グローバル展開を推進する 博物館ソリューション - Fujitsu

グローバル展開を推進する
博物館ソリューション
Museum Solutions under Active Global Expansion
● 千野 亮 ● 石田亮介
あらまし
博物館資料の重要性は時間を経るごとに高まっており,ITによるデータベースでの
管理も必要度を増している。また,博物館が持つ独自性は強いものがあり,管理システ
ムには柔軟性が強く求められる。このような状況の中,富士通は博物館の価値創造に寄
与するため,収蔵品管理システムMusetheque
( ミューズテーク)を中心とした博物館ソ
リューションを提供している。Musethequeは,博物館が扱う収蔵品の管理項目を柔軟に
追加でき,また異なるカテゴリーの情報を容易にデータベースに格納して管理できると
いった特徴を持ち,更に大規模データに対しても検索レスポンスが劣化しないという長
所を持つ。
本稿では,富士通が提供する博物館ソリューションの強みと,グローバル展開につい
て述べる。
Abstract
The importance of museum materials is increasing as time passes and there is also a
growing need to manage them with databases by making use of information technology
(IT). In addition, with the strong originality of individual museums, such management
systems are required to be highly flexible. In these circumstances, Fujitsu offers
museum solutions mainly including Musetheque, a collection management system, in
order to help create value for museums. Musetheque is characterized by its flexibility
that allows collection items handled by museums to be added, and ability to easily store
information that is located in different categories into databases for management. It
also features an excellent search response that is not degraded by large sizes of data.
This paper describes the strengths of the museum solutions provided by Fujitsu and
their global expansion.
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FUJITSU. 65, 3, p. 58-62(05, 2014)
グローバル展開を推進する博物館ソリューション
および博物館相当施設である博物館と博物館類似
ま え が き
施設と呼ばれるものは全国で大小あわせて5500館
富士通は,従来より博物館向けのソリューショ
(1)
博物館の核となる部分は資料
以上存在している。
ンを提供している。博物館の業務は,収蔵品の管理,
であり,収集した資料を中心に考え,その資料を
企画展示,研究,情報公開といった多岐にわたる
用いて調査・研究や展示・教育を行っている。つ
ものであり,富士通はこれら博物館特有の業務を
まり集めた様々な資料情報が重要であり,これを
踏まえたソリューションの提供を強みとしている。
いかに効率良く管理して,調査研究や展示,教育
それは収蔵品管理システムを中心とした製品群に
に有効活用できるかが課題となっている。
よって支えられているものであり,長年の経験に
また,多くの自治体は博物館に対する評価を行っ
より業務への融和性,柔軟性,性能を高めてきて
ており,博物館の質が問われ始め,博物館の存在
いる。
意義・価値をいかに高めるかが重要となってきて
富士通の博物館ソリューションのコンセプトは,
いる。その対応の一例として,収蔵している資料
図-1に示すように収蔵管理システムをベースに,
の価値を再調査し,その資料情報をデータベース
研究活動,展示などの教育活動,博物館そのもの
化し,それを一般に広くアピールすることにより
の運営といった博物館の主要業務をオールラウン
博物館としての存在意義および価値を向上させて
ドにサポートすることである。本ソリューション
(2)
いる。
は日本にとどまらず,広く世界で通用するものと
しかし,資料情報のデータベース化と一口に言っ
考えており,グローバルな博物館に貢献すること
ても簡単なことではない。博物館は,歴史博物館,
が富士通のこれからの使命である。
考古博物館,民俗博物館,美術館,自然史博物館,
本稿では,富士通の博物館ソリューションの強
