帝京平成大学「地球環境」特別講義 クルマ社会の次にあるもの - 鉄道イノベーションが人類を救う - (株)ライトレール 代表取締役社長 阿 部 等 http://www.LRT.co.jp 平成20年7月23日 1.縮むクルマ経済 (日本経済新聞連載 6/19~21) 1 (1) その1 – 主要先進国で初めて日本の自動車保有台数が減り 始めた、日本の様々な産業にモデルの転換を迫る – 大手ゼネコンの日本建設業団体連合会『公共交通 を軸としたコンパクトなまちづくりの推進』 – 東京タワー近くの30階建てマンション「クルマを 持つ入居者が少ないから駐車場を減らした」 – 08年3月末の自動車保有台数は前年比0.2%減の 7908万台、新車・中古車販売は今後さらに減少 – 日本ではクルマ社会が膨張を続けるとの前提で事 業を展開するのは難しい、新たな商機 – 高齢化とともに運転を敬遠する人が増え、各業種 ともロードサイド型店舗の売上げ・出店が減少 2 (2) その2 – クルマを一生保有すると4000万円、首都圏20歳代 がおカネをかけたい「乗用車」16位 – 新興国は今後も米国型のモデルをめざす、いち早 くクルマ経済が成熟し縮小に向かい始めた日本 – 長距離を走るクルマは減り、必要なときだけ借り る・数人で使い分け・公共交通機関と共存 – トヨタ自動車と日野自動車がJR北海道のDMV の開発に参加、「街乗り」乗用車の開発も進む – クルマの使い方を見直すことは世界的に共通した 課題 – クルマ経済の縮小という逆風は世界に先駆けて新 たな事業モデルを築く好機 3 2.自動車へ過度に 依存した交通体系の問題点 4 (1) 空間利用の非効率性 • 道路建設では渋滞は解消せず – 道路の建設<<自動車の増大 • 複々線鉄道と4車線道路 – 同じ用地幅:例えば信濃町-千駄ヶ谷 – 片方向1時間当り15万人対2500人 – さらに、自動車だと都心に莫大な駐車場 • 人口1000万人のロサンゼルス都市圏 – 都市の3分の1が道路、3分の1が駐車場 – 人々の活動領域は残り3分の1のみ 5 (2) エネルギー利用の非効率性 • 輸送単位が小さい – 1人当り車両重量 1.0:0.3[t/人] • 走行抵抗が大きい – ゴムタイヤ・アスファルトは、車輪・レー ルの数倍の転がり抵抗 • 動力源が異なる – 自動車は燃料と内燃機関を搭載 – 鉄道はエネルギー効率の優れたモーター • 鉄道と乗用車のエネルギー消費原単位 – 旅客1:6、貨物1:7 6 (3) 環境負荷の大きさ • 自動車は小型内燃機関を搭載 – 有害物質除去が高コスト • 鉄道は発電所で有害物質を排出 – スケールメリットで高除去レベル • 自動車は鉄道と比べて、 – エネルギー消費が多いことと相まって環境 負荷が極めて大 • 鉄道と乗用車のCO2排出原単位 – 旅客1:9、貨物1:7 7 (4) 交通事故の頻発 • 自動車はドライバーの注意力頼り – エラーのバックアップシステムなし • 車間距離保持、車線変更、信号・速度制限順守・・ – 鉄道レベルの安全度:膨大なコスト • 日本国内のみで過去50年間に – 死者50万人以上、負傷者4,000万人近く • 福知山線の脱線事故 – 死者106人 = 自動車事故の1週間分? – 負傷者500人 = 自動車事故の4時間分? 8 (5) 車を運転できない人の移動制約 • 超高齢で自動車を運転できないと、 – とたんに不便な生活 – 家族に送迎してもらうのに神経 – 無理して運転して交通事故 – やむを得ず「引きこもり」生活 • 未成年の中高校生も、 – 通学範囲が限定され学校選択が狭く – 塾等の送迎が親の大きな負担 9 (6) 中心市街地の衰退 • モータリゼーションの進展に伴い、 – 公共施設・商店・住宅等が郊外化 – 中心市街地は公共交通が不便に • 駐車場も確保できず空洞化、「シャッター通り」 • 「コンパクトシティ」の指向 – 行き過ぎた郊外化への反省 – 中心市街地の活性化への期待 – 人口減少社会での公共投資の効率化 10 3.