リフレクションクラック対策を目的とした薄層維持工法

A-6
リフレクションクラック対策を目的とした薄層維持工法
世紀東急工業㈱
1.
技術研究所 ○吉野 敏弘
同
同
白濱 幸則
同
同
廣藤 典弘
はじめに
近年、コストの縮減や環境負荷低減の観点から薄層施工の維持工法が注目されている。しかしなが
ら、ひび割れが発生している路面での薄層舗装の適用については、リフレクションクラックの早期発
現が懸念される。本文は、一般のオーバーレイ工法による施工事例の結果を基に混合物を選定し、新
たに路面ヒータ車を用いた路面維持工法による試験施工の結果を報告するものである。
2.
オーバーレイ工法の事例
2.1 オーバーレイ用混合物の検討例
過去にオーバーレイによる施工厚を変えた耐久性比較を場
内施工で検討しており、3cm の方が 2cm よりもリフレクシ
ョンクラックの遅延効果が高いことを確認している 1)。また、
実路(舗装計画交通量区分:N5)における混合物の種類を変
えた施工厚 3cm のオーバーレイ舗装のひび割れ率の比較で
は、供用から 4 年 6 ヶ月後の路面状態は①砕石マスチックア
スファルト(以下 SMA という)、②密粒度ギャップ(13)、
クラック
③再生密粒度(13)の順番で、ひび割れの発生量は少ない結果
が得られている
2)。ここで
SMA の層の抜取りコアの断面観
察からは、写真-1 のようにリフレクションクラックを抑止し
写真-1 SMA(5)抜取コアによる
クラック抑止状況の確認
ていることが確認されている。
2.2 ギャップ粒度系混合物と連続粒度系混合物による試験施工例
一般的なオーバーレイ舗装において、混合物と施工厚を変え、実路において表-1 に示す試験施工
を行った。結果は、再生密粒(13)t=3.0cm と比べ、SMA(5)t=2.0cm は、リフレクションクラック
抑止効果が高いことが確認された。また、SMA の 3cm と 2cm の比較では、目視により、2cm の方
が早期にひび割れが発生していることを確認している。
表-1 一般オーバーレイ舗装の試験施工概要
施
工
日
平成 21 年 10 月
路
線
名
岩舟静和線
混
所
岩舟町大字静戸
地内
バ
場
計画交通量
N5
施 工 規 模
L=各工区 25m、
W=各工区約 3.4m
工
区
合
イ
物
ン
ダ
厚 さ ( c m )
ひび割れ率
(%)
施工前
2 年後
1 工区
再生密粒
(13)
再生
40/60
2 工区
3 工区
4 工区
SMA(5)
SMA(5)
細粒(5)
改質Ⅱ
改質Ⅱ
改質Ⅱ
3.0
3.0
2.0
2.0
37.0
6.2
69.5
0.2
49.5
0.2
60.9
9.4
2.3 試験施工から得られた知見
既述のとおり、試験施工からギャップ粒度系混合物は耐
リフレクションクラックの遅延に優れているという結果を
得た。しかし、筆者らは図-1 に示すホイールトラッキング
試験機を用いた旧土木研究所式のクラック試験 3)4)で室内
検証した結果から、クラックの貫通回数は締固め度に依存
することを確認している 5)。これらより、薄層施工で舗装
の耐久性を上げるには、ギャップ粒度系混合物を用いるこ
図-1 クラック試験概念図
とに加えて締固め度を十分確保することが必要であると考
えた。
3 新たな薄層維持工法
3.1 概要
アスファルト
フィニッシャ
路面ヒータ
締固め機械
リフレクションクラック対策お
よびオーバーレイ用混合物の施工厚
を低減できる方策として、平成 21
スプリングタイン
図-2 機械編成 6)7)
年度に発刊された舗装再生便覧に記
述されている「路上表層再生工機等
を使用した維持工法」に該当する工
法を活用できるのではと考え、図-2
に示す機械編成による維持工法を適
用することとした。本工法は、路面
