セルロース系バイオマスを糖化するための前 処理を簡易化し、アルコ

JP 2005-58055 A 2005.3.10
(57)【要約】
【課題】 セルロース系バイオマスを糖化するための前
処理を簡易化し、アルコール発酵に適したセルロース系
バイオマスを選択することにより、高収量且つ環境に対
する負荷が少ない物質生産方法および物質生産システム
を提供する。
【解決手段】 セルロース系バイオマスとして雑草を使
用し、前記雑草を緩衝液に浸漬し、次いで当該緩衝液に
電圧を印加することにより雑草の通電処理物を得る通電
処理工程と、前記通電処理物を酵素により糖化物とする
糖化工程と、前記糖化物を原料として発酵を行う発酵工
程と、からなるセルロース系バイオマスの処理方法によ
り解決する。
【選択図】 図2
(2)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系バイオマスとして雑草を使用し、
前記雑草を緩衝液に浸漬し、次いで当該緩衝液に電圧を印加することにより雑草の通電
処理物を得る通電処理工程と、
前記通電処理物を酵素により糖化物とする糖化工程と、
前記糖化物を原料として発酵を行う発酵工程と、
からなるセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項2】
前記通電処理工程が、半透膜で仕切られた2つの槽の各々に電極を配設することにより
10
、陰極を備えた陰極槽と陽極を備えた陽極槽とが形成され、緩衝液で満たされた通電処理
槽の前記陰極側の緩衝液に前記雑草を浸漬するものである請求項1記載のセルロース系バ
イオマスの処理方法。
【請求項3】
更に、前記雑草を粉末状に粉砕する工程を有する請求項1又は2記載のセルロース系バ
イオマスの処理方法。
【請求項4】
更に、前記通電処理工程の終了後、前記陰極槽側の緩衝液と前記陽極槽側の緩衝液を混
合する工程を含む請求項1∼3のいずれか1項記載のセルロース系バイオマスの処理方法
。
20
【請求項5】
前記緩衝液の混合は、前記半透膜を除去し前記陰極槽と前記陽極槽とを連通することに
より行う請求項4記載のセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項6】
前記電圧の印加を、直流電圧5∼30Vの範囲で行う請求項1∼5のいずれか1項記載
のセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項7】
前 記 酵 素 が 、 ト リ コ デ ル マ ( Trichoderma) 属 及 び / 又 は ア ス ペ ル ギ ル ス ( Aspergillus
)属由来のセルラーゼである請求項1∼6のいずれか1項記載のセルロース系バイオマス
の処理方法。
30
【請求項8】
前記発酵が、酵母を添加してエタノール発酵を行うものである請求項1∼7のいずれか
1項記載のセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項9】
前記エタノール発酵は、糖化と発酵が並行して行われる並行複発酵である請求項8記載
のセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項10】
前記発酵が、乳酸菌を添加して乳酸発酵を行うものである請求項1∼7のいずれか1項
記載のセルロース系バイオマスの処理方法。
【請求項11】
40
雑草を発酵原料として発酵を行うセルロース系バイオマスの処理システムにおいて、
半透膜で仕切られた2つの槽の各々に電極が配設され、陰極を備えた陰極槽と陽極を備
えた陽極槽とが形成された通電処理装置と、
前記発酵原料の糖化と発酵が並行して行われる発酵槽と、
発酵溶液と発酵残渣とを分離する分離装置と、
前記発酵溶液を濃縮する濃縮装置と、
から構成されたセルロース系バイオマスの処理システム。
【請求項12】
前記通電処理装置の前記半透膜が着脱自在に装着され、前記陽極槽と前記陰極槽とが連
通可能に構成された請求項11記載のセルロース系バイオマスの処理システム。
50
(3)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系バイオマス資源の有効利用に関するものであり、詳細には、雑
草から有用物質を生産するための処理方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマスを石油資源の代替として有効利用する試みが数多くなされている。バ
イオマスとは、地球生物圏の物質循環系に組み込まれた生物体又は生物体から派生する有
