作成者 瀬戸, 那須田, 林, 松澤, 森下 ・解説の中で出てくる「利回り」という用語 →「複利最終利回り(年率)」を表す ・「矢印図」という呼称は、一般に通用するもので はない模様 ・各設問で出てくる「フォワードレート」や、「金利先 渡(FRA), 金利スワップ, etc.」などのデリバティブ 取引のプライシングでは、「無裁定条件」の成立が 前提になっている 初期投資コストがゼロであり、リスクなしで利益をあげら れる取引戦略を裁定取引という。 現実世界でのデリバティブを中心とする金融商品の価 格評価は、裁定取引の機会が存在しないことを前提 無裁定条件 初期投資コストがゼロの投資戦略から、リスクなしに 利益を上げることはできない。 2つの投資戦略があったとき、いかなる市場環境の下 でも2つの戦略の運用結果が同じならば、初期投資コ ストは等しくなければならない。 初期投資コストが等しく、リスクのない2つの投資戦略 があった場合、運用結果は同じでなければならない。 図表1 割引債価格と利回り 現在価値 (額面1円当たり) 利回り (年1回複利) 1年割引債 0.9708円 3.00% 2年割引債 0.9335円 3.50% スポットレートとは 割引債の最終利回り のことである。 フォワードレートとは 将来時点から 一定期間の利回り のことである。 上記と図表1より、問1を図で表すと下図のようになる。 解 2年スポットレート 3.50% 現時点 1年スポットレート 1年 1年後スタート期間1年の 2年 フォワードレート 1f2 3.00% (1+3.50%)2=(1+3.00%)×(1+1f2) 1+3.50% 𝟐 ⇔1f2= −1 (1+3.00%) ≒4.00% 金利先渡取引(Forward rate Agreement, FRA)は、 先渡取引(Forward)の一種。 (先渡取引契約は、将来の特定の期日(先渡満期)に、 契約当初に定められた量の原資産を、 契約当初に定められた価格で取引する契約。) FRAは、想定元本をベースに、先渡満期に、 固定金利(先渡金利)と変動金利を交換する取引。 取引形態は相対[店頭]取引(OTC)で、2者間で行われる。 先渡金利はどう決まるのか? →次スライド 1円を2年間運用する、 2通りの方法を考えてみる。 ①1円を2年間、2年スポットレートr2で運用。 ②1円を1年間、1年スポットレートr1で運用し、 1年後にもう1年間、その時の1年スポットレートxで運用。 それと同時に、想定元本1+r1円、1年間の先渡金利F を受け取り、1年スポットレートxを支払う 先渡満期1年のFRAをゼロコストで締結。 (1+r2)2円 ①2年運用戦略 現時点 2年後 1円 ②FRAヘッジ付き1年ロール運用戦略 (1+r1)(1+x)円 1+r1円 現時点 1年後 1円 1+r1円 現時点(ゼロコスト) 2年後 (1+r1)F 2年後 (1+r1)x 運用結果 ①では2年後に無リスクで(1+r2)2円もらえる ②では2年後に無リスクで(1+r1)(1+x)+ {(1+r1)F-(1+r1)x}=(1+r1)(1+F)円もらえる 2つの戦略の初期投資コストはともに1円だったので 無裁定条件より、運用結果は等しくなければならない。 →(1+r2)2=(1+r1)(1+F) (1+r𝟐)𝟐 ⇔F= -1 1+r𝟏 つまり、先渡金利はフォワードレートであることが分かる 図表2 FRAのキャッシュフロー(模式図) 受 け 1年後の1年金利 :L円 払 い 固定金利:F円 現時点 1年後 2年後 解 まず、①2年後にL円を受け取るキャッシュフロー および②2年後にF円を払うキャッシュフロー を別々に考えることにする。 ①額面1円の2年割引債の空売り+額面1円の1年割引債を購入し、 1年後に金利Lで運用 1 1+r2 2 1円 円 現時点 1+L円 1年後 2年後 1円 1円 1 円 1+r1 ②額面F円の2年割引債を空売り 𝐹 1+r2 2 円 現時点 2年後 F円 ①と②のキャッシュフローの合成 1+F 円 1+r2 2 L円 現時点 1 円 1+r1 2年後 F円 以上より、額面1+F円の2年割引債の空売りと、 額面1円の1年割引債を購入し、1年後に金利Lで1円を運用すればよい。 (ちなみに、1年後スタート期間1年のFRAの先渡金利Fを求めると、 補論より F=4.00%となり1年後スタート期間1年のフォワードレートと一致する) 図表1より、2年割引債の利回りは3.50%である。 問1より、1年後にスタートの期間1年のフォワード レートは4.00%である。つまり、1年後の期間1年の スポットレートは、4.00%とおける。 これらを図に表すと下図のようになる。 解 現時点 2年スポットレート 3.50% 保有期間リターン X% 2年 1年 1年後スタート 期間1年のフォワードレート =1年後のその時点での 期間1年のスポットレート=4.00% このとき、上図から、 保有期間リターンは1年スポットレートに一致することが分かる。 式で書くと、(1+X%)(1+4.00%)=(1+3.50%)2 X=3.00% よって、保有期間リターンは3.00% 別解 2年スポットレート 3.50% 0.9335円 0.9615円 現時点 1年 保有期間リターン X% 1円 2年 1年後スタート 期間1年のフォワードレート =1年後のその時点での 期間1年のスポットレート=4.00% 図表1より、2年割引債の現在価値は0.9335円、 2年後は1円である。1年後の価格は1円÷(1+ 4.00%)=0.9615円となる。 後ー前 0.9615ー0.9335 = =3.00% 0.9335 前 先渡価格とは将来のある1時点の価格である。 期間1年の先渡価格、言い換えると、 現時点から1年後の価格と同じ意味である。 解 0,9335円 現時点 先渡価格?円 1円 1年割引債利回り 1年後 1年後スタート 2年後 期間1年のフォワードレート=4.00% 3.00% 上図の先渡価格を求めるには、 1円を1年後スタート期間1年のフォワードレート で割り引くか or 0.9335円に1年スポットレート をかけるかで求められる。 解 0,9335円 現時点 先渡価格?円 1円 1年割引債利回り 1年後 1年後スタート 2年後 期間1年のフォワードレート=4.00% 3.00% よって、先渡価格を求めると 1÷(1+4.00%)=0.9615円 or 0.9335×(1+3.00%)=0.9615円 金利スワップとは、同一通貨の想定元本をベースに、 将来の固定金利(スワップレート)と変動金利を、 一定期間にわたって交換する取引。 取引時点では当事者双方に損得は発生せず、スワップ の価値は双方から見て等しい。つまり、 将来支払われる固定金利の現在価値 =将来支払われる変動金利の現在価値 金利スワップ(固定金利受け、変動金利払い)の矢印図 想定元本×固定金利(スワップレート) 5年後 スワップ満期 現時点 想定元本×変動金利(LIBORなど) 金利スワップのプライシングでは、上の矢印図のキャッシュフローの 現在価値が0になるように、固定金利(スワップレート)を求める 変動金利のLIBORとは? ・London Inter-Bank Offered Rateの略 ・現時点で利率が決まり、1年後に利息額の決済がなされる1年物 LIBOR0L1は、1年スポットレートr1に等しい ・n年後に利率が決まり、n+1年後に利息額の決済がなされるLIBOR L は、 n年後スタートの期間1年フォワードレートnfn+1 に等しい n n+1 (例) 3年後に利率が決まり、4年後に利息額の決済がなされるLIBOR 3L4は、 3年後スタートの期間1年フォワードレート に等しい 額面100円、満期5年の変動利付債(クーポンレートに 年1回払いの1年物LIBORを適用)の価格は? 100円 100円×0L1 100円×1L2 100円×2L3 100円×3L4 現時点 変動利付債価格?