吹き抜け柱の座屈長さ - 摂南大学

[カテゴリーⅡ]
日本建築学会構造系論文集 第 567 号,133-139,2003 年 5 月
J. Struct. Const. Eng., AIJ, No. 567, 133-139, May., 2003
吹き抜け柱の座屈長さ
EFFECTIVE LENGTH OF A LONG COLUMN IN THE WELL
柴田 道生*
Michio SHIBATA
Theoretical studies are presented on the elastic buckling load of a multi-bay multi-story frame
with slender columns.
Lateral sways of slender columns in the well or void space are so
restricted by other short columns that the load carrying capacity of the slender column is larger
than that of the independent long column. The interaction effects between long and short
columns in the frame are expressed in an explicit manner, and the closed form estimation of
frame buckling is presented. Methods for estimating effective lengths of such frames are also
presented, where the single buckling of the slender column dominates. Computed results show
good agreements between presented formula and eigen-value solutions.
Keywords :
slender column in the well, un-braced frame, sway buckling
effective length, eigen-value problem, design formula
不均等骨組,吹き抜け柱,座屈荷重,座屈長さ,固有値解析,設計式
1 序
sway モード座屈荷重を上回った場合について言及していない.また,
図 1 の骨組などでは,吹き抜け柱の座屈長さはそのみかけの部材長
三谷他は吹き抜け柱を含む骨組の座屈では吹き抜け柱の非 sway 個材
を基準として文献1)の定式化に基づく文献2), 3) のチャートなどより
座屈が支配的であることに注目し,吹き抜け柱の上下層での拘束効果
設定され,sway 型の座屈モードの場合は部材長の 1.5 倍以上となる
を考慮した非 sway 個材座屈荷重算定法を導いた 6).
ことがある.しかし,通常の建物では吹き抜け柱は建物を構成する柱
これら文献 3)~6)の手法では座屈荷重は,超越方程式の数値解もし
群のごく一部であり,他の多くの柱の材長は基準階高に等しくその剛
くは設計チャートから読みとる形で求められる.使いやすい設計式と
性は吹き抜け柱に比べて相当大きい.図 2 のように剛性の相当異なる
しては結果が明示的な形で定式化されることが望ましい.
柱の組み合わせでは,細長い方の柱は剛な柱による拘束効果により非
sway 型に近い高次モードになることが期待できる.
本研究は,ほぼ均等な多層骨組の下層部に吹き抜け柱が存在する場
合を想定し,吹き抜け柱を含む骨組の sway 型全体座屈荷重およびそ
文献 3)の定式化は,各柱とそれに接続する梁からなる部分架構群が
れらに対応する座屈長さの明示的な表現を,弾性座屈理論に基づいて
互いに拘束することなく,各々が独立して座屈する場合に対応し,各
提示する.解析に当たっては,吹き抜け柱以外の骨組は 1) 各部材の
柱の軸力が各々の部分架構の座屈荷重の比に等しい場合に正しい結
端部は他の骨組要素に剛接合され,2) 同一層の柱の断面積お
果を与える.吹き抜け柱などを含む不均等骨組では,設計分担軸力は
P
P
各部分架構の座屈荷重比とは一致し得ないので各分架構間に拘束が
発生し,拘束がない場合に比べて吹き抜け柱では座屈時の分担荷重が
増大し,一般の柱では分担荷重が減少する.
A
B
文献 4) には,不均等骨組の座屈荷重算定に関する巧妙な手法が示
されており,不均等骨組が全体 sway 座屈を生じるときの各柱の分担
軸力の総和は,部分架構群の相互拘束がない場合の各柱の sway 座屈
荷重(文献 3)の手法)の総和として求まる.三谷他はこの現象が非
弾性座屈域でも成立することを示した 5).しかし,文献 4)では吹き抜
け柱に適用するための具体的な手法や,得られた座屈荷重が個材の非
* 摂南大学工学部建築学科 教授 工博
図1
吹き抜け柱を含む骨組
図 2 剛な柱と細長い
柱の組み合わせ
Prof., Dept. of Architecture, Faculty of Engineering, Setsunan Univ., Dr. Eng.
-133--
よび剛性はほぼ等しく,3) 各柱の上下に接続する梁の剛性に著しい差
はないものとする.
P
P
Ig/2
Ig/2
Q
PR
A
2 単一柱および吹き抜け柱を含まない不均等骨組
2.1 単一部材の水平剛性
R
鉛直力 P と水平力 Q を受ける図 3 の部分架構に座屈たわみ角法を
I’g/2 B
適用すると,節点方程式
EI
H
EI
H
( 6κ + α )θ A + βθ B − γ R  = 0
(1a)
 βθ A + ( 6κ ′ + α )θ B − γ R  = 0
(1b)
κ=
α=
β=
PS
I’g/2
q
P
A
2{1 − cos ( kH )} − kH sin ( kH )
2{1 − cos ( kH )} − kH sin ( kH )
,
kH {kH − sin ( kH )}
Ig/2
Ig/2
Ig/2
,
k2 =
P
EI
I’g/2 B
L/2
Ig/2
A
R
γ=α+β
1
図 4 P vs. q 関係
P
, κ′=
I/H
I /H
kH {sin ( kH ) − kH cos ( kH )}
qA
0
L/2
図 3 鉛直力と水平力を受ける柱
I g′ / L
Ig / L
L/2
PE
H
I
I
I
H
I’g/2
I’g/2
H
I’g/2
B
L
L/2
L
より次式を得,
θA =
( 6κ ′ + α − β ) γ R
( 6κ + α − β ) γ R
,θ B =
2
( 6κ ′ + α )( 6κ ′ + α ) − β
( 6κ ′ + α )( 6κ ′ + α ) − β 2
{
}
(a) sway モード
(b) 非 sway モード
図 5 単独柱の座屈モード
・・・ (2)
EI 
2
層方程式 QH =
−γθ A − γθ B + 2γ − ( kH ) R 