みとグローバル展開に向けた取組みを紹介する。
科学館,文学館など多岐にわたり,様々な資料を
収蔵している。
管理する対象のカテゴリーが異なることで,デー
博物館資料の重要性と多様性
タベースで管理する項目も異なってくる。例えば,
博物館とは資料を収集・保管し,それを調査・
歴史博物館の文書では時代や執筆者,宛先など,
研究し,展示・教育する施設を指し,登録博物館
また自然博物館の動物標本では,学名や採集者,
採集場所,採集日など,資料カテゴリーごとに管
理項目が全く異なっている。更に研究者ごとに独
博物館・美術館職員に
学芸員・研究者に
 運営支援
 調査研究支援
自に資料管理している場合もある。
多くの図書館では,MARC(Machine Readable
Cataloging)をベースとして管理項目が統一され
援
すべての
システム利用者に
究
 収集保管支援
各種帳票出力
運用費用の縮減
統計データ
蔵
多様なメディア管理
地図システム連携
館内資料公開
館外資料公開
展示システム連携
愉
来館者・インターネット利用者に
ているのに対し,日本の博物館業界では管理項目
の標準化が進んでおらず,同じ資料カテゴリーで
も,博物館ごとに異なっているのが現状である。
このような資料の多様性を損なうことなく,資
料情報をデータベース化し,その資料情報を活用
することができるのが富士通の収蔵品管理システ
ムMusetheque(ミューズテーク)である。
収蔵品管理システムMusethequeの特徴
博物館の様々なカテゴリーの様々な収蔵資料を
 展示・教育支援
 インターネット公開
データベースで管理するには,管理項目を柔軟に
図-1 博物館ソリューションのコンセプト
働した後でも,容易に管理項目の追加,修正,並
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設定できる必要がある。またシステムを構築・稼
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グローバル展開を推進する博物館ソリューション
び替え,削除などができる必要がある。
イブを実現するとともに,収蔵資料の受入情報や
Musethequeは,XMLで項目管理することによ
入出庫履歴情報管理など,博物館業務をトータル
り,文字数や項目数,階層,データ件数などの制
にサポートする。
限がなく,項目を後から追加するといった,柔軟
これらの特徴から,Musethequeは博物館の資料
な対応が可能である。画面表示の管理項目追加例
の多様性を損なうことなく一括管理が可能なため,
を図-2に示す。また,管理項目を従来のデータベー
図-4に示すような複数館の共同利用を容易に実現
スシステムに追加する場合とMusethequeに追加す
できる。共同利用により,各館で独立した資料情
る場合の違いを図-3に示す。従来のシステムと異
報の活用だけだったものが,各館を横断的に検索
なり,システムを停止することなく管理項目を追
して資料情報の新たな関係性を見つけることが可
加することができる。
能となる。Musethequeはこのような新たなサービ
Musethequeは,異なるカテゴリーの情報を容
スを提供できるため,博物館の価値の向上に寄与
易にデータベースに格納して管理できるとともに,
できる。
これらの情報を横断的に検索することも可能であ
博物館ソリューションのグローバル展開に向けて
る。そのため,格納した情報からこれまで発見す
ることのできなかった様々な情報の関係性を見つ
前章で述べたとおり,Musethequeを中心とした
けだすことができる。また,XMLデータベース
富士通の博物館ソリューションは,導入時,導入
として,富士通のXML型検索エンジンFUJITSU
後に関わらずその運用の柔軟性を強みとしている。
Software Interstage Shunsaku Data Manager を
この強みを生かし,日本の博物館に限らず世界中
用いているため,複雑な条件でも高速かつ安定し
の博物館の収蔵管理,情報公開に寄与できると考
た検索性能を保ちつつ,管理項目設定の柔軟性を
えている。世界には古い歴史を持った博物館(例
持ち合わせることが可能である。更に,文字情報
えばイギリスの大英博物館は1759年開館)や,膨
だけでなく,画像・動画・音声・PDFなどの多種
大な自然史標本を所蔵した博物館(例えばアメリ
多様なメディア情報も管理でき,デジタルアーカ
カのスミソニアン博物館は1億4200万点もの収蔵品
容易な
管理項目追加
図-2 画面表示の管理項目追加例
従来のデータベース型
管理項目を
追加したい
データ
退避
テーブル
再作成
システム停止
画面修正
運用再開
など・・・
Musetheque
管理項目を
追加したい
設定ファイル
修正
運用再開
(システム停止なし)
図-3 データベースの管理項目追加の違い
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グローバル展開を推進する博物館ソリューション
A 歴史博物館
Musetheque
一般市民
B 郷土資料館
C 自然史博物館
インターネット
複数の施設で共同利用
D 文書館
A
B
