日本産牛乳・乳製品の東南アジア諸国ヘの 輸出拡大に向けた販売・輸送

平成22年度
農林水産物等輸出課題解決対策事業
(農林水産省補助事業)
日本産牛乳・乳製品の東南アジア諸国ヘの
輸出拡大に向けた販売・輸送体制の構築
実施報告書
社団法人全国農協乳業協会
平成 23 年3月
はじめに
社団法人全国農協乳業協会は、平成 22 年度農林水産省補助事業「農林水産物等輸
出課題解決対策事業」を活用して、「日本産牛乳・乳製品の東单アジア諸国ヘの輸出拡
大に向けた販売・輸送体制の構築」をテーマとして、新たな牛乳・乳製品の輸出へ向けて
課題解決策の調査・検討に取り組み、本報告書はこれらの結果をとりまとめたものである。
酪農・乳業を取り巻く環境は、少子化による市場の縮小傾向や景気の低迷からくる個人
消費の落ち込みが続いており、生乳生産の落ち込みも懸念されている状況にあることか
ら、酪農基盤の安定のために牛乳・乳製品の消費拡大を図ることが重要となっている。
一方、東单アジア諸国への育児用粉乳やLL牛乳の輸出は日本産牛乳・乳製品の安全
・安心面での評価が高いことから、今後も需要の拡大が見込まれている。
今後、輸出への取り組みを検討している乳業者も多く、酪農家が自ら生産・販売を行っ
ているプラントにおいても6次産業化へ向け輸出の取り組みに期待が高いことから、輸出に
おける課題となっている「共同販売・共同輸送のモデル構築」や「新たな日本産牛乳・乳製
品の需要拡大」を目的として事業を実施したところである。
本報告書は、輸出課題解決策を提示するとともに、今後、海外への販売・輸送に取り組
む乳業者や関係者にとって実務上の指針となるよう、輸出の諸条件やラベル、表示、ヒアリ
ング情報など実用的な事例を紹介しており、業務の参考になることを願っている。
本報告書のとりまとめにあたり、ご協力を頂いた検討会委員及び関係者の皆様に厚く御
礼申し上げる。
なお、本事業は農林水産省補助事業「平成 22 年度農林水産物等輸出課題解決対策
事業」により、社団法人全国農協乳業協会が実施したものである。
本報告書の一切の責任は、当協会にあり、農林水産省の見解を示すものではない。
平成 23 年 3 月
社団法人全国農協乳業協会
平成 22 年度農林水産物等輸出課題解決対策事業
「日本産牛乳・乳製品の東单アジア諸国ヘの輸出拡大に向けた販売・輸送体制の構築」
目次
1. 序章
1.1 事業背景と目的
1.2 調査方法
1.3 輸出課題解決検討会委員名簿と開催実績
1.4 全体のスケジュール
頁
1
1
1
3
4
2. 香港を対象としたチルド乳製品の共同販売・共同輸送モデル構築
2.1 実施概要
2.2 対象製品と集約梱包の流れ
2.3 実施結果
(1)共同輸送の実施
(2)共同販売(共同試食会)の実施
2.4 共同販売・共同輸送モデル構築における課題と対応策
5
5
6
8
8
13
18
3. 業務用殺菌乳の輸出試験
3.1 実施概要
3.2 実施結果
(1)台湾における業務用殺菌乳の用途とニーズ
(2)台湾への LL 製品輸出に基づく物流条件の検証
(3)日本におけるソフトタンク輸送を想定した品質保証期間延長テスト
3.3 現状の課題と解決策
(1)市場が求める賞味期限とソフトタンク輸送品質保証期間の整合性
(2)ソフトタンクの海外-日本での運用課題
20
20
20
20
23
24
27
27
27
4. 結論及び解決のための方策
4.1 牛乳・乳製品の輸出課題とその方策
29
29
5. 普及啓発活動
5.1 普及啓発のための活動一覧
31
31
参考1. 香港ライセンス申請手引き
参考2. ヒアリング先一覧
参考3. 香港・台湾外資系量販店 乳製品売場風景
32
33
34
1. 序章
1.1 事業背景と目的
日本の酪農乳業界においては少子化等の影響により牛乳・乳製品の消費が伸び悩ん
でおり、酪農基盤の安定のために牛乳・乳製品の消費拡大を図ることが重要となっている。
一方、東单アジア諸国への育児用粉乳やLL牛乳の輸出は日本産牛乳・乳製品の安全
・安心面での評価が高いことから増加しており、これらの国の経済発展に伴う富裕層の増
加から、今後も日本産牛乳・乳製品の需要の拡大が見込まれる。
平成 21 年の日本から海外への牛乳・部分脱脂乳の輸出量は 2,100 トン余りと年々増加
しているが、当協会の会員(含む関連会社)のシェアはLL牛乳を中心に約 80%を占めて
おり、輸出意欲も高い。
新たに輸出を検討している乳業者も多く、酪農家が自ら生産・販売を行っているプラント
(チーズ工房等)においても輸出への取り組みに期待が高い。
また、平成 22 年 4 月からの宮崎県における口蹄疫発生を受け、日本産牛乳・乳製品の
輸出は一部の国を除きストップしていたが、平成 23 年 2 月に国際獣疫事務局(OIE)科学
委員会の清浄国のステータス認定を受け、今後の再開への取り組みが進められ、更なる市
場拡大の機会も期待できる。
しかしながら、新たに輸出を検討している乳業者においては、既に取り組みを進めてい
る乳業者との競合や輸送ロットの確保に加え、販路の確保や輸送体制の構築が懸案とな
っている。
従って、本事業は、今後の輸出再開を視座に置き、東单アジア諸国への更なる輸出の
拡大及び新たな輸出品目への取り組みを行うべく、販売・輸送体制の構築を目的として実
施したところである。
1.2 調査方法
今回課題解決のための実施テーマとして、前述の通り下記3つのテーマを掲げて取り組
んだ。
①共同販売・共同輸送のモデル構築
西日本地区をモデルとして既に輸出に取り組んでいる乳業者のノウハウ等を活用し、
乳業者が連携した販売・輸送体制のモデルの構築
②チルド(10℃以下)温度帯での牛乳・乳製品輸送試験
チルド温度帯等での牛乳・乳製品の航空便による海外への梱包・輸送試験及びデー
タ測定
1
③業務用殺菌乳の輸出試験
具体的には下記表にあるように、①と②のテーマを合同で実施し、国内8社の乳製品を
チルド(10℃以下)の温度帯で、香港に向けて“共同輸送”を行った。一方、“共同販売”に
ついては、直ぐに現地量販店等で各社の乳製品を店頭に並べることが難しいので、今回
は香港を代表する5つ星ホテルであるインターコンチネンタルホテルにて、そこで働くシェ
フとパティシエを対象に試食会を実施するという形態で行った。
なお、インターコンチネンタルホテルを対象とした理由は、今回8社の乳製品を共同輸
送するために、日本側の Shipper(荷送り人)になって頂いた日系フォワーダーのご紹介に
よるものである。
一方、③の業務用殺菌乳の輸出試験については台湾を前提に考えていたが、台湾で
は、高温処理した LL(ロングライフ)牛乳の輸入は許可されるが、殺菌乳は輸入の許可が
下りず、結果的には LL 製品で台湾への輸入を通じて、通関・検疫リードタイム等の物流条
件と、業務用殺菌乳の流通実態を調査した。また併せて日本国内で、ソフトタンクの利用に
よる低温長距離輸送を想定した品質保証期間の検証を行い、両結果に基づくシミュレー
ションという試験方法を採用した。
なお、殺菌乳輸送テストの第一候補として、市場規模と輸送時間を考慮し、当初は上海
を予定していたが、口蹄疫の関係で輸入不可のため、輸送時間と輸入規制面を考慮し、
台湾に変更した。
【事業計画テーマと実際の実施内容】
事業計画
実施内容
1.共同販売・共同輸送のモデル構築
西日本地区をモデルとして既に輸出に取り組んでい
る乳業者のノウハウ等を活用し、乳業者が連携した
販売・輸送体制のモデルの構築
香港を対象としたチルド乳製品の共同販売・共同
輸送モデル構築
・香港インターコンチネンタルホテルにて
同ホテルシェフ、パティシエを対象とした
試食会の実施
・香港商社へ各社サンプルを提供し、商社が持つ
量販店バイヤーへの商品プレゼンと意見交換の
実施
・上記ホテル、商社向け商品の共同輸送と輸送
テストの実施