H 
(3)
に式(2)を代入すれば次式を得る.

Q 12 EI 1  6γ {12κκ ′ + (κ + κ ′ )(α − β )}
2


=
−
q=
kH
(
)
R H 2 12  ( 6κ + α )( 6κ ′ + α ) − β 2


・・・ (4a)
式(4a)による P と q の関係を図 4 に示す.図中の PE および qA は
P/PE
κ=∞
κ = 3, κ' = 27
κ = 1, κ' = 9
κ = 1/3, κ' = 3
κ = 1/9, κ' = 1
PE = π 2 EI / H 2
q
6κκ ′ + κ + κ ′
q =
6κκ ′ + 4 (κ + κ ′ ) + 2
A
(4b)
であり,
PS および PR はそれぞれ図 5(a)の sway モードおよび同図(b)
の非 sway モードに対応する座屈荷重であって
(π X S ) − 36κκ ′ − π X S = 0
6 (κ + κ ′ )
tan (π X S )
式(4a)と式(6a)の比較を図 6 に示す.図中の実線は式(4a)による精密
2
(5a)
 tan (π X R / 2 ) 
+κκ ′ 
− 1 = 0 (5b)
 π XR / 2

X S = PS / PE , X R = PR / PE
の根である 3).式(5)の解は,精度の高い近似解が文献 7), 8)に提案さ
れており,
また,
文献 3)の設計チャートにおいて GA = 1/κ, GB = 1/κ’
とおいて得られた K より X = 1/K としても求めることができる.
P < PS の場合,無次元水平剛性 q は正の値を持つが,P > PS で
は負となり,正の部材角 R を保持するには逆方向の拘束を必要とする.
しかし,P は PR を超えることはない.
κκ ′ + 1.64 κκ ′ + 0.84 P
(1 +
κκ ′
)
2
また sway モード座屈荷重 PS は式(6a)において q = 0 とおけば
2
(
)
2
1 + κκ ′
6κκ ′ + κ + κ ′
=
6κκ ′ + 4 (κ + κ ′ ) + 2 κκ ′ + 1.64 κκ ′ + 0.84
(6b)
で近似できる.式(5a)の解と式(6b)の比較を図 7 に示す.図中の破線
は式(5a)による精密解,実線は近似解(6b)を表す.両者の対応は 0.1 <
κ’/κ < 10 の範囲では良好である.
なお,図 3 のモデルでは柱に接続する上下の梁のみが柱の座屈を拘
束する.均等骨組で各層の柱剛性がほぼ等しい場合は,上下の柱相互
の座屈拘束効果は少いので,柱に接続する梁の拘束だけが有効となり,
PE
層の柱長が該当柱より短いので座屈を拘束する効果が大きいことが,
(6a)
非 sway モード座屈について文献 6)で示されている.sway 座屈の場
合も同様の拘束効果が生じると考えられるが,本論では安全側の誤差
としてこれを考慮しない.
-134--
)
1 + κκ ′
PS
= qA
PE
κκ ′ + 1.64 κκ ′ + 0.84
図 3 のモデルは適切と考えられる.しかし,吹き抜け柱の場合は上下
式(4a)は次の直線式により精度良く近似することが出来る.
q=q −
解,破線は近似式(6a)を表す.両者の対応は良好である.
(
2
π XR 
π XR  κ +κ ′ 
 2  + 2 1 − tan π X 
( R )



