新株予約権の第三者割当てによる資金調達事例 - アンダーソン・毛利

2014 年 2 月
CAPITAL MARKETS LEGAL UPDATE
CONTENTS
1 一般的な新株予約権の内容と特徴
2 新株予約権を用いた資金調達事例
3 今後の動向
新株予約権の第三者割当てによる資金調達事例
弁護士 甲立 亮│弁護士 中山 伸介
近年、新株予約権を用いた資金調達手法として、いわゆるライツ・オファリングが導入され、その
後、法規制の整備も行われているが、その他にも、アベノミクスによる株価の上昇等を背景として、
以前利用されていた新株予約権の第三者割当てによる資金調達事例が再び多く見られるように
なった。そのような事例においては、新株予約権の内容や発行会社と割当先との間の契約内容を
工夫することにより、資金調達としての仕組みも多様化しており、とりわけ、新株予約権を単純に発
行した場合のデメリットを緩和する設計となっている事例が少なくない。本稿では、新株予約権を
用いて資金を調達する場合に考えられるメリット・デメリットについて概観した後、新株予約権の内
容や新株予約権に関する契約の内容を工夫することにより、デメリットを解消又は緩和している事
例を紹介する。
1 一般的な新株予約権の内容と特徴
新株予約権とは、株式会社に対してこれを行使することにより、当該株式会社の株式の交付を受
けることができる権利をいう。発行会社は、新株予約権の発行時にその払込金額(いわゆるオプシ
ョン・バリューに相当する金額)の払込みを受けるとともに、新株予約権の行使時に行使価額(新
株予約権の行使により交付される株式の対価)の払込みを受けることにより、資金調達をすること
ができる。近年、新株予約権を第三者割当てにより発行し、発行後における新株予約権の行使に
伴う金銭の払込みによって資金調達をする事例が多く見受けられる。
新株予約権による資金調達は、新株予約権の行使が一定の期間にわたって断続的に行われる
場合が多いため、普通株式の発行により資金を調達する場合と比べ、株式価値の希薄化が一度
に発生せず、株価への影響が相対的に小さいといわれている。また、社債の発行や借入れによる
資金調達と比べた場合、新株予約権が行使されて株式が交付されるまでの間も、調達された資
金が貸借対照表上の負債ではなく純資産の部に計上されるため、財務の健全性を維持できると
いうメリットもある。
他方、株式や社債の発行、借入れによる資金調達と比べ、通常、新株予約権による資金調達は、
新株予約権を発行しただけでは十分な資金を調達することができず、また、発行後に新株予約権
が行使されるかどうかが不確実であるという側面がある。すなわち、新株予約権の発行時に払い
込まれるのは新株予約権の払込金額のみであるが、通常、払込金額自体はそれ程多額ではなく、
新株予約権を発行しただけでは十分な資金を調達することができない。したがって、十分な資金
を調達するためには、発行後に新株予約権が行使される必要があるが、株価が行使価額を上回
らない限り新株予約権は行使されないため、株価が行使価額を下回る状態が続くと、発行会社が
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(新株予約権の払込金額を除き)資金を調達することができないというデメリットがある。また、新株
予約権の権利行使はその保有者の任意の意思によるため、株価が行使価額を上回る水準であっ
たとしても、保有者が権利行使をしなかったり、保有者による権利行使に時間を要したりすることに
より、発行会社が予定していた通りに資金を調達できない可能性がある。
近年公表された新株予約権の発行事例には、株価への影響や株式価値の希薄化を抑制できる
といった新株予約権による資金調達のメリットを維持すると同時に、新株予約権の内容や新株予
約権に関する契約内容を工夫することにより、資金調達の不確実性という上記のデメリットを解消
又は緩和する例が見られる。以下では、そのような事例のいくつかを紹介する。
2 新株予約権を用いた資金調達事例
公表されている新株予約権の発行事例を見ると、通常の新株予約権の発行条件に対して様々な
変更が加えられているが、以下では、(1) 一定の条件下で新株予約権の権利行使を義務付ける
もの(コミットメント条項付新株予約権)、(2) 新株予約権の権利行使を一定の期間制限するもの
(行使制限条項付新株予約権)、(3) 新株予約権の行使による調達額よりも新株予約権の払込
金額を高く設定するもの、(4) 行使価額の異なる複数の種類の新株予約権を同時に発行するも
