腰部多裂筋の選択的強化をコンセプトとした新たな腰痛exerciseの提案

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 30 日
(金)17 : 10∼18 : 55 第 3 会場
(3F 301)【セレクション 基礎!身体運動学】
0571
腰部多裂筋の選択的強化をコンセプトとした新たな腰痛 exercise の提案
腰背筋活動様態の筋電図学的解析
村尾
昌信,佐藤
嘉展,畑本
清一,中嶋
正明
吉備国際大学保健科学部理学療法学科
key words 多裂筋・腰痛体操・表面筋電図
【はじめに,目的】
本邦における腰痛の生涯罹患率は 70% を越え,社会問題となっている。腰痛患者において腰部多裂筋(以下 LM)は,椎間関節
由来の Reflex Inhibition(以下 RI)によって選択的かつ顕著な萎縮が生じると報告されている。腰痛の軽減および再発の予防に
は LM の選択的な強化が必須である。LM の強化を目的とした腰痛 exercise は散見されるが,LM の選択的収縮が認められたと
いう報告はない。腰痛 exercise として推奨されている腹部ドローイン,バードドッグにおいても同様の傾向が見られる。Global
筋の活動は,腰椎にトルクを生み,二次的な RI を惹起する可能性がある。それに対し,LM に代表される Local 筋は,脊柱にお
ける分節的な安定性に貢献する。我々は LM の選択的強化をコンセプトに新たな exercise(以下 N"
ex)を考案した。本研究の
目的は,N"
ex における LM の活動度および腰背筋の活動局在を筋電図学的解析によって明らかにし,より効果的な腰痛 exercise として提案することである。
【方法】
対象は整形外科的疾患の既往のない健常人 21 名(男性 13 名,女性 8 名:平均年齢 20.9±0.9 歳,平均 BMI20.4±1.9)とした。
表面筋電計は Nicolet Viking IV(Nicolet 社)を用い,筋電図導出筋は,Local 筋である LM と,Global 筋である胸腸肋筋(以下
ICLT)とし,いずれも左側の筋に統一した。全ての筋電図計測は 5 秒間行い,不安定な前後部分を切り捨てた 3 秒間の筋電図
積分値を得た。全被験者に対して各筋の最大活動時筋電図積分値(MVIC)を得た後,腹部ドローイン,バードドッグ,N"
ex
の 3 種類の exercise 実施時における筋電図積分値(IEMG)を得た。腹部ドローインは腹臥位にて,下腹部に平常時圧 70mmHg
に調節したマンシェットを敷き,腹部の引き上げによって 60"
64mmHg の位置で保持させた(C. A. Richardson ら 1995)
。バー
ドドッグは四つ這い位より,右上肢および左下肢を拳上
(肩関節屈曲 180̊,股関節中間位),保持させた。N"
ex は治療台に向か
い膝立ち位をとらせ,頭頚部,上部体幹前面および両上肢を治療台に接地し,脱力させた。その後,両股関節 90̊ 屈曲位となる
ように治療台の高さを調節し,左側下肢を拳上(股関節中間位)
,保持させた。LM の活動度を抽出するため,IEMG!
MVIC
比率(%MVIC)を求め,3 群間で比較した。腰背筋の活動局在を抽出するため,ICLT(Global 筋)の活動に対する LM(Local
筋)の活動比(L!
G ratio)を求め,3 群間で比較した。統計処理には,いずれも一元配置分散分析を用いた。さらに,有意差が
認められた場合には Post hoc 検定として Bonferroni!
Dunn 法による多重比較を行った。有意水準は p<0.05 とした。統計解析ソ
フトには Stat View Version 5.0 software を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うに当たり,吉備国際大学倫理審査委員会の承認を受けた
(12"
13)
。対象者に対して本研究における主旨の説明を十
分に行い,賛同を得た上で実施した。
【結果】
LM の%MVIC は腹部ドローイン群が 3.0±3.9%,バードドッグ群が 25.7±11.4%,N"
ex 群が 30.3±12.7% であった。N"
ex 群
の%MVIC は腹部ドローイン群に対して有意に高比率
(p<0.001)
を示したが, バードドッグ群との有意差は認められなかった。
L!
G ratio は腹部ドローイン群が 1.0±0.6,バードドッグ群が 2.5±1.6,N"ex 群が 7.2±4.0 であった。N"
ex 群の L.!
G ratio は腹
部ドローイン,バードドッグ両群に対して有意に高比率(p<0.001)を示した。
【考察】
N"
ex の活動度は,腹部ドローインに対して有意に高く,LM の強化を目的とした腰痛 exercise であるバードドッグと同等の値
を示した。これは N"
ex における腰椎以下の体幹および下肢の肢位が,バードドッグと同様の肢位をとることに由来すると推察
する。さらに N"
ex の L!
G ratio は,腹部ドローイン,バードドッグと比較して有意に高い値を示した。N"
ex を考案する過程で
最も重要視した点は,脊柱に発生するトルクを可能な限り除去し,Global 筋の活動を抑制することであった。N"
ex における L!
G ratio の高値は,Global 筋の活動を抑制した結果であると推察する。Global 筋の活動抑制は,exercise に起因する二次的な RI
を予防し得る。以上より,N"
ex は,推奨されているバードドッグと同等な LM の活動度を示しつつ,LM の選択的な活動も得
られる,より効果的な脊柱安定化 exercise であると考える。N"
ex の腰痛 exercise としての効果を検証するため,今後,腰痛患
者を対象にした介入研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では健常者を対象に,独自に考案した N"
ex における LM の十分な活動度および選択的活動性を明らかにした。このこと
から N"
ex が,LM の選択的萎縮を呈した腰痛患者に対して高い適合性を有する可能性が示唆された。本研究は,真に有効な腰
痛 exercise を構築する上で,基礎となる exercise を提案した。