A
図 6 P vs. q 関係(κ’/κ = 9)
∞
50
λP
mP
GB = 1/κ’
7
mIg/2
A
5
20
V0
4
R
R
基準柱
mI’g/2 B
mI’g/2
Ig1/2
A
V1
mI
3
10
Ig1/2
mIg/2
I’g1/2 B
H
µI
I’g1/2
2.4
L/2
5
L1/2
L/2
L1/2
図 8 吹き抜け柱を含まない不均等骨組
2.0
P
3
p1
1.7
2
PS0
Pcr
1.4
1
PS1/λ
1.3
1.2
1.1
p
− µ q1A
GA = 1/κ
0
0
1
2
3
5
10
50 ∞
20
図 7 水平移動が拘束されない場合の座屈長さ係数
2.2
本の柱1が混在する骨組について考える.m = m0 / m1 とし,基準柱
と柱1の式(5a)による sway モード座屈荷重を PS0,PS1,作用軸力,
断面2次モーメントをそれぞれ P0 = P, P1 = λP および I0 = I, I1 =
µ I,各々の柱に接続する上下梁の断面2次モーメントをそれぞれ Ig,
I’g および Ig1,I’g1 とおけば系は図 8 のように理想化できる.
PS1= λ PS0 の場合はこれらの系が同時に座屈するとき,2つの部
分架構の間に拘束力 V は発生しないが,PS1< λ PS0 の場合は基準
柱に対して右方向の V0 が,
柱1に対しては左方向の V1 が作用する.
座屈条件式は式(4a)を参考に
(7a)
12 EI
=−
P vs. p 関係
図9
ないので P0 = PS0, P1 = PS1 となる. PS1< λ PS0 の場合は図 9
λP
p
P
+ 0A = 1 ,
PS 0 mq
0
PS1
−
p1
µ q1A
=1
(8a,b)
と近似すると,座屈荷重 Pcr は次のように表せる
(
Pcr = mq0A + µ q1A
) ( mq0A / PS 0 + λµ q1A / PS1 )
(9a)
PS0,PS1 の評価に式(6b)を用いれば,PE1 = µ PE より次式を得る.

Pcr 
6κ1κ1′ + κ1 + κ1′
6κκ ′ + κ + κ ′
= m
+µ

PE  6κκ ′ + 4 (κ + κ ′ ) + 2
6κ1κ1′ + 4 (κ1 + κ1′ ) + 2 


κ1κ1′ + 1.64 κ1κ1′ + 0.84 
 κκ ′ + 1.64 κκ ′ + 0.84
+λ
2
2
m

1 + κκ ′
1 + κ1κ1′


(
)
(
)
・・・ (9b)
H2

m  6γ {12κκ ′ + (κ + κ ′ )(α − β )}
2

kH
= 
−
(
)
12  ( 6κ + α )( 6κ ′ + α ) − β 2


V 12 EI
p1 = − 1
R H2
pcr
図 9 中の2曲線は極めて直線に近いので,これらを
同一層に条件の等しい m0 本の基準柱と,それと条件の異なる m1
p0 = p1
mq0A
に示すように p0 曲線と p1 曲線の交点として座屈荷重 Pcr が求まる.
吹き抜け柱を含まない不均等骨組
V
p0 = 0
R
p0
exact
present
この場合は式(7)あるいは式(9)より得られた座屈荷重が柱1の非
(7b)
sway モード座屈荷重 PR1 を超える可能性は少ない.
文献 4)では図 8 の骨組の座屈荷重を次のように与えている.
m
Pcr = PE ∑

