物理フラクチュオマティクス論 応用確率過程論 (2006年6月13日) 東北大学 大学院情報科学研究科 田中 和之 [email protected] http://www.smapip.is.tohoku.ac.jp/~kazu/ 本講義の田中和之助教授担当分のWebpage: http://www.smapip.is.tohoku.ac.jp/~kazu/PhysicalFluctuomatics/2006/ 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 1 本講義の参考文献 田中和之・樺島祥介編, ミニ特集/ベイズ統計・統計力学と情報処 理, 計測と制御 2003年8月号. 田中和之,村田昇,赤穂昭太郎他著,小特集/確率を手なづける秘 伝の計算技法~古くて新しい確率・統計モデルのパラダイム~,電 子情報通信学会誌 2005年9月号. 人工知能学会編:人工知能学事典,共立出版, 2005年12月 (田中和 之,樺島祥介,岡田真人他分担執筆). 田中和之編著: 数理科学臨時別冊 SCG ライブラリ「確率的情報処 理と統計力学 ---様々なアプローチとそのチュートリアル---」, サイエンス社,2006年9月刊行. 田中和之著: 確率モデルによる画像処理技術入門,森北出版,2006年末 刊行予定 . 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 2 前回(5月9日)までの田中助教授担当分のまとめ 確率的情報処理とベイジアンネットワーク(5月2日) 確率的計算技法の基礎(5月2日) マルコフ連鎖モンテカルロ法 確率伝搬法 ベイジアンネットワークと確率的情報処理の応用事例(5月9日) 確率的画像処理 確率推論 今回の話題(6月13日) 統計的学習理論 モデル選択とEMアルゴリズム 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 3 Contents 1. 2. 3. 4. 5. 6. 序論:確率的情報処理とベイジアンネットワーク(5月2日) 確率的計算技法の基礎 ---マルコフ連鎖モンテカルロ法と確率伝搬法---(5月2日) 確率的画像処理とベイジアンネットワーク ---マルコフ確率 場と確率伝搬法--- (5月9日) 確率推論とベイジアンネットワーク---グラフィカルモデルと 確率伝搬法--- (5月9日) 統計的学習理論とモデル選択(6月13日) 確率的情報処理のこれまでとこれから(6月13日) 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北 大) 4 ベイズの公式による確率的推論の例(1) A 教授はたいへん謹厳でこわい人で,機嫌の悪いときが 3/4 を占め, 機嫌のよい期間はわずかの 1/4 にすぎない. 教授には美人の秘書がいるが,よく観察してみると,教授の機嫌の よいときは,8 回のうち 7 回までは彼女も機嫌がよく,悪いのは 8 回中 1 回にすぎない. 教授の機嫌の悪いときで,彼女の機嫌のよいときは 4 回に 1 回で ある. 秘書の機嫌からベイズの公式を使って教授の機嫌を確率的に推論 することができる. 甘利俊一:情報理論 (ダイヤモンド社,1970) より 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 5 ベイズの公式による確率的推論の例(2) 教授は機嫌の悪いときが 3/4 を占め,機嫌のよい期間はわずかの 1/4 にすぎない. 1 Pr教授機嫌良い 4 3 Pr教授機嫌悪い 4 教授の機嫌のよいときは,8 回のうち 7 回までは彼女も機嫌がよく, 悪いのは 8 回中 1 回にすぎない. 7 Pr秘書機嫌良い 教授機嫌良い 8 教授の機嫌の悪いときで,彼女の機嫌のよいときは 4 回に 1 回である. Pr 秘書機嫌良い 教授機嫌悪い 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 1 4 6 ベイズの公式による確率的推論の例(3) P r秘書機嫌良し P r秘書機嫌良し 教授機嫌悪い P r教授機嫌悪い P r 秘書機嫌良し 教授機嫌良し P r教授機嫌良し 7 1 1 3 13 8 4 4 4 32 1 Pr 教授機嫌良い Pr教授機嫌悪い 4 Pr 秘書機嫌良い 教授機嫌悪い 2006/6/13 3 4 1 7 Pr 秘書機嫌良い 教授機嫌良い 4 8 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 7 ベイズの公式による確率的推論の例(4) P r 教授機嫌良し 秘書機嫌良し 7 1 P r 秘書機嫌良し 教授機嫌良し P r教授機嫌良し 8 4 7 13 P r秘書機嫌良し 13 32 7 Pr 秘書機嫌良い 教授機嫌良い 8 Pr教授機嫌良い 1 4 13 Pr秘書機嫌良い 32 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 8 統計的学習理論とデータ 観察により得られたデータから確率を求めた例 教授の機嫌のよいときは,8 回のうち 7 回までは秘書も機嫌がよく, 悪いのは 8 回中 1 回にすぎない. 