円 100円×4L5 5年後 変動利付債価格= 1000L1 1001L2 1002L3 1003L4 1004L5+100 + + + + 1+r1 1+r2 2 1+r3 3 1+r4 4 1+r5 5 =100{0L1DF1+1L2DF2+2L3DF3+3L4DF4+(4L5+1)DF5} DFn−1 (n-1LnDFn =( ー1)× DFn =DFn − 1ーDFn ) DFn =100{(1-DF1)+(DF1-DF2)+(DF2-DF3)+(DF3-DF4)+ (DF4-DF5+DF5)} =100 クーポンが年1回払いの1年物LIBORである変動利付債の価格(現在価値)は、 将来の金利水準にかかわらず額面に等しい 額面100円、満期5年の固定利付債の価格が 額面100円と等しくなるようなクーポンレートpは? 100円 100円×p 100円×p 現時点 固定利付債価格100円 100円×p 100円×p 100円×p 5年後 100p 100p 100p 100p 100p+100 + 𝟐+ 𝟑+ 𝟒+ (1+r𝟏) 1+r𝟐 1+r𝟑 1+r𝟒 1+r𝟓 𝟓 =100{pDF1+pDF2+pDF3+pDF4+(p+1)DF5}=100 1-DF𝟓 ⇔ p= DF𝟏+DF𝟐+DF𝟑+DF𝟒+DF𝟓 つまり、このような固定利付債のクーポンレートは、 1-DF𝐧 パーレート となる。 DF𝟏+DF𝟐+...+DF𝐧 ここで以下の2つを行う取引戦略を考えてみる。 ①満期5年、クーポンレートがパーレートpの 固定利付債を、額面F円購入 ②満期5年、クーポンレートが1年物LIBORの 変動利付債を、額面F円空売り ①パーレートの固定利付債の購入 =固定金利受け F×p円 F×p円 F×p円 F×p円 現時点 額面F円 F×p円 5年後 固定利付債価格F円 ②変動利付債の空売り =変動金利払い 変動利付債価格F円 5年後 現時点 F×0L1円 F×1L2円 F×2L3円 F×3L4円 F×4L5円 額面F円 矢印図の合成 F円×パーレートp 5年後 現時点 F円×LIBOR パー債券と変動利付債の売買により、 金利スワップと同じキャッシュフローが実現された まとめ ①金利スワップの「固定金利受け/変動金利払い」は 「固定利付債の購入/変動利付債の空売り」と同じ ①’金利スワップの「固定金利払い/変動金利受け」は 「固定利付債の空売り/変動利付債の購入」と同じ ②スワップレートFは固定利付債のパーレートと同じ ③クーポンが年1回払いの1年物LIBORである変動 利付債の価格(現在価値)は、 将来の金利水準にかかわらず額面に等しい 図表3 金利スワップのキャッシュフロー(模式図) 現在の1年金利 1年後の1年金利:L円 固定金利:S円 現時点 1年後 2年後 解 この金利スワップ取引は、「変動金利受け、固定 金利払い」すなわち「変動利付債の 購入 、固定 利付債の 空売り 」と考えられる。 スワップレートSは固定利付債の パーレート 1−DF𝟐 と等しいので、 S= =3.49% DF𝟏+DF𝟐 1 1 (DF1= 、 DF2= ) (1+3.00%) 1+3.50% 𝟐 図表4 A社社債のキャッシュフローとリスク中立確率 1-p 105円 p デフォルト 現時点 0円 1年後 解 デフォルトしたとき、この債券の回収率はゼロなので、 p×0×105となる。 デフォルトしなかったときは、(1-p)×105となる。 市場がリスク中立であるとき、 期待収益率=無リスク利子率つまり1年割引債の利回り と考えて、 𝐏×0×105+ 1-𝐏 ×105 =100 (1+3.00%) p=1.90%
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