民事訴訟法

法務部・知的財産部のための
民事訴訟法セミナー
関西大学法学部教授
栗田 隆
第9回 審理
第9回
1. 口頭弁論の意義
2. 弁論主義
3. 専門家の協力(専門委員と知的財産調査官)
4. 審理の計画
5. 口頭弁論における裁判所の役割
6. 攻撃防御方法
7. 準備書面
8. 当事者照会
9. 争点整理手続
10. 自由心証主義・証明責任
T. Kurita
2
手続の流れ
訴え
弁論準備手続(168条以下)
審理(対審)
=口頭弁論
進行協議期日(規則95条以下)
和解期日(法89条、規則32条)
これらは公開原則が
適用されない
判決の言渡し
T. Kurita
3
口頭弁論はいろいろな意味で用いられる
訴え
当事者の主張
・申し出
狭
義
広
義
証拠調べ
最
広
義
判決の言渡し
T. Kurita
4
次の規定の口頭弁論の意味を考えよう(1)





159条1項(自白の擬制)
161条1項(口頭弁論は書面で準備しなければな
らない)。
153条(口頭弁論の再開)・152条(口頭弁論の
制限・分離・併合)
249条(直接主義)
251条1項(判決言渡期日は口頭弁論終結の日か
ら2月以内)
T. Kurita
5
次の規定の口頭弁論の意味を考えよう(2)





253条1項4号(判決書の記載事項としての口頭
弁論終結の日)
91条2項(公開を禁止した口頭弁論に係わる訴
訟記録)
規則76条(口頭弁論における陳述の録音)
160条(口頭弁論調書。規則67条1項7号に注
意)。
312条2項5号(絶対的上告理由としての口頭弁
論公開規定の違反)
T. Kurita
6
口頭弁論を行う場所


口頭弁論を行う場所は、法廷である。法廷は、
裁判所またはその支部で開かれるのが原則であ
る(裁判所法69条1項)。
例外的に法廷外での証拠調べも許されるが、証
拠調べの結果を判決の基礎資料とするためには、
口頭弁論期日に顕出(報告)することが必要で
ある。
T. Kurita
7
口頭弁論の主宰者=裁判所


口頭弁論は、裁判所(合議体)が判断材料を獲
得するために行われ、裁判所が主宰する。
受命裁判官や受託裁判官がたとえ法廷で当事者
の主張を聴いたり証拠調べをしても、口頭弁論
にはならない。
T. Kurita
8
双方審尋主義


裁判所は、両当事者に、主張を述べ、証拠を提
出する機会を平等に与えなければならない。こ
れを双方審尋主義という。
双方審尋主義は、相手方の主張に反論する機会
の保障も含む。これを当事者公開の原則という。
T. Kurita
9
当事者公開の原則


当事者は、相手方と平等な立場において裁判の
基礎資料を提出することができるとともに、相
手方と裁判所との間にどのような交流があった
かを知ることができることが要請される。
両当事者に在廷する機会が与えられた期日にお
いて提出された資料のみが裁判の基礎資料とな
り、その他の資料は裁判の基礎資料にならない。
T. Kurita
10
当事者公開に資する規定




139条(口頭弁論期日への当事者の呼出)
149条4項(期日外における釈明権行使の内容の
相手方への通知)
187条2項(参考人等の審尋における相手方の立
会権の保障)
規則95条1項(進行協議期日における当事者の
立会権の保障)
T. Kurita
11
当事者公開の例外




223条6項 文書提出命令手続きにおいてインカ
メラ調査が行われる場合。
240条
証拠保全手続おいて、急速を要する
場合には、当事者の呼出を省略できる。
規則61条
進行参考事項の事前聴取について、
相手方への開示は要求されていない。
和解期日における交互面接。
T. Kurita
12
弁論主義



⇔ 職権探知主義
事実とその認定資料である証拠の収集に関する
当事者と裁判所の間の役割分担について、その
収集を当事者の権限と責任とし、裁判所自らは
収集しない建て前を弁論主義という。
当事者の責任 ⇒ 当事者は事実と証拠を提出
しないと敗訴する。当事者は、裁判所が収集し
なかったことを非難できない。
当事者の権限 ⇒ 裁判所は職権で事実と証拠
を収集してはならない。
T. Kurita
13
主張共通・証拠共通の原則