7 Pr秘書機嫌良い 教授機嫌良い 8 すべての命題に対してデータが完全かつ十分に得られている場合 標本平均,標本分散などから確率を決定することができる. 「教授の機嫌の悪いときで,彼女の機嫌のよいとき」の データが分からなかったらどうしよう? 不完全データ 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 9 統計的学習理論とモデル選択 データから確率モデルの確率を推定する操作 モデル選択 統計的学習理論における確率モデルのモデル選択の代表例 最尤推定に基づく定式化 更なる 拡張 不完全データにも対応 EMアルゴリズムによるアルゴリズム化 確率伝搬法,マルコフ連鎖モンテカルロ法に よるアルゴルズムの実装 赤池情報量基準(AIC),赤池ベイズ情報量基準(ABIC) etc. 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 10 最尤推定 データ パラメータ , g0 g1 g g N 1 ˆ , ˆ arg max Pg , , N 1 Pg , i 0 平均μと標準偏差σが与えられたと きの確率密度関数をデータ g が与 えられたときの平均μと分散σ2に対 する尤もらしさを表す関数(尤度関 数)とみなす. Pg , 0 極値条件 ˆ , ˆ Pg , 0 ˆ , ˆ N 1 標本平均 gi i 0 2006/6/13 1 2 exp 2 gi 2 2 2 1 N 1 2 2 gi 標本分散 N i 1 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 11 最尤推定 データ f f N 1 f0 f1 極値条件 g0 g1 g g N 1 Pg , 0 ˆ , ˆ , P f , g , P g f , P f N 1 P g f , i 0 2 fi i 0 1 2 exp 2 gi f i 2 2 2 1 N 1 P f exp f i 2 2 2 i 0 Pg , 0 ˆ , ˆ N 1 2006/6/13 ˆ ,ˆ arg max P f , g , パラメータ 1 N 1 1 2 2 gi f i N i 1 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 12 f 最尤推定 が分からなかったらどうしよう ˆ arg max Pg データ ハイパパラメータ f 不完全 f N 1 f0 f1 データ パラメータ ベイズの公式 f N 1 P g f , ˆ i 0 1 2 exp 2 gi f i 2 2 2 1 N 1 P f 0 i 0 1 1 exp fi 2 2 2 まずP f は完全に 1 ˆ 1 gi2 N i 1 f 2 P g f , P f P f g, Pg 2006/6/13 N 1 不完全 データ 周辺尤度 極値条件 Pg 1, Pg P f ,g P g f , P f g0 g1 g g N 1 わかっている場合 を考えよう. ˆ f f P f g , ˆ df 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 13 信号処理の確率モデル 観測信号 原信号 白色ガウス雑音 雑音 gi fi i i 通信路 原信号 観測信号 尤度 事前確率 事後確率 Pr観測信号 | 原信号 Pr原信号 Pr原信号 観測信号 Pr観測信号 ベイズの公式 2006/6/13 周辺尤度 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 14 原信号の事前確率 P f 1 Z Prior 1 2 exp f i f j 2 ijB 画像データの場合 1次元信号データの場合 Ω:すべてのノード (画素)の集合 2006/6/13 B:すべての最近接 ノード(画素)対の集合 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 15 データ生成過程 加法的白色ガウス雑音 (Additive White Gaussian Noise) P g f , i 1 2 exp 2 f i gi 2 2 2 1 gi fi ~ N 0, 2 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 16 信号処理の確率モデル パラメータ f 不完全 データ f N 1 f0 f1 データ g0 g1 g g N 1 gi fi i ハイパパラメータ i P g f , i 1 1 2 P f exp f f 2 i j Z prior ijB fˆi f i P f g , , df P g f , P f P f g, , P g f , P f df 事後確率 2006/6/13 1 2 exp 2 gi f i 2 2 2 1 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 17 信号処理の最尤推定 パラメータ f 不完全 データ f N 1 f0 f1 ハイパパラメータ データ g0 g1 g g N 1 ˆ , ˆ arg max Pg , , Pg , P g f , P f df 周辺尤度 極値条件 Pg , Pg , 0, 0 ˆ , ˆ ˆ , ˆ 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 18 最尤推定とEMアルゴリズム パラメータ 不完全 データ f f N 1 f0 f1 データ g0 g1 g g N 1 ハイパパラメータ E Step : CalculateQ , (t ), (t ) M Step : Update α(t 1),σ (t 1) arg maxQ , (t ), (t ) ( , ) EM アルゴリズムが収束すれば 周辺尤度の極値条件の解になる. 