博 士 論 文 概 要 - 早稲田大学リポジトリ

早稲田大学大学院理工学研究科
博 士 論 文 概 要
論
文
題
目
Synthesis of Metal Oxide/Silicone Hybrids
金属酸化物/シリコーンハイブリッドの創製
申
氏
名
請
者
中出
正人
Masato
Nakade
専攻・研究指導
(課程内のみ)
2007年 1月
無機物と有機物を複合化した材料(ハイブリッド)は、それぞれ単独では得ら
れない新たな機能の発現の期待から多くの研究がなされるとともに、産業分野に
おいても様々な分野に応用されている。古くから行われている代表的な例として
は、フィラーとして無機化合物を用いてプラスティックの強度を高める、あるい
はガラスや金属の表面を疎水性の有機化合物でコーティングすることなどが挙げ
られる。材料の高機能化への要請から、複合化の形態、レベル、均一性を精密に
制御することは現在でも重要な課題である。無機物と有機物の組み合わせはその
目的によって様々であるが、重合可能な基を有する前駆体を用いた複合化が比較
的容易であること、また材料としての実用性・汎用性の面から、無機酸化物と有
機高分子の組み合わせについて、特に多くの研究がなされている。材料への応用
の観点から形態の制御が重要であるにも関わらず、研究例が少ないのが現状であ
る。
本研究では、化粧品素材、触媒材料への展開を念頭に、金属酸化物とシリコー
ンの複合材料について、ナノメートルレベルの微細構造の制御とマクロスコーピ
ックな形態レベルの制御を試み、得られた材料の特性について検討を行った。階
層的な材料設計により実用可能な材料が得られた。
本論文は七章により構成されており、第一章では金属酸化物と有機化合物の複
合物に関する従来の研究について、金属酸化物と有機化合物がナノメートルスケ
ー ル で 均 一 に 複 合 化 し た い わ ゆ る 有 機 / 無 機 ハ イ ブ リ ッ ド の 例 、及 び 無 機 酸 化 物 粒
子表面を有機化合物で被覆したコアシェル型粒子の研究例を紹介し、本研究の位
置付けと意義を示した。
第2章では、ゾル・ゲル法及び共沈殿法を用いた酸化チタン/ポリジメチルシ
ロキサンハイブリッド粒子の合成と性質について述べた。チタニウムテトライソ
プ ロ ポ キ シ ド ( TIP) と 両 末 端 に ト リ メ ト キ シ 基 を 持 つ ポ リ ジ メ チ ル シ ロ キ サ ン
( P D M S )を 出 発 物 質 と し て 用 い た 。ま ず 、T I P を 部 分 的 に 加 水 分 解 し て チ タ ニ ア ゾ
ル を 調 製 し 、 こ こ に 両 末 端 ト リ メ ト キ シ PDMSを 加 え る こ と で 、 酸 化 チ タ ン / PDMS
ハイブリッドゾルを合成した。次のステップとして、このハイブリッドゾルをメ
タノール・アンモニア水混液に添加混合することで、急激に共加水分解・重合を
行 う こ と で 、 球 状 の 酸 化 チ タ ン / PDMSハ イ ブ リ ッ ド 粒 子 を 得 る こ と が で き た 。 得
られたハイブリッド粒子においては、酸化チタンとポリジメチルシロキサンがナ
ノスケールで均一に複合化していることを確認した。ゾル・ゲル法による粒子形
状の有機/無機ハイブリッドに関する報告はほとんどみられず、酸化チタンに関
し て は 本 研 究 が 初 め て の 例 で あ る 。 得 ら れ た 酸 化 チ タ ン / PDMSハ イ ブ リ ッ ド 粒 子
は 、 シ リ コ ー ン に 由 来 す る 弾 性 的 な 性 質 を 持 つ と と も に 、 酸 化 チ タ ン と PDMSの 組
成比に応じて屈折率が変化することを見出した。さらに、シリコーンオイルへの
分散性、化粧料への配合についても検討を行い、化粧品素材としての可能性を明
らかにした。
1
第 3 章 で は 、 第 2 章 の 粒 子 形 状 に 引 き 続 き 、 膜 形 状 の 酸 化 チ タ ン / PDMSハ イ ブ
リッドの合成について検討を行った。第2章で述べた方法により酸化チタン/
PDMSハ イ ブ リ ッ ド ゾ ル を 調 製 し 、 こ れ を ポ リ エ チ レ ン フ ィ ル ム 上 に 展 開 し て 溶 媒
を常温で乾燥・除去するという簡便な方法で製膜した。ポリエチレンフィルムか
ら剥離した膜は透明で柔軟性を持っており、粒子形状のハイブリッドと同様、酸
化 チ タ ン と PDMSが ナ ノ ス ケ ー ル で 均 一 に 複 合 化 し て い る こ と を 確 認 し た 。 ガ ラ ス
やプラスティック、あるいは金属へのコーティング用皮膜など、材料としての応
用を考えたとき、本検討で示した方法は、透明性、組成の自由度と方法の簡便さ
という利点を有している。
