解 説 鋼道路橋塗装・防食便覧について −塗装便覧の改訂− 耐寒材料チーム 1.はじめに 2.新便覧の概要 日本道路協会では「鋼道路橋塗装便覧」 (以下「塗 (社) 鋼道路橋の腐食損傷に対して、防食技術をまとめた )を改訂し、平成17年12月に「鋼道 装便覧」という。 ものとしては、塗装便覧があり、一般の技術者に広く (以下「新便覧」という。)を発 路橋塗装・防食便覧」 鋼橋防食関連のガイドブックとして使われてきまし 刊しました。新便覧のタイトルについては「防食」と た。塗装便覧が鋼橋の腐食損傷に対応する防食技術ガ いう文言が加えられ、 内容についても塗装便覧では「塗 イドブックとして使われていたのは、防食技術を代表 装」のみでしたが、新便覧では「塗装、耐候性鋼材、 する対策として塗装が一番多く使われてきたことから 溶融亜鉛めっき、金属溶射」の4種類が取り扱われて きています。 います。 近年は、これまで多く使われてきた塗装以外にも、 今回は塗装便覧と新便覧「塗装編」との改訂内容を 耐候性鋼材、めっきや金属溶射といった新技術があら 明らかにするため、 「塗装編」を中心に解説します。 われ、国内、海外の橋梁で多く使われる事例が報告さ れるようになってきています。そこで、これらの各種 表-1「鋼道路橋塗装・防食便覧」の目次 の防食技術で鋼橋に適用できるものを一冊のガイドブ ックとして、とりまとめたものが新便覧です。 第Ⅰ編共通編 第1章 総則 新便覧では、ライフサイクルコスト(以下「LCC」 )低減の考えを主流に、防食技術を総合的に という。 記述し、各防食技術共通の事項を取り纏めた共通編と、 第2章 鋼道路橋の腐食 各種の防食技術を詳説する塗装編、耐候性鋼材編、溶 第3章 鋼道路橋の防食法 融亜鉛めっき編、金属溶射編で構成されています(表 第4章 防食設計 第5章 施工管理 第6章 維持管理 第Ⅱ編塗装編、第Ⅲ編耐候性鋼材編、 第Ⅳ編めっき編、第Ⅴ編溶射編 -1)。 共通編は、鋼橋の腐食実態を説明、原因に対応する 防食方法の選定ができるようにまとめられており、そ の中では、各種防食技術の特徴が整理されています (表 -2)。 耐候性鋼材編では、防食の機能を付加した鋼材とし て、「JIS G 3114 溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材」の 第1章 総論 無塗装用(SMA W)と、従来の耐候性鋼材に比べ、 第2章 防食設計 塩分に対する耐候性を高めた新しい耐候性鋼材(ニッ ケル系高耐候性鋼材)の特徴、設計・施工法、点検、 第3章 構造設計上の留意点 維持管理における留意点などについて解説していま 第4章 製作・施工上の留意点 す。 第5章 施工 めっき編・溶射編では、それぞれの工法の原理、損 第6章 維持管理 傷、設計、施工、維持管理の留意点や採用にあたって 配慮すべき点などを解説しています。 第7章 塗替え塗装(塗装編のみ) 72 寒地土木研究所月報 №643 2006年12月 3. 「塗装編」について ていた塗料の一部に有害重金属(鉛、クロムなど)を 3. 1総論について 防錆顔料として含有しているものがありましたが、環 境への配慮から「国等による環境物品等の調達の推進 ・重防食塗装系を基本(LCC 考慮) (グリーン購入法)の特定調達品目に 等に関する法律」 ・A、a塗装系→十分な防食性能を有している場合 有害重金属を含有しない重防食下塗塗料が掲載され、 など→鉛・クロムフリーさび止めを用いる ・B、b(塩化ゴム系) 、タールエポキシ樹脂塗料 平成15年11月に鉛・クロムフリーさび止めペイントが JIS 化されたため、A、a塗装系は、鉛・クロムフリ ーさび止めペイントを用いた塗装系に替えられていま は廃止 す。B、b塗装系は、塩化ゴム系塗料の製造時に国際 的に規制されている四塩化炭素を使用するなどの理由 塗装編において推奨している塗装は、LCC を比較 から、また、タールエポキシ樹脂塗料は発癌性の疑い した結果、防食下地には耐食性に優れたジンクリッチ のあるコールタールを含むため作業者の安全衛生の観 ペイント、下塗りには遮断性に優れたエポキシ樹脂塗 点から新便覧では取り扱われないこととされました。 