機物の集積をいう(JIS K 3600 1258参照)。特に、食品残渣や農産廃棄物
10
等のセルロース系バイオマスはこれをどのように処理するかが問題となっている。かかる
問題に対しては、例えば、食品残渣を処理してコンポスト化することや、農産廃棄物を処
理して、有用物質を生産することなどが提案されている。
【0003】
具体的には、特開2002−159954号公報には、稲わら、麦わら等のセルロース
系廃棄物に酵素を作用させて糖を生成する糖化工程と、前記糖を用いて発酵を行う発酵工
程とを有し、前記発酵工程においてL−乳酸やエタノールを生産するセルロース系廃棄物
の処理方法が開示されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、上記のセルロース系廃棄物は、単に酵素を作用させて糖化を行おうとし
20
ても酵素反応がほとんど行われない。酵素反応を効率よく行うためには、蒸煮または爆砕
処理等の物理化学的処理や、酸またはアルカリ処理等の化学的処理、またはこれらの組み
合わせによる処理が必要とされていた。そのため、それらの処理を行うための設備やコス
トがかかるという問題があった。
【0005】
上 記 の 問 題 に 対 し て は 、 平 成 12年 度 日 本 生 物 工 学 会 大 会 講 演 要 旨 集 ( 社 団 法 人 日 本 生 物
工 学 会 、 平 成 12年 7月 10日 発 行 ) に 、 従 来 の 化 学 的 処 理 に 代 わ る も の と し て 、 通 電 処 理 を
行うことが開示されている。即ち、食品製造において大量に発生するビートパルプ、小麦
ふすま、脱脂大豆、脱脂糠などの副産物の酵素分解に際し、アルカリ湿潤による化学的処
理に代えて、半透膜で2槽に仕切られた通電槽のそれぞれに緩衝液を入れ、12∼24時
30
間電圧を印加することにより、通電処理後のビートパルプ、脱脂糠、小麦ふすまの加水分
解率が向上することが開示されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−159954号公報
【 非 特 許 文 献 1 】 平 成 12年 度 日 本 生 物 工 学 会 大 会 講 演 要 旨 集 ( 社 団 法 人 日 本 生 物 工 学 会 、
平 成 12年 7月 10日 発 行 )
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特開2002−159954号公報で使用されているようなセルロース
系バイオマスは酵素で分解することが困難であるため、発酵原料として用いるためには物
40
理化学的処理や化学的処理、またはこれらの組み合わせによる処理が必要である。そのた
め、物理化学的処理を行う場合、設備やエネルギーコストの面からは実用化には問題が多
い。
【0007】
一方、化学的処理を行う場合でも、強酸、強アルカリの廃液はそのまま排出するのでは
環境負担が大きく、その取り扱いも危険を伴う。また、水質保全法(「公共用水域の水質
の保全に関する法律」)、 工場排水規制法(「工場排水等の規制に関する法律」))、
資源有効利用促進法等の規制により、事業者の責任として廃酸、廃アルカリ等の産業廃棄
物対策が義務付けられているため、これらの法律を遵守するために、化学的処理を行った
後の廃液の処理を行う必要がある。
50
(4)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
【0008】
以上のような事情から、物理化学的処理、化学的処理のいずれの場合も実用的な観点か
らは更なる検討が必要とされている。
【0009】
ま た 、 平 成 12年 度 日 本 生 物 工 学 会 大 会 講 演 要 旨 集 ( 社 団 法 人 日 本 生 物 工 学 会 、 平 成 12年
7月 10日 発 行 ) に 記 載 さ れ た ビ ー ト パ ル プ 、 脱 脂 糠 、 小 麦 ふ す ま 等 の セ ル ロ ー ス 系 バ イ オ
マスは、キシロースやアラビノース等のペントースの含有量が多い。そのため、これらの
セルロース系バイオマスを発酵原料として用いることはアルコール収量の観点から不適当
である。
【0010】
10
従って、本発明の目的は、セルロース系バイオマスを糖化するための前処理を簡易化し
、発酵に適したセルロース系バイオマスを選択することにより、高収量にエタノールやL
−乳酸を得ることができ、且つ、環境に対する負荷が少ない物質生産方法および物質生産
システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、セルロース系バイオマスと
して雑草を使用し、前記雑草を緩衝液に浸漬し、次いで当該緩衝液に電圧を印加すること
により雑草の通電処理物を得る通電処理工程と、前記通電処理物を酵素により糖化物とす
る糖化工程と、前記糖化物を原料として発酵を行う発酵工程と、からなるセルロース系バ
20
イオマスの処理方法を提供するものである。
【0012】
これにより、自然界に不必要(若しくは好ましくない)なものとして豊富に存在する雑
草からエタノールやL−乳酸等の有用物質を生産することができるとともに、前記通電処
理工程を採用することにより、一般の化学的処理と比較して緩やかな条件でセルロース系
バイオマスの前処理が可能となる。
【0013】
こ こ で 、 雑 草 と は 、 人 間 の 攪 乱 ( disturbance) の あ る と こ ろ に 生 育 で き る が 、 作 物 の
ように栽培すなわち人間の積極的な保護を必要としない植物群をいう。従って、人間の攪
乱のあるところでは生育できない野草や栽培植物とは区別される。
30
【0014】
発酵原料として上記のような雑草を用いることにより、特に栽培または管理をしなくて
も、毎年(あるいは年に数回)、容易に原料を確保することが可能となり、生産コストも
かからない。
【0015】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記通電処理工程が、半透膜で仕切られた2つ
の槽の各々に電極を配設することにより、陰極を備えた陰極槽と陽極を備えた陽極槽とが
形成され、緩衝液で満たされた通電処理槽の前記陰極側の緩衝液に前記雑草を浸漬するも
のである。
【0016】
40
これにより、陰極槽側の緩衝液は時間の経過と共に水素イオン濃度が上昇し、前記雑草
はアルカリ条件下に晒されることになり、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液で処理を行
った場合と同様の前処理を行うことが可能となる。一方、陽極槽側の緩衝液は水素イオン
濃度が低下し、酸性を示すようになる。
【0017】
また、本発明の好ましい態様によれば、更に、前記雑草を粉末状に粉砕する工程を有す
る。粉末状とは、前記雑草が60∼80メッシュのものをいう。
【0018】
これにより、糖化効率が向上し、効率的に発酵を進行させることが可能となる。
【0019】
50
(5)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
また、本発明の好ましい態様によれば、更に、前記通電処理工程の終了後、前記陰極槽
側の緩衝液と前記陽極槽側の緩衝液を混合する工程を含む。
【0020】
これにより、前記陰極槽側の緩衝液と前記陽極槽側の緩衝液を混合するだけで、中和処
理を行うことができる。即ち、もともと同じ緩衝液が添加されていた陽極槽と陰極槽は、
各槽に設置された電極から電圧が印加されることにより、陽極槽側では強酸溶液となり、
陰極槽側では強アルカリ溶液となるが、両槽の緩衝液を混合すれば、電圧を印加する前の
pHに戻る。従って、通電処理を行う前の緩衝液を通電処理物の糖化に適したpHに設定
しておけば、通電処理工程後の処理液をそのまま糖化工程に供することができる。
【0021】
10
具体的には、前記緩衝液の混合は、前記半透膜を除去し前記陰極槽と前記陽極槽とを連
通することにより行う。これにより、前記半透膜を取り去るだけで、前記陽極槽において
強酸性となった緩衝液と、前記陰極槽において強アルカリ性となった緩衝液の中和処理を
行うことができる。
【0022】
このように、廃液処理の作業が簡便化されると共に、環境に負荷の少ないセルロース系
バイオマスの化学的処理が実現される。
【0023】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記電圧の印加を、直流電圧5∼30Vの範囲
で行う。
20
【0024】
これにより、陰極槽の緩衝液を強アルカリ性とすることができ、陽極槽の緩衝液のpH
を強酸性とすることができる。なお、pHが安定した後に直流5V以上の電圧を印加すれ
ば、一旦安定したpHをそのまま維持することもできる。
【0025】
ま た 、 本 発 明 の 好 ま し い 態 様 に よ れ ば 、 前 記 酵 素 が 、 ト リ コ デ ル マ ( Trichoderma) 属
及 び / 又 は ア ス ペ ル ギ ル ス ( Aspergillus) 属 由 来 の セ ル ラ ー ゼ で あ る 。
