2004 年 8 月 23 日 地域研修で夕張を訪れるにあたり −夕張をどういう視角から視るか− 担当教員:川村雅則 夕張という地域を視る上で欠かせないのは、石炭産業の隆盛・衰退という変動の中で地 域経済や地域住民の労働・暮らしを視るという視角である。かつて石炭産業が盛んだった ときの人口を 100 とすれば、いまやその数は 13 にまで減っている。じつに 10 分の 1 にま で人間が減少したのである(後掲の表1)。しかも地域に残されている多くは高齢者である (表 2)。夕張の現状を視る上で、夕張と石炭という歴史的な視角は欠かせないのである。 もちろん、そういう困難の打開のための取り組みが夕張で進められている事実にも目を向 けなければならないのは言うまでもない。 ■地域研修でのテーマ Ⅰ.夕張と石炭 (ア) 石炭産業の隆盛・衰退と国のエネルギー政策 (イ) 企業(炭鉱企業)城下町と地域経済 (ウ) 北炭夕張新鉱の大災害(1981 年 10 月、93 人死亡)と関西電力美浜原発事故 (エ) 石炭産業の光と影――炭鉱離職者はいま―― Ⅱ.石炭資本の撤退後の夕張の地域経済と、ひとびとの労働や生活・暮らし (ア) 雇用・就業 ¾ 誰(どういう属性のひと)が、どの位の規模で失業しているのか ¾ 夕張の失業の特徴 (イ) 生活・暮らし 資料1 夕張の歴史 明治7年(1874 年)、アメリカ人鉱山地質学者ベンジャミン・スミス・ライマンの探検隊が夕張川上流 の炭鉱地質を調査、その後明治 21 年(1888 年)、道庁の技師坂市太郎が志幌加別川の上流で石炭の大露頭 を発見したことから「炭鉱の街夕張」の歴史が始まりました。 明治 24 年(1891 年)の炭鉱開始以来、炭鉱の街として栄え、昭和 18 年(1943 年)には市制が施行さ れました。一時は大小 24 の鉱山、人口 12 万人を数えましたが、昭和 40 年(1965 年)代に入って次々に 閉山。「炭鉱の街夕張」としての歴史に幕を閉じました。現在、石炭の歴史村にある「石炭博物館」「炭鉱生活 館」「模擬鉱」などに、炭鉱の街夕張の歴史や生活が再現されています。 炭鉱に替わって夕張の顔となったのが「観光」です。かつての炭鉱跡地を利用し、昭和 58 年(1983 年) 1 にオープンした「石炭の歴史村」をはじめ、北海道屈指のスキー場マウントレースイ、ゆうばり国際ファン タスティック映画祭をはじめとする多彩なイベント、全国的にその名を知られる銘産夕張メロンを原料と した特産品開発、雄大な自然環境の利用など、いち早く新たな街づくりに着手、北海道に数ある元・炭鉱 の街の中で、最も活性化された街として注目されています。(夕張市 HP より。下線、引用者) 資料 2 北海道における石炭産業の衰退 かつては石炭はエネルギー資源の中心的位置を占めていた。しかし、朝鮮ブーム後の「デフレ不況」下 での石炭需要の逼迫によって、1953 年(昭和 28 年)頃から各炭鉱資本はいわゆる「企業整備」という名 の「首切り合理化」をすすめ始める。さらに「エネルギー革命」の旗印のもとに政府は、エネルギー政策 の転換をはかり、国際石油資本の進出を受け入れるために石炭産業を「斜陽産業」として、1955 年「石炭 鉱業審議会」の答申に始まる一連のスクラップ・アンド・ビルド政策が強行されていった。 「石炭王国」北海道においても、1960 年北炭の赤間・万字・美流渡 3 山の分離化分離、1963 年には三 井美唄、三菱芦別、明治庶路の閉山、北炭空知、北炭神威、住友奈井江など大手炭鉱の第二会社移行が行 われ、以後、1994 年歌志内の空知炭鉱まで、累計 173 にのぼるヤマが、46,000 人を超す労働者の首切り とともに、次々につぶされていった。(後略。福地ら「炭鉱離職者の健康状態に関する調査研究」より) 資料 3 過疎化と高齢化の進行 このような地域の基幹産業であった炭鉱業の衰退によって北海道空知地方の旧産炭地には、単に経済面 だけでなく、地域社会の構造全体が大きな変化を受けていく。とくにもっとも目立った変化は、石炭に代 わる地場産業の導入と育成が困難な中で、労働者と企業の流出がつづき、高度の過疎化と高齢化が同時進 行したことである。 表 空知旧産炭地域の人口・社会指標 人口a 人口増加率a 老年人口 生活保護 事業所数 従業員増 出生率b 死亡率b 割合a 率c 増加率d 加率d % 人 % 人口千対 人口千対 人口千対 5年・% 5年・% 調査年 95 90∼95 60∼95 95 98 98 99 91∼96 91∼96 芦別市 22,931 -8.6 -65.9 22.9 6.5 11.3 20.1 -8.4 -9.5 夕張市 17,116 -18.4 -84.1 25.9 4.4 13.1 31.2 -16 -17.8 美唄市 33,434 -5 -61.7 21 7.3 9.1 23.1 -7.3 -2.6 赤平市 17,351 -10.6 -68.2 24.1 6 12.5 24.5 -13.4 -15 三笠市 15,116 -11.3 -73.1 27.5 4.9 14.4 34.3 -1.8 -4.5 歌志内市 6,867 -17.1 -81.9 26.1 4.1 14 30.1 -17 -34 上砂川町 852 -9.1 -79.4 28.4 5.3 13.9 35.8 -7.6 -11.5 札幌市 1,757,025 5.1 192.3 11.5 9 5.6 19.2 -2.3 8 北海道 5,692,321 0.9 13 14.8 8.6 7.3 17 -1.7 5.6 a)総務庁統計局「平成7年国勢調査報告」 資料: b)北海道「北海道保健統計年報」 c)北海道保健福祉部保護課「市町村別保護状況」 d)総務庁統計局「事業所統計調査報告」 出所:福地ら「炭鉱離職者の健康状態に関する調査研究より。 