1-4 奨励研究 食品に利用可能な抗菌物質「バクテリオシン」生産菌の

1-4
奨励研究
食品に利用可能な抗菌物質「バクテリオシン」生産菌の探索とその特徴の解明
(H22)
食品開発部食品開発G
1
山田
加一朗
研究の目的と概要
食品製造における有害菌の汚染を防ぐ技術開発は、食品の安全性確保のために重
要である。道内食肉加工業では、生ハムなど非加熱食肉製品の生産が増加している
が、欧米では有害なリステリア菌(Listeria monocytogenes)による非加熱食品の汚染事
例が多数報告されている。国内でも食の欧米化に伴い今後の課題としてリステリア
菌の危害が食品安全委員会等から指摘されている。そのような中、合成の薬剤や抗
菌剤ではなく、微生物が生産する抗菌物質「バクテオリオシン」に関する研究が注
目され、既存の食品に含まれる乳酸菌の一種が生産するバクテリオシンが、リステ
リア菌を含む有害菌に対して優れた殺菌効果を示すことが報告されている。本研究
ではリステリア菌を含む有害菌に対して抗菌活性を示す新たなバクテリオシン生産
菌の取得を目指し、広範囲な既存の食品からバクテリオシン生産菌の探索を行い、
得られた菌株の特徴を明らかにした。
【予定される成果】
バクテリオシン生産菌の獲得とその特徴の解明
2
試験研究の方法
(1) バクテリオシン生産乳酸菌の候補株の取得
道産の農畜産加工品を分離源とし、選択培地に MRS 培地(メルク)、M17 培地
(oxoid)、GAM 培地(日水)、GYP 培地および滅菌蒸留水を用い、培養温度をそれぞれ
35℃、30℃及び 20℃として 72 時間静置培養した(集積培養)。その後、生育の確認で
きた培地から 0.5%炭酸カルシウム入り MRS 寒天培地へ画線塗抹し、それぞれ集積
培養と同温度で 48~72 時間好気的および嫌気的条件で培養を行った(選択培養)。選
択培養でクリアゾーンを生成したコロニーを 3 個釣菌し、MRS 液体培地 5ml にて集
積培養と同温度で 24~72 時間培養し、生育が見られた菌株を候補株とした。
(2) バクテリオシン抗菌活性試験
(1)で得られた候補株をバクテリシン抗菌活性試験 Direct 法 (善藤ら,九州大)にて
検定菌に対して、バクテリオシン様抗菌活性を示す乳酸菌を選定した。検定菌には
Lactococcus lactis subsp. lactis, Lactobacillus sakei subsp. sakei, Pediococcus pentosaceus,
Listeria innocua, Bacillus coagulans, Kocuria rhizophila の 6 菌株を使用した。
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(3) バクテリオシン生産乳酸菌の同定
(2)でバクテリオシン様抗菌活性を示した候補菌株を 16S-rRNA 遺伝子により菌株
の同定を行った。
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実験結果
(1) バクテリオシン生産乳酸菌の候補株の取得
道産加工品の浅漬け 3 種類、発酵サラミ 1 種類、チーズ 4 種類の計 8 種類の分離
源から好気培養および嫌気培養併せて 323 株の候補株を単離した(表 1)。
(2) バクテリオシン抗菌活性試験
(1)で得られた候補株のバクテリオシン抗菌活性を測定したところ、白菜浅漬けよ
り培養温度 30℃、MRS 培地および M17 培地から単離した候補株 4 株が検定菌 P.
pentosaceus に対してバクテリオシン様抗菌活性を示した(図 1)。また、これら 4 株
は他の検定菌には抗菌活性を示さなかった。
表1
得られたバクテリオシン生産候補株
分離源
培養温度
20 25
35
浅漬3種類
57 34 104
乳製品4種類
56 24
食肉製品1種類
8
8
24
8
図1
バクテリオシン抗菌活性試験(検定菌 P. pentosaceus)
(3) バクテリオシン生産乳酸菌の同定
バクテリオシン様抗菌活性を示した 4 株の 16S-rRNA の遺伝子解析を行った結果、
は Lactobacillus brevis および Lactobacillus plantarum であると同定された。既存の報
告からこれら 2 菌種はそれぞれ乳酸菌バクテリオシンの分類の一つであるクラスⅡ
のブレビシンおよびプランタリシンを生産していると推察された。クラスⅡのバク
テリオシンには L. monocytogenes に対して抗菌活性を示すものも含まれることから、
これら 4 株の生産するバクテリオシンもリステリア菌に対して抗菌活性を持つこと
が期待できた。
4
要
約
道産の農畜水産加工品を分離源として、白菜漬物より P. pentosacus のみにバクテ
リオシン様抗菌活性を示す乳酸菌 4 株を単離した。これらは 16S-rRNA の遺伝子解
析により L. brevis および L. plantarum であると同定され、そのバクテリオシンはブレ
ビシンおよびプランタリシンと推察された。
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