2.チルド(10℃以下)温度帯での牛乳・乳製品
輸送試験
チルド温度帯等での牛乳・乳製品の航空便による
海外への梱包・輸送試験及びデータ測定
業務用殺菌乳の輸出試験
・台湾最大手乳業メーカーへ業務用殺菌乳等の
輸出についてのヒアリング実施
・台湾での牛乳輸入制約の把握、業務向けLL製品
の輸送試験の実施
・日本国内での品質保証期間延長試験、
ソフトタンク活用の合理化検討
3.業務用殺菌乳の輸出試験
ソフトタンクを活用した業務用殺菌乳の海外向け
輸送試験及びヒアリング等の実施による、業務用
殺菌乳の輸出可能性を検証
2
1.3 輸出課題解決検討会委員名簿と開催実績
【牛乳・乳製品輸出課題解決検討会委員名簿】
所 属
氏 名
役 職
寺田 真顕
よつ葉乳業株式会社
市乳統括部長
末安 亮一
雪印メグミルク株式会社
海外事業部副部長
黒石 卓平
日本酪農協同株式会社
市場開発部部長
岡崎 孝夫
大山乳業農業協同組合
販売一課課長
八木 理成
四国乳業株式会社
執行役員営業部長
島田 信也
オーム乳業株式会社
常務取締役
田口 満良
熊本県酪農業協同組合連合会
営業部次長
鈴木 功司
九州乳業株式会社
執行役員営業本部長
有村 義昭
单日本酪農協同株式会社
取締役営業副本部長
稲毛 康文
ANAロジスティクサービス株式会社 マ
マーケティングディレクター
【牛乳・乳製品輸出課題解決検討会開催実績】
第 1 回牛乳・乳製品輸出課題解決検討会
日時
平成 22 年 8 月 30 日(月) 13:30~
場所
コープビル第 2 会議室(東京)
内容
輸出課題解決対策事業の内容の検討
第 2 回牛乳・乳製品輸出課題解決検討会
日時
平成 22 年 11 月 19 日(金) 13:30~
場所
ホテルセントラーザ茜の間(福岡)
内容
輸出課題解決対策事業の具体的スケジュール検討
福岡物流倉庫及び博多港輸出積み出しバース現地視察
第 3 回牛乳・乳製品輸出課題解決検討会
日時
平成 23 年 3 月 28 日(月) 10:30~
場所
JA ビルカンファレンス 401-A 会議室(東京)
内容
輸出課題解決対策事業の結果の検討・検証
事業の普及・啓発の検討
3
1.4 全体のスケジュール
本事業は、平成 22 年 8 月から平成 23 年 3 月までを期間として実施した。最初は輸出
に対し、当協会会員企業より九州・西日本の乳業メーカーを中心に、“牛乳・乳製品輸出
課題解決検討会”を形成し、対象国と進め方について協議し、実行に移す進め方を行っ
た。
実際に輸出対象先での現地活動が後半に集中しているのは、下記理由による。
(1)香港で生クリームの輸入ライセンスを申請取得するための手続に時間を要したこと。
(2)口蹄疫による輸入規制の緩和が取られるか、その動向に注目していたこと。
(3)香港、台湾で実際の受け皿になって頂く、Consignee(荷受け人)の決定や、その先のホ
テル等との調整に時間を要したこと。
【推進スケジュール】
8月
検討会
第1回
8/30
ヒアリ
ング
九州地
区実施
共同
販売・
共同
輸送
モデル
10月
12月
1月
2月
3月
第3回
3/28
参加企業準備
検討会 2/2
実施に向け該当企業と適時打合せ
参加メーカー
並びに輸出
品目の確定
日本側におけ
る輸出準備
チルド製品の現地受け皿
(輸出先・商流)の確保
参加メーカー
並びに輸出
品目の確定
協
力
先
決
定
11月
第2回
11/19
現地受け皿(輸出先)の
確保
チルド
輸送
試験
業務用
殺菌乳
輸出
試験
9月
日本側におけ
る輸出準備
香
港
現
地
商
社
と
の
す
り
合
わ
せ
現
地
通
関
~
物
流
業
者
選
定
試験対象先の選定
輸出試験詳細計画・
実施スケジュール策定
本輸出試験の業務
委託先の選定
輸出試験の準備
香
港
輸
入
申
請
書
類
の
準
備
・
申
請
輸入ライセンス申請
(生クリーム)
現地と
の調整
台湾での殺菌乳輸入
禁止に伴い、再度検証
スキームの再設計
輸出
準備
台
湾
現
地
調
査
香港
共同
輸送
試験
・
共同
試食
会
実施
モ
デ
ル
試
験
の
評
価
検
証
実国
地内
調(
熊
査本
)
報告書・
研修準備
報告書提出・
研修開催
報告書
研修会
4
2. 香港を対象としたチルド乳製品の共同販売・共同輸送モデル構築
2.1 実施概要
チルド乳製品の共同販売・共同輸送モデルは下記スキームで実施した。
【チルド乳製品の共同販売・共同輸送モデル】
乳業メーカー
生クリーム
乳業メーカー
クリームチーズ
乳業メーカー
ナチュラルチーズ
Shipper(荷送り人)
Consignee(荷受け人)
日系
フォワーダー
香港
日系商社
乳業メーカー
プレーンヨーグルト
乳業メーカー
プ゚レーンヨーグルト
乳業メーカー
プレーンヨーグルト
同ホテルのシェフ
/パティシエを対象
とした試食評価会
【共同輸送】
・輸送品質
・製品品質へ
の影響度
・リードタイム
・物流コスト
・共同化課題
量販店バイヤー
ヒアリング
輸出書類
プロセスチーズ
飲むヨーグルト
結果検証
まとめ
FOB(日本決済)
乳業メーカー
乳業メーカー
★★★★★
高級ホテル
事前
申請
集荷
(福岡)
大手量販店
バイヤーへ
ヒアリング
FEHD※
【共同販売】
・試食会評価
・量販市場で
の課題
保冷梱包
輸出通関
輸入通関
チルド航空輸送
現地配送
自社倉庫搬入
※ FEHD:香港食物環境衛生署(Food and Environmental Hygiene. Department)
香港
検査機関
製品品質検査
乳業メーカー8社から提供された乳製品を、日系フォワーダーが日本決済で買い取り、
Shipper(荷送り人)となる。一方、香港側では、Consignee(荷受け人)として、Shipper(荷送り
人)から送られる荷物を引き取り、インターコンチネンタルホテルに納品する。
この Consignee(荷受け人)とは、香港に本社を置く日系商社で、主に日本の食材(生鮮、
加工品)やお酒等を扱っており、ホテルやレストランの業務系チャネルと、大手量販店のリ
テール系チャネルの販路を有している企業である。
以下にその全体の流れを記しながら解説をしたい。
今回は 8 社 16 品目が対象となり、福岡空港に隣接する冷蔵倉庫に各製品を一斉に集
約し、翌日そこで輸出梱包を行った。各社の製品ケースを数ロットにまとめ、発泡スチロー
ルで数ケース卖位に集約し、各々の発泡スチロールケースに蓄冷材3Kg/ケースを施す形
態を取る。各ケースの中の、商品、ケースのフタの裏、ケース外装、ケース内側側面にそれ
ぞれ小型温度計を設置し、温度の継時変化をきめ細かく採れるようにした。
5
この段階で、各社に倉庫搬入日、時間帯枠等を事前にアナウンスするが、多少入庫日
にバラツキが生じ、2社程は入庫予定日の翌日朝着となってしまった。
共同輸送を行う上で、日本国内での各社物流リードタイムの調整や、倉庫へ格納するタ
イミングの同期化など、いわゆる共同化の入り口での調整機能も重要であり、このような場
合は、各社の荷物を束ねる Shipper(荷送り人)が、その役割を担うことが現実的だと考えら
れる。
2.2 対象製品と集約梱包の流れ
今回、共同輸送で香港に運んだ製品は、下表の通り 8 社 16 品目である。このうち、No.1
のピュア 42 が生クリーム製品で、FEHD:香港食物環境衛生署(Food and Environmental
Hygiene. Department)にて輸入ライセンスの取得が必要となる。当該メーカーより申請の
手続きを輸入 1 カ月前に行って頂いたが、ライセンス取得には間に合わなかった。ただ、今
回は試食会のサンプル輸入のため、その旨を香港税関と FEHD に事前申告し、輸入許可
を得る事ができた。尚、その他の発酵製品は、同手続の必要が無く、通常の輸入手続きで
OK となった。
【対象製品】
No.