(スプリングタイン)
ヒータ車にスプリングタインを取り
写真-2 ヒータ車およびスプリングタインの外観
付けて、既設アスファルト舗装を加
熱かきほぐし、その上に新たな混合
FH
新たな混合物・密粒度(13)
物を薄層で施工する工法である。ヒ
ータ車およびスプリングタインの外
既設
密粒度(13)
観を写真-2 に、オーバーレイ工法と
新たな薄層維持工法の舗装断面のイ
メージを図-3 にそれぞれ示す。
3.2
ボックス内熱風吹き付け
循環式ヒータ車
FH’
30
新たな混合物・SMA(5)
GH
再生層
単位
(mm)
20程度
10~20
程度
既設
密粒度(13)
断面A
(オーバーレイ工法の断面)
断面B
(新たな薄層維持工法の断面)
図-3 舗装断面のイメージ
構内試験施工
(1) 試験施工の概要
表-2 一般オーバーレイ舗装の試験施工概要
前記の断面 A のオーバーレイ工法
を行った。試験施工の概要を表-2 に
施工規模
平成 23 年 10 月
世紀東急工業㈱・機材センター敷地内
(栃木県下都賀郡岩舟町)
L=40m、W=2.9m
示す。なお、試験施工では、再生層
かきほぐし
既設密粒(13)に対して 10~20mm 程度
新たな混合物
砕石マスチックアスファルト(5)
施工日
と断面 B に示す新たな維持工法の耐
場
久性を確認するため、構内試験施工
と既設層の境目を目視確認出来るよ
うにする目的から、フィラーの一部
をベンガラに置き換えた。
所
気
環
境
温
27 ℃
路面温度
40 ℃
平均風速
1.6m/s
(2) 試験施工の結果
1) 施工速度
本試験施工は 10 月に行い、施工時の路面温度は
目標110℃
40℃程度であった。試験施工時のヒータ車加熱によ
る舗装内部の温度変化は、図-4 に示すとおりであっ
三角形A
た。この時の熱電対の設置位置は再生層下部付近と
Aの底辺長 5分30秒
し、対象部の内部温度は、目標とした 110℃を十分
三角形B
満足した。しかし、冬期施工では既設舗装体の温度
Bの底辺長 7分30秒
が低温になることから、図-4 の結果に基づいて必要
な加熱時間を次のように考えることとした。
図-4 舗装内部温度
(走行速度 1.11m/分、d=2.0cm)
ヒータ車の加熱ボックスユニットは、車輌走行方
向に延長約 6m あるが、加熱ボックスユニットの通
過時間は、その地点の加熱時間と言える。試験施工では走行速度が 1.11m/分であったため、熱電
対設置位置を加熱ボックスユニットが通過に要する時間は計算上 5 分 24 秒となる。これを、図-4
の三角形で考えると、A の底辺長(5 分 30 秒程度)が通過時間に対応する。そこで、今回の施工
条件で良好な結果が得られたことにより、冬期施工で既設の路面温度が 10℃程度の場合、施工速
度は以下のように設定することとした。
①既設が 40℃程度の場合の例
A の場合:6.0m(加熱ボックスユニット部の長さ)/5 分 30 秒(Aの底辺)=1.1m/分(目標走行速度)
②既設が 10℃程度の場合の例
B の場合:6.0m(
〃
)/7 分 30 秒(Bの底辺)=0.8m/分(目標走行速度)
2) 引張接着強度と断面
施工断面における引張接着強度を建研式にて測定した。
試験結果は、1.2N/mm2(20℃程度)程度が得られ、一般
10mm
的なタックコートの測定値(0.8N/mm2 程度)8)以上の
新たな混合物
10mm
良好な結果が得られた。また、破断面は写真-3 に示すよ
再生層
10mm
うに再生層の下部となった。このことから新たな混合物
層および再生層の付着力は、それぞれ一般的なオーバー
レイ工法のタックコート以上であり、良好であることが
写真-3 かきほぐし面
確認できた。
3.3
実路における試験施工
