民事訴訟法

民事訴訟法特論講義
関西大学法学部教授
栗田 隆
第11回 (目次)
1.抗告
抗告の意義


判決手続の中で生ずる様々な派生的問題につい
て、事件の係属している裁判所または裁判官は
決定あるいは命令により裁判をなす。それらの
中には、終局判決に至る前に、不服申立ての機
会を与えて、速やかに解決しておく方が好まし
いものがある。
そこで、決定および命令に対する独立の上訴
(上級裁判所への不服申立て)として、抗告の
制度が設けられている。
T. Kurita
2
抗告の例
X
文書提出命
令の申立て
損害賠償請
求の訴え
文書提出命令
受訴裁判所
T. Kurita
Y
文書提出命令
に対する抗告
上級裁判所
3
異

議
受訴裁判所が略式手続によりした裁判あるいはその構成
員等がした裁判・処分に対して当事者が不服を述べる場
合に、受訴裁判所が正規の手続あるいは合議体で裁判す
るのが適当な場合がある。その場合について認められる
不服申立てが一般に異議と呼ばれる。これには、次の2
つがある。
1. 判決に対する異議の申立て(357条・378条)
2. その他の裁判あるいは処分に対する異議の申立て又
は異議の陳述
これについては、抗告との関係が
問題となる。
T. Kurita
4
異議と抗告との関係(1)

以下の事項については、不服申立てを許さない
と言うのは適当ではないが、しかし、抗告を許
していては審理が渋滞するので、異議の陳述の
みが許される。
1. 口頭弁論の指揮に関する裁判長の命令等
(150条・176条4項)。
2. 証人尋問の順序の変更(202条・206条)。
T. Kurita
5
異議と抗告との関係(2)


受命裁判官・受託裁判官の裁判で、受訴裁判所
がしたとすれば抗告することができるもの
(329条)については、受訴裁判所への異議が
許されている。
この異議についての裁判に不服のある当事者は、
さらに抗告を提起することができる。
T. Kurita
6
異議と抗告との関係(3)


裁判所書記官の全ての処分に対しても、その監
督者たる受訴裁判所に異議を申し立てることが
許されている。
さらに、重要な事項については、異議の裁判に
対して抗告をなしうることが個別的に規定され
ている(例えば、71条7項)。
T. Kurita
7
職権の発動を求める申立て


訴訟指揮に関する決定・命令は、いつでも取り
消すことができる(120条)。
したがって、不服申立ての許されない決定・命
令あっても、取消しの職権の発動を求めること
は許される。但し、裁判所はそれに応答する義
務はない。
T. Kurita
8
即時抗告と通常抗告

一定期間内に提起しなければならないか否かによる区別。
1. 即時抗告
迅速に確定させる必要があると認めら
れる裁判について許され、裁判が告知されてから1週
間の不変期間内に提起しなければならない(332条)。
原則として、執行停止の効力を有する(334条1項)。
即時抗告により不服を申し立てるべき場合は、個別
的に明規されている。
2. 通常抗告
決定・命令に対する一般的な不服申立
て方法であり、不服申立て期間の制限はない。通常
抗告が許される裁判に対しては、その告知後、その
取消しを求める利益がある限り、いつでも提起する
ことができる。
T. Kurita
9
最初の抗告と再抗告

審級の視点からの区別
1. 最初の抗告
名前の通りの抗告であり、控
訴に関する規定が準用される(331条本文)。
2. 再抗告
抗告審の決定に対する抗告である。
再抗告は、上告に相当するものであり、憲法
違反または明白な法令違反があることを理由
とするときに限り許され(330条)、上告に
関する規定が準用される(特別上告・許可上
告に関する規定は準用されない)(331条但
書)。
T. Kurita
10
最高裁判所への抗告


最高裁判所への抗告は、裁判所法7条の解釈と
して、特別抗告と許可抗告のみが許され、再抗
告は許されない。
再抗告は、地方裁判所が抗告審としてした決定
に対して高等裁判所に更に抗告する場合に限ら
れる。
T. Kurita
11
抗告の語の多義性



狭義では最初の抗告を指すが(331条)、
広義では再抗告を含む意味で使われ(330条)、
最広義では特別抗告、許可抗告も含む。
T. Kurita
12
一般抗告・特別抗告・許可抗告