交通問題解決の方向性 11 (1) 自動車交通の限界 • 問題は既に充分に顕在化 – 道路渋滞、エネルギー、環境、交通事故 – 高密度な交通ニーズには最適でない • 問題解決に向けて – さらなる道路建設や自動車性能向上では解 決し得ず、軌道交通の活躍が期待される – 脱却の処方箋を描けねば人類は環境問題と エネルギー問題で滅亡 – 米、日欧に続き中国、インド、アフリカへ モータリゼーションの波? 12 (2) (株)ライトレールの目指すこと • 子供の頃からの思い – クルマが世の中に多過ぎる – 鉄道が本来の能力を発揮できていない • 学生時代3年間に6万km運転した結論 – 自動車は21世紀の交通システムたり得ない • Mission Possible – 交通問題ヲ、解決セヨ – 交通問題を人々の利便性や幸福度を犠牲に せずに解決したい 13 不便な公共交通、道路渋滞、交通事故、環境負荷・・・ これらの交通問題を、人々の利便性や幸福度を 犠牲にせずに解決することを目指します。 “個別”交通システムを“所有”するのではなく、 “共用”交通システムを“利用”する社会にしたい。 そして、官と民が適正に役割分担することにより、 最小の公的補助で民が交通ビジネスを展開し、 便利な交通サービスを実現できる仕組みを提案します。 欧米に先を越されたLRT(次世代型路面電車)や 注目のDMV(線路・道路両用車両)から 身近なレンタサイクルまで、様々なツールを活用した ビジネスモデルを提案し、そして実践します。 民間活力を活かした交通ビジネスの展開へ。 株式会社ライトレール 代表取締役社長 阿部 等 〒171-0021 豊島区西池袋1-26-5 東山ビル5F 03-5985-1131 [email protected] http://www.LRT.co.jp 14 14 (3) 交通システムの「所有」から「利用」へ • 「個別」交通と「共用」交通の区分 – 交通ニーズが低密度なら「個別」交通 – 高密度なら「共用」交通が効率的 • 「個別」交通システムを「所有」 → 「共用」交通システムを「利用」 – 効率的な空間利用、効率的なエネルギー利 用、小さな環境負荷、高い安全性、誰もが 自由に移動、中心市街地の活性化 15 4.富山ライトレールから学ぶ 16 (1) 動画(3.5MB) • ユーザー名・パスワード:video – 国交省はLRTを支援 – 前身である富山港線の利用者数 – 富山港線と比べた富山ライトレールの評価 – 富山ライトレールの利用者数 17 (2) 富山ライトレールの成功 • 地方鉄道再生・LRT普及の先進成功例 – 公共交通を大切にしたまちづくりが大切 – 目標3,400人/日に対し前年秋2,266人/日 – 平均:1,917人/日 ⇒ 5,156人/日、2.7倍 – 初年度黒字決算 – 人口も増加傾向へ転換 • まちづくりとの関連 – 富山市中心市街地活性化基本計画: • 公共交通の活性化により車に頼らずに暮らせる中 心市街地の形成 18 富山(富山駅北)発 (3) 予想外の 大幅な利用増 となった要因 • 本数を3.4倍 ↓ 利用が2.7倍 • 前副市長「ユー ザー評価の90% 以上は本数が増 えたこと」 富山港線 47 52 08 23 36 01 00 11 09 04 04 04 08 51 26 32 13 20 32 19本 時 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 計 富山ライトレール 57 35 53 14 24 35 45 55 05 15 25 45 57 14 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 30 45 00 15 45 15 45 15 45 15 64本 19 (4) 全国の状況 • 脱クルマが求められていながら、 – 地方鉄道:次々と廃線が進む – LRT:採算性を確保できず現実化せず • 地方鉄道再生・LRT普及の現実 – 利便性が低い、高コスト構造 – 低質で高価なものが選択されないのは当然 • 本来のライトレールの意味 – LRT ≠ 超低床の路面電車、車を排除 – コストが低い、手軽に乗れる 等 20 (5) これからの交通ビジネスのあり方 • 今までの交通事業者の思考パターン – 利用者数は、沿線人口等で確定 – 経費節減のため運行本数は必要最低限 • 富山ライトレールで証明された – 利用者数は、サービスレベルによる • 今後の取組み – サービス向上を基軸とした鉄道経営 – 高コスト構造の打破も重要 • ビジネスとしての視点を! 21 (6) 「共用」交通が選択されるために • 速達性 – 交通システムの命 • 高頻度運行 – 自動車がなかった時代とは違う • ドアツードア性 – 軌道交通の最大の弱点 • 低コスト化 – スケールメリットがあるはず • いずれも技術革新と規制改革がポイント 22 (7) LRTとバスのコスト比較 コスト 初期投資大 車両高い 人件費高い 常にLRTが割高 (本来) (将来) (現状) LRT バス 初期投資小 車両安い 人件費安い 0 車両費と人件費 の引下げ 初期投資大 LRTとバスの選 車両がより安い 択の分かれ目 人件費がより安い LRTの普及には、現状の 高コスト構造の打破が不可欠 技術革新と規制改革により可能 N人/時間 輸送量 23 5.交通問題解決の 救世主となるDMV 24 (1) 動画(4.1MB) • ユーザー名・パスワード:video – 道路走行→線路走行の切換え – 線路走行 – 線路走行→道路走行の切換え 25 (2) DMVの特徴と使い方 • DMV(Dual Mode Vehicle)の特徴 – JR北海道が開発の線路・道路両用車 – 在来鉄道車両と比べて低価格かつ高性能 – JR北海道が2007年から試験的に営業運転 – 全国の鉄道関係者から大きな期待 • DMVの理想的な使い方 – 線路と道路の良いとこ取り – 線路外の学校・団地・病院等へ直通 – 線路上は運転士1名で連結運転 – 将来は運転士免許の簡易化=運営費低減 26 (3) DMV活用パターン(往路) 学校 集客施設は駅前とは限らず DMVは鉄道と道路を活用 病院 道路:戦後~平成に全国に整備 いくら整備しても渋滞解消せず ターミナル A駅 B駅 C駅 D駅 鉄道:明治~戦前に全国に整備 活用されずに捨て去られる危機 住宅団地 観光地 27 (4) DMV活用パターン(復路) 学校 病院 復路は往路と逆パターン 道路:小単位できめ細かく ドアツードアに近く輸送 ターミナル A駅 B駅 C駅 D駅 鉄道:密集市街地も専用路 1運転士で高速・大量輸送 住宅団地 観光地 28 6.満員電車がなくなる日 29 (1) 満員電車をなくすイノベーション • (1)運行のイノベーション – 供給を大幅に増やし満員電車をなくす方策 • (2)運賃のイノベーション – 商品値付けを適正にすれば資金調達できる • (3)制度のイノベーション – より短期で効果的に満員電車を解消できる • 本気で取組めば必ずや実現できる – 本書が満員電車をなくすきっかけに – 長くて50年、短ければ10年 30 (2) 本で伝えたかったこと • 鉄道が社会に貢献できる余地は大きい – 鉄道は創業から昭和40年代初は日本を牽引 – 以降40年間の発展が小さくポテンシャル大 – 満員電車解消は鉄道の社会貢献のシンボル • 満員電車の歴史は運賃抑制の歴史 – 「安いほど良い」では社会に貢献できない – LRTもコミバスも駐輪場も同様 • 交通問題解決の根幹 – 意欲的な人材が集結し能力を発揮すること 31
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