µ  6γ 1 {12κ1κ1′ + (κ1 + κ1′ )(α1 − β1 )}
2


k
H
−
(
)
1
12  ( 6κ1 + α1 )( 6κ1′ + α1 ) − β12




1  6γ 1 {12κ1κ1′ + (κ1 + κ1′ )(α1 − β1 )}
2

λ
= − µ
−
kH
(
)
12 

( 6κ1 + α1 )( 6κ1′ + α1 ) − β12

・・・ (7c)
Ig / L
I g′ / L
P
ここに, k 2 =
, κ =
, κ′=
I/H
I /H
EI
I g1 / L1
I g′ 1 / L1
λP
k12 =
, κ1 =
, κ1′ =
µ EI
µI / H
µI / H
であり,α, β, γ およびα1, β1, γ1 はそれぞれ kH および k1H に対応す
る座屈たわみ角法係数である.
PS1= λ PS0 の場合,座屈時に2つの部分架構間の拘束力は発生し
µj
2
j =1 γ j
m
∑λj
(10a)
j =1
ここに γi は式(5a)より得られた sway モードの座屈長さと基準材長の
比であり,PE は基準部材の Euler 荷重である.本論の記号を用いれ
ば µi / γi2 = PSi / PE に相当するので式(10a)は以下のように書ける.
m
m
j =1
j =1
∑ λ j Pcr = ∑ PSj
(10b)
これは座屈時に各柱に作用する軸力の総和が式(5a)より得られた
sway モード座屈荷重の総和に等しいことを意味する.
図 10 は式(9b)による近似解と式(7)による精密解および式(10b)によ
る文献 4)の手法との比較を表1の例題について示す.縦軸は座屈荷重
と基準柱の Euler 荷重との比を,
横軸は基準柱と柱1の本数比を表し,
図中の1点鎖線は式(9b)による本解析結果,細実線は精密解,細破線
は文献 4)の手法による結果を示す.
-135--
m1 µ

6κ j κ ′j + κ j + κ ′j
Pcr 
6κκ ′ + κ + κ ′
j

= m
+∑ 2
PE  6κκ ′ + 4 (κ + κ ′ ) + 2 j =1 n 6κ jκ ′j + 4 κ j + κ ′j + 2 


これらの例題では柱1と基準柱の条件の差がそれほど大きくない
(
ので座屈荷重が柱1の非 sway モード座屈荷重 PR1 を超えることはな
い.文献 4)の手法による解は精密解と良好な対応を示す.これに対し


m1
2
κ jκ ′j + 1.64 κ jκ ′j + 0.84 
 κ + 1.64κ + 0.84
+ ∑λj
2
2
m

1
+
κ
(
)
j =1
1 + κ jκ ′j


て本解析結果は上下梁の剛比が異なる Case 1.4 でわずかに危険側の
(
誤差を生じるが実用的には問題はない.文献 4)の手法では何らかの方
法で超越方程式(5a)の解を求める必要があったが,式(9b)は剛比条件
しかし,各吹き抜け柱に作用する軸力λi P は非 sway モード座屈荷
重 PRi を超えることはできないので,上式で得られた座屈荷重が
3 吹き抜け柱を含む骨組
3.1 基準柱の条件が各層で等しい場合
PRi/λi の最小値を上回るなら,座屈荷重は次式となる.
Pcr = min.( PRi / λi )
条件の異なる m1 本の n 層吹き抜け柱と各層で条件の等しい m 本
前章と同様の考察より,座屈条件式は
どを応用すればより実用的な評価が期待できる.
m1
p0 = ∑ p j
(11a)
表1 解析例題 吹き抜け柱を含まない不均等骨組
j =1
V
pi = i
R
(12b)
本論では PRi として式(5b)の解を想定しているが,文献 7)の手法な
の基準柱からなる図 11 の部分架構について考える.
V0
R
)
・・・・・ (12a)
のみで座屈荷重が明示的に求まるので,より実用性が高い.
p0 =
)
12 EI
3
H
12 EI
=
m  12κγ
2
− ( kH ) 

12  6κ + γ

κ
κ'
κ1
κ'1
λ
µ
Case 1.0
1
1
1
1
1
1
Case 1.1
1
1
1
1
3
1
Case 1.2
1
1
1
1
1
1/3
Case 1.3
1
1
1/3
1/3
1
1
Case 1.4
3
1/3
3
1/3
3
1
(11b)
H2