一般抗告
特別抗告・許可抗告との対比にお
いて、通常抗告・即時抗告を一般抗告と呼ぶ。
許可抗告
高等裁判所の決定および命令に対
する不服申立てであり、原裁判所(高等裁判所)
の許可により最高裁判所への抗告としての効力
が生ずる。
特別抗告
一般抗告が許されない場合に、憲
法違反を理由として最高裁判所にする抗告。
T. Kurita
13
最高裁判所平成10年7月13日決定

下級裁判所のした裁判に対して最高裁判所に抗
告をすることを許すか否かは、審級制度の問題
であって、憲81条の規定するところを除いては、
すべて立法の適宜に定めるところにゆだねてい
ると解すべきである。従って、最高裁判所への
抗告を一定範囲のものに限定する許可抗告制度
は、憲31条・32条に違反しない。
T. Kurita
14
決定・命令の確定



決定・命令のうちで、120条の訴訟指揮の裁判に該当す
るものは、いつでも取り消すことができ、不可撤回性が
ないので、形式的確定力を問題にする意味はない。
通常抗告に服する裁判は、取消申立てに期間制限がない
ので、その確定を問題にする必要はない。
即時抗告に服する裁判は、即時抗告期間が徒過すると、
取消手段がなくなり、確定する(但し、確定した裁判で
も事情変更を理由に取り消すことができることを認める
規定は多い。特に、民事執行法の領域)。
T. Kurita
15
決定・命令の確定の時期


即時抗告及び抗告許可申立てが通常の不服申立
てとなり、これらにより確定が遮断され、これ
らの不服申立方法が尽きた時点で確定する
(122条・116条)。
特別抗告は、確定遮断効を有しない。
T. Kurita
16
抗告審の当事者
抗告を提起する者を抗告人と呼ぶ。
 原裁判の当否を抗告人と争う者を相手方という。
 多くの場合に相手方が存在するが、しかし、存
在しない場合もある。例えば:
1. 訴状却下命令に対する即時抗告(137条3項)
2. 不出頭の証人に対する過料の決定に対する即
時抗告(192条)

T. Kurita
17
抗告審の当事者と訴訟の当事者


抗告人とその相手方をあわせて、抗告審の当事
者と呼ぶ。
抗告審の当事者と訴訟の当事者とは、同一とは
限らない。例えば、原告の申立てにより第三者
に対する文書提出命令が発せられた場合に、被
告は即時抗告を申し立てる利益を有せず(最高
裁判所平成12年12月14日決定)、第三者が抗告
人となり、挙証者たる原告がその相手方となる。
T. Kurita
18
抗告人
抗告人となりうるのは、原裁判により不利益を受ける者、
又は抗告によりその取消しないし変更を求める利益を有
する者である。
 申立てを却下する裁判については、その申立てをした者
である。
 申立てを認容する裁判や職権でなされる裁判については、
その裁判により不利益を受ける者が抗告をすることがで
きる。例:
1. 管轄違いを理由に職権でなされた移送決定に対して、
受訴裁判所での裁判を望む当事者
2. 第三者に対する文書提出命令に対して、当該第三者。

T. Kurita
19
相手方




相手方になるのは、原裁判の取消しにより不利益を受け
る者である。
申立てを却下ないし棄却する裁判については、その申立
て自体に相手方がいる場合には、その者が抗告審の相手
方になる。第三者に対する文書提出命令の申立てを却下
する裁判については、抗告審においても、当該第三者が
相手方となる。
申立てを認容する裁判に対する抗告については、申立人
が相手方となる。
職権によりなされた裁判の場合には、その裁判の取消し
により不利益を受ける者が相手方がとなる。
T. Kurita
20
抗告人と相手方の地位



口頭弁論が開かれる場合には弁論をなし、
証人尋問をする場合には尋問権を与えられ、
参考人等の審尋が行われる場合には立会権を有
する。
T. Kurita
21
利害関係人(1)


抗告裁判所は、口頭弁論をしない場合には、抗
告人その他の利害関係人を審尋することができ
る(335条) 。
この規定は87条の内容を抗告審に敷衍したもの
であると解されている。
T. Kurita
22
利害関係人(2)

抗告人と相手方以外の者も利害関係人として審
尋されうる。例
1. 文書提出命令の対象文書が提出されると文書
の所持者以外の者の利益が害されると主張さ
れている場合に、抗告裁判所は、その者を
335条の利害関係人として扱い、挙証者の主
張に反論し、自ら証拠を提出する機会を与え、
参考人を審尋する場合には、立会権を認める
べきである。
T. Kurita
23
相手方の特定