【0026】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記発酵が、酵母を添加してエタノール発酵を
行 う も の で あ る 。 前 記 酵 母 は 、 サ ッ カ ロ マ イ セ ス セ ル ビ シ エ ( Saccharomyces cerevisia
30
e) を 使 用 す る こ と が で き る 。
【0027】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記エタノール発酵は、糖化と発酵が並行して
行われる並行複発酵である。
【0028】
これにより、糖化工程を経た後に発酵工程を行うという2段階の工程を1工程で行うこ
とができる。
【0029】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記発酵が、乳酸菌を添加して乳酸発酵を行う
ものである。
40
【0030】
また、本発明は、雑草を発酵原料として発酵を行うセルロース系バイオマスの処理シス
テムにおいて、半透膜で仕切られた2つの槽の各々に電極が配設され、陰極を備えた陰極
槽と陽極を備えた陽極槽とが形成された通電処理装置と、前記発酵原料の糖化と発酵が並
行して行われる発酵槽と、発酵溶液と発酵残渣とを分離する分離装置と、前記発酵溶液を
濃縮する濃縮装置と、から構成された雑草の処理システムを提供するものである。
【0031】
上記処理システムの好ましい態様によれば、前記通電処理装置の前記半透膜が着脱自在
に装着され、前記陽極槽と前記陰極槽とが連通可能に構成されてなる。これにより、雑草
を糖化するための前処理を簡易化し、環境に対する負荷が少ないシステムを提供すること
50
(6)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
ができる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明は発酵原料として雑草を使用することにより、原料コストを大き
く低減できる。また、通電処理工程を採用することにより、強アルカリ溶液や強酸溶液を
用いる一般の化学的処理と比較して緩やかな条件で原料物質の前処理が可能となり、環境
負荷が少ないものとなる。更に、並行複発酵形式を採用しているため、従来の糖化工程を
経た後に発酵工程を行うという2段階の工程を1工程で行うことができるとともに、高収
率でエタノールやL−乳酸を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
10
【0033】
次に、本発明を図を参照しつつ、更に詳細に説明する。図1は、本発明の雑草処理シス
テムの概略図である。本実施形態の処理システムは、図1に示すように、通電処理装置1
0、中和処理槽31、発酵槽36、分離装置42、濃縮装置44とから構成される。
【0034】
通電処理装置10は、通電処理槽12と蓋部14とからなるハウジング16、切り欠き
を有する仕切り壁18をそれぞれ有し、その切り欠き部分には電流を通過することができ
る半透膜20を着脱自在に備えている。なお、ハウジング16は、緩衝液Bで満たされて
いる。
【0035】
20
半透膜20は、電流の通過が可能であり、低分子物質やイオンの通過が可能であるもの
が選択される。具体的には、トレーシングペーパー、セロハン(再生セルロースフィルム
)、コロジオン膜、酢酸セルロース膜等を用いることができる。また、上記の要件を満た
した半透膜であれば、その厚さは特に制限はない。
【0036】
緩衝液BのpHは、後述する糖化工程で使用される酵素の至適pHに併せて設定される
。緩衝液Bの温度は、緩衝液Bの急激な温度上昇の防止やアルカリ処理の観点から40度
前後に保持されることが好ましい。
【0037】
そして、蓋部14には、仕切り壁18および半透膜20を挟んで白金電極22a,22
30
bが緩衝液Bに接するするように配設されており、この白金電極22a,22bは、定電
圧装置24に電気的に接続されている。
【0038】
白金電極22a,22bは定電圧装置24の陽極(+)または陰極(−)のいずれかに
接続されるため、陽極(+)に接続された白金電極22aを備えた槽は陽極槽26を形成
し、陰極(−)に接続された白金電極22bを備えた槽は陰極槽28を形成する。なお、
半透膜20は既述のように着脱自在に装着されているため、半透膜20を取り除けば、陽
極槽26と陰極槽28とが互いに連通し、両槽の緩衝液Bが混合されることによって中和