商品名
Brand Name
賞味期限
Expire Date
1
2
3
4
5
ピュア42
手作りクリームチーズ 100g
北海道クリームチーズ200g
北海道クリームチーズ1000g
メイファーム生乳ヨーグルト 3個パック
メイファーム生乳100%
プレーンヨーグルト
メイファーム生乳
のむヨーグルト 3個パック
モッツアレラチーズ
さけるチーズ
おいしいスモークチーズ180g
おいしいスモークチーズ75g
おいしいスモークチーズ
ペッパー入り 75g
くじゅうファームヨーグルト
大山高原 生乳ヨーグルト
大山高原 プレーンヨーグルト
大阿蘇こだわりヨーグルト
Omu Pure Cream 42
Hand Making Cream Cheese
HOKKAIDO Cream Cheese
HOKKAIDO Cream Cheese
MEI Farm Seinyuu Yogurt 3P
D+20
D+60
D+60
D+45
D+22
MEI Farm Seinyuu 100% Plain Yogurt
D+15
MEI Farm Seinyuu NOMU Yogurt 3P
D+15
Mozzarella cheese
SAKERU Cheese
Smoked Cheese(Plain) 180g
Smoked Cheese(Plain) 75g
D+20
D+20
D+360
D+180
Smoked Cheese (Black Pepper) 75g
D+180
Kujyuu Farm Yogurt
Daisen Kougen Seinyuu Yogurt
Daisen Kougen Plain Yogurt
Ooaso Kodawari Yogurt
D+18
D+15
D+15
D+15
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
6
続いて 16 品目の集約梱包を下記写真で解説する。各製品を形状に合わせ、発泡スチロ
ールに詰め直し、蓄冷材を入れて梱包する。更に、移動中の温度変化をチェックするため
に、小型のデータロガー(デジタル温度記録計)を梱包ユニットの内側と外側に計 5 箇所設
置した。
【集約梱包の流れ】
各社の商品を並
べ、梱包の形状や
大きさに基づき1
次仕分けを行う
形状に合わせ発泡
スチロールの箱に
製品を詰め直す
発泡スチロールの中
に蓄冷材を入れ、蓋
をする
小型のデータロガー
(デジタル温度記録計)
を製品、梱包ユニット
の内側と外側に設置
7
2.3 実施結果
(1)共同輸送の実施
香港までの輸送工程
今回は輸送試験ということもあり、福岡⇒羽田⇒沖縄と国内輸送のハンドリング回数を増
加させることで、温度帯がどのように変化するか(経由させても大丈夫か)というデータ収集
を行った。
また、このルート選択の背景には、航空会社が保有する沖縄ハブ機能を活用し、福岡の
集約倉庫からの出荷の翌朝には香港国際空港に荷物が到着し、通関当日の昼に
Consignee(荷受け人)の倉庫に搬入することが可能なことからこのルートを選択したところで
ある。
【今回のテスト輸送工程と各工程の時間】
乳業メーカー
2/23
2/23
2/23
2/23
10:10~
15:20発 16:52着 23:56発
13:45
福岡空港
羽田空港
2/24
2:39着
2/24
5:08発
沖縄空港
2/24
6:37着
香港国際空港
2/24
13:40引取
Consignee倉庫
梱包と通関
作業開始時間 10:10
作業終了時間 11:30
航空会社へ
13:45
引き渡し
輸送中の温度変化
[温度テストの評価]
今回は1ルートのみで、かつ、冬季の輸送試験のため、夏季の輸送など課題は残るもの
の、経由便においても発泡スチロール+蓄冷材にて 10℃以下を維持することが可能である
ことが検証された。
今回は、輸送工程を増やし、空港での積み下ろし回数も多くしているが、中継地点や現
地到着後での温度異常値も見られなかった。
8
[今後想定される課題と対策]
夏季には出荷時、各工程での冷蔵庫などにおいて、10℃以下の条件にて再梱包作業
や荷役作業が可能なスペースが必要となる。
25.0
20.0
25.0
また梱包資材、蓄冷材コスト削減のためにも、更なる試験、および製品規格に合わせた
20.0
発泡スチロール開発、または市販発泡に合わせたケース規格、各社メーカー出荷時での
保冷梱包の検討等が必要となる。
15.0
10.0
15.0
【今回の
10℃以下輸送試験における経時温度変化】
10.0
5.0
5.0
0.0
0.0
23日11:30
蓄冷材梱包
作業終了
23日13:45
航空会社引渡
24日5:08
沖縄空港発
24日6:37
香港空港着
25.0
-5.0
20.0
24日13:40
航空会社
より引取
23日15:20
福岡空港発
15.0
-5.0
10.0
-10.0
-15.0
-20.0
温 5.0
-10.0
度
(
℃ 0.0
-15.0
)
-5.0
23日
16:52
羽田
空港着
-10.0
-20.0
-15.0
24日2:39沖縄空港着
23日23:56羽田空港発
-20.0
フタ裏
外装
フタ裏
フタ裏
フタ裏
商品
外装外装
商品
内側側面①
内側側面②
内側側面①
外装
商品
内側側面②
内側側面①
商品
内側側面①
内側側面② 内側側面②
※日本での航空会社引き渡し時や、香港で航空会社より貨物引取り時に温度の上昇が
見られるが、商品やフタ裏の温度は、常に10℃以下の状態を保ち続けていた。
製品品質への影響
今回は、日本からの共同輸送テストの評価として、輸送温度の経時変化と併せ製品品
質への影響評価も行った。具体的には、製品が香港に到着後、試験用として各社の製品
をピックアップし、香港の所定機関にて、一般生菌数・大腸菌群・酸度の検査を行った。
結果は、全工程10℃以下で輸送されているため、製品品質上は問題の無い数値となっ
ている。ただし、今回の輸送は 2 月の冬季時のため、輸送中の温度測定と同じく、製品品
質の影響を確認するためには、夏季における評価も再度行う必要がある。
9
【香港の検査機関による製品検査結果】
対象品目
Coliform(大腸菌群)
Total PlateCount(生菌数)
Acid Value(酸度)
A
<10 col/g
20 col/g
-
B
<10 col/g
<10 col/g
0.13%
C
<10 col/g
<10 col/g
0.02%
D
<10 col/g
1.0 x 103 col/g
0.15%
E
<10 col/g
<10 col/g
0.13%
※検査方法はAOAC標準法により日本の乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関す
る省令)とは異なる。
輸送コスト
次に、トータル物流コストの検証結果を記す。トータル物流コストとは大別すると、①日本
国内物流コスト、②荷役・梱包費、③日本通関所掛費、④航空・海上輸送費用、⑤輸出先
通関所掛費、⑥輸出先での物流コストの 6 つの要素で構成される。
【香港輸送コストイメージ】
単価
単位
(\)
1,200 ¥/本
1本換算
(\)
1,200
70 ¥/Kg
70
輸送梱包費用(蓄冷材費込み)
2,000 ¥/CS
120
3
輸送通関料
5,900 ¥/件
16
4
5
6
7
8
取扱料
AWB Fee
航空運賃
燃料サーチャージ
ターミナルチャージ
CIF Japan
5,000
200
300
74
36
区分
No.