表-3 薄層維持工法試験施工概要
平成 23 年 12 月
薄層の施工は温度が低下し易く、冬期施工では締
施
工
日
固め度不足による耐久性の低下が予想される。本薄
路
線
名
岩 舟 静 和 線
所
岩舟町大字静戸地内
層維持工法の冬期施工における検証を表-3 に示す条
件でおこなった。施工場所の既設舗装の平均ひび割
れ率は、10%程度であり写真-4 に示すようなポット
ホールが数箇所点在していた。ポットホールの一部
は処理をせず、写真-5 のようにそのまま加熱かきほ
ぐして再生した。施工状況を写真-6 に示す。なお、
走行速度は前述の算出により 0.8m/分で設定した。
場
計 画 交 通 量
N5
新たな混合物
L=85m、W=約 6.8m 約 578m2
既設密粒(20)に対して
10~20mm 程度
砕石マスチックアスファルト(5)
気
7 ℃
施工規模
か き ほ ぐ し
環
境
温
路面温度
10 ℃
平均風速
5.6 m/s
写真-4 ポットホール発生状況
写真-5 既設加熱かきほぐし再生状況
表-4
次に、試験施工前後の路面性状を表-4
に示す。また、引張接着強度は平均で
0.98 N/mm2(20℃)となり、目標とした
ひび割れ率(%)
0.8 N/mm2 以上の強度が確認できた。薄
平たん性(mm)
層施工での課題である新たな混合物層
最大わだち深さ
平均値(mm)
(表層)の締固め度は、平均 96%以上が
得られ、写真-7 に示すように再生層の目
平均施工厚(mm)
FH-GH
写真-6 施工状況
試験施工前後の路面性状
1 工区
2 工区
平均値
施工前
17.4
13.7
15.6
施工前
1.7
3.0
2.35
施工後
1.8
1.8
1.80
施工前
7.4
7.3
7.3
施工後
2.0
2.8
2.4
差
22.5
23.1
23.0
視観察状態も良好であり、問題の無い施
工が出来たと考えられる。気温 10℃以下の冬期施工である
ことを考慮すれば、気温の高い条件では更に良好な締固め
度の確保が可能であると思われる。
なお、本工区の供用性は今後確認する必要があるが、施
工場所は、表-1 に示した試験施工路線の隣接箇所であるた
め、同程度の自然条件・交通量条件として今後も関連した
評価が出来るものと考えている。
写真-7 現場切取コア
4.
おわりに
耐久性の高い薄層舗装を考えると、混合物は SMA 系の使用が望ましく、リフレクションクラック抑
制を十分発揮させるためには締固め度が重要である。本薄層維持工法では、施工条件が厳しい冬期施工
でも一般的な規格を満足する締固め度が確認された。今後は定量的な室内検証方法を検討する等により
精度の高いリフレクション対策の薄層維持工法を確立したいと考える。
最後に、試験施工にあたりヤードを提供して頂いた岩舟町役場建設課へ感謝の意をここに記す。
<参考文献>
1) 平井ほか:ホイールトラッッキング試験機を利用したクラック抑制混合物の検討、第 10 回北陸道路会議技術論文集
2006
2) 大坪ほか:各種混合物を用いたオーバーレイにおける追跡調査報告、第 28 回日本道路会議論文集、2009
3) 安西ほか:ひび割れ防止剤の室内実験による評価、第 17 回日本道路会議一般論文集、p584~585、1987
4) 池田:室内試験によるひび割れ防止剤の評価方法-試験方法を定めるまでの過程-、p61~67、1978
5) 高橋ほか:験温度条件を考慮したリフレクションクラック試の検討、平成 21 年度土木学会北海道支部論文報告集、
2009
6)伏屋ほか:サーフェイスリサイクリング工法の一例、第 15 回日本道路会議論文集 pp439、1983
7) 社団法人日本道路協会:舗装再生便覧、p112、2012
8) 羽入:舗装技術の質疑応答・第 9 巻、建設図書、2005