単径間中小吊橋の構造特性とたわみ制限に関する検討 - 土木学会

I-686
土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月)
単径間中小吊橋の構造特性とたわみ制限に関する検討
神戸製鋼所
正会員
神戸製鋼所
正会員
○内藤 純也
塙
神戸製鋼所
神戸製鋼所
洋二
正会員
コベルコ科研
峰地 慎一
広沢 正雄
穐山 正幸
大阪大学大学院 フェロー 西村 宣男
1.まえがき
吊橋はその構造的な特徴から,300m 以上の支間で経済的な優位性を発揮する橋梁形式であるが,局地的
な状況や景観上の観点から支間 300m 以下でも吊橋が採用される場合も少なくない.
比較的長径間の吊橋補剛桁は,自動車などの集中荷重によって生じる局所的なたわみに対する曲げ剛性を
補うとともに,耐風安定性の問題からねじり剛性あるいは空力特性が重要となる.一方,支間の短い吊橋で
は,補剛桁自体の曲げ剛性が吊橋全体の曲げ剛性に寄与することが知られている
1)
.また,道路橋を対象と
2)
した吊橋の設計は,中小規模に対しては道路橋示方書 ,長大橋に対しては本四の上部構造設計基準 3)を準
用できるが,たわみの許容値やケーブル安全率に関する規定に違いが見られる.
本報告では,中央径間の異なる単径間吊橋の試設計を行い,補剛桁の曲げ剛性と吊橋全体の曲げ剛性との
関係およびたわみ制限と吊橋の構造諸元との関係について検討を行った.
2.試設計条件
表-1
表-1 に試設計に用いた条件を示す.中央径間を 150m~800m とし,
ハンガー間隔,ケーブル間隔,サグ比,主塔断面は一定の値を用い
た.また,補剛桁断面は 2 箱桁,パイプトラス桁の 2 種類を設定し
た.吊構造部の重量については,吊橋全体のたわみに大きく影響す
中央径間長
ハンガー間隔
ケーブル間隔
有効幅員
サグ比
試設計条件
150m~800m
12.5m
13.75m
11.35m(車道 2,歩道 1)
ることと選定する床版形式によっても異なるため,試設計を行う上
主塔断面
で独立した変数として取り扱うこととした.設計活荷重は B 活荷
重 2)とし,中央径間 500m 以上は上部構造設計基準 3)に従って分布
荷重(群衆荷重を含む)を低減した.また,設計風荷重として基本
風速 40m/sec を考慮した.主ケーブルは ST1570 のストランドを想定
し,安全率は 2.5 一定とした.試設計における断面力,たわみの算
出には,幾何学的非線形性を考慮した立体有限変位解析を用いた.
3.中小支間吊橋の構造特性
補剛桁断面 1
(2 箱桁)
補剛桁断面 2
(パイプ
トラス桁)
2.で設定した条件に加えて,最大たわみが道路橋示方書のたわ
重量
みの許容値 L/350 以下となるように吊構造部重量を設定した.図-1
に単径間吊橋のたわみと力学パラメータとの関係
ロットを示す.図-1 中の縦軸は幾何剛性を考慮し
た単径間吊橋のたわみδ1 を補剛桁剛性のみを考
慮した単純梁のたわみδ2 で除した無次元たわみ
である(δ1:弾性理論に基づく基礎方程式から算
出される等分布荷重が作用する単径間吊橋の支間
中央でのたわみ 4)).横軸は単純梁の幾何剛性と曲
げ剛性の比を表す力学パラメータである.図-1 で
は,水平張力 Hd が両軸の無次元表示に含まれてい
るので,力学パラメータ µL の変化は曲げ剛性 EI
の変化と考えてよく,力学パラメータ µL が 1 よ
0.28
0.5
1.5
1.1
0.247
0.098
8.293
0.154
0.1069
0.234
1.020
0.120
1.50
0.40
Elastic Theory
1
Nondimesional displacement δ1 /δ2
および試設計の構造諸元を用いて算出した値のプ
1/10
A (m2)
Iy (m4),(面内)
Iz (m4),(面外)
J (m4)
A (m2)
4
Iy (m ),(面内)
Iz (m4),(面外)
J (m4)
A (m2)
Iy (m4),(面内)
Iz (m4),(面外)
J (m4)
ケーブル付加物
(kN/m/cable)
ハンガー(kN/m)
150m 2Box Grider
0.9
150m PipeTruss Girder
0.8
200m 2Box Girder
0.7
200m PipeTruss Girder
300m 2Box Girder
0.6
0.5
µ=
Hd
EI
δ2=
5 pL4
384 EI
δ1 =
1
pL2  1
 −
H d  8 ( µL ) 2
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0.1
図-1
400m 2Box Girder
600m 2Box Girder
800m 2Box Girder