2 まず、人口増加率が軒並み大幅なマイナスを示しているのが目につく。 (中略)炭鉱資本だけでなく、あ らゆる企業が産炭地域から撤退して行き、最近の事業所の減少率の大きさからも分かるように、今なお、 産業の流出がつづいている。その結果、生産年齢層は働く場を求めて地域外に出て行き、残るのはよそに 出ても職を得ることが難しい高齢者が中心になるため、急速に人口の高齢化が進行することになる。 (後略。 福地ら「炭鉱離職者の健康状態に関する調査研究」より)。 ■参考文献等 (ア) 夕張市HP(http://www.dolphin.co.jp/hpr/yubari/Index.html) (イ) 福地保馬・佐藤修二・川村雅則「炭鉱離職者の健康状態に関する調査研究」『北海 道大学大学院教育学研究科紀要』第 84 号、2001 年 12 月 (ウ) 宮下弘美「石炭業」大沼盛男編著『北海道産業史』北海道大学図書刊行会、2002 年 (エ) 北海道総合企画部『平成 13 年北海道市町村勢要覧』北海道統計協会、平成 13 年 10 月 ■地域研修で行いたい作業 1. 夕張と石炭の歴史について (ア) 炭鉱町・炭鉱施設の訪問 (イ) 炭鉱離職者からの当時の就業・生活と離職後の就業・生活についての聞き取 り 2. 夕張市からの聞き取り (ア) 夕張の産業・地域経済の現状と歴史 (イ) 夕張の財政の現状と歴史 3. 議員からの聞き取り (ア) 夕張の抱える課題と議員活動について 4. 雇用・失業についての聞き取り (ア) 夕張ハローワークからの地域の雇用・失業の特徴などについて聞き取り (イ) 失業者(求職者)からの職歴・前職の状況・求職活動・生活などについての 聞き取り(札幌東ハローワークでの調査と同様) 5. 高校生の就職・進路状況について高校教員(労働組合)からの聞き取り 6. 商店主や中小企業経営者からの聞き取り 3 <<資料>> 表 1 人口の推移 年次 世帯数 総数 明治24年 69 307 39年 4,052 18,142 大正9年 10,840 51,064 14年 9,855 48,697 昭和5年 10,271 51,967 10年 8,109 42,508 15年 11,582 64,998 18年 12,499 73,953 22年 15,141 82,123 25年 19,359 99,530 30年 21,218 107,332 35年 25,156 116,908 35年 23,042 107,972 40年 21,070 85,141 45年 19,862 69,871 50年 15,944 50,131 51年 15,732 50,167 52年 15,520 48,663 53年 15,193 47,027 54年 14,553 44,613 55年 14,992 41,715 56年 13,794 40,829 57年 13,309 38,568 58年 12,427 35,190 59年 12,062 33,544 60年 12,152 31,665 61年 11,653 31,406 62年 10,786 28,596 63年 10,421 25,921 平成元年 9,983 24,440 2年 8,791 20,969 3年 8,887 20,752 4年 8,726 19,956 5年 8,534 19,202 6年 8,319 18,535 7年 7,593 17,116 8年 7,997 17,340 9年 7,814 16,785 10年 7,652 16,211 11年 7,548 15,821 12年 6,878 14,791 13年 7,408 15,115 14年 7,294 14,719 出所:夕張市HPより作成。 人口 男 女 10,079 27,340 26,193 27,266 22,144 35,983 42,308 43,812 52,337 54,850 59,416 54,892 42,525 34,682 24,650 24,791 24,078 23,297 22,078 20,715 20,350 19,170 17,438 16,662 15,628 15,570 14,137 12,729 11,854 10,078 9,986 9,555 9,207 8,867 8,127 8,307 8,035 7,724 7,550 6,952 7,192 7,000 8,063 23,724 22,504 24,701 20,364 29,015 31,645 38,311 47,193 52,482 57,492 53,080 42,616 35,189 25,481 25,376 24,585 23,730 22,535 21,000 20,479 19,398 17,752 16,882 16,037 15,836 14,459 13,192 12,586 