処理が行えるようになっている。
【0039】
40
また、陽極槽26と陰極槽28のそれぞれには撹拌子Sが配設され、緩衝液Bを撹拌す
ることができるようになっている。
【0040】
なお、通電処理装置10は緩衝液Bの温度を一定に保持するため、水Wで満たされた恒
温槽30内に設置されている。但し、温度を一定に保つことができれば、温風、ヒーター
等、その手段は問わない。
【0041】
中和処理槽31は、通電処理後、通電処理装置10の緩衝液Bを一時的に貯蔵したり、
陽極槽26及び陰極槽28の緩衝液Bを混合し、中和処理を行うものである。先に述べた
ように、中和処理は通電処理装置10でも行うことができるが、陽極槽26と陰極槽28
50
(7)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
とを連通させなくても、両槽からそれぞれ緩衝液Bを中和処理槽31に流し込み、撹拌羽
33で撹拌すれば中和処理を行うことができる。
【0042】
次に、発酵槽36について説明する。発酵槽36は、本体38がステンレス製であり、
温度を一体に保持するための温度調節部40と、もろみを撹拌するための撹拌羽41を備
えているものであればその種類に特に制限はない。温度調節部40は、アルコール発酵を
行う場合は、酵母の至適温度に設定され、乳酸発酵を行う場合は乳酸菌の至適温度に設定
される。
【0043】
発酵終了後の発酵液は、分離装置42でろ過等により発酵残渣と発酵溶液とに分離され
10
る。そのうち、発酵溶液を濃縮装置44により濃縮し、所望の有用物質Pを得る。濃縮装
置44としては、蒸留機、精留機、クロマトグラフィー等を利用することができる。
【0044】
次に、雑草から有用物質を生産するためのプロセスを説明する。図2は雑草からエタノ
ールを得るまでのプロセスを説明した概略図である。
【0045】
利用できる雑草は、一年生雑草、多年生雑草のいずれでもよく、田畑などの農耕地に生
育する雑草でも、鉄道敷、道路、運動・競技場、工場用地、空港、駐車場、電力・石油等
施設の周囲、空き地、河川敷などの非農耕地に生育する雑草でもよい。
【0046】
20
具体的には、タイヌビエ、イヌビエ、タマガヤツリ、コナギ、ミズアオイ、アゼナ、ア
メリカアゼナ、アゼトウガラシ、ミゾハコベ、キカシグサ、ヒメミソハギ、タウコギ、タ
カサブロウ、アメリカセンダングサ、クサネム、イボクサ、イヌホタルイ、マツバイ、ウ
リカワ、ミズガヤツリ、ヘラオモダカ、クログワイ、オモダカ、シズイ、コウキヤガラ、
セリ、ヒルムシロ、キシュウスズメノヒエ、エゾノサヤヌカグサ、メヒシバ、オヒシバ、
エノコログサ、スズメノカタビラ、スズメノテッポウ、カヤツリグサ、イヌタデ、オオイ
ヌタデ、スベリヒユ、ハコベ、シロザ、ホソアオゲイトウ、イヌビユ、ナズナ、タネツケ
バナ、スカシタゴボウ、イヌガラシ、カラスノエンドウ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ
、オランダミミナグサ、ヤエムグラ、ツユクサ、ハキダメギク、ノボロギク、エノキグサ
、オオイヌノフグリ、イチビ、チガヤ、イヌムギ、シバムギ、カタバミ、セイヨウタンポ
30
ポ、ハルジオン、ヨモギ、オオバコ、シロツメクサ、コヒルガオ、エゾノギシギシ、ハマ
スゲ、スギナ、カモジグサ、センダングサ、ヒメジョオン、ヒメムカシヨモギ、オオアレ
チノギク、ブタクサ、ノゲシ、オニノゲシ、メマツヨイグサ、オオマツヨイグサ、ススキ
、オギ、キクイモ、オオヨモギ、セイタカアワダチソウ、オオアワダチソウ、ヒメスイバ
、イタドリ、クズ、ヤブガラシ、ムラサキツメクサ、オバコ、ヨシ等を挙げることができ
る。
【0047】
採取された雑草32(天日乾燥済み)は、通電処理装置10の陰極槽28に投入され、
緩衝液Bに浸漬される。雑草32の投入量は、陰極槽28に設置された撹拌子Sの撹拌能
力にもよるが、乾燥重量にして陰極槽28の緩衝液Bの重量に対し10重量%以下である
40
ことが好ましい。このとき、雑草32(天日乾燥済み)を粉砕し、60∼80メッシュの
粉末状態にした後に投入することがより好ましい。粉砕は、市販されている粉砕機を用い
て行うことができる。
【0048】
次いで、定電圧装置24の電源がONにされ、白金電極22a,22bを介して緩衝液
Bに電圧が印加される。図3に、緩衝液Bに電圧が印加されたときのpHの経時的変化を
示す一例を示す。この図では、緩衝液としてMacIlvaine緩衝液(pH4.5)
を用い、温度を40℃に保持しつつ、直流電圧を10V、20V、30V印加した場合を
示している。
