<報道担当・問い合わせ先> (問い合わせ先) 独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター 神経蛋白制御研究チーム シニアチームリーダー 西道 隆臣(さいどう たかおみ) 副チームリーダー 斉藤 貴志(さいとう たかし) TEL:048-467-9715 FAX:048-467-9716 脳科学研究推進室 TEL:048-467-9757 FAX:048-462-4914 (報道担当) 独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当 TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715 独立行政法人科学技術振興機構 広報課 TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432 <補足説明> [1] アミロイドβペプチド(Aβ) アミロイド前駆体タンパク質からプロテアーゼ により切断されて産生される生理的ペプチド。ア ルツハイマー病で見られるアミロイド斑の構成 成分として発見されたことから、この過剰な蓄積 がアルツハイマー病発症の引き金と考えられて いる。Aはアミノ酸の長さで種類が分類されて おり、A1-40、A1-42 が同定されており、A1-42 が最も神経毒性が高いとして解析が行われてき た。最近、アミノ酸の長さが異なる A亜種の存 在が報告されている。 [2] アミロイド前駆体タンパク質(APP) APP は Amyloid precursor protein の略。Aの前駆体タンパク質で、家族性アルツハイマ ー病の場合、多くの遺伝子変異が同定されており、その変異により Aの産生が増加するこ とが知られている。逆に、遺伝子変異により Aの産生が抑えられ、アルツハイマー病を発 症しにくいケースも報告されている。このことからも、アルツハイマー病の発症には、A 4 の蓄積が引き金になっていることが推察される。 [3] ノックイン技法 遺伝子組み換え法の 1 つで、標的遺伝子の目的とする塩基のみを置換する方法。トランス ジェニックのように過剰発現を行わず、また、ノックアウトのように遺伝子を欠損させる こともない、最も人為的でない方法。 [4] アルツハイマー病の遺伝子変異 家族性アルツハイマー病の遺伝子変異は、これまで多くの変異が見いだされているが、そ のほとんどが APP か APP から Aを産生する際に作用する酵素のどちらかに変異が同定さ れている。これら変異のほとんどは、脳内で A42 の産生・比率を増加させる効果を示す。 第二世代 APP マウスには、Aの産生量を増加させる効果を持つ Swedish 変異、および既 知のアルツハイマー病変異の中で最も A42 の産生比率を増加させる Iberian 変異を導入 している。また、第三世代 APP マウスには、上記 2 つの変異に加え、Aの凝集性が高ま り、A分解酵素に対する分解耐性も獲得する Arctic 変異も同時に導入している。 [5]ターゲッティングベクター ゲノム中の特定の標的遺伝子配列に変異を導入させたり、欠損させたりするために相同組 み換えを行うためのベクター。目的とする遺伝子変異(今回は、Swedish 変異、Iberian 変異)を有する遺伝子配列を組み込んだベクターを ES 細胞(胚性幹細胞)へ導入するこ とで、相同組み換えを行った。 [6]内因性阻害物質 化学合成または微生物等から精製した阻害物質ではなく、もともと生体内にある阻害物質。 5 図 1 第一世代:APP 過剰発現マウスの問題点 APP 過剰発現マウスは、野生型マウスに対して約 10 倍の APP を非生理的に発現している。A は、酵素の作用により、APP の①切断部位次いで②γ 切断部位の順に切断を受け産生されるが、 A以外の断片(緑線部: sAPP や CTF-b、AICD)も非生理的に産生される。これら断片には、さ まざまな生理機能が報告されているため、APP を過剰発現させることは、A以外の機能断片も過 剰に産生させることになる。そのため、APP 過剰発現マウスの表現型は、純粋に Aの毒性によ るものだけでなく、さまざまな複合効果の現れであり、アルツハイマー病のモデルマウスとして 適切だとは言い切れない。 6 図 2 アルツハイマー病患者と APP 過剰発現マウスのアミロイド斑の比較 APP 過剰発現マウスの脳内に蓄積している Aの主種(Ax-40)と患者の脳に蓄積している A の種(Ax-42)は異なるため、ヒトのアルツハイマー病のモデルとして適切だとは言い切れない ことが分かる。 7 図 3 次世代型アルツハイマー病モデルマウス作製のためのコンセプト Aは、酵素の作用により、APP のβ切断部位次いでγ切断部位の順に切断を受け産生される。第 二世代 APP マウスは、A産生量を増加させる Swedish 変異及び Ax-42 の産生比率を増加させ る Iberian 変異を導入し、更に、マウスの A配列は凝集を示さないため、A配列のヒト化を同 時に行ったマウスである。第三世代 APP マウスは、上記変異に加えて家族性アルツハイマー病の 遺伝子変異の 1 つ Arctic 変異も導入したマウスである。 8 図 4 第二世代 APP マウスの脳のアミロイド斑、神経炎症および学習能 (A)第二世代 APP マウスのアミロイド斑は、患者と非常に類似していた。 (B)第二世代 APP マウスは、神経炎症(青:A、赤:ミクログリア、緑:アストロサイト)を 示した。 (C)第二世代 APP マウスは、18 カ月齢から学習能が低下していた。 9 図 5 カルパスタチン欠損によるアルツハイマーモデルマウスの寿命の変化 APP 過剰発現マウスは、30 週齢を過ぎた頃から原因不明の突然死を起こす。また、カルパスタ チンを欠損することで、急激な短命化を引き起こすが、その原因は不明である。一方、第二世代 マウスは、カルパスタチン欠損の有無にかかわらず、短命化は起こらない。すなわち APP 過剰発 現マウスは非常に人工的なマウスであると言える。 10 図 6 第三世代 APP マウス脳のアミロイド斑、神経炎症および学習能 (A)第三世代 APP マウスは、2 カ月齢からアミロイド斑の蓄積を示した。 (B)第三世代 APP マウスは、第二世代 APP マウスよりも激しい神経炎症(青:A、赤:ミク ログリア、緑:アストロサイト)を示した。 (C)第三世代 APP マウスは、6 カ月齢から学習能が低下していた。 11
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