弁論主義は、裁判の基礎資料(事実と証拠)の
収集に関する当事者と裁判所の間の役割分担で
ある。
裁判所は、ある当事者の提出した事実あるいは
証拠をその者に不利に、相手方に有利に斟酌す
ることもできる。
T. Kurita
14
当事者の主張する事実の分類




主要事実(直接事実)
法規の適用の直接の
原因となる事実。
間接事実
直接事実または他の間接事実を推
認するのに役立つ事実。
補助事実
証拠能力や証拠の信用性に影響を
与える事実
その他の事実
事件の背景事情等に関する事
実
T. Kurita
15
直接事実と間接事実
要件
1999年9月9 該当
①金銭の授受
日に**でX
がYに金100
②返還約束
万円を手渡
した
直接事実
法的効果
返還債務
法規範
経験則を用いて推認
間接事実
間接事実
T. Kurita
16
弁論主義の具体的内容



主張の必要性
主要事実は、口頭弁論におい
て主張されていない限り、裁判の基礎にするこ
とができない。
自白の拘束力
当事者間に争いのない主要事
実は、そのまま裁判の基礎にしなければならな
い
職権証拠調べの禁止
証拠は当事者が申し出
たものに限る。但し例外が多い。
T. Kurita
17
釈明権=裁判所による補充


弁論主義の下では主張・立証の不備により本来
は勝訴すべき者が敗訴する可能性があるが、そ
れは適正な裁判の視点からは好ましくない。
その是正のために裁判所に釈明の権限が認めら
れている(149条・151条)。
T. Kurita
18
否認と自白


否認
主張責任を負う者の主張する事実を相
手方が認めないこと。事案の迅速・適正な解明
のために、否認には理由を付すべきである(民
訴規79条3項参照)
自白
主張責任を負う者の主張する事実と同
じ事実を相手方が陳述すること(典型的にはそ
の事実を認めると陳述すること)。
T. Kurita
19
理由付否認(積極否認)の例
原告が「ある日時に吹田市内の原告の事務所で被告
に現金を貸し渡し、被告が1月後に年利10%を付し
て返還する事を約束した」と主張する場合に、
1.被告が「その時、被告はニューヨーク市内にあ
るホテルに宿泊していたので、現金の授受など
ありえようがない」と主張する(全面的不両
立)。
2.「金銭は受け取ったが、贈与として受け取った
のであり、返還約束はない」(部分的否認。金
銭の受領については自白となる)。
T. Kurita
20
抗 弁

相手方主張の法律効果の発生を阻害しあるいは
消滅させる事実について自己が主張責任を負う
場合に、その事実を主張することを抗弁という。
X
貸金返還請求
債務の承認により時効
は中断されている
再抗弁
Y
消滅時効が完
成している
抗弁
T. Kurita
21
抗弁の提出の態様


相手の主張を認めた上でなす抗弁(制限自白・
抗弁付自白)
相手の主張を争いつつ、もしその主張が裁判所
によって認められる場合にそなえてなされる抗
弁(仮定的抗弁)
(次に例題あり)
T. Kurita
22
Yの次の2つの主張について説明しなさい
①金は借りたが
すでに弁済した
X
貸金返還請求
Y
②弁済が認められな
いのであれば、反対
債権と相殺する
T. Kurita
23
事実抗弁と権利抗弁
事実抗弁
相手方の権利の発生を妨げあるいは消滅を
もたらす規定の要件に該当する事実を主張すれば足りる
もの。例:
1. 弁済・免除
2. 民法418条・722条2項による過失相殺
3. 公序良俗違反(民90条)・信義則違反・権利濫用
(民1条2項・3項)
 権利抗弁
相手の権利の行使を妨げあるいは消滅させ
る権利の発生要件に該当する事実の主張のみならず、そ
の権利の行使ないし利益享受の主張も必要なもの。例:
1. 取消権、解除権、相殺権、建物買取請求権など
2. 催告・検索の抗弁権、同時履行の抗弁権、留置権
3. 時効(民145条)。

T. Kurita
24
専門委員の制度


特許や医療あるいは建築関係の紛争となると、
紛争事実関係を正しく把握するのに通常の裁判
官が有する知識・理解力では不十分な場合が
多々生ずる。
このような訴訟について、争点整理段階あるい
は証拠調べの段階で専門家が裁判官を広範囲に
わたって補助する制度が必要であることが強く
認識されるようになり、専門委員の制度が設け
られた。
T. Kurita
25
専門委員の職務、地位、任免