10,891 10,766 10,401 9,995 9,668 8,989 9,033 8,750 8,487 8,271 7,839 7,923 7,719 4 人口総数 指数(昭和 35年= 100) 資料 - 北海道戸口表 16 44 42 44 36 56 63 70 85 92 100 92 73 60 43 43 42 40 38 36 35 33 30 29 27 27 24 22 21 18 18 17 16 16 15 15 14 14 14 13 13 13 公募(常住人口) 第1回国勢調査 第2回国勢調査 第3回国勢調査 第4回国勢調査 第5回国勢調査 市制施行年 第6回国勢調査 第7回国勢調査 第8回国勢調査 最多人口(4月30日) 第9回国勢調査 第10回国勢調査 第11回国勢調査 第12回国勢調査 9月30日 9月30日 9月30日 9月30日 第13回国勢調査 9月30日 9月30日 9月30日 9月30日 第14回国勢調査 9月30日 9月30日 9月30日 9月30日 第15回国勢調査 9月30日 9月30日 9月30日 9月30日 第16回国勢調査 9月30日 9月30日 9月30日 9月30日 第17回国勢調査 9月30日 9月30日 表 2 年齢別人口の推移 区 分 総数 10歳未満 10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80歳以上 平成2年 平成7年 平成12年 構成比 構成比 構成比 総数 総数 (%) (%) (%) 20,969 100.0 17,116 100.0 14,791 100.0 1,559 7.4 1,027 6.0 783 5.3 2,502 11.9 1,598 9.3 1,074 7.3 1,249 6.0 1,115 6.5 1,025 6.9 2,106 10.0 1,301 7.6 1,097 7.4 3,198 15.3 2,468 14.4 1,716 11.6 4,506 21.5 3,267 19.1 2,553 17.3 3,493 16.7 3,574 20.9 3,215 21.7 1,784 8.5 2,017 11.8 2,389 16.2 572 2.7 749 4.4 939 6.3 総数 0∼14歳 2,799 13.3 1,800 15∼64歳 14,318 68.3 10,879 65歳以上 3,852 18.4 4,437 資料:市総務部(国勢調査) 出所:夕張市HPより作成。 表3 10.5 63.6 25.9 1,320 8,502 4,969 産業別人口の推移 平 成 2 年 産業別 8.9 57.5 33.6 総 数 男 女 8,604 5,045 3,559 総数 1,043 529 514 第1次産業 854 367 487 農業 189 162 27 林業 漁業 2,265 1,610 655 第2次産業 104 85 19 鉱業 1,103 930 173 建設業 1,058 595 463 製造業 5,296 2,906 2,390 第3次産業 電気・ガス・ 熱供給・水道 100 88 12 業 運輸・通信業 600 501 99 卸売・小売 1,618 673 945 業・飲食店 金融・保険業 150 66 84 不動産業 9 6 3 サービス業 2,245 1,110 1,135 公務 574 462 112 その他□ 分類不能の産 業 資料:市総務部(国勢調査) 出所:夕張市HPより。 平 成 7 年 構成比 (%) 100.0 12.1 9.9 2.2 26.3 1.2 12.8 12.3 61.6 総 数 男 女 7,556 4,340 3,216 990 485 505 889 401 488 100 83 17 1 1 1,867 1,351 516 10 8 2 899 761 138 958 582 376 4,697 2,503 2,194 構成比 (%) 100.0 13.1 11.8 1.3 0.0 24.7 0.1 11.9 12.7 62.2 各年10月1日現在 単位:人 平 成 1 2 年 構成比 総 数 男 女 (%) 6,402 3,615 2,787 100.0 844 371 473 13.2 804 338 466 12.6 40 33 7 0.6 1,536 1,137 399 24.0 7 5 2 0.1 707 616 91 11.0 822 516 306 12.8 4,022 2,107 1,915 62.8 1.2 84 73 11 1.1 58 53 5 0.9 7.0 468 404 64 6.2 354 297 57 5.5 18.8 1,406 588 818 18.6 1,041 416 625 16.2 1.7 108 0.1 17 26.1 2,088 6.7 526 2 44 64 13 4 992 1,096 389 137 1 1 1.4 0.2 27.6 7.0 0.0 81 18 2,061 409 - 40 41 13 5 970 1,091 318 91 - 1.3 0.3 32.2 6.4 - - - - 2 5 1 1 0.0 - -
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