【0049】
50
(8)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
図3に示すように、緩衝液Bに直流電圧が印加されると、陰極槽28側(実線)では緩
衝液BのpHが上昇し、時間の経過と共に強アルカリ性を示すようになる。pHが安定化
するために要する時間は30Vの場合で約3時間、20Vの場合で約6時間、10Vの場
合で約12時間である。pHの上昇を早め、早期にpHを安定化させるためには高い電圧
(30V)を印加することが好ましい。但し、24時間経過後には上記のいずれの電圧で
もpHが約13にまで上昇させることが可能である。
【0050】
これに対し、陽極槽26側(破線)では緩衝液BのpHが低下し、強酸性を示すように
なる。直流電圧が高ければpHが低下する速度も速いが、上記のいずれの電圧でも24時
間経過後にはpHが約1.8にまで低下する。
10
【0051】
なお、pHが安定化した後に通電を停止すると、陰極槽28、陽極槽26のいずれも緩
衝液BのpHが緩やかに電圧印加前のpHへと収束していく。しかしながら、pHが安定
化した後、5V以上の直流電圧を印加し続ければ、pHを安定化したまま維持することが
できる。
【0052】
上記の通電処理の時間は、初発のpHによって適宜設定することができるが、一般には
直流電圧が30Vの場合、電圧の印加を開始してから少なくとも約24時間行うことが好
ましい。
【0053】
20
雑草をこのように緩衝液に浸漬し、当該緩衝液に電圧を印加して通電処理物を得る通電
処理工程は、後述するセルラーゼによる酵素反応を容易に進行させるために行われる。通
電処理を行うと、雑草はその組織が膨潤し、酵素が侵入しうる空隙が多数形成される。ま
た、セルロース以外の成分(例えばリグニンやヘミセルロース)も一部溶出するため、酵
素反応が起こり易くなる。この点は従来のアルカリ湿潤処理の作用効果と同様であると考
えられる。仮に採取した雑草に通電処理を行わず、直接酵素を反応させても、酵素反応は
ほとんど進まない。
【0054】
通電処理後は、図2に示すように、陰極槽28および陽極槽26の緩衝液Bの中和処理
を行う。すなわち、通電処理後、半透膜20を取り去り、陰極槽28と陽極槽26とを連
30
通させることにより、両槽の緩衝液Bを混合する。これにより、陰極槽28の塩基と陽極
槽26の酸が反応し、中和反応が起こる。
【0055】
例えば、図3に示すように、通電開始から24時間経過後に半透膜20を取り去ると、
陰極槽28の緩衝液(強アルカリ)と陽極槽26の緩衝液(強酸)とが混合されて中和反
応を起こし、通電処理前のpH5に戻る。すなわち、半透膜20を取り除くだけで中和処
理を行うことができる。この中和処理は、半透膜20を除去する方法以外にも、中和処理
槽31に陰極槽28の緩衝液と陽極槽26の緩衝液Bをそれぞれ投入し、単に撹拌混合す
ることによっても行うことができる。
【0056】
40
中和処理後の緩衝液Bは、そのまま後述する糖化・発酵工程の溶媒として使用すること
ができる。また、そのまま廃液として廃棄することもできる。このように、廃液処理に要
するコストも低減でき、また、水質保全法等の法律を遵守する観点からも好ましいものと
いえる。
【0057】
次に、糖化・発酵工程について説明する。通電処理工程を経た雑草(通電処理雑草)3
4は、緩衝液Bと共に発酵槽36に投入され、次いで、通電処理雑草34の重量に対して
約4重量%のセルラーゼと1∼9×10
6
cells/ml濃度の酵母が添加され、一定
温度に保持しつつ、糖化・発酵が行われる。なお、通電処理雑草34の投入量は、高濃度
の基質による酵素反応や発酵の遅延を防止する観点から、乾燥重量として発酵溶液の20
50
(9)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
重量%以下とすることが好ましい。
【0058】
セルラーゼは、通電処理雑草34中に含まれるセルロースをグルコースに分解するため
に 添 加 さ れ る も の で あ る 。 セ ル ラ ー ゼ の 具 体 例 と し て は 、 例 え ば 、 ト リ コ デ ル マ ( Tricho
derma) 属 、 ア ス ペ ル ギ ル ス ( Aspergillus) 属 由 来 の セ ル ラ ー ゼ を 使 用 す る こ と が で き 、
特 に 、 ア ス ペ ル ギ ル ス ニ ガ ー ( Aspergillus niger) 由 来 の セ ル ラ ー ゼ は 酵 素 活 性 が 高 く
好適である。