製品価格
日本国内
①
物流コスト
荷役・
②
梱包費
日本通関
③
所掛費
0
工場出荷価格
1
工場⇒集約倉庫費用
2
-
④
航空輸送
費用
費目
香港通関
9 輸入通関料
所掛費
香港での
⑥
10 空港⇒倉庫横持ち運送費
物流コスト
現地倉庫着値
⑤
¥/件
¥/件
¥/Kg
¥/Kg
¥/Kg
14
1
300
74
36
1,831
5,900 ¥/件
16
30 ¥/Kg
30
1,877
注 1:日本国内物流コスト以外の 1 本換算の値は、今回の輸送試験の重量(367.5Kg) をも
とに換算している。
注 2:日本国内の物流は宅配便を使用 (1 ケース 1000ml 12 本入で 835 円)
注 3:卖価は想定・概算のものも含んでいる
注 4:卖価は今回の輸送試験時の価格である
注 5:為替レート:USD1=JPY80
10
製品価格に物流コストを加えると、上記、香港輸送コストイメージにあるように現地倉庫
着価格は工場出荷時の約 1.5 倍となる。更に、香港側小売のマージンなどを加味すると、
商品原価の約 2 倍が現地の参考卸価格となる。香港は関税が FREE であるため、基本は
物流・流通コストのみとなるが、他国は更に関税が掛かるので、日本の乳製品は、市場に
おいてかなり高額な高級商材に位置してしまう。改めてこの流通コストを加味しても現地の
消費者に購入していただけるプレミアム感の訴求が重要であることが認識できる。
共同輸送のメリット
各社がチルド製品をそれぞれ輸出するのではなく、日本側で一度集約し共同輸送とし
てロットを大きくした場合のメリットを下記に明記する。共同輸送のための集約倉庫への輸
送や、集約梱包費用のコストを考慮しても、各社が小口で別々に輸送するよりも物流コスト
面ではメリットがあることが理解できる。
以下に、共同輸送を行った場合と各社別々に輸送を行った場合のコストシミュレーション
結果を記す。
下記、「共同輸送メリット試算表」は、今回実施した共同輸送の場合、共同輸送を行わず、
仮に各社別々に輸出を行った場合との差額を示したものである。今回の共同輸送試験に
おける輸送費は、約 20 万円であった。一方、仮に各社が別々に輸送を行った場合を試算
した結果は、約 31 万円であった。
【共同輸送メリット試算表】
航空輸送コスト
共同輸送の場合(今回実施)
¥206,945
各社別々の場合
¥310,875
差
¥-103,930
※航空輸送コスト内訳は、次頁「航空輸送コスト内訳と卖価(日本国内)」の通り
共同輸送によるコスト削減が可能となる項目は、次頁、「航空輸送コスト内訳と卖価(日
本国内)」に記載のある項目の内、卖位が「件」となっている部分である。具体的には、
AWB(AirWayBill)fee、通関料、取り扱い料は、共同輸送を行うことで費用が安くなり、約 10
万円のコスト削減効果があった。また香港側でのコストにおいても共同輸送のメリットは想
定され、更に今回はサンプル品の輸出であるため物量は小さいが、物量が増加した場合
はボリュームメリットによる更なるコスト削減効果も見込める。
11
【航空輸送コスト内訳と卖価(日本国内)】
項目
卖価(円)
※AWB fee
卖位
200 件
※通関料
4,200 件
※取り扱い料
5,000 件
航空運賃
300 Kg
燃料サーチャージ
74 Kg
ターミナルハンドリングチャージ
36 Kg
輸送梱包費用
2,000 個
※共同輸送を行う事によりコストダウンが図れる項目
注:卖価は今回の輸送試験時の価格である。
リードタイム
航空輸送と海上輸送での日本発の一般的リードタイムは下記のパターンが一般的であ
る。ここで留意すべきは牛乳製品の検疫検査による出荷待ち期間の発生についてである。
【日本~香港までのリードタイム】
【航空輸送】
香港着
ベンダー
ベンダー
ベンダー
集
約
倉
庫
保
冷
梱
包
通
関
航
空
会
社
上
屋
通
関
航
空
会
社
上
屋
顧客
納品
自
社
倉
庫
搬
入
1日
検疫検査期間
ベンダー
1~2日
【海上輸送】
ベンダー
ベンダー
2日
顧客
納品
牛乳は検
疫検査の
期間必要
5日
20フィート
ベンダー
ベンダー
牛乳は、現地倉庫搬入後に、検疫
検査でOKが出るまで、一時保留。
(約5日間)
集
約
倉
庫
コ
ン
テ
ナ
バ
ン
ニ
ン
グ
1~2日
香港着
C
Y
搬
入
通
関
通
関
3日
C
Y
引
き
取
り
自
社
倉
庫
搬
入
顧客
納品
1日
1日
※香港への海上輸送は今回実施しなかったため、海上輸送における検疫のリードタイムの実態は不明である。
航空輸送、海上輸送ともに通関はスムーズに通過することができるが、その後、所定の
倉庫に搬入し、仮置きをした時点で、香港検疫当局の職員が来て検査用の商品をピック
12
アップし、その検査が終わるまで、倉庫内の製品は出荷不可の識別を施される(黄色いテ
ープで該当のロットを巻きつける)。検査が完了して出荷可能の連絡が来るまでの所要日
数は、概ね 5 日程度である。この対象は、牛乳・生クリームなどで、ヨーグルトやチーズのよ
うに発酵した乳製品は対象外となる。
LL 牛乳のように賞味期限が 90 日ある製品は問題ないが、今回対象とした生クリームの
賞味期限は 20 日間のため、香港までの輸送リードタイムに加え、約 5 日間の検査期間がこ
こで消費されるのは非常に厳しいと言わざるを得ない。
(2)共同販売(共同試食会)の実施
香港インターコンチネンタルホテルでの試食会
共同輸送の次に、共同販売の一環として行われたインターコンチネンタルホテルでの試
食会について報告する。開催日は 2011 年 3 月 2 日で、場所は同ホテル地下 1 階のレスト
ランにおいて、ランチタイム終了後のディナータイム開始までの間(15:00~16:30)に行われ
た。出席者は、ホテルのシェフやパティシエ、さらに食材の購買担当やホテル内に併設す
るスパ(温泉・保養施設)の責任者まで約 20 名であった。
当協会の事務局長より、本試食会の目的と趣旨を説明し、事前にホテル側で綺麗に並
べられた各社製品について、各メーカーから簡卖な商品説明とともに試食会が行われた。
今回は、3 月 2 日の開催に際し、ホテルには事前の 2 月 24 日に納品をしている。開催
当日に判明したことであるが、この数日間のうちにホテル側のシェフやパティシエが各社の
製品を使い、様々な試作品(スイーツ類)を作ってくれていた。特に生クリームやクリームチ
ーズなどは、既にホテルで使用している欧州産のものを使用し、日本産と欧州産で全く同
じ仕様の試作品で味や風味、見た目の比較ができるように段取りを取り計らって頂いた。
5つ星ホテルの最上級クラスでの用途故、それだけ食品の確かさや安全性についてのニ
ーズは高く、各商品の価値についての関心度も強い。総じて今回持参した日本産乳製品
の評価は高く、本来持っている風味や口当たりの良さに加え、ミルク感の強さ、更に見た目
の良さ(ホワイト色)が挙げられた。また、スパの責任者の参加に言及したが、無添加ヨーグ
ルトのスパでの利用等、こちらが考えすらしないアイディアも提案された。
*ヨーロッパではヨーグルト健康美容法が確立されており、特にブルガリア、フィンランドで
はヨーグルトの消費量が多く、そのまま化粧パックとして利用する人も多い。ヨーグルトの
中に存在する粘質性多糖生産菌から得られる培養物には、生理活力要素が秘められて
いる。
13
インターコンチネンタルホテル正面
開催時の挨拶
全員で試食会
シェフによる評価
整然と並べられた各乳製品①
整然と並べられた各乳製品②
フルーツタルトやチーズケーキ
等、様々なスイーツも事前に準備
日本産とフランス産生クリームで
作成した比較用スイーツ
14
インターコンチネンタルホテルでの評価
評価方法は、シェフ・パティシエがそれぞれ興味を持った任意の商品に対して、味・パッ
ケージ・栄養成分・賞味期限・食材としての魅力度の 5 項目についてそれぞれ 3 択で記入
できるようにしたものであった。
この中の数品目は、具体的にホテルの食材として検討したいと後日引き合いがあり、現
在、該当メーカーが、香港での商流・物流の組み立て、納入条件などについて交渉する段
階にある。
その意味では、通り一遍の内覧会に終わらず、欧州産の乳製品との比較検討や商材利
