アイスホッケーグローブの最適化 -コンジョイント分析を用いて- 2009年1月25日 山本 幸宏 研究目的 • 本研究ではコンジョイント分析を用い、競技者 がグローブを購入する際に、どのような属性 を重視しているのか、また最適なグローブと はどのようなものかを、被験者を「性別」、「経 験年数(0~2年=低経験群、3~4年=中経験 群、5年~=高経験群)」に分類し、コンジョイ ント分析を用いグループごとの違いを明らか にしたうえで、それぞれに最適なグローブを 作り出すことである。 コンジョイント分析とは • ある商品の評価項目を属性、そのバリエーシ ョンを水準として、各水準を組み合わせた仮 想的商品を多数作成し、被験者に付けさせた 選好順位などの全体的な好ましさに対して、 統計的に各部分の効果の値を推定する調 査・分析方法である。 – シャンプーを例にとると、価格や匂い、ブランドなどが属性 にあたり、そして各属性ごとの具体的な数値や特徴が水 準となる。(例えば、価格においては200円、300円などが 価格の水準となり、匂いにおいてはレモンの香りや柚子 の香りなどが匂いの属性の水準となる。) アイスホッケー防具市場の背景 • NHLの1978年ヘルメット着用契約の義務化を皮切 りに防具に対する関心が高まり、次々と新たな技術 の導入やそれによる防具の進化が行なわれてきた 。 現在においては成熟化が進み、新たな技術の取り 入れた商品は少なく、既存の技術を組み合わせた 商品の多様化が進んでいる。つまり現在の市場は、 新たな機能による縦の多様化より、既存の機能の 組み合わせによる横の多様化がほとんどである。 仮説1 • 男性が機能性(「握りやすさ」や「重さ」)を重 視するのに対して、女性は見た目(「配色」)な どの属性を重視する。 – 本間(2003)は男女間には買物行動において異なる傾向 があるとしている。買物行動には男脳型的な買物行動と 女脳型的な買物行動があり、両者の主な特徴として男脳 型的な買い物行動はスペックを追求し、女脳型な買物行 動はスペックを追及する前に商品全体のイメージや心地 よさを大切にする傾向がある。そのため、アイスホッケー のグローブ購入の際にもこの男女間の異なる傾向が表 れると考えた。 仮説2 • 比較的高価な商品を好む順番として 中経験 群>高経験群>低経験群の順になる。 – 経験年数の違いにより、低経験群は初めて行うスポーツ の商品選び、かつ商品知識も皆無のため試験的な意味 合いをこめ価格が一番安いものを好む。そして、中経験 群は低経験群と比べ、自分に合う商品を選ぶ。しかし一 方で高経験群ほど商品に対しての知識や経験が少ない ため、価格を基準に商品を選ぶと考える。そして、高経験 群は過去の自らの購入経験から価格に頼らない商品選 びをするため、決して高価な商品ばかりを選ぶことはない。 以上のことから中経験群は他のグループより比較的高価 な商品を好むと考えた。 予備調査 • 目的 – 実験において行うコンジョイント分析に必要な属性と水準 の検討を行い、それらを決定することを目的とする。 • 被験者 – 被験者は、香川大学アイスホッケー部に所属している部 員8名(高経験群5名、中経験群3名)であった。 • 手続き – 面接調査を行い、8名の被験者に「アイスホッケー用のグ ローブを選ぶ際にどのような製品の特徴を重視しますか」 という質問し、その後はフリートーキング形式により意見 を交わしてもう。その会話の中に出てきた特徴、属性を書 きとめる。 決定した属性と水準 属性 水準1 水準2 水準3 価格 \5,000 \15,000 \25,000 配色 白色を基調 黒色を基調 青や赤・黄色を基調 握りやすさ 固い 柔らかい 通気性と防臭機能 あり なし 重さ 普通 軽量化 プロファイルカードの提示例 <<プロファイル番号1>> 価格=\5,000 配色=白色を基調 握りやすさ=固い 通気性と防臭機能=なし 重さ=普通 <<プロファイル番号3>> 価格=\15,000 配色=白色を基調 握りやすさ=柔らかい 通気性と防臭機能=なし 重さ=軽量化 <<プロファイル番号2>> 価格=\5,000 配色=黒色を基調 握りやすさ=柔らかい 通気性と防臭機能=あり 重さ=軽量化 <<プロファイル番号4>> 価格=\25,000 配色=赤や青、黄色を基調 握りやすさ=固い 通気性と防臭機能=あり 重さ=普通 実験 • 被験者 – 低経験群、中経験群は香川大学アイスホッ ケー部に、高経験群は香川アイスホッケー 連盟に所属している社会人チーム、そして 女性の被験者としてサーパス女子アイスホ ッケークラブに調査の協力をお願いした。 – 低経験群6名、中経験群9名、高経験群9名、女性 は高経験群のみ7名。また高経験群のグループ が2つになったため、男性の高経験群を高経験 群A、女性の高経験群をBとし、A,Bがついていな いものは両者を表すこととする。 • 手続き – 被験者に予備調査で作成したプロファイルカード(全14 個)を以下のような教示を与えたうえで並び替えてもらう。 「ここに14個のアイスホッケーグローブに見立てたものが あります。自分がグローブを購入する際、購入したいと考 える順番に1から14まで順番をふって下さい。一番に購入 したいと考えるカードを1、一番購入したくないと考えるも のを14として下さい。」 – 並び替えてもらったプロファイルカードをCAP(Apony (2002))にかけ、寄与率と重みを検出する。検出された 寄与率と重みを各グループごとに統計的に分析し、グル ープごとの特徴を調べる。(女性全員が高経験群であったため、比 較は男性の高経験群とである) 結果と分析 寄与率について • 男性のグループ間同士、及び性別間の比較 において有意差はでなかった。 – 男性同士の比較(SPSSにおける分散分析)=価格 F(2,21)=.913, n.s)、配色(F(2,21)=1.879, n.s)、 握りやすさ(F(2,21)=1.694, n.s)、通気性と防臭 機能(F(2,21)=1.401, n.s)、重さ(F(2,21)=.962, n.s) – 性別間での比較(SPSSにおけるt検定)=価格 (t(14)=.391, n.s )、配色(t(14)=.105, n.s)、握 りやすさ(t(14)=.587, n.s)、通気性と防臭機能 (t(14)=.799, n.s)、重さ(t(14)=1.632, n.s) 男性の経験群別寄与率の平均 男性と女性の高経験群における寄与率の平均 男性の経験群別各グループの 水準の重みの結果の分析 (SPSSにおける分散分析) • • • • • • 価格\5,000(F(2,21)=5.429,p=.013) 価格\15,000(F(2,21)=6.455,p=.007) 配色の白色を基調(F(2,21)=6.401,p=.007) 配色の黒色を基調(F(2,21)7.316,p=.004) 握りやすさの柔らかい(2,21)=4.774,p=.020) 他の項目については有意差はでなかった。 Tukey法による多重比較の結果から価格\5,000と \15,000において、ともに低・中経験群と高経験群と の間に5%水準、配色の白色を基調と黒色を基調に おいては、低経験群と高経験群との間に1%水準で 有意差、握りやすさの柔らかいでは、低経験群と中 経験群との間に5%水準で有意差がでた。 男性の各グループの属性ごとの水準 女性の各属性の水準の重みの結果と分析 (SPSSにおけるt検定) • 有意差がでたのは、通気性と防臭機能のなし (t(14)=2.876,p=.012)にのみはっきりとした 有意差がでた。 • 10%水準までで見てみると、配色の白色を基 調(t(14)=2.245,p=.054)において有意差が でた。 男性と女性の高経験群における各水準の重みの平均 考察 価格についての考察 • 低、中経験群が\25,000と\15,000を敬遠し、 ¥5,000の比較的安価なものを好んでいる。 • 高経験群には低、中経験群と同じように \5,000を中心に好んでいる人もいるが、 \5,000を敬遠し、\15,000と\25,000中心の商 品を好んでいる人のほうが多い。 