【0059】
また、セルラーゼは市販のセルラーゼ製剤を利用することもできる。市販のセルラーゼ
製剤の具体例としては、セルラーゼオノズカRS、セルラーゼオノズカ3S(以上、ヤク
10
ルト薬品工業社製)、セルラーゼTアマノ、ヘミセルラーゼアマノ90、セルラーゼA、
セルラーゼT(以上、天野エンザイム社製)、セルクラスト(ノボノルディスクバイオイ
ンダストリー社製)、セルロシンHC100、セルロシンPEL、セルロシンME(以上
、阪急バイオインダストリー社製)、ビスコザイムL、スミザイムAC、スミザイムAR
S、スミザイムPMAC、スミザイムPX、スミザイムSPC、スミザイムAP2、スミ
ザイムMC(以上、新日本化学工業社製)等を挙げることができる。
【0060】
なお、上記のセルラーゼは2種以上を組合わせて使用することが糖化率の向上の観点か
ら好ましい。
【0061】
20
酵母は、セルラーゼによって生じたグルコースを資化してアルコール発酵を行い、エタ
ノールを産生させるために添加されるものである。酵母としては、サッカロマイセス セ
ル ビ シ エ ( Saccharomyces cerevisiae) を 使 用 す る こ と が 好 ま し い 。 具 体 的 に は 、 日 本 醸
造協会頒布の協会6号(K−6)、協会7号(K−7)、協会9号(K−9)、協会10
号(K−10)、協会11号(K−11)、協会601号(K−601)、協会701号
(K−701)、OC−No.2、発研1号等を挙げることができ、特に、アルコール生
産能が高い協会7号(K−7)が好適である。
【0062】
糖化および発酵はいわゆる並行複発酵形式が採用される。即ち、通電処理雑草とセルラ
ーゼと酵母を同時に添加することにより、セルラーゼによる通電処理雑草の糖化と、酵母
30
によるアルコール発酵が並行して行われる。
【0063】
従来の農産廃棄物を原料とするアルコール生産方法の多くは、原料を糖化する工程とア
ルコール発酵を行う工程とが別々に行われていたが、並行複発酵形式を採用することによ
り、糖化工程と発酵工程を1つの工程で行うことができる。
【0064】
また、並行複発酵形式は、原料を糖化してから発酵を行う単行複発酵形式と比較して高
濃度の糖分による発酵阻害が生じないため、発酵が効率よく行われる。その結果、高いア
ルコール収率が得られるという利点もある。
【0065】
40
なお、アルコール発酵に際して、発酵系内に酵母が必要とする栄養素の添加は不要であ
る。温度は酵母の至適温度である35℃前後で行う。
【0066】
発酵終了後、発酵もろみ50は、分離装置42により発酵溶液52と発酵残渣53とに
分離される。次いで、発酵溶液52は濃縮装置44により、蒸留等の通常の方法により濃
縮され、場合により精留される。回収されたエタノールは、燃料用エタノール等の工業用
エタノールとして利用することができる。
【0067】
なお、乳酸発酵を行う場合は、通電処理雑草34を得るまでは上記アルコール発酵を行
う 場 合 と 同 じ で あ る 。 前 記 乳 酸 菌 と し て は 、 ラ ク ト バ シ ル ス ( Lactobacillus) 属 、 ラ ク
50
(10)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
ト コ ッ カ ス ( Lactococcus) 属 、 エ ン テ ロ コ ッ カ ス ( Enterococcus) 属 等 を 挙 げ る こ と が
できる。
【0068】
乳酸発酵は通電処理雑草34をセルラーゼで糖化した後、乳酸菌を添加して35∼40
℃で発酵することにより行われ、分離工程、濃縮工程を経て高濃度のL−乳酸を得る。得
られたL−乳酸は生分解性ポリマーである乳酸ポリマーの原料等として利用することがで
きる。
【実施例1】
【0069】
次に、実施例として、雑草を処理してエタノールを得る場合を説明する。平成14年5
10
月に福島県会津市内の河川敷で自生していた雑草(以下、「雑草A」と称する)を採取し
、夾雑物を除去した後、サンプルミル(協立理工社製)を用いて60∼80メッシュとな
るように粉砕することにより、粉末状態の雑草Aを得た。
【0070】
別途、緩衝液として、以下の組成からなるMacIlvaine緩衝液(pH4.5)
を調製した。
【0071】
Na2 HPO4 ・12H2 O 71.6重量%
クエン酸1水和物 21.0重量%
蒸留水 残量
20
上記緩衝液を図1に示す通電処理装置10の陽極槽26および陰極槽28に投入し、次
いで陰極槽28のMacIlvaine緩衝液に対し10重量%の雑草Aを陰極槽28に