の、(5) 新株予約権の発行と金銭の借入れを同時に行い、新株予約権の行使時に当該金銭債
権を出資するもの(新株予約権付ローン)を紹介する。
なお、実際の事例では、以下に紹介した条件を複数組み合わせているものも多く見受けられる。
(1) コミットメント条項付新株予約権
これは、発行会社が、新株予約権の割当先に対して、新株予約権の行使を指示することができる
条項が付された新株予約権である。コミットメント条項付新株予約権の場合、通常、割当先は、発
行会社から新株予約権の行使の指示を受けると、当該指示を受けてから一定の期間内に指定さ
れた数の新株予約権を行使しなければならない。このようなコミットメント条項は、会社法上の新株
予約権の内容として定められるのではなく、発行会社と割当先の間の契約の中で規定される。
前述のとおり、新株予約権には、保有者が任意に権利行使をしない限り発行会社が必要な資金
を調達できないという不確実性があるが、コミットメント条項は、発行会社と割当先の間の契約によ
り、一定の場合に割当先による権利行使を義務付けることによって、新株予約権による資金調達
に係る不確実性を軽減するものである。かかるコミットメント条項により、発行会社は、資金需要が
生じた際に機動的な資金調達を行うことが可能となる。
他方で、割当先としては、例えば株価が行使価額を下回っている場合にも権利行使を強制されて
しまうと損失を被ってしまうため、コミットメント条項が付される新株予約権の場合、新株予約権が
行使される毎に行使価額がその時点の株価から一定のディスカウントをした価額に修正される行
使価額修正条項付の新株予約権であることが多い。行使される毎に行使価額が修正されるので
あれば、少なくとも株価との関係では、株価が下限行使価額を下回っている場合等一定の例外的
な場合を除き、新株予約権行使の指示が行われるタイミングについての制限がなくなる。
また、コミットメント条項付新株予約権の場合、通常、割当先は、新株予約権の行使によって取得
した株式を売却することによって利益を上げることが想定されている。かかる観点から、例えば未
公表のインサイダー情報がある場合等、新株予約権の行使によって取得した株式を売却すること
が困難な状況が生じているような場合には、行使の指示ができなかったり、一旦なされた行使の
指示が取り消されるような条項が付されている例も見受けられる。
(2) 行使制限条項付新株予約権
これは、発行会社が、新株予約権の割当先に対して、新株予約権の行使ができない期間を指定
することができる条項が付された新株予約権である。行使制限条項が付された新株予約権の場
合、通常、割当先は、発行会社から上記の指定を受けると、指定された期間は新株予約権を行
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使することができない。行使制限条項も、コミットメント条項と同様に、会社法上の新株予約権の内
容として定められるのではなく、発行会社と割当先の間の契約の中で規定されることが多い。
行使制限条項は、発行会社に差し迫った資金需要がない場合や、株価や行使価額の水準、株
式価値の希薄化等を考慮するとその時点で新株予約権の行使がなされることが望ましくない場合
に利用されることが想定されている。
行使制限条項は、コミットメント条項と組み合わされる例も多く、この組み合わせの場合、発行会社
が新株予約権の行使を望ましくないと考えている局面では行使制限条項により新株予約権の行
使を制限しておき、反対に、資金調達が必要となった場面ではコミットメント条項により新株予約権
の行使を指示して必要な資金を調達するといった運用も可能となり、新株予約権の行使について
より強いコントロールを及ぼすことが可能となる。
(3) 新株予約権の行使による調達額よりも新株予約権の払込金額を高く設定するもの
新株予約権を発行した場合に調達される資金は、新株予約権の発行時に払い込まれる新株予
約権の払込金額と、新株予約権の行使時に払い込まれる行使価額から構成される。新株予約権
の行使価額は、新株予約権者が行使によって取得する株式の対価であり、通常、発行会社が想
定する将来の株価を基準として設定される。他方、新株予約権の払込金額は、上記のように設定
された行使価額その他の条件を前提として算出された新株予約権のオプションとしての価値を基
準とする金額が設定される。その結果、新株予約権の払込金額の総額は、新株予約権の行使に
よって調達される金額の総額よりも相当程度低い金額となるのが通常である。したがって、新株予