1  µ 6γ i {12κ iκ i′ + (κ i + κ i′ )(α i − β i )}
2

= −  2i
−
kH
λ
(
)
i
2
12  n
′

+
+
−
6
κ
α
6
κ
α
β
(
)(
)
i
i
i
i
i

・・・ (11c)
Ig / L
P
ここに, k 2 =
, κ =
I/H
EI
′ / Li
I gi / Li
I gi
λP
, κ i′ =
ki2 = i , κ i =
µi EI
µi I / ( nH )
µi I / ( nH )
Pcr/PE
present
exact
ref. 4
でありα, β, γ およびαi, βi, γi はそれぞれ kH および nkiH に対応する
Case 1.1
Case 1.2
座屈たわみ角法係数である.
Case 1.0
m1 = 2 の場合,式(11)の根は図 12 において p1 + p2 曲線と p0 曲
線の交点の縦座標として表すことができる.図 12(a)は n = 2,m =
1.5,µ1 = µ2 = λ1 = 1,λ2 = 0.5,κ = κ1 = κ2 = 1 の場合であり,
Case 1.3
Case 1.4
この場合は各々の吹き抜け柱に作用する軸力λiPcr は非 sway モー
ド座屈荷重 PRi を越えることはない.同図(b)は n = 3 としそれ以外
は同一条件の場合である.この場合は最も条件の悪い吹き抜け柱1
のみが非 sway モードで座屈し,それ以外の柱は座屈を生じない.
吹き抜け柱を含まない不均等骨組に対する式(9b)と同様の考察を,
図 10 吹き抜け柱を含まない不均等骨組の座屈荷重
図 11 の骨組に適用すれば,座屈荷重は次式で近似できる.
λ1P
mP
V1
V0
mIg/2
H
mIg/2
mIg1/2
µ1 I
mIg/2
mIg/2
L/2
Ig2/2
µ2I
mIg/2
mIg/2
R
mI
mIg/2
L/2
R
I’g1/2
I’g1/2
I’g2/2
I’g2/2
L1/2
L1/2
L2/2
L2/2
図 11 複数の吹き抜け柱を含む不均等骨組
-136--
Ig2/2
V2
mI
mIg1/2
R
R
Ig1/2
mIg/2
R
mIg/2
mIg/2
Ig1/2
λ2P
nH
PR2/λ2
P
λP
mP
V
mIg/2
Rn
p2
(a) n = 2
PS0
mIn
p1 + p2
Pcr
mIg/2
PS2/λ2
mIg/2
p0
PS1/λ1
R1
mI’g/2
p
µqA/n2
mIg/2
mIg/2
mIg/2
Rj mIj
p1
m q0
Hj
µI
mIg/2
R
mI1
mI’g/2
I’g1/2
I’g1/2
L1/2
L1/2
L/2
図 13 吹き抜け柱を含む骨組(基準柱の条件が各層で異なる場合)
P
PS0
P/PE
(b)
n=3
PS1/PE
p2
PR2/λ2
p0
PS2/PE
p1
Pcr=PR1/λ1
p1 + p2
PS2/λ2
PS1/λ1
p
µqA/n2
m q0A
qA
図 12 P vs. p 関係
3.2
図 14 剛性の大きい基礎梁を持つ基準柱の水平剛性
基準柱の条件が各層で異なる場合
前節では基準柱に接続する梁が各層で等しい場合を取り扱ったの
で式(11b)のように剛性を簡便に表現することができた.しかし,建築
物の最下層などを想定すると最下層柱の柱脚に接続する梁の剛性は
他の層に比べて相当大きくなることが予想される.
部材角を R,断面2次モーメントをµI,上下梁の剛比をκ# , κ$’,階
( )
高を nH, k
= λ P / ( µ EI ) ,nk#H に対応する座屈たわみ角法
係数をα#, β#, γ#とおけば,吹き抜け柱の水平剛性は
V#
p =
R
#
p=
V 12 EI
= nH
R H2
{
(
)(
(
)(
)
)}

2
#
− λ ( kH ) 


・・・ (13a)
ここに I,H は標準部材の断面2次モーメントと材長である.
(
n = 3, I1 = I2 = I3 = I, H1 = H2 = H3 = H
κ1 = κ 2 = κ 3= κ'2 = κ'3 = 1/3, κ'1 = 3
による基準柱の水平剛性と軸力の関係(式(14))を1点鎖線で,参考
柱の sway モード座屈荷重であり,qA は次式で求められる.
)
(
)(
)(
)
(
)} −
(k j H j )

2


・・・ (13b)
n
∑ R j H j = nRH
n
j =1
j
j =1
(
)
6κ jκ ′j + 4 κ j + κ ′j + 2
6κ jκ ′j + κ j + κ ′j
(16)
基準柱各層の sway モード座屈荷重が最小となる層を第 k 層とし,
q
P
+ A =1
PSk q
(P < PSk)
(17)
式で表すことが出来る.
H2
{
1
吹き抜け柱については式(6a)を用いれば,図 13 の骨組の座屈荷重は次
12 EI
2
1 I j  H   6γ j 12κ jκ ′j + κ j + κ ′j α j − β j
=