誰を相手方にすべきかは、時に微妙な判断を伴
うことがあり、その判断の誤りの責任を申立人
に押しつけるのは適当ではない。
抗告人が相手方を誤って記載している場合には、
抗告審が正当な相手方を指示し、抗告人に補正
を命ずるべきである。
T. Kurita
24
補助参加人



訴訟当事者が抗告人になることができる場合に
は、その補助参加人も抗告を提起することがで
きる。
補助参加人は、自ら抗告を提起したか否かにか
かわらず、抗告審において訴訟行為をなすこと
ができる(45条1項)。
但し、宣誓をした当事者が当事者尋問において
虚偽の陳述をした場合の過料の決定(209条1
項)のように、属人性の強い事項についての裁
判に対する抗告は、例外となる。
T. Kurita
25
受訴裁判所・抗告裁判所・再抗告裁判所



受訴裁判所
訴訟事件が係属している裁判所
である(第一審であるか上訴審であるかを問わ
ない。329条3項参照)。
抗告裁判所
受訴裁判所の決定に対する最初
の抗告を管轄する裁判所(抗告裁判所)は、そ
の直近上級裁判所である(裁判所法16条2号・
24条4号)。
再抗告裁判所
抗告裁判所の決定に対する再
抗告を管轄する裁判所(再抗告裁判所)は、そ
の直近上級裁判所である。
T. Kurita
26
一般抗告の対象となる裁判
(受訴裁判所の決定又は受訴裁判所の裁判長の命令)
口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下ない
し棄却した決定または命令(328条)。但し、次のもの
は除かれる。
1. 当事者に申立権がないもの。
2. 本案と密接に関係する裁判
これは、終局判決に
対する上訴の中で非難すれば足りるので、別段の規
定がない限り、口頭弁論を経たか否かにかかわりな
しに、抗告の対象とならない。
 口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを認める裁
判または職権でなされる裁判のうちで、抗告することが
できることが定められているもの
 判決で裁判すべき事項についてなされた決定または命令
(違式の裁判)

T. Kurita
27
即時抗告の対象となる裁判


抗告の許される裁判にうち、一定のものは、手
続の円滑な進行のために早期に確定する必要が
あるので、不服申立てを一定期間内になすこと
が要求される(即時抗告)。
即時抗告の対象となる裁判は、個別に規定され
ている。
T. Kurita
28
一般抗告に服さない裁判




本案の裁判と密接に関連するために、本案判決に対する
上訴により不服を申し立てるべき裁判(328条の用語法
に従えば、口頭弁論を経てなされた裁判)。
抗告以外の不服申立てが認められている裁判。例えば、
受命裁判官または受託裁判官の命令については受訴裁判
所への異議が用意されており(329条)、命令自体は抗
告の対象にならず、異議についての決定が抗告の対象に
なる。
高等裁判所の決定またはその裁判官の命令(裁判所法7
条)
個々の規定により不服申立てが禁止されている裁判
T. Kurita
29
抗告の提起と抗告審の手続


最初にする抗告については、その性質に反しな
い限り、控訴に関する規定が準用される(331
条)。
再抗告については、第2審又は第1審の終局判決
に関する上告および上告審の訴訟手続に関する
規定が準用される(特別上告と上告受理申立て
に関する規定は準用されない)(331条)。332
条から335条に特則がある。
T. Kurita
30
抗告期間
即時抗告は、原裁判の告知を受けた日から1週間の不変
期間内にしなければならない。
1. 即時抗告に服する裁判については、即時抗告が認め
られた趣旨からして、当該裁判が確定するまで口頭
弁論を終結するのは適当ではない。
2. しかし、弁論の終結等により抗告の利益が消滅すれ
ば、即時抗告期間中であっても、即時抗告は許され
なくなる。
 通常抗告については、期間制限がなく、抗告により原裁
判の変更を求める利益が存在する限り、抗告することが
できる。

T. Kurita
31
最高裁判所平成13年4月26日決定


受訴裁判所が,文書提出命令の申立てを却下す
る決定をした上で,即時抗告前に口頭弁論を終
結した場合には,もはや申立てに係る文書につ
き当該審級において証拠調べをする余地がない
から,上記却下決定に対し口頭弁論終結後にさ
れた即時抗告は不適法である。
この場合において,文書提出命令申立て却下決
定は終局判決前の裁判として控訴裁判所の判断
を受けるのであり(民訴法283条本文),当事
者は控訴審においてその当否を争うことができ
る。
T. Kurita
32
抗告の利益
抗告を申し立てるには、抗告により救済される
べき自己の利益の存在が必要である。抗告の利
益が存在しない場合には、抗告は許されない。
 抗告の利益が認められるためには、次の2つの
ことが必要である。
1. 原裁判の取消しにより自己の法的地位が改善
されること、
2. その手段として抗告が適切であること