用の可能性まで吟味ができ、具体的な試食会が実施できたと言える。
【シェフ・パティシエによる評価結果】
味・美味しさ
商品
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
回
答
数
ピュア42
手作りクリームチーズ
北海道クリームチーズ
北海道クリームチーズ
メイファーム生乳
ヨーグルト3個パック
メイファーム生乳100%
プレーンヨーグルト
メイファーム生乳3個
パックのむヨーグルト
モッツアレラチーズ
さけるチーズ
おいしいスモークチー
ズ(180g)
おいしいスモークチー
ズ(75g)
おいしいスモークチー
ズペッパー入り75g
くじゅうファーム
ヨーグルト
大山高原
生乳ヨーグルト
大山高原
プレーンヨーグルト
大阿蘇こだわり
ヨーグルト
パッケージの
扱いやすさ
美
扱
美
味
い
味 普 し
や
し 通 く
す
い
な
い
い
普
通
4
2
2
2
2
2
2
1
4
4
4
2
1
1
1
1
3
3
3
1
3
1
賞味期限受 食材としての
容性
魅力
低
扱
い
い
高 普 低 高 普 ( 高 普 低
に
い 通 い い 通 短 い 通 い
く
い
い
)
4
2
2
2
3
1
2
栄養成分
3
2
2
1
2
2
2
1
1
1
2
2
1
3
2
1
1
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1
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1
3
2
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3
1
1
1
1
2
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3
2
1
2
1
3
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1
1
1
1
2
3
2
1
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2
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1
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2
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5
5
1
4
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2
1
1
1
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2
2
1
1
1
※数字は回答数を示す
15
1
2
量販店視察とバイヤーとの意見交換会
今回は量販店での共同販売までは実施に至らなかったが、併せて、量販店市場の店頭
視察を行った。また、日本からの輸出に対して Consignee(荷受け人)になって頂いた香港
の商社のご配慮で、大手量販のバイヤーと、今回参加されたメーカー各社全員で意見交
換会を実施することができた。
店頭視察に見た、香港における乳製品市場の現状と、量販店バイヤーとの意見交換内
容について簡卖に紹介したい。
[店頭視察を通じた所感]
香港の量販店市場において、日本産の LL 牛乳はかなり認知されており、進出メーカー
も多い。以前に現地マスコミで日本産牛乳の競争が採り上げられていたが、決して誇張で
はなく、特に日系量販店では各社の製品が並べられていた。
LL 牛乳だけでなく、ヨーグルト、乳飲料など、品揃えでは日本の店頭と変わらない状態
にあるといっても過言ではない。
ただ、日系量販店の品揃えは、当協会の会員メーカーや、同等規模の地域中堅メーカ
ーの乳製品が大半で、大手乳業メーカーの製品は比較的少ないという特徴が見られる。
大阿蘇牛乳、くじゅう高原牛乳、霧
島山麓牛乳、北海道日高牛乳と北海
道特選牛乳(くみあい乳業)が揃う。
価格は 1,000ml で、29.9HK$~
33.9HK$(359 円~407 円)と各製品
にバラツキあり。
北海道日高牛乳と北海道特選牛乳
(くみあい乳業)は一番のボリュー
ムゾーン。1,000ml=30HK$
(約 360 円)
※1HK$=約 12 円(平成 23 年 3 月現在)
16
[大手量販店バイヤーヒアリング]
JUSCO と SOGO の 2 店のバイヤーに、今回持参した各社の製品を紹介し、その反応と
ともに香港リテール市場における乳製品の動向やニーズを伺う。
両店舗とも共通して、最も重点を置いているのが「賞味期限」で、店に入ってからどの程
度賞味期限があるかを常に意識している。
地場産や中国本土から入ってくる乳製品に比べ日本産は価格が高いため、「流通コスト
の効率化」と「店頭販売期間をいかに長くするか」が最大の課題である。
JUSCO 永旺(香港)百貨有限公司
・香港で上場済み。バイヤーは全て香港人。
・香港には、SSM:5店舗、GMS5 店舗の計 10 店舗を展開。
・百貨店とは異なり、ミドルクラスの客層を対象としている。
※中国本土には 16 店舗展開しているが、華单地区の JUSCO と仕入・品揃えは全く別個
で運営。
・JUSCO はミドルクラスをターゲットとする量販店だけに、“価格”と“賞味期限”に対する要
求はかなり高い。
・最も課題になるのは、賞味期限(日付表示で、JUSCO では生鮮品を除き、店搬入で 14
日の賞味期限を切っている商品は一切受け入れないルールあり。)
・流通コストの削減と賞味期限を長くする努力は、今後乳製品を拡販していく上で不可欠な
要件。
・賞味期限が短いほど、無添加でフレッシュという認識が日本ほど強くない。
・付加価値やプレミア感を出すためのプロモーション支援も重要な要素で、メーカーに期
待する部分は大きい。
・日本の大手乳業メーカーは香港市場に対し積極的ではない。コールドチェーンの未完
成度等からリスクを取りにくく、結果として中間商社等のサプライヤーに流通を任せている
のが実情。
SOGO 崇光(香港)百貨有限公司
・香港島側一等地にある百貨店。元々日本の老舗であるが、現在は 100%香港資本。
・九龍地区にも一店舗あるが、食材の扱いは香港島店よりも少量。
17
・香港島 1 店舗で、繁忙期になると来場者数が 1 日 10 万人を超えるナンバーワン店。
・香港資本であるが、今でも品揃えの6割は日本産品で構成している。
・賞味期限は JUSCO 以上に要求条件が厳しい。
・店内に着いて最低でも賞味期限が 1 ヵ月間ないと、直ぐに特売処分までのリードタイムが
短くなり、店舗効率や流通コストも高くなってしまう。
・“クリームチーズ”や“さけるチーズ”のように、まだ香港であまり流通していない商品に対
する興味度は高い。
・“おいしいスモークチーズ”のように、小分けにした、大人向けお手軽チーズも欧州産には
少ないので、日本産チーズの位置づけが高い。プロセスだが賞味期限が長いのも評価
ポイント。
2.4 共同販売・共同輸送モデル構築における課題と対応策
香港を対象としたチルド乳製品の共同販売・共同輸送モデルの推進を通じて、明確にな
った課題と解決策について記述する。
共同販売・共同輸送を実現するためには、日本側で荷を取りまとめる Shipper(荷送り人)
と Consignee(荷受け人)の存在が不可欠である。
Shipper(荷送り人)による荷の取りまとめついては、下記2つの方法が現実的である。
①日本で各社商品を買い取る(決済する)Shipper を商流の窓口とする
②乳業メーカー1 社(A 社)が、他社(B 社、C 社)商材を買い取り、A 社が Shipper(荷送り
人)となり輸出する
一方、Consignee(荷受け人)は、実質的に現地販売のパートナーとなる企業である。ど
のパートナーと組むかで商売の在り方が決まる故、その企業経営者の考え方や事業方針
をはじめ、その企業が持つ販売チャネル等を理解した上での選択が重要である。これは簡
卖な事ではないが、農林水産省、JETRO、各種団体主催の展示会、商談会、輸出オリエ
