊗Z[ −1] C : U は 1 次元部分空間, h|U が負定値 }. 周期
写像 ℘˜ は, 写像
℘ : M0 → B 6 /Γ
を引き起こす. この写像も周期写像と呼ぶ.
参考文献
[1] Daniel Allcock, James A. Carlson, Domingo Toledo, The complex
hyperbolic geometry of the moduli space of cubic surfaces. J. Algebraic Geom. 11 (2002), no. 4, 659–724.
[2] Daniel Allcock,
James A. Carlson,
Domingo Toledo,
The Moduli Space of Cubic Threefolds as a Ball Quotient,arXiv:math.AG/0608287.
[3] S. Kondo, A complex hyperbolic structure for the moduli space of
curves of genus 3, J. Reine Angew. Math. 525 (2000), 219–232.
[4] Mumford, D. (1965). Geometric Invariant Theory. Berlin: SpringerVerlag.
v