第 4 章 で は 、 第 2 章 、 第 3 章 で 合 成 し た 酸 化 チ タ ン / PDMSハ イ ブ リ ッ ド 粒 子 及
び 膜 の 熱 分 解 を 調 査 し た 。ハ イ ブ リ ッ ド 粒 子 は 、空 気 中 4 0 0 ℃ で 熱 処 理 す る こ と に
よ り 、 球 状 の 形 状 を 保 持 し た ま ま 、 BET比 表 面 積 が 最 大 360m 2 /gの マ イ ク ロ ポ ー ラ
ス な 粒 子 と す る こ と が で き た 。 こ の と き 、 加 熱 時 間 が 長 く な る に 従 っ て 、 PDMSの
有機基が分解してシリカに変換していることが赤外吸収分析、核磁気共鳴分析等
に よ り 確 認 さ れ 、 PDMSの 熱 分 解 に よ っ て マ イ ク ロ ポ ア が 生 成 し て い る こ と が 示 唆
さ れ た 。ハ イ ブ リ ッ ド 膜 に つ い て も 同 様 に 、4 0 0 ℃ で 熱 処 理 す る こ と に よ り 、透 明
性 を 維 持 し た ま ま 、 BET比 表 面 積 が 最 大 300m 2 /gの マ イ ク ロ ポ ー ラ ス な 膜 に 変 換 す
ることができた。
酸 化 チ タ ン / PDMSハ イ ブ リ ッ ド 粒 子 に つ い て は 、 空 気 中 さ ら に 高 温 ( 500℃ ∼
1 2 0 0 ℃ )で の 熱 処 理 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。9 0 0 ℃ ま で の 熱 処 理 に よ り 、酸 化 チ タ
ン相はアモルファスからアナターゼ型結晶構造に変化したが、粒子形状及び酸化
チ タ ン 相 の 大 き さ に は 著 し い 変 化 は み ら れ な か っ た 。一 方 、4 0 0 ℃ 熱 処 理 で 生 成 し
たマイクロポアは緻密化により消滅した。さらに高温での熱処理により、酸化チ
タン相はルチル型に変化するとともに、拡散・融合によりその大きさが増大し、
粒 子 形 状 に も 変 化 が み ら れ た 。 一 方 、 PDMSの 熱 分 解 に よ り 生 成 し た シ リ カ 相 は ア
モルファスのままであった。
こ こ で 得 ら れ た 多 孔 質 の 酸 化 チ タ ン / PDMS( シ リ カ ) 複 合 体 は 、 従 来 の 同 様 の
系と比較して、酸化チタン相がナノスケールの相で均一に存在すること、組成の
自由度が高く酸化チタン相の比率が大きくすることができるという点で、触媒材
料への応用可能性を有している。
第5章では、回転楕円体型ヘマタイト/シリコーンコアシェル型粒子の合成と
性質について検討した。前章まででは、無機酸化物とシリコーンをナノメートル
のスケールで均一に複合化した系について検討を行った。本章では、無機酸化物
粒子の表面をシリコーンで被覆した形状、すなわちコアシェル型粒子の合成につ
い て 述 べ る 。 既 報 に 従 っ て 回 転 楕 円 体 型 ヘ マ タ イ ト 粒 子 ( 長 径 3.3μ m・ 短 径 1.6
μ m )を 合 成 し 、こ れ を カ チ オ ン 性 界 面 活 性 剤 で あ る n - ヘ キ サ デ シ ル ト リ メ チ ル ア
ン モ ニ ウ ム ク ロ リ ド ( C16TAC) の 存 在 下 、 ア ル コ キ シ シ ラ ン を 反 応 さ せ る こ と に
2
よって、ヘマタイト/シリコーンコアシェル型粒子を得た。アルコキシシランと
してフェニルトリエトキシシランを用いることで、フェニルトリエトキシシラン
の濃度に応じて、シリコーンシェルの厚さを変化させることが可能であった。シ
ェ ル の 厚 さ は 最 大 で 2 0 0 n m と な っ た 。シ リ コ ー ン シ ェ ル の 生 成 機 構 と し て は 、負 に
帯 電 し た ヘ マ タ イ ト 表 面 と C16TACの 静 電 的 相 互 作 用 、 C16TACの ア ル キ ル 基 と ア ル
コキシシランの疎水的相互作用によって、コアシェル型粒子が生成したことが推
測された。得られたコアシェル型粒子は強い撥水性を有しており、トルエンへの
分散性に優れていた。無機酸化物粒子の表面をシリコーンでコーティングするこ
とは、産業材料においても従来より広く行われてきたが、いずれも分子レベルの
厚さでの被覆であり、マイクロメートルスケールでの被覆は例がない。シリコー
ンの構造の多様性、反応性は、金属酸化物表面の機能化の観点から注目され、こ
こで述べた被覆方法はその優れた手段となり得る。
第 6 章 で は 、酸 化 亜 鉛 粒 子 の 表 面 を 、第 2 章 、第 3 章 で 述 べ た 酸 化 チ タ ン / P D M S
ハ イ ブ リ ッ ド に よ り 被 覆 し た コ ア シ ェ ル 型 粒 子 の 合 成 を 試 み た 。 10∼ 30nmの 粒 径
