「社会科学における戦略的思考: 理論、実験、及び演習」 イントロダクション 1 社工のカリキュラム 特色1・・・学際性 近年の社会問題 = 相互依存性が強く、複雑化 伝統的学問の枠を超えた学際的 視点で解決する能力の育成 特色2・・・理工学的手法 社会問題への対処法 = 経験と勘で行われることが少なくない 理工学的手法により社会現象を解明し、 計画・政策の策定を行う能力の育成 2 本科目の位置づけ みなさんが受けてきた(受講中の)授業のねらい 社会科学の理論系科目群 2. 数理・情報系の科目群 1. 数理的分析、コンピュータを用いた分析を行う能力の養成 3. 実習・演習系の科目群 理論科目と連携した実践的・体験的教育 モデル化、ソリューション導出、議論、プレゼンの能力の養成 この授業のねらい: 実験的手法による制度設計スキルの養成 3 社会科学における実験的手法とは?制度設計とは? 具体例:「日本の卒後臨床研修制度見直し」に対する 提案プロジェクト(詳細は三週目に解説) 背景:2003年まで医局の教授が研修 先の病院を決定(インターン制度) 都 廃止。米国のマッチング制度を導入 候補者、病院双方の希望調査に基づく 以下の操作をコンピュータで行う <第1ラウンド> (1-1) 候補者を第1希望の病院へ割り当てる (1-2) 各病院に、募集定員の枠内で、病院の 評価が高い順に候補者をキープさせる <第2ラウンド> (2-1) 第1ラウンドで募集定員枠から漏れた 候補者は第2希望の病院へ割り当てる (2-2) 評価の高い候補者が割り当てられたら、 キープしていた評価の低い候補者と 入れ替えてキープ(募集定員枠に空きが あれば、評価の低い候補者もキープ) 3名募集 市 部 病 院 地 方 病 院 候補者A, B, D, Cの順で 欲しい 候補者E, B, C,D,Aの順 で欲しい 都 市 希 望 都 市 希 望 A B 地 方 希 望 都 市 希 望 都 市 希 望 マッチング 候補者 4 3名募集 C D E 第2希望でもキープしてもらえない候補者は 次のラウンドへ(この繰り返し): 例では都市部病院にBDEが、地方病院にACが割り当て られる 現在発生している問題 地方病院、大学病院の人手不足 国は、都市部病院の募集定員削減、 都 市 部 病 院 地方間移動の制限などを検討中 先ほどの例で都市部病院の募集定員を2人に 制限してみると・・・都市部病院にBEが、 地方病院にACDが割り当てられ、地方病院の 人手不足は確かに改善する一方、都市部病院 では人手不足発生(本当は3人募集したい) 都市部病院が偽りの評価順位を表明し、 2名募集 地 方 病 院 →実験の必要性 5 候補者A, B, D,Cの順で 欲しい 候補者E, B, C,D,Aの順 で欲しい 地方病院や研修医に迷惑をかけてでも、 自らを有利にする状況がありうると 理論は予想する。(右の例ではない) 制度の頑健性:2007年ノーベル経済学賞 実際にそのような行動を取るのか? →「取らない」なら募集定員制限案を 採用してもよいのでは? 3名募集 都 市 希 望 都 市 希 望 A B 地 方 希 望 都 市 希 望 都 市 希 望 マッチング 候補者 C D E 実験的手法による問題解決 既存の理論=超合理的な意思決定主体を仮定 考察対象である社会状況を実験室に再現し、 人間が実際にどのように行動するかを検証 ・・・実験的手法 欧米諸国では、制度設計の際に実験を 取り入れることは当然になったが、 日本ではまだ様子見程度 問題解決の流れ みなさん自身が理論に基づき制度の原案作成 実験をデザイン被験者実験を実施結果 を分析原案修正制度の提案 医学生へのアンケート調査なども活用 一般学生と医学生の違いを考慮 提案された制度を 学生同士でディベート 6 授業スケジュール(前半) 1週: イントロ、実験的アプローチの解説 2週: 3週: 4週: 5週: 7 グループ分け: 秋山、渡邊 教員による模擬実験 社経からの事例(1): 秋山(+石川) 2週目の実験結果の解説:秋山 社経からの事例(2): 渡邊(+大久保) 経工からの事例(1): 渡辺(真)(+江口) 都市からの事例(1): 谷口(+石川) 都市からの事例(2):吉田(謙)(+桑原) 経工からの事例(2): 岡田(+石川) 授業スケジュール(後半) 6週: 学生による実験の準備: 秋山、石川 7週: 学生による社経の実験: 石川、大久保 8週: 学生による都市の実験: 石川、桑原 9週: 学生による経工の実験: 石川、江口 10週: 学生による実験のまとめと発表準備: 石川、ターンブル 11週: 学生による実験結果の発表会(成績評価): 中村、秋山、石川、渡邊、 大久保、ターンブル、 江口、桑原、渡辺(真)、岡田、吉田(謙)、谷口 8 成績評価 成績はグループごとのプレゼンと個人レポートに よって評価します。 