12 I  H j  
6κ j + α j 6κ ′j + α j − β 2j

n
∑ qA = n ∑
qA = n
その値を PSk と表すことにする.
図 14 の関係を以下のように近似し,
対応する座屈たわみ角法係数をαj, βj, γj とおけば,各層の剛性は
j =1
(15)
図 14 は下記の条件
トを Ij,上下梁の剛比をκj, κ’j,階高を Hj, k 2j = P / EI j ,kjHj に
幾何学的条件
(14)
j =1
mp = p#
一方,基準柱 j 層の作用軸力を P,部材角を Rj,断面2次モーメン
V
Rj
Hj
∑ pj
PS1 は第1層柱の sway モード座屈荷重,PS2 は第2層および第3層
#
# $
#
$
#
#

1  µ 6γ 12κ κ + κ + κ α − β
=−  2
12 n
6κ # + α # 6κ $ + α # − β # 2


pj =
n
のため各層の条件が等しい場合( '1 = 1/3)を破線で示す.図中の
12 EI
H2
ての水平剛性は次式で表され,
座屈条件式は次式となる.
m0 本の基準柱と,m1 本の n 層吹き抜け柱で構成される骨組を図
13 のように理想化する(m = m0/m1)
.吹き抜け柱の作用軸力をλP,
# 2
nH
mIg/2
L/2
A
Ig1/2
Ig1/2
mIg/2
mIg/2
PR1/λ1
V#
を考慮すると基準柱全体とし


Pcr  A µ
6κ #κ $ + κ # + κ $

= mq + 2
PE 
n 6κ #κ $ + 4 κ # + κ $ + 2 




 mq A κ k κ k′ + 1.64 κ k κ k′ + 0.84
κ #κ $ + 1.64 κ #κ $ + 0.84 
 A

+λ
2
2
 qk

# $
1 + κ kκ k′
1+ κ κ


(
(
)
)
(
)
・・・ (18)
-137--
表2 解析例題-2層吹き抜け柱を含む骨組
Case 2.1
Case 2.2
Case 2.3
Case 2.4
Case 2.5
表3 解析例題-3層吹き抜け柱を含む骨組
κ1= κ2= κ'2
κ'1
κ#
κ$
λ
µ
3
1
1/3
1/9
1/3
3
1
1/3
1/9
3
3
1
1/3
1/9
1/3
3
1
1/3
1/9
3
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
Pcr/PE
κ1 = κ2 =κ3
κ'2=κ'3
κ'1
κ#
κ$
λ
µ
3
1
1/3
1/9
1/3
3
1
1/3
1/9
3
3
1
1/3
1/9
1/3
3
1
1/3
1/9
3
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
Case 3.1
Case 3.2
Case 3.3
Case 3.4
Case 3.5
Pcr/PE
present
exact
Ref.4
present
exact
Ref.4
Case 3.1
Case 2.1
Case 3.2
Case 2.2
Case 2.5
Case 3.5
Case 3.1
Case 2.3
Case 2.4
図 15 2層吹き抜け柱を含む骨組の座屈荷重
Λ=
縦軸は座屈荷重と標準部材の Euler 荷重の比,横軸は基準柱と吹き抜
け柱の本数比,細実線は式(15)または式(12b)に基づく精密解,1点鎖
Λ# =
線は式(18) または式(12b)による本解析結果,破線は文献 4)の手法に
基づく式(10b)の結果を示す.
2層吹き抜け柱を含む骨組では,梁剛比がある程度小さければ系は
一体として座屈し,その座屈荷重は式(18)により精度良く予測し得る.
上下梁の剛比の差はそれほど大きな影響を与えない.しかし,梁剛比
の大きい例題 Case 2.1,2.2 では吹き抜け柱のみが座屈し,系の座屈
荷重は吹き抜け柱の非 sway モード座屈荷重で決まる.
3層吹き抜け柱を含む骨組では,梁剛比が非常に小さい場合以外は
吹き抜け柱の非 sway モード座屈が先行し,一般の柱は座屈しない.
系の座屈荷重は吹き抜け柱の非 sway モード座屈荷重で決まる.
式(18)と式(10b)の解はいずれも精密解と良好な対応を示すが,後者
はキーとなる sway モード座屈荷重 PSj を超越方程式(5a)の解として
求めねばならないのに対し,式(18)は座屈荷重が剛比条件のみにより
明示的に求まる点が優れている.
4 吹き抜け柱を含む骨組における座屈長さ
骨組を構成する柱 i の座屈長さ係数Λi(座屈長さと標準材長の比)
は次式で与えられる.
(19)
ここに,λiPcr は骨組が座屈するときにその柱が分担する軸力,PEi
は標準材長に対するその柱の Euler 荷重である.
Case 2.3~2.5 や Case 3.4 のように骨組が一体として座屈し,吹き
抜け柱の非 sway モード座屈が先行しない場合は,式(10b)が成立する
ので,基準柱および吹き抜け柱の座屈長さ係数は次式で表される.
m +1
( m + λ # ) PE / ∑j =1 PSj
(20a)
m +1
µ
#
λ
m
+
P
/
∑ PSj
E
λ#
j =1
(
)
(20b)
吹き抜け柱の軸力分担率λ#を小さくすると基準柱の座屈長さ係数
Λ は小さくなるが,吹き抜け柱のΛ# は大きくなって両者の効果は相
殺するので,各柱の座屈長さは設計軸力分担率 λ に依存する.
しかし,Case 3.1~3.3 や m ≥ 2 での Case 2.1,Case 2.2 のように
吹き抜け柱の非 sway モード座屈が先行する場合は,吹き抜け柱の軸
力分担率λ#を制御することにより,吹き抜け柱の座屈長さ係数 Λ# は
そのままで,基準柱の座屈長さ係数をΛ を小さくすることができる.
図 17 は m = 1.5 における Case 3.2 について作用荷重と各柱の水
平剛性の関係を示す.座屈条件は右下がりの1点鎖線で示された p0
曲線と折れ線で示された p1 曲線の交点として表される.
与条件 λ = 1
のもとではどの柱の負担軸力も吹き抜け柱の非 sway モード座屈荷重
PR1 に等しいが(交点 A),λ = 0.5 とすれば吹き抜け柱の負担軸力は
PR1 のままで基準柱の負担軸力は2倍となる(交点 B).
最適な負担軸力の組み合わせは p1 曲線がその折れ曲がり点で p0 曲
線と交わる場合である(交点 C)
.p1 曲線の折れ曲がり点における剛
性 pB は吹き抜け柱の非 sway モード座屈荷重 PR1 に対応する座屈た
わみ角法係数をα#, β#, γ#と表せば式 11(c)より
{
(
)(
)} − π 2 PR1 