C
学校・研究者
E
D
博物館 資料館
動水植
博物館 文書館
学芸員・職員
E 動水植物園
他館資料の横断検索
図-4 複数館の共同利用
を有する),世界中のコレクションを収蔵している
システムとして広く貢献できるものである。
美術館などグローバル展開した博物館,美術館が
このように,Musethequeが世界の博物館に貢献
数多く存在している。そういった博物館や美術館
できることを実証するために,日本以外の博物館
の大規模なコレクションに対しても検索レスポン
にMusethequeを導入して,その効果をデジタルに
スが劣化しないという点においてもMusethequeは
評価していく必要がある。日本国内における実績
大いに貢献できる。
をベースにして,日本と比較的文化の近い東アジ
また,日本で開発された業務システムパッケー
ア諸国,東南アジア諸国に向けたMusethequeの評
ジの多くは,日本固有の文化,法制度,慣習に従っ
価活動を検討している。先に,Musethequeはグ
たものであり,これがグローバル展開のハードル
ローバルに寄与する可能性の高い製品であること
となっている。しかし,Musethequeは博物館の多
を述べたが,各国の文化,法制度,慣習の違いの
様な資料情報を管理する目的で開発したパッケー
影響を全く受けないということはないと考えてい
ジであるため,文化,法制度,慣習,標準化など
る。歴史博物館であれば,国の成り立ちの経緯に
の制約は組み込まれていない。このため,高い融
よって収蔵している資料の管理方法が異なってく
和性,柔軟性,性能を持つパッケージとなってお
るし,自然史系博物館であれば,その国で採集さ
り,グローバルへの寄与可能性が非常に高い製品
れる植物や動物標本によって管理方法が異なって
である。
くる。Musethequeの強みをベースにして,いかに
Musethequeに対する需要もこれから世界的に急
増していくとも考えている。2013年8月にエジプト
して各国の事情に合わせやすいパッケージ製品に
していけるかどうかが今後の課題である。
において国立博物館が襲撃され,所蔵している収
グローバル化の流れは不可逆的なものであり,
蔵品のほとんどが持ちされられるという事件が発
博物館のグローバル化も避けることができない。
生した。残念ながら世界的にみれば,過激派によ
福井県立恐竜博物館では,恐竜の化石を軸とした
る襲撃行動により,歴史的に非常に貴重な資料が
世界各国の博物館と提携し続けていることからも
略奪・破壊されるというケースは少なくない。博
(3)
国ごと,博物
そのグローバル化の流れは分かる。
物館がこういった襲撃を防ぐ,あるいは耐えるよ
館ごとの事情による管理項目の違いを吸収し,統
うなセキュリティを確保する必要がある。また収
一的なデータ形式にすることで博物館同士の連携
蔵資料を確実にデジタル化して管理することで,
を促して,博物館のグローバル化を支援できる。
現物そのもの以外にその資料の「情報」をデジタ
その役割をMusethequeは果たすことができる。世
ルに保持して守るというニーズはより重要なもの
界中の博物館が連携できて,新たな価値創造を可
になっていく。このニーズにもMusethequeは管理
能にするソリューションを開発し,博物館の研究
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グローバル展開を推進する博物館ソリューション
業務にもイノベーションを起こすことができると
いく。
同時に,世界中の人々の知的好奇心を満足できる
ような博物館の実現に貢献していく予定である。
む す び
本稿では,Musethequeを中心とした博物館ソ
参考文献
(1) 平成23年社会教育調査報告書.文部科学省生涯学習
政策局調査企画課編,2013.
(2)「 あ ら た め て 考 え る 博 物 館 の 存 在 価 値 と コ レ ク
リューションの強みと,グローバル展開について
ション」.全日本博物館学会 2008年度 第3回研究会,
述 べ た。 今 後 も, 富 士 通 の 培 っ て き た 博 物 館 ソ
2008年12月14日.
リューションの強みを生かし,世界の博物館に向
(3) 福井県立恐竜博物館:恐竜博物館との提携機関.
けて更なる貢献をしていく。また,世界の博物館
http://www.dinosaur.pref.fukui.jp/museum/
の事例を逆に日本に取り組むことによって,日本
relation.html
の博物館が更なる発展を遂げることを支援して
著者紹介
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千野 亮(ちの あきら)
石田亮介(いしだ りょうすけ)
ヘルスケア・文教システム事業本部文
教第一ソリューション統括部 所属
現在,収蔵品管理システムMusetheque
のパッケージ開発および博物館システ
ムの構築に従事。
ヘルスケア・文教システム事業本部文
教第一ソリューション統括部 所属
現在,デジタルアーカイブシステムの
構築およびプロジェクトマネジメント
に従事。
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