料を使用し、上塗りには耐候性に優れたふっ素樹脂塗 料を用いた重防食塗装系を基本としています。したが って、これまで採用していたA、B塗装系は、新設の 3.2新設塗装について (1)一般外面塗装系 道路橋には推奨しないこととされています。ただし、 一般環境にある橋梁で既にA、a塗装系が塗布されて ・C-5塗装系が基本 いて十分な防食性能を有している場合、および20年以 ・A-5塗装系も可能だが条件有り 内に架け替えが予定されている場合などには、A、a ・C-5塗装系は全工場塗装 塗装系を適用することも可能であるとされています。 なお、A、a塗装系の適用に当たっては、従来使われ 一般外面塗装系には、総論で述べましたように重防 表-2 代表的な鋼道路橋の防食法 寒地土木研究所月報 №643 2006年12月 73 食塗装系C−5塗装系 (表-3) を基本としています。 (1)塗替え方式 ただし、一般環境に架設する場合で特に LCC を考 塗替え方式は「全面塗替え」、「部分塗替え」 、 「局部 慮する必要のない場合や、20年以内に架け替えが予定 補修」があり、「部分塗替え」は桁端部、連結部、下 されている場合などでは、鉛・クロムフリーさび止め フランジ下面などの特定部位の塗膜劣化が著しい場合 ペイントを使用するA−5塗装系(表-4)の適用し に適用することにより「全面塗替え」の時期を延ばす てもよいこととされています。 ことが可能であるとしています。ただし、 「部分塗替え」 なお、各表中の赤文字部分は塗装便覧と比べて使用 の適用に当たっては、長期的な視点での経済性の検討 量が変更されているところです。 及び足場費用軽減のため移動足場などの適用を検討す ることがよいとしています。 (2)内面塗装系 (2)塗装仕様 ・内面の色相は明色仕上げ 塗替えにおける塗装仕様についても、LCC 低減な ・外面A-5塗装→内面D-6塗装 どの観点から、重防食塗装系を基本としています。な お、新便覧での重防食塗装系とは防食下地に耐食性に 内面塗装にはD−5(表-5) 、D−6(表-6)塗 優れたジンクリッチペイント、上塗りには耐候性に優 装系がありますが、一般外面の塗装系がA−5塗装系 れたふっ素樹脂塗料を用いたものとしています。過去 の場合には、内面用にはD−6塗装系を適用すること に一般塗装系A、a、B、b系から重防食塗装系c系 がよいとしています。 へ塗替えた時に素地調整3種を用いた場合、防食下地 また、内面の色相は点検時の証明効果をよくするた にジンクリッチペイントがないことになりますので、 めに、明色仕上げすることがよいとしています。 塗替えの際は確認してください。 (3)鋼床版裏面の塗装 鋼床版裏面は、グースアスファルト舗設時に180℃ 表ー3 一般外面の新設塗装仕様 C-5塗装系 程度まで温度が上昇するため耐熱性に優れていること が必要なため、一般外面にはC−5塗装系、内面には D−5塗装系を適用することがよいとしています。 (4)摩擦接合部の塗装 摩擦接合継手の連結部では、現場塗装開始前までの さびの防止、また、現場塗装時の素地調整作業の容易 塗装工程 素地調整 プライマー 2次素地調整 防食下地 橋梁 ミストコート 製作 下塗り 工場 中塗り 上塗り 製鋼 工場 塗料名 ブラスト処理 ISO Sa2 1/2 無機ジンクリッチプライマー ブラスト処理 ISO Sa2 1/2 無機ジンクリッチペイント エポキシ樹脂塗料下塗 エポキシ樹脂塗料下塗 フッ素系樹脂塗料中塗 フッ素系樹脂塗料上塗 使用量 膜厚 塗装間隔 (g/㎡) (μm) - - 4時間以内 160 (15) 6ヶ月以内 4時間以内 - ‑ 600 75 2~10日 160 ‑ 1 ~10日 540 120 1~10日 170 30 1~10日 140 25 表ー4 一般外面の新設塗装仕様 A-5塗装系 塗装工程 さなどから無機ジンクリッチペイントを塗装すること 製鋼 工場 がよいとしています。 橋梁 製作 工場 現場 3. 