T. Kurita
33
抗告状
抗告状は、原裁判所に提出する(331条・286条1項)。
 必要的記載事項(331条・286条2項)
1. 当事者および法定代理人、
2. 原裁判の表示及びその裁判に対して抗告をする旨
 不服申立ての範囲ならびに抗告の具体的理由
1. できるだけ抗告状に記載することが望ましい(規則
205条・175条)。
2. 抗告状に記載されていない場合には、抗告提起後14
日以内にこれらを記載した書面を原裁判所に提出す
る(規207条)。

T. Kurita
34
原裁判機関による更正


決定や命令に対して抗告が提起された場合には、
その裁判をした裁判所または裁判長は、抗告に
理由があると認めるときは、その裁判を更正す
ることができ、またしなければならない(333
条)。
決定や命令については、簡易迅速な手続で判断
材料が収集されるのが通常であり、対象事項と
の関係で判決ほどの重みを持たせる必要はなく、
更正すれば抗告審の手続が節約できることを考
慮して認められた制度である。
T. Kurita
35
原裁判所による却下


原裁判所は、抗告が不適法でその不備を補正す
ることができないことが明らかなときは、その
抗告を却下しなければならない(331条・287条
1項)。
この決定に対しては、即時抗告することができ
る(331条・287条2項。もちろん、高等裁判所
の却下決定に対しては特別抗告または許可抗告
以外は許されない)。
T. Kurita
36
原裁判の執行停止



決定や命令は、告知により内容的効力も生ずるのが原則
である(119条はこの趣旨である。例外あり)。
重要な裁判については、抗告期間を制限すると共に、そ
の期間内に抗告があれば、内容的効力を停止させるのが
合理的である。そこで、即時抗告のみが執行停止の効力
を有するものとされた(334条1項)。
通常抗告については、抗告について決定があるまで原裁
判の内容的効力を停止するか否かは、抗告裁判所や原裁
判をした裁判所または裁判官の裁量に委ねられている
(334条2項)。
T. Kurita
37
事件の送付
原裁判所は、自ら更正する場合、あるいは331
条・287条により却下する場合を除き、意見を
付して事件を抗告裁判所に送付する(規則206
条)。
1. 意見書
2. 抗告状
3. 事件記録
 事件は、これらの書類が抗告審に送付されたと
きに、抗告審に係属する

T. Kurita
38
抗告審における審理



抗告については、決定で裁判がなされるので、
口頭弁論を開くか否かは、裁判所が決定する
(87条1項ただし書き)。
口頭弁論を開かない場合には、抗告人その他の
利害関係人を審尋する(335条)。
相手方のある事件については、抗告事件の当事
者と裁判所とが情報を共有しながら審理を進め
ることが望まし(当事者公開)。
T. Kurita
39
抗告審の裁判



抗告が不適法である場合には却下する(331
条・290条)。
抗告は適法であるが、理由がない場合には(原
裁判を変更する必要がない場合)には、棄却す
る(331条・302条)。
原決定が不当な場合には、不服申立ての範囲で、
原裁判の取消しおよび変更をする(331条・304
条)。
T. Kurita
40
特別抗告(336条)


憲法81条は、最高裁判所を憲法問題の終審裁判
所として位置づけている。
そこで、通常の不服申立て方法では最高裁判所
の憲法判断を得ることができない決定事件につ
いて、最高裁判所による憲法判断を得る道を開
くために、特別抗告の制度が設けられている。
T. Kurita
41
特別抗告の要件(336条1項)
最高裁判所への通常の不服申立ての道がないこと
1. 地方裁判所・簡易裁判所の決定及び命令で不服を申
し立てることができないもの。
2. 高等裁判所の決定・命令
特別抗告の理由を許可
抗告の理由とすることは許されていないので(337条
3項)、許可抗告ができることは、特別抗告の妨げと
ならない。なお、終局判決に対する上訴により当否
を争うべき決定は、これに該当しない(例:弁論終結
決定)。
 特別抗告理由の存在
不服申立ての対象となる裁判に
憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があるこ
と。