1
1 −

 cosh( µL 2) 
1
100
µL
単径間吊橋のたわみと力学パラメータの関係
キーワード: 単径間吊橋,中小支間,幾何剛性,たわみ制限
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10
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土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月)
り小さい範囲では,補剛桁の曲げ剛性 EI の効果が卓越し,10
を超えると水平張力 Hd の効果が卓越する
w/ D.L. : with Deflection Limit (L/350)
w/o D.L. : without Deflection Limit
5)
400
.図-1 より,中央
径間 300m 以上では, µL が 10 以上となり幾何剛性が卓越する
間 150m,200m では, µL が 1~10 範囲となり,補剛桁剛性の
300
L/δmax
吊橋本来の構造特性を有していることがわかる.一方,中央径
350
250
200
吊橋全体剛性への寄与が無視できなくなり,桁橋と吊橋の中間
2Box Girder w/ D.L.
2Box Girder w/o D.L.
PipeTruss Girder w/ D.L.
PipeTruss Girder w/o D.L.
150
的な構造特性を有する.また,中央径間 150m,200m のケース
で,曲げ剛性の大きいパイプトラス補剛桁を適用すると µL は
Pipe Truss + Open-Grating Slab
100
0
さらに小さくなり,補剛桁剛性の影響が大きくなる.
100
図-2
4.たわみ制限と構造諸元の関係
200
300
400
500
Center Span (m)
図-3 に吊構造部重量と中央径間の関係,図-4 にケーブル断面積
と中央径間の関係をたわみ制限を L/350 とした場合とあわせて
示す.2 箱桁形式のケースは,吊構造部重量を小さくし,補剛
桁の最大応力が許容応力度に近くなるまでたわみを許容するも
Suspended Structure Weight (kN/m)
合の試設計を行った.図-2 に最大たわみと中央径間の関係,
績の最大である L/200 となっている.パイプトラス補剛桁を
2Box Girder w/o D.L.
100
80
60
40
20
Pipe Truss + Open-Grating Slab
100
図-3
0.12
Area of Main Cable (m2)
床版にオープングレーチングを用いた場合の重量で試算した.
とともに大きくなる.
PipeTruss Girder w/o D.L.
120
適用したケースは,耐風安定性と吊構造部の軽量化を考慮し,
面積は吊構造部重量,ケーブル自重との相関が強く,長支間化
PipeTruss Girder w/ D.L.
140
0.14
L/350 とした場合には中央径間 300m で最大となる.ケーブル断
900
2Box Girder w/ D.L.
160
0
3)
間 300m 以上では最大たわみとの相関が強く,最大たわみを
800
0
のとした.たわみの最大値は,中央径間 800m の場合でほぼ実
吊構造部重量は,中央径間 300m 未満では補剛桁剛性,中央径
700
最大たわみと中央径間の関係
180
3.で試設計したケースに対して,たわみ制限を緩和した場
600
200
300
400
500
600
Center Span (m)
700
800
900
吊構造部重量と中央径間の関係
2Box Girder w/ D.L.
2Box Girder w/o D.L
PipeTruss Girder w/ D.L.
PipeTruss Girder w/o D.L.
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
Pipe Truss + Open-Grating Slab
中央径間 300m 以上のケースでたわみ制限を緩和した場合に
は,吊構造部重量が小さくなることによってケーブル断面積
が 20%~50%低減される.たわみの許容値を L/350 として,中
0.00
0
図-4
200
400
600
Center Span (m)
800
1000
ケーブル断面積と中央径間の関係
央径間 150m,200m の補剛桁を 2 箱桁からパイプトラス桁にすると吊構造部重量,ケーブル断面積とも
5%~30%低減される.また,パイプトラス補剛桁にオープングレーチング床版を適用した場合,最大たわみ
は約 L/250 となり,吊構造部重量,ケーブル断面積は約 50%低減される.
一般的に吊橋では,ケーブル工事費が全体工費の 20~30%であり,ケーブル材料費がケーブル工事費に占
める割合も大きいため,ケーブル断面積の低減が吊橋の経済性に及ぼす影響は大きい.また,力学パラメータ
µl が 10 以下の吊橋では,幾何剛性が卓越するという吊橋本来の構造特性を失うが,桁剛性と幾何剛性の両
方が全体の剛性に影響するため,計画段階での設計自由度が高く,吊構造部形式の設定が重要となる.
5.まとめと今後の課題
1)単径間吊橋の力学パラメータを整理し,中央径間 300m 未満で桁橋と吊橋との中間的な構造特性となるこ
とを示した.2)たわみの許容値が吊橋の経済性に大きな影響を及ぼすことを示した.3)中央径間 300m 未
満の設計では,補剛桁剛性と幾何剛性の関係上,吊構造部形式の設定が重要であることを示した.4)経済性
を考慮した最適な吊構造部形式の設定方法や他の橋梁形式との経済性比較,たわみの許容値に対する安全性,
使用性の評価については今後の課題である.
【参考文献】1)平井敦著:鋼橋Ⅲ,技法堂,pp685,1956.2)
(社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説,2002.3.3)本州四国連絡橋公団:
上部構造設計基準・同解説,1984.4.4)A.Hawranek,O.Steinhardt 著,橘善雄,小松定夫共訳:鋼橋の理論と設計,山海堂,pp363-385,1965.
5)関西道路研究会:照査のための構造力学,道路橋調査研究委員会設計照査小委員会報告書,pp86,1998.3.
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