専門委員は、専門的知見に基づいて裁判官に必
要な説明をし、証拠調べにおいて説明あるいは
質問をし、あるいは、和解手続において裁判官
と当事者に必要な説明をする者である。
非常勤の裁判所職員(国家公務員)
最高裁判所規則に従って任免される(92条の5
第3項。手当等につき、同条4項参照)。
T. Kurita
26
専門委員の指定、除斥・忌避


個々の事件において手続に関与する専門委員の
指定は、当事者の意見を聴いて、裁判所(裁判
機関)が行う(92条の5第2項)。員数は、1人
以上である(同1項)。
専門委員は、裁判に与える影響力が大きいこと
に鑑み、除斥・忌避に関する規定が準用される
(92条の6、規則34条の9)。
T. Kurita
27
専門委員の関与の場面(92条の2)
1項関与
争点整理・進行協議の場面での関
与)
 2項関与
証拠調べの場面での関与
1. 証拠調べの結果の趣旨説明
2. 証人等に対する質問
 3項関与
和解の場面での関与

T. Kurita
28
専門委員の関与に関する当事者の権利




専門委員の関与は当事者に公開される。
当事者には、専門委員が裁判官に何を説明した
かを知る機会(規則34条の3参照)、及び専門
委員がした説明について意見を述べる機会が与
えられる(規則34条の5)。
除斥・忌避の申立権
関与決定の取消しの申立権
T. Kurita
29
専門委員の関与の方法


裁判長は、専門委員に説明をさせるに当たり、
必要があると認めるときは、専門委員に対し、
係争物の現況の確認その他の準備を指示するこ
とができる(規則34条の6)。
通話による関与(法92条の3、規則34条の2第2
項・34条の7)
T. Kurita
30
知的財産事件における裁判所調査官
平成16年の改正で、「知的財産に関する事件の審理
及び裁判に関して調査を行う裁判所調査官」の制度
が新設された(92条の8。平成17年4月1日から施
行)。
1.裁判官は、法律の専門官ではあるが、こうした
科学技術分野における専門的知識を十分に有す
るとは限らない
2.科学技術分野の猛烈なスピードで発展している
状況
T. Kurita
31
訴訟手続の計画的進行(147条の2)


裁判の迅速化に関する法律第2条:「裁判の迅
速化は、第一審の訴訟手続については2年以内
のできるだけ短い期間内にこれを終局」させる
ことにより行う。
民訴147条の2:「裁判所及び当事者は、適正か
つ迅速な審理の実現のため、訴訟手続の計画的
な進行を図らなければならない」。
T. Kurita
32
審理の計画(147条の3)





要件:複雑な事件について適正かつ迅速な審理
を行うため必要があると認められるとき
策定者:裁判所
当事者との協議が必要
口頭弁論調書への記載(規67条2号)
裁判長による補充(156条の2)
T. Kurita
33
計画策定事項
必要的策定事項(2項)
1. 争点及び証拠の整理を行う期間
2. 証人及び当事者本人の尋問を行う期間
3. 口頭弁論の終結及び判決の言渡しの予定時期
 任意的策定事項(3項)
1. 特定の事項についての攻撃又は防御の方法を
提出すべき期間
2. その他の訴訟手続の計画的な進行上必要な事
項

T. Kurita
34
審理計画の効力

攻撃防御方法の却下(157条の2)

訴訟費用の負担
63条はここでも作用する。
T. Kurita
35
口頭弁論の一体性
口頭弁論ならびに証拠調べは、何回に分けて行われようとも、
終結するまでに行われた口頭弁論の全体が一体として判決の
基礎となる。これを口頭弁論の一体性という。
1. 前の期日で行われた弁論は、後の期日で繰り返される
必要はない。
2. 当事者の弁論は、どの期日で行っても、裁判資料とし
ては基本的に同一の効果をもつ(口頭弁論の等価値性。
但し、157条の制限があり、また、提出時期が弁論の全
趣旨の一部として事実認定の判断材料となることがあ
る(247条))。
T. Kurita
36
各回の口頭弁論期日の進行