ンテーション等の機会を積極的に活用し、地道に情報収集し、取引先候補を選定する事
が肝要である。
また、国際貿易では、「One shipper・One consignee」=1対1の取引が大原則であり、
特に海上輸送の場合は、同一コンテナに複数の Consignee(荷受け人)を積む事が難し
い。
18
従って同一荷受け人向けに、店頭で競合する製品を共同で送る場合は、その辺りの事
情も考慮に入れて取り組む必要がある。乳製品の共同輸送でも、牛乳+チーズ+生クリーム
のように品群が異なる商材の混載が実現できれば最も理想と言える。
※生クリームは 2℃~7℃の温度帯での流通が理想
更に、共同輸送の課題として、日本側での物流の同期化や、集約梱包のコストダウンも
挙げられる。日本での集荷タイミングの調整ルール確立による、倉庫滞留時間のミニマム
化や、混載方法のパターン化(形状や容積に基づき梱包モデルを事前に数パターン計画
しておく)も重要な解決策である。
【共同販売・共同輸送モデル構築における課題と対応策】
モデル構築の視点
課題とその対応策
共
同
販
売
乳製品の共同販売・共同輸送の方法として、下記2つが最も
現実的な方法。
①日本側で各社商品を買取るShipperを商流の窓口とする
②同業の1社(A社)が、他社(B社、C社)商材を買い取り、
A社がShipperとなり輸出する
「One shipper(荷送り人)・One consignee(荷
受け人)」のルールにより、同一荷受け人の為、店頭で
競合する商品の共同は非現実的。
同一乳製品でも、牛乳+チーズ+生クリームのように品
群が異なる商材の混載であれば可能性あり。
共
同
輸
送
・ある程度の物量や、ベースカーゴ(安定した既存物量)があ ・集荷タイミングの同期化調整ルール
れば、コンテナ(ドライorリーファー)を借りる。
・・・混載待ち滞留時間のミニマム化
・少量の場合は、貨物に合わせて混載梱包を施す。保冷が
・混載方法のパターン化
必要な場合、蓄冷材等を入れて対応。(次頁参照)
・・・都度、形状や容積の異なる梱包対応では梱包費が高く
なる為、混載パターン化による梱包費削減がポイント
①第三者Shipperによる共同販売
A社
量販店
集
約
倉
庫
B社
C社
Shipper
(荷送り人)
Consignee
(荷受け人)
5つ星ホテル
レストラン、他
②同業社内売買による集約販売
B社
C社
量販店
A社=Shipper
(荷送り人)
Consignee
(荷受け人)
5つ星ホテル
レストラン、他
19
3.業務用殺菌乳の輸出試験
3.1 実施概要
業務用殺菌乳の輸出試験は、台湾を前提に考えていたが、前述した通り、台湾では殺菌
乳の輸入許可が下りないため、LL製品での台湾輸出を通じて、通関・検疫リードタイム等
の物流条件と、業務用殺菌乳の流通実態を調査した。
ソフトタンクの輸送テストは、日本国内に場所を移し、温度管理による長距離輸送テスト
を想定した品質保証試験を行い、品質保証期間の延長化がどこまで図れるかの検証を行
った。
尚、殺菌乳輸送テストの第一候補として、その市場規模と輸送時間を考慮し、当初は上
海を予定していたが、平成 22 年 4 月からの宮崎県における口蹄疫の関係で輸入不可のた
め、輸送時間と輸入規制面を考慮し、台湾に変更した。
【業務用殺菌乳の輸出試験】
台湾
工場
(熊本)
LL牛乳
福岡
博多港
殺菌乳
台湾
基隆港
①通関・検疫含む物流条件調査
課題と解決策の考察
日本
日系
総合商社
台湾
検査機関
量販店
台湾
乳業メーカー
LL牛乳であ
ればOK
業務用ニーズ
ヒアリング
②業務用殺菌
乳の流通実
態調査
生乳の品質保証期間実地調査
日本
自主検査
3.2 実施結果
(1)台湾における業務用殺菌乳の用途とニーズ
業務用殺菌乳の用途と現在の流通実態を把握するために、台湾乳業メーカーである“
統一企業公司”を訪問し、乳業部門の採購部(購買部門)、乳品開発部(乳製品開発部
門)の方に話を伺った。
20
統一企業公司
・台湾一の食品メーカー、台湾最大の流通企業。
・約4,000店以上の量販店、CVS(セブンイレブン)、小売店を展開する。
・中国、アジアにも進出し、日系企業との資本提携も多角的に行っている。
[ヒアリング結果]
現在、賞味期限が 45 日の5ℓサイズ殺菌乳をニュージーランドから輸入しており、統一企
業公司が台湾でフランチャイズ展開をしているセブンイレブンのインショップ“City Coffee”
店で使用している。
45 日賞味期限の理由は、 City Coffee 各店舗到着後に 30 日賞味期限が前提のため。
30 日+15 日(輸出国 L/T+台湾通関、物流 L/T)を基準としている。
※5ℓ サイズの理由は、“City Coffee”店の業務用冷蔵庫の容量サイズ規格によるもの。
【セブンイレブンのインショップ“City Coffee”店の店内冷蔵庫】
【ニュージーランドから輸入している5ℓサイズの牛乳】
5ℓサイズ、アルミホイル仕様ピロー容器
日本から持参の10ℓサイズ・ピロー容器との比較
ニュージーランド5ℓ アルミホイル仕様
日本で流通している10ℓ ピロー容器
21
統一企業公司の話では、年間 1,000t輸入しており、価格は関税込みで、1Kg あたり 40
元(112 円)~45 元(126 円)のレベルとのこと(1 元=約 2.8 円。平成 23 年 2 月現在)。
また、ニュージーランド産の5ℓ サイズは、アルミホイル仕様のピロー容器で納入されてお
り、統一企業公司向けのスペックで対応していると思われる。
台湾における業務用殺菌乳の輸出に関しては、更なる賞味期限の延長化を可能とする
包材・パッケージ仕様や、ロット面の戦略的な対応が重要。
また、卖純な価格比較では、乳価自体が異なるニュージーランドやオーストラリア産には
勝てないため、より新鮮さの訴求、もしくは業務用加工乳による新たな用途提案等が不可欠
であると言える。
[台北市内 外資系量販店 乳製品売場店頭視察を通じた所感]
輸入乳製品は、総じて高級食材で、現地生産品との価格差も大きい。それ故か輸入品の
品種はあまり多くない。
【SOGO 地下 City Super店乳製品売場】
牛乳売場。日本産牛乳は、日高乳業・
くみあい乳業の LL1ℓ 2 品種。売価は
180 元(約 500 円)
【松坂屋地下 Jasons 店乳製品売場】
日本産牛乳は、日高乳業の LL1ℓ
のみ。売価は 180 元(約 500 円)
22
ヤクルト現地生産の LL 牛乳。売価は
55 元(約 154 円)で、現地産のなか
でも比較的安い価格で売られている。
※日本産牛乳の1/3以下価格
(2)台湾への LL 製品輸出に基づく物流条件の検証
台湾のリードタイム
今回、工場出荷から台湾倉庫(台北)へのリードタイム(L/T)はトータルで 9 日
となった。これは台湾側通関での検疫検査が無く、通関後 2 日以内に台湾倉庫(台北)
に到着したためである。
ただし、検疫検査がある場合は通関後から倉庫着まで 6 日~7 日のリードタイム
がかかる。検疫は台湾側通関時に税関が判断するものであり、今回無かったとして
も、次回も無いとは限らない。検疫に関してはコントロールできるものではないた
め、物流リードタイムを考える場合は、検疫がある場合を想定した方が無難である
と言える。
【工場出荷~台湾倉庫搬入までの L/T】
基隆港
博多港発
検疫検査
無し
工
場
出
荷
3月2日
工場発
C
Y
搬
入
4日※
通
関
通
関
3月6日
出港
3日
3月9日
港到着
C
Y
引
き
取
り
2日
※日本側L/T内訳
3月2日
3月2日
3月3日
3月4日
3月5日
3月6日
倉
庫
搬
入
工場出荷
博多CY搬入
通関手続
CY CUT
本船博多入港
本船博多出港
3月11日
倉庫到着
トータル9日
基隆港
博多港発
検疫検査
有り
台湾倉庫
到着納期
は推定
工
場
出
荷
3月2日
工場発
C
Y
搬
入
4日
通
関
通
関
3月6日
出港
3日
3月9日
港到着
トータル14日
23
C
Y
引
き
取
り
倉
庫
搬
入
7日
3月16日
倉庫到着(推定)
(3)日本におけるソフトタンク輸送を想定した品質保証期間延長テスト
ソフトタンクを活用した海外向け長距離輸送に耐えうる賞味期限延長の可能性を検証