投入した後、定電圧装置(Model200/2.0 BIO−LAD社製)の電源をO
Nにして通電処理を開始した。なお、半透膜として、設計・製図用のトレーシングペーパ
ー(十千万社製、厚さ50g/m
2
)を使用した。
【0072】
通電処理は、40℃で24時間、直流電圧30Vを印加することにより行い、マグネテ
ィックスターラーを用いて緩やかに撹拌しながら行った。なお、陰極槽側のMacIlv
aine緩衝液のpHは、通電開始後、3時間でpH13にまで上昇し、それ以降はpH
13で安定した。一方、陽極槽側のMacIlvaine緩衝液のpHはpH2で安定し
30
た。
【0073】
通電開始から24時間経過後、定電圧装置の電源をOFFにし通電処理を終了すると共
に、陽極槽と陰極槽とを仕切るトレーシングペーパーを除去した。これにより、陽極槽側
のMacIlvaine緩衝液(pH2.0)と陰極槽側のMacIlvaine緩衝液
(pH13.0)とを混合し、緩衝液の中和処理を行った。中和処理後のMacIlva
ine緩衝液のpHは、通電処理前のpHと同じpH4.5であった。
【0074】
上記のようにして得られた通電処理雑草Aを遠心分離機により収集し、以下の要領で糖
化・発酵を行った。通電処理雑草Aを、乾燥重量として発酵溶液の20重量%となるよう
40
にMacIlvaine緩衝液(pH4.5)に懸濁し、前記雑草Aに対して4重量%の
市販セルラーゼ製剤の混合製剤と、酵母10
6
cells/mlを添加し、35℃で静置
することにより、雑草Aのセルロースをグルコースに分解しつつ、エタノール発酵を行っ
た。
【0075】
なお、市販セルラーゼ製剤として、セルクラスト(ノボノルディスクバイオインダスト
リー社製)とヘミセルラーゼアマノ90(天野エンザイム社製)を用い、それぞれ通電処
理雑草Aの重量に対して2重量%添加した。また、酵母はサッカロマイセス セルビシエ
(協会7号:K−7)を使用した。
【0076】
50
(11)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
発酵は30時間前後で終了し、23g/lのエタノールが得られた。なお、他の実施例
を、上記実施例と併せて以下の表に示す。また、比較例として、伐採樹木(蝦夷松、銀杏
)を発酵原料として上記と同様にアルコール発酵を行った。
【0077】
ここで、雑草Aは福島県会津市内の河川の堤防に自生していたものであり、雑草Bは埼
玉県入間川にある大橋上流の右岸の堤防に自生していたものであり、雑草Cは埼玉県大宮
市の国道緑化維持工事の際に採取したものである。
【0078】
結果は表に示す通りであり、雑草中のセルロース含有量により異なるが、通電処理雑草
を糖化・発酵することにより、その雑草中に存在するセルロース含有量の約80∼90重
10
量%をアルコールに変換することができた。なお、セルロース含有量に対するアルコール
収率は、グルコースからの理論アルコール変換率を50%として算出している。
【0079】
これに対し、比較例の伐採樹木(蝦夷松、銀杏)はいずれもセルロースに潜在的に存在
するグルコース量は雑草よりも高い(いずれも86g/l)が、セルロース含有量に対す
るアルコール収率は雑草を原料にした場合と比較して低いものであった。
【0080】
【表1】
20
30
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態に係るセルロース系バイオマスの処理システムの概略図である
。
【図2】雑草からエタノールを得るまでのプロセスを説明した概略図である。
【図3】緩衝液Bに電圧が印加されたときのpHの経時的変化を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
10:通電処理装置、12:通電処理槽、14:蓋部、16:ハウジング、18:仕切
り壁、20:半透膜、22a,22b:白金電極、26:陽極槽、28:陰極槽、B:緩
衝液
40
(12)
【図1】
JP 2005-58055 A 2005.3.10
(13)
【図2】
JP 2005-58055 A 2005.3.10
(14)
【図3】
JP 2005-58055 A 2005.3.10
(15)
JP 2005-58055 A 2005.3.10
フロントページの続き
(72)発明者 徳田 宏晴
東京都世田谷区桜ヶ丘1丁目1番1号 東京農業大学内
Fターム(参考) 4B029 AA02 BB02 BB07 BB16 CC01 DA10 DF01 DF10 DG08