期日指定と期日への呼出し(93条・94条。139
条も参照)
--------------期日の開始=事件の呼上げ(規62条)
審理
の対象となる事件を特定するために必要である。
当事者および裁判所の訴訟行為
期日の終了=次回期日の指定または弁論の終結
T. Kurita
37
裁判長の訴訟指揮権(弁論指揮権)(148
条)


口頭弁論(最広義)は裁判長が指揮する
120条により、いつでも取り消すことができる。
T. Kurita
38
裁判長の命令に対する不服申立て



合議体に対する異議の陳述
弁論指揮の裁判
等について認められている(150条)
即時抗告
これは個別に規定されている。:
137条2項の訴訟却下命令(同4項)。
通常抗告
口頭弁論を経ないで訴訟手続に関
する申立てを却下する命令(例えば、35条の特
別代理人選任申立てを却下する命令)に対して
は、通常抗告が許される(328条)。
T. Kurita
39
裁判長の命令で不服申立てが許されないもの
も多い




35条の特別代理人を選任する命令
期日の指定及び変更(93条・139条)
準備書面の提出期間の指定(162条)
準備的口頭弁論の要約書面の提出の(命令
(165条)
T. Kurita
40
釈明権(149条1項・2項)


事件の内容を明らかにするため、当事者に対し
事実上・法律上の事項について質問を発し、立
証をうながす裁判長等の権限を釈明権という。
当事者から異議があれば合議に付す。
T. Kurita
41
釈明権行使の範囲


消極的釈明
当事者の申立て・主張が不明瞭
であったり矛盾している場合に、その不明を正
すための釈明。
積極的釈明
事案の適正な解決に必要な申立
てや主張が欠ける場合に、裁判所がこれを示
唆・指摘する釈明。これも許される。
T. Kurita
42
期日外釈明


裁判官(裁判長・陪席裁判官)が口頭弁論の準
備のために期日外で記録を調査・検討している
時に釈明が必要と考えた点については、期日を
待つことなく、すみやかに釈明を求めることが
審理の効率化にかなう。
攻撃防御方法に重要な変更を生じ得る事項につ
いて釈明権を行使したときは、手続の公正さを
担保するために、その内容を相手方に通知し
(149条4項)、裁判所書記官は、その内容を訴
訟記録上明らかにしておく規則63条2項)。
T. Kurita
43
求問権(149条3項)



相手方の主張が不明瞭の場合に、それを明瞭に
するための裁判長の発問を求める当事者の権利。
相手方の主張がすでに明瞭であると裁判長が判
断すれば、発問はなされず、求問(発問申立
て)は却下される。
当事者から当事者への直接の発問では、不適
切・不要な発問あるいは感情的な応答がなされ
る虞があるので、このように裁判長を介して発
問する。
T. Kurita
44
釈明処分(151条)


釈明権を行使して、主張を明確にさせるだけで
は、不十分な場合がある。裁判所は、訴訟関係
を明瞭にするために、151条列挙の処分をする
ことができる。
証拠調べではない。
T. Kurita
45
進行協議期日(規95条)

審理を充実させることを目的として、裁判所と
当事者双方が訴訟の進行に関し必要な事項につ
いて協議するために開かれる口頭弁論外の期日
である。特徴:
1. 非公開でよい。
2. 口頭弁論調書ないしこれに準じた調書の作成
は不要。
3. 裁判所外で行うことができる(規97条)。
4. 両当事者に立会の機会を与える。
T. Kurita
46
攻撃と防御


攻撃
原告の判決申立て=請求の趣旨に示さ
れた判決の申立て
防御
被告の判決申立て=訴え却下・請求棄
却の申立て(答弁書の記載事項である
T. Kurita
47
攻撃方法と防御方法



各当事者が自己の攻撃または防御を根拠付ける
ために提出する一切の裁判資料ないしその提出
行為を攻撃方法または防御方法という。
被告が攻撃方法を提出することはない
民訴
法146条参照
原告が防御方法を提出することはない
規則
53条3項は誤解を生じさせやすい
T. Kurita
48
攻撃防御方法の内容
法律上の主張および事実上の主張
相手の主張に対する態度表明
証拠の申出(180条)
その他
1. 相手方の攻撃防御方法に対する却下の申立て
(157条)。
2. 相手方に対する質問(裁判所を通してする。
149条3項)。
 但し、個々の条文で内容が異なることがある。
例:161条2項と157条を対比せよ。