する事を目的に、日本国内でソフトタンク輸送を想定した品質保証期間延長テストを行っ
た。輸送テスト結果を述べる前に、簡卖にソフトタンクについて解説する。
ソフトタンクの概要(※)
ソフトタンクは、株式会社アサノ通運と YKK 株式会社が共同開発した大量液体輸送手段
である。タンク本体は、特殊繊維にウレタンをコーティングし、-30℃~+60℃に適応してい
る。水密気密ファスナーの採用により、開いて内部まで洗浄でき、繰り返し使用できること
が特徴である(耐用:3 年間又は 300 回)。
また、ソフトタンクを搭載可能なように改造した冷凍・冷蔵車を使用することにより、徹底
した温度管理を必要とする液体物の長距離輸送が可能となった。
※グリーン物流パートナーシップ会議 HP:第 7 回グリーン物流パートナーシップ会議配付資料「脱
脂濃縮乳等液体食料原料の脱タンクローリー輸送(ソフトタンク輸送への転換)による片荷運行
タンクローリー台数削減と CO2 削減への取組」 より引用
広げた状態のソフトタンク
折り畳んだ状態のソフトタンク
ソフトタンク輸送用の冷凍・
冷蔵車(後方)
ソフトタンク輸送用の冷凍・
冷蔵車(側面)
24
日本におけるソフトタンクの運用スキーム
上記は、日本国内におけるソフトタンク輸送フローを示したものである。
冷凍・冷蔵車での運用及び、輸送中の徹底した温度管理(1 回目:充填後 1 時間、それ
以降は 4 時間おきに 1 回)による品質向上と、ソフトタンクを折り畳むことにより、復路用の
荷を確保しやすいことによるコスト削減を図れることが特徴である。
現在、ソフトタンクでの殺菌乳輸送を実際に行っている乳業メーカーでは、ソフトタンクで
の殺菌乳輸送の品質保証時間を 72 時間と設定している。
ソフトタンクの洗浄工程概要
外面洗浄から折り畳み、冷蔵保管するまでの一連の工程は、2 人の作業者で約 1.5 時間
必要である。
ソフトタンク運用メリットの整理
ソフトタンクは、従来のタンクローリーでの輸送と比較して、大きく 3 つのメリットを挙げるこ
とができる。
25
①CO2 削減
ソフトタンクは、往路で液体を輸送した後、折り畳むことでトラック内のスペースを空けるこ
とが可能である。そのため、復路においても様々な荷を積むことができ、効率的な運行が
可能となり、トラックの使用台数を削減することで CO2 の削減が実現できる。
②コスト削減
従来のタンクローリーでの輸送では往路のみの使用を想定しており、運賃が割高となるこ
とが多い。しかし、ソフトタンクの場合は復路の荷を確保しやすいことから、タンクローリーで
の輸送と比較して荷主の物流コストを削減することが可能である。
③品質向上
ソフトタンクは、冷凍・冷蔵車にて運用を行うため工場充填時の温度のまま納品すること
が可能であることから、品質の向上が図れる。
ソフトタンク輸送を想定した品質保証期間延長テストについて
以上、解説したソフトタンクの、特に温度管理に優れている利点を活用し、海外輸出を行
うに際して現状の品質保証時間(72 時間)がどこまで延長できるかを検証した。
テスト方法
1t のマキシコン(※)に 10L の殺菌乳を充填。マキシコンは 10 個用意し、1 日 1 個、マキシ
コン内の殺菌乳の品質検査を行った。マキシコン保管温度は 10℃以下に設定して検証を
行った。なお殺菌乳の殺菌方法は 130℃2 秒であった。
※ソフトタンクとマキシコンはほぼ同じ材質である。
テスト結果
10 日間テスト環境にて保存した殺菌乳の品質検査を行った結果、品質上問題が無く、ソ
フトタンク使用時において賞味期限として 7 日間の品質保証を行うことが可能となった。
また引き続き、本テストに協力頂いた乳業メーカーにて、更に賞味期限の延長が可能か
テストを行っている。
26
3.3 現状の課題と解決策
(1)市場が求める賞味期限とソフトタンク輸送品質保証期間の整合性
今回実施した、ソフトタンク輸送を想定した品質保証期間延長テストの結果、ソフトタンク
使用時において賞味期限として 7 日間の品質保証が可能であるとされた。また、今回の LL
乳の台湾輸送リードタイムは検疫なしで工場出荷から台湾倉庫(台北)まで 9 日であった。
また検疫がある場合は 13 日~14 日となる。顧客の殺菌乳使用方法が現地着後即納品、
即利用であり、更に、工場出荷からのリードタイム短縮及び品質保証期間の延長が実現出
来ればソフトタンクを活用した業務用殺菌乳の輸送が現実的となってくる。
しかし今回ヒアリングを行った、統一企業公司の賞味期限ニーズは、納品後 30 日である
ことからニーズとの乖離が大きく、ソフトタンクでの業務用殺菌乳の輸出は難しいと言える。
そのため、ESL 製法及びアルミパックの梱包など新たな製品の開発・提案の必要がある。
(2)ソフトタンクの海外-日本での運用課題
ソフトタンクによる輸出がリードタイム面で対応できたとしても、付帯的な要件での課題が
残っている。特に重要な課題として、輸出先での使用後のソフトタンクの洗浄と現地物流パ
ートナーとの連携が挙げられる。
使用後のソフトタンク洗浄
ソフトタンクを繰り返し使用するには、使用後洗浄する必要があるが、どこで洗浄するのか
という問題が発生する。
まず、輸出先にて洗浄を行う場合であるが、輸送業者による洗浄施設の現地設営、もし
くは洗浄施設を持つ現地の企業との協力体制が必要となる。一方輸出後タンクは洗浄せ
ず、コンテナにて日本にシップバックを行い、日本の洗浄施設にて洗浄する方法も考えら
れる。
ただし、この方法の場合は、腐敗等品質上の問題が発生する可能性もあるため、実施
に向けた試験が必要となる。
また、最初からワンウェイ(使い捨て)のソフトタンクを使用する方法も考えられる。ヨーロ
ッパにおいて使用されている方式であるが、日本においては主流ではないため情報は少
ない。ソフトタンクの廃棄について法的に問題はないが、廃棄コストの負担、廃棄場所など
詳細の確認が必要となる。
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現地物流パートナーとの連携
次に現地物流パートナーとの連携が挙げられる。
具体的には、現地の物流事情(道路事情、受入側の設備体制など)の把握とドライバー
の教育についてである。
温度管理やソフトタンクの取扱いなどが必要となるため、ソフトタンク輸送ということを前
提とした現地物流パートナーの選定が必要になるであろう。
業務用殺菌乳の輸出可能性検証のまとめ
今回、ソフトタンクを使用しての業務用殺菌乳の海外輸出に初めて挑戦を行った。
しかし、準備・検討の結果輸出ができないことが判明したため、想定での課題抽出に終
わるが、その課題は非常に多いことが明らかになった。
下記に課題を列記する。
①賞味期限における課題
②洗浄など付帯施設を含めたコスト、インフラにおける課題
③現地物流パートナー連携などオペレーションにおける課題
以上の課題については、直ぐに解決できるものではなく、業務用殺菌乳の海外市場ニ
ーズの掘り起こしと併せ、今後一つずつクリアしていく段階であると言える。
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4.結論及び解決のための方策
4.1 牛乳・乳製品の輸出課題とその方策
以上の内容を総括すると、下記課題と対策が挙げられる。
①乳業者や酪農家が自ら生産・販売を行っているプラント等が新たに輸出に取り組む
ためには、乳業者等の連携による共同販売及び共同輸送によるノウハウの活用とコス
ト削減が必要となるが、既存乳業者との取引先の調整が肝要なこととなる。併せて、輸
出先の法規・商流への周知も必要なこととなる。
②東单アジア諸国においては、家庭用冷蔵庫及びコールドチェーンの普及は顕著とな
ってきているが、LL牛乳に加えて要冷蔵の牛乳、乳飲料、発酵乳及びチーズ等の輸
出には、チルド温度帯(10℃以下)での輸送品質の確保のための安定物流網確保が
必要となる。加えて、販売可能な賞味期限の延長も課題となる。
③安全・安心面で信頼度が高い日本産牛乳等の輸出拡大には、原料用殺菌乳の大型
容器による長距離輸送の品質の安定化が課題となることから、大型ソフトタンク等を