3塗替塗装について 素地調整 プライマー 2次素地調整 下塗り 下塗り 中塗り 上塗り 塗料名 ブラスト処理 ISO Sa2 1/2 長ばく型エッチングプライマー 動力工具処理 ISO St3 鉛・クロムフリーさび止めペイント 鉛・クロムフリーさび止めペイント 長油性フタル酸樹脂塗料中塗 長油性フタル酸樹脂塗料上塗 使用量 膜厚 塗装間隔 (g/㎡) (μm) - - 4時間以内 130 (15) 3ヶ月以内 - - 4時間以内 170 35 1~10日 170 35 ~6ヶ月 120 30 2~10日 110 25 表ー5 内面用新設塗装仕様 D-5塗装 ・重防食塗装系を基本(LCC 考慮)→十分な防食性 能を有している場合などa塗装系(鉛・クロムフ リーさび止め)も可 ・塗装系の変更→旧塗膜は素地調整1種(ブラスト) 塗装工程 素地調整 プライマー 橋梁 2次素地調整 製作 第1層 工場 第2層 製鋼 工場 で除去することが基本 74 ブラスト処理 ISO Sa2 1/2 無機ジンクリッチプライマー 動力工具処理 ISO St3 変性エポキシ樹脂塗料内面用 変性エポキシ樹脂塗料内面用 使用量 膜厚 塗装間隔 (g/㎡) (μm) - - 4時間以内 160 (15) 6ヶ月以内 - - 4時間以内 410 120 1~10日 410 120 表ー6 内面用新設塗装仕様 D-6塗装 ・現場塗装でもスプレー塗装を認める ・外面は弱溶剤、内面は無溶剤塗料 塗料名 塗装工程 素地調整 プライマー 橋梁 2次素地調整 製作 第1層 工場 第2層 製鋼 工場 塗料名 ブラスト処理 ISO Sa2 1/2 長ばく形エッチングプライマー 動力工具処理 ISO St3 変性エポキシ樹脂塗料内面用 変性エポキシ樹脂塗料内面用 使用量 膜厚 塗装間隔 (g/㎡) (μm) - - 4時間以内 130 (15) 3ヶ月以内 - - 4時間以内 410 120 1~10日 410 120 寒地土木研究所月報 №643 2006年12月 新便覧に掲載されている主な塗替え塗装系を表―7 せを表―8に示します。 に示します。また、旧塗膜と塗替え塗装系の組み合わ なお、表―7中の赤文字部分は塗装便覧と比べて使 用量が変更されているところです。塗替えでは目標膜 厚の明記はありませんが、使用量の減少が膜厚を減少 表-7 主な塗替え塗装系 Rc-Ⅰ(スプレー) 規格 素地調整 下塗り 下塗り 下塗り 中塗り 上塗り 1種 有機ジンクリッチペイント 弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗 弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗 弱溶剤形フッ素樹脂塗料用中塗 弱溶剤形フッ素樹脂塗料上塗 2 使用量(g/m2) 塗装間隔 - 4時間以内 600 1~10日 240 1~10日 240 1~10日 170 1~10日 140 Rc-Ⅲ(はけ、ローラー) 素地調整 下塗り 下塗り 下塗り 中塗り 上塗り 規格 3種 弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗 弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗 弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗 弱溶剤形フッ素樹脂塗料用中塗 弱溶剤形フッ素樹脂塗料上塗 2 塗装間隔 使用量(g/m2) - 4時間以内 200 1~10日 200 1~10日 200 1~10日 140 1~10日 120 規格 4種 弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗 弱溶剤形フッ素樹脂塗料用中塗 弱溶剤形フッ素樹脂塗料上塗 Rc−Ⅱの場合、素地調整は2種ですが、健全なジン クプライマーやジンクリッチペイントを残し、他の旧 塗膜は全面除去することとされています。