1. プレゼンは最終週にグループごとに発表します。 (教員全員で各グループのプレゼンを評価) 2. 個人レポートは、グループごとに行った実験に ついて、個別に作成します。 (個人レポートは実験担当教員が採点) 9 注意点 この授業は 1. 2. 学生自身が実験のデザインをする授業 学生自身が主体的に実験を行う授業 実験に関して、教員が率先して指示するよう なことはない、と思って下さい。 10 グループ分けと実験 みなさんを6つのグループに分けます。 各グループは一つの事例に対応します。 社経からの事例(1)(2) 都市からの事例(1)(2) 経工からの事例(1)(2) 7週~9週でそのグループ主体で実験を行い、最終 週のプレゼンの準備をします。 よく考えて、グループを決めて下さい。 11 社経からの事例(1):ダブルオークション におけるバブル発生のメカニズム Vernon Smithによる仮想資産市場実験 (2002年ノーベル経済学賞) ファンダメンタルズが明らかな市場で、 自発的に トレードが発生。さらに、バブルも発生 問題 バブル発生、崩壊のメカニズムは? 妥当な制御の方法は?(サーキットブレーカーで大 丈夫か、など?) ・・・ 注意: zTreeというソフトウェアを使う 12 計算機、プログラミングが得意な人が望ましい 社経からの事例(2):日本の卒後臨床研修制 度見直し」に対する提案プロジェクト 4-5ページに示した通り ゲーム理論(協力ゲーム、非協力ゲーム) ・コンピュータ・スキルは必要ではない。背後には 組み合わせ最適化が隠れているが、この科目では むしろ、「頭の体操」が中心。 ・「ゲーム論」を履修している必要は全くない。 (教えられていない内容ばかりだから) 13 経工からの事例(1):産業と組織心理学 産業・組織心理学領域においてホットな以下の3つのテーマを 概観する。そして、これらのテーマにアプローチするための 実験的手法について述べる。 1. 内発的 vs 外発的動機付け 2. 個人 vs チーム業績 3. 仕事生活 vs 家庭生活: 仕事生活と家庭生活のバランスに関する研究の概観に触れ、両生活領域に 対する態度間の相関関係について議論・・・実験を行うには、やや頭を ひねらないといけない課題。やがて、みなさんも結婚、出産、育児に携わり、 仕事との両立に悩む。(もちろん、男もですよ!!)その意味で身近な トピック。8月末の毎日新聞にも特集が組まれていた。 14 都市からの事例(1):自動車の利用と健康 西欧諸国:クルマに起因する社会問題として アップ 日本でも、メタボなど生活習慣 に関わる健康問題が話題に。 「健康」がクローズ 利用率(自動車以外) 肥満率 35 60 徒 30 50 ・ 歩 自 25 クルマ利用 が健康に与える影響 本事例では、 について、既存の統計資料 などを用いた仮説を立て、 それが真であるか否かを、 15 40 転 肥 満 20 率 15 % 車 30 公 10 5 0 米米国 国 カカナ ナダ ダ 英英国 国 仏ラフ 伊イタ ド 独 イ ン ス リ ー ツ ス 瑞 ェ ー 典 デ ン オ 豪 ー ス 州 ト ラ リ ア *各種統計を活用すると共に、 *つくば市内・茨城県内等に居住・勤務する人々に調査し、 検証することを提案する。 オ オ ラ ン ラ ダ ン ダ デ デ ン マ ン ー ク マ ー ク 共 20 交 通 10 利 用 0 率 % 都市からの事例(2):循環型社会とレジ (ごみ)袋有料化 9月1日よりカスミなどの市内大手スーパーでは、レジ袋の無料 配布が中止されました。最近では、ゴミ処理やレジ袋の有料化 が進められるなど、資源の浪費を防ぐための経済的インセンテ ィブに基づく政策が盛んに導入されています。例えば、ゴミ処 理手数料の有料化への市民の支払い意志額、あるいは政策導入 後のゴミ排出行動変化などを題材として実験を行います。 情報提供の差異がゴミ処理手数料有料化に対応した行動をどの ように変化させるか、あるいは支払い意志額にどのような影響 を与えるかといった実験をしたいと思います。 ミクロ経済学、特に「外部性と公共財」に関する基礎知識が あるとよいかも知れないが、必要条件ではない。 16 経営工学からの事例(2):経営戦略は本当に 必要か? 事前計画的な経営戦略と環境適応のための事後創発的な経営戦 略、それぞれのメリット・デメリットや効果等を、ビジネス・ ゲーム「ベーカリー・ゲーム」によって実験。 コンピュータを使用しますが、プログラミング・スキルは必要 ない。(ここが社経からの事例(1)との違い) 17
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