T. Kurita
49
攻撃防御方法の提出時期(156条等)
一般原則
適時提出主義(156条)
 手続きの段階付けによる制限
1. 審理の計画を経た場合(147条の3第3項)
2. 争点整理手続を経た場合(167条等)
 裁判長による個別的な提出期間の設定
1. 審理計画に従った手続進行のために必要な場
合に、攻撃防御方法の提出期間(156条の2)。
2. 特定の事項について、準備書面の提出あるい
は証拠申出の期間(162条)

T. Kurita
50
証拠結合主義


当事者の事実主張は、当初は、真実が何である
かよくわからない状況で、自己にできるだけ有
利になるような形でなされる。簡単に実施でき
る証拠調べの結果、本当の事実関係が判明すれ
ば、当事者はそれにあわせて事実主張を変更・
撤回して争点が整理され、あるいは新たな事実
主張をなすことが必要になる場合がある。
そこで、証拠調べと事実主張とは並行して行う
との原則がとられている。
T. Kurita
51
時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条1
項)



時機に後れて提出されたものであること
後れたことが当事者の故意又は重大な過失に基
づくこと
その攻撃防御方法を斟酌すると訴訟の完結を遅
延すること
T. Kurita
52
趣旨不明瞭の攻撃防御方法の却下(157条2
項)


趣旨不明瞭の攻撃防御方法は、裁判の基礎とし
て斟酌できない。
斟酌できないことを明らかにするために、釈明
の機会を与えたうえで、却下する。
T. Kurita
53
その他の理由による攻撃防御方法の却下



訴訟手続を不安定にし、審理の遅滞を招き、か
つ当該攻撃防御方法の提出により当事者が得よ
うとした利益が他の手段で実現することができ
る場合。
既判力により遮断される場合。
不必要な証拠(181条)、違法性の強い方法あ
るいは信義誠実原則に反する度合の強い方法で
収集した証拠
T. Kurita
54
最初の口頭弁論期日


最初の口頭弁論期日では、原告が訴状に基づい
て、どのような判決を求めるか(請求の趣旨)
を陳述し、請求の原因と請求を理由づける事実
を述べる。
被告も、どのような判決を求めるかを陳述する。
T. Kurita
55
陳述擬制


初回期日に原告が出頭しない場合、または出頭
したが請求を陳述しない場合には、裁判所は、
原告が提出した訴状・準備書面を陳述したもの
とみなして、被告に弁論させることができる。
これとの公平上、被告が出頭しない場合、およ
び出頭しても本案について弁論しない場合には、
裁判所は、被告が期日までに提出した答弁書そ
の他の準備書面を陳述したものとみなして、原
告に弁論を続けさせることができる(158条)。
T. Kurita
56
158条の陳述擬制の要件で注意すべき点


最初にすべき口頭弁論期日つまり原告が請求を
陳述すべき期日であること
続行期日には、
陳述擬制は認められない。例外:277条。
当事者の一方が本案の弁論をする場合であるこ
と
当事者双方が出頭しない場合、又は出頭
しても弁論をしない場合には、訴えの取下げの
擬制に向かい出す(263条)。
T. Kurita
57
擬制自白(159条1項)


当事者が口頭弁論において相手方の主張した事
実を争うことを明らかにしない場合には、弁論
の全趣旨により(口頭弁論全体におけるその者
の態度の合理的解釈により)その事実を争った
ものと認めるべきときを除き、その事実を自白
したものとみなされる(159条1項)。
自白の効果については、179条参照。
T. Kurita
58
自白を擬制される時期
自白の擬制は、口頭弁論終結時まで明示的に争
わなかったということにより生ずる。
 口頭弁論終結間際に否認するような場合には、
次の不利益を受ける可能性がある。
1. 時機に後れた攻撃防御方法として却下される
(157条)。
2. 事実認定の資料の一部(弁論の全趣旨)とし
て、その者に不利な方向で斟酌される(247
条)。

T. Kurita
59
一方の不出頭の場合(159条3項)



原則: 擬制自白の規定が準用されるのが原則
である(159条3項。肯定的争点決定)。
例外
不出頭者への期日への呼出しが公示送
達によりなされた場合(159条3項但書き。否定
的争点決定)。
注意: 準備書面に記載されなかった事実は相
手方が不出頭の場合には陳述できないので
(161条3項)、この事実については擬制自白の
余地もない。
T. Kurita
60
不知の陳述(159条2項)