活用した海外向け輸送試験及び殺菌乳の輸送方法の標準化を図る必要がある。
今後は、既に市場進出を進めているオセアニアや欧州の乳製品との品質面での差別化
を図るため、更なる技術の蓄積とコスト競争力を高めるための物流の合理化が必要となる。
加えて、本事業終了直前の平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災により東京電
力福島第一原子力発電所の事故が発生したことから、諸外国・地域が日本産食品の輸入
規制を措置し始めたため、その影響は予断を許さない状況にあり、日本産牛乳・乳製品の
ブランド力確保へ向けた、長期的な戦略・プロモーションが必要といえる。
今回、「香港を対象としたチルド製品の共同販売・共同輸送モデル構築」、「業務用殺菌
乳の輸出試験」の実施を通じて、改めて牛乳・乳製品の輸出促進課題が顕在化された。
本報告書においても、随所にそれらに関係する課題とその方策を述べてきたが、最後の
結論として、これから中国・アジアに向けた輸出に取り組むにあたり特に重要と思われる事
項を、「牛乳・乳製品の輸出課題とその方策」として5つに集約した。
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【牛乳・乳製品の輸出課題とその方策】
①輸出申請手続きの
迅速な対応
●現地パートナーに都度確認して進める方法が
確実。
●ライセンス申請手続きのガイドや具体的な
サンプルの充実も重要。
②現地パートナー選び
とその連携
●農水省、JETRO,各種団体主催の展示会・
商談会・相談窓口の活用。(自らの各社に足を
運ぶ覚悟は必要)
●Shipper(荷送り人)、Consignee(荷受け人)の
機能を活用し、共同輸送、共同販売の可能性
も追求する。
③確実で安全な物流
体制構築
●輸出先毎の輸入制度・条件、検疫のリスク等を
考慮。通関や検疫との関係、現地物流網も
パートナー選定の重要基準。
●SSEやソフトタンク等、新たなサービスや輸送
方法の可能性追求。その為の情報収集。
④トップの理解と社内
バックアップ
●中国・アジア市場は既に世界の主戦場。トップ
自ら切り込む姿勢が必要。
●製品開発、需給、物流部門の後方支援が
不可欠。正に“ロジスティクス”的な取組みが
問われる。
⑤市場ニーズへの
製品開発投入
●安心安全だけで日本製品が売れる訳では
無い。“賞味期限”等、アジア市場が求める
商品開発や容器開発の強化。
●商社に丸投げすることなく、“敏感な”市場の
動向をつかみそれに応えうる体制作り。
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5.普及啓発活動
5.1 普及啓発のための活動一覧
本事業の実施による日本産牛乳・乳製品の輸出に当たっての課題解決策を普及・啓発
するという目的で、下記の活動を行った。
①研修会
内容 :会員、関連団体、乳業関係者、酪農家が自ら生産・販売を行っているプラント(チ
ーズ工房等)及び関連事業者等に普及啓発するための研修会の開催
日時 :平成 23 年 3 月 28 日(月) 14:00~
場所 :JA ビルカンファレンス 401 会議室(東京)
参加者:75 名
②報告書の作成及び当協会のホームページ(http://www.nopla.or.jp)に報告書を掲載
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参考1. 香港ライセンス申請手引き
【香港向け生クリーム輸出に関わる手続きの流れ】
準備・手続き担当者
申請準備・手続き事項
出
荷
前
メーカー
①FEHD(香港食物環境衛生署)への事前許可申請
に関わる情報の準備
○
②事前許可申請に関わる情報の輸入者への提供
○
フォワーダー
③FEHDへの事前許可の申請
○
○
④FEHDよりの許可承認
(※ライセンス取得)
⑤衛生証明書の取得及び、出荷明細作成
出
荷
時
輸入者
○
⑥輸出通関、必要書類作成、輸出梱包実施
○
⑦輸入通関、配送
○
※ライセンス取得期間:公には書類に不備がなければ14労働日で許可となっているが、JETROや実際にライセンスを取得した
企業からの情報では6ヶ月ほどかかるとの情報もある
【FEHD への事前許可申請に関わる情報の準備】
生クリーム輸出に向けた、香港当局への提出用準備書類一覧(準備担当;メーカー)
No.
準備書類
準備方法
1 食品加工工場の正式名と住所
自社にて作成
2 食品の生産に関わる原産国の法律
乳等省令の英文入手
3 食品のラベル付き空容器または包装紙
3-1 空容器
自社にて準備(6本、Pac)
3-2 ラベル
輸入者と共同準備
3-3
分析試験成績書(日文、英文)
備考
英文・中文用意
・総カロリー
・たんぱく質
・炭水化物
外部機関(日本食品分析センター) ・総脂肪
・糖
へ依頼
・ナトリウム
・飽和脂肪酸
・トランス脂肪酸
加工工場における食品の加熱処理方式と施設(生産
設備と給水設備を含む)に関する情報
4-1 加熱処理方式
自社にて作成(製造工程表を英訳)
4-2 生産設備、給水設備
外部機関へ依頼
4
5
原産国政府発行の検疫(衛生)証明書
保健所へ作成発行依頼(※)
6
その製品のおおよその品質保持期限を証明する
製造者の申告書
自社にて作成
今回はHACCP認証と
営業許可証で代替
※保健所発行衛生証明書に係わるものとしての準備書類一覧(準備担当;メーカー)
① 市発行の営業許可通知書
自社にて準備
厚労省発行の総合衛生管理製造過程による食品の
②
自社にて準備
製造又は加工の承認書
③ 細菌検査に関する情報
自社検査結果より準備
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香港当局提出用として
英訳もあわせて準備
参考2. ヒアリング先一覧
香港
【量販店】
店舗名:JUSCO 永旺(香港)百貨有限公司
住所:香港鰂魚涌英皇道 738 號樂基中心 3 楼
店舗名:SOGO 崇光(香港)百貨有限公司
住所:香港銅鑼灣軒尼詩道 555 號東角中心 20 楼
【ホテル】
ホテル名:インターコンチネンタル香港
住所:18 Salisbury Road Kowloon, Hong Kong
【商社】
企業名:田村貿易有限会社
住所:香港柴灣新業街 8 號 八號商業廣場 9 樓 907 室
企業名:カイロンアジアコマース(Kairon Asia Commerce)
住所:1203-5, Ocean Bldg., 80 Shanghai St., TST
【その他】
名称:香港日本人倶楽部(The Hongkong Japanese Club)
住所:18/F and 19/F, 68 YEE WO STREET, CAUSEWAY BAY, HK
台湾
【量販店】
店舗名:友士股份有限公司
住所:台北市忠孝東路 1 段 85-20
店舗名:City Super 遠東都舎股份有限公司
住所:台北市仁愛路4段 68-7
店舗名:統一企業公司
住所:台单縣永康市中正路 301
日本
【ソフトタンク洗浄施設】
企業名:天水株式会社
住所:〒861-5403 熊本県玉名市天水町田見 2850-1
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参考3. 香港・台湾外資系量販店 乳製品売場風景
【香港中心地の乳製品売場】
City Super 入り口
日本産“のむヨーグルト”の品種も
既に豊富(City Super)
各国からの輸入チーズが
陳列されている売場(JUSCO)
日本産 LL 牛乳各種が山積みされてい
る牛乳コーナー。既に競争激化の状態。
(ユニー)
【台北市量販店】
催事コーナー(City Super)
日本産牛乳は、日高乳業の LL1ℓ のみ。
(松坂屋地下 Jasons 店)
売価は 180 元(約 500 円)
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連絡先
社団法人全国農協乳業協会
住所:〒101-0047
東京都千代田区内神田1-1-12 コープビル9階
TEL:03-5577-6151
FAX:03-3295-6131
事業ホームページ:http://www.nopla.or.jp/