萱島東地区における住環境整備に伴うコミュニティの変容 - 神戸大学建築

萱島東地区における住環境整備に伴うコミュニティの変容
-萱島祭りを事例として-
Changes in community development with residential district in Azuma Kayashima
- The Case of the festival Kayashima ○酒井 光*1、山崎 寿一*2
Hikaru Sakai, Junichi Yamazaki
Kayashima District in Neyagawa, Osaka Prefecture 10 years ago, has been an issue that has
remained more wooden houses for rent. However, a comparable city in the past few years has been
transformed into a variety of thorns. To give some examples in Neyagawa City, residential
development is made, wooden rental housing is demolished several houses that were built brand
new. In this study, changes like these, suggesting that the impact on local communities, A Case
Study of the festival Kayashima Among the events on the various communities in Neyagawa City,
we investigated a change in 10 years . In this study, The residential development has been made in
recent years by considering the impact of community building, analysis of the ideal living
environment-friendly residential development in areas of inheritance and traditional communities
to achieve sustainable community par And you're considered.
キーワード:密集住宅地区整備,コミュニティ,萱島祭り,
Keywords: Dense residential area maintenance, community festivals Kayashima,
1.はじめに
近年行われている住環境整備が、コミュニティ形成に与
(1)研究の背景と目的
える影響を検討することによって、持続可能なまち並み
大阪府寝屋川市萱島東地区において、10年前までは
を実現するための従来のコミュニティ継承や地域の住環
多くの木造賃貸住宅が残っており問題視されてきた。と
境に配慮した住環境整備のあり方を分析し、考察してい
ころが、
ここ数年でまち並みが様々な変貌をとげている。
る。
例として、寝屋川市において住環境整備が行われること
(2)既往の研究
で、いくつかの木造賃貸住宅が取り壊され、新築の住宅
寝屋川市萱島東地区において、木造賃貸住宅の状況、
が建てられていることや、このことにより、約 200 ㎡の
特に空き家や景観に関する研究、および、スプロール地
敷地に1棟10~20戸程度入っていたものを、2~3
域内の道路形成に関する研究は盛んに行われているが、
戸の新築住宅への建て替えが主流となり、景観が変化し
この地区の住環境整備が行われている現在の分析、考察
てきていることが挙げられる。また、この萱島東地区に
はあまりされていない。
ある、アーケードのある商店街の急速な衰退や、人口の
変化もこの10年で顕著に見られる。
本研究は、昭和33年以降に、人口スプロールを生み
出し、木造賃貸住宅が大量に建てられたこの寝屋川市の
そこで本研究では、これらのような変化が、地域のコ
現在の変容が、従来のコミュニティ形成に与える影響を
ミュニティに影響を与えていると考え、寝屋川市の様々
分析、考察することで、住環境整備とコミュニティのあ
なコミュニティに関する行事の中でも萱島祭りを事例に
り方の特性を捉えるものである。
し、
ここ10年で変化したことを調査した。
この調査で、
*1
*2
神戸大学工学部建築学科 4回生
神戸大学工学研究科 教授 博士(工学)
*1 4th year of Engineering, Kobe University Department of Architecture
*2
Kobe University Graduate School of Engineering, Professor Dr.