2006/6/13 Pg , P g f , P f df 周辺尤度 Q関数 Q , , P f g , , ln P f , g , df Q , , 0 , Q , , 0 , Pg , Pg , 0 , 0 ˆ , ˆ ˆ , ˆ 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 極値条件 19 1次元信号のモデル選択 EM Algorithm Original Signal 200 fi 100 0.04 0 Degraded Signal 200 0 127 i 255 i 255 0.03 α(t) 0.02 gi 40 100 0 0 Estimated Signal 127 0.01 200 fˆi 0 100 0 2006/6/13 0 127 i 255 α(0)=0.0001, σ(0)=100 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 20 ノイズ除去のモデル選択 原画像 40 劣化画像 MSE 327 推定画像 ˆ 0.000611 ˆ 36.30 EMアルゴリズムと 確率伝搬法 α(0)=0.0001 σ(0)=100 MSE 2006/6/13 1 fi fˆi | | i 2 MSE ˆ ˆ 260 0.000574 34.00 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 21 ガウス混合モデル (0) (1) ( K 1) a0 a a 1 a N 1 a0 a1 a a N 1 (1) (1) (2) (2) , (K ) ( K ) N P f a, , i 1 2006/6/13 N Pa ai i 1 f K k 1 k 1 f N 1 f0 f1 1 2 f i ai exp 2 2 ai 2 ai 1 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 22 ガウス混合モデルのベイズ推定 事後確率 パラメータ 不完全 データ a0 a1 a a N 1 P a f , , , P f a , , Pa P f a, , Pa データ f ベイズの公式 f N 1 f0 f1 a N Pa ai i 1 ハイパパラメータ N P f a, , i 1 2006/6/13 1 2 f i ai exp 2 2 ai 2 ai 1 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 23 ガウス混合モデルのEMアルゴリズム パラメータ 不完全 データ a0 a1 a a N 1 周辺尤度 データ f f N 1 f0 f1 P f μ,σ, P f a,μ,σ P a γ a N K i 1 k 1 1 64, 2 127, 3 192, 4 192, 1 2 3 4 10 f i k 2 k exp 2 2 k 2 k ˆ ˆ ˆ , , arg max P f , , ハイパパラメータ Q , , , , Pa f , , , ln Pa, f , , , , a EM アルゴリズム (t 1), (t 1),σ(t 1) arg (max Q , , (t ), (t ), (t ) , , ) 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 24 ガウス混合モデルの数値実験 P f a, , Pa γ 観測データ 1 64, 2 127, 3 192, 4 192, 1 2 3 4 10 ˆ 1 63.4, ˆ 2 91.6, ˆ 3 127.5, ˆ 4 191.5, ˆ 1 7.5, ˆ 2 7.5 ˆ 3 7.5, ˆ 4 7.6 ˆ 1 0.20, ˆ 2 0.16 ˆ 3 0.53, ˆ 4 0.11 周辺確率 P f μ,σ, P f a,μ,σ P a γ 推定結果 a N K i 1 k 1 f i k 2 k exp 2 2 k 2 k P f a , , P a 事後確率 P a f , , , P f a, , Pa a 2006/6/13 観測データの ヒストグラム 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 25 ガウス混合モデルの数値実験 a P f a, , f 1 64, 2 127, 3 192, 4 192, 1 2 