PE 
) ( )


#
# $
#
$
#
#
1  µ # 6γ 12κ κ + κ + κ α − β
p =−  2
2
12  n
6κ # + α # 6κ $ + α # − β #

B
(
)(
・・・ (21)
対応する基準柱の負担軸力は次式の根として得られる.
・ 基準柱の条件が各層で等しい場合
m  12κγ
2
− ( kH )  = p B

12  6κ + γ

-138--
Case 3.2
図 16 3層吹き抜け柱を含む骨組の座屈荷重
図 13 の骨組の表2,3の条件に対する解析結果を図 15, 16 に示す.
Λi = PEi / ( λi Pcr )
Case 3.3
Case 3.4
(22a)
Λ
基準柱
吹き抜け柱
Λ
基準柱
提案式
精密解
吹き抜け柱
提案式
精密解
Case 3.4
P
Case 2.4
PS0
p1 ( λ = optimum)
C
Popt
Case 2.3
B
Case 2.5
p1 ( λ = 0.5)
p0
Case 3.1
Case 3.2
p1 ( λ = 1)
qA/n2
3層吹き抜け柱を含む骨組
p
pB
mqA
図 17 P vs. p 関係(Case 3.2)
図 18 吹き抜け柱を含む骨組の座屈長さ係数
束がない場合に比べて吹き抜け柱では座屈時の分担荷重が増大し,一
・ 基準柱の条件が各層で異なる場合
n
Hj
m nH ∑
= pB
p
j =1 j
1 Ij  H 
pj =