相手方の主張に対して「知らない」と答えるこ
とは、争ったものと推定される(159条2項)。
相手方がその事実について証明責任を負う場合
には、相手方は、証拠を提出することが必要と
なる。
T. Kurita
61
不知の陳述が許されない場合

次の場合には、相手方が証明責任を負う事実に
ついて不知の陳述をする者は、事実関係の調査
義務を負い、その結果を報告すべきである。
1. 自己の行為または認識が問題となっている場
合
2. 自己との実体的な関係により情報提供を求め
ることができる第三者(代理人や前権利者な
ど)の行為
T. Kurita
62
義務違反の効果


裁判所は、調査結果の報告を求め、それに応じ
ない場合には、不知の陳述を却下することがで
きる(157条2項の類推適用)。
却下しない場合でも、調査結果を報告しないこ
とを心証形成の資料にすることができる(247
条)。
T. Kurita
63
準備書面の意義


当事者が口頭弁論において陳述しようとする事
項を記載して裁判所に提出するとともに相手方
に送付する書面。
口頭弁論は、各当事者が陳述予定の内容を準備
書面に記載して相手方及び裁判所に予告するこ
とにより準備しなければならない(161条1項)。
T. Kurita
64
記載事項(161条)

準備書面には、次の事項を記載する。事実につ
いての主張を記載する場合には、証拠も記載す
る(規則79条4項)。
1. 自己の攻撃又は防御の方法
2. 相手方(原告・反訴原告)の請求に対する陳
述(被告・反訴被告の防御)
3. 相手方の攻撃防御方法に対する陳述
相手
方主張事実を否認する場合には、その理由を
記載しなければならない(規則79条3項)。
T. Kurita
65
答弁書の記載事項

被告の最初の準備書面を答弁書という(162条、
規則80条)。次の特則がある。
1. 訴状の場合と同様に(規則55条)、重要な証
拠文書の写しを添付すること(規則80条2
項)。
2. 訴状の場合と同様に(規則53条4項)、被告
又はその代理人の郵便番号および電話番号・
ファクシミリの番号を記載すること(規則80
条3項)
T. Kurita
66
裁判所への提出と相手方への送付(直送)
準備書面は、相手方が準備をなすのに必要な期
間をおいて、
1. 裁判所に提出する(規則79条)。
2. 相手方当事者に直送をする(規則83条・47
条)。
 いずれについても、ファクシミリを利用するこ
とができる(規則3条・47条1項)。

T. Kurita
67
相手方の受領書


準備書面に記載されている事項については、相
手方不在の法廷で主張して相手方の擬制自白を
成立させることが可能であるので(159条3項)、
相手方が準備書面を受領したことが明確にされ
なければならない。
具体的な方法については、規則83条2項・3項を
参照。
T. Kurita
68
送付が確認された準備書面に記載されていな
い事実


相手方が在廷しない場合
主張できない
(161条3項)。この結果、その事実については、
159条1項の擬制自白を成立させることができな
い(相手方の弁論権の保障)。この事実には、
間接事実も含まれる。相手方の主張に対する否
認・不知の陳述は、記載されていなくても主張
できる。
相手方が在廷する場合
主張することができ
る。
T. Kurita
69
当事者照会(163条・規則84条)


当事者は、主張又は立証を準備するために必要
な事項について、裁判所を介さずに、直接相手
方に照会する(問い合わせる)ことができる。
当事者間での照会・回答により、事実関係が相
当に明らかになることが期待され、裁判所の釈
明権を介するより効率的であるので、この制度
が設けられた。
T. Kurita
70
当事者照会に対する回答がなされない場合



回答拒絶に対する直接の制裁はない。
回答を拒絶された当事者は、必要であれば、裁
判所に発問を求めたり(求問権。149条3項)、
222条の文書特定手続をとる。
当事者は口頭弁論において、どのような照会に
対して回答がなされなかったかを主張して(必
要であれば立証して)、回答の経過を事実認定
の資料に含まれるようにすることができる。
T. Kurita
71
争点整理手続を実施する場合の審理モデル
争点整
理段階
当事者の主張と文書等の証拠調べに
より、争点を整理する
整理の結果を確認する
証拠調
べ段階
証人及び当事者本人の尋問(182条)
口頭弁論の終結
T. Kurita
72
争点整理手続きのポイント