また、過去 に旧塗膜がB、b系からc系へと塗り替えられた場合 には、割れ、はがれ、膨れ等の欠陥が見受けられたり、 今後発生する可能性もあるので(写真-1)、この場合 は素地調整1種を行うのがよいとしています。 (3)施工 Rc-Ⅳ(はけ、ローラー) 素地調整 下塗り 中塗り 上塗り させてもよいということではありません。 2 使用量(g/m2) 塗装間隔 - 4時間以内 200 1~10日 140 1~10日 120 塗替え時の塗装方法として、「スプレー塗り」 、 「ロ Ra-Ⅲ(はけ、ローラー) 素地調整 下塗り 下塗り 下塗り 中塗り 上塗り 規格 3種 鉛・クロムフリーさび止めペイント 鉛・クロムフリーさび止めペイント 鉛・クロムフリーさび止めペイント 長油性フタル酸樹脂塗料中塗 長油性フタル酸樹脂塗料上塗 2 塗装間隔 使用量(g/m2) - 4時間以内 (140) 1~10日 140 1~10日 140 1~10日 120 2~10日 110 Rc-Ⅱ(はけ、ローラー) 素地調整 下塗り 下塗り 下塗り 中塗り 上塗り 規格 2種 有機ジンクリッチペイント 弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗 弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗 弱溶剤形フッ素樹脂塗料用中塗 弱溶剤形フッ素樹脂塗料上塗 2 使用量(g/m2) 塗装間隔 - 4時間以内 (240) 1~10日 200 1~10日 200 1~10日 140 1~10日 120 Rd-Ⅲ(はけ、ローラー) 規格 素地調整 3種 第1層 無溶剤形変性エポキシ樹脂塗料 第2層 無溶剤形変性エポキシ樹脂塗料 2 使用量(g/m2) 塗装間隔 - 4時間以内 300 2~10日 300 写真-1 B、b系からc系へ塗替えた場合に見られ る塗膜劣化 表-8 旧塗膜と塗替え塗装系の組み合わせ 素地 塗替え 旧塗膜 調整 塗装系 特徴 Rc-Ⅰ A、B 1種 ブラスト工法により旧塗膜を除去し、スプレー塗装する。 a、b、c Rc-Ⅲ A、B、C 工事上の制約によってブラストできない場合に適用する。 3種 a、b、c 耐久性はRc-Ⅰ塗装系に比べて著しく劣る。 Rc-Ⅳ C c 4種 旧塗膜に欠陥がなく、美観を改善するために行われる。 Ra-Ⅲ A a 3種 A塗装系の塗替えで十分な塗膜寿命を有していて、適切な 維持管理体制がある場合などに適用する。 Rc-Ⅱ B b、c 2種 工事上の制約によってブラストできなく、かつ、B系、b系の 旧塗膜に適用する。 Rd-Ⅲ D d 3種 暗く換気が十分に確保されにくい環境の内面塗装に適用す る。 寒地土木研究所月報 №643 2006年12月 75 ーラーブラシ塗り」が追加され、 「はけ塗り」も含め て3種類の方法があります。素地調整1種を行った場 合には、下塗りから上塗りまで「スプレー塗り」を行 うこととしています。 また、塗替え前に行う水洗いの基準である旧塗膜上 の付着塩分量について、塗装便覧では100mg/ ㎡とさ れていましたが、新便覧では50mg/ ㎡と変更されて います。 4.おわりに 経済活動や社会生活を支えている社会基盤である橋 梁の機能を維持することは必要不可欠なことであり、 鋼材の腐食損傷を防止することの重要性はいうまでも ないことと思われます。社会資本ストックの高齢化や 厳しい国の財政状況などから、新設橋梁の LCC の低 減だけではなく、 既 設 橋 梁 に お い て も 可 能 な限り LCC の低減をはかることが求められ、今回の便覧の 改訂にあたっては、このような目的を達成するための 様々な防食技術が盛り込まれていますが、今回は「塗 装編」を中心に説明しました。従いまして、その他の 防食技術について鋼橋の建設、維持管理に携われる皆 様は改めて新便覧をご覧いただければと思います。 (文責:林田 宏) 76 寒地土木研究所月報 №643 2006年12月
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