(Engineering)
2.研究の方法
整備地区名
町名一覧
今回の調査では、特に寝屋川市萱島東2丁目の自治体
が行うふれ愛祭りと称される子どもみこしに参加した。
香里地区
この子どもみこしは、復興して30年の歴史を持つ萱島
神社に奉納するために行われるもので、子供みこしも3
0年の歴史を持ち、この地区に住む約1,500人の内
205人が参加した。この萱島祭りに参加することで、
地域住民にヒアリング並びに調査を行った。
また、この萱島祭りの調査をベースとし、現在この地
区で行われている住環境整備をまとめ、萱島地区のまち
寝
屋
川
地
区
の変容を分析し、そして、ここ10年でこの地区に移り
重
点
整 池田・大利地
備
区
地
区
面積
(ha)
香里西之町、香里北之町、香里新
町、香里南之町、松屋町、寿町、
133.0
田井西町、田井町、音羽町(一部)、
緑町(一部)
大利町、大利元町、東大利町、北
大利町(一部)、錦町、池田南町、
池田旭町、池田東町(一部)、池田
本町(一部)、長栄寺町、桜木町(一 66.0
部)、清水町(一部)、成美町(一
部)、高柳 栄町(一部)、高柳一丁
目(一部)
萱島桜園町、萱島東一丁目、萱島
東二丁目、萱島東三丁目(一部)、
48.7
萱島東地区
萱島本町、萱島南町、下木田町(一
部)、南水苑町(一部)
住んだ住民を特に取り上げ、その方々が従来からある地
域のコミュニティ行事に溶け込めているのかを、調査し
た。
その他地区
(京阪本線側道等)
面積計
3.寝屋川市における住環境整備の実施概要
8.7
256.4
表1 密集住宅地区
(1)寝屋川市密集住宅地区整備
寝屋川市では、老朽化した木造賃貸住宅等が密集して
いる密集住宅市街地の住環境改善の為に、
「密集住宅地
事業概要
①
主要生活道路の整備
区整備要綱」
(旧:過密住宅地区整備要綱)を昭和 59 年
4 月 1 日に制定し、生活道路等の改善、木造賃貸住宅等
の良好な建替え促進等を行っている。また、整備地区内
では、整備計画に基づいて建替えの相談・指導や共同建
替計画の作成、
良好な建替事業などに補助を行っている。
ここで上げられている密集住宅市街地は、右図1と表
○主要生活道路は、歩車共存道路(2 車線対面)として整備し、
消防車等の緊急車輌の進入や、地区内の通行を円滑にするための
ルートです。
○主要生活道路は幅員 6.7m を標準とし、計画のある道に沿った建
物が建替えられる際に、道路用地をそのつど生み出し、順次、整
備を進めていきます。
○主要生活道路沿いでは、現況の道路中心線から 3.35m 後退して
建物を建てるようにし、そのうち義務負担分をこえる部分につい
ては、市が買収します。
②広場・公園の整備
○住宅の共同建替等にあわせて広場、公園の整備を図ります。
③文化住宅・木造アパートの改善
1で示す地域である。
○老朽化した木造賃貸住宅等は、経営者による共同建替等を促進
し、生活道路の整備・広場の確保など一体的に公共施設整備を図
ります。
図1 密集住宅地区
図2 密集住宅地区整備事業概要
(2)密集住宅地区整備がコミュニティに与える影響
主要生活道路の整備による道幅の拡大は、車の交通量
を増加させる要因となり、コミュニティ形成の場(道端)
を減尐させることにつながる。しかし、この道の整備と
平行して公園や広場の整備を行うことで、コミュニティ
スペースを新たに設け、負の要素を相殺し、また、文化
住宅・木造アパートの改善を行うことで、新しくこの地
域に人を呼び込み、新たなコミュニティ形成の要因を生
み出している。このように、住環境整備をこの3つの要
素を同時に行うことで、コミュニティ形成の場を保ちつ
写真1 あやめ公園
つも、住環境を改善することを試みているのが分析でき
る。
(図3参照)
4.萱島祭り
(1)萱島祭りの歴史と概要
寝屋川市萱島駅の大阪方面ゆきホーム中央には幹周り7
m、高さ20m、樹齢700年ともいわれる楠の大木が高架
駅の屋根を突き抜けてそびえたっている。このクスノキは、
高架複々線化の工事にあたり伐採する予定でしたが、
大正末