要証事実の確認
手続の終了・終結の際又はその後の
口頭弁論期日に、その後の証拠調べにより証明すべき事
実が何であるかを裁判所が当事者との間で確認する
(165条・170条6項・177条)。
口頭弁論への上程
整理が口頭弁論の手続外でなさ
れた場合には、整理結果を口頭弁論の手続に上程する
説明義務
争点整理手続終了後に攻撃防御の方法を提
出した当事者は、相手方の求めのあるときは、各整理手
続終了前に提出することができなかった理由を説明しな
ければならない(説明要求権と説明義務。167条・174
条・178条)。
T. Kurita
73
3つの整理手続



準備的口頭弁論(164条以下)
弁論準備手続(168条以下)
書面による準備手続(175条-178条、規則91条
-94条)
T. Kurita
74
自由心証主義(247条)
裁判官は、次の資料に基づいて、自由な心証に
より、当事者の主張の真否を判断することがで
きる。
1. 証拠調べの結果・弁論の全趣旨
2. 顕著な事実
 裁判官の心証形成は恣意的であってはならず、
経験法則や論理法則にしたがった合理的なもの
でなければならない。

T. Kurita
75
自由心証主義の具体的内容






証明の必要
経験則による推認
弁論の全趣旨の斟酌
証拠調べの結果の斟酌
証拠の証明力の自由評価
顕著な事実(179条)の斟酌
T. Kurita
76
具体例

資料に掲載した判例から、自由心証の具体例を
挙げる。
T. Kurita
77
自由心証主義が尽きた時に、証明責任の作用
が始まる


裁判所が事実の存否を確信できないときに、存
否不明の事実についてはその存在または不存在
を仮定して法規の適用の有無を判断せざるをえ
ない。
その仮定により不利益を受ける者の負担を客観
的証明責任と言い、その者の証明の必要性を主
観的証明責任と言う。証明責任は、通常前者の
意味で用いられる。
T. Kurita
78
証明責任の分配法則-法律要件分類説



出発点となる基本命題: 法規はその要件事実
の存在が証明されたときにのみ適用されること
を前提に法規範を定めると、立法者は、法規範
の構成を通して証明責任を分配することができ
る。
私法法規は、この考えを前提にして作られてい
る。
推定規定により証明責任の分配を明示する場合
もある。
T. Kurita
79
法規範の構成方法
1. 権利根拠規定(拠権規定) A→Xの発生
2. 権利障害規定(障権規定) B→Xの不発生
3. 権利消滅規定(滅権規定) C→Xの消滅
(同時履行の抗弁権による権利行使阻止など
も含まれる)
 法律効果の発生を主張する必要のある者は、拠
権規定の要件事実の証明責任を負う。
 法律効果の不存在を主張する必要のある者は、
障権規定あるいは滅権規定の要件事実の証明責
任を負う。
T. Kurita
80
主張責任と証明責任



証明責任
争いのある主要事実の存否を証拠
調べによっても確定することができない場合に、
法規が適用されない(法律効果の発生等が認め
られない)という一方の当事者に生ずる不利益。
主張責任
弁論主義の下で、主要事実が主張
されないため法規が適用されないという一方当
事者に生ずる不利益
主張責任の分配は、証明責任の分配に従う。
T. Kurita
81
損害の算定の基礎となる事実の主張・立証

建物が他人の放火あるいは重過失による失火で
焼失し、損害賠償請求訴訟が提起された場合に、
建物の中にあった動産の損害額の証明は、原告
が、個別に品名をあげ、購入時期・購入価額を
明らかにすることにより、現在の価額の算定に
必要な事実を主張・証明するのが本来である。
T. Kurita
82
立証の困難からの救済の必要


主要な動産については可能であるとしても、全
部についてすることは極めて困難である。主張
立証のできたものだけについて被告は賠償すれ
ば足りるとしたのでは、正義に反することにな
りやすい。
このような場合には、裁判所は、口頭弁論の全
趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害
額を認定することができる。(248条)
T. Kurita
83
248条の適用要件
1. 損害が生じたことが認められる場合であるこ
と
2. 損害の性質上その額を立証することが極めて
困難であること

民訴248条にならって、同趣旨の規定が平成11
年法律38号により特許法105条の3に新設された
(実用新案30条、意匠41条、商標39条により準
用されている)。
T. Kurita
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