高経験群の価格における各被験者の数値 寄与率 高経験群A 水準の各数値 \5,000 \15,000 \25,000 1 50.6% 0.66 0.59 0.28 2 97% 0.36 0.31 0.07 3 86.9% -0.25 0.12 0.16 4 23.4% -0.44 -0.29 0.01 5 5.5% 0.46 0.46 0.32 6 0.1% 0.15 0.20 0.27 7 22.6% -0.06 0.33 0.24 8 18.4% -0.16 -0.04 0.17 9 36.7% -0.43 -0.10 0.22 1 0.1% -0.27 0.29 0.27 2 30.1% -0.46 0.02 0.01 3 21.68% -0.29 0.15 0.02 4 59.54% 0.71 0.46 0.04 5 24% -0.35 0.10 0.01 6 75.72% 0.01 0.26 0.52 7 11.26% -0.16 0.50 0.20 高経験群B 仮説2の検討 • 比較的高価な商品を好む順番とし ては、高経験群A>高経験群B>中 経験群≒低経験群ということになり、 仮説2としていた「比較的高価な商 品を好む順番として 中経験群>高 経験群>低経験群の順になる。」は 間違いであった。 仮説2についてアンケートからの考察 • 低・中経験群について – 生活費以外にお金の余裕があると答えた人数は5人に対 して、余裕がないと答えた人数は9人と多い。 – グローブの買い替え時期についても全員が壊れてから購 入すると答えた。 – 中経験群は面接時の印象から私が考えていたより自分 が求めている商品の特徴を把握しており、その最低限の 属性を持つ比較的安価な商品選びをしていたことが高価 な価格に頼らない結果になった。 • 高経験群について – 「少しでも壊れ始めたら買い換える」「または自分の気に 入った商品を見つけたら購入する」という意見があり、学 生に比べ購入資金には余裕がみてとれる。 握りさすさについて • 低経験群以外のグループにおいて、重視する傾向 がある。 – 握りやすさはプレーをする上で直接関係のある属性であ り、ある程度経験を積んだ競技者なら最低限必要とする 属性である。 – 特に、中経験群においては握りやすい商品を好む傾向が 強い。 – 男性と女性との比較では、男性の方が握りやすい商品を 好む傾向が強い。 – 女性も重視していないわけではない。しかし男性と比べ、 握った感触が固くなければ良く、決して柔らかい商品を好 んでいるわけではないのが男性との違いである。 • 配色について – 経験年数があがるにつれて、配色への関心が高ま る傾向がある。 – 高経験群Bは他のグループと比較して、赤や青・黄 色の基調の重みがその他の色の配色より高い。 • 通気性と防臭機能について – 高経験群Bは他のグループに比べて、重視している。 – 低経験群にも重視している被験者が存在する。 • 重さについて – 男性のグループ間の比較において、違いはない。 – 女性は、軽量化された商品を好む傾向がある。 仮説1の検討 • 仮説1であげた「男性が機能性(「握りやすさ」 や「重さ」)を重視するのに対して女性は見た 目(「配色」)などの属性を重視する」は、まず 男性が機能面を重視しているといった点では 間違ってはいなかった。しかし、女性の特徴と してあげていた見た目(配色)を重視する点に ついては間違っていた。 仮説2についての考察 • 女性は見た目より汗の臭いの手入れが重要 あり、臭いがつきにくくなる手助けをする機能 のほうが重視されていた。 • 女性がまったく機能面に関心がないというわ けではなく男性のように何よりも第一に機能 を追求する、という傾向はないが、自分の定 めた範囲の中で最低限の機能は必要として いる。 各グループにおける最適なグローブ • 低経験群 – 価格5,000、通気性と防臭機能あり • 中経験群 – 価格5,000、握りやすさが柔らかい商品 • 高経験群A – 価格は\15,000以上のもの、配色は白か黒基調、握りや すさは柔らかい、通気性と防臭機能はあり、重さは軽量 化された商品。 • 高経験群B – 価格は\15,000以上のもの、配色は赤や青・黄色を基調、 握りやすさは柔らかい、通気性と防臭機能はあり、重さは 軽量化された商品 今後のマーケティン グへの示唆 現在の市場と結果を照らし合わせて • 現在市場に販売されているアイスホッケーグローブは、 \15,000以上の比較的高価な商品が大多数を占めており、こ れらの商品はしっかりとした機能を持っている。そのため、高 経験群のニーズには応えることができる。 • \10,000を下回る比較的安価な商品は少なく、機能面も絞ら れたものとなっている。その機能面も握りさすさにだけ重点を 置いた商品ばかりであり、通気性と防臭機能を持つ商品をな かった。そのため、低経験群にあてはまる商品は少なく、ア イスホッケー初心者のためのグローブ開発もまだまだ開発の 余地がある。 アイスホッケーは他のスポーツとは違い、大学生から始 める競技者が多いスポーツである。そのため学生をターゲッ トとし、学生にあった(例えば、価格はできるだけ安価なもの を中心にし、機能面を絞ったものを特化させる。)商品を開発 するべきであり、まだまだその余地は残されている。 まとめ • 日本におけるアイスホッケー防具の市場規模は小さ い。そのため、現在の商品開発の主流である、顧客 をより細かく分類し、それをターゲットにする方法は アイスホッケーの防具市場に適していないと考える。 それならば、最低限分類した各ターゲット層、それぞ れに特化した商品を開発し、そのターゲット範囲で より多くの人々に購入してもらうしかない。今回の実 験においては、その最低限に分類した競技者たち の特徴をすこしでも明らかにできたと考えている。 参考・引用文献 • • • • • • ・ ・ 朝野煕彦(2000). マーケティング・リサーチ工学 朝倉書店 Apony(2002). コンジョイント分析プログラムCAP 2002年11月27日 <http://www.vector.co.jp/soft/dl/ win95/business /se178859.html>(2008年7月9日閲 覧) 岡本眞一(1999). コンジョイント分析-SPSSによるマーケティング・リサーチ- ナカニシヤ出版 小塩信司(2004). SPSSとAmosによる心理・調査データ解析―因子分析・共分散構造 分析まで― 東京図書 小島隆矢(2005). コンジョイント分析における因果モデリングの方法―コンジョイント分析 の手法に関する研究 その1― 日本建築学会環境系論文集 第592号、p.67-74 中西正雄(1984). 消費者行動のニュー・フロンティア―多属性分析を中心に― 誠文堂新光社 本間理恵子(2003). 買物脳―成功する企業になるための5つのキーワード― 主婦の友社 武藤信介(1986). 新製品開発のためのリサーチ入門 有斐閣 終了 • 低 – \5,000と\25,000の間は(t(10)=5.181,p=.000)、\15,000 と\25,000の間は(t(10)=4.204,p=000) • 中 – \5,000と\25,000の間は(t(16)=1.881,p=.026)、\15,000 と\25,000の間は(t(16)=4.633,p=.000) • 高 A – 配色の白色基調と赤や青、黄色などを基調との間に(t (16)=3.161,p=.002)、黒色基調と赤や青、黄色などを基 調との間に(t(16)=2.791,p=.004)有意差がでた。また、 握りやすさ(t(16)=2.237,p=.048)に有意差がでた。 • 高B – また握りやすさ(t(12)=2.863,p=.028)、通気性と防臭機 能(t(12)=5.254,p=.000)についても有意差がでた。 – 重さについては若干ではあるが有意差がでた(t(12) =2.006,p=.068)。
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