研磨パッドおよび砥粒のコンタクトエリアを考慮した 研磨メカニズムの数量

E07
研磨パッドおよび砥粒のコンタクトエリアを考慮した
研磨メカニズムの数量的考察
ニッタ・ハース株式会社 技術本部研究開発部
○礒部晶、西澤秀明、羽場真一
Numerical discussion of polishing mechanism considering contact area of polishing pad and that of polishing abrasives
Nitta Haas Incorporated R&D Department Akira Isobe, Hideaki Nishizwa, Shinichi Haba
Polishing mechanism is discussed based on a model where material is removed atomically at the contact area of abrasives.
Frequency of polishing pad contact area passing at a point on a substrate is calculated and it becomes 1000times per one second. One
angstrom of material is removed by 20 passes of the contact. If we assume that one or two lines of abrasives at peripheral of the contact area
exists, above removal phenomenon can be well explained.
1.緒言
近年の研究では研磨中の研磨パッドのコンタクトエ
リア(接触面積率)は1%程度であることがわかっている
[1,2]。しかし、このように微小な接触面積を用いた研磨に
より精密な研磨面が得られることは直感的には理解しにくい。
本研究では、研磨パッドの接触部が単位時間中に基板上の任
意の一点上を通過する頻度を計算し、精密な研磨面の形成に
ついての妥当性を検証する。さらに、研磨砥粒と基板の接触
部において原子単位で材料除去が行われるという仮定に基づ
き、パッドの接触部で仕事をする砥粒数を計算して、研磨メ
カニズムについて考察する。
2.コンタクトエリアの測定例
図1は様々な研磨パッドのコンタクトエリア測定例で
ある。デバイスのCMPに広く用いられる発泡ポリウレタン
パッド IC1000TM はドレス条件によって 0.5∼2.0%程度の接
触部を持つ。また、その接触部面積は平均で10∼100平
方ミクロン程度であり、コンディショニング条件により接触
面積、接触面積率は変化する。スエードタイプのパッドでは
接触面積は大きくなり、接触面積率も2∼5%程度となる。
3.接触頻度の計算
ここで、図2に示すように接触面積率1%、すべての
接触部が 10um×10um の正方形であると仮定する。すなわち、
100um×100um の領域ごとにひとつの接触部が存在するとい
う仮定である。また、パッドと基板の相対速度を 1m/秒、
一定方向への移動と仮定する。そうすると、ひとつの接触部
は1秒間に 1m移動するので、その軌跡は 10um×1m=107
um2 となり、元の 100um×100um の面積に対して 103倍となる。
これは、基板上の任意の1点上を1秒間に 1000 回パッド接
触部が通過することを意味している。1000 回の接触は十分
にランダマイズの効果があると考えられ、たとえ現実には接
触部の分布、形状やサイズに多少の偏りがあろうとも、十分
に均一な面精度が得られると考えられる。
100um
10um
10um
100um
1m
図2
接触部の仮定
図3は接触面積率を変化させた場合の接触頻度を示し
たグラフであるが、当然、接触面積率が大きいほど接触頻度
が高くなる。このことは、接触面積率が大きいスエードタイ
プでより精度の高い表面が得られるという経験的事実と合致
する。
(A)IC1000TM
接触頻度(回/秒)
60000
50000
40000
接触面積10×10um
接触面積5×5um
接触面積1×1um
30000
20000
10000
接触面積率(%)
(B) スエードパッド
図3
図1 コンタクトエリア測定例
2011 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集
- 347 -
接触面積率と接触頻度
5
4
4.
5
3
3.
5
2
2.
5
1
1.
5
0
0.
5
0
E07
一方、図4では接触面積率1%一定で、平均接触面積
を変化させた場合の接触頻度の変化を示す。同じ接触面積率
でも、平均接触面積が小さくなるほど接触頻度が高くなる。
これは、目の細かいやすりほど滑らかに表面が仕上がるのと
同様で、1 個あたりの接触面積を小さく、接触点数を多くす
ることが平滑な面を得るために有効であることを示している。
砥粒
接触径
接触頻度(回/秒)
12000
基板
10000
8000
図6
砥粒接触部
6000
4000
10um×10um の接触部には 50nm の砥粒が 200 個×200 個
存在し得るが、上記数字はそれに比べると非常に小さい。す
なわち、研磨パッドの接触部にはまんべんなく砥粒が存在す
るのではないことになる。現実の研磨を考えると、図8に示
すように[4]、研磨パッドの谷の部分を移動してきた砥粒が
研磨パッドの接触部にトラップされてそこで研磨が行われる
と考えることができる。10um□の接触部で 1 辺あたり 200 個
が並ぶので、前記作用砥粒数に近い数字となる。
2000
0
0
5
10
15
20
25
接触部サイズ(um□)
図4 平均接触面積と接触頻度
4.作用砥粒数の考察
ここで、研磨レートを 0.3um/分と仮定すると、毎秒
5nm、先の条件下ではパッド接触 1 回当たり 5/1000nm が除去
される計算となる。これは、すべての接触で材料除去が行わ
れているわけではないことを意味している。ここで、実際に
仕事をしているのは砥粒であると考えると、パッド接触部に
何個の砥粒が平均して存在し、1 個当たり何個の原子を除去
するかを考慮する必要がある。
砥粒の基板接触部において原子単位で材料除去が行わ
れると仮定すると、砥粒の基板に対する接触面積を考慮する
必要がある。実際の砥粒接触面積を測定することは難しく、
シミュレーションも困難である。なぜならば、CMP において、
材料最表面は化学作用により物性が変化していると考えられ
るためである[3]。そこで、幾何学的に砥粒の押し込み量と
接触面積の関係を計算してみる。
使用スラリーの砥粒サイズを 50nm とし、その時の接触
径を押し込み量に対してプロットしたものが図5である。1
Å押し込まれただけで接触径は約45Åとなる。この数字を
用いて図6のように接触部の断面で考察する。除去される原
子単位を 5Åと仮定すると、上記仮定の下では 1 回の接触で
5Å×45Åの断面積が除去される。10um 幅の断面で 1 秒間に
50nm 除去されることから、約 22 万個の砥粒が仕事をした計
算となる。1 回の接触に直すと約 220 個となる。
50
45
接触径(Å)
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
図7
研磨中の基板・パッド断面モデル図
結言
研磨パッドの接触部が基板上を通過する頻度を計算し、
微小接触部による研磨で精密な表面加工ができる妥当性を証
明した。また、接触面積が小さく、接触点数が多い研磨パッ
ド表面が望ましいことを明らかとした。さらに、作用砥粒数
を見積もり、砥粒とパッド接触部を考慮した研磨モデルを提
案した。今回の検討ではいくつもの仮定を織り込んでいるの
で、今後は実際の研磨における接触面積率、接触点数、研磨
中の砥粒の輸送、砥粒の接触面積および 1 回の接触による材
料除去量などを検証していく予定である。
参考文献
[1] 三橋、小野、礒部 CMP による平坦化研磨―パッドとウ
ェハの接触状況― 1995 年 精密工学会秋季大会学術講
演会講演論文集,p.20-21
[2] C.L.Elmufdi and G.P.Muldowney, M.R.S.Symposium
Proc. vol914 (2006)
[3] 泉谷徹郎 光学ガラス,共立出版,(1984).
[4] M.Akaji, S.Haba, K.Yoshida, A.Isobe, M. Kinoshita,
ICPT2009 p97 (2009)
砥粒押し込み量(Å)
図5 砥粒押し込み深さと接触径
2011 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集
- 348 -