を 持 つ 酸 化 亜 鉛 微 粒 子 を 、 第 2 章 で 述 べ た 酸 化 チ タ ン / PDMSハ イ ブ リ ッ ド ゾ ル に
ホモジナイザーを用いて分散させサスペンジョンとした。ここに攪拌下アンモニ
ア水溶液を加え、酸化亜鉛粒子表面でゾルを加水分解・重合することによって、
酸 化 チ タ ン / PDMSハ イ ブ リ ッ ド に よ る 被 覆 を 行 っ た 。 得 ら れ た コ ア シ ェ ル 型 粒 子
は撥水性を有しており、デカメチルシクロペンタシロキサンへの分散性が未被覆
の 酸 化 亜 鉛 と 比 較 し て 改 善 さ れ て い る と と も に 、 そ の 程 度 が 酸 化 チ タ ン と PDMSの
比率と関連しているこが示唆された。コアとなる粒子、シェルとなる有機/無機
ハイブリッドの組み合わせはここで述べたものだけでなく多様な選択が可能であ
る。コア粒子の表面に精密にコントロールされた機能を有する有機/無機ハイブ
リッドのシェルを形成した構造は、新たな階層構造を持つ機能性材料への展開を
可能にする。
最後に第7章では以上の結果を総括した。本研究により得られた知見は、金属
酸化物とシリコーンを様々なレベルで複合化し、同時にマクロスコーピックな形
態をコントロールすることにより、それぞれが単独では持ち得ない機能を有した
材料を創製することができることを示すものである。
3
研 究 業 績
種 類 別
論文
○
題名、
発表・発行掲載誌名、
発表・発行年月日、
連名者
(1)(報文)
Nakade, M., Ikeda, T., and Ogawa, M. “Synthesis and properties of ellipsoidal hematite/silicone
core-shell particles”, J. Mater. Sci. (掲載決定)
○
(2)(報文)
Nakade, M. and Ogawa, M. “Synthesis and characterization of zinc oxide fine particle coated
with titania/PDMS hybrid”, J. Mater. Sci. (掲載決定)
○
(3)(報文)
Nakade, M., Ichihashi, K., and Ogawa, M. “Preparation of Titania/PDMS Hybrid Films and the
Conversion to Porous Materials”, J. So-Gel Sci. Tech., 36, 257-264 (2005)
○
(4)(報文)
Nakade, M., Ichihashi, K., and Ogawa, M. “Phase Transformation of Titania Domains in the
Titania/PDMS Hybrid Particles by Heat Treatment”, J. Ceram. Soc. Japan, 113, 280-285 (2005)
○
(5)(報文)
Nakade, M., Ichihashi, K., and Ogawa, M. “Microporous materials derived from the thermal
decomposition of the titania/PDMS hybrid particles”, J. Porous Mater., 12, 79-85 (2005)
○
(6)(報文)
Nakade, M., Kameyama, K., and Ogawa, M. “Synthesis and properties of titanium
dioxide/polydimethylsiloxane hybrid particles”, J. Mater. Sci., 39, 4131-4137 (2004)
講演
中出正人・小川誠 界面制御による有機/無機複合粒子の合成
会界面化学部会セミナー, 2006 年 9 月
日本油化学会第 45 年
Nakade, M., Ichihashi, K., and Ogawa, M. “Microporous films containing titania nano-particles
derived from the thermal decomposition of the titania/PDMS hybrid” Symposium E (Synthesis,
Characterization and Application of Mesostructured Thin Layers) in European Materials Research
Society 2005 Spring Meeting, 2005 年 6 月
Nakade, M., Ichihashi, K., and Ogawa, M. Microporous materials derived from the thermal