T. Kurita
42
特別抗告の手続(1)




特別抗告の提起期間(336条2項)
特別抗告状の記載事項・提出先(336条3項・
327条2項・314条1項・313条・286条2項)。
原裁判所の裁判長による審査(314条2項)
原裁判所による適法性審査(336条3項・327条2
項・316条1項1号)
T. Kurita
43
特別抗告の手続(2)



特別抗告提起通知書、特別抗告状の相手方への
送達(336条3項・313条・289条、規208条・204
条・189条 )。
特別抗告の理由(336条3項・327条2項・315条2
項、規208条・190条1項・193条)
原裁判所から最高裁判所への事件送付(規208
条・204条・197条)
T. Kurita
44
最高裁判所による裁判
最高裁判所は、特別抗告が不適法である場合には、決定
で却下する(336条3項・327条2項・317条)。
 但し、主張された理由が明らかに特別抗告理由に該当し
ないにとどまる場合には、理由が主張されていることを
尊重して、却下ではなく棄却の決定をする(336条3項・
327条2項・317条2項)。
 特別抗告理由を審査して、
1. 理由がなければ、特別抗告を決定で棄却し、
2. 理由があれば、原裁判を破棄し、更に差戻等の裁判
または自判をする(336条3項・327条2項・325条・
326条)。

T. Kurita
45
執行停止


特別抗告は、原裁判の執行を当然に停止する効
力はない。
しかし、最高裁判所または原裁判をした裁判
所・裁判官は原裁判の執行停止その他の必要な
処分を命ずることができる(336条3項・334条2
項。336条3項では、執行停止については、原裁
判の特質を考慮して、厳格な要件を課す398条1
項1号ではなく334条2項を準用したことに注
意)。
T. Kurita
46
許可抗告(337条)


決定で処理されるべき事件の中にも、特別抗告
により救済される憲法問題以外の重要な法律問
題が含まれている場合が少なくない。
そこで、そうした問題について最高裁判所によ
る法令解釈の統一を可能にするために、許可抗
告の制度が設けられた
T. Kurita
47
許可抗告の要件
高等裁判所の決定及び命令であること。
その裁判が地方裁判所の裁判であるとした場合に抗告す
ることができるものであること(337条1項但書)。許可
抗告は、法令の解釈のためにあるが、裁判の内容を考慮
して法律が不服申立てを認めていない裁判についてまで
許可抗告を認める必要はないからである。
 但し、次のものは除かれる。
1. 再抗告(330条)についての裁判
すでに2回の上
訴を経ているからである。
2. 抗告許可の申立てについての裁判(337条2項)
これについてまで不服申立てを認めると、抗告を原
裁判所の許可に係らしめた意義が半減する。


T. Kurita
48
許可抗告の手続(1)



抗告許可申立書の提出(337条6項・336条3項・
327条2項・314条1項・313条・286条2項)
抗告許可申立ての理由(法337条6項・315条、
規210条2項・209条・192条、)
特別抗告と許可抗告とを一通の書面に記載する
こと(兼用抗告)は許されない(規209条にお
いて準用規定として188条が挙げられていない
のは、この趣旨である)
T. Kurita
49
許可抗告の手続(2)
原裁判所の裁判長による申立書の審査(337条6
項・313条・288条)。
 原裁判所による適法性の審査
 原裁判所による抗告の許可
1. 許可があった時に許可申立てに係る抗告が
あったものとみなされる(337条4項)。
2. 許可に際して、高等裁判所は、重要でない理
由を排除することができる。

T. Kurita
50
許可抗告の手続(3)


原裁判所は、相手方がある事件については、抗
告許可申立書・抗告許可決定書を相手方に送達
する(337条6項・313条・289条、規209条・189
条 )。
原裁判所から最高裁判所への事件送付(規208
条・204条・197条)。
T. Kurita
51
最高裁判所による裁判


最高裁判所は、原裁判所が排除しなかった理由
についてのみ調査の義務を負うが、それ以外の
理由でも職権で調査することはできる。
調査の結果、裁判に影響を及ぼすべき明らかな
理由がある場合には、原決定を破棄し、必要に
応じ自ら裁判するか、事件を原審に差し戻す。
T. Kurita
52
執行停止

特別抗告の場合と同様に、許可抗告にも原裁判
の執行を当然に停止する効力はないが、最高裁
判所または原裁判をした裁判所・裁判官は原裁
判の執行停止その他の必要な処分を命ずること
ができる(337条6項・336条3項・334条2項)。
T. Kurita
53