12 I  H j 
{
(22b)
2
)(
)
)}

2
− k jH j 


(
)
一方,各柱の水平剛性を式(6a)で評価するなら pB は次式で表され
6κ #κ $ + κ # + κ $
(
n2 6κ #κ $ + 4 κ # + κ $
)
4) 吹き抜け柱を含む骨組では,吹き抜け柱の非 sway モード座屈が先行
する場合が多い.この場合,吹き抜け柱の座屈長さは個材の非 sway
モード座屈長さとなる.しかし,座屈長さを設計軸力に対する余力の
指標とみなすなら,一般の基準柱の座屈長さはそれより小さい値を選
5) 本論では,吹き抜け柱などを含む不均等骨組の座屈荷重および各柱の
・・・ (23)
座屈長さを明示的に評価する近似式を提示した.近似式は精密解と良
(
)
)
q0A − p B / m (1 + κ )
Pcr
=
PE
κ 2 + 1.64κ + 0.84
6) また,柱とそれに接続する梁からなる部分架構の sway モード座屈荷
2
(24a)
重の予測式を明示的な形で提示した.予測式は上下梁の剛度の比が 10
以下の場合に適用することができる
7) 本論では吹き抜け柱個材の非 sway モード座屈荷重の評価が必要であ
・ 基準柱の条件が各層で異なる場合
)(
択することが可能である.
好な対応を示した.
・ 基準柱の条件が各層で等しい場合
(
さは設計軸力分担率に依存する.
P κ #κ $ + 1.64 κ #κ $ + 0.84
+ R1
2
+ 2 PE
1 + κ #κ $
対応する基準柱の軸力は式(12a),(18)の記号を用いて,
(
3) 不均等の度合いが小さく,吹き抜け柱の非 sway モード座屈が先行し
部分架構の単独座屈荷重の総和に一致する.この場合,各柱の座屈長
(
)(
(
般の基準柱では分担荷重が減少する.
ない場合は,骨組が一体として座屈する場合の各柱の軸力の総和は各
 6γ 12κ κ ′ + κ + κ ′ α − β
j
j j
j
j
j
j
×

6κ j + α j 6κ ′j + α j − β 2j

µ#
(b)
(a) 2層吹き抜け柱を含む骨組
PS1
p =−
Case 2.2
Case 2.1
A
PR1
B
Case 3.3
)
るが,現時点での明示的な表現は文献 8)の定式化によらねばならない.
2
A
B
Pcr qkA q − p / m 1 + κ k κ k′
=
PE q A κ k κ k′ + 1.64 κ k κ k′ + 0.84
(24b)
より簡便な定式化,文献 5)で指摘された吹き抜け柱上下層の拘束効果の
評価,および非弾性座屈への適用性の評価 等が今後の課題である.
表2,3の例題に対する各柱の座屈長さ係数 Λ と柱本数比 m の関係
を図 18 に示す.Case 2.3~2.5 や Case 3.4 のように設計軸力比(ここ 参考文献
では λ = 1)に対して骨組が一体として座屈し,吹き抜け柱の非 sway
1) T.V.ガランボス:鋼構造部材と骨組-強度と設計,丸善,1970.10.
モード座屈が先行しない場合は式(10b)が成立し,各柱の座屈長さ係数 2) Structural Stability Research Council : Guide to Stability Design Criteria for Metal
は設計軸力比に依存する.
しかし,
Case 3.1~3.3 や m ≥ 2 での Case 2.1, Structures, 3rd Edition, Edited by B. G. Johnston, John Wiley & Sons, 1976.
Case 2.2 のように吹き抜け柱の非 sway モード座屈が先行する場合は, 3) 日本建築学会:鋼構造塑性設計指針,1975.05.
吹き抜け柱については非 sway モード座屈長さを,基準柱についてはそ
4) 日本建築学会:鋼構造座屈設計指針(初版)
,1980.09.
れより小さな座屈長さを設定することができる.
5) 三谷勲・片平崇・有馬冬樹:著しく不均等な剛節骨組の載荷能力に関す
る一考察,構造工学論文集,Vol.43B,pp.383-388, 1997.03.
5 結
論
1) 文献 3) などのチャートによる座屈長さ設定は,各柱とそれに接続す
6) 三谷勲・片平崇・大谷恭弘・林原光司郎:長柱が混在する純ラーメンの
座屈荷重,日本建築学会構造系論文集,No. 557,pp.161-166,2002.06.
る梁からなる部分架構群が互いに拘束することなく,各々が独立して 7) 津田恵吾:節点移動のある均等な骨組の柱材の実用座屈長さ評価式,日
座屈する場合に対応するので,各柱の軸力分担率が各々の部分架構の
座屈荷重の比に等しい場合に正しい結果を与える.
2) 吹き抜け柱などを含む不均等骨組では,設計軸力分担率は各部分架構
の座屈荷重比とは一致し得ないので各部分架構間に拘束が発生し,拘
本建築学会構造系論文集,No. 545, pp.151-155, 2001.07.
8) 津田恵吾:節点移動のない均等な骨組の柱材の実用座屈長さ評価式,日
本建築学会構造系論文集,No. 553, pp.129-134, 2002.03.
(2002 年 8 月 22 日原稿受理,2003 年 2 月 17 日採用決定)
-139--