decomposition of the titania/PDMS hybrid particles Division of Colloid and Surface Chemistry
in 229th ACS National Meeting, San Diego, 2005 年 3 月
Ikeda, T., Nakade, M., Ogawa, M. Synthesis of silicone coated hematite particles Division of
Colloid and Surface Chemistry in 229th ACS National Meeting, San Diego, 2005 年 3 月
市橋孝介・中出正人・小川誠 酸化チタン/ポリジメチルシロキサンハイブリッド膜の
合成と性質
日本化学会第 85 春期年会(神奈川大学), 2005 年 3 月
4
中出正人・石森俊広・小川誠 酸化チタン/ポリジメチルシロキサンハイブリッドで被
覆した粉体の調製と性質
第 57 回コロイドおよび界面化学討論会(山口東京理科大),
2004 年 9 月
中出正人 化粧品における酸化チタンの役割−メイクアップ効果と紫外線防御機能−” 高
温セラミック材料第124委員会第 115 回会議, 2004 年 5 月
市橋孝介・中出正人・小川誠 酸化チタン/ポリジメチルシロキサンハイブリッド粒子
の加熱変化 第 42 回セラミックス基礎科学討論会(長岡), 2004 年 1 月
中出正人 ナノハイブリッド化技術による化粧品用粉体素材の開発
界面技術シンポジウム, 2004 年 1 月
第 21 回コロイド・
Nakade, M., Ishimori, T., Kameyama, K., Arakane, K., Naito, N., and Ogawa, M., “Development
of Superior Cosmetic Materials via Nano-Hybridization of Titanium dioxide and Silicone” 6th
Scientific Conference of the Asian Societies of Cosmetic Scientists, Manila, 2003 年 3 月
中出正人・石森俊広・亀山浩一・市橋孝介・小川誠 酸化チタン/シリコーンハイブリ
ッドの合成と性質
第 41 回セラミックス基礎科学討論会(鹿児島), 2003 年 1 月
中出正人・亀山浩一・小川誠 酸化チタン/シリコーンハイブリッド微粒子の合成と性
質
第 11 回ポリマー材料フォーラム, 2002 年 10 月
中出正人・本田佳子・亀山浩一・田岸則彦・小川誠 酸化チタン/ポリジメチルシロキ
サンハイブリッド微粒子の吸着特性
日本化学会第 81 春季年会, 2002 年 3 月
中出正人・本田佳子・亀山浩一・小川誠 酸化チタン/ポリジメチルシロキサンハイブ
リッド微粒子の合成とその性質
日本化学会第 79 春季年会, 2001 年 3 月
中出正人・亀山浩一・小川誠
ンハイブリッド微粒子の合成
ゾル・ゲル法による酸化チタン/ポリジメチルシロキサ
日本化学会第 77 秋季年会, 1999 年 9 月
その他
(特許)
特許第 3843387 号 「金属酸化物・オルガノポリシロキサンハイブリッド粉体及びその製
造方法並びにそれを配合した化粧料」
特開 2002-34838 「多孔質の酸化チタン・オルガノポリシロキサンハイブリッド粉体及び
酸化チタン・シリカ複合体」
US7052718 “Metal oxide-organopolysiloxane hybrid powder and a method for the preparation
thereof and a cosmetic composition therewith”
(議事録)
Nakade, M., Ishimori, T., Kameyama, K., Arakane, K., Naito, N., and Ogawa, M., “Development
of Superior Cosmetic Materials via Nano-Hybridization of Titanium dioxide and Silicone”
Proceedings of 6th Scientific Conference of the Asian Societies of Cosmetic Scientists, 157-171
(2003)
5
(記事)
中出正人
有機/無機ハイブリッド化技術の応用展開
工業材料, 54, 40-43, (2006)
(書籍)
「図解ナノテク活用技術のすべて」(監修 川合知二)工業調査会
高機能化―有機/無機ハイブリッド粒子の開発 p.267 (2002)
6
化粧品用粉体素材の