3 4 20 Gauss Mixture Model 1 Pa γ ai exp ai ,a j Z PR γ i ijB ポッツモデル 2006/6/13 +Potts Model +EM Algorithm +Belief Propagation aˆ 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 26 ガウス混合モデルによる領域分割の数値実験 観測画像 ヒストグラム 1 12.7, 1 2.7, 1 0.1831 2 42.2, 2 18.0, 2 0.0711 3 130.6, 3 23.6, 3 0.3375 4 168.4, 4 11.7, 4 0.3982 5 224.8, 5 14.4, 5 0.0101 2006/6/13 Gauss Mixture Gauss Mixture Model Model and 物理フラクチュオマティクス論(東北大) Potts Model Belief Propagation 27 統計的学習理論による移動体検出 a Segmentation a b b bc Detection AND Segmentation c Gauss Mixture Model and Potts Model with Belief Propagation 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 28 Contents 1. 2. 3. 4. 5. 6. 序論:確率的情報処理とベイジアンネットワーク(5月2日) 確率的計算技法の基礎 ---マルコフ連鎖モンテカルロ法と確率伝搬法---(5月2日) 確率的画像処理とベイジアンネットワーク ---マルコフ確率場 と確率伝搬法--- (5月9日) 確率推論とベイジアンネットワーク---グラフィカルモデルと確 率伝搬法--- (5月9日) 統計的学習理論とモデル選択(6月13日) 確率的情報処理のこれまでとこれから(6月13日) 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北 大) 29 モノの理とコトの技の学術的循環 コトの技を通して モノの理を鍛える モノの理による 新たなコトの技の 創出 共通の数理 情報統計力学 確率的情報処理 学術的循環 学術的循環 統計科学 物質の性質・自然現象の理解・予言 データからの情報の抽出・加工 モノの理 物理学 コトの技 情報工学 田中和之編著: 数理科学別冊「確率的情報処理と統計力学 ---様々な アプローチとそのチュートリアル---」,サイエンス社,2006年9月刊行. 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 30 たくさんが関連して集まり構成されたシステム: 情報と物理が扱う対象に共通する概念 ビットが集まってデータを形成し,コトとなる. 主な研究対象 情報工学:コト データ 物理:モノ 0,1 ビット 101101 110001 01001110111010 10001111100001 10000101000000 11101010111010 1010 コト(データ) 物質・自然現象 並びをきちんと決めることによって意味のある文章になる. 共通点:たくさんが関連 モデル化と アルゴリズム化 の両面で有効 共通の数理を持つなら ば物理学で提案された 計算技法と解明された モデルの性質が確率 的情報処理システム の設計に役に立つ. 2006/6/13 分子が集まって物質を形成し,モノになる. 分子 分子同士は引っ張り合っている. 物理フラクチュオマティクス論(東北大) モノ(物質) 31 確率的情報処理 (Probabilistic Information Processing) のWebを介しての更なる拡大 日常生活の 情報処理 ポイントはやはり「たくさんが関連」 ICT 技術の要請に耐えうる統計科学 通信理論・像情報処理・確率推論 データマイニング 統計科学 複雑ネットワーク科学 統計的学習理論 情報統計力学 次回の田中助教授 担当時(7月14日)の 本講義でのテーマ 2006/6/13 確率的情報処理のこれからの数理的基盤 コトの物理学としての定着 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 32 本講演の参考文献 田中和之・樺島祥介編, “ミニ特集/ベイズ統計・統 計力学と情報処理”, 計測自動制御学会誌「計測と 制御」2003年8月号. 田中和之,村田昇,赤穂昭太郎他著,小特集/確率を 手なづける秘伝の計算技法~古くて新しい確率・統 計モデルのパラダイム~,電子情報通信学会誌2005 年9月号. 田中和之編著: 数理科学臨時別冊 SCG ライブラリ 「確率的情報処理と統計力学 ---様々なアプローチ とそのチュートリアル---」,サイエンス社,2006年 9月刊行. 田中和之著: 確率モデルによる画像処理技術入門,森 北出版,2006年末刊行予定 . 2006/6/13 物理フラクチュオマティクス論(東北大) 33
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