約権による資金調達の主たる部分は、新株予約権の行使時に払い込まれる金銭によるものとな
るのが通常である。
しかし、このような通常の新株予約権による資金調達では、発行時点で資金が必要な会社のニー
ズには十分に応えることができない。これまでに公表された事例の中には、かかるニーズに対応す
るため、新株予約権の払込金額を発行時点の株価に近い金額とし、行使価額は名目的な金額
(例えば、1 株当たり 1 円)とする例も見受けられる。これは、行使価額を僅少な額に設定すること
により、新株予約権のオプションとしての価値を高め、発行時点でより高額の払込金額を調達する
ための手法であると考えられる。
このように発行時点の株価の水準に対応した金額を新株予約権の払込金額として設定した場合、
割当先は、新株予約権の発行時点から、株式を引き受けた場合と同様の価格変動リスクを負うこ
とになるため、発行決議の公表後に借株を行い、当該借株を売却する等して、かかるリスクをヘッ
ジする必要がある。
(4) 行使価額の異なる複数の種類の新株予約権を同時に発行するもの
新株予約権を複数発行し、それぞれの新株予約権について、発行会社が自社の業績の向上に
伴って株価が上昇する想定で段階的に設定した目標株価に対応する行使価額を設定する例も
見受けられる。例えば、現在の株価が 80 円である場合に、3 種類の新株予約権を同時に発行し、
新株予約権 A については行使価額を 100 円、新株予約権 B については行使価額を 120 円、新
株予約権 C については行使価額を 140 円と設定するような場合である。このような設計とすること
により、株価が上昇していった場合に、段階的に新株予約権の行使が行われ、希薄化が生じるタ
イミングを分散させることが期待できる。
この設計の新株予約権においては、上記のコンセプトとの関係で、行使価額は固定されていること
が通常である。他方で、行使価額を完全に固定してしまうと、発行会社の想定に沿って株価が上
昇しなかった場合に全く資金調達ができなくなってしまうリスクがあり、また、発行会社の想定を超
えて大幅に株価が上昇した場合には、大幅なプレミアムがある状態で新株予約権の行使がなされ
ることとなる。これらの事態に対処するため、行使価額修正条項付の新株予約権に切り替える選
択権が発行会社に付与されている例も見受けられる。
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(5) 新株予約権付ローン
これは、発行会社が割当先に対して新株予約権を無償で発行するとともに、当該割当先からロー
ンの実行を受け、新株予約権の行使に際して出資される財産の種類を(現金でなく)当該ローンに
係る貸金債権とするスキームである。会計上は、新株予約権の発行時(ローン実行時)には調達
資金が貸借対照表上の負債の部に計上されるが、新株予約権の行使時に負債から資本に振り
替わるため、新株予約権が行使された場合には自己資本の増強が可能となる。
このスキームでは、新株予約権の内容として、又はローン契約において、ローンの実行が行われな
かった場合やローンに係る貸金債権が弁済等により消滅した場合には新株予約権の行使ができ
ないこと、貸金債権を譲渡する場合には新株予約権もあわせて譲渡しなければならないこと等の
条件が定められ、新株予約権と貸金債権とが不可分一体となっている。
新株予約権付ローンによる資金調達の場合、発行会社は、新株予約権の発行時点で確定した金
額の資金調達を行うことができ、その後、新株予約権者の権利行使があった時点で、株式の交付
と引換えにローン(負債)を消滅させることができる。発行会社にとっては、ローンの実行を受けただ
けの場合に比べローンに係る利率を低くおさえることができ、割当先にとっては、新株予約権の行
使に伴う利益を得られる可能性がある点でメリットのあるスキームである。
3 今後の動向
上記のとおり、新株予約権の第三者割当てによる資金調達事例においては、新株予約権の内容
や発行会社と割当先との間の契約内容を工夫することにより、新株予約権による資金調達のデメ
リットを解消又は緩和する設計となっているものが見られる。第三者割当ての方法による資金調達
の場合、商品内容をある程度柔軟に設計することも可能であることから、今後も、発行会社のニー
ズに対応するため、上記の事例で用いられた条項等を活用しつつ、新たな工夫を加えたスキーム
が設計され、資金調達手法がさらに多様化する可能性も考えられる。
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