軟部平滑筋肉腫に関する分子病理学的研究 【はじめに】 軟部平滑筋肉腫は成人の後腹膜、四肢および体幹、大きな血管など軟部組織にできる悪性の腫瘍です。後腹膜に 発生するものは予後が特にわるく、5年生存率は10~30%といわれています。手術のみで治療できない場合には化 学療法(抗がん薬)や放射線療法が行われますが、根治にいたらないことも少なくありません。 近年、他の腫瘍では分子標的療法という、悪性化している原因となっている部分を選択的に攻撃する薬剤が開発さ れてきています。しかし平滑筋肉腫では悪性化の原因がはっきりわかっていません。発生頻度の低さのために、大規 模な研究が少ないことも理由のひとつです。本研究では軟部の平滑筋肉腫に対して分子標的治療のターゲットとなる ような悪性化のメカニズムを解明することを目的としています。 【対象】 当研究は、 1964年から2010年8月31日までの間に当院形態機能病理学教室において平滑筋肉腫あるいは平滑 筋腫・血管平滑筋腫と診断された方の組織標本を対象に下記研究①を行います。2008年から2009年の間に九州大 学病院で手術された腫瘍については、細胞を培養する下記研究②の対象とします。 上記に該当する方で対象者になることを希望されない場合は、下記連絡先まで連絡をお願いいたします。 【研究内容】 ①組織型や増殖活性の程度で分類し(図1、図2)、より悪性度の高い腫瘍で高い発現や変化を示す蛋白あるいは遺 伝子の検索を行います。 ②腫瘍細胞を培養し、細胞株の樹立を試みます。細胞株が樹立された場合、これらは細胞の性質や薬物などへの反 応を調べる研究に用います。 *標本は治療や診断のために採取されており、この研究を行 うことで患者さんに日常診療以外の負担は生じていません。 【患者様の個人情報の保護について】 本研究では個人情報漏洩を防ぐため、氏名、カルテ番号な どの個人を特定できる情報を削除し匿名化した上で、データ の数字化などの厳格な対策を取っています。本研究の実施 過程及びその結果の公表(学会や論文等)の際に患者さんを 特定できる情報は一切含まれません。研究②で細胞株が樹 立された場合、ご本人の同意のもとに細胞株をバンクに登録 し、細胞株とデータを共有します。この時に公開される患者様 の個人情報は「年齢」・「性別」・「腫瘍発生部位」のみです。細 胞株の性質から患者さん本人が同定されることはありません。 【研究期間】 2010年 当院研究倫理審査委員会による承認日から 2014年 3月31日まで。 図1. 典型的な平滑筋肉腫、平滑筋に似た配列を示す 【医学上の貢献】 平滑筋肉腫の悪性度に関わる因子を解析することにより、 軟部悪性腫瘍の病理学的診断の精度を向上させるとともに、 予後を予測する因子を明らかにし、またそれぞれの症例の性 質に即した治療の確立につながる可能性がある、などの貢献 が期待できるものと考えます。 【研究機関】 九州大学大学院 形態機能病理 教授 小田 義直 大学院生 薛 宇孝 連絡先:〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1 Tel 092-642-6061 担当: 薛 宇孝 図2. 多形型平滑筋肉腫、予後が悪いとされている
© Copyright 2024 ExpyDoc