期まで地元の人たちからご神木として崇められ、また、保存
を望む声も多かったため残されたものである。
同駅は昭和58年、近代建築と大樹の見事な組み合わ
せにより、
第三回大阪府都市景観建築賞奨励賞を受賞し、
平成13年には、近畿運輸局より「近畿の駅百選」に認
定された。クスノキの大木は、平成元年「大阪みどりの
百選」に選ばれたのである。
この萱島地区は、江戸時代の中ごろまで寝屋川の河原
で萱島とよばれるように、カヤやアシの生い茂った中洲
であった。こうした中州が開墾されて萱島流作新田がで
き、萱島の大くすは、人々の生活とともに大地に根を張
ってきたのである。
この神木であるクスノキの大木に、昭和55年に復興
されたのが現在も残る萱島神社で、
この復興を記念して、
神社に子どもみこしを奉納するふれ愛まつりが行われる
図3 整備事業とコミュニティ
ようになったのである。
上記のことは、この地区のまちを歩いていると感じ取
れることで、例えば、2009年に完成した、この地区
の中心を走る萱島中央商店街沿いに作られたあやめ公園
を覗けばよくわかる。近年できた新築の前の道は、広い
がゆえに、子どもたちなどのコミュニティ形成の場には
ならず、近くにできた人の気配を感じられるこの公園に
集まりよく遊んでいる。また、子どもの声があれば、近
くのお年寄りの方や親御さんも集まり、絶好のコミュニ
ケーションの場となっている。
写真2 集合写真
このふれ愛まつりは、各丁の自治会単位で、その丁の
2つ目に気づいたことは、このみこしで町内を巡行し
子どもたちがみこしを担ぎ、自分たちのまちをまわるも
ているときに、あたたかい声をかけてくださる方の顔ぶ
ので、
2日間にわけて行われる。
1日目の7月24日は、
れである。町内を回っていると、文化のアパートや木造
午後1時半より町内を巡行し、2日目の7月25日は、
の一戸建て、新築の住宅と様々な住宅の前を通るのです
12時半から町内を巡行し、各丁ごとに萱島神社に宮入
が、
参加させていただいた2日間で、
新築の住宅の方で、
りする。この町内を巡行している間は、子どもたちが元
子どもたちの元気な掛け声や太鼓の音に呼ばれ表まで出
気に掛け声をあげ、また1ヶ月ほど前から練習に励んだ
てきてくださった方は、1人もいなかった。もちろん、
小学校高学年の子どもが、太鼓をみこしの上で鳴らしな
新築の住宅に住まわれている方の中には、みこしに参加
がら、町内に活気のある音を響かせる。
してくださっている方も、いらっしゃったのだが、とて
この声や太鼓の音につられ、町内の人は、家から顔を
も残念であった。コミュニティ形成の観点からみると、
のぞかせ、あたたかい声をかけてくださるのである。
まだまだ、新しくこの地区の住まわれた方が、地域のコ
(2)ふれ愛まつりにおける分析、考察
ミュニティに積極的な姿勢の方が尐ないことが、感じと
今回萱島東2丁目自治会のふれ愛まつりに参加し調査
れた。
するにあたって、気づいたことがいくつかある。まず初
めに、10年前この萱島東2丁目の人口は、1,806人
であったが、現在は1,556人にまで減尐している。つ
まり、250人もの人が、この10年で減尐しているの
である。この人口減尐は、寝屋川市全体で見ても顕著に
表われている。10年前は人口が254,542人、平均
年齢39,89歳であったのに対して、現在は人口が2
42,342人、平均年齢44,31歳となっている。こ
のことは、人口集中の起爆剤となっていた木造賃貸住宅
の減尐が要因の1つであると考えられる。しかし、今回
写真4 新築住宅前
自治会の方々にヒアリングしてみると、木造賃貸住宅の
かわりに、新築の住宅が増えたことによって、若い世帯
の子どもがいる家庭が増えることで、ふれ愛まつりのよ
うな行事に参加する子どもが増えてきていると言うので
ある。このことは、密集住宅地区整備における良い効果
であると言えるが、
一方で、
仕事に忙しい若いご主人が、
地域の行事にあまり関心がなく、数年同じ顔ぶれの男性
しか、行事に参加しておらず、男性の行事参加者の高齢
化進んでいることも、現在の問題として分かった。
写真3 大人の方の集合写真
写真5 木造戸建住宅前
写真6 文化住宅前
3つ目に気づいたことは、2 つ目のことと、共通する
A
ことなのだが、お花代(ご祝儀)に関してのことである。
今年のまつりでは、140人の方から、物品10点と3
65,500円の寄付をいただいたようだ。はっきりとし
た人数を、自治会の方からヒアリングすることはできな
かったが、新しくこの地区に住まわれた方からのお花代
は、
尐なかったようである。
このふれ愛まつりの費用は、
すべて地域住民の方のお花代で賄っているそうで、お花
代をわたす人たちの地域の心のあたたかさで、30年の
伝統が守られていることがわかった。
○いつでも交流あり。理想の関係。
B
○祭りなど行事のときのみ交流あり。
写真7 お花代を渡す住民
C
5.まとめ
(1)今回の研究で得られた知見
寝屋川市の密集住宅地区整備において、①主要生活道
路の整備、②公園・広場の整備、③文化住宅・木造アパ
ートの改善の3つが連携して良い形で、従来からこの地
区に住む住民並びに、近年新しくこの地域に住み始めた
住民のそれぞれにとって、コミュニティ形成に良い影響
を与えるものである可能性が高いことが図3の整備事業
とコミュニティによって示せた。
また、萱島祭りの調査においては、このような寝屋川
○交流なし。
D
市の密集住宅地区整備が行われている現状において、従
来からこの地区に住む住民と、近年新しくこの地域に住
み始めた住民による3つのパターンのコミュニティ形成
を確認することができたので、図表4にまとめる。
図表4において、A はハレとケ(行事などの時と私生
活)のどちらの場合においても、従来からこの地区に住
んでいる方とここ10年間でこの地区に移り住んできた
方の間で交流がある状態である。この状態は祭りの時に
参加者の間で、私生活についての世間話をしているのを
聞き、発見しました。コミュニティ形成の観点からは、
この状態が理想であると考えられる。次に B は、祭りな
○私生活では交流あり。
*注)今回の調査では確認できなかった。
図表4 コミュニテイ形成の分類
どの行事の時のみ両者の間で交流がある状態である。こ
の状態は、私生活で共通の接点がない間柄で起こる状態
で、祭りでは主に、近年新しくこの地域に住み始めた若
い住民と従来からこの地区に住むお年寄りの間で確認で
きた。C の状態は、両者の間で全く交流がない状態であ
るが、みこしの町内巡行時に新築の住宅に住まわれてい
る方が、みこしが家の前を通っても、一目見に表に出て
こなかったことより確認できた。最後に、D の状態で、
私生活の時のみ交流がある状態だが、今回の調査では確
認することができなかった。
(2)考察
今回寝屋川市萱島東を調査することで、まだまだ、近
年のコミュニティ形成の変容に、完璧に地域住民がなじ
んでいるとは言えないが、寝屋川市の密集住宅地区整備
は、コミュニティ形成の観点からも良い影響を孕むもの
で、地域の住環境はより良い形のものへと変貌をとげる
と考えられる。
今回の調査では、従来からこの地区に住んでいる方と
ここ10年間でこの地区に移り住んできた方の間の、私
生活時の交流関係が育まれているのかについは確認でき
なかった。このことで、両者に近所はどこまでであるか
のアンケート調査をして、両者のテリトリーを明らかに
することで、そのテリトリーが重なっているか否かの研
究の必要性が感じられた。
参考文献
1)武永康生:スプロール地域内の道路形成に関する研究、神戸大学大
学院工学研究科修士論文、1981.2
2)首都圏総合計画研究所、まちつくり研究 13 春季号 特集・木賃住宅、
同時代社、1982.3
3)萱島東二丁目 自治会だより、萱島東二丁目自治会、2010.6、2010.8
4)広報ねやがわ、寝屋川市経営企画広報広聴課、2010.8、2010.9
謝辞
本調査研究に際して、萱島東二丁目自治会の皆様のおかげで、萱島祭
りに参加させていただきヒアリングさせていただけたこと、並びに、山
崎教授に日ごろからご指導、ご